順天堂医学
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50 巻, 1 号
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Contents
目次
特集 診療・研究の最前線(III)
  • 川原 敏靖
    2004 年 50 巻 1 号 p. 2-8
    発行日: 2004/03/31
    公開日: 2014/11/12
    ジャーナル フリー
    ドナー不足が深刻な問題となっている現在, 異種臓器移植はその間題を解決する治療法として注目されている. しかし, その激烈な異種移植臓器に対する拒絶反応の克服が最大の課題となっている. 近年, 超急性拒絶反応を引き起こす原因とされるGa1α1, 3Ga1α1-4GlcNAc-R (αGal) をターゲットにした抗Ga1自然抗体産生B細胞を免疫寛容へ誘導した報告がなされている・われわれもαGalエピトープを発現している骨髄細胞を, 発現していないレシピエントに移植することにより, 抗Ga1自然抗体産生B細胞を免疫寛容に誘導することに成功した. さらに, 抗Gal自然抗体産生における腹腔内B細胞と脾臓との関係を解明し, その抗体産生メカニズムを明らかにした. 腹腔内B細胞は脾臓に移行することにより初めて活性化され, 脾臓内で抗Gal自然抗体を産生する. すなわち, われわれは腹腔内B細胞が脾臓における抗Ga1自然抗体産生B細胞の前駆細胞であることを明らかにし, 異種臓器移植における脾臓の役割を明確にしたとともに, 異種移植における脾臓摘出の有用性を確証した. これらの結果から, 骨髄移植による異種移植臓器の免疫寛容誘導, 抗Gal自然抗体産生B細胞の活性化抑制の可能性が示唆され, 今後の異種臓器移植, 臨床応用への期待に繋がるものと考えられた.
  • --肝線維化過程におけるレプチンの役割--
    池嶋 健一
    2004 年 50 巻 1 号 p. 9-16
    発行日: 2004/03/31
    公開日: 2014/11/12
    ジャーナル フリー
    アルコール性肝障害の進展には栄養および代謝性因子が大きく影響することは従来良く知られた事実である. 一方, 常習飲酒歴が無いにもかかわらずアルコール性肝障害に類似して脂肪肝を背景に種々の程度の炎症や線維化の進行が見られる非アルコール性脂肪性肝炎 (NASH) が近年注目されてきているが, この病態は肥満や2型糖尿病, 高血圧などの所謂“生活習慣病”と密接な関連があることが臨床疫学的検討で明らかにされてきている. このことは, NASHの発症・進展のメカニズムにも肥満やインスリン抵抗性などを規定する遺伝的背景が関与していることを示唆している. その観点から私たちは肥満原因遺伝子産物であるレプチンに着目し, 肝の炎症および線維化に及ぼす影響に関して検討を重ねてきた. 一連の検討よりレプチンが肝の炎症を制御するとともに肝線維化を促進する因子として作用することが証明され, アルコール性肝障害やNASHなどの肥満および肝脂肪化に伴う慢性肝疾患の進展にレプチンが重要な役割を果たしている可能性が示唆された.
  • 服部 浩一
    2004 年 50 巻 1 号 p. 17-25
    発行日: 2004/03/31
    公開日: 2014/11/12
    ジャーナル フリー
    抗癌剤・顆粒球コロニー刺激因子等の造血因子の投与後に末梢血中の造血幹細胞がいちじるしく増加することを利用した末梢血幹細胞移植は, 全世界的に各種疾患の治療法として臨床普及が進んでいる. 最近になって, 造血因子以外にも, 一部のケモカインや血管新生因子により末梢血中に骨髄中の造血幹細胞/前駆細胞が大量に誘導されること, 骨髄中のマトリックスメタロプロテイナーゼー9の活性化と, これによってプロセシングされると考えられる幹細胞因子 (Kit lig-and) の骨髄内幹細胞の再生, 動員における重要性が示唆され, さらに造血幹細胞の属する骨髄細胞分画には, 柔軟な可塑性を有する多能性幹細胞が存在することが報告された. 造血幹細胞の骨髄から末梢血への動員では, 幹細胞が骨髄微少環境支持組織を離脱し, 血管へと遊走, 基底膜を通過し, 血管内へ侵入するという一連の過程で成立していると考えられているが, 本稿では, こうした幹細胞動員機構に関する最近の著者らの研究成果を簡単に紹介し, 最新の知見についても言及する.
  • 北澤 茂
    2004 年 50 巻 1 号 p. 26-33
    発行日: 2004/03/31
    公開日: 2014/11/12
    ジャーナル フリー
    手を伸ばして物をつかむという到達運動は運動全体での力の変化が小さく滑らかなるようにほぼ最適化されている1) 2). 小脳が障害されると, 運動の滑らかさは失われる3)ので運動の最適化に小脳が重要な役割を果たしていることは確かであるが, 具体的なメカニズムは手つかずの問題として残されてきた. 最近の理論的研究4)で, 運動制御信号に内在するノイズの影響を考慮に入れると, 運動終点の誤差分散を小さくすることによって運動の滑らかさが得られることが示された. 一方, 運動学習の教師と言われてきた小脳の登上線維信号が確かに運動終点の誤差を表現していることも定量的に示された5). それらの成果を踏まえてわれわれは, 登上線維が伝える終点誤差の情報が, ランダムウォークに似た過程によって終点の誤差分散を減少させ滑らかな制御を実現するという仮説を提案し, ランダムウォーク仮説と名づけた. 「滑らかさの原理」を取り入れた「人工小脳」を作ってランダムウォーク仮説を検証するとともに, 臨床応用の方向を探りたい.
  • 村上 晶
    2004 年 50 巻 1 号 p. 34-40
    発行日: 2004/03/31
    公開日: 2014/11/12
    ジャーナル フリー
    近年の眼科手術において, 手術技術の向上により確実な手術効果が得られるとともに安全性が高まっている. 白内障手術は, 水晶体超音波乳化吸引術がその安全性と有効性から急速に普及している. 粘弾性物質は超音波乳化吸引術とともに開発され, さらに新しい術式に不可欠な眼科手術補助剤になっている. また, 色素や薬剤を用いて, 眼内の組織を生体染色することにより, 視認性を高め眼内組織の切除効率が高められようになっている. 従来は困難であった手術手技が容易に行えるようになり, 急速に普及している. 本稿では, 最近の眼内レンズの進歩と手術補助剤の新しい応用について概説する.
  • 川崎 誠治
    2004 年 50 巻 1 号 p. 41-47
    発行日: 2004/03/31
    公開日: 2014/11/12
    ジャーナル フリー
    欧米では, 末期肝疾患の小児の脳死肝移植待機中の死亡率が高かったことへの対応として, 部分肝移植, 分割肝移植, 生体肝移植が工夫され, さらに近年の成人例へのドナー不足の深刻化のために右葉を用いた生体肝移植が急速に普及しつつある. 我が国では脳死肝移植が施行されないままに, 生体肝移植が先行する形で1989年の1例目以来, 2000例以上に施行されてきた. 小児症例への移植に始まり, 1993年成人例へと適応が拡大され, 劇症肝炎等の緊急症例に対しても積極的に行われるようになってきた. グラフトも左葉や右葉など様々な部分肝が用いられてきている. 生体肝移植においては, ドナーの安全性の確保が最も重要な点であるが, 欧米ではドナーの死亡例が複数みとめられ, 我が国でもドナーの死亡が本年1例報告された. ドナーに関する全国的な調査も施行され, さらなるドナーの安全性の確立について議論がなされている. 一方脳死肝移植は1997年10月の臓器移植法施行以来20例余りに行われたに過ぎないが, うち6例が分割肝移植として施行されたのが特徴的であり, 生体肝移植の経験を反映した数値と考えられた.
総説
  • 有高 奈々絵, 堀 賢
    2004 年 50 巻 1 号 p. 48-59
    発行日: 2004/03/31
    公開日: 2014/11/12
    ジャーナル フリー
    黄色ブドウ球菌は抗菌薬が開発される度に次々に耐性を獲得し, 院内感染の最大の原因であるMRSAを生み出した. バンコマイシン (VCM) はMRSA感染症の切り札として20年以上臨症分野で使用されてきたが, 1997年に世界で初めてVCM軽度耐性黄色ブドウ球菌 (L-VRSA) が確認された. L-VRSAはVCMのMICが8μ9/ml以上の黄色ブドウ球菌と定義され, 世界でこれまでに数十株が報告されている. この耐性度は臨床的にVCMによる治療を失敗させるに十分なレベルであるが, 2002年には米国でさらに高い耐性度を持った高度耐性黄色ブドウ球菌 (VRSA) が分離された. このVRSAは同一部位より検出されたVCM耐性腸球菌から, VCM耐性遺伝子を獲得した可能性が示唆されている. 一方1990年代以降, 欧米やオーストラリアでMRSAの市中獲得感染 (C-MRSA) の報告が増加しつつある. C-MRSAは院内感染の原因となる従来のMRSAとは異なり, β-lactam薬以外の多くの抗菌薬に感受性を示すが, その一方で強力な毒素を産生し致死率の高いクローンも存在する. このように常に進化し続けるMRSAに対して, 2001年以降VRSAやC-MRSAを含めた複数のMRSAの全ゲノムが解読され, その比較からVCM耐性メカニズムやC-MRSA特有の病原性の解明が徐々に進んできた. 現在推奨されるMRSA感染症の治療としてはVCM単独投与以外に, リファンピシンやST合剤との併用, テイコプラニン+β-lactam薬, スルバクタム/アンピシリン十アルベカシンなどの併用療法が推奨されている. また従来以上に有効かつ経済効率に優れた院内感染防止対策や, 病院全体としての抗菌薬適正使用のための取り組みが, 近年日本でも模索されつつある.
  • -その理念と目指すもの-
    奥村 徹, 小林 弘幸, 久岡 英彦
    2004 年 50 巻 1 号 p. 60-67
    発行日: 2004/03/31
    公開日: 2014/11/12
    ジャーナル フリー
    院内救急体制の充実は, 市民の医療知識が高まった今, どの病院でも, 急務であるといえる. 本総説では, 当院の取組みを紹介することによって, リスクマネージメントの観点から, 院内救急体制の充実への方策を模索するものである. 具体的には, 1) 院内緊急コールの導入2) ACLS (advanced cardiovascular life support: 高度救命処置教育コース) の導入3) 造影剤アレルギーへの対処の院内統一化4) AED (automated external defibrillators: 自動体外式除細動器) の導入である. また, 今後に残された課題に関しても論じた.
原著
  • 山口 正純, 内藤 俊夫, 礒沼 弘, 松本 孝夫, 檀原 高, 杉浦 亙, 林田 康男
    2004 年 50 巻 1 号 p. 68-76
    発行日: 2004/03/31
    公開日: 2014/11/12
    ジャーナル フリー
    目的: 近年欧米では薬剤耐性HIVの頻度が増加して問題となっており, 薬剤耐性検査の重要性が指摘されている. 今回われわれは遺伝子型検査法 (genotypic assay) を用いて薬剤耐性HIV-1の検討を行なった. 対象: 2003年2月より2003年10月の間に順天堂医院総合診療科に通院中の, 未治療あるいは治療中にも関わらずウイルスが検出感度以下に抑制できない10名の患者を対象とした. 方法: 患者血漿よりHIV-1を抽出してRT-PCRとdirect sequenceを行い, 遺伝子型検査法 (genotypic assay) により薬剤耐性HIV-1を検討した. 結果: 抗HIV療法中の5名のうち3例でNRTIに対する耐性変異を認め (D67N, K70R, M184V, T215N/V, K21gQ), 1例にNNRTIに対する耐性変異を (K103N, V1081), 2例にPIに対する耐性変異を認めた (D30N, 184V). この5f列のうち2例は多剤耐性であった. 統計学的には有意でなかったものの, NRTIに対する耐性変異が認められた症例ほどNRTI投与期間が長い傾向があった. また未治療患者5例のうち2例でNRTIに対する変異が (T215E), 1例でNNRTIに対する変異が (G190A) 認められた. 結論: 治療中にウイルスを検出限界以下に抑制できない症例や新規に治療を開始する症例では, 抗HIV薬の開始・変更前に薬剤耐性検査を行い, 適切な抗HIV薬の組み合わせを選択する必要があると考えられた.
  • --Neuroendocrine cellの分布について--
    久我 高志, 小林 暁子, 小林 弘幸, 山高 篤行, 林田 康男, 宮野 武
    2004 年 50 巻 1 号 p. 77-83
    発行日: 2004/03/31
    公開日: 2014/11/12
    ジャーナル フリー
    目的: Intestinal neuronal dysplasia (以下IND) 患者の腸管組織における, 神経内分泌細胞 (Neuroendocrine cell: 以下NE細胞) の分布を, 抗Chromogranin A (以下ChA) 抗体と抗セロトニン (以下5-HT) 抗体を用いて検討した. 対象・方法: 順天堂大学付属順天堂医院小児外科において, INDと診断された患者8例 (年齢: 5.4±2.3歳, 男児4例, 女児4例: IND単独疾患群) の直腸粘膜組織標本と, ヒルシュスプルング病 (以下HD) にINDを合併していた患者7例 (年齢: 3.5±2.9歳, 男児4例, 女児3例: HD+IND群) の結腸粘膜組織標本を対象とし, 腸管組織内のChA染色陽性NE細胞数・5-HT染色陽性NE細胞数を免疫組織化学染色を用いて正常対照群と比較検討した. 結果: IND単独疾患群の直腸粘膜組織内のChA染色陽性NE細胞数・5-HT染色陽性NE細胞数は, 正常対照群の直腸粘膜組織内に比べ, 有意な (p<0.01) 増加を示した. また, HD+IND群のIND領域・移行帯領域・無神経節領域の結腸粘膜組織におけるChA染色陽性NE細胞数・5-HT染色陽性NE細胞数は, 正常対照群の結腸粘膜組織と比較し有意に (p<0.01) 増加していた. さらに, HD+IND群のIND領域の結腸粘膜組織のChA染色陽性NE細胞数・5-HT染色陽性NE細胞数は, 無神経節領域の結腸粘膜組織のChA染色陽性NE細胞数・5-HT染色陽性NE細胞数と比較し有意に (p<0.05) 増加していた. 正常対照群の結腸粘膜組織と直腸粘膜組織間で, ChA染色陽性NE細胞. 5-HT染色陽性NE細胞の分布に有意差はなかった. 結論: 今回われわれは, IND患者の腸管粘膜組織におけるChA染色陽性NE細胞と5-HT染色陽性NE細胞の増加を認めた. これらのNE細胞の増加により, giant gangliaやhyperganglionosis等の神経過形成が誘導され, 腸管蠕動不全の一因になる可能性が示唆された.
  • 柏倉 浩一, 岩崎 良三, 芹澤 信子, 飯島 克順, 太田 一樹, 三輪 洋人, 佐藤 信紘
    2004 年 50 巻 1 号 p. 84-91
    発行日: 2004/03/31
    公開日: 2014/11/12
    ジャーナル フリー
    目的: 切除不能進行胃癌に対する化学療法治療効果を, 70歳以上の高齢者群と70歳未満の非高齢者群で比較し, 高齢者群における化学療法の有効性を検討した. 対象および方法: 対象は1990年から2002年3月までに多剤併用化学療法 (局所療法は除く) を施行した70歳以上の高齢者切除不能進行胃癌症例 (以下高齢者群) のうち, フッ化ピリミジン系製剤 (UFTまたは5-Fluorouracil, 以下5-FU系) とcisplatin (CDDP) を中心に全身併用投与した19例 (男性15例, 女性4例, 平均年齢75.1±3.1歳) と, 同時期に同様の治療を施行した70歳未満の非高齢者群55例 (男性40例, 女性15例, 平均年齢55.0±11.8歳) を, 奏効率, 50%生存期間, 平均在宅期間, 50%在宅率, Performance Status (P. S) などのQOLの改善, 有害事象発現率から比較検討した. 結果: 高齢者群, 非高齢者群はそれぞれ奏効率21.1%と25.5%, 50%生存期間は272.0日と208.0日, 平均在宅期間は194.9日と136.2日, 50%在宅率は52.6%と34.5%, P. S改善率は73.4%と56.3%であり, それぞれの効果に有意差はなかったが, 高齢者群は非高齢者群に比べQOLの改善面において良好な成績を認め, これは奏効群, 非奏効群と分けて検討した場合でも同様の傾向が認められた. 薬物有害反応は高齢者群でGrade3以上の白血球減少, 血小板減少, 非高齢者群ではGrade3以上の悪心・食欲低下が多く認められた. 結論: 切除不能進行胃癌に対する化学療法は, 高齢者群では非高齢者に比べ奏効率や生存期間で差は認めなかった. しかし有意差はなかったものの, 平均在宅期間, 50%在宅率, P. Sの改善といったQOL改善面の有効性は非高齢者群に比し高かった. よって高齢者に対する化学療法は, 薬剤量を適正に調節し, 薬物有害反応に迅速で的確な対応ができれば, 治療効果が期待できると考えられた.
抄録
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編集後記
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