順天堂医学
Online ISSN : 2188-2134
Print ISSN : 0022-6769
ISSN-L : 0022-6769
54 巻, 4 号
選択された号の論文の24件中1~24を表示しています
Contents
目次
総説 再生医療の進歩
  • 大坂 顯通
    2008 年 54 巻 4 号 p. 432
    発行日: 2008/12/26
    公開日: 2014/11/12
    ジャーナル フリー
  • 服部 浩一, 大木 摩希子
    2008 年 54 巻 4 号 p. 433-440
    発行日: 2008/12/26
    公開日: 2014/11/12
    ジャーナル フリー
    代表的な血管新生因子である血管内皮増殖因子VEGFは, 生体内血管形成の広範に作用し, VEGF受容体-1 (VEGFR1) とVEGFR2の二つの受容体を有することが知られている. 主に血管内皮系細胞への作用については, VEGF/VEGFR2シグナルに依存するのに対してVEGF/VEGFR1のシグナルは, 主に造血系細胞に作用し, 骨髄組織再生あるいは造血幹細胞の動員等において重要な役割を担っているとされ, このことは生体内の血管新生と造血機構との間の相互作用の存在を示唆する. またVEGF/VEGFRおよびケモカインCXCL12/CXCR4のシグナルは, 各種の造血系骨髄由来細胞を末梢組織中へ動員すること, この過程においてマトリックスメタロプロテイナーゼ (MMP) の活性化が誘導され, これを介して造血因子Kit-ligandのプロセシングが促進され, 骨髄細胞の分化増殖にも関与すること, さらに末梢組織へと動員される好中球, 血小板等の骨髄由来細胞が, 組織中で血管新生因子供給源として機能していること等が報告された. 加えて, 近年の筆者らの研究によって, 血管新生の進行過程では, MMPの活性化を基礎として, 末梢血中に動員されるVEGFR1陽性CXCR4陽性細胞 (ヘマンジオサイト) が, 幹細胞の再生増殖を制御するとされるアンギオポイエチン-2産生の他, 虚血壊死組織へと浸潤し, 『血管新生ニッチ』を構成, 分子生物学的HUBとして血管新生促進能を発揮していることが確認された. 最近になって, 生体内の血液線維素溶解系が, こうした様々な生命現象の起点となるMMPの活性化を制御していること, さらにその亢進が, 骨髄細胞の分化増殖および組織の再生修復を促進することが報告された. 本稿では, 再生医療への臨床応用を踏まえて, 近年目覚ましい勢いで進展を遂げる血管新生研究の最新知見について, 筆者らの研究成果を中心に紹介する.
  • 加藤 洋一
    2008 年 54 巻 4 号 p. 441-446
    発行日: 2008/12/26
    公開日: 2014/11/12
    ジャーナル フリー
    重症心不全に対する心臓移植が本邦で再開されてから10年が経過したが, 慢性的なドナー不足は解決されていない. そこで新たな治療法として注目されているのが, さまざまな細胞を用いた再生医療である. 心臓再生の方法としては, 外部から心筋細胞へと分化する可能性のある幹細胞を補充する細胞移植療法と, 組織に内在する心筋幹細胞の分化・増殖を誘導する細胞分化誘導療法に大きく分けられるが, 前者によるものが大半を占める. 移植する細胞の候補としては骨格筋芽細胞, 骨髄細胞, 間葉系幹細胞, 心筋内間葉系細胞であるcardiosphere, ES細胞, iPS細胞などが挙げられている. これらの細胞移植の臨床効果を向上させるためには, 細胞シートやナノバイオテクノロジーなどの組織工学的技術も必要欠くべからざるものである. 心筋再生技術は幹細胞からの心筋細胞の分化誘導, 分化した心筋の精製, 純化, 効率的な移植法の開発といったいくつものステップを経なければならないが, 各ステップで着実に成果が生まれつつあり, 臨床応用に向けて今後のますますの発展が期待される.
  • 卜部 貴夫
    2008 年 54 巻 4 号 p. 447-455
    発行日: 2008/12/26
    公開日: 2014/11/12
    ジャーナル フリー
    脳組織は全身の他の臓器に比べても虚血侵襲に対して極めて脆弱であり再生能力が乏しく自己再生能が低いことなどから, いったん虚血損傷が発症すると神経脱落症状である後遺症が残る場合が多く見られている. このような観点から失われた脳組織による機能障害に対する治療法の一つとして, 再生医療の可能性が脚光をあびている. 脳虚血に対する再生医療の考え方としては, 内在性神経幹細胞の増殖・遊走・分化を促進させることや, 幹細胞を移植補充することが挙げられる. 成体哺乳動物脳で持続的に内在性神経幹細胞の活性化により神経新生が生じている部位は, 海馬歯状回下顆粒層 (subgranular layer: SGL) と側脳室周囲の脳室下層 (subventricular zone: SVZ) である. これまでに様々な脳虚血モデルにおいて, 虚血ストレスがSGLやSVZにおける神経新生を活性化させることが明らかにされている. しかし梗塞巣を修復するには内在性神経幹細胞のみでは, 量的にも十分な幹細胞の供給が困難である. このような問題点を克服するためには, 神経栄養因子や造血サイトカインなどにより神経幹細胞の増殖・遊走・分化の過程を促進させることや, 幹細胞自体を直接的に脳内に移植するといった手段が挙げられる. 前者に関しては既に海馬遅発性神経細胞死モデルにおいて, 神経栄養因子投与による内在性神経幹細胞活性化の有用性が報告されている. 後者の神経幹細胞移植による再生治療に関しては, 骨髄幹細胞移植をはじめとして多くの基礎研究が報告されているばかりでなく, 一部は臨床試験へと発展を見せている. しかし脳卒中に対する幹細胞の本格的な再生治療としての臨床応用にはまだ多くの問題が残されており, さらなる研究の推進が必要である. 様々の問題点が解決されることにより将来的に再生治療は, 脳梗塞治療にとって重要な柱になることが期待される治療手段である.
  • 綿田 裕孝
    2008 年 54 巻 4 号 p. 456-463
    発行日: 2008/12/26
    公開日: 2014/11/12
    ジャーナル フリー
    糖尿病は, 絶対的あるいは相対的なインスリン作用不足と定義される疾患であり, その病態の結果としての高血糖により, さまざまな合併症を引き起こす. 糖尿病の根治のためには, 相対的不足状態に陥っている膵β細胞量を増加させる方法の確立が必須である. 膵β細胞量増加のための1手段として, 膵β細胞再生療法の確立が望まれる. 本総説では, 膵β細胞再生療法の研究の現状に関して, 胚性幹細胞 (ES細胞), 組織幹細胞, あるいは, その他の膵内分泌細胞類縁細胞を用いたものに分けて概説する. ES細胞を用いた報告では, 膵β細胞発生過程を模倣した膵β細胞分化誘導法が確立されつつあり, この方法をiPS細胞に応用することにより, 将来の膵再生療法の実現に直結すると考えられる. そのためには, 膵β細胞発生過程の完全理解が必須である. 一方, β細胞組織幹細胞に関しては, その存在自体に関して, 多くの論争が繰り広げられている. 現在のところ, 通常の状況下では, 組織幹細胞から膵β細胞への分化が膵ラ氏島容積の維持に寄与している可能性は薄いが, ある種の条件で, 組織幹細胞から膵β細胞へ分化しうることが示されており, 今後の研究の進歩により, 膵β細胞再生を促す方法を開発することも可能と期待される.
  • 池田 志斈
    2008 年 54 巻 4 号 p. 464-467
    発行日: 2008/12/26
    公開日: 2014/11/12
    ジャーナル フリー
    皮膚領域における再生医療の流れにつき解説し, さらに今後主流となるであろうiPS細胞を用いた新しい展開について解説した. 即ち従来再生医療のターゲットとして考えられてきた表皮細胞 (ケラチノサイト) や真皮線維芽細胞, そしてそれらを組み合わせた3次元培養皮膚の作成とその臨床応用が試みられている. また一方では, 色素細胞 (白斑や白髪の治療) や毛髪 (種々の脱毛症治療) も再生医療のターゲットとして捉えられるようになってきている. 今後これらの知識や技術を基にしたiPS細胞からの皮膚細胞誘導とそれによる治療法の開発が期待される.
原著
  • 熊谷 亮, 榛沢 亮, 内海 雄思, 小松 弘幸, 野澤 宗央, 山本 涼子, 松原 洋一郎, 杉山 秀樹, 村山 憲男, 井関 栄三, 一 ...
    2008 年 54 巻 4 号 p. 468-473
    発行日: 2008/12/26
    公開日: 2014/11/12
    ジャーナル フリー
    目的: 2007年に順天堂東京江東高齢者医療センターの精神科病棟に入院となった患者の精神疾患および入院理由を調査し, 開院当初と比較することで高齢者専門病院精神科病棟の役割の変化を検討する. 対象と方法: 2007年4月から2008年3月に当院精神科病棟に入院となった患者394名を対象とし, 各患者について性別・年齢・精神科的診断・入院理由について調査した. 結果: 性別は男性: 女性=178:216であり, 年齢は44-100歳 (平均年齢;78.8歳) であった. 精神科的診断はアルツハイマー型認知症が51%, レビー小体型認知症8%, 血管性認知症7%, 前頭側頭型認知症が4%, 混合型認知症が3%, 軽度認知障害が1%を占めており, 全体の74%が認知症疾患であった. 認知症疾患以外では, 気分障害が8%, 統合失調症が3%, せん妄が3%, アルコール依存症が2%を占めていた. 入院理由は身体合併症治療が46%, Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia (BPSD) 治療目的が25%, その他の精神症状治療目的が15%, 家族の介護疲労緩和目的が7%, 検査・診断目的が2%であった. また入院加療を要した身体疾患は肺炎が21%, 大腿骨骨折が11%, 脱水・低栄養状態が9%, 脳卒中が8%, 悪性腫瘍が6%となっていた. 結論: 開院当初と比較すると精神疾患の種類が多彩となっており, 新しい検査や疾患概念の導入, 高齢化に伴う疾患の難治化, 患者の居住環境の変化が影響していると思われた. また入院理由に関しては, 身体合併症治療目的の患者が増加していた. その背景には, 身体疾患に対応できる精神科病棟を有する総合病院の不足が慢性的に存在していることが覗われた. 身体科や地域医療との連携だけでなく, 広い範囲での医療体制の充実が必要と思われる.
  • 景山 倫彰, 小笠原 均, 山路 健, 高崎 芳成
    2008 年 54 巻 4 号 p. 474-479
    発行日: 2008/12/26
    公開日: 2014/11/12
    ジャーナル フリー
    遺伝的な要因は, SLE (Systemic Lupus Erythematosus) の病態の形成に重要である. さまざまな遺伝子産物がSLEの病態形成に関与するという仮説が述べられてきた. しかしながら, SLEの病態形成の誘因, 病態形成に直接関与する遺伝子群は, 未だ不明である. これらの機序を解明することは, SLEの発症要因を特定するうえで重要である. 一方, いわゆるエピジェネティックな機序である, DNAのメチル化, ヒストンのアセチル化など遺伝子の転写制御機構は, 広く知られている. この研究の目的は, DNAのメチル化, ヒストンのアセチル化がSLEの病態形成に関与しているかを検討するところにある. このため, DNAのメチル化に関与するDNMT1 (DNA (cytosine-5) -methyltransferase1) 遺伝子, DNMT3b (DNA (cytosine-5) -methyltransferase 3beta) 遺伝子とヒストンのアセチル化に関与するPCAF (p300/CBP-associated factor) 遺伝子, GCN5遺伝子に注目した. real-TimePCRを用いて, 20例のSLEと健常人20例の末梢血単核球 (peripheral blood mononuclear cells: PBMC) を用いて, 各遺伝子の定量を施行した. この結果, SLE群でDNMT1遺伝子の発現量が, 健常人群に比較して有意に低下していた. DN-MT3b遺伝子には, 両群における発現量の差はみられず, ヒストンのアセチル化に関与するPCAF遺伝子とGCN5遺伝子にも両群における発現量の差は, みられなかった. このことより, DNAのメチル化に関与するDNMT1遺伝子は, SLEの病態形成に関与する可能性がある.
  • 森本 ゆふ, 伊藤 輝代, 片山 由紀, 馬場 理, 内川 知美, 大石 金成, 本郷 勇, 平松 啓一
    2008 年 54 巻 4 号 p. 480-491
    発行日: 2008/12/26
    公開日: 2014/11/12
    ジャーナル フリー
    目的: 市中獲得MRSA (Community-associated MRSA;CA-MRSA) の蔓延が, 世界的な問題となっている. 中でも米国やヨーロッパ諸国で分離されるCA-MRSAは, その病原性の強さに深く関連していると推測されている毒素Panton-Valentine leukocidin (PVL) をコードするプロファージを, ゲノム上に持つ場合が多い. 本研究ではMRSA感染症の治療に用いられる各種抗菌薬が, PVLファージの誘発およびPVL産生に及ぼす影響を検討した. 対象: MW2U1株および世界の代表的なPVL陽性臨床分離株6株を使用した. MW2U1株は米国における市中獲得MRSAの代表株の一つであるMW2から, 他のプロファージが脱落した, PVLファージ (φSa2mw) のみを持つ株であり, PVLファージの誘発に対する抗菌薬の作用を検討するのに適している. 方法: 供試菌株の各種抗菌薬に対する最小発育阻止濃度 (MIC) をMacrobroth Dilution法にて測定すると同時に, MIC判定後の菌液を遠心し, その上清をメンブレンフィルター (0.45μ) で濾過し, 溶液中のファージの数, およびPVL産生量を測定した. 結果: MW2U1株においてSubMIC (MIC値よりも一段階低い, 菌が生育できる薬剤の最高濃度) の抗菌薬が存在する場合と, 薬剤無添加の場合とを比較した場合, 抗菌薬の系統ごとに特徴的な効果が見られた. (1) DNA合成阻害剤 (mitomycin Cおよびキノロン系薬) の場合はファージ数, PVL産生量ともに増大した. (2) タンパク合成阻害剤 (linezolidおよびtetracycline等) の場合は, ファージ数, PVL産生量ともに減少した. (3) 細胞壁合成阻害剤 (β-ラクタム系薬, vancomycin, teicoplanin) の場合, ファージ数は増加したが, PVL産生量はむしろ減少した. (4) 葉酸合成阻害薬であるtrimethoprimの場合, ファージ数は細胞壁合成阻害剤の場合よりもやや増加した. 臨床分離株では, キノロン系薬norfloxacinでは多くの場合MW2U1同様にファージ数が増加したが, PVL産生量の増加は6株中1株のみに見られた. 一方, いずれの株においても, linezolidの場合, ファージ数, PVL産生量ともに減少した. 結論: キノロン系薬norfloxacinなど, いくつかの抗菌薬は, PVLファージを誘発し, 特定の菌株については, PVL毒素産生量も増加させる. しかし, PVL産生量の増加の程度は菌株間で相違がみられた. 一方linezolidはPVLファージ誘発およびPVL産生を抑制することから, PVL陽性MRSA感染症の治療に用いた場合に, 菌の増殖を押さえるのみでなく, 菌の病原性を低下させることが推測された.
  • 金口 泰彦, 鈴木 祐介, 菅谷 健, 堀越 哲, 富野 康日己
    2008 年 54 巻 4 号 p. 492-500
    発行日: 2008/12/26
    公開日: 2014/11/12
    ジャーナル フリー
    目的: 慢性糸球体腎炎などに認められる尿蛋白は, 糸球体障害の結果としてばかりではなく, それ自体が尿細管・間質障害を進行させる. 尿蛋白に含まれる脂肪酸は, 再吸収過程で酸化ストレスを発生させ, 尿細管・間質障害進展の一因となっている. ヒトでは近位尿細管に発現するL型脂肪酸結合蛋白 (liver-type fatty acid-binding protein: L-FABP) が, 脂肪酸と結合し尿中へ排泄されることにより, 脂肪酸による細胞障害を抑制している. L-FABPは尿細管・問質障害に保護的に働くことに加えて, 蛋白尿を伴う慢性腎疾患や尿細管・間質の虚血状態を把握するバイオマーカーとなりうる可能性もある. L-FABPはげっ歯類の近位尿細管には出現していないため, ヒトL-FABP染色体遺伝子を導入し近位尿細管にL-FABPを強発現させた遺伝子改変動物 (L-FABPTgマウス) を用い, 抗糸球体基底膜抗体型腎炎 (Anti-Glomerular Basement Membrane Glomerulonephritis: Anti-GBMGN) を発症させ, 尿細管・間質の保護がその上流にある糸球体障害の進行に与える影響を検討した. 対象と方法: L-FABPTg (雌性, 8-12週齢) と野生型 (wild type littermates: WT, C57/BL6) マウスに加速型Anti-GBM GNを惹起させ, 尿蛋白の推移, 抗血清投与直後の多形核白血球浸潤 (PMN influx), 尿中L FABPの測定, 線維化マーカー (α-SMA), 酸化ストレス (HNE), 尿細管虚血 (KIM-1) の変動および組織学的解析を行った. また, アンジオテンシンII受容体拮抗薬 (Angiotensin II type1 receptor blocker: ARB) であるOlmesartan Medoxomil (オルメサルタン) を経口投与 (6mg/kg体重/day) した. 結果: L-FABPTgではAnti-GBM GN急性期のPMN influxが欠失し, 第3病日まで尿蛋白が有意に抑制された. L-FABPTgでは第3病日以降尿蛋白が増加し, 第7病日にはWTと同程度となった. WTが内皮細胞を主体とする糸球体障害を呈したのに対しLFABPTgでは, メサンギウム増殖性腎炎を示していた. α-SMA, HNE, KIM-1の発現はいずれもL-F ABPTgで減少していた. L-FABPTgに出現した尿蛋白や糸球体障害は, ARB投与にて劇的に改善した. 結語: 糸球体腎炎において, 尿細管のL-FABP作用増強は尿細管・間質ばかりではなく糸球体障害の進行抑制につながる可能性が示された.
第22回都民公開講座《健やかな中高年ライフをめざして――メタボリック症候群と認知症の克服――》
  • 綿田 裕孝
    2008 年 54 巻 4 号 p. 503-507
    発行日: 2008/12/26
    公開日: 2014/11/12
    ジャーナル フリー
    メタボリック症候群とは, 肥満, とくに内臓脂肪の過剰な蓄積, つまり『内臓脂肪型肥満』を病気の源流として, 境界型糖尿病, 脂質代謝異常 (高中性脂肪血症あるいは低HDL血症), 高血圧などが, ひとりの人に重なり合って起こってくる病態 (疾患) のことです. 心筋梗塞や脳梗塞など, 日本人の死因の多くを占める疾患は動脈硬化の進展の結果発症します. 動脈硬化の古典的なリスクファクターは, 高中性脂肪血症あるいは低HDL血症, 耐糖能異常, 高血圧, 高LDL血症, 喫煙です. これらが重なり合って存在すると動脈硬化の進展が早まることは良く知られています. メタボリックシンドロームが問題なのは, 5つの古典的危険因子のうち3つが同時に集積して出現しやすいということです. さらに, 最近の研究の結果, メタボリックシンドロームの結果として出現しやすい耐糖能障害ではアルツハイマー病やがん死亡のリスクも増加することがわかってきました. 従って, メタボリックシンドロームと診断されれば, 食事療法, 運動療法を励行することにより内臓脂肪蓄積を減らすことで, 効果的に心血管イベントを発症予防するように努めましょう.
  • 一宮 洋介
    2008 年 54 巻 4 号 p. 508-510
    発行日: 2008/12/26
    公開日: 2014/11/12
    ジャーナル フリー
    『もの忘れ』がひどくなり, 日常生活や社会生活に支障をきたす疾患が認知症である. 認知症を生ずる疾患はアルツハイマー病, 脳血管性認知症, レビー小体型認知症, 前頭側頭型認知症など様々で, 慢性硬膜下血腫や脳腫瘍など治療可能な認知症も含まれる. わが国では人口の超高齢化が進み, 5人に1人が65歳以上の高齢者という状況になっている. 認知症の代表であるアルツハイマー病の最大の危険因子は加齢であり, 高齢者の数が増えると認知症の患者数も多くなる. 本邦の認知症患者数は現在180-200万人と推計されており, このうちアルツハイマー病が約60%を占めている. アルツハイマー病の危険因子として, 加齢, 性 (女性), 頭部外傷, アポリポ蛋白E遺伝子, 精神や身体の活動不足, 糖尿病, 高血圧症, 高脂血症などの生活習慣病が知られている. したがって認知症を予防するためには, 脳機能の活性化, 身体運動, 食生活の3項目がキーポイントとなる. 日常生活の中でコミュニケーションを充実させて脳の機能を活性化することを心がけ, 食事と運動のバランスをとる生活習慣病対策を意識したライフスタイルを実践することが大切である.
  • --アルツハイマー病とレビー小体型認知症up to date--
    本井 ゆみ子, 服部 信孝
    2008 年 54 巻 4 号 p. 511-515
    発行日: 2008/12/26
    公開日: 2014/11/12
    ジャーナル フリー
    アルツハイマー病のアミロイド (Aβ蛋白) が蓄積する機構はほぼ解明されたと考えられアミロイド蓄積抑制の治験薬が進行中である. その動向から早期診断, 早期治療が唱えられるようになった. 本稿では二大変性認知症のアルツハイマー病 (AD) とレビー小体型認知症 (DLB) についてそれぞれの症状, 診断, 画像, 分子機構, 治療について最近の知見を中心に説明する. 症状はADではエピソード記憶障害で始まるがDLBは, 幻視, 意識の変動, パーキンソニズムと多彩である. 画像診断は正常脳データベースと比較し統計値を画像化することによってMRIの脳委縮部位や脳血流低下部位検出の感度をあげ, その診断に応用されている. ADでは後部帯状回, 楔前部がDLBでは同部位と後頭葉の血流低下が特徴である. 疫学調査ではDLBはADより予後が悪く全経過10年以下と報告されている. ADではAβ蛋白が, DLBではαシヌクレインが原因遺伝子の一つであり, かつ, 老人斑および, レビー小体の構成成分であることからその病態の本質であるとされている. 最近では, 両者ともそのオリゴマーがシナプス機能障害をひきおこし, 神経細胞障害から神経症状をおこすと考えられている. 現在, 両者に処方できる薬剤は抗コリンエステラーゼ薬の塩酸ドネペジルであり, 対症療法にとどまるが, disease modifierとして治験が多数行われている.
  • 新井 平伊
    2008 年 54 巻 4 号 p. 516-519
    発行日: 2008/12/26
    公開日: 2014/11/12
    ジャーナル フリー
    アルツハイマー病 (AD) 治療のための薬物療法に関して最近の進歩を紹介した. 今はまだ対症療法や補充療法といった治療法が主体であるが, ADの病因・病態の解明が進みつつある中で, その重要な位置を占める脳内におけるアミロイド蛋白の重合や沈着過程に直接介入する治療薬が開発されつつある. 欧米では既に第3相の臨床治験まで進んでいるが, わが国では補充療法の薬剤すらまだ一剤しか承認されていない状況の中で, 新薬の臨床治験もまだ第1相でしかない. しかし, 諸外国に遅れは取っているものの, 今後の5年では, ADの進行を止めることが期待されている免疫療法が大きく進歩することも考えられる. また, いかに治療法が進歩しても, 薬物療法と並んでリハビリテーションや回想法, さらには家族が介護者の対応の工夫といった非薬物療法が重要であることは言を待たない. そして, 家族を含めて生活の質を確保することによって, ADに罹患したとしてもその後に続く長い人生を少しでも充実させていくことを目指していくことが重要である.
症例報告
抄録
順天堂医学原著論文投稿ガイドライン
順天堂医学投稿規程
編集後記
feedback
Top