臨床医としての40年間のうち, 23年間, 同一医療施設に勤務した. 本稿では, 炎症性腸疾患の臨床経験を振り返り, 臨床医の役割を再検証してみた. 炎症性腸疾患における10年以上の長期経過観察率は, 潰瘍性大腸炎で47.2%, Crohn病で58.1%, 予想に反して, 満足すべきものではなかった. 長期予後をみると, 比較的良好といえる外来治療群は, 潰瘍性大腸炎で, 53.3%, Crohn病で38.9%, 不良と考えられる重症化例は潰瘍性大腸炎で19.5%, Crohn病で33.6%と, 日本での諸家の報告と大差はみられず, 自己評価としては, なんとか役割を果たせたようにも思える. 潰瘍性大腸炎では, 緩解維持療法の戦略が不明確で, その標準化が急務である. 一方, 小腸Crohn病では, 自然史が十分解明されていないこと, 粘膜病変, 罹患部位の多彩性のため, 早期発見が難しいこと, 臨床的活動度に粘膜病変の評価が含まれていないことなど, 課題は山積している. 近年, 診断器機の進歩のためか, 臨床医がなすべきことがおろそかにされ, 基本に立ち返る必要性を強く感じる. 小腸疾患の診断においては, 概観診断ができるX線検査は, 内視鏡検査の進歩はめざましいものの, きわめて有用な検査法である. 臨床医としての40年余を振り返り, 経験できる一例一例を丁寧に, きめ細かく分析することの大切さを痛感させられた.
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