順天堂医学
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57 巻, 3 号
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特集 教授定年退職記念講演
  • 青木 孝
    2011 年 57 巻 3 号 p. 203-215
    発行日: 2011/06/30
    公開日: 2014/11/11
    ジャーナル フリー
    1970年代から2010年までに順天堂で私達が行ってきた研究について概括する. 当初, カイチュウと宿主の比較生化学的研究からはじめ, 核酸塩基ピリミジンde novo生合成経路の存在をパラサイトではじめて報告した. 同経路の第1酵素CPS IIの律速・調節機能は宿主と異なる特徴を示した. また, 腫瘍とパラサイトのピリミジン生合成, CPS IIについて生化学的類似および相違を異なる切り口からみることができた. 南米パラグアイ国において「Trypanosoma cruziとChagas病の研究」プロジェクトを立ち上げた経験から, それは当教室の研究テーマとなった. 本原虫のピリミジン生合成経路全6酵素をコードする5個のpyr遺伝子は, コンパクトなクラスター [pyr1-pyr3-pyr6/5 (融合遺伝子) -pyr2-pyr4] (25kb) としてゲノムDNAに存在することをはじめて示した. 代謝経路全体の遺伝子を含むこのようなクラスターはほかの真核生物にはみられない. 本遺伝子クラスターによってピリミジン生合成は保証され, それはトリパノソーマの増殖・病原性の基盤となっていると考えられる. したがって, これら6酵素の各タンパク質を標的とする新規化学療法の開発が期待され, X線構造解析や創薬研究が進みつつある. 他方, 本原虫は感染宿主細胞自身のアポトーシスを阻害することによって宿主からの排除をまぬがれ (生き残り), 能動的に宿主細胞を分子修飾・支配していくメカニズムの一端が明らかになった. また, 原虫・宿主細胞双方のゲノム情報が開示されたことによって, 双方の遺伝子や遺伝子産物 (タンパク質) の絡み合いの解析が可能となってきた. その線に沿って私達がT. cruziに見い出した「SPRING分子は本原虫が分泌し, 宿主細胞核に局在化され, ubiquitin ligase活性をもち, 多数の宿主タンパク質に影響するエフェクター分子」である可能性が高い. このような研究をさらに発展させ, パラサイトと宿主の分子同士, 遺伝子同士, 最終的にはゲノム同士の絡み合いを解析することによって, 寄生虫病の解明につなげていくことが期待される.
  • 丸山 俊秀
    2011 年 57 巻 3 号 p. 216-225
    発行日: 2011/06/30
    公開日: 2014/11/11
    ジャーナル フリー
    臨床医としての40年間のうち, 23年間, 同一医療施設に勤務した. 本稿では, 炎症性腸疾患の臨床経験を振り返り, 臨床医の役割を再検証してみた. 炎症性腸疾患における10年以上の長期経過観察率は, 潰瘍性大腸炎で47.2%, Crohn病で58.1%, 予想に反して, 満足すべきものではなかった. 長期予後をみると, 比較的良好といえる外来治療群は, 潰瘍性大腸炎で, 53.3%, Crohn病で38.9%, 不良と考えられる重症化例は潰瘍性大腸炎で19.5%, Crohn病で33.6%と, 日本での諸家の報告と大差はみられず, 自己評価としては, なんとか役割を果たせたようにも思える. 潰瘍性大腸炎では, 緩解維持療法の戦略が不明確で, その標準化が急務である. 一方, 小腸Crohn病では, 自然史が十分解明されていないこと, 粘膜病変, 罹患部位の多彩性のため, 早期発見が難しいこと, 臨床的活動度に粘膜病変の評価が含まれていないことなど, 課題は山積している. 近年, 診断器機の進歩のためか, 臨床医がなすべきことがおろそかにされ, 基本に立ち返る必要性を強く感じる. 小腸疾患の診断においては, 概観診断ができるX線検査は, 内視鏡検査の進歩はめざましいものの, きわめて有用な検査法である. 臨床医としての40年余を振り返り, 経験できる一例一例を丁寧に, きめ細かく分析することの大切さを痛感させられた.
  • 飯田 昇
    2011 年 57 巻 3 号 p. 226-231
    発行日: 2011/06/30
    公開日: 2014/11/11
    ジャーナル フリー
    小生39年間順天堂本郷, 静岡で関節リウマチ (Rheumatoid Arthritis, 以下RA) を診てきたが, 近年の分子生物学の進歩で「RAは古くて新しい疾患」の感がする. 当時はNSAIDsが主な治療法で, あってもせいぜい金療法であった. 1980年代ごろよりD-penicillamineをはじめ次々とDMARDs (抗リウマチ薬), 90年代にはbucillamine, salazosulfapyridine (SASP), 2000年にMethotrexate (MTX) がアンカードラッグとして登場, 2005年に本邦で画期的な生物製剤が認可を経て広く使われるようになった. つまりRAは骨関節破壊の阻止ひいては修復可能でCareの時代から着実にCureの時代に入ってきたと思える. ところで, 傍関節骨粗鬆症は, RA発症早期よりX線上認められる変化であり, RAの診断に重要な所見でもある. 通常, 傍関節骨粗鬆症はRAに早期に特徴的とされるX線上の変化であり骨びらんに先行して起こり, 症例によっては関節症状が出現して数ヵ月で明らかになる. つまり, この2年以内に骨びらんや傍関節組織の骨粗鬆症が生ずる. RAは早期発見, 早期治療が重要であることはいうまでもない. しかし炎症が続いていてもまったく骨関節破壊の起きないもの, 関節炎症がないのに骨関節変形のきたすものもあり, RAの病型がHeterogeneityであり興味を注がれるゆえんでもある.
原著
  • 関根 美和, 馬場 理, 片山 由紀, 平松 啓一
    2011 年 57 巻 3 号 p. 232-242
    発行日: 2011/06/30
    公開日: 2014/11/11
    ジャーナル フリー
    黄色ブドウ球菌の全ゲノム解読は, 同菌のほ乳類主要組織適合遺伝子複合体: Major histocompatibility complex (MHC) 様分子をコードする遺伝子を4つ見い出した. この遺伝子産物 (MHC1-4) はヒト免疫機構に何らかの影響を及ぼしているものと考えられ, MHC3 (extracellular adherence protein: Eap) についてはフィブロネクチンやフィブリノーゲン等血漿タンパクと黄色ブドウ球菌表面の接着に関与することや, 血管内皮細胞上に存在するInter-Cellular Adhesion Molecule-1 (ICAM-1) に結合し, 好中球の遊走を抑制することがよく知られているが, ほかのMHC様分子も含め, それらの生理的機能には不明な点が多い. 本研究ではMHC1-4の生理的機能を網羅的に追求すべく, 市中感染強毒型メチシリン耐性黄色ブドウ球菌 (community-acquired MRSA: CA-MRSA) であるMW2株から, 4つのMHC様分子の遺伝子それぞれの単一-4重遺伝子欠損変異株を作成した. この変異株を用い, 野生株と対比してヒト血球細胞に対する応答性を調べ, さらにマウスに対する感染実験を行った. その結果, MHC1はリンパ球分化増殖および炎症性サイトカイン産生を促進し, また, MHC3はリンパ球分化増殖を抑制し, 樹状細胞上のHLAおよび補助刺激因子であるCD86の発現, およびINF-γ産生を抑制していることが明らかになった. また, 野生株と比較して, 1-4をすべて欠損した株は3倍以上貪食されやすく, ほかの単一欠損株に比べても2倍近く貪食をされやすかった. 一方で好中球による殺菌活性に差はみられなかった. これらの結果から, MHC様分子は貪食からの回避に関与するのに加え, 宿主の獲得免疫系の応答にも影響を与えていることが明らかとなった.
  • 李澤 康雄, 會田 秀子, 雪下 岳彦, 湯本 優, 李 慶湖, 杉田 塩, 小林 弘幸
    2011 年 57 巻 3 号 p. 243-250
    発行日: 2011/06/30
    公開日: 2014/11/11
    ジャーナル フリー
    目的: 点滴注射の際に溶解液として高頻度に用いられる生理食塩液のうち, 両頭針付き生理食塩液の有用性について, 2ポート型ハーフキット生理食塩液と1ポート型ハーフキット生理食塩液の2種類の生理食塩液を対象に, 利便性アンケート調査および無菌操作試験を用いて比較検討した. 方法: 利便性アンケート調査では, 日常業務として点滴注射の調製作業を行っている看護師50名 (経験年数1-20年, 平均経験年数4年9ヵ月) を対象として質問用紙調査を実施した. 解析にはWilcoxonの符号付順位和検定を行った. 無菌性試験では看護師20名 (経験年数1-12, 平均経験年数3年6ヵ月) 実際に点滴調製作業を実施し, その際に作成された点滴溶解液や作業環境の培養検査を実施した. 結果: 利便性アンケート調査では14の調査項目のうち, 「溶解作業時の薬剤の確認のしやすさ」, 「無菌操作に対する注意度」, 「細菌汚染の可能性」, 「緊急使用時の迅速な対応」, 「業務時間短縮の実感」, 「バイアル (抗菌薬) と溶解液の組み合わせによる誤投薬発生の危険度」, 「投薬時の薬剤の確認容易度」, 「廃棄時の手指等のケガ発生の可能性」, 「分別廃棄の手間」, 「総合評価」の10項目において, 2ポート型ハーフキット生理食塩液が1ポート型ハーフキット生理食塩液より有意 (p<0.01) に高い評価を得た. 無菌操作試験の結果では, 作業者の手指からは培養検査により細菌が検出されたが, 溶解作業で作成した溶解液を培養検査した結果では, 細菌は検出されなかった. 考察: 両頭針付き生理食塩液は総じて有用と判断され, なかでも2ポート型ハーフキット生理食塩液は1ポート型ハーフキット生理食塩液よりも利便性の面で総合評価が高く, より有用であると考えられた.
  • 鈴木 麻衣, 乾 啓洋, 上原 由紀, 桑原 京子, 福田 洋, 内藤 俊夫, 菊池 賢, 礒沼 弘, 平松 啓一
    2011 年 57 巻 3 号 p. 251-256
    発行日: 2011/06/30
    公開日: 2014/11/11
    ジャーナル フリー
    目的: 近年, 医療ケア関連感染の病原菌として増加傾向にあるメチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌 (methicillin-resistant coagulase-negative staphylococci;MRCNS) の入院患者における鼻腔内保菌率を調査し, 入院後の変化および患者背景との関連を解析した. 対象: 2009年1月-2009年9月までに当科に入院し同意の得られた患者68名. 方法: 入院時と2週間後に患者の鼻腔内付着菌を綿棒で採取し, 鼻腔内のCNS (coagulase-negative staphylococci) を分離培養した. MRCNSはメチシリン耐性遺伝子であるmecAの保有により判定した. mecAの検出にはPCR法を用いた. 検出されたすべてのCNSに対してsodAのシークエンスを行い, 菌種の同定を行った. これらの結果と併せて, 年齢, 入院病室あたりの人数, 入院日数, 基礎疾患, 治療歴などの患者背景について解析した. 結果: 入院時のMRCNS保菌率は25%, 2週間後は38%であり, 入院後に増加傾向がみられた. 同時にMRCNSを保菌するリスクファクターについて検討したところ, 敗血症, 糖尿病の基礎疾患を有する場合, 有意差をもって保菌率が高くなることがわかった. また, 抗菌薬の使用やステロイド使用についても保菌率が増加する傾向を示した. 結論: MRCNSはcompromised hostにおいて保有率が高くなることが示唆された. CNSは血管カテーテル由来血流感染 (catheter-related blood stream infection;CRBSI) をはじめとした医療ケア関連感染症の病原菌となりえることからも, ハイリスク患者においては注意が必要である.
  • -脳卒中1,505例の多変量解析による病型別検討-
    井上 智貴, 山路 義生, 石川 誠, 丸井 英二
    2011 年 57 巻 3 号 p. 257-262
    発行日: 2011/06/30
    公開日: 2014/11/11
    ジャーナル フリー
    当院の回復期リハを実施した脳卒中1,505例において, 自宅退院群と非自宅退院群に分類し, 自宅退院の有無を結果変数, 年齢, 性別, 入院期間, 発症から回復期リハ開始までの移行期間, 入退院時FIM (Functional Independence Measure) を目的変数としてロジスティック回帰分析を行った. 次に脳卒中病型別 (脳梗塞, 脳出血, クモ膜下出血) にそれぞれ, 結果変数, 目的変数は同様の解析を行った. 全症例では自宅退院へかかわる因子として移行期間, 退院時FIM, 年齢が抽出された. 脳卒中病型により自宅退院率に差はなく, 脳梗塞では性別 (男性), 退院時FIM, 移行期間, 退院時FIM, 脳出血では移行期間, 退院時FIM, クモ膜下出血では退院時FIMが抽出された. 全病型では若年であり, 退院時FIMが高く, 移行期間が短期であるほど, 自宅退院へ結びついている. 脳梗塞と脳出血において移行期間が短く, 退院時FIM高値であるほど自宅退院する. 脳梗塞のみ性別 (男性) が抽出された.
症例報告検討会
  • 表 敬介, 小林 則善, 恩田 紀更, 大澤 勲, 堀越 哲, 富野 康日己, 加瀬 香, 池田 勝久, 安藤 真矢, 宮元 伸和, 服部 ...
    2011 年 57 巻 3 号 p. 263-268
    発行日: 2011/06/30
    公開日: 2014/11/11
    ジャーナル フリー
    頭痛, めまいの原因疾患は多岐にわたっており, 年齢, 発症様式, 部位, 症状の推移, 基礎疾患の有無などをふまえ, 鑑別を進めることが重要である. 今回, 29歳時に全身性エリテマトーデスと診断され, 洗面後に突然の頭痛とめまいを呈し, 神経学的所見, MRI, MRAにて脳動脈解離によるWallenberg症候群を併発した46歳女性の症例を経験した. 若年で突然発症した激しい頭痛の原因の一つとして, 脳動脈解離を念頭において鑑別することは重要であり, 本症例を報告する.
症例に学ぶ
抄録
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編集後記
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