2008年に, われわれは黄色ブドウ球菌 (
S. aureus) におけるvancomycin (VAN) 耐性を検討する過程でVANとlinezolid (LZD) の感受性の逆相関関係を見出した (Watanabe Y,
et al: Antimicorb Agents Chemother, 2008; 52: 4207-4208). 本研究ではその遺伝学的メカニズムの解明を目指し, 以下の実験を行った. まず, 世界各国で分離されたvancomycin-intermediate
S. aureus (VISA) 株を, VAN耐性に影響することが知られている遺伝子の変異タイプ別に
rpoB,
vraSR,
graRS,
clpP, および
walRK変異グループに分け, LZDとVCMの感受性を検討した. これら40株中,
rpoB,
vraSR,
graRS,
clpPおよび
walRKの変異株数はそれぞれ29 (72.5%), 9 (22.5%), 4 (10%), 3 (7.5%) および23 (57.5%) であった. そのうち
rpoB変異グループがLZDに最も高感受性であった. また, hVISA Mu3株およびその
graRと
rpoB変異株を用いて行った感受性のpopulation解析では,
rpoB変異株におけるLZDの顕著な高感受性化がみられた. 一方,
graR変異株ではLZDの高感受性化より, VANの低感受性化が顕著であった. 次に臨床分離MRSA7株からrifampicin (RIF) およびVANで選択したVAN低感受性変異株それぞれ41株 (MRSA-RIF) と46株 (MRSA-VAN) を用い, LZDおよびVCMのMinimum inhibitory concentration (MIC) を測定した. MRSA-RIFとMRSA-VANは親株に比べLZDに対して高感受性化し, MICはそれぞれ0.45±0.25mg/lおよび0.24±0.28mg/l減少した. 一方で, MRSA-RIFおよびMRSA-VANは親株に比べVANに対して低感受性化し, MICはそれぞれ0.40±0.37mg/lと1.21±0.74mg/l上昇した. さらに,
rpoB変異によるLZDとVCMの感受性への影響を明らかにする目的で, VANに感受性のMRSA株N315ΔIPをRIF 1mg/lで選択して得られた
rpoB変異株の, VANおよびLZDの感受性を検討した. その結果, LZDにおいては全株で高感受性化が認められたが, VANでの低感受性化は1株を除いて認められなかった. 以上の結果から, 黄色ブドウ球菌におけるLZDの高感受性化には,
rpoB変異が最も強く関連していると考えられた. また, RIF耐性黄色ブドウ球菌感染症の治療に, LZDが有効である可能性も示唆された.
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