PLANT MORPHOLOGY
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28 巻, 1 号
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表紙
特集 形態学と生理学の融合に向けて ―植物の「形」と「現象」の狭間を埋める研究の最前線―
  • 宮沢 豊, 唐原 一郎, 鮫島 正純
    2016 年 28 巻 1 号 p. 1-2
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/04/14
    ジャーナル フリー

    構造を理解する形態学と機能を理解する生理学は,時に対比されながらも数世紀にわたり植物学を支えてきた学問領域である.20世紀後半以降の解析技術の革新により,それぞれの観点から見た植物は明確なものとなった.一方で,空間分解能の向上による形態構造の理解と生理機能の分子レベルでの理解はどんどんと乖離しているのも事実である.そこで,日本植物学会第79回大会において,日本植物形態学会および特定認定非営利法人綜合画像研究支援との共催のもと,植物の形態・構造と生理現象を司る分子の理解を橋渡しする先端的研究や技術を例として紹介しながら,現状の植物学の課題とそれを解決する融合研究について議論するシンポジウムを開催した.

  • 山内 大輔, 福田 安希, 唐原 一郎, 峰雪 芳宣
    2016 年 28 巻 1 号 p. 3-7
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/04/14
    ジャーナル フリー

    種子は一般的に乾燥状態で,その中に休眠している幼植物(胚)が含まれており,適当な条件が揃うと発芽する.発芽過程における種子中の形態的変化の観察では,その周りを覆う種皮が支障となり,光学顕微鏡観察のための切片作製では固定・樹脂包埋等による試料の変形も問題となる.そこで著者らは,種子を非侵襲で観察するために放射光施設SPring-8においてX線マイクロコンピュータートモグラフィー(CT)を利用している.マメ科ミヤコグサの種子をBL20B2で撮影した結果,胚の輪郭や将来維管束になる前形成層等を捉えることができた.この前形成層周辺にはX線の透過しにくい構造が散在していたが,それはシュウ酸カルシウム結晶であり,種子形成過程中期に現れ,吸水後10日目の子葉中でも消失しないで残ることがわかった.発芽種子の子葉には乾燥種子で見られないX線の透過し易い部分が散在していた.これは細胞間隙であり,吸水後60分になると出現することが分かった.一方,より高分解能での観察が可能なBL20XUを使ってシロイヌナズナ種子を撮影した.その結果,幼根から胚軸にかけての領域を構成する細胞の形が把握でき,胚の表皮,皮層,内皮を構成する大部分の細胞輪郭が抽出できるようになった.これら著者らの結果をふまえ,本総説ではX線マイクロCTの有効利用法や問題点についても言及したい.

  • 佐藤 良勝, Chenguang Wang, 深澤 愛子, 多喜 正泰, 東山 哲也, 山口 茂弘
    2016 年 28 巻 1 号 p. 9-13
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/04/14
    ジャーナル フリー
    超解像顕微鏡技術の目覚ましい発展により,従来の光学顕微鏡の空間分解能を超えた蛍光観察が可能になった.その活用面において,被写体を輝かせる側の蛍光試薬に求められる性質もそれぞれの超解像技術に合わせて多様になり特殊化している.しかし,限られた空間内の蛍光体から十分な蛍光輝度を取得する点は超解像イメージングに共通し,蛍光色素には比較的強い励起光に耐えられる耐光性が求められている.特にSTED顕微鏡法では強力な誘導放出光を用いるため,蛍光色素の耐光性は極めて重要であり適合試薬の不足が課題となっている.本稿ではITbM研究グループの斬新な分子設計により開発された超耐光性蛍光色素のSTED顕微鏡法への適合性と今後の展望について述べる.
  • 豊岡 公徳
    2016 年 28 巻 1 号 p. 15-21
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/04/14
    ジャーナル フリー
    光−電子相関顕微鏡法(Correlative light and electron microscopy: CLEM法)とは,同一試料を光学顕微鏡と電子顕微鏡を用いて観察し,両顕微鏡により得られた像の相関を得る解析法である.これまでに様々なCLEM法が開発され報告されているが,主に動物の培養細胞等が用いられており,植物の組織や細胞に適した方法は報告例は乏しい.植物組織・細胞においても,GFP等の蛍光で標識した生体分子の局在を高分解能で正確に捉えるためにはCLEM法の開発が重要である.我々は植物材料において,GFP蛍光を放つ細胞小器官の超微形態を高分解能走査電子顕微鏡で可視化する「GFP-走査電子相関顕微鏡法」の開発を進めている.細胞小器官をGFPで標識したシロイヌナズナ形質転換体の根端や子葉などの組織・器官を固定・脱水後,樹脂包埋する.そして,ミクロトームにより準超薄切し,導電性スライドガラスに載せ,そのGFP蛍光を共焦点レーザー顕微鏡により検出する.その後,その切片を電子染色し,高感度な反射電子検出器をもつ電界放出形走査電子顕微鏡により,蛍光を撮影した同一箇所の微細構造を撮影する.最後に,蛍光像と電顕像を重ね合わせることで,蛍光を放つオルガネラを特定し,その超微細構造を明らかにする.本技術は,蛍光タンパク質が普及した植物科学分野の超微細構造解析研究に大きく貢献できると期待される.
  • 高橋 勝利, 姉川 彩, 大西 美輪, 山本 浩太郎, 石崎 公庸, 深城 英弘, 三村 徹郎
    2016 年 28 巻 1 号 p. 23-27
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/04/14
    ジャーナル フリー

    質量顕微鏡では,レーザーを用いてサンプル組織の一部をイオン化し,イオン化した物質を質量分析器に取り込んで質量電荷比を測定する分析を,レーザー照射部位を二次元スキャンしながら行うことによって,サンプル組織の物質分布を推定することができる.高空間分解能(<10 μm)を持つMALDI/LDIイオン源を市販の9.4 T(テスラ)-FTICR/MSにつなぐことで,超高質量分解能(>100,000)と超高質量精度(<1 ppm)を併せ持つ質量顕微鏡を開発し,植物サンプルをスキャンし,代謝物質の組織分布を明らかにすることを試みた.シロイヌナズナの根組織を用い,質量顕微鏡による代謝産物の網羅的解析を進めたところ,根全体,根端,伸長域などで,固有の質量を持つ物質が異なった分布をすることが見出された.また,ニチニチソウを用いて二次代謝産物がどのように分布するかについての解析も行った.ニチニチソウの葉や茎の組織では,葉肉細胞,表皮細胞,異形細胞といった複数の細胞間を代謝産物が移動することで,二次代謝産物(テルペノイドインドールアルカロイド)の合成が進められることが報告されているが,質量顕微鏡を使用することで茎における二次代謝産物の細胞間分布の違いを直接的に見出すことに成功した.

  • ~オルガネラ間接着力測定の試み~
    及川 和聡, 真野 昌二, 細川 陽一郎, 西村 幹夫
    2016 年 28 巻 1 号 p. 29-34
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/04/14
    ジャーナル フリー
    植物細胞のオルガネラは様々な外界の環境に応答し,活発に運動を行うと同時に,その形態を大きく変動させる.ペルオキシソーム,ミトコンドリアは葉緑体近傍に存在することが知られているが,その生理的な意義はよく知られていない.筆者らはフェムト秒レーザーを用いた生理学的解析により,光合成に制御されたペルオキシソームの形態変化,および葉緑体との接着力における相関性を具体的に評価する試みを行った.本総説では,最近注目されているオルガネラ相互作用の知見に触れつつ,筆者らが行った解析について紹介したい.
学会賞受賞者ミニレビュー
  • Soichi Nakamura
    2016 年 28 巻 1 号 p. 35-42
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/04/14
    ジャーナル フリー
    To determine the exact mode of inheritance of mitochondrial DNA (mtDNA) in Chlamydomonas reinhardtii, suitable markers to determine the origin of parental mitochondrial genes are necessary. For this goal, the difference in mtDNA between a C. reinhardtii strain and a C. smithii strain was used. These two species were serially backcrossed to ensure matching of the background of their nuclear genomes. The results showed strict paternal inheritance of mtDNA. Next, the fate of mt+ (female) and mt- (male) mtDNA was followed using three methods: quantitative real-time PCR, Southern blotting hybridization, and fluorescence in situ hybridization (FISH). The disappearance of mt+ mtDNA was observed at the beginning of meiosis. In the mutant bp31, in which the maternal inheritance of chloroplast DNA (cpDNA) is disrupted, the paternal inheritance of mtDNA was also found to be disrupted, indicating commonality between cpDNA and mtDNA in part of the process leading to uniparental inheritance. Mitochondrial nucleoids and mitochondria were observed in living vegetative cells. Organellar nucleoids were stained with SYBR Green I, while mitochondria were stained with DiOC6. During the cell cycle, mitochondrial nucleoids in living cells were granular, and mitochondria formed tangled threads. When mature zygotes were exposed to the light, meiosis began. Living zygotes with thick walls was also stained by SYBR Green I and DiOC6. At the diakinesis stage of meiosis, the total number of chromosomes was 18. When mature zygotes were exposed to the light, granular mitochondria began to form short thread-like structures and then assembled around the cell nucleus. Once assembled, the mitochondria began to scatter in the opposite hemisphere, forming long and tangled thread-like structures. Mitochondrial nucleoids were usually granular, but some of them developed bead-like structures, probably by dividing. The results from the molecular biochemical experiments suggested that mt+ mitochondrial nucleoids disappear at the stage of assembly and the scattering of mitochondria. Then, the first and second nuclear divisions proceed, producing tetrads.
  • 丸山 大輔, 東山 哲也
    2016 年 28 巻 1 号 p. 43-47
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/04/14
    ジャーナル フリー

    被子植物の有性生殖過程では,精細胞を運ぶ花粉管が卵細胞を内包する胚珠に対し,正確に1本だけ侵入をして受精をはたす.その背景には,花粉管誘引を担う助細胞を受精後に不活性化させる仕組みが存在する.われわれはこの助細胞の不活性化が胚乳との細胞融合という形でもたらされることを明らかにした.本総説では細胞融合を中心とした助細胞の不活性機構をシロイヌナズナの研究から紹介する.

  • 高橋 紀之, 野崎 久義
    2016 年 28 巻 1 号 p. 49-54
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/04/14
    ジャーナル フリー

    灰色植物は一次植物の最も原始的な形態を保持する系統群として全ゲノム解析を含めた研究が実施されているが,分類学的研究は他の2系統である緑色植物や紅色植物に比べ大きく遅れをとってきた.微細藻類の種を形態的に認識するには電子顕微鏡レベルの情報が有用と考えられるが,灰色植物においては,断片的な情報しか得られない従来の電子顕微鏡法だけでは,光学顕微鏡を超えた微細構造上の分類形質の発見は困難であった.そこで我々は特に原形質体表層の外被構造に着目し,次世代の超微細形態観察を含む複数の電子顕微鏡法による観察を実施した.電界放出形走査電子顕微鏡(FE-SEM)と透過電子顕微鏡(TEM)を併用した詳細な形態観察によって,灰色植物の一種であるCyanophora属においては,細胞表面全体を覆う嶺により縁どられた模様が認められ,この嶺は細胞膜を裏打ちする小葉状の扁平小胞の境界における反り上がりによって形成されていることがわかった.またこの様な微細構造の差異により,Cyanophora bilobaと新種C. sudaeを識別することができた.一方,厚い細胞壁で覆われたGlaucocystis属の細胞外被は,FE-SEMで直接比較するのは困難であり,超高圧電子顕微鏡による三次元(3D)観察を試みた.この結果,Cyanophoraと同様のGlaucocystisの細胞膜と扁平小胞の立体配置が描出され,さらにこの3D微細構造の多様性が明らかになった.これらの結果から,2属に共通する「細胞膜の内側で小葉状の扁平小胞が密に裏打ちする」外被立体微細構造をもつCyanophora様の鞭毛虫こそが灰色植物の共通祖先の姿であり,更には最初の一次植物にまで遡るとも推測された.

Brief note
日本植物形態学会第 27 回大会(新潟)ポスター発表要旨
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