実践政策学
Online ISSN : 2189-1125
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1 巻, 1 号
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  • 西部 邁
    2015 年 1 巻 1 号 p. 5-9
    発行日: 2015年
    公開日: 2025/01/12
    ジャーナル フリー
    プラクティス(実践)が重要であるのは、それを通じて新たな仮説が形成されるからである。そしてどんな実践も、人間の行為もその成果としての財も、イメージ特性を通じて、かならずや公共的な性格のものとなる。この公共性を歴史的に担保するのが国家にとっての「公共財の下部構造」ということになるのだが、それは同時に、国家の未来像を提示するという意味で国家の上部構造を示すことになる。こうした条件が整っていてはじめて「市場の成立」が可能となるのであって、はじめから「市場ありき」と想定して、それが効率的に処理できないことをもって「市場の失敗」とみなし、公共財(の需給)をもその失敗に繰り入れるというのは経済学の大いなる錯誤である。人間は時間意識を持って、つまり過去に遊及し未来を展望することを通じて、現在を生きる。そういうものとしての人間およびその社会的には安定性が必要条件となる。確率予測の可能性リスク(危険)にたいしては市場は対応できるとしても、そうした予測すらが不可能なクライシス(危機)が人間・社会に襲来するかもしれない。それに対応できるのは、国家による公共政策の実践のみである。ただし国家とは国民と遊離した制度のことではない。国民の公共心を代表するのが政府であり、その「国民と政府」をまとめて国府(=国家)と呼ぶのである。その意味での「国家による公共政策の実践」、それこそが二十一世紀文明の命運を左右することになるに違いない。
  • ヘーゲルの市民社会論に基づく共同体意識の心理構造分析
    羽鳥 剛史, 中野 剛志, 藤井 聡
    2015 年 1 巻 1 号 p. 11-18
    発行日: 2015年
    公開日: 2025/01/12
    ジャーナル フリー
    本研究では、様々なレベルの共同体が主体的に行う諸実践の活力の源泉となる「共同体意識」について、それが活性化される条件を探ることを企図した理論実証的な検討を行った。まず、Hegelの市民社会論に基づき、ナショナリズムと市民社会とが相互補完的・相互依存的であるとの仮説を措定した。そして、両者が相互代替的であるとの競合仮説と比較しつつ、この仮説を実証的に検討することを目的とした。この目的の下、Hegelの理論を基にして作成された、国家と市民社会に対する共同体意識を量る質問項目を用いてアンケート調査を実施した。調査データより、本仮説を支持する結果が確認された。すなわち、Hegelの理論と整合的に、ナショナリズムと市民社会に対する共同体意識が相互に補完的な関連を持つという可能性が示された.また、これらの共同体意識が、橋渡し型社会関係資本と結束型社会関係資本と関連する2因子から構成されるという可能性が示唆された。最後に、本研究の知見がまちづくりや地域づくり等に関わる公的実践において示唆する点について考察した。
  • 川上 友貴, 田中 尚人, 坂本 政隆
    2015 年 1 巻 1 号 p. 19-
    発行日: 2015年
    公開日: 2025/01/12
    ジャーナル フリー
    近年、時代の変化と共に社会的繋がりの希薄化が問題とされている。そのため、良好なコミュニティ形成を目指して住民参加の重要性が指摘されているが、住民参加の具体的な手順や重要な要素については諸説ある。近年では、まちづくりの文脈で「地域のありのままの姿を楽しむ」、「地域を見直すきっかけ」としてフットパスが注目され、全国で実施されている。九州でも多くの地域がフットパスに取り組んでおり、その中でも美里町では「美里方式」とも呼ばれるほど独自のフットパスを展開し、住民主体で取り組んでいる。そこで、本研究では熊本県下益城郡美里町のフットパス事業に着目し、コースづくりと運営システムの二つの視点から、事業が実施されるにつれ進展する住民参加を分析し、住民参加の進展に有益な要素を抽出することとした。その結果、住民参加の進展には「実感」、「協働」、「継続」の三つの要素が重要となっていることがわかった。地域住民は、コースづくりをはじめ様々な場面での「実感」を得ることにより、活動を「継続」して行う活力を得ている。しかし、この二つのみでは住民参加は成り立たず、基底には他者と役割分担し「協働」することがあり、それにより広く他者との関わりが生まれ、会話し、評価し、支え合い、全ての活動の根源となっている。美里町フットパス事業では「協働」を根底とし「実感」と「継続」を実現させる、優れた「場」が継承されていると言える。
  • 首都機能を巡る議論の歴史的変遷を踏まえて
    豊茂 雅也, 神田 佑亮, 藤井 聡
    2015 年 1 巻 1 号 p. 29-36
    発行日: 2015年
    公開日: 2025/01/12
    ジャーナル フリー
    我が国における最大の公的実践の一つに「首都機能移転」というマクロ実践がある。これについては、戦後、様々な議論がなされてきたものの、バブル崩壊後一旦低調なものとなったが、東日本大震災以降、再び首都直下地震等、特に首都圏の災害リスクを見据えつつ、その議論が再燃してきている。政治・経済などあらゆる首都機能が東京に一極集中している状況を踏まえると、一極集中緩和、そしてそれに対し最も効果的な首都機能移転は我が国の防災実践上、最重要課題の一つであるからだ。そこで、本研究では、我が国の首都機能に関する歴史的変遷を踏まえつつ、国家強靭化や防災といった観点から我が国の首都機能のあり方を探索し、我が国を強靭なものにするための「首都機能移転・実践」という国家規模の公的実践の質的改善と活性化を支援する政策方針提言を図る。
  • 中尾 聡史, 宮川 愛由, 藤井 聡
    2015 年 1 巻 1 号 p. 37-52
    発行日: 2015年
    公開日: 2025/01/12
    ジャーナル フリー
    日本におけるいわゆる「土木バッシング」の背景には、日本の歴史風土に特有の問題が存在しているとの仮説の下、本研究では、土木に対する否定的意識についての、過去から現在に至る日本民族の「歴史的実践の総体」の諸相を、各種の歴史的記述から概観し、再解釈することを通じて、現在の土木バッシングの基底にある日本人の潜在意識を探索した。その結果、日本人の精神に胚胎した「土木に対するケガレ意識」が、日本特有の土木バッシングの民俗学的理由を形作っている、との解釈と整合する歴史的記述が存在することが示された。すなわち、この日本人の精神に古くから胚胎してきたと考えられる「土木に対するケガレ意識」が、呪術を持った河原者などの被差別民が土木事業に携わったという歴史、ならびに、土木に対する「不浄」という精神的忌避の民俗を形成し、現在の日本特有の土木バッシングの民俗学的理由を形作っている、との解釈に複数の歴史事実が整合していることが示された。
  • 佐藤 翔紀, 神田 佑亮, 藤井 聡
    2015 年 1 巻 1 号 p. 53-64
    発行日: 2015年
    公開日: 2025/01/12
    ジャーナル フリー
    現在日本では、中央政府と地方自治体双方のレジリエンスからなる、国全体のレジリエンス(ナショナル・レジリエンス)の確保が急務となっている。現在のレジリエンス確保においては巨大地震が主なリスクとして想定され、政府では対策が進められつつある。しかし、地方自治体においては財政難や人材不足により防災対策が円滑に進んでいるとは言い難い状況にある。本研究では、南海トラフ地震によって最大34 mの津波が襲来すると予測される一方で、先進的な防災対策が展開されている数少ない地方自治体である高知県黒潮町を取り上げ、関係資料や行政・住民等へのヒアリングに基づき、防災の取り組みの一連の流れを物語描写し、さらにその解釈に基づき、黒潮町における防災対策が適切に機能した要因、ならびに、今後のナショナル・レジリエンス確保に向けた地方自治体の役割及び中央政府との連携のあり方に関する知見を得ることを目的とする。
  • 荒川 友洋, 吉村 まりな, 宮川 愛由, 藤井 聡
    2015 年 1 巻 1 号 p. 65-71
    発行日: 2015年
    公開日: 2025/01/12
    ジャーナル フリー
    近代化に伴い、我が国の多くの産業分野において、伝統的な近江商人の「三方よし」の精神が失われ、“過剰な営利精神”に基づく“ビジネス”が横行している。その結果、人材や資本は都市に過剰なまでに集中し、伝統的な地域産業は衰退しつつある。地方都市は「地域」そのものの「消滅」という危機に瀕している。これは、「国民国家」の危機であり、「国力」の衰退をも意味している。それらを防ぐためには“地域産業の復活”による地域活性化が必要であるが、伝統的な地域産業の復活は容易ではない。本稿では、こうした地方都市の消滅という危機を乗り越えるための一方途として、伝統的な地域産業の復活に代わる「新たな地域産業」として、今まさに実践されている熊本県阿蘇郡小国町湧蓋地区における「地熱発電事業」に着目し、発電事業に携わる関係者へのヒアリング調査に基づき物語描写を行った。そして、その解釈を通して、その地域において地域活力復活の兆しが見え始めた要因、すなわち、国力増進に向けた地域活力復活を企図する際に理解することが不可欠である要素を心理学、社会学、経済学、哲学の観点から解釈した。
  • “Happiness is sharing”の方法
    延藤 安弘
    2015 年 1 巻 1 号 p. 73-76
    発行日: 2015年
    公開日: 2025/01/12
    ジャーナル フリー
    実践政策学は、人間・環境・技術(制度)の3つが基本的に相互連関する「環境親和型社会」を目標とする、それが研究と実践において価値をもち実りあるものになるためには、研究と実践の幅広い概念化が必要とされる。コンセプトは、目的・手段・学習の統合であり、このことを生命のように大切にする。いまひとつのコンセプトは、専門的研究者やプランナーたちが、自省的・感応的・文脈的思考とプランニングの知的生産に対して能動的にかかわることである。さらに実践政策学は、これまで研究機関と地域社会でしばしば分離されていた境界をつなぎとめ、知的生産の成果を相互に分かちあい、協働しあい、交換しあう状況を促進する。実践政策学体験の最初のチャレンジは、“他者”をみることである。もし研究者やプランナーがまち育てにおいて“他者”と相互関係を紡ぐことになれば、彼らは自分自身の中にあるものとは違うアイデンティティや差異性を知り、かかわり、向きあうことになる。彼らは自己と“他者”のあわいをぼかし、アカデミアとコミュニティの境界を解くことになる。人間と環境の間の「幸せの分かちあい」実現のためには、よき生に駆り立てる力、人々の心にふれる形、しなやかな技術(制度)の有機的結合が必要であり、そのことは生き生きとした生活、自由、そして持続可能な幸せの追求をもたらす。
  • 「安全の4M」と「リスク」の体系化による考察とマネジメントの重要性
    片方 喜信, 石田 東生, 岡本 直久
    2015 年 1 巻 1 号 p. 77-87
    発行日: 2015年
    公開日: 2025/01/12
    ジャーナル フリー
    鉄道においては、ヒューマンエラーによる重大な事故防止策としてヒューマンが担う部分の装置化・自動化を図ることで、ヒューマンエラーの発生する機会を減少させてきた。また、ヒューマンエラーはあり得るという考え方に立ち、「ATS-P」形に代表される信号機の確認操作等のバックアップシステムの整備を進め事故防止に効果を上げてきている。しかしながら、装置の自動化に伴うデータ入力ミス、装置故障時の不慣れな作業、自動化されたバックアップ装置への安全過依存など、その操作・運用・マネジメントに対する新たな形態のヒューマンエラーが発生している現実にある。「ハザード」が潜在的にありそれが「リスク」として認識され、「アクシデント・インシデント」として顕在化する前に未然防止策を探り、実践することが重要であるとの認識のもと、「安全の4M」の視点を踏まえた「ハザードとリスク」と「アクシデントとインシデント」の体系化・普遍化を図り、実務レベルで使用できるように具象化することは、ものの本質を捉え未然防止策立案に必要不可欠な要件となる。今後、社会から不断に要請される安全の追求のための、大きなリスクマネジメントサイクルのあり方を提案する。
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