日本の大学等高等教育への就学を公的に支援する政策制度は、その殆どが独立行政法人日本学生支援機構の貸与奨学金制度によっている。全就学生の約37 %にあたる127万人の学生が一人平均約340万円の奨学金貸与をうけて就学しており(2019年度)、修学のための貸与制度として一定の効果を上げている。奨学生が卒業後就業機会を得られれば問題はない。しかし、在学中に親が経済的困難に陥ったり、本人が就業機会に恵まれず、返済または奨学金を借りていること自体が大きな負担となっている学生が存在する。2020年4月~10月に大学を中退した学生は25,008人おり、その中で経済的困窮が原因で大学休学を余儀なくされた学生4,501人のうち、奨学金を借りていることが原因の一部として理由で中退した学生が一定数存在すると考えられる。奨学生の負担となっている原因の問題点1は、現在の奨学金制度の成立過程についての課題である。問題点2は、独立行政法人としての中期目標策定の際、前期中期評価結果のフィードバックに関する課題である。問題点3は、日本の教育を巡る社会規範の問題である。結論として、今後貸与奨学金制度については、教育機会均等化政策と金融制度としての2つの側面のバランスを取るために、給付奨学金制度の大幅な拡充、奨学生本人の責任ではなく経済的困難に陥った際の期間的返済免除制度の検討、フィンテックなど民間資金の導入による必要財源の多角化などによる制度改革が必要であると考えられる。
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