実践政策学
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7 巻, 1 号
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  • 藤井 聡
    2021 年 7 巻 1 号 p. 5-6
    発行日: 2021年
    公開日: 2025/01/22
    ジャーナル フリー
    新型コロナウイルス感染症,いわゆるCOVID-19の感染拡大は、我が国日本のみならず世界に甚大な被害をもたらしている。その被害とはCOVID-19の直接的な身体医学的被害のみならず、その対策として行われている様々な「活動自粛要請」や「活動抑制政策」による社会的経済的被害を会わせた複合的な公的被害である。こうした複合的被害を見据えつつ、このCOVID-19に対して如何なる政治的社会的対策を図るのかは実践政策学的に極めて重大な課題である。本特集『COVID-19と実践政策学』は、そうした視点で進められている様々な実践政策学研究を掲載する。
  • 上田 大貴, 川端 祐一郎, 藤井 聡
    2021 年 7 巻 1 号 p. 7-12
    発行日: 2021年
    公開日: 2025/01/22
    ジャーナル フリー
    COVID-19をはじめとするパンデミックへの対策では、感染症による健康被害と感染防止策がもたらす社会的被害との比較衡量が必要となる。健康被害の評価においては死亡者等の単なる数に止まらず、様々な指標を用いた多面的な検討を行うことが求められる。本研究では、既存の人命リスク評価指標のうち死亡者の質的違いが検討できる余命損失年数を用い、他の死因との比較を行うことでCOVID-19の疾病としての特徴の一側面を捉えることを試みた。その結果、1人当たりの余命損失はインフルエンザや肺炎と同程度であること、交通事故や自殺の3分の1から2分の1程度であることが分かった。また1ヶ月当たりでは、COVID-19の損失はインフルエンザの2.4倍となるが、交通事故と同程度であり、肺炎や自殺に比べるとそれぞれ10分の1、8分の1程度であった。これらを踏まえ、リスク評価多面化の意義と、リスク間のトレードオフや不確実性の性質を考慮した意思決定手続きについて総合的な研究を行い政策実践に活用する必要がある旨の考察を行った。
  • 綾部 誠
    2021 年 7 巻 1 号 p. 13-20
    発行日: 2021年
    公開日: 2025/01/22
    ジャーナル フリー
    大分県由布市にある湯布院町は、観光とまちづくりの成功事例として全国の商業団体や地方自治体から長く注目を浴びてきた。しかしまちの開発史を遡ると、外部資本による大規模開発に対する激しい反対運動などもあり、現在は自然のなかに佇む閑静な保養温泉地と、外部資本が参入しメインストリートを中心に乱立する飲食・小売店の密集地に大別され、まちは二面性を有するようになっている。このようななか2019年末に発生した新型コロナウイルスは世界中に蔓延し、日本の観光業に深刻な打撃を与えることになり、政府は国内産業の維持と雇用継続のために大規模な経済支援策を講じることになった。これらの対策を、湯布院町で事業を営む人々はどのように評価したのか、また二面性に依拠した共通点や差異、そして課題とは何であったのかということを明らかにした。
  • 日本における都市と地方のタイミングの差に着目して
    鈴木 春菜, 内海 健
    2021 年 7 巻 1 号 p. 21-32
    発行日: 2021年
    公開日: 2025/01/22
    ジャーナル フリー
    本研究では、日本の都市部と地方部から選出した7都府県を対象として、COVID-19の感染状況が公共交通利用を中心とする移動に及ぼす影響を検討した。モビリティ利用と自県ならびに全国の新規感染者数の相関係数を新規感染者数のデータをずらしながら算出することで、各感染状況が最もモビリティ利用に影響を及ぼしたタイミングを推計するとともに、回帰分析を行って影響の程度を検討した。その結果、モビリティ利用に影響を及ぼしたタイミングは東京で第1波が14~16日、第2波が8~11日、大阪で第1波が15~18日、第2波が6~9日と推計され、第1波よりも第2波では感染拡大から移動の減少が早く生じた可能性が示された。また、第1波の地方部では自都府県の感染状況よりも全国の感染状況に影響されたと考えられる期間が長かった可能性が示された。また、自都府県の10万人当たり新規感染者数を説明変数とした場合、都市部と比較して地方部で回帰係数が大きかった。さらに、第1波では全国の新規感染者数を説明変数とした場合も、全ての都府県で回帰係数が有意であり、決定係数が自都府県の新規感染者数を説明変数とした場合よりも高い府県も多かった。本研究で示された結果は、第1波では身近な感染状況に加えて、マスコミ等の報道による全国的な感染状況によって、公共交通を中心とした移動が変化した可能性を示唆するものと考えられる。
  • 上田 大貴, 川端 祐一郎, 藤井 聡
    2021 年 7 巻 1 号 p. 33-38
    発行日: 2021年
    公開日: 2025/01/22
    ジャーナル フリー
    新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対策においては外出削減をはじめとする強力な非医療的介入が用いられたが、今後のパンデミック対策を適切なものとするためにも、それらがどの程度の感染抑制効果を持ったかについての検証は不可欠である。本研究では、日本における新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の流行状況と、その要因として考えられる外出削減率及び季節要因との統計的関係を分析した。その結果、SARS-CoV-2の流行状況(新規感染者数)は、従来から存在するコロナウイルスの流行の季節変動パターンと強い正の相関を、気温と強い負の相関を示す一方で、外出削減率との間では有意な相関が観察されなかった。また、SARS-CoV-2の流行に及ぼす影響を重回帰分析により検討したところ、気温が支配的な影響を持っていることが示唆された。
  • 川端 祐一郎, 上田 大貴, 藤井 聡
    2021 年 7 巻 1 号 p. 39-48
    発行日: 2021年
    公開日: 2025/01/22
    ジャーナル フリー
    新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対策として、日本では2020年4月から5月に1度目、2021年1月から3月にかけて2度目の緊急事態宣言が発出され、これに合わせる形で飲食店の営業時間短縮、不要不急の移動の自粛、テレワークの推進などが行われた。緊急事態宣言のように社会活動の大幅な抑制を目指した政策は、経済的な損失を始めとして副作用を伴い得るものであるため、それがどの程度の効果を持つものであるかを見極めた上で、適切に実施される必要がある。本研究では、2021年1月から地域限定で発出された2度目の緊急事態宣言が感染拡大を抑制する効果に着目し、2020年12月27日~2月14日までの新規感染者数(2021年1月10日から2月28日までの報告数を14日間遡及させたもの)から導いた感染増加速度及び実効再生産数を従属変数とし、対象地域の内外と宣言の前後の二つを要因とする反復測定分散分析を行った。その結果、宣言の前後及び対象地域の内外で統計的に有意な差がなく、両者の交互作用も見られず、2度目の緊急事態宣言が感染を抑制したと言うことは統計学的に出来ないという結果が得られた。
  • 石橋 拓海, 谷口 綾子
    2021 年 7 巻 1 号 p. 49-61
    発行日: 2021年
    公開日: 2025/01/22
    ジャーナル フリー
    我が国のCOVID-19対策は、緊急事態宣言による外出の自粛要請や我が国への入国の制限、学校の一斉休校の要請、中小企業や個人事業主を対象とした融資、全世帯に対する布マスクの配布など多岐にわたって実施されている。しかし、これら対策は予めパンデミックに備えて定められた対策ではない。そのため、COVID-19が流行する最中でその都度検討され、定められてきた。したがって、政府によるCOVID-19対策に対する国民の評価は未だ明らかにされていないままである。そこで、本研究では、アンケート調査データを用いた重回帰分析による対策への定量的な評価と新聞分析による定性的な評価を実施した。アンケート調査は、2021年2月上旬に首都圏在住の521名を対象に実施した。また、新聞分析では、読売新聞のインターネット紙面検索を用いた。その結果、政府の新型コロナウイルス対策全体に56.4 %が不満と評価しており、満足度は概して低いことが明らかとなった。一方で、COVID-19対策の満足度には、「政府への信頼」が特別定額給付金を除く各対策に大きな正の影響を与えていた。このことから、政府への信頼は、パンデミック対策への賛成度の大きな要因であることが明らかとなった。また、サービス業従事者において1回目の緊急事態宣言に満足していない傾向が示された。この理由として、緊急事態宣言解除後も経営状況の低迷が続いており、適切な経済回復支援策が必要であることが新聞記事より示唆された。
  • 松村 暢彦, 一宮 涼花
    2021 年 7 巻 1 号 p. 63-70
    発行日: 2021年
    公開日: 2025/01/22
    ジャーナル フリー
    これまでの化粧行動の社会心理学の研究から、化粧行動は積極的な対人行動や自己充足度、心の健康をもたらすことが示されている。新型コロナウイルス感染症流行期においては感染予防をはかりつつ、まちなかの人々の活動を活性化させることが経済活性化の側面でも生活満足度の向上の側面でも求められている。そこで女子大学生を対象に化粧行動の促進による外出行動の効果検証を行った。毎日化粧をし、ふだんよりも濃い目に化粧をしてもらうよう依頼した群と何も依頼しない制御群を設けて、依頼前後の化粧態度、化粧の効果、外出行動をアンケート調査より把握し、比較した。その結果、化粧依頼法は、外出日数、一人での外出回数を増加させる有意な効果があることが明らかになった。また、共分散構造分析の結果、化粧をすることによって感情的効果を向上させることができ、それが生活の充足感につながることが確認された。また、化粧をすることが、感情的効果の向上を経由して、外出回数を増やす傾向があり、それがさらに生活の充足感に正の影響があることが明らかになった。したがって、新型コロナウイルス禍でも、化粧行動を促進することが化粧をした本人の生活充足感を増すだけでなく、外出行動の増加による経済活性化を期待できることが示唆された。
  • 「ゆっくり来る津波」回避のための外出MMのすすめ
    谷口 守, 武田 陸, 小松﨑 諒子
    2021 年 7 巻 1 号 p. 71-78
    発行日: 2021年
    公開日: 2025/01/22
    ジャーナル フリー
    COVID-19感染拡大に伴う緊急事態宣言の発令や、個人の行動自粛に伴い、人々の行動には過去には無かった変化が生じている。本稿ではまず1日の生活時間全体を通じた個人に対する活動調査を元に、その実態を明らかにした。この結果、公共交通から自動車への交通手段転換、在宅での業務の実施(リモートワーク)が緊急事態宣言解除後も元に戻っていないことを具体的に示した。変化は塑性的に生じているのである。また、Newman and Kenworthy(1999)の都市密度と自動車依存度の関係図を用いることで、自動車依存の高い疎な都市空間を有する都市の方が、むしろ感染状況が悪い可能性を示唆した。さらに、過去からのオンライン化に関する研究成果と新たな意識調査の結果を元に、リモートワークやオンラインショッピングが今後実際の都市空間に及ぼす少なからぬ影響について言及した。あわせてあたかも「ゆっくり来る津波」に流されるように現在進行形で消滅しつつある実際の各都市における都市施設についても例示を行っている。これらの結果を元に、本稿では実空間にも配慮してサイバー空間の利用を行う骨太の方針「新たなスリーマグネット」の必要性を説いた。具体的な行動としては、「かしこいオンラインの使い方」をキャッチフレーズとして、新たなモビリティ・マネジメントもジャンルとなる「外出MM」を確立することの必要性を示した。
  • 青木 保親, 葉 健人, 土井 健司
    2021 年 7 巻 1 号 p. 79-88
    発行日: 2021年
    公開日: 2025/01/22
    ジャーナル フリー
    わが国の公共交通は、需要および供給の双方の減退による持続性の低下、また、Covid-19および新たな生活様式の定着などの新たな局面に対応するために、需要と資源の両面から見直すことが求められる。本稿では、わが国の運賃制度の現状と課題を踏まえ、利害関係者の多様な価値観を前提として、持続性の観点から人々の交通行動とそれを支える交通システムを共により望ましい選択へと誘導していくための価値志向型運賃制度の必要性を明確にした。また、近年注目されるMaaS化に対応した新たな運賃制度の導入過程における、運賃と関係性の相互デザインの考え方を明らかにした。さらに、協議運賃制度は、原価主義運賃制度による需要および供給資源の減退に起因した公共交通の持続性の低下を解決する切口となることを示唆した。
  • 地区特性に着目し秋田市山王地区・大平台地区・雄和地区を例として
    鈴木 雄, 日野 智, 前川 聖陽
    2021 年 7 巻 1 号 p. 89-100
    発行日: 2021年
    公開日: 2025/01/22
    ジャーナル フリー
    本研究では、地域住民の新規転入者に対するコミュニティ形成意識について分析を行った。地域コミュニティは、生活に関する相互扶助や防災、防犯、まちづくりなど重要な役割を果たす。地域コミュニティは地縁的なつながりを中心に形成されてきたが、都市部での人口流動や、山間部での人口減少・少子高齢化などからその衰退が問題視されている。元々高い地域コミュニティが形成されている農村地域に新規住民が転入した場合にいわゆる村八分にされる事例や、都心部において新規住民とのコミュニティがまったく形成されない事例も耳にする。居住地に対する考えが多様化する中で、地域住民の新規転入者に対するコミュニティ形成意識を把握することは重要である。本研究では、地方都市を対象に中心部、住宅地、農村部でそれぞれ新規転入者に対するコミュニティ形成意識の調査を行った。その結果、すべての地域で会釈や挨拶程度の弱い関わりへの意識は高い結果であった。ただし、困りごとの相談や一緒に買い物に行くなどの強い関わりへの意識は、中心部と住宅地で低い結果となった。強い関わりへのコミュニティ形成意識への影響要因として、中心部では地域愛着を高めること、住宅地では近隣住民との関わりを高めること、農村部では地域課題解決への取組み意識を高めることが示された。新規転入者に対するコミュニティ形成意識を形成する要因は地域の特性により異なり、これら地域特性に合わせたコミュニティ形成施策の実施が必要となる。
  • 鎌谷 崇史, 川端 祐一郎, 春日 昭夫, 藤井 聡
    2021 年 7 巻 1 号 p. 101-109
    発行日: 2021年
    公開日: 2025/01/22
    ジャーナル フリー
    日本の国土は様々な自然災害リスクを有し、継続的な防災投資が必要とされているが、財源不足等の理由から防災インフラの整備は十分には進んでいない。公共施設等の建設、維持管理、運営等を民間の資金を活用して行うPFIと呼ばれる手法もあるが、防災分野での適用実績は乏しい。その理由は、空港施設や公営賃貸住宅と異なり、防災インフラ整備が生み出す価値を金銭的な収益として民間事業に還元する経路を設けにくいからであろう。そこで本研究では、既往の取り組みを参考に、「ソーシャル・インパクト・ボンド」等の形で日本でも社会福祉分野において導入事例が存在する「PFS」(成果連動型民間委託契約)の仕組みを導入することで、防災インフラがもたらす「減災効果」の一部を、その整備を担う民間事業者に還元できる仕組みを提案した。そのうえで防災インフラ投資にPFSの仕組みを導入することのメリットと、導入に向けた課題について考察した。
  • 水川 尭, 川端 祐一郎, 藤井 聡
    2021 年 7 巻 1 号 p. 111-128
    発行日: 2021年
    公開日: 2025/01/22
    ジャーナル フリー
    我が国では昨今、公共交通サービスの拡充を求める声が各地で高まっているが、その実現には安定的な収益が生み出されるだけの利用者数の確保が必要である。本研究ではその実現方法の一つとして、地域住民が主体となったMM(モビリティ・マネジメント)活動に注目する。現実にそのような活動を通じてバス利用者数の確保とサービス拡充を実現した京都市内の複数の事例を取り上げ、関係者へのヒアリング内容を実践物語描写の方法論を用いて記述した上で、その意義について考察を行った。その結果、① 「バス路線の拡充は難しい」という住民の諦めや、「拡充しても利用者数の確保は難しい」というバス事業者の諦めが、MMという手法の登場によって「希望」に転換されたこと、②地域住民、行政当局、交通事業者の三者の強力な連帯関係がバス路線の拡充を可能にしたこと、③路線拡充は、「利用者数等目標に達しなければ、路線の拡充が実現しない/縮小されてしまう」という危機感を住民自身が持ち、積極乗車を心がける「自覚的バストリガー方式」とも言い得るプロセスで実現したこと等が明らかとなった。
  • 志田 秀史, 老田 義人, 勝原 修吾
    2021 年 7 巻 1 号 p. 129-138
    発行日: 2021年
    公開日: 2025/01/22
    ジャーナル フリー
    本調査研究は、専門学校調理師及び製菓衛生師養成課程における外国人留学生に対する学業定着方略(構成要素と手順)を明らかにすることを目的とする。質的調査の結果、外国人留学生の学業定着方略に求められる「構成要素」は、調理師クラス担任及び製菓衛生師クラス担任(インスタラクター兼メンター)、ビザ支援担当職員、ラーニングマネジメントシステム(LMS)担当、上長であることがわかった。次に、手順は、 ①外国人留学生だけを集めてビザ支援を実施する、②奨学金(学費補助)の申請支援をする、③入学後の学びや学則に関するオリエンテーションを実施する、④調理器具、材料、オノマトペの理解及び協働授業への動機づけを実施する、⑤将来の職業像を目標設定することと、そのための仲間づくりを実施する、⑥集団学習の場でのマナーを教授する、⑦ラーニングマネジメントシステム(LMS)の学生登録及び使用方法を教授する、⑧全科目の教材にルビを振る、⑨出席管理及びアルバイト就労時間管理支援を実施する、という9工程であることがわかった。また、専門学校調理師及び製菓衛生師養成課程における外国人留学生に対する学業定着方略として、第1に、インストラクター及びメンター機能の必要性、第2に、外国人留学生全員に対する調理器具、材料、オノマトペの理解及び協働授業への動機づけ、第3に、集団学習の場でのマナーを教授する必要性が示唆された。
  • なぜフランスの都市計画は機能するのか
    ヴァンソン藤井 由実, 金山 洋一, 本田 豊, 村尾 俊道
    2021 年 7 巻 1 号 p. 139-154
    発行日: 2021年
    公開日: 2025/01/22
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は、フランスの自治体行政が、その都市政策、中でも交通・商業・住宅政策を包括した都市計画マスタープランを、どのように整合性を持たせて具体的に策定・実行しているのかを考察し、明らかにすることである。まず、第一章でフランスの賑わう地方都市の現況を俯瞰し、第二章で都市計画の歴史的動向(1967年~2017年)を概観し、「広域都市計画 PLUi」と呼ばれる都市計画マスタープランの展開と方法論を整理する。第三章では賑わいのある地方都市の創造を可能にしてきた商業調整制度、法整備と様々な規制法・税制を示す。またシャッター通りの問題を抱える自治体が主導し実施している、近年(2020年まで)の商業活性化政策の動向も整理する。一方中心市街地の商業が栄え人の賑わいをもたらすには、近距離に消費者の人口が存在する必要がある。そこで第四章では住宅政策を示すと共に、自治体主導の都市開発における土地整備開発機構とマスターアーバニストの役割を示す。この二者により、デザイン的にも優れ、地域ごとに調和と統制の取れた整合性のある都市開発が可能となる仕組みを明らかにする。 第五章では、「なぜフランスの都市計画は機能するのか」についてまとめ考察する。 本研究では日本社会への貢献を期して、都市計画策定から事業実現に至るまでのプロセスにおいて、どのように議会や行政が関わっているのかその姿も具体的に示す。
  • 大金 正知
    2021 年 7 巻 1 号 p. 155-163
    発行日: 2021年
    公開日: 2025/01/22
    ジャーナル フリー
    日本の大学等高等教育への就学を公的に支援する政策制度は、その殆どが独立行政法人日本学生支援機構の貸与奨学金制度によっている。全就学生の約37 %にあたる127万人の学生が一人平均約340万円の奨学金貸与をうけて就学しており(2019年度)、修学のための貸与制度として一定の効果を上げている。奨学生が卒業後就業機会を得られれば問題はない。しかし、在学中に親が経済的困難に陥ったり、本人が就業機会に恵まれず、返済または奨学金を借りていること自体が大きな負担となっている学生が存在する。2020年4月~10月に大学を中退した学生は25,008人おり、その中で経済的困窮が原因で大学休学を余儀なくされた学生4,501人のうち、奨学金を借りていることが原因の一部として理由で中退した学生が一定数存在すると考えられる。奨学生の負担となっている原因の問題点1は、現在の奨学金制度の成立過程についての課題である。問題点2は、独立行政法人としての中期目標策定の際、前期中期評価結果のフィードバックに関する課題である。問題点3は、日本の教育を巡る社会規範の問題である。結論として、今後貸与奨学金制度については、教育機会均等化政策と金融制度としての2つの側面のバランスを取るために、給付奨学金制度の大幅な拡充、奨学生本人の責任ではなく経済的困難に陥った際の期間的返済免除制度の検討、フィンテックなど民間資金の導入による必要財源の多角化などによる制度改革が必要であると考えられる。
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