実践政策学
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8 巻, 2 号
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  • ブルースター デイビッド, 向井 智哉, 高橋 有紀, 竹中 祐二, 相良 翔, 鈴木 政広, 相澤 育郎
    2022 年 8 巻 2 号 p. 137-145
    発行日: 2022年
    公開日: 2025/01/17
    ジャーナル フリー
    これまでの日本の刑事政策を巡る議論は全国の状況を同質的に捉える視点が主流であって、地域間の相違についてほとんど関心が払われてこなかった。しかし、近年、地方分権の傾向が活発であることを踏まえると、刑事政策においても地域性が見られる可能性が考えられる。そこで本研究では、統治(governance)研究を理論的背景に置き、日本の刑事政策における地域間の異質性・同質的を検討することを目的とした。具体的には、再犯防止推進法に基づいて策定された42都道府県の地方再犯防止計画を対象とし、テキストマイングによって①各都道府県の再犯防止推進計画でどのような事柄が重視されているのか、②重視する点において各都道府県間に地域性があるのかを検討した。その結果、①「出所者の特性に配慮した政策を行うこと」を重視する「継続的支援コード」および「機関間の連携を推進すること」を重視する「連携コード」の出現頻度が相対的に高いこと、②京都・兵庫を除く都道府県は概ね等質であり、大きな地域性は見られないことなどが示された。この結果について、国と地方における資源の非対称性の観点から考察した。
  • 群馬県を移住候補地とする対象者への調査
    塚田 伸也, 森田 哲夫
    2022 年 8 巻 2 号 p. 147-155
    発行日: 2022年
    公開日: 2025/01/17
    ジャーナル フリー
    近年、東京圏の一極集中が進むとともに地方圏では人口減少が生じている。地方都市では如何に人口維持・増加の流れを見出し、人口減少問題の改善や雇用の維持・創出に結び付くまちづくりの向上や市民及び地域間の交流促進が望まれている。本研究では、東京圏における群馬県を移住候補地とした居住者へのウェブアンケート調査を用いることにより、移住希望者の移住の意識やニーズを把握するとともにライフステージにおける移住に関する意識特性を明らかにした。研究の結果、人口減少に加えて空き家対策にも取組む地方都市では、転入する希望者とのマッチングの際に、求める自然環境、大都市圏へのアクセス性、住宅環境などに配慮した地域ブランディングの発信や強化を図ることが有効と考えた。また、壮年期(40歳未満)が地方居住、高年期(65歳以上)が二地域居住といった居住形態の志向が窺えることから、ターゲットとする転入希望者の年齢やライフステージに配慮した居住形態の提案できる環境整備を反映した政策を実践していくことが有効であろうと考えた。
  • 向井 智哉, 野上 智行, 湯山 祥
    2022 年 8 巻 2 号 p. 157-162
    発行日: 2022年
    公開日: 2025/01/17
    ジャーナル フリー
    犯罪者に対する原因帰属に関するこれまでの研究では、原因帰属の対象を内的/外的、あるいは属性的/状況的に区別する二元的アプローチと、原因帰属の対象をより細かく分ける多元的アプローチが並立している。これらのアプローチには一長一短があるため、両方の知見を蓄積していくことが望ましい。しかし、特定の類型の犯罪者ではなく、犯罪者一般に対して多元的アプローチを用いた研究は日本では行われておらず、多元的アプローチを用いた研究は手薄である。そこで本研究では、先行研究に基づき、犯罪者一般に対して多元的アプローチをとった場合に、どのような因子構造が抽出されるのかを検討することを目的とした。191名のデータを用いて探索的因子分析を行ったところ、5因子解と3因子解が可能であったため、これらの因子数によって分析を進めたところ、どちらの因子数でも抽出される因子は極めて解釈しづらいものであった。この結果から、多くの回答者は、犯罪学において想定される犯罪原因に沿った形では原因帰属を行っていないものと思われる。そのため、今後の政策決定においては、犯罪学理論に基づく犯罪原因に拘泥することは必ずしも有益ではないことが示唆された。
  • 加藤 淳, 那須 清吾
    2022 年 8 巻 2 号 p. 163-167
    発行日: 2022年
    公開日: 2025/01/17
    ジャーナル フリー
    日本医療機能評価機構(2019)の調査では、医療事故が年々増加していることが報告されている。ここで、看護師長に求められるリーダーシップとは、患者の安全であり、患者に対してより良い看護を提供することを目指すものである。米国では、看護管理者のサーバント・リーダーシップが、ともに働く看護師の職務満足度を向上させ、成長を促すことが認められており、多くのプロフェッショナル(有資格者)が集まる医療現場では、サーバント・リーダーシップが有効なリーダー像として当てはまることが指摘される。そこで、本稿では、患者の医療安全を実現するために、看護師長のサーバント・リーダーシップに焦点を当てながら、アサーティブ・コミュニケーションに関する先行研究の論点整理に基づく展望を行った。その結果、看護師長がサーバント・リーダーシップを発揮する過程で、看護師長とチーム内の看護師がアサーティブな関係を構築することで、緊密なアサーティブ・コミュニケーションを実践できることを示唆した。すなわち、アサーションという概念が、看護師長がサーバント・リーダーシップを発揮するための補助的な役割を担うことになる。
  • 綾部 誠
    2022 年 8 巻 2 号 p. 169-174
    発行日: 2022年
    公開日: 2025/01/17
    ジャーナル フリー
    日本各地では少子高齢化が急速に進んでおり、地方都市では住民流出を防ぎつつ、移住者を増やす試みが行われている。本稿では近年、人口の社会増を続けている大分県豊後高田市の移住・定住支援に着目をして、その成功理由を探ることにした。これを明らかにするため、同市の産業政策、移住・定住・就労・子育てに関する支援策、民間団体による支援、HPやSNSでの情報発信、担当する市役所の組織対応の側面から分析を試みた。その結果、観光や移住ランキングなどの情報を媒体特性に合わせて発信することで同市を訪問する人々を増やし、子育て世代をメインターゲットとした移住・定住、就労、子育て、教育に関わる支援を地域連携で実施していることが分かった。また移住前から移住後に至る相談窓口のワンストップ化によって緊密な人間関係が形成され、これが移住・定住を後押ししていることが示唆された。
  • 時代・年齢・世代に着目して
    安藤 慎悟, 川合 春平, 石橋 澄子, 谷口 守
    2022 年 8 巻 2 号 p. 175-184
    発行日: 2022年
    公開日: 2025/01/17
    ジャーナル フリー
    我が国では人口減少及び少子高齢化社会が進む中、1998年以降の国土計画において、行政のみならず住民が地域づくりの主体として公共サービスの供給側に参加していくことが目指されている。こうした住民の町内会活動やボランティア活動といった社会参加活動を促すことにより、一人当たりの活動力を高めることが期待される。本研究では、そうした社会参加活動の中でも地域社会への還元度合いの高い活動を地域貢献型社会参加活動(以下、地域貢献型)と新たに定義した。地域貢献型の重要性が叫ばれて以降、地方分権の進展や財政圧迫、東日本大震災など、我が国の社会情勢は大きく変化し、価値観や働き方も多様化してきた。そこで、今後の地域貢献型の創出を考える上で、全国を対象とする大規模調査による4時点15年間の分析から、過去から現在にかけて地域貢献型の実態がどう変遷したのか把握を試みた。その結果、活動の実施要因は15年間を通じて大きな変化がみられず、4時点に共通して年齢や学習・自己啓発活動といった生活行動の影響力が強いことが明らかとなった。地域貢献型の中でも具体的な活動別に活動形態をみると、町内会をはじめとした団体に加入せず活動する層が大きく減少していることや、15年間の変遷を時代・年齢・世代に分解した分析からは、進学や子育てといったライフステージと行動の関連性などが明らかとなった。
  • 群馬県嬬恋村の防災・感染症対策のためのスマートシティ事業を対象に
    陶 星宇, 森田 哲夫, 木之下 僚太郎, 張 童生
    2022 年 8 巻 2 号 p. 185-194
    発行日: 2022年
    公開日: 2025/01/17
    ジャーナル フリー
    国土交通省は、AI、IoTなどの新技術や官民データをまちづくりに取り入れることにより都市・地域課題の解決を図るスマートシティ関連事業を推進している。群馬県嬬恋村では、2018年の本白根山の水蒸気噴火、2019年の台風19号による水害、わが国では2020年からの新型コロナウイルス感染の被害を受けた。そのため、嬬恋村では、安全・安心なまちづくりを目標に、防災・感染症対策のための情報提供システムの開発に取り組んでいる。本研究の目的は、嬬恋村の観光客を対象とする情報提供システムに関するアンケート調査を実施し、災害・防災情報、感染症情報を提供する手段、提供する情報内容の意向を把握し、情報提供による観光客の安全・安心感、来訪意向の変化を分析することである。アンケート調査は、過去5年以内に嬬恋村に訪れたことがある人を対象とし、ウェブ上で実施した。観光客の訪問意向を目的変数に設定した数量化論理II類による分析から、情報提供により嬬恋村への来訪回数が増えるという意向は、居住地が埼玉県、神奈川県、東京都の人、コロナ感染対策に関心のある人、情報機器で情報を得たい人、コロナ感染により観光等の外出の減った人、嬬恋村への来訪経験の多い人であることがわかった。加えて、観光客の意向を踏まえた情報提供システムの開発、システムの管理と運用、開発後の展開と課題について報告した。
  • 熊本県水俣市を事例に
    境 翔悟, 一ノ瀬 友博
    2022 年 8 巻 2 号 p. 195-202
    発行日: 2022年
    公開日: 2025/01/17
    ジャーナル フリー
    我が国の中山間地域には、地域住民によって組織された水道組合によって管理運営が行われている小規模水道が存在しており、本研究ではその小規模水道の現状と、管理運営の継続に関する意向の把握を行なった。市内全水道組合に対するアンケート調査をもとに、小規模水道の類型化を試みた結果、水道の維持管理の負担が大きいが管理運営の継続意向が強い水道組合の類型や、維持管理負担が小さいが管理運営意思にばらつきが見られる類型が見られ、必ずしも維持管理負担の大きい水道組合で管理運営の継続意向が弱い結果にならないことが示された。特に、管理運営の継続意向が強い水道組合では、地域愛着が他の類型と比較して高く、住民による小規模水道の運営の持続性に寄与している可能性が示唆された。小規模水道を持続可能にするための施策として、水道の維持管理が集落の生活や価値観に結びつくことで生まれる、多面的な価値の認識の普及を進めることで、地域愛着の醸成を促進するような自治体の支援が望まれる。
  • 屠 芸豪, 浦田 真由, 遠藤 守, 安田 孝美, 島崎 寛和, 木村 智行
    2022 年 8 巻 2 号 p. 203-212
    発行日: 2022年
    公開日: 2025/01/17
    ジャーナル フリー
    本研究では、自治体における固定資産税評価業務に向け、産官学連携により自治体の所有する大規模な土地データや人工知能技術を活用し、航空写真画像からソーラーパネルの検出システムを構築する。現状、全国の市町村において、固定資産税は重要な財源である。市町村職員は適正な評価を行うため、現地調査などを実施し、多くの時間や労力を費やしており、情報通信技術やデータの利活用が求められる。そこで、自治体が所有する航空写真画像、地番図シェープファイルおよび課税地目データといった固定資産情報を活用し、人工知能技術である深層学習による物体検出を用いたソーラーパネル検出システムを開発した。加えて、産官学連携により自治体における実証実験を通じて検出システムを検証した。その上で、実証実験のフィードバックから業務への実用化に向けてシステムを改良した。その結果、本システムのソーラーパネル検出支援への活用および業務効率化に対する有効性を確認することができた。また、本研究を通じて自治体業務に人工知能技術やデータを活用した一連の取り組みを検証し、自治体におけるデータ利活用の活性化に繋げることを目指す。
  • 伊勢崎商業高等学校の活動事例
    大久保 達真, 服部 貴哉, 杉浦 俊太郎, 新城 香, 小池 りつ子, 山崎 涼子, 早川 克美, 森田 哲夫
    2022 年 8 巻 2 号 p. 213-222
    発行日: 2022年
    公開日: 2025/01/17
    ジャーナル フリー
    農村の高齢化・過疎化が進む中、農家と消費者をつなぐコミュニティの活性化が期待される。しかし、消費者との接点を作れる農家は未だ限定的である。本研究の目的は、農家にとって手間のかからない無人販売所を、高校生によって、農家と消費者をつなげるコミュニケーションを誘発する取り組みとしてデザインし直し、制作・運営を実施することが、高校生に与える教育効果を評価することである。評価対象となる群馬県立伊勢崎商業高等学校の商業研究部の生徒(以下、高校生)は、農家と協働作業をしながら無人販売所を制作し、3回の出店および運営を行った。高校生は出店毎に、消費者にアンケート調査を行い、次回への評価・改善の参考とした。これらの活動の教育効果の評価については、高校生、農家、担当教諭に対するアンケート調査とインタビュー調査を行った。その結果、高校生には①農家の思いや考え、農業、②デザインやストーリーパネルの制作、③様々な人とのコミュニケーション、④課題解決、についての学びがあったことが明らかになった。また高校生は制作・運営を通して、農家や消費者から、学びの実践や自らの考えが反映された制作物に対する反応を得ていた。学びや反応を実感した高校生たちの意識・意欲に、①農家や地域への貢献意識の高まり、②表現することの楽しさの実感、③コミュニケーションに対する積極性の高まり、④課題解決に対する意欲の高まり、などの変化が引き起こされていることが明らかになった。
  • 群馬県藤岡市における保護活動を事例に
    新井 健司, 森田 哲夫, 斉藤 裕也, 守山 拓弥
    2022 年 8 巻 2 号 p. 223-234
    発行日: 2022年
    公開日: 2025/01/17
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は、群馬県藤岡市におけるヤリタナゴ保護活動について時系列及び地区別に変遷を探り、生息状況との関係を考察することである。得られた知見をヤリタナゴの生息数の維持・増加や生息地拡大に活用することを意図している。2000年以降、ヤリタナゴは主に藤岡市笹川の下戸塚(岡之郷用水)に生息していた。生息数減少や圃場整備事業に伴い、生息域外保全を実施し、現在は笹川の本郷(旧笹川)と矢場の2か所に生息する。本研究では、まず藤岡市のヤリタナゴの生息地である水路などの農業基盤とヤリタナゴに対する人々の働きかけが生息状況に影響を及ぼすという分析仮説を立てた。20年以上にわたる保護活動の変遷について着目し、時系列、及び地区別に保護活動に関する情報を整理、分析し、生息に及ぼす影響について整理し考察した。その結果、ヤリタナゴは、4項目の保護活動により絶滅の危機を逃れ今日まで生息し続けていることが明らかになった。環境に配慮した圃場整備が生息環境を整え、水産試験場による養殖・再導入は生息域外保全や学校飼育のヤリタナゴを供給し続けた。そして、地域住民や高校生らの加入による生息地の維持・管理、啓発活動の継続した働きかけが今日までのヤリタナゴの生息に繋がっていることが明らかになった。県内唯一のヤリタナゴの生息確認が天然記念物指定、そして保護団体誕生へと繋がり、市民参画の保護活動が実施され続け、現在では「ヤリタナゴ懇談会」へと変遷しながらも保護活動や技術が継承されていることが明らかになった。
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