本研究の目的は、群馬県藤岡市におけるヤリタナゴ保護活動について時系列及び地区別に変遷を探り、生息状況との関係を考察することである。得られた知見をヤリタナゴの生息数の維持・増加や生息地拡大に活用することを意図している。2000年以降、ヤリタナゴは主に藤岡市笹川の下戸塚(岡之郷用水)に生息していた。生息数減少や圃場整備事業に伴い、生息域外保全を実施し、現在は笹川の本郷(旧笹川)と矢場の2か所に生息する。本研究では、まず藤岡市のヤリタナゴの生息地である水路などの農業基盤とヤリタナゴに対する人々の働きかけが生息状況に影響を及ぼすという分析仮説を立てた。20年以上にわたる保護活動の変遷について着目し、時系列、及び地区別に保護活動に関する情報を整理、分析し、生息に及ぼす影響について整理し考察した。その結果、ヤリタナゴは、4項目の保護活動により絶滅の危機を逃れ今日まで生息し続けていることが明らかになった。環境に配慮した圃場整備が生息環境を整え、水産試験場による養殖・再導入は生息域外保全や学校飼育のヤリタナゴを供給し続けた。そして、地域住民や高校生らの加入による生息地の維持・管理、啓発活動の継続した働きかけが今日までのヤリタナゴの生息に繋がっていることが明らかになった。県内唯一のヤリタナゴの生息確認が天然記念物指定、そして保護団体誕生へと繋がり、市民参画の保護活動が実施され続け、現在では「ヤリタナゴ懇談会」へと変遷しながらも保護活動や技術が継承されていることが明らかになった。
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