実践政策学
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9 巻, 1 号
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  • 劉 放, 竹村 和久
    2023 年 9 巻 1 号 p. 5-13
    発行日: 2023年
    公開日: 2025/01/12
    ジャーナル フリー
    本研究(1)は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染状況の推移を報道する際、メディアが一定方向の偏りをもって情報を提供していたかについて、感染状況の推移についての表現(フレーミング)の観点から実証的に検討したものである。本研究では、2020年1月15日から2021年10月4日までの、新型コロナウイルス感染症に関する記事の見出しを5つのメディアから収集し、分析した。その結果、メディアは新型コロナウイルス感染症の感染状況について、増加局面と減少局面に一貫していない集計方法や比較基準を使用し、表現が増加局面の方向に偏っていることが示された。感染者数に関する報道は、重症者数と死者数に関する報道よりもフレーム操作の対象となりやすいことが示された。これらのことから、メディアの報道が、リスク情報について特定のフレーミング操作を行った報道をしている可能性が高かった。意思決定のフレーミング効果のこれまでの研究から、このような報道の傾向は、一般市民に特定の方向に意思決定を誘導していたことが示唆された。
  • 辻辺 貴晃, 鈴木 春菜
    2023 年 9 巻 1 号 p. 15-25
    発行日: 2023年
    公開日: 2025/01/12
    ジャーナル フリー
    本研究では、新交通システム導入に関して議論が継続した富山県高岡市と途絶した山口県宇部市を対象に議論の継続に影響を与える要因について分析を行った。分析の結果、コンパクトシティ施策受容意識や居住地域の立地適正化計画の受容意識が継続に影響を与えていることが示された。高岡市の方が立地適正化計画と新交通システム導入の認知度、新交通システム導入の受容意識が高かった。宇部市では、新交通システムの受容意識と公共交通重要性認知との相関分析の結果から、有意な負の相関が確認できた。宇部市では、新交通が将来的な公共交通ネットワークの充実に相反するものと捉えられていた可能性が示された。
  • 堀越 卓, 一井 直人, 小又 睴広, 下津 大輔, 大澤 義明
    2023 年 9 巻 1 号 p. 27-35
    発行日: 2023年
    公開日: 2025/01/12
    ジャーナル フリー
    近年、少子高齢化やCOVID-19の影響により、医療サービスの重要性はより顕著になっている。慢性的専門医師不足や高額医療機器の稼働率低迷により、現在の医療体制を維持するには膨大な予算が必要になる。加えて、地域保健医療計画により医療圏という地域制約や病床数の総量規制が課されており、病院誘致のハードルは非常に高い。しかし今後、患者という需要サイドと病院という供給サイドを橋渡しする交通政策・広域連携を強化していけば、医療サービスは着実に向上する。医療サービスの充実度の評価には、従来指標として病院数や医師数といった指標が用いられた。しかし従来指標では行政区域外の情報が無視され、行政区域を越えて病院を利用するという日常的な様子が反映されないなどの欠点がある。そこで本研究では、地域医療の評価に対して、新指標として、病院へのアクセスに着眼する。茨城県内の44市町村を対象に、市区町村またぎを考慮した到達圏に基づく面積カバー率と人口カバー率を、各自治体の病院へのアクセスのしやすさの指標とし、地域医療の評価を行った。加えて、従来指標と新指標を継続性や需給バランスなどから比較し、両指標間の相関により従来指標が新指標の代替になり得ないことを示し、新指標の意義を明らかにした。
  • 中川 大, 森 雅志, 藤井 聡
    2023 年 9 巻 1 号 p. 37-52
    発行日: 2023年
    公開日: 2025/01/12
    ジャーナル フリー
    JRの地方ローカル線に関する提言が2022年7月に国交省の検討会から発表され、JR各社の路線別収支も公表されたことによって、JRの地方ローカル線の将来に向けて様々な議論が行われるようになっている。本研究ではまず、全国の地方鉄道路線について、利便性や経営収支・利用者数の推移などのデータを収集することによって地方鉄道路線において生じている問題点を分析する。また、その結果としてJR路線には地方の民間鉄道や第三セクター鉄道の路線とは異なる特有の問題点があることを明らかにし、その要因について考察する。さらに、自治体が関与してきた地方鉄道路線はJR路線と比較してサービス水準も高く経営状況も良好であることを示すとともに、欧州等においても自治体が関与していることによって、高いサービス水準が実現し、鉄道利用者の大幅な増加につながっていることを示す。最後にそれらを踏まえて、JRの地方ローカル線は自治体が関与することによって、サービス水準も収支も改善することができ、JRと自治体の双方にとってメリットのある再生方法があり得ることを具体的に示す。
  • 合意形成の視点からの考察
    吉武 久美子, 妹尾 弘子
    2023 年 9 巻 1 号 p. 53-63
    発行日: 2023年
    公開日: 2025/01/12
    ジャーナル フリー
    医療現場では、患者の治療・ケア・退院に関する決定が、話合いによって行われている。患者の意思を尊重した意思決定支援が重視されているものの、合意形成を要する話合いでの看護師の役割は十分に明らかにされていない。とくに、精神科領域では、精神障害者の認知・理解力・意思の表出において個人差が非常に大きいため意思決定支援が困難である。本研究の目的は、医療現場で精神障害者の意思決定支援が困難である現状を整理した上で、合意形成の観点から、意思決定支援のための話合いに関する看護師の役割を考察することである。その結果、意思決定支援が困難な現状は、患者の治療法の選択に患者が参加して決定するという素地がなかった精神科病院の環境で、患者の人権尊重の意思決定支援が求められるようになったこと、精神障害者のコミュニケーション能力の個人差、個人内による症状の変化が大きい上に、看護師側の患者に対する認識・リカバリー志向性などの違いが話合いの設定に影響を及ぼしている。そのため、話合いでの精神科看護師の役割として、①理解・共有を促進するファシリテーションだけでなく、②患者・家族の状況にあわせたナビゲーション、③持続可能な方法のアレンジメントがあることを導出した。ナビゲーションによる価値の共有と創出は、創造的な解決策を導出する合意形成の実践につながると示唆された。
  • 加藤 淳
    2023 年 9 巻 1 号 p. 65-69
    発行日: 2023年
    公開日: 2025/01/12
    ジャーナル フリー
    わが国の企業倫理が低下した背景として、短期利益追求主義の強まり、日本的経営と言われる経営手法の変質、企業内部に未だ残る暗黙のムラ社会の存在、メインバンクのモニタリング機能の低下、企業が掲げるCSRの履き違え(または意図的な曲解)が指摘される。そのため、経営者個人ではなく、企業全体で社会からの信頼を維持するような仕組みを確立する必要があり、その方策の一つが企業倫理の制度化である。そこで、本稿では、わが国の企業不祥事に焦点を当てながら、企業倫理に関する先行研究の論点整理に基づく文献レビューを行う。それにより、わが国の企業倫理制度に関する動きや課題等を提示したい。とくに、企業倫理を確立するには、組織内部に制度を設けるだけでなく、制度を有効に機能させる「組織の倫理風土」が重要となる。すなわち、企業倫理の確立を実現するには、企業倫理制度を組織内部で実質的に機能させること、そして、組織の倫理風土にまで落とし込んでいくことが重要となる。
  • 笹尾 和宏, 大庭 哲治
    2023 年 9 巻 1 号 p. 71-81
    発行日: 2023年
    公開日: 2025/01/12
    ジャーナル フリー
    公共空間における利用者行為の多様性を高めるためには、利用者個々の私的行為を拡張することが重要である。本研究の目的は、公共空間の利用促進における中心理論かつ手法であるプレイスメイキングをサービス科学領域において理論的枠組みを提供している価値共創理論と照合することによりプレイスメイキングの理論的課題を抽出し、利用者の公共空間に対する認識から私的行為の拡張性を高める公共空間マネジメント実践のあり方を展望することである。文献調査によりプレイスメイキングの理論体系と公共空間利用者の認識を分析し、本研究の成果として以下の2点を明らかにした。1点目に、サービス・ロジックの活用可能性を見出すことがプレイスメイキングの理論的課題であることを明らかにした。これは、現在のプレイスメイキングの理論体系はサービス・ドミナント・ロジックに通じているものの、プロバイダーと顧客との直接的相互作用を価値共創概念に持つサービス・ロジックとの関連性が見られなかったことによる。2点目に、利用者がそこで何ができるかを直接的に明示しない無主性の高い公共空間マネジメントが、私的行為の拡張に貢献しうることを明らかにした。合わせて、闘争としてのサービスという考え方を取り入れることと、他利用者との直接的な相互作用に配慮することが、無主性の高い公共空間マネジメントに有用となる可能性が導かれた。
  • コミュニケーション補助ツールの提案
    小倉 亜紗美, 田村 麻歩, 神田 佑亮, 八島 美菜子
    2023 年 9 巻 1 号 p. 83-100
    発行日: 2023年
    公開日: 2025/01/12
    ジャーナル フリー
    外国にルーツをもつ乳幼児を受け入れている保育園で生じている問題やそれに対してとるべき対策などを明らかにすることを目的として、外国人留学生が多い広島県東広島市と、外国人技能実習生が多い呉市を対象に、外国にルーツをもつ子どもを受入れる保育園とその保護者を対象としてアンケート調査を行った。その結果、両市では外国にルーツをもつ乳幼児の全体数や各園の在籍情報を把握しておらず、保育園は言葉が通じないことに起因する事故の恐れや文化や食事に関する理解不足、保護者との意思疎通の困難といった不安を抱えていた。そのため保育園は、子どもの親の国の文化を紹介する資料、子どもの受入れの時点で親の国籍や言語能力、食事の配慮の有無などの事前把握、市の外国人住民に対する支援体制についての情報提供、加配保育士の配置などを要望していることが明らかとなった。一方、外国にルーツをもつ子どもの保護者は、日本語能力が低いほど、保育士と意思疎通が出来ないことで困難を抱えており、英語の書類や掲示、通訳・コミュニケーション補助ツールの他、自国の文化を紹介する資料、ハラルフードの提供の要望があった。このような要望に早急に対処していくことが必要であるが、予算も限られているため、通訳の配置や翻訳機の配布はすぐには難しい。そこで、筆者らは「やさしい日本語」と英語、イラスト等で構成した指差しでコミュニケーション可能なツールを作成し配布したところ、保育園から高く評価された。
  • 静岡県焼津市と静岡市清水区における建築的工夫と事業検討フローに着目して
    村田 萌々香, 五十石 俊祐, 太田 尚孝
    2023 年 9 巻 1 号 p. 101-111
    発行日: 2023年
    公開日: 2025/01/12
    ジャーナル フリー
    東日本大震災において、庁舎が津波被害を受けたことで、災害対応に支障をきたした市町村が散見された。こうした事態を受けて、施設整備に際して、立地場所の安全度等を踏まえながら事業を検討するようにとの指針が示された。しかしながら、全国的に高台や津波浸水想定区域外への庁舎移転は進んでいない。また、移転事業を進めるのは、経済性や合意形成の面でハードルが高いと指摘されている。そこで、本研究では、津波浸水想定区域内において災害時にも都市の中心として機能し続けられる庁舎の実現手法を把握するべく、静岡県焼津市と静岡市清水区での庁舎再整備事業を調査した。その結果、調査対象の2都市では、津波浸水想定区域内における庁舎再整備により、庁舎周辺の中心市街地に集まる昼間人口が津波から一時的に避難できる場所を確保できていると分かった。加えて、庁舎の建築計画についてヒアリング調査をした結果から、平常時の利便性を損なわないようにしつつ、被災時に庁舎機能が麻痺しないようにする工夫が整理できた。事業検討フローに着目すると、庁舎の整備場所や構想を検討する段階で住民参加を推進することにより、合意形成の円滑化が図れていると把握できた。こうした工夫はどの自治体でも実現できるような汎用性の高い取り組みであることから、本研究の分析により、庁舎の津波対策として有効な手法の一端を把握できたと考えられる。
  • 中根 大斗, 松行 美帆子
    2023 年 9 巻 1 号 p. 113-121
    発行日: 2023年
    公開日: 2025/01/12
    ジャーナル フリー
    我が国は人口減少に伴う低未利用地の増加や気候変動に伴う水害リスクの増大といった課題に直面している。こうした課題に対応するため、近年グリーンインフラの取り組みが推進されている。グリーンインフラ導入の目的の一つに「低未利用地の適切な管理」というものがあるが、どのように低未利用地へのグリーンインフラの導入を推進するかについて未だ不明瞭な点が多い。そこで本研究では、将来の低未利用地、とりわけ空き家からグリーンインフラへ転換した時の効果を、雨水流出量に着目して、定量的に評価した。対象地域である横浜市侍従川流域において、2040年の空き家数を予測し、空き家の75 %をグリーンインフラに転換した場合、6.6 %の雨水流出を抑制することが推測された。そして雨水流出抑制効果のみを便益とし、空き家を除去し、グリーンインフラへの転換を試みるというシナリオについての費用便益比は18.1 %であり、グリーンインフラの他の便益を積み重ねることにより、費用を上回る便益が得られる可能性を残すものであると言えよう。
  • あるFaith-Based Organizationの取り組みの質的調査研究
    福嶋 美佐子
    2023 年 9 巻 1 号 p. 123-133
    発行日: 2023年
    公開日: 2025/01/12
    ジャーナル フリー
    世界的な新型コロナウィルス感染症(COVID-19)パンデミックにおいて、社会的に脆弱な立場の人ほど、既存のセーフティネットから疎外されたと言われている。この間、ドメスティック・バイオレンス(DV)等の被害者である移民・難民の女性は、どのようなスティグマを負ったのか。また、Faith-Based Organization(FBO)は、彼女らにどのような力になれたのか。キリスト教系団体をケーススタディとして状況を分析した結果、日本社会において性的搾取やDVに起因する社会的スティグマを受けてきた移民・難民の女性は、帰国困難、サポートネットワークの断絶、行政の枠組みからの疎外で、より複雑かつ克服が困難な状況に陥ったと思われる。ケースのFBOは、安定した財政を背景に、自らの女性としての痛みの経験に基づく共感と強い使命感により、パンデミック以前と同様のサポートを継続させることで、スティグマを負う女性の尊厳の回復に寄与していた。
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