実践政策学
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9 巻, 2 号
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  • 品目別の実店舗との支出金額の比率に着目して
    大畑 友紀, 小寺 啓太, 氏原 岳人
    2023 年 9 巻 2 号 p. 141-150
    発行日: 2023年
    公開日: 2025/01/12
    ジャーナル フリー
    情報技術の進展やCOVID-19の流行により、ネットショッピングが浸透しつつあり、様々な制約から解放される反面、実店舗が空間的に縮小されることにより都市の形成に影響を与えることが考えられる。本研究では、岡山県岡山市に居住するインターネット利用者を対象としたアンケート調査結果を用いて、実店舗とネットショッピングの支出金額の割合と品目、利用理由に関する分析を行った。分析結果をもとに、地方都市におけるネットショッピングの意義を考察し、次のことが明らかとなった。①中心部や最寄り駅までの所要時間が短い地域ほど、買回り品である家電や書籍のネットショッピングの支出金額割合が高い。さらに、スーパーの立地による支出金額割合への影響が小さいことから、ネットショッピングが居住地周辺の実店舗の充足度を補うものではない可能性がある。②ネットショッピングの利用理由の違いにより、買回品の支出金額割合に差異があり、品目の特性が要因となっている可能性がある。③インターネット利用者であっても、半数近くの人が実店舗での買い物を基本としていることが確認できた。また、全ての品目においてネットショッピングの支出金額割合が高い人は、時間的な自由、商品の金額、品揃え、機能等よりも、“実店舗に出向く”という行動を省略できることを理由に利用している傾向がある。
  • のるーと「壱岐南」を対象として
    外山 友里絵, 中村 文彦, 田中 伸治
    2023 年 9 巻 2 号 p. 151-161
    発行日: 2023年
    公開日: 2025/01/12
    ジャーナル フリー
    労働力不足や人口減少などの社会課題の中、地域交通としてのデマンド型交通の導入に大きな期待が寄せられている。近年は、AIを始めとする技術革新により、リアルタイムで配車できるシステムも導入されつつあるが、多くのデマンド型交通は、乗車の予約期限を30分前や1時間前、長い場合は前日に設けている。そこで、本研究ではデマンド型交通の予約期限が利用者のニーズにマッチしていないという仮説のもと、デマンド型交通における予約タイミングや手段の傾向を明らかにした。現在リアルタイムな配車希望を受け付けることができる、のるーと「壱岐南」のデータを分析した結果、買い物や通院等の日常の外出目的は、「今すぐ乗りたい」ことを希望して乗車予約が行われる場合が多く、ある程度外出や曜日・時間帯がパターン化される場合であっても、「今すぐ乗りたい」ニーズが多いことが明らかになった。
  • 加茂 薫, 大庭 哲治
    2023 年 9 巻 2 号 p. 163-176
    発行日: 2023年
    公開日: 2025/01/12
    ジャーナル フリー
    日本政府・厚生労働省が薬剤師をより患者や地域住民に深く関わらせるべく、対人業務を強化するため、負荷の掛かっている対物業務(調剤業務)を軽減する取組として、調剤の外部委託化を可能とする法改正を検討している。調剤の外部委託化が実現した場合、調剤に関わる業務時間は圧縮され、対人業務を増強することが可能となる。しかしながら、法改正がなされたとしても、薬剤師が捻出された時間を対人業務に費やさなければ、無用の産物となってしまう。そこで本研究は、薬剤師が捻出された時間を対人業務強化に取り組む意識を持ち合わせているか、全国規模のインターネット調査を実施し、調剤の外部委託化が薬剤師の業務にどのような影響を及ぼすのか、調剤の外部委託化の有効性を分析した。その結果、調剤の外部委託化の賛否については、「賛成」、「やや賛成」の回答が過半数を超え、賛成派ほど対人業務の関与意識が高い結果が得られ、薬剤師の対人業務の強化に大きく寄与する可能性が高いことを明らかにしている。さらに、対人業務の内容として「患者サービス」と「地域活動」の取組意向をそれぞれ目的変数とする 2 種類の重回帰分析を実施した結果、いずれも「調剤業務の外部委託化」に関する説明変数の係数は正であり、また、係数比より「患者サービス」の約 2 倍の影響力を「地域活動」に対して有している。これらの結果は、薬剤師が地域の社会活動に参画する機会創出を促すツールとして、調剤業務の外部委託化が有効であることを示唆している。
  • 上村 祥代, 竹本 拓治, 中西 孝平
    2023 年 9 巻 2 号 p. 177-187
    発行日: 2023年
    公開日: 2025/01/12
    ジャーナル フリー
    自然に導かれる、人々がより良い選択を自ら行うといった意思決定を行うために、ゲームやそれら特性を取り入れ、地域社会への適用がみられる。一方でこのようなより良い方向に促す手法として、イギリス政権において取り入れられたナッジ理論があるが、本研究が焦点をおくデジタルゲームにおいてもそのようなナッジ要素を持ち合わせていると考える。そこで本研究ではデジタルゲームにおける意思決定の前後の要素および影響の程度を把握し、「高レベル放射性廃棄物(以下HLW:High-level radioactive waste)処分に関する対話の場」に活用できるのかを考察することで、基礎的知見を獲得することを目的とした。まず、デジタルゲームを通じて、自然にそのように意識した、行動を行ったのは何故か(ナッジ、トリガー)、またどのような考えや行動を行ったのか(言行動)、それによる効果・問題解決は何か、具体的な要素を明らかにした。次に、トリガー、効果・問題解決に関する要素に対する影響の程度を把握し、実社会に適用しうる重要な要素かを確認した。そして、本結果にナッジ理論の構成要素のEASTと照らし合わせて考察を行った結果、「マインクラフト」は、低年齢から取り組めるゲーム(Easy)、テーマに沿って自由な表現(Attractive)、同じテーマを考える空間(Timely)において表現内容を他者に共有・波及(Social)することが可能であり、これまでも学校教育、エネルギー分野での実例が確認できる。さらに、人々の意識・行動の選択に影響を与える要素の一部にも該当する。これより、知る・考えることを働きかけ、良い選択に導く影響力も期待できることからHLW処分に関する対話の実践場においても貢献できると考える。
  • 表面的な受益者負担論を脱却した整備財源の方向性
    波床 正敏
    2023 年 9 巻 2 号 p. 189-198
    発行日: 2023年
    公開日: 2025/01/12
    ジャーナル フリー
    近年、整備新幹線の完成も見えつつある中、在来幹線鉄道のかなりの部分をカバーする基本計画の建設に期待する声も聞こえる。だが、新規着工には財源の課題が大きい。新幹線建設を含む幹線鉄道整備には種々の課題があり、様々な要因が複雑に絡み合っている。そこで、本稿では幹線鉄道整備における種々の課題を提示するとともに、それらの相互関係を開発利益還元の観点で分析し、主要課題に対する解決の方向性の案を示した。その結果、(a)根元受益や交通税の徴収は形を変えた利用者負担なのであまり適切ではないこと、(b)国鉄時代から現在までの新幹線沿線地域は建設負担が十分でなく沿線の税収の一部を財源化すること、(c)時期による負担の不公平を平準化するシステムが必要なこと、(d)総合交通体系の視点から貨物輸送・航空・地域交通などに関与することでの幹線鉄道整備資金調達の可能性、(e)在来線改良の手段として新幹線の暫定整備計画の適用を容易にする、(f)沿線負担を建設延長ではなく設置駅数に比例するような算定方法に変更すること、(g)区画整理事業の理論的枠組を参考に、政府の通貨発行(減歩相当)により幹線鉄道を整備(公共事業用地の供出相当)し、国土の価値向上(開発利益の発生)が一体的に生じるとみなす制度設計の可能性、などの案を示した。なお、本研究は幹線鉄道整備の課題の構造の分析を主体としており、各案の実現性の検証については今後の課題である。
  • 東京都における都市再生緊急整備地域の事例
    松行 美帆子, 山口 大輔
    2023 年 9 巻 2 号 p. 199-216
    発行日: 2023年
    公開日: 2025/01/12
    ジャーナル フリー
    本研究は、規制緩和を伴う大規模都市開発が人口や住宅の構成にどのような影響を及ぼすのか、及びジェントリフィケーションの現象が生じているかを、東京都の新宿、秋葉原・神田、大崎、渋谷の4つの都市再生緊急整備地域を対象として、検証するものである。結果として、渋谷を除く3地域で人口が急増し、特に若い世代の増加が確認された。また、住宅の構成に関しては、一戸建てが減少し、共同住宅が増加した。所有形態に関しては、持ち家と借家の比率の変化は地域によって異なることが示された。ジェントリフィケーションという現象の特徴である、住宅の高級化や経済的に豊かな若い世代の増加が確認された。新宿や大崎では、規制緩和による大規模マンションの供給がジェントリフィケーションの直接的な原因となったと考えられる。一方、秋葉原・神田地域においては、規制緩和を受けた都市開発が直接の原因とは言い難いものの、大規模再開発の期待が小・中規模マンション開発を引き寄せた可能性が考えられる。これらの結果から、規制緩和を伴う都市開発がジェントリフィケーションを引き起こす可能性があるが、それが直接的な原因であるか否かは地域によって異なることが示唆された。また、ジェントリフィケーションの内容や影響も、地域の特性や開発の特性に依存して異なることが確認された。
  • 岩田 剛弥, 谷口 綾子, 渡辺 健太郎
    2023 年 9 巻 2 号 p. 217-225
    発行日: 2023年
    公開日: 2025/01/12
    ジャーナル フリー
    自動運転(以下、AVs)の導入には、社会的受容が課題のひとつである。本研究では社会的受容をテーマに、AVsが実装された後にどのような影響があるのか、「シビックプライド(以下、CP)」に着目し、茨城県境町を対象にアンケート調査・分析を行った。その結果、AVsに乗車経験がある人の方が、賛否意識をはじめとするAVs社会的受容性が高く、CPや主観的幸福感が高いことが明らかとなった。また、共分散構造分析を通じ、境町においてAVsの社会的受容性が向上することでCPが高まり、さらには市民の幸福感に寄与していることが示され、さらにAVsが境町のCPの源泉であることが統計的に示された。以上より、CPという観点でAVsを導入するメリットがあったことを確認できた。
  • 中国地方を例として
    辻辺 貴晃, 鈴木 春菜
    2023 年 9 巻 2 号 p. 227-234
    発行日: 2023年
    公開日: 2025/01/12
    ジャーナル フリー
    持続可能な都市形成のため公共交通ネットワーク構築の重要性が高まる一方、コロナ禍による乗客減少や運転手不足、地方鉄道の存続問題など、様々な問題が顕在化している。このような問題に対応するため、自治体を中心とした行政機関が果たす役割が大きくなっていると考えられるが、とりわけ地方都市ではそのような体制が十分でないと想定される。公共交通政策推進体制の課題を抽出することが必要であると考え、本研究では、中国地方の自治体を対象にアンケート調査と各自治体が策定している交通計画の調査を実施した。調査から得られたデータを分析し、職員数・技術系職員の有無、在籍年数などが体制の課題であると考えられる結果が得られた。また、その影響として技術系職員が少ない場合インフラ整備費や利用促進補助費が少なくなる傾向や、地域交通計画において施策についての記述の割合が小さくなる傾向を示す結果が得られた。統合的な公共交通政策に取り組むためにも、推進体制の強化が望まれる。
  • 群馬県前橋市におけるアンケート調査を事例として
    塚田 伸也, 坪山 翔多, 森田 哲夫
    2023 年 9 巻 2 号 p. 235-243
    発行日: 2023年
    公開日: 2025/01/12
    ジャーナル フリー
  • コロナ禍初期の現場事業者の証言を手がかりに
    畑 喬介, 川端 祐一郎, 藤井 聡
    2023 年 9 巻 2 号 p. 245-258
    発行日: 2023年
    公開日: 2025/01/12
    ジャーナル フリー
    2010年代に入ってから新型コロナウイルス感染症のパンデミック(コロナ禍)を迎えるまで、我が国ではインバウンド観光の需要が急増し続け、「オーバーツーリズム」「観光公害」現象も話題に上っていた。また、コロナ禍は観光客数を激減させたが、それに先立ってオーバーツーリズムが発生していたことが、パンデミックにおける経済被害を助長したと指摘する議論もある。これらのことから、平常時と危機的事態の双方にわたって、観光への過度な依存が地域経済を脆弱化する効果について学術的検討が必要であると考えられる。本研究では、大阪・京都の商店街及び交通関係者に対してコロナ禍中に行ったインタビュー調査に基づき、観光ブームやコロナ禍の影響は業種により多様であること、インバウンド需要に起因する不動産バブルが地域経済に大きな混乱をもたらしたこと、コロナ禍をきっかけとして一時的な観光ブームに依存したビジネスのあり方を見直す動きが生じていること等を確認するとともに、土地や不動産利用に関し慎重な計画や規制が求められることを指摘する。
  • 遠山 航輝, 加藤 真人, 川端 祐一郎, 藤井 聡
    2023 年 9 巻 2 号 p. 259-275
    発行日: 2023年
    公開日: 2025/01/12
    ジャーナル フリー
    東日本大震災の経済被害を推計した研究はいずれも短期的もしくは限定的な範囲での被害に注目したものであり、被害規模が総じて過小評価されている可能性がある。本研究では、岩手県・宮城県・福島県の3県における「復興事業費を控除したGRP」の推移と他地域のGRP等から構成した合成対照群の成長率の乖離に着目し、復興事業費の地域配分に係る情報が入手できた2018年までの累積的な経済被害を推計した。また、東日本大震災後2018年までのデータから推定される回復傾向をたどった場合の復興完了年及び累積被害を仮に推計した。その結果、被災3県の2018年までの累積被害は約49.6兆円、復興完了までの期間は25年、その間の累積被害額は約63.8兆円と推計された。また、福島県における被害は特に甚大であり、継続的支援が重要であることが示唆された。
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