2021年5月,米議会下院歳入委員会小委員会は,「米国の優先課題のための財源確保:富裕層に対する税制上の優遇措置の改革」と題する公聴会を開催した。また,2023年11月,上院予算委員会は,税務執行の在り方もテーマとして「公平と責任ある財政:富裕層の税逃れを取り締まる」と題する公聴会を開催した。
本研究は,両公聴会のために米議会両院税制合同委員会が用意した包括的な報告書における分析や,近年の高額所得者に注目した税制改革提案の経験などを参考に,ポスト・コロナの金融所得課税・富裕層課税の展望について探ろうとするものである。米国の経験や知見に注目した理由は,米国(連邦税)は税収の非常に大きな部分を所得税から得ており,その在り方をめぐって深度ある議論が行われてきていること,ポスト・パンデミックにおける税制の累進度と財源はどうあるべきかというタイムリーな問題意識を議論していることによる。
本稿は,日米の金融資産・所得の富裕層への集中や,分配の現状を分析している。次に,歳入確保と税負担の歪み是正のための制度的な対応の選択肢について,わが国が令和5年度改正で創設した富裕層ミニマム税のほか,米国の経験や議論で取り上げられている追加税型(surcharge),そして,より野心的な取組である含み益課税型(mark-to-market)の提案などを取り上げ,検討・評価している。
また,制度的に課税上優遇されている金融資産は富裕層に大きく集中していることから,富裕層の課税の在り方を変えることにより,金融所得税制一般に変更を加えなくても負担の適正化に有効に対応することができると主張している。
ポスト・パンデミックの経済において,優先的な課題に取り組むための財源を効率的かつ公平に調達し,包摂的な経済成長を促進する税制をいかに構想するかは,各国共通の課題となっている。富裕層課税に焦点をあて,支払能力に応じた税制とは何か,税制全体として捉えた累進度をどの程度回復すべきか,そのための制度的な選択肢は何か,そして,それらオプションの負担の適正化と財源への貢献の規模感はどうか。これらが本稿の探求するテーマである。
(注)本稿における「富裕層」とは,上位0.1%の納税者(合計所得金額5,000万円超)をイメージしている。
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