フィナンシャル・レビュー
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157 巻
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
  • ―デジタル・セーフティネットの提言―
    森信 茂樹
    2024 年157 巻 p. 4-31
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/30
    ジャーナル フリー

     パンデミックを経験して,国家が無条件に最低限の生活を保障する給付を行うベーシックインカムの議論が世界的に広がり運動体も形成されている。リベラル思想に加え,リバタリアンや新自由主義者,さらにはシリコンバレーの起業家からも支持を集め,先進諸国や自治体の一部で社会実験も行われた。しかし現実の政策となるには,勤労に与える影響の評価と政策を実現するための財源問題の2つが障害となっている。

     一方,問題意識を共有しつつ,勤労を条件として減税・給付により勤労インセンティブを高める給付付き税額控除(refundable tax credit)が欧米で導入され一定の成果を上げている。ワークフェア思想のもとで,就労支援策などの積極的労働政策を支える制度だ。英国のユニバーサル・クレジットは,所得情報をリアルタイムで社会保障給付と連携させ,効果を上げている。わが国でもデジタル技術の活用により所得情報と給付をつなげる「デジタル・セーフティネット」の構築に向けて検討すべきだ。

  • ―ロボット課税からAI利用へ―
    渡辺 徹也
    2024 年157 巻 p. 32-48
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/30
    ジャーナル フリー

     本稿では,コロナ禍を経て社会が一層デジタル化していく中で,ロボットや生成AIの進化が税務に与える影響を多角的に分析する。具体的には,ロボットおよび生成AIそのものへの課税の是非に加え,課税庁側と納税者側(税理士のような実務家を含む)にとってAIとはどのような存在となりうるのか,換言すれば,生成AIの登場によって,双方がどのような影響を受け,今後どのように付き合っていくべきなのかという観点から考察を行う。

     ロボットの進化に伴う労働市場の変化への対応として,ロボットに対する課税が提案されている。その主な目的は代理としての課税や規制のための課税である。しかし,「ロボット」あるいは「自動化」といった文言の定義が難しいという問題がある。仮に定義の明確化に成功したとしても,国際協調がなければ,課税の回避が可能となる一方で,ロボット課税を導入した国の技術促進は阻害される。なお,AIそのものへの課税の可能性については,AIが経済的自律性を持つような一定の場合に,課税上の人格を与えるような提案もある。

     納税者および実務家にとって,生成AIは有益なツールになりうる。しかし,現状では租税法の複雑さや頻繁な法改正に十分に対応できない。法的責任の観点からも,個別具体的な相談において,AIが税理士の代わりになることは,今は難しい。AIの活用は課税庁にとっても有益で,効率的な税務行政の実現が期待される。ただし,プライバシー保護やデータの収集・管理に関する課題も指摘されている。今後は,課税を取り巻く環境においてAIをどのように活用するかが,より一層問われることになるであろう。

  • 佐藤 主光
    2024 年157 巻 p. 49-69
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/30
    ジャーナル フリー

     本稿は働き方の多様化といった新しい経済・社会環境を踏まえ,抜本的な所得税改革として年間所得課税から生涯所得課税への転換を提言する。経済学は個人の(担税力を裏付ける)厚生水準は生涯所得に拠るとする。こうした経済理論とも整合的である。デジタル技術の発展とともに生涯ベースの所得課税の実効性も高まっている。本稿が提言する生涯所得課税の利点は次のようにまとめられる。(1)生涯ベースの担税力に応じた再分配に資するに加えて,(2)所得の発生パターンが違っていても生涯所得が等しい納税者の間で「水平的公平」が確保される。また,納税者にとっては(3)今期の高収入が災害時等の収入減(あるいは赤字)と平準化され,過去に払った所得税の一部が「還付」されるという意味で保険の役割を果たすことになる。加えて,(4)キャピタルゲインなど今期「発生」した所得の「実現」を先送りして課税を軽減させる誘因も生じない。

  • 土居 丈朗
    2024 年157 巻 p. 70-97
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/30
    ジャーナル フリー

     本稿では,炭素税に仕入税額控除と輸出免税と輸入時課税を組み込んだ,仕向地主義炭素税の概念を説明するとともに,経済理論モデルによって,従来の仕入税額控除と輸出免税と輸入時課税がない炭素税よりも,仕向地主義炭素税の方が,経済厚生の面でも望ましいことを裏付ける分析結果を示した。特に,仕入税額控除と輸出免税と輸入時課税がない炭素税では,付加価値税との間で課税の累積を引き起こしたり,他国に輸出する際に国際競争上不利になったりする現象が生じる。本稿では,その論理を記述的に説明するだけではなく,経済理論モデルを基にしても確認した。

     本稿で分析した開放経済における複占企業モデルでは,複占企業間の戦略的行動によって各国の税率に反応して財の需給や価格が変化しうるため,仕向地主義炭素税が経済厚生の面で常に望ましいというわけではない。本稿で確認したところ,経済厚生の面で仕向地主義炭素税の有利性が低減するのは,各国の経済構造がかなり異なり,炭素税を課していない国の経済規模が顕著に小さい場合である。むしろ,今後の日米欧や経済規模の大きい新興国の間で,炭素税(をはじめとするカーボンプライシング)や炭素国境調整措置のあり方を検討することを踏まえれば,経済規模の大きさが比較的近い国同士の間では,仕向地主義炭素税の方が望ましいという本稿の結論が,重要な意味を持つ。

  • ―仕向地主義キャッシュフロー税と残余利潤の配分を中心とした新たな法人税制の可能性―
    馬場 康郎, 小林 庸平
    2024 年157 巻 p. 98-132
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/30
    ジャーナル フリー

     経済のグローバル化・デジタル化に伴って生じる租税回避や租税競争等の課題に対し,これまで種々の取り組みがなされてきたところであるが,経済のデジタル化に伴う課税上の課題に対する解決策の「第一の柱(Pillar Ⅰ)」「第二の柱(Pillar Ⅱ)」の合意がなされ,各国で導入に向けた準備が進められている。

     他方,法人課税の抱える課題を抜本的に改革するための提案として,第一の柱・第二の柱に係る合意以前から,仕向地主義キャッシュフロー税(DBCFT),所得による残余利潤の配分(RPAI)等が提案されてきた。DBCFTは,効率性・租税回避の抑制・租税競争の抑制・事務負担の軽減それぞれの観点から利点があるものの,現行の法人課税からの乖離は大きく,WTO協定等との適合の面からも課題は大きい。RPAIは,現行税制の課題全てを解決するものではないが,効率性・租税回避の抑制・租税競争の抑制それぞれの観点から利点はあり,かつ現行の法人課税からの乖離はDBCFTほど大きくない。

     今後の国際課税の方向性としては,すぐに抜本的な法人税改革がなされるのではなく,まずはデジタル課税の導入・定着を待った上で実務的な課題や現行の法人課税の抱える課題の解決状況について整理がされることとなる。その上で,抜本的な法人税改革の必要があると考えられる場合には,第一の柱の仕組みを拡張する形でRPAの導入範囲拡大,将来的にはRPAIの導入への拡張が考えられる。その後,更なる改革が求められる場合には国際的な合意のもとでDBCFTの導入の議論がなされることが想定される。

  • 岡 直樹
    2024 年157 巻 p. 133-168
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/30
    ジャーナル フリー

     2021年5月,米議会下院歳入委員会小委員会は,「米国の優先課題のための財源確保:富裕層に対する税制上の優遇措置の改革」と題する公聴会を開催した。また,2023年11月,上院予算委員会は,税務執行の在り方もテーマとして「公平と責任ある財政:富裕層の税逃れを取り締まる」と題する公聴会を開催した。

     本研究は,両公聴会のために米議会両院税制合同委員会が用意した包括的な報告書における分析や,近年の高額所得者に注目した税制改革提案の経験などを参考に,ポスト・コロナの金融所得課税・富裕層課税の展望について探ろうとするものである。米国の経験や知見に注目した理由は,米国(連邦税)は税収の非常に大きな部分を所得税から得ており,その在り方をめぐって深度ある議論が行われてきていること,ポスト・パンデミックにおける税制の累進度と財源はどうあるべきかというタイムリーな問題意識を議論していることによる。

     本稿は,日米の金融資産・所得の富裕層への集中や,分配の現状を分析している。次に,歳入確保と税負担の歪み是正のための制度的な対応の選択肢について,わが国が令和5年度改正で創設した富裕層ミニマム税のほか,米国の経験や議論で取り上げられている追加税型(surcharge),そして,より野心的な取組である含み益課税型(mark-to-market)の提案などを取り上げ,検討・評価している。

     また,制度的に課税上優遇されている金融資産は富裕層に大きく集中していることから,富裕層の課税の在り方を変えることにより,金融所得税制一般に変更を加えなくても負担の適正化に有効に対応することができると主張している。

     ポスト・パンデミックの経済において,優先的な課題に取り組むための財源を効率的かつ公平に調達し,包摂的な経済成長を促進する税制をいかに構想するかは,各国共通の課題となっている。富裕層課税に焦点をあて,支払能力に応じた税制とは何か,税制全体として捉えた累進度をどの程度回復すべきか,そのための制度的な選択肢は何か,そして,それらオプションの負担の適正化と財源への貢献の規模感はどうか。これらが本稿の探求するテーマである。

    (注)本稿における「富裕層」とは,上位0.1%の納税者(合計所得金額5,000万円超)をイメージしている。

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