景気とは,これまでは経済全体の「共通的な変動要因」として考えられてきたが,近年では経済活動の「総体量」の変動として捉える考え方が強まりつつある。この新しい景気の考え方においては,家計消費の動向を把握する指標の役割は高まる。特に,家計消費全体を網羅的に把握でき,世帯属性別など柔軟に要因分解が可能な需要側で消費を把握する統計が望ましい。
需要側の消費指標としては,これまで「家計調査」のみが利用可能であった。しかし,景気指標として要求される精度が達成されていないなどの理由で,景気指標としては十分に活用されてこなかった。その課題に対応し,総務省は2018年から「家計調査」に「家計消費単身モニター調査」および「家計消費状況調査」を合成することで計算される「世帯消費動向指数(CTIミクロ)」の公表を開始している。
CTIミクロは世帯の平均消費の動向を把握する重要な統計であるが,単身世帯の割合が上昇し世帯数が増加する中では人口動態の影響が強く,マクロ消費の動向は適切に把握できない。そこで,本稿では,このCTIミクロに労働力調査で得られる世帯数の情報を加味した「世帯数調整済CTIミクロ」を作成し,景気指標として活用することを検討した。
世帯数調整済CTIミクロは,GDP統計における家計最終消費支出を比較的長期にわたりトレースできる。柔軟な要因分解が可能であり,単系列で消費総額だけを推計しているCTIマクロより望ましい側面を持つ。月次の不規則変動は相対的に大きいが,経済状態の変化を敏感に感知できる有効な景気指標である。
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