フィナンシャル・レビュー
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選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
  • 菅 幹雄
    2025 年 159 巻 p. 5-21
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/03/22
    ジャーナル フリー

    我が国における事業所・企業統計の体系化が進んでいる。平成24 年(2012 年)より前の我が国の事業所・企業統計は各府省が所管する産業を個別に調査していたため,互いに対象範囲の重複や漏れがあり,かつ調査周期もばらばらであった。とりわけサービス産業においてその傾向が顕著であった。経済のサービス化が進む中で,経済の全体像をより正確に把握すべきであるという意見が強くなり,平成12 年(2000 年)頃から事業所・企業統計の体系化の作業が始まった。さらには産業連関表から供給・使用表への移行が決定し,それを実現するための新たなデータの収集の要請も加わった。多くの困難を乗り越えて,平成24 年(2012 年)に「経済センサス- 活動調査」,令和元年(2019 年)に「経済構造実態調査」が開始された。令和7年(2025 年)には「サービス産業動態統計調査」が開始される予定であり,5年毎,年次,月次の事業所・企業統計が整理・統合されることになる。このような大規模な改革が容易に実現しないことは,広く認識されていると推測されるが,その実現の過程がどのようなものであったのかは,おそらく十分には知られていないであろう。そこで本稿では,我が国における事業所・企業統計の体系化のプロセスを明らかにする。

  • 榑松 良祐, 山下 哲一
    2025 年 159 巻 p. 22-32
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/03/22
    ジャーナル フリー

    経済統計は,現実の経済状況を把握し,分析する上で必要不可欠なものである。様々なニーズに応じた経済統計を作成するために,各府省や都道府県等で統計調査を実施している。その統計調査を実施する上で無くてはならないものが母集団名簿である。事業所母集団データベース(ビジネスレジスター)とは,我が国における事業所の事業所名や連絡先,従業者数,売上高など,事業所に関する基本的な情報を保持し,統計調査実施者に母集団名簿を提供するためのものである。これにより統計調査が実施でき,抽出調査であれば母集団復元を行い,統計を作成することができる。いわば,事業所母集団データベースは,経済統計を支える屋台骨である。

    本稿は,経済統計の根幹を支える事業所母集団データベースの概要及び総務省統計局における近年の事業所母集団データベースの整備に係る取組(2019年(令和元年)における行政記録情報を活用した事業所母集団データベースのカバレッジ拡大の取組や2023年(令和5年)以降における事業所母集団データベースの更新頻度向上の取組等)を紹介するものである。

  • ―毎月勤労統計調査の再生への取り組みと今後の課題―
    肥後 雅博
    2025 年 159 巻 p. 33-61
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/03/22
    ジャーナル フリー

    「毎月勤労統計調査」の精度への批判の高まりや統計不正問題の発生を受けて,厚生労働省は「毎月勤労統計調査」の精度改善に取り組んでいる。一連の取り組みの成果を検証すると,ローテーション・サンプリングの導入によって,標本入れ替えに伴う賃金の段差は縮小している。しかし,なお一定の段差は残り,賃金の前年同月比に振れをもたらしている。調査対象事業所の積み増しにもかかわらず,統計自体の精度が改善していないためである。500人以上の大規模事業所での全数調査への復帰は標本誤差や前年同月比の振れを縮小させたが,30~499人の中小規模事業所の積み増しの効果は明確ではない。この間,パートタイム労働者比率の上昇方向へのバイアスが近年目立って拡大し,公表ヘッドライン系列として注目度が高い就業形態計の現金給与総額の前年同月比が押し下げられている。新たな誤差が賃金の的確な動向把握の障害となっている。この点,新たに提供が開始された「共通事業所による前年同月比」系列は,既存の公表系列と比べ振れが小さく,パートタイム労働者比率のバイアスの影響を回避できる点で,賃金の動向把握に有益である。

  • 宇南山 卓
    2025 年 159 巻 p. 62-87
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/03/22
    ジャーナル フリー

    景気とは,これまでは経済全体の「共通的な変動要因」として考えられてきたが,近年では経済活動の「総体量」の変動として捉える考え方が強まりつつある。この新しい景気の考え方においては,家計消費の動向を把握する指標の役割は高まる。特に,家計消費全体を網羅的に把握でき,世帯属性別など柔軟に要因分解が可能な需要側で消費を把握する統計が望ましい。

    需要側の消費指標としては,これまで「家計調査」のみが利用可能であった。しかし,景気指標として要求される精度が達成されていないなどの理由で,景気指標としては十分に活用されてこなかった。その課題に対応し,総務省は2018年から「家計調査」に「家計消費単身モニター調査」および「家計消費状況調査」を合成することで計算される「世帯消費動向指数(CTIミクロ)」の公表を開始している。

    CTIミクロは世帯の平均消費の動向を把握する重要な統計であるが,単身世帯の割合が上昇し世帯数が増加する中では人口動態の影響が強く,マクロ消費の動向は適切に把握できない。そこで,本稿では,このCTIミクロに労働力調査で得られる世帯数の情報を加味した「世帯数調整済CTIミクロ」を作成し,景気指標として活用することを検討した。

    世帯数調整済CTIミクロは,GDP統計における家計最終消費支出を比較的長期にわたりトレースできる。柔軟な要因分解が可能であり,単系列で消費総額だけを推計しているCTIマクロより望ましい側面を持つ。月次の不規則変動は相対的に大きいが,経済状態の変化を敏感に感知できる有効な景気指標である。

  • 佐野 晋平
    2025 年 159 巻 p. 88-104
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/03/22
    ジャーナル フリー

    代表的な格差指標はジニ係数と相対的貧困率であり,これらは『国民生活基礎調査』,『所得再分配調査』,『全国家計構造調査(旧・全国消費実態調査)』から計測され集計値が公表されるが,いずれの統計に依拠するかで数値は異なることが知られている。本稿は,所得のジニ係数と相対的貧困率に注目し,統計間の比較を行う。2010年代において,市場で生み出された所得で計測された所得格差は拡大したが,再分配により所得格差の拡大は抑えられる傾向は統計間で共通している。『国民生活基礎調査』や『所得再分配調査』による数値は『全国家計構造調査』による数値と比べ高めに計測される点は時点を通して変わらない。『国民生活基礎調査』や『所得再分配調査』と『全国家計構造調査』は,若年層や高齢層,単身世帯で乖離が生じている。この結果を踏まえると,依然として格差指標は複数の統計を組み合わせて観察する必要がある。

  • 橋本 由紀
    2025 年 159 巻 p. 105-130
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/03/22
    ジャーナル フリー

    日本で働く外国人の急増とともに,外国人労働者の仕事や生活についてより詳細に把握できるような公的統計の充実が強く要請されるようになっている。このような流れの中で,2019年に「賃金構造基本統計調査」に在留資格に関する項目が追加され,2023年には「外国人雇用実態調査」が新設された。本稿では,近年整備されたこれらの公的統計を通じて新たに把握できることをまとめる。さらに,外国人の入国在留や就労に関する既存統計である「出入国管理統計」,「在留外国人統計」,「国勢調査」,「外国人雇用状況の届出」についても,特徴と利用時の留意点を紹介する。新旧の公的統計を網羅することで,既存の統計と新統計との包含関係や,新たな統計の有用さを見通すことができる。ただし,いずれの調査統計も外国人の就労を正確に説明できるものではなく,調査の対象範囲や課題を理解した上で各統計を使い分けることが重要である。

  • 松本 広大, 勇上 和史
    2025 年 159 巻 p. 131-154
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/03/22
    ジャーナル フリー

    国連の障害者権利条約への批准(2014年),ならびに国連統計委員会第49回会合における障害統計に係る採択(2018年)を受けて,近年,日本の政府統計における障害者統計の充実が課題となっている。本稿では,障害者統計を巡る近年の国内外の動向を概観したうえで,従来の障害者統計と新たな調査項目による障害者の定義と実態を比較し,今後の障害者統計に係る課題や可能性を整理した。直近のデータでは,「制度上の障害者」の数は1,165万人に対して,(15歳以上の)国際比較上の障害者数は1,430万人とされる。しかし,両者では障害者の概念が異なるため,重複は35%に過ぎない。障害者の定義は,障害者政策の考え方や対象と密接に関わるため,国際的な共通基準の利用と国内政策の評価は区別する必要がある。ただし,従来の障害者統計には対象者や回答の差異が存在するため,国際比較上の基準を含めた様々な障害者概念を整理したうえで,分析に活用することが求められる。

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