フィナンシャル・レビュー
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  • 誤解された所得代替率,私的年金の拡充VS 出生率の引上げ
    王 新梅
    2026 年163 巻 p. 5-21
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/04/16
    ジャーナル フリー

    近年,中国において,以下の誤った認識が広く国民の間に流布している。すなわち,中国の所得比例型公的年金の所得代替率とされているものが,実際には平均給付率で評価されているということ,そして,高齢化の進展により所得代替率が2000年の約70%から2020年には約40%へと急落したとされていることである。これにより,中国の年金制度改革において,積立方式私的年金の大幅な拡充が必要不可欠であるという主張がなされている。本稿では,このような所得代替率の動向に関する誤った認識を正し,中国の年金制度が直面している真の課題が何であるかを示した上で,その対処法を提案する。本稿における分析の結論は,以下の通りである。第一に,「所得代替率」と「平均給付率」は互換的に使用できる概念ではない。第二に,真の粗所得代替率は約60%と安定しており,2014年10月からは上昇傾向にある。第三に,平均給付率の低下は高齢化とは関係なく,見過ごされてきた年金制度やカバレッジの構造変化,および平均賃金の過大評価から生じている。第四に,中国の合計特殊出生率は近年大幅に低下しており,他国とのより公平な比較のための「スライドした高齢者依存率」が急速に上昇していることを考えると,積立方式私的年金の拡大ではなく,出生率向上に多くの資源が向けられるべきである。

  • ―労働・社会保障・自助支援の相互作用―
    金 明中
    2026 年163 巻 p. 22-53
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/04/16
    ジャーナル フリー

    本稿は,日本と韓国における少子高齢化と高齢者政策の比較分析を行ったものである。両国は出生率低下と高齢化という共通課題に直面しているが,制度的対応の歴史や実効性に大きな差がある。韓国は年金制度が未成熟で給付水準も低く,高齢者貧困率がOECD加盟国の中でも高い水準にあるうえ,退職と年金受給開始年齢の乖離による「所得空白期間」も深刻である。他方,日本は段階的定年延長や継続雇用制度,生活困窮者自立支援制度などを通じてセーフティネットを整備してきた。少子化の要因に関しては,雇用環境の不安定化や教育費負担,結婚・出産コストの高さが共通の背景として存在するものの,日本は比較的高い就職率や専門学校教育の充実,女性活躍推進策により,韓国より高い出生率を維持している。韓国は大学進学偏重や大企業志向,私教育費の過大負担が出生回避の要因となっており,教育・雇用構造の改革が不可欠である。老後所得保障のあり方としては,両国とも公的年金などの公的所得保障,就労による稼働所得,私的年金や資産形成の三本柱が不可欠である。持続可能な社会構築に向け,両国は公的保障と自助努力を両立させつつ,相互の経験共有と協力の枠組みを強化することが求められる。

  • 臼井 恵美子, 平河 茉璃絵
    2026 年163 巻 p. 54-70
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/04/16
    ジャーナル フリー

    育児・介護休業法の2009年改正(2010年施行)により,大企業(従業員数101人以上)には2010年6月30日以降,中小企業(従業員数100人以下)には2012年7月1日以降,3歳未満の子を持つ労働者に対する所定労働時間の短縮,及び所定外労働の免除が義務付けられた。本研究は,総務省「労働力調査」を用いて,上記のような育児・介護休業法改正による労働時間短縮制度設置の義務化が幼い子どもを持つ女性の就業行動に与えた影響を分析した。分析の結果,①短大卒以上の女性では,大企業勤務で大企業が適用対象となった段階,中小企業勤務で全企業に適用が拡大された段階に,就業継続と常雇継続のいずれもが上昇したこと,②高校卒以下の女性では,中小企業勤務・大企業勤務のいずれにおいても,全企業が適用対象となった段階で初めて常雇継続が上昇したことが明らかになった。これらの結果は,2009年改正が女性の安定雇用に寄与した一方で,高校卒以下の女性については,全企業への適用後になって初めて制度効果が顕在化したことを示している。

  • ―遺産動機と予備的貯蓄の日米比較―
    濱秋 純哉
    2026 年163 巻 p. 71-97
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/04/16
    ジャーナル フリー

    遺産動機や寿命の不確実性などを考慮しない標準的なライフサイクル仮説からは引退後の高齢者の資産取り崩しが予測される。しかし,多くの先行研究で実際の取り崩しは理論的な予測より遅いことが示されており,この現象は「退職貯蓄パズル」と呼ばれる。原因として主に遺産動機と予備的貯蓄に着目され,米国を対象とした分析では両者がともに取り崩しを遅らせる効果を持つこと,さらに両者の相互作用がその効果を強めることが明らかにされている。とくに,公的介護保険のない米国では,高齢者が介護施設への入所費用などの介護費を自己負担するリスクに晒されており,これが予備的貯蓄の動機を強めている可能性がある。しかし,制度の異なる他国に必ずしもこの結果を当てはめることはできない。本稿の日米の制度比較とサーベイからは,日本では公的医療・介護保険が充実しているため予備的貯蓄の役割は相対的に小さく,交換動機を含む遺産動機が資産取り崩しを抑制する主要因となっていることが示唆される。

  • 年金制度・雇用慣行・人的資本の相互関係
    祝迫 得夫
    2026 年163 巻 p. 98-110
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/04/16
    ジャーナル フリー

    本稿では,近年日本で進められている,自助努力による老後に向けた金融資産形成の促進政策を,年金制度・雇用慣行・人的資本形成という制度横断的な観点から検討する。まず,1990 年代以降の公的年金改革と現行制度の構造的特徴を整理し,職業・性別・雇用形態・世代にまたがる多層的な不平等が制度内部に残っていることを示す。次に,金融資産・人的資産・年金資産がライフサイクルを通じて,相互に作用することを理論的に明らかにし,日本的雇用慣行が企業特殊的人的資本の蓄積を通じて個人の資産形成行動に強い制約を課してきたことを指摘する。さらに,年金ポータビリティの向上や非正規化の進展が,雇用制度と資産形成の関係を大きく変化させつつあることを検討する。これらの分析から,資産形成の自助努力促進政策は単独では十分に機能せず,社会的セーフティネットの再強化や,労働市場のさらなる流動化・労働移動の円滑化を促す制度改革など,より多方面の政策・制度改革と合わせた統合的なアプローチの必要があることを論じる。

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