霊長類研究 Supplement
第20回日本霊長類学会大会
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公開シンポジウム
  • 高井 正成, 諏訪 元, 馬場 悠男, 茂原 信生
    p. i
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/06/30
    会議録・要旨集 フリー
    我々人類にとってヒトの起源は永遠のテーマのひとつです。四足で歩いていたサルたちが二足で立ち上がり、大きな脳と言葉を獲得していったプロセスに関しては、様々な仮説が提唱されてきました。近年、アフリカ大陸の中新世末?鮮新世にかけての猿人や原人の化石が次々と見つかり、こういった初期人類の起源と進化に関する知見が急速に拡大してきています。本シンポジウムでは、こういった霊長類から人類が進化してきた過程に関して、化石霊長類、初期人類化石、初期現代人化石といった3分野の専門家が、最新の知見に基づいてわかりやすく紹介します。霊長類の進化や初期人類の起源に関して興味のある方は、是非ご来場下さい。また講演の最後に来場者からの質問の時間を設けてありますので、専門家あるいは学会員以外の方も遠慮なくご質問下さい。

    高井正成 「霊長類の起源と進化:サルの来た道をたどる」
    諏訪元 「初期人類の誕生:四足から二足へ」
    馬場悠男 「現生人類の拡散と進化:あなたは北京原人の子孫なのか?」
    司会:茂原信生
学会企画シンポジウム
  • 山極 寿一, 丸橋 珠樹, Thomas STRUHSAKER, 松沢 哲郎
    p. ii
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/06/30
    会議録・要旨集 フリー
    本シンポジウムは、日本の霊長類学を創出した今西錦司と伊谷純一郎を記念して、霊長類学の分野においてパイオニア・ワークを成し遂げた研究者に講演していただき、霊長類学の軌跡を振り返るとともに、新たな風を吹き込む考え方や方法論について検討することを目的としている。2002年の今西生誕百年の節目におこなわれた第1回講演は、フランス・ドゥバールだった。第2回にあたる本シンポジウムの基調講演は、トーマス・シュトゥルーゼーカーである。日本の霊長類学は個体識別をもとに長期連続観察という手法によって、世界に先駆けて数々の新しい発見を成し遂げた。この方法は世界各地のフィールドで実践された。しかし、その手法への反省もある。今回は、餌づけによらない「人づけ」という手法で自然環境下の霊長類を直接観察し続けたパイオニアとして、シュトゥルーゼーカーを招いた。彼は、ウガンダのキバレの森で、生態学的視野にたった霊長類研究を一貫しておこない、“The Red Colobus Monkey” (1975), “Ecology of an African Rain Forest” (1999) などの著作にまとめた。日本の霊長類学が初期に用いた手法は、野生ニホンザルの群を餌づけによって馴らし、その行動や社会交渉をつぶさに観察するというものだった。しかし、人工的な餌場にサルを集中させたことは、栄養条件や社会環境に大きな影響を与える結果となった。サルの社会生活の大半が「食べる」という行動から成っていることを考えると、餌づけはサルの自然生活を著しくゆがめているといわざるをえない。餌づけによらず、自然環境下で気象や植物のフェノロジーをモニターしながら霊長類の行動を記録していくことは、霊長類の生態と社会を関連づけて考えるためには不可欠である。生態学的視点にたった野生霊長類研究を展開し、霊長類自らが選び取った自然環境で展開される生活史を描き出した点で、シュトゥルーゼーカーのしごとはパイオアニアとしての価値をもつと言えるだろう。同様な「人づけ」による野生ニホンザル自然群の研究が、日本では屋久島でおこなわれ、そこから多くの研究者が育ってきた。それがアフリカなどに再展開して、生態学的視点をもった霊長類研究が進められている。さらに言えば、「野生霊長類とその生息地全体の保護」という視点は、今後の霊長類学の発展を考えるうえで欠くことができないものと言えるだろう。野生霊長類の研究にとって、対象となる霊長類とその生息地をどう保全していくかという問題は、避けて通れない重要な課題である。シュトゥルーゼーカーと同じ方向性をもった研究として、2人の日本人研究者の話題提供を用意した。日本とアフリカをフィールドに、「霊長類と保全生態学」という課題に正面から取り組み、行政や地域の住民と協力しながら、新しい保全の理念を模索し続けている。そうした話題提供をもとに、霊長類学と霊長類研究者の今後のあり方について討論してみたい。なお、本シンポジウムは、京都大学霊長類研究所とマックスプランク進化人類学研究所が共同しておこなう日本学術振興会・先端研究拠点事業(HOPE)の一環としておこなわれるものである。

    山極寿一 ゴリラの長期研究:研究と保護の両立をめざして
    丸橋珠樹 ヤクシマザルの長期研究:解明できたこととこれからの課題
    トーマス・シュトゥルーゼーカー “Becoming a Conservation Biologist”
    司会:松沢哲郎
自由集会
  • 足立 薫, 市野 進一郎, 岡本 暁子, 中川 尚史, 半谷 吾郎, 山越 言
    p. iii
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/06/30
    会議録・要旨集 フリー
    日本の霊長類学にとって、「社会構造の進化」は、その黎明期より常に最大の関心事のひとつであった。ニホンザルからはじまり、世界各地の霊長類についての初期的研究成果が蓄積されるなか、伊谷純一郎(1987)は集団構成や血縁関係、近親交配の回避といった点に注目しながら、「系統」を重視した社会構造の進化仮説を提出した。いっぽう1980年前後から行動生態学の登場とともに、国内外で、適応度・血縁淘汰・性淘汰といった概念に基づき、個体間の様々な資源をめぐる競合に注目した社会構造の進化についての議論が主流を占めるようになってきた。しかしながら、少なくとも日本の霊長類学の内部においては、「系統」と「資源競合」のそれぞれを重視する異なる立場の両者の議論は噛み合うことなく、すれ違ってきた感がある。ところで、近年の「資源競合」派の議論は、初期の単純な資源競合に基づく議論から細分化し、補食圧、子殺しの有無、進化史上の一過性の出来事、近年の生息地破壊や「系統的慣性」などの条件を複雑に統合して説明する傾向にある。本自由集会は、日本霊長類学会において最近めっきり話題となることの少ない「社会構造の進化」について、近年の諸理論の趨勢、各霊長類種・フィールドにおける新旧理論の検証、伊谷による「系統」的進化説の再評価・批判などを行うことにより、この研究領域への関心を再喚起することを目指している。
  • 上野 吉一, 友永 雅己
    p. iv
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/06/30
    会議録・要旨集 フリー
    霊長類を研究の対象とするものにとって、野生下での保護と飼育下での福祉の問題は常に意識に留めておかなければならない問題である。日本霊長類学会には保護委員会が設けられており、たとえば和歌山のタイワンザル問題や旧環境庁の鳥獣保護管理計画などに対する意見書を関係省庁などに提出するといった継続的な活動をおこなっている。一方、福祉に関しては1985年に本学会として、当時の日本においてはきわめて画期的といえる「サル類を用いる実験遂行のための基本原則」を策定し、霊長類の実験利用に対する研究者の意識の向上を求めた。しかし、その後18年経過した現在まで、自由集会などで動物福祉に関連する議論は継続的におこなわれるものの、そうした議論にもとづく具体的なアウトプットは残念ながらほとんどないままの状態が続いている。世界的に見て動物福祉に対して社会一般が求めるものは急速に厳しいものとなってきており、特に霊長類を研究対象とする場合は強い規制を受けるようになってきている。また我が国においてはこれまで動物実験に対する明確な法の規制はなかったが、1999年に制定された「動愛法」の5年経過後の見直しの際には動物実験に関する事項も盛り込まれる可能性がある。また、研究用霊長類(特にニホンザル)の国による供給事業として、ナショナル・バイオリソースプロジェクトにもとづくマカク・バイオリソース計画(MBR)が、岡崎の生理学研究所が中核機関となり進められている。この計画には、民間企業に加え、京都大学霊長類研究所も繁殖・供給施設の1つとして参加しており、生産者・利用者の両面において研究者が深く関わることとなっ た。こうした諸々の動向から、霊長類を対象とする我が国の研究者集団として、霊長類の”正しい”利用を再確認すべき時宜と言えるだろう。そこで、本自由集会においては、「基本原則」の見直しをもとに、現状での妥当性を検討し必要であればその改善について議論する。
  • 伊谷 原一, 伊沢 紘生, 渡辺 邦夫, 和田 一雄, 竹ノ下 祐二, 古市 剛史
    p. v
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/06/30
    会議録・要旨集 フリー
    日本はこれまで、国内だけでなくアフリカ、東南アジア、南米などの海外においても霊長類を対象に多彩なフィールド研究を推進してきた。しかし、1990年代以降の世界的な経済不況にともない、日本がフィールドを置く多くの国が政情不安や国情悪化に陥り、フィールド研究の一時停止、あるいは継続断念を余儀なくされた地域も少なくない。また、近年の著しい自然環境の変容は、フィールドにおける対象動物の保護やその生息環境の保全といった活動を必要不可欠なものとしつつある。本集会では、そのような地域においてフィールド研究を行う上での苦労、問題点、矛盾、また成功事例などに関する情報交換を行い、今後のフィールド研究の展望について模索する場としたい。

    南米/コロンビア:伊沢紘生
    東南アジア/インドネシア:渡辺邦夫
    アジア/中国:和田一雄
    アフリカ/ガボン:竹ノ下祐二
    アフリカ/コンゴ民主共和国:古市剛史
  • 吉川 泰弘, 長谷川 寿一, 赤見 理恵, 落合 知美, 倉島 治, 斎藤 成也, 数藤 由美子, 高見 一利
    p. vi
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/06/30
    会議録・要旨集 フリー
    「大型類人猿情報ネットワーク(GAIN)」は、その前身である「チンパンジー研究利用に関するフィージビリティースタディ(ナショナルバイオリソースプロジェクトの一環)」が培ってきた大型類人猿由来の研究リソース配分ネットワークとその理念を引き継ぎ、動物園などの飼育施設や研究者とのネットワークの拡大、大型類人猿死亡時のリソース分配をおこなってきた。本集会では、GAINがおこなってきた調査(研究リソースのニーズ調査、国内飼育下大型類人猿の飼育状況調査など)の結果や、リソース配分の具体例などについて報告したい。またGAINをとりまく様々な立場(資源の利用者側、飼育施設側など)からの話題提供も予定している。そのうえで、大型類人猿研究の現状と将来展望、資源配布を中心とする研究支援システムの問題点やこれからの展開について検討したい。
口頭発表
  • 井上 陽一
    セッションID: A-1
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/06/30
    会議録・要旨集 フリー
    (目的)テナガザルソングの意味や役割を明らかにする。
    (方法)2001年8月から2003年12月の間にボルネオ島北部・ダナムバレー保護区を7度訪問し、ある野生ミューラーテナガザル(Hylobates muelleri)家族の行動を延べ25日間追跡し観察・記録した。その間に6度音声プレイバック実験を実施しその反応を観察した。
    (結果)25日間の追跡中に一度だけ隣の縄張りへ侵入したが、その際、ソングによる駆け引きが観察された。Mitani. J. C. (1990)によると、縄張りの中心部で聞かせたデュエットソングに対しては、90%(18/20)の高い確率でミューラーテナガザルはデュエットソングを返したという。私の実験でも、縄張り内部で3度聞かせたデュエットソングに対しては全てデュエットソングを返したが、そのソングは普段のデュエットソングではなく、ファ、ファ、ファ・・・というゆっくりした単調な音を最初に伴う特殊なデュエットソング(仮に警告ソングとよぶ)だった。隣の縄張りへの侵入時にも、警告ソングを隣の家族から浴びせられたが、その時はソングを返さず“黙って”自分の縄張りへ後退した。つまり警告ソングに対して機械的にソングを返すのではなく、自らの状況(自分の領域にいるのか他者の領域に入り込んでいるのかという)に応じてソングをうたうことが観察された。
    (考察)侵入者に対した場合にのみ発せられる特殊なデュエットソングには“出て行け”という警告の意味が込められていると考えられる。これは、テナガザルソングに言語(ある特定の音声で特定の意志を伝達する)的な役割が含まれていることを示唆する。また、隣の家族と身体的な接触をしないでソングによる駆け引きをすることや自分の置かれている状況をわきまえて自制することが明らかになった。
  • -予備的な実験の報告-
    久世 濃子, 平田 聡
    セッションID: A-2
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/06/30
    会議録・要旨集 フリー
    (目的)樹上生活をする大型類人猿において「まわり道」を見つけ出す必要性が、知性の発達を促したという仮説が提唱されている。本研究では、オランウータンが「まわり道」を見つける能力を検討するために、発達段階の異なる個体を対象として、予備的な認知実験を行った。
    (方法)Sepilok Orangutan Rehabilitation Centreにおいて、以下の2種類の実験を行った。(1)ケージ実験:屋外に設置したケージ内にオランウータンを入れ、ケージの外側にバナナを置いた。オランウータンがバナナと反対側にあるケージの出口から「まわり道」をして、バナナを取りに行くことができるかどうか実験した。(2)樹上実験:森林内のオランウータンのよく利用する木(I)の隣の、オランウータンが直登できない大きな木(C)にバナナを設置した。Iから見ると後方にある木(B)から、Cに向かってロープをわたした。オランウータンがIから「まわり道」をして(Bを経由して)、Cのバナナを食べにいけるかどうか実験した。
    (結果)ケージ実験では、2歳11ヶ月の子はまわり道ができなかったが、3歳3ヶ月の子はまわり道ができた。また3歳以上でも、できる個体(6頭)とできない個体(5頭)がいた。さらに、2回目以降は1回目よりも早くまわり道ができた(4/6頭)。樹上実験では、6頭中4頭の個体が「まわり道」して(Bを経由して)、Cのバナナを食べることができた(最年少:6歳5ヶ月)。また、森林内でBに移動する経路には、いくつかのパターンがあった。
    (考察)オランウータンにおいては2歳では、まわり道ができない可能性が考えられる。また、3歳以上でまわり道ができなかった個体は、観察者の影響や各個体の性格などが結果に大きく影響していた可能性が高い。樹上実験では、各個体が自分の大きさや運動能力に応じて、異なる経路を選択している可能性が示唆された。
  • -チンパンジーのワカモノ雄による想像的な遊び-
    中村 美知夫
    セッションID: A-3
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/06/30
    会議録・要旨集 フリー
    ヒト以外の霊長類が、その場にない物や相手を想像できるのかどうかについては賛否が分かれる。言語研究などの対象となった、いわゆる「文化化された」類人猿については、想像的な遊びの事例が数多く報告されている。しかし、その大部分は、玩具などの人工物を想像する(例:その場にない引き車を引っぱるふりをする)か、もしくは人工物に対して向けられる(例:人形とレスリングごっこをする)、というものである。したがって「文化化」がこのような現象を引き出しているという懐疑論に対しては無力である。一方、野生下からの想像を示唆する報告例はそれほど多くはない。チンパンジーでは、「アリを釣るふり」「太枝などをアカンボウとみなす遊び」「枝相手のレスリングごっこ」などの事例が報告されているが、このうちのいくつかについては、報告者たち自身もそれ以外の解釈が可能であることを認めている。本発表では、2003年2月18日にギニア共和国ボッソウで観察された、チンパンジーのワカモノ雄(ポニ:10歳)による想像的遊びを示唆する事例を紹介する。この独り遊びでは、自分の足に対して、「噛みつく」「手で叩く」「抱えて自分の方に近づける」「もう一方の足で踏む」などの行動や「プレイパント」が観察された。この遊びは10分間ほど継続し、この間数メートルのところにオトナ雄がいたが、終始寝ており、交渉は見られなかった。 本事例についても、完全に他の解釈を排除できるわけではない。しかしながら、観察された行動パターンの多くが、通常社会的遊びにおいて相手に対して向けられるものであった。このことは、その場にいない相手が想像されていることを示唆する。また、この遊びでは、行動の直接的なターゲットが、他の物体ではなく自分自身である、という点がこれまでの観察事例と大きく異なる。
  • 西田 利貞
    セッションID: A-4
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/06/30
    会議録・要旨集 フリー
    「ヒトには、サッカーや野球、バレーボールなどグループ間で勝敗を争うゲーム(「集団ゲーム」と呼ぶことにする)が多い。しかも、こういったゲームは人々を興奮させ、殺人が起こることさえ珍しくない。サッカーなどは近代的なゲームであり、「集団ゲーム」が果たして、ヒトとともに古いのか、あるいは最近の発明なのか明確でない。しかし、「綱引き」などは、多くの民族で知られているようなので、集団ゲームがヒトの普遍的な遊びである可能性はある。一方、ヒト以外に集団ゲームをおこなう霊長類はいないようだ。半世紀におよぶ長期観察にもかかわらず、ニホンザルやチンパンジーで、集団ゲームが観察されたことはない。「遊びの機能は、将来有益になる行動の練習である」という仮説が正しいならば、集団ゲームの機能はなんだろうか?戦争、つまり集団間の組織的な争い、の練習という可能性が高い。ヒト以外の霊長類では、多数が1頭を迫害するという形はあるが、集団同士が組織的に争うことはないようである。
  • 林 美里
    セッションID: A-5
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/06/30
    会議録・要旨集 フリー
    入れ子のカップ課題は、ヒトの認知発達あるいは霊長類の種間比較の尺度として用いられてきた。Greenfieldら(1972)は、ヒト乳幼児における入れ子のカップの操作に着目し、対象操作にみられる文法的な構造という視点から分析をおこなった。カップの組み合わせかたに規則性のある方略がみられ、その方略が発達的に変化することが示された。最も発達の後期にあらわれる「サブアッセンブリ」は、直前に重ねた複数のカップを一つのかたまりとして移動し、他のカップに重ねる方略だ。このサブアッセンブリ方略は、ヒト以外の霊長類にもみられることがわかってきた。しかし、ヒトを含めた霊長類をまったく同一の方法で直接比較した研究はない。また、カップを組み合わせる方略だけでなく、エラー時の修正行動といった他の発達的指標も存在する。だが、多様な視点を包括しつつ詳細な操作分析にもとづく研究は未だおこなわれていない。本報告では、入れ子のカップの操作を記述する新たな枠組みを紹介する。チンパンジー成体3個体、幼児3個体、およびヒト幼児2名を対象に、円形で直径の異なる5つのカップを用いて課題を実施した。入れ子のカップの操作を「数字 記号 数字」という単位の連なりとして表現した。カップの大きさを数字であらわし、操作に関係した動作を記号であらわした。記号の前に、被験体が操作したカップの数字を、記号の後ろに、操作に関係した他のカップの数字を記した。例えば「3N4/1N34」という文字列は、「カップ3をカップ4に入れ、さらにカップ1をその中に入れる」操作を意味する。この表記法により、カップの操作が文字列として記述でき、個々の操作がどのように連鎖しているかなどの構造的な分析が可能になった。サブアッセンブリ方略、分解行動、操作の連鎖などの点に違いがみられた。これらの結果をもとに、チンパンジーとヒトの認知的特性とその発達について考察した。
  • 松野 響
    セッションID: A-6
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/06/30
    会議録・要旨集 フリー
    二物体が接近し、互いに重なり合い、再び離れる、といった運動事象は、二物体が互いにすれ違ったようにも衝突し跳ね返るようにも解釈できる。本研究ではそのような両義的な事象をチンパンジーとヒトがどのように知覚するかを検討した。実験には、タッチパネルつきのCRTモニタを用いて、刺激の呈示および反応の記録をおこなった。テストに先立ち、被験体は画面上に呈示された複数の物体のうち、最初に点滅したものを追跡する課題を学習した。テストセッションでは、二物体が接近し、互いに重なり合い、再び離れる、という両義的な事象において被験体が「衝突」とvのどちらの反応を示すか、また、そのようなテスト事象に同期して生じる衝突あるいは通過の文脈事象の効果はあるかを調べた。実験の結果、ヒトでは先行研究と同様に両義的な事象において「通過」が優位に知覚された。一方でチンパンジーでは、そのような一貫した傾向は見られなかった。視覚的文脈の効果は、ヒト、チンパンジーともに見られた。つまり、両義的なテスト事象の知覚において、明らかに衝突して知覚される文脈事象が付加された場合、「衝突」して見えたとする反応が増え、通過型の事象が付与された場合には「通過」して見えたとする反応が増えた。以上の結果より、ヒトとチンパンジーで両義的な事象における知覚判断に差異があること、また、チンパンジーにおいてもヒトと同様に文脈事象とテスト事象の知覚的グルーピングが、衝突/通過の知覚に影響を及ぼすことが示唆された。本研究は、文部科学省科学研究費(12002009, 21世紀COE[京都大学D2])の助成を受けておこなわれた。
  • 中村 克樹, 笹岡 正顕, 原 英彰
    セッションID: A-7
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/06/30
    会議録・要旨集 フリー
    高齢社会となり、緑内障、白内障、糖尿病網膜症など視野の喪失を伴うさまざまな疾患が問題となっている。失明を未然に防ぐことは、患者のQOLの向上につながる。こうした疾患の中でも特に緑内障のような神経変性疾患の場合、「早期発見、早期治療」が失明を防ぐために不可欠である。こうした視野の喪失を伴う疾患の研究に、モデルとしてマカクザル等が使用されている。昼行性で色覚を含めたさまざまな視機能がヒトと近いサルを用いたモデル動物の確立が望まれる一方で、サルの視野を正確に計測し、ヒトとの比較を行った研究はこれまでにほとんどない。本研究では、4頭のカニクイザルと3人のヒトの視野を同じシステムで計測し、比較した。オペラント条件付けの手法を用い、PCで作成した視覚刺激をCRT上に提示して視野計測を行った。視覚刺激提示条件は、臨床で用いられているHumphrey Field Analyzerにならった。方法としては、サルが正しく視覚指標を検出できれば、背景に対する視覚指標の輝度対比(luminance contrast)を一段階(1 dB)落とし、正しく検出できなければ輝度対比を一段階上げるという「上下法」を用いて、輝度対比の閾値を計測した。その結果、1)サルはヒトと非常に似た輝度対比(luminance contrast)に対する感度を示すこと、2)しかし、ヒトの感度の方が全般的に良く、特に周辺部においてその差が顕著になること、などが明らかになった。今後さらに多くのサルの視野データを集めて、各年齢における健常サルの視野データベースが作成できれば、ヒトとサルの視野の特徴や相違点が明らかになり、眼疾患に関してもサルは非常に有用なモデル動物となりうる。
  • 山田 一憲, 中道 正之
    セッションID: A-8
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/06/30
    会議録・要旨集 フリー
    離乳期のニホンザルでは、母ザルの乳首をくわえようと試みる子ザルに対して、母ザルが拒否行動を示すことがある。本研究では、母ザルの活動内容(毛づくろいを行う・受ける/自己志向性行動/休息/採食・移動)によって子ザルが試みた乳首接触の成功率が異なるのかを調べた。さらに、母ザルが乳首接触を許容しやすい状況があるのならば、子ザルはそのような状況に合わせて乳首接触を頻繁に試みているのかどうかを検討した。勝山ニホンザル集団において、1歳齢の子ザルとその母ザル15組を対象とし、総計225時間の観察を行った。子ザルが乳首接触を試みた場合、母ザルの拒否行動の有無と試みられた瞬間の母ザルの活動内容を記録した。そして、もし乳首接触が母ザルの活動内容とは関係なくランダムに試みられたと仮定した時に期待される乳首接触の生起頻度を算出し、子ザルが実際に乳首接触を試みた頻度と比較した。子ザルが試みた乳首接触の成功率は、母ザルの活動内容によって異なっていた。母ザルは、採食や移動時には頻繁に拒否行動を示したが、自分の子ザルに対して毛づくろいを行っている時や母ザルが他個体から毛づくろいを受けている時に試みられた乳首接触は許容しやすいことが明らかになった。これと対応して、母ザルが採食や移動をしている時は、子ザルは乳首接触を試みることが少なく、母ザルが他個体から毛づくろいを受けている時や自分に毛づくろいをしている時には、子ザルは頻繁に乳首接触を試みていることが明らかとなった。これらの結果は、母ザルが乳首接触を受け入れやすい状況と受け入れにくい状況とを、子ザルが認知している可能性を示唆する。霊長類の知性の進化には、集団の他個体と行う複雑な社会的相互交渉が影響したと考えられている。授乳をめぐる母ザルとのかけひきを通じて、子ザルは他個体と複雑な相互交渉を行うためのスキルを身に付けていくのかもしれない。
  • 田中 伊知郎
    セッションID: A-9
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/06/30
    会議録・要旨集 フリー
    ニホンザルは、毛づくろい中にシラミ卵をつまみ上げ食べる。昨年度までの結果から、シラミ卵取り行動の発達は段階的だとわかった。そこで、シラミ卵処理行動の発達に対する、母親などの他個体の影響の解明を目的に、長野県志賀高原地獄谷野猿公苑において、ビデオを用いた個体追跡法によりニホンザルを調査した。シラミ卵処理行動のように何かをつまみ上げるときに、母親が手を出して、母子間の相互交渉となる事例が観察された。このとき、コドモがつまんだ指をゆるめることがあった。シラミ卵処理中はふだん指をつまんでおり、中身が見えないが、コドモがつまみをゆるめると「何を把握しているか」の中身が母親にも見えるようになる。 さらに、共同注視後の母親の行動が、その後のコドモの行動決定に影響していた。この指をゆるめることから結果的に生じた視覚的共同注意が段階的発達の直前に出現した。この時間的近接性および行動決定への効果から、共同注視が母子間での情報共有を促進したと示唆された。把握を伴った共同注視は、離れた物体に対する共同注視よりも、対象物体を特定しやすいと考えられる。以上から、把握をゆるめることで生じる共同注視が、人類に至る霊長類における社会学習の進化で大きな役割を果たしていると考えられる。
  • 福田 史夫, 和田 一雄, 李 保国
    セッションID: A-10
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/06/30
    会議録・要旨集 フリー
    キンシコウの野外研究は始まったばかりであり、その生態や社会構造、社会的行動はまだ殆んど解明されていない。演者は今年の3、4月にかけての3週間、秦嶺山脈に生息するキンシコウを観察してきた。この時季は出産季にあたるため、新生児が生まれると間もなく他個体による育児行動が見られた。しかし、一方、出産季であるにも関らず、交尾行動に類似した行動が頻繁に観察された。この行動は、Unit-maleが他のUnit個体に攻撃的行動を行った直後に生じた。「オス:大きく口を開けて犬歯を剥き出し、肩を怒らして、ゆっくりと自分のユニットメスの方に歩く→メス:それを見て逃げる→オス:メスを同じ動作を続けながら追う→メス:止まってオスの方をみる→オス:口を開けながら頭を下げ、メスの腰に手を当てる→メス:うつ伏せになる→オス:口を開けながらメスの腰に両手を回し、メスの背中越しに覆いかぶさる→メス:四足で中腰になり辺りを見回す→オス:口を開けながら激しく腰を動かす(メスの尾は下がったまま)→メス:四足で腰を下げたままで顔を上げて辺りを見回す→オス:口を開けながらメスの首筋に顔を埋める→メス:尾を上げてオスから離れる→オス:口を開けながらメスの尻を見る」の一連の行動からなっている。この行動は20秒くらいで終わり、一見すると交尾行動と類似しているが、いくつかの行動の要素で違いが見られる。交尾では、メスが顔を地面に付けてうつ伏せになりオスを誘い、オスが腰を動かしている時に互いに見合い、交尾後互いにグルーミングし合う。しかし、これらは観察されていない。オスが大きく口を開け犬歯を見せながら肩を怒らし上半身を左右に揺らしながらゆっくり歩くことで、メスはオスから逃げようとする。が、メスは逃げることができず、うつ伏せになってしまう。この行動をすることでオスは自分の興奮状態を鎮火させ、メスは仕方なくオスを宥めていると考えられる。
  • -協力関係と「黙認された盗み」-
    中山 桂
    セッションID: A-11
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/06/30
    会議録・要旨集 フリー
    本研究では、餌をめぐる個体間の競合と協力行動の成立について検討した。5頭のフサオマキザルで同時「棒ひき課題」をおこなった。テーブルの両端に棒が取りつけられており、サルが棒をひくとテーブルが回転、もしくは手前にスライドする仕組みになっている。1頭のサルがテーブルの片側から棒をひくと、テーブルが力の方向に回転し、棒をひいたサルだけが餌を手にいれることができる。2頭のサルが両側から棒をひくと、テーブル全体が力の方向にスライドし、両方のサルが餌を手にいれることができる。実験条件は以下の4つとした:(1) 1頭のみが餌を手にいれられる条件(Solo条件)、(2) 2頭が同時に棒をひいた時のみ餌を手にいれられる条件(Joint effort条件)、(3) 1頭でひいても2頭でひいても手にいれられる餌の数が同じ条件(Mutual effort条件)、(4) 1頭でひくよりも2頭でひいた方がより多くの餌を手にいれられる条件(Competitive effort条件)。Solo条件おおよびJoint effort条件でサルを訓練し、Mutual effort条件およびCompetitive effort条件をテスト条件とした。今回は、協力関係の成立した4組のサルの行動分析の結果を報告する。サルはMutual effort条件では協力的にふるまうことがないのに対して、Competitive effort条件では好んで協力した。これは、協力の結果えられる餌の量が協力の成立に影響していることを示唆する。それぞれの条件でサルのとった行動戦略のちがいが、最終的に手に入れた餌の総量にばらつきをもたらした。手に入れた餌の総量にペア間で大きなちがいが生じている2頭では、餌へのアプローチの順序が社会的順位につよく影響されていることがわかった。興味深いことに、手に入れた餌の総量にペア間でちがいのない2頭の間では、頻繁に餌の「黙認された盗み」がおきていることがわかった。これは、餌に対する社会的寛容が餌の公平な配分につながっていることを示唆する。
  • 宇野 壮春
    セッションID: A-12
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/06/30
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    金華山の野生ニホンザルについて、非交尾期には若年のオトナオスを中心とした大きなサイズの(およそ5~10頭)オス・グループが、いくつか観察される。その一つを、断片的だが、個体識別をして2年半継続観察した。その結果、(1)非交尾期を通してオス・グループは一定の遊動域を持つ(2)グループのメンバーも安定している(3)日常的にはメンバー間で離合集散が見られる。それが交尾期になると、(4)群れの発情メスを求めたりしてメンバーがばらけ、個々が独立した行動をとるようになる。(5)交尾期が終わっても、元のグループに戻らない個体がいる。(6)戻ってきた個体で再びオス・グループが形成され、それが非交尾期を通して再び続く。(7)その間に、別のオス・グループがそのオス・グループに合流して再び大きなサイズのオスグループが誕生する。このような過程がおおよそ明らかになった。今後、それぞれのステージで観察されるオス間の多様な社会交渉の分析を進め、ニホンザル・オスグループの通時的社会構造を明らかにしたい。
  • 伊沢 紘生, 佐藤 智保
    セッションID: A-13
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/06/30
    会議録・要旨集 フリー
    宮城県金華山に生息する野生ニホンザルの生態調査は1982年から今日まで継続されている。その間に二度の分裂があり、1982年当時の4群が現在は6群になっている。しかし、これらすべての群れについて、群れのまとまり、すなわち、オトナメスのまとまりが崩れ、一時的にせよ群れの体をなさなくなる、といった事態は一度も観察されていない。日本各地に生息するどの野生群についても同様で、類似の現象は屋久島での群れの消滅という事例のみである。 金華山B2群も昨年(2003年)6月上旬までは特別に変わったことはなかった。それが交尾期の始まった8月前後からオトナメスが次々と群れから離れ(群れ外オスに連れ出され)、昨年3月下旬の時点では15頭いたオトナメスが、8月下旬には8頭、10月上旬には6頭、10月下旬には4頭、11月下旬には3頭、そしてついに1頭づつバラバラになってしまった。その間、B2群の遊動域と周辺域を多数の調査員で丹念に調べたが、単独で、ないしオスとコンソートペアを作っているB2群のメス以外に、集団で生活するメスは目撃されていない。隣接群で新たなメスの加入も観察されていない。すなわち、11月末時点でB2群のメスのまとまりは完全に崩壊したといえる。 それが、交尾期の終盤に入る頃からメスがまとまり始め、12月中旬には3頭の集団が2つ、下旬には5頭の、1月中旬には7頭の、1月下旬には8頭の、3月下旬には9頭の集団が観察された。また、上記集団以外にオスとペアでいるB2群のメスは1月中旬まで観察されている。 本発表では、ニホンザルではきわめて珍しい群れの崩壊と復元という過程を整理し、なぜそのような事態が生起したかについて考察する。
  • 室山 泰之, 清水 慶子, 杉浦 秀樹
    セッションID: A-14
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/06/30
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    ニホンザルは季節繁殖をする種である。性行動の季節変化は詳細に報告されている(e.g. Takahata 1980, 1982) が、オスのホルモン動態については、つい最近嵐山で調べられた研究をのぞけばこれまでほとんど報告がない(Barrett et al. 2002)。そこで、オスの糞中テストステロンが一年を通じてどのように変化するかを飼育下の集団を対象として調べた。調査対象は、愛知県犬山市大平山で飼育されているヤクニホンザル (Macaca fuscata yakui) 集団である。高順位オトナオス(7歳以上)3頭、高順位ワカオス(5-6歳)2頭、低順位オトナオス3頭、低順位ワカオス2頭の計10頭を対象個体とした。調査期間は1996年2月から1997年1月までの1年である。この集団では、9月下旬から12月ごろまで交尾が観察される。毎月月初めの数日間に、対象個体の糞を1-2個採集し、-30℃で冷凍保存したのち分析した。糞採集を行なっている間、オスの攻撃的行動と性行動をアドリブサンプリングで記録した。テストステロンは一年を通じて大きく変動した。高順位のオスの平均テストステロンレベルは、低順位のオスより低かった。高順位オスのテストステロンレベルのピークは10月だったのに対し、低順位オスのテストステロンレベルは11月だった。年齢クラスによる違いは見られなかった。これらの結果から、交尾季前半にテストステロンレベルの上昇が見られること、ピークの出現時期はオスの順位の影響を受けている可能性があることが明らかとなった。
  • 中川 尚史
    セッションID: A-15
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/06/30
    会議録・要旨集 フリー
    (目的)van Schaikらに拠れば、パタスモンキー(Erythrocebus patas)のメスは平等主義者、サバンナモンキー(Cercopithecus aethiops)のメスは専制主義者に分類され(van Schaik, 1989; Sterck et al., 1997)、ケニア・ライキピアに生息する両種を対象とした研究からは、これをほぼ支持する結果が得られている(Isbell & Pruetz, 1998; Pruetz & Isbell, 2000)。他方、カメルーン・カラマルエのパタスでは、メスの順位序列が親和的行動に影響を及ぼすことがすでに報告されている(Nakagawa, 1992)。本発表では、カラマルエにおいても同所的に生息している2種の敵対的交渉を比較することを通して、パタスを平等主義者と断定することに対し、疑問を投げかける。
    (方法)カメルーン・カラマルエ国立公園に生息するパタスとタンタルス(サバンナモンキーの1亜種)のそれぞれ1群に属するオトナ/ワカメスの個体追跡データを用い、敵対的交渉の分析を行った。なおデータは1987年11月から翌年2月、1989年6月から7月に収集したものである。
    (結果)いずれの種においても、オトナ/ワカメス間には、直線的順位序列がみられ、かつ両調査期間の間に順位変動はほとんどなかった。また、採食時間1時間当たりのメス間の敵対的交渉の頻度、さらにはこれを群れ内メスのダイアッド数で割った値は、1987/88年は2種間でほぼ同じ、1989年はパタスが高めであった。
    (結論)上記の結果から、カラマルエにおいては、少なくともタンタルスに比べてパタスがより平等主義的であるとは言えないことが明らかとなった。
  • 村井 勅裕
    セッションID: A-16
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/06/30
    会議録・要旨集 フリー
    1999年6月から2002年6月まで、マレーシア・サバ州のキナバタンガン川流域においてテングザルの野外調査を行った。調査地にはone-male groupが8群とall-male groupが1群棲息していた。調査期間中にone-male groupのオスの交代が3回観察された。テングザルにおいてオスの交代が観察されたのは今回の研究が初めてである。いずれのケースにおいてもオス間の激しい闘争や子殺しは見られなかった。また、新しいオスは全てall-male groupから来たオスであった。ほとんどの霊長類ではオスの交代の直後にメスの交尾の誘いや未成熟個体に対する新しいオスの攻撃行動が見られるが、今回の研究では、性的関係はオスの交代数週間後に起こり、未成熟個体は交代後も新しいオス攻撃されることなく群れにとどまっていた。これらの観察からテングザルではオス間の闘争は比較的少なく、子殺しはまれではないかと示唆される。
  • 森 明雄
    セッションID: A-17
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/06/30
    会議録・要旨集 フリー
    1999年秋に幸島に生息する小群の調査を行ったところ、群の個体は何本かの特定のクスノキ、特定のカラスザンショウの木を繰り返し訪れ利用した。このことは、彼らが採食樹の位置を知っている、メンタル・マップを持っている可能性を示している。そこで、このような知識を年度を越えてサルが維持することが可能だろうかという興味を持った。1999年から、2003年までの5年間、10月、11月に同じ小群で、果実樹の利用調査を行った。目的意識としては、年度を越えて同じ木が利用されるかどうかを知ることである。まず、小群が採食した木に番号ラベルを貼り、年度を越えて利用されたかどうか、この番号を貼った木を毎年訪れ、この木の下の落果を調べた。また、毎年1週間程度の追跡調査を行い、新たに採食された樹木に番号をつけ、翌年以後も調査を続けた。また、宿泊施設から、小群の棲む地域までの、約600mほどの日々歩く小径の上に落ちた落果を親木を特定し記録した。親木には、番号ラベルを与えた。現在、分析を続けている最中ではあるが、いくつかの結果が得られている。
    1) 年により果実量が著しく変動する樹種と比較的安定して果実を供給する樹種がある。
    2) ある樹種が、果実をつけるかどうかは年によって変動するが、ある樹種の豊作年だけを比べて、果実の量が多いのは年度を越えて同じ木である樹種と、豊作の木が変わる樹種がある。
    3) ある樹種が豊作でも、それが採食されるかどうかは、他の樹種の豊凶によって大きく影響される。従って、同じ樹種の果実の採食される時期は、年によって大きく変化する。
    4) 果実を生産する木は年ごとに大きく変わり、年度を越えてメンタル・マップを維持するのは、難しそうである。
  • 杉浦 秀樹
    セッションID: A-18
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/06/30
    会議録・要旨集 フリー
    (目的)マントヒヒは大きな群れを作り、その社会には階層構造があると言われている。群れの下部構造を探ると共に、群れ全体の頭数・構成を把握するために、定点で頭数を数えた。
    (方法)サウジアラビア王国・タイフ市で、市街地の外れに生息する野生マントヒヒ集団を約2ヶ月間調査した。この集団は、観察期間中、ほぼ同じ泊まり場を利用していた。朝、泊まり場から公園に行き、日中は公園の水場や、人から与えられる餌・残飯をよく利用していた。夕方、再び道路を通って泊まり場に戻ってくることが多かった。泊まり場と公園の間には、約1kmの直線道路があり、ここを通過するヒヒの頭数を数えた。普通は動きが速いため、頭数だけを数えたが、ひとかたまりの集団がゆっくり移動した場合は、性・年齢も一緒に記録した。
    (結果)ヒヒが道路を渡る時間的なパターンを分析すると、2つのバウトに分けられることが分かった。一回のバウトの間に道路を渡るヒヒの数は、非常に大きな変動を示した。群れ全体では650頭以上いると推定された。性比は0.45(成体オス/成体メス)であり、子連れ率は31%(アカンボウ/成体メス)であった。
    (考察)マントヒヒは群れ全体が一緒に連続して移動しているのではなく、いくつかのまとまりに分かれて移動していることが示唆された。そのような集団は、一定の大きさのものというよりは、非常に変動の大きなもののようだ。マントヒヒは、非常に柔軟に、様々な大きさの集まりを作っているのかもしれない。600頭を越える群れというのは、ほとんど報告がなく、極めて大きな群れと言える。過去の記録と比較すると、この群れは増え続けていると推定され、このことは高い子連れ率からも支持される。人為的な餌に大きく依存していることが、このような大きな集団になっている一因であろう。
  • 杉山 幸丸
    セッションID: A-19
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/06/30
    会議録・要旨集 フリー
    集団生活をする多くの哺乳類では雌が生涯を通じて出生集団に残り、雄が生まれた集団を離れて分散し別の集団に入る、female philopatryで知られている。その他では、雄雌とも出生集団を離れて他集団に入るboth-sexes dispersalもある。単独生活をする種でも、雌は母親の近くに定住し、雄は遠くに去るのが普通である。これに対して野生チンパンジーは、すべての雄が出生集団に居残り、雌が他の集団に移籍するall-male philopatryだと言われている。したがって雄が見つからなくなれば、即、死亡とされてきた(例えば、Boesch & Boesch-Achermann, 2000)。それにも関わらず、これまでに知られた多くの野生チンパンジー集団で、成熟雄/雌の比率は0.5またはそれ以下で、雄の数は圧倒的に少ない。その理由として、雄は赤ん坊の頃に子殺しに会う頻度が高い、一般に雄の死亡率は雌より高い、等と説明されてきた。しかし、子殺しはどの集団でも一般的とは言えない。また、成熟前の死亡率の性差に関する資料は、必ずしもこれを支持しない。一方、多くの人間社会と同様、チンパンジーは集団を雄が継承する父系社会であることから、人間とチンパンジーの共通祖先も父系社会だったと言われてきた(伊谷, 1985; Wrangham, 1987; Pusey, 2001)。しかし、私の知る限りall-male philopatryの人間社会は存在しない。集団を雄が継承するという点では共通でも、両者は根本的に異なるのである。ヒトをふくめた哺乳類社会としては極めて異例なall-male philopatryはなぜ出現したのか。これがチンパンジーの本性と言えるのか。なぜ多くの霊長類種と異なるのか考えたい。
  • 橋本 千絵, 古市 剛史
    セッションID: A-20
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/06/30
    会議録・要旨集 フリー
    これまでの研究から、チンパンジーの交尾パターンには、「高順位オスによる独占的な交尾」、「機会的な交尾」、「コンソートによる交尾」の3つがあるといわれている。ウガンダ・カリンズ森林では、これまで3年にわたって、チンパンジーのメスが高頻度に交尾を行うことが観察されてきた。これまで行った分析によると、オトナオス同士の順位があまり明確でないこと、また、オトナのオスの数が多い(20頭)ということが、このような高頻度交尾の原因になっていると考えられた。本発表では、実際にメスがどのような状況でこのような高頻度交尾を行っているかを明らかにしたい。調査は、2001年から2003年にかけて、ウガンダ共和国カリンズ森林において、Mグループを対象として行った。発情しているメスを終日個体追跡を行った。メスの発情が続いている限りは、連続して追跡を行った。すべての交尾について、その前後のオスとメスとの交渉パターンを記録した。また、5分毎に、対象メスの行動と、周り5m以内にいる個体の行動を記録した。発情メスが見られない日には、非発情メスについて、行動と周りの個体についての記録を行った。発情期間中、メスはあまり採食をせず休息やオスとのグルーミングを行う時間が長かった。発情メスと非発情メスとの行動の違い、1日の中での交尾の頻度や行動の変化、周りにどういう個体がいるか、どういったオスが交尾を行っているのか、という点についても分析を行い、考察する。
  • 松沢 哲郎, Tatyana HUMLE, Katelinje KOOPS, Dora BIRO, 林 美里, Claudia SOUSA, ...
    セッションID: A-21
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/06/30
    会議録・要旨集 フリー
    西アフリカ・ギニアのボッソウでは、1976年以来、杉山幸丸らによって野生チンパンジーの長期継続観察がおこなわれている。個体数は約20個体前後で安定して推移してきた(Sugiyama, 2004;山越・竹元・松沢・杉山、1999)。通年観察により、全個体の出欠をほぼ毎日確認できる。2003年11月末から2004年3月初頭までの3か月余りのあいだに、6個体が死亡あるいは消失した。その顛末を報告する。11月18日まで平穏だった。その後、咳をする個体が目立ち始め、それが急速に群れ内に広まった。そして、12月初めに3個体の死亡(12月3日:1歳1か月男児、12月6日:推定年齢50歳を超える女性、12月7日:10歳男性)が確認された。同じ頃、1個体(これも推定年齢50歳を超える女性で死亡がほぼ確実)が消失した。咳は12月中旬にはほぼ終息した。また、べつの幼児1個体(2歳7か月女児)が、病気の最盛期に母親とはぐれて10日以上(少なくとも12月2日以前から)単独行動した。その子どもは12月11日に無事が確認され研究者らの24時間観察下に入った。研究者らの誘導で母親が子どもを発見し、12月13日に子どもは母親に抱かれた。しかし衰弱が徐々に進行して12月30日に死亡した。死んだ子どもたちの母親は亡骸を持ち続けた。ミイラ化した遺体は、女児は1月17日、男児は2月9日に、母親が放置したので回収した。女児の母親は、子どもと離れているあいだに腫脹が始まった。子どもの死後、約2か月群れにとどまり、3月1日を最後に消息を絶った。移籍と考えられる。以上の経過で、「ボッソウ2003年の流行病」によって5個体が死亡し、1個体が移籍した。ボッソウの東約4kmに位置するニンバ山とのあいだのサバンナに植林する「緑の回廊」計画が1997年に開始された。2003年も7000本を植樹した。そうした保全の努力についても報告する。
  • Mbangi MULAVWA, 古市 剛史
    セッションID: A-22
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/06/30
    会議録・要旨集 フリー
    1996年以来内戦で中断されていた野生ボノボの研究も、内戦の終結を受けてコンゴ民主共和国各地で再開されている。1973年以来日本人研究者が取り組んできたワンバ地区での研究も昨年から再開し、コンゴ人研究者との共同で、遊動域内の果実量、遊動ルート、遊動パーティのサイズと構成、採食行動などの基礎的データの収集を通年継続して行っている。ボノボの研究が中断している間に、大型類人猿の生態学的研究は大きく進み、これと比較すべきボノボの研究成果が待たれている。内戦前のワンバのボノボの研究は、どちらかといえば行動や社会構造に関するものが多く、生態学的研究の成果も、行動観察のために行っていた餌付けの影響を指摘して批判されることがあった。今回研究を再開するにあたっては、行動への影響と病気の伝染の防止のために餌付けを全面的に中止し、主として生態学的側面に重点をおいた研究を行っている。この研究ではまず、雨量、果実量、遊動パーティサイズを比較し、利用可能な果実量の季節変化が遊動パーティサイズに与える影響を評価する。果実量は5本計約22kmのライントランセクトに沿った落果果実量で推定し、パーティサイズについては、チンパンジーの研究でも用いられている1-hour party sizeを記録した。予備的な分析では、ワンバのボノボは餌付けしていたころとあまり変わらない安定したパーティを形成して遊動しており、少果実期にもパーティはあまり小さくならない。チンパンジーでも、食物条件の厳しいところでは果実量がパーティサイズの制限要因になるものの、ある程度以上食物のあるところでは、はっきりした制限要因にならないとの報告がある。ボノボのデータを含めてアフリカ各地のPan属の遊動パターンの季節変化を比較すれば、Pan属の熱帯森林環境への適応形態とその柔軟性の全体像をとらえることができる。
  • 鈴木 滋, 陀安 一郎
    セッションID: A-23
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/06/30
    会議録・要旨集 フリー
    ガボンの2つの国立公園において、同所的なゴリラとチンパンジーの食性重複の程度を、体毛の窒素と炭素の安定同位体比から検討した。大西洋岸のロアンゴ国立公園は地上性草本が少なく、内陸のムカラバ=ドゥドゥ国立公園は過去に択伐をうけた二次林を多く含むが、調査地はどちらも半落葉性の低地熱帯季節林とサバンナのパッチからなり、両者はおよそ100kmしか離れていない。2002年12月から2003年9月の間の延べ2ケ月半の間に、類人猿の新しいネストから体毛を採取し、今回はチンパンジー13、ゴリラ24サンプルを用いて、窒素と炭素の安定同位体比を分析した。その結果、安定同位体比は、1) ゴリラとチンパンジーの種間では、窒素にかんしては、2地域とも重複がほとんどないほどに異なっており、ロアンゴ国立公園のほうがゴリラとチンパンジーの差が大きかった、さらに、2) チンパンジーよりもゴリラのほうが地域差が大きかった。これまで同所的なゴリラとチンパンジーの食性が相違の程度は地域間の比較が困難であったが、安定同位体比の分析によって、近隣の2つの地域個体群の同所的な2種の類人猿の種間、地域間の食性の相違の相対的な程度について、定量的な比較が可能であることがわかった。サンプルサイズが小さいのでまだ予備的な結果であるが、2地域の比較から食性の差は地上性草本が少なくより潜在的競合がきつい地域で大きい可能性を示している。チンパンジーよりもゴリラの地域差が大きい傾向は、ゴリラのほうが、環境に即応した食物を採食することを示唆し、ゴリラは季節に応じて果実採食量を大きくかえるが、チンパンジーは果実に執着するというこれまでにフンや直接観察から明らかにされた採食傾向と対応する。今後、バックグラウンドとなる植物の食物部位の安定同位体比の地域間比較をすることによって、安定同位体比の差の生態学的な意味をさらに検討する必要がある。
口頭発表
  • 名取 真人, 小林 秀司
    セッションID: B-1
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/06/30
    会議録・要旨集 フリー
    Hershkovitz (1977)はSaguinus mystaxmystax、pileatus、plutoの3亜種を認めた。これに対して、Groves(2001)はpileatusを種に格上げした分類を発表した。ただ、この分類には若干の異論もあり、これは他の形質で検証してみる必要がある。そこで、本研究では、頭蓋の計測値を用い、2つの分類群が分離できるかどうか、分析を試みた。ここでは、上記の分析を行うため、判別分析を採用した。判別分析で必要な事前の群は、各タクソンではなく、各地域個体群とした。判別得点をプロットし、対象としたタクソン内ではさまざまな個体群の個体が混在するが、タクソン間においては、そうならないならば、各タクソンは形態学的に異なったグループと認識できるはずである。本研究では、次の産地のサンプルを使用し、分析を行った:Orosa、Santa Cecilia、Quebrada Esperanza、Marupa、Iquitos、Lagarto、Sarayacu、Igarapé Grande、João Pessoa(S. m. mystax)、Tefé (S. m. pileatus)。判別関数に基づいて、すべての標本の判別得点を計算し、2次元に展開した。この展開図によれば、Teféのサンプルは明確に分離できたが、他の個体はきわめて複雑なかたちで混ざり合った。したがって、Teféはpileatusの、他はmystaxの産地なので、それぞれのタクソンははっきりした形態群と認識できる。この結果をもって、mystaxpileatusが種と積極的に認められたわけではない。ただ、種とする仮説と亜種とする仮説がある場合、このような結果はそれを検証する材料とみなすことができる、とWiley(1981)は指摘しており、彼の指摘に従えば、本研究は“pileatusを種とする仮説”を支持したことになる。
  • 小林 秀司, 名取 真人, Leila M. PESSOÂ, João A. OLIVEIRA, Alfred R. ...
    セッションID: B-2
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/06/30
    会議録・要旨集 フリー
    コインブラティティ (Callicebus coimbrai) は、1999年に Kobayashi and Langguth によって発見された比較的新しいサルである。これまで、本種が最初に確認されたのは、1994年1月30日、ブラジル北東部のセルジーペ州であるとされてきた。今回、著者のひとり小林は、ヨーロッパ大陸部にあるいくつかの自然史博物館を訪問し、オーストリアのウイーン自然史博物館とドイツのフンボルト大学自然史博物館の所蔵標本中に本種らしき標本を発見した。これらの標本について、頭蓋のサイズ、被毛のカラーパターン、上顎歯列の非計測形質に関してKobayashi and Langguth の原記載との比較分析を行ったところ、いずれの形質も、この記載によく一致し、上記の標本がコインブラティティであることが確認された。これらの標本の来歴に関して調査したところウイーン自然史博物館の4個体については、標本ラベルには何の記載もなく、採集地や採集者など、手がかりとなる一切の情報が不明であったが、標本につけられていたラベルの紙が20世紀の初頭に用いられていたことが確認されたので、これらの標本が少なくとも約100年近く前かそれ以前に採集されたものであることが判明した。一方、フンボルト大学自然史博物館所蔵の一個体に関しては、状況がやや異なっていた。標本ラベルにほとんど何の状況も記載されていないのはウイーン自然史博物館のそれと同様であったが、唯一、採集者名として Sieber の記載が見られた。このSieber とは、ホフマン博士の採集人として1800年代のごく初期にブラジル北東部にあるバイア市を拠点として採集活動を行った人物のことを指すと考えられる。そうすると、この標本は、約200年も前に採集されていたことになり、コインブラティティの属するマスクティティグループの中では、実はもっとも古く発見されていたことになる。前述のように、コインブラティティが記載されていたのは1994年と、同グループ中ではもっとも新しいが、発見そのものがもっとも古いことは、当時の学術探検の複雑な様相を反映して非常に興味深い。
  • 相見 滿
    セッションID: B-3
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/06/30
    会議録・要旨集 フリー
    東南アジアの島嶼部は、氷期には海面が低下し、マレー半島とスマトラ、ボルネオ、ジャワおよび周辺の島々が陸続きとなり、スンダランドと呼ばれる陸塊をなし、霊長類を含む哺乳類の移動が可能であった。この地域は霊長類の宝庫で、26種が分布している。現在、シアマン(Hylobates syndactylus)の分布はマレー半島の一部とスマトラに限られる。化石によりジャワには、かつて分布していたという(Badoux, 1959)。そうだとすると、マレー半島とスマトラ、ジャワに分布していたことになる。ジャワに分布するものは、ジャワの固有種を除き、マレー半島とスマトラ、ボルネオにも分布するのがふつうである。ジャワのPunungからはこれまでにテナガザルとされる遊離歯が41本知られている。これまでの研究ではサイズ(近遠心径と頬舌径)だけに基づいて同定がなされてきた。今回はサイズだけでなく、下顎第3大臼歯にあるhypoconulidの発達の程度も考慮した。対象としたのは、上顎第3大臼歯5本(Nos. 7, 14, 16, 27, 31b)と、下顎第3大臼歯3本(Nos. 22, 28, 40)である。上顎第3大臼歯(No. 7)のサイズはワウワウテナガザル(Hylobates moloch)の変異幅と重なり、他の上顎第3大臼歯のサイズはシアマンの変異幅と重なった。3本の下顎大臼歯は全て、hypoconulidが良く発達し、しかもサイズはシアマンの変異幅と重なった。したがって、これらの遊離歯はそれぞれ、ワウワウテナガザルとシアマンのものと同定した。今回、ジャワにもかつて、シアマンがいたことが再確認された。これまでのところ、シアマンがボルネオいたという証拠はない。シアマンがなぜボルネオに分布していないかは今後の課題として残される。
  • 林 省吾, 宮木 孝昌, Buhe SICHEN, 伊藤 正裕
    セッションID: B-4
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/06/30
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    (目的)アカゲザルは、狭鼻猿の代表的存在であり、ミドリザルと並んで、実験動物としてよく用いられる霊長類の一つである。その解剖学的構造を知ることは、比較解剖学的にも、実験医学的にも重要と思われるが、リンパ節の位置については、リンパ管との関係において数例の報告を見るのみである。ヒトでは大腸リンパ節は上腸間膜動脈・下腸間膜動脈との位置関係に基づいて、臨床上の分類がなされている。そこで、アカゲザルにおいてもこのような分類が可能であるか検証した。
    (材料と方法)狭鼻猿オナガザル科マカク属、アカゲザル(Macaca mulatta)雄5例の腹部臓器摘出標本を用いた。盲腸・結腸の間膜を剥離し、動脈とリンパ節を剖出した後、肉眼解剖学的観察を行った。
    (結果)結腸は彎曲部が明瞭で、上行結腸・横行結腸・下行結腸を分類できた。上腸間膜動脈は、頭側の枝と尾側の枝に2分岐した。尾側の枝が間膜内を下行するのに対し、頭側の枝はいったん上行結腸に向かい、腸管にそって横行結腸に向かって走行した。上腸間膜動脈と下腸間膜動脈の分布域の境界部は横行結腸の中心ないしやや左側であった。下腸間膜動脈は、上腸間膜動脈と同様に、頭側の枝と尾側の枝に2分岐した。 頭側の枝は横行結腸に向かい、上腸間膜動脈の分枝と吻合した。尾側の枝は4本以上の枝を出し、主に下行結腸を支配した。リンパ節の大半は、腸管の間膜付着部と動脈の分岐部に存在した。存在部位・個数は個体差が大きく、一定の傾向が見られなかったが、盲腸周辺のリンパ節が他の部位に比べて大きいことが特徴的であった。
    (考察)結腸領域において動脈の分岐とその支配域には、ヒトとアカゲザルの間で違いが認められるが、腸管傍リンパ節・中間リンパ節・主リンパ節に分類することは可能であり、妥当であると考えられた。
  • Buhe SICHEN, 林 省吾, 宮木 孝昌, 伊藤 正裕
    セッションID: B-5
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/06/30
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    (目的)ミドリザルは、オナガザル属を代表する挟鼻猿であり、アカゲザルと並んで、実験動物としてよく用いられる霊長類の一つである。その解剖学的構造を知ることは、比較解剖学的にも、実験医学的にも重要と思われる。今回、我々はミドリザル大腸の動脈とリンパ節を、アカゲザルと比較対照して肉眼解剖学的に検討したので、その所見を報告する。
    (材料と方法)狭鼻猿オナガザル科オナガザル属、ミドリザル(Cercopithecus aethiops)雄5例の腹部臓器摘出標本を用いた。盲腸・結腸の間膜を剥離し、動脈とリンパ節を剖出した後、肉眼解剖学的観察を行った。
    (結果)結腸はアカゲザルと比べて彎曲部が不明瞭で、上行結腸・横行結腸・下行結腸の3部に分類できなかった。結腸には上腸間膜動脈と下腸間膜動脈とが分布しており、その境界部は盲腸下端から結腸側へ長さが平均23cm(19~25cm)の部位であった。上腸間膜動脈は頭側の枝と尾側の枝に2分岐した。頭側の枝は上・下腸間膜動脈の境界部に向かい、尾側の枝は盲腸側に向かって走行した。下腸間膜動脈は頭側の枝と尾側の枝に2分岐した。頭側の枝は上・下腸間膜動脈の境界部に向かい、上腸間膜動脈の分枝と吻合した。尾側の枝は2~4分岐し、直腸側の結腸を支配した。これらの動脈所見はアカゲザルとほぼ相同であった。リンパ節の位置は、アカゲザルとほぼ同じであり、おもに腸管の間膜付着部、動脈の分岐部および盲腸部にリンパ節が存在した。
    (考察)ミドリザルの結腸は、ヒトあるいはアカゲザルと異なり左右の結腸曲が見られないが、結腸を上・下腸間膜動脈の2つの動脈域に区別することはできる。さらに、その血管の走行はアカゲザルとほぼ同じ分岐のパターンをもっている。
  • 宮木 孝昌, 林 省吾, Buhe SICHEN, 伊藤 正裕
    セッションID: B-6
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/06/30
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    (目的)肝臓の動脈供給パターンは、起始の違いによって大別された3種の肝動脈の組み合わせと出現数によって、三重動脈供給(MSD型)、二重動脈供給(MS,MD,SD型)および単一動脈供給(M,S,D型)の7型にわけられ、これらの7型がヒトでは出現することが記載されている(宮木、2000)。ニホンザル(9例)とアカゲザル(4例)では、肝動脈の起始動脈の1つである腹腔動脈の起始の高さが、ヒトのそれより低く(尾方に)位置する例および二重動脈供給の例がある(Miyaki,Ito,1994)。今回、アカゲザル20例を使って、これらのことを調査し、検討した。
    (材料と方法)狭鼻猿マカク属、アカゲザ(Macaca mulatta)20体(雄と雌各10体)の腹部内臓を使用した。材料は10%ホルマリン液で固定したあとで50%アルコール液に保存したものを使用した。腹部内臓の血管系を剖出して、肉眼解剖学的観察を行った。
    (結果と考察)以下の5項目で20例を観察すると、1)腹腔腸間膜動脈(腹腔動脈と上腸間膜動脈の共通幹)を形成していたもの2例と形成していないもの(腹腔動脈と上腸間膜動脈が共存)18例、2)肝臓の動脈が腹腔腸間膜動脈(の腹腔動脈)から起こるもの(2例)、腹腔動脈の総肝動脈から起こるもの(16例)、前腸間膜動脈から起こるもの(3例)、3)肝臓の動脈が2本存在するもの(1例)、1本だけのもの(19例)、4)肝臓が二重動脈供給のもの(1例)、単一動脈供給のもの(19例)、5)腹腔動脈および腹腔腸間膜動脈の起始の高さは、ヒトのそれより低く(尾方に)位置するもの(20例)、であった。
  • -山梨県富士北麓地域における事例研究-
    吉田 洋, 林 進, 北原 正彦
    セッションID: B-7
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/06/30
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    深刻化するニホンザルによる農作物被害に対して、有効な被害対策を確立するためには、その基礎資料となる正確な被害発生状況の把握が不可欠である。そこで本研究では、山梨県富士北麓地域に生息する西桂群を対象に、ニホンザルが加害する農作物の種類と分布を把握することを目的とした。調査は、まず対象群に発信機を着け、ラジオテレメトリーにより群れの位置を測定し、その場所に調査者が移動する方法で行った。そして、ニホンザルが加害している現場を目視した場合は、その位置と作物を記録し、加害を直接観察できなくても、農作物に新鮮な歯形や引抜きの痕が残っている場合は同様の記録を行った。調査は2003年7月から実施した。その結果、夏期(7~8月)には、トマトや茄子などの果菜類や豆類に被害が集中し、林縁から加害地点までの距離は、9割以上が50m以内と比較的短かった。秋期(9~11月)になると果樹、とくに柿の被害が増え、林縁から加害地点までの距離は長くなった。冬期(12~2月)には、被害作物の種類と被害頻度がもっとも増え、ネギや白菜などの葉茎菜類や大根などの根菜類が加害され、さらに稲の落ち穂や収穫されなかった作物への摂食が多くなった。また、林縁から加害地点までの距離は、観察期間の中でもっとも長くなり、最長約180mに達した。このことからニホンザルは、森林内の食物が少なく、耕作している農地が少なくなると、林縁から遠く離れた農地まで移動し加害する傾向があるといえる。またニホンザルは、果菜類や柿、冬期の葉茎菜類など、視覚的に目立つ色の作物を加害する傾向があることから、農地の囲い込みや遮蔽物の設置など作物を見えにくくする農地管理手法を採用すると同時に、農地における摂食機会を増大させ、その結果有用作物への加害要因となる収穫放棄作物を撤去することにより、被害を軽減できる可能性があることが示唆される。
  • 森野 真理, 小池 文人
    セッションID: B-8
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/06/30
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    (目的)さまざまな防御策がとられてきたにもかかわらず、なぜ、猿害は減らないのだろうか。捕獲などで被害が減らない理由は、環境変動に対するサルの適応能力にあると考えられる。被害低減と野生のサル個体群維持との両立をめざすならば、農作物の魅力以上の襲撃リスク、もしくは新たな生息環境を設定し、害獣群を人為的に誘導することが必要である。本研究では、サルの襲撃を誘引/阻害する空間要素を明らかにする。
    (方法)対象地は鹿児島県屋久島小島地区とし、猿害対象作物は果樹とした。まず、果樹園の被害を4レベルに分け、被害レベルに対する果樹園-空間要素間の距離の影響を調べた。設定した空間要素は、森林(広葉樹林・スギ植林)・居住地・道路・河川である。次に、各要素を説明変数とした重回帰分析を行った。
    (結果)森林および川幅の大きい河川については、果樹園に近いほど被害レベルが大きかった。特に、広葉樹林から65m未満に位置する果樹園で被害レベルが大きかった。逆に、居住地および幅員が中程度の道路については、近いほど被害レベルは小さかった。重回帰分析により、被害レベルには、広葉樹林および道路との距離の寄与が大きいことが示された。
    (考察)結果より、害獣群であっても、生活拠点として自然林への依存は高いと考えられる。サルを誘導するために自然林を回復するのであれば、農地に隣接した植林・再生は避け、農地から少なくとも65m以上離れたより山側に設定すべきであろう。
  • 斉藤 千映美, 森光 由樹, 清野 紘典
    セッションID: B-9
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/06/30
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    (目的)ニホンザルによる農作物被害管理のために、防除をはじめ多様な方策と考え方が提示されてきた。その一つが、サル生息地の環境をコントロールすることで行動圏管理を行うものである。本研究は、相対的に森林への選好性を高め、集落への選好性を低めるため、サルの好む農地周辺の実験的管理を試みる。
    (方法)仙台市西部地区奥新川A群のサルは、農作物被害を出すことから管理が求められている。私たちは2001年からの調査で明らかになった群れの食性を元に、環境改変対象を決め、改変地区を仙台市・地域住民との折衝で決定、2003年10月に管理伐採事業を実施した。
    (結果)サルはほぼ通年、森林と農地の境界部に特徴的に多く見られる食物(以下、境界性食物)に強く依存していた。境界性食物には(半)野生化したクワやクリ、林縁性ツル類、タケノコ、残菜、墓地の供物などを含む。また過去の耕作放棄によって二次林化した場所で採食・休憩する時間が長い。そこで個人による管理が難しい一定面積のクワ等の伐採、ササ類の下刈りを実施した。実施対象はいりくんだ民有地で、集落の合意を得るために約1年間話し合いが持たれた。伐採は集落組合に委託して実施した。また得られた木材を有効に活用するため、地元主催の炭焼き学習会を実施した。環境改変において、地域の普及啓発と被害地拡大の予防の必要性、廃材の処理方法などを課題として挙げることができる。
    (考察)これまでのところ、伐採前の同じ季節と比較して、サルの環境改変集落の通過回数は少ない。しかし、群れの行動圏は事業開始以前から河川下流方向へと移動する傾向が続いており、必ずしも伐採が出没軽減の直接の原因であるとはいえない。環境改変は、人里環境にまだ慣れの進行していないサルを対象に、下流への分布域進行と里山環境への慣れを阻止することにより、最大限の効果があがるのではないかと思われる。
  • 山田 彩, 田中 俊明, 室山 泰之
    セッションID: B-10
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/06/30
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    各地でニホンザルによる農作物被害が増加しているなか、その対策とニホンザルの保全を考えていく上で、被害をおこすニホンザルの生態学的研究が期待されている。そこで本研究では、サルの環境選択と生息地内の食物利用可能性の関連を明らかにすることを目的とした。調査は、三重県と奈良県の県境に生息し農作物被害を起こしているニホンザル一群を対象にラジオテレメトリ法による追跡調査を行なった。同時に農地における食物利用可能性の指標として各集落の採食可能な作物のある農地面積・果樹本数を、森林の食物利用可能性の指標として各植生における採食可能な樹種の胸高断面積合計・密度を月ごとに算出した。季節ごとにサルの行動圏を比較してみたところ、冬季に顕著な行動圏面積の縮小がみられた。一部の集落は冬季に集中利用されていただけでなく、年間を通じて利用されていた。また、行動圏を200m×200mのグリッドに区切り、それぞれのグリッドの利用頻度と代表植生を調べた。利用頻度を季節間で比較したところ、夏と秋では低頻度で利用するグリッドが多いのに対し、冬は低頻度で利用するグリッドの数が少なく高頻度で利用するグリッドの数がやや多く、夏と秋には行動圏内の広い範囲を低頻度で利用し、冬には狭い範囲を高頻度で利用していることが判明した。植生ごとの利用頻度を調べると、コナラ林は春から秋にかけてのみ利用されていた。食物利用可能性の変動をみてみると、農地では通年利用可能性が高いのに対し、コナラ林では月によって大きな差があった。以上から、森林の食物利用可能性が高い時期には、森林と農地の両方を利用しており、森林における食物利用可能性が低下する冬には、集落やその周辺の森林を主に利用していることが示唆された。冬季にみられた集落ごとの利用頻度の差から、食物利用可能性だけでなくその他の要因もサルの土地利用に影響を与えていたと考えられた。
  • 清野 紘典
    セッションID: B-11
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/06/30
    会議録・要旨集 フリー
    ニホンザルによる農作物の至近的な被害の発生要因を探る試みは少ない。そこで、サルの農地への嗜好性と農地での性年齢ごとの行動差異を明らかにすることにより被害発生の程度に影響を与える要因について考察したい。対象群である仙台市西部に生息する奥新川A群(96頭)は、約8年前から農作物に加害するようになった。もっとも被害が深刻な8月~10月の間に群れを追跡して、サルが農地に出現したら出没個体の性年齢を記録し、ランダムに個体1頭を選択しスキャニングした。これらから出現した農地の物理条件(農地から人家及び林縁までの最短距離、農地面積)と農地滞在時間、出現頭数、行動の関係を調べた。調査の結果、群れの8月~10月の行動圏のコアエリアは3つにわかれ、そのなかにほとんどの農地が含まれていた。出没した農地では、林縁からの距離が遠く・人家から近いと出現しにくく、逆に林縁からの距離が近く・人家から遠いと出現しやすい傾向があった。また、このとき出現した個体の性年齢によって同時に出現する個体数と構成、周辺を見回す(Scaninng)回数に差が見られ、農地の物理的条件との関係性が見出された。これらから、農地に依存性の高い群れにおいて、出現する農地の嗜好性は物理的条件のより動機付けされるが、それは各個体間で現れる行動の差異によって影響を受けると考えられる。また、結果的に各個体の行動差によって被害の発生状況が変化する可能性があることが示唆された。
  • 西村 剛, 三上 章允, 鈴木 樹理, 加藤 朗野, 熊崎 清則, 前田 典彦, 田中 正之, 友永 雅己, 松沢 哲郎
    セッションID: B-12
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/06/30
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    喉頭嚢は、声帯付近に開口部を持つ嚢状の器官で、霊長類の多くの種にみられる。大型類人猿の喉頭嚢は、他の霊長類のものと比べてひじょうに大きく、両側の喉頭室から頚部前面を経て、胸部や腋下にまで広がる。しかし、ヒトでは病的なものを除いては喉頭嚢がみられない。喉頭嚢の進化は、大きな音声の生成やロコモーションの進化との関連性が示唆されている。本研究では、チンパンジーにおける喉頭嚢の成長過程を明らかにし、その変化とそれらの機能発達との関連性を考察する。本研究では、京都大学霊長類研究所で2000・2003年に出生した4個体のチンパンジー乳幼児を対象とした。磁気共鳴画像法を用いて、それぞれ定期的に矢状断面画像を撮像し、喉頭嚢の成長を観察した。両側の喉頭室から伸びた嚢は、4∼6ケ月齢までに舌骨と甲状軟骨の間の正中付近に達する。6ケ月齢までには舌骨内側に広がる。9ケ月齢には両側の嚢は正中で癒合していた。以降、一つとなった喉頭嚢は、頚部前面を尾側に向かって伸張し、24∼30ケ月齢までには頚部前面全体に広がり胸骨上縁に接する。30ケ月齢以降には、さらに胸骨前面の胸部に広がる。本研究では腋下の観察は技術的に観察でなきなかった。チンパンジーでは、6∼9ケ月の間に両側の嚢が正中で癒合すると考えられる。この時期に、チンパンジーでは共鳴音声の生成頻度が低下することが知られている。つまり、喉頭嚢と音声生成能力の成長は必ずしも一致しないことから、大きな喉頭嚢の音声生成に関連する適応進化という示唆は支持されない。むしろ、呼吸器官や声帯の成長発達の後に、喉頭嚢がその機能を担うようになると考えられる。喉頭嚢の成長には、ブラキエーション等のロコモーションの発達との関連性がみられる。大型の体でのブラキエーションには、急激な呼気流の緩衝を必要とする。よって、大きな喉頭嚢はその機能適応として進化したと示唆される。
  • 中野 良彦
    セッションID: B-13
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/06/30
    会議録・要旨集 フリー
    霊長類は非常に多様な適応放散をとげたグループであり、その運動様式に関しても様々なタイプを示している。こうした異なった運動カテゴリーに分けられる各種の霊長類において、共通して見られる運動タイプの一つに垂直木登り運動があげられる。その意味で、垂直木登り運動の分析は霊長類の運動の進化についての指標となると考えられ、特に類人猿の行う垂直木登り運動は、ヒトの直立二足歩行の獲得過程を解明する際の大きな手がかりの一つとしても注目されている。そのため、これまで数種の霊長類における垂直木登り運動ついて実験的研究を行ってきた。その結果、見かけ上同様の垂直木登り運動であっても、四肢の運動パターンは独自の機能的特徴を有していることが示されている。次の課題として、こうした木登り運動の機能的特徴がどのように発達するのかについて検討するため、実験的研究を行っている。被験体として岡山県玉野市にある林原自然科学博物館附属類人猿研究センターにおいて飼育されているチンパンジー4頭を用い、同センター職員の方々の協力を得て、定期的にその垂直木登り運動のビデオ撮影を行い、その運動パターンについて分析比較している。各個体の形態的面での発達には、個体差があり、ほぼ同じ時期に生まれた個体同士でも体重差が大きい。そうした面を考慮すると、現在までのところ、発達時期による差よりもこの体重差という要因の方が垂直木登りの運動パターンに与える影響が大きいと考えられる。大型類人猿であるチンパンジーにとって、重力に抗する運動である垂直木登りでは、当然考えられる結果であるが、さらに詳しく検討を進めて発表する。
  • 濱田 穣, Nontakorn URASOPON, Kanya KAWIN, Bambang SURYOBROTO, Suchinda MA ...
    セッションID: B-14
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/06/30
    会議録・要旨集 フリー
    Introduction The evolutionary history of long-tailed macaques (Macaca fascicularis) has not been thoroughly elucidated because of the paucity of on-site data collection. We conducted field research on the diversity in various biological parameters in long-tails in Thailand and Java. Here we present the result of preliminary analyses on morphometry and body color.
    Materials and Methods From temporary Catch-&-Release field works, we collected morphometric and body color data from 10 troops of long-tails in Thailand and one from Indonesia. One Thai rhesus troop was also inspected in northeast Thailand. Basic statistics of body color, somatometric sizes and proportions were calculated for adult subject data, and the latitudinal correlation was Principal component analysis (PCA) was applied using major body lengths.
    Results and Discussion The geographical cline in body size was not clear because some northern troops were smaller, and a southern troop was larger than those expected from latitudes of their habitats. Relative tail lengths, however, showed a significant latitudinal variation, that is, northern populations tended to have relatively shorter tails (<120%) than the southern Thai populations (>125 %). The plottings of first two PCA score showed the geographical pattern: size in general and extremity proportion separated troops. The rhesus had the larger body size and rather greater relative extremity lengths to which some long-tail troops showed similarity. The body color of northern-most troop was the lightest and the most vivid, and on the other hand, that of southern-most troop in Thai was the darkest and the most dull. However, the geographical cline was not clearly observed. In conclusion, simple geographical clines as those conforming to Bergman’s and Gloger’s rules were not found between local troops of long-tails in Thailand and Java, but relative tail length and combination of morphometric size and shape showed distinctive geographic pattern. Phylogenetic and adaptational explanations are required for the geographic variation pattern, for example, supposed isolation by the Isthmus of Kra or the degree of arboreality.
  • 高野 智
    セッションID: B-15
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/06/30
    会議録・要旨集 フリー
    ヒト上科霊長類の進化に関する研究において、肘関節は、化石標本が比較的豊富なことと、その形態とによって、注目を集めてきた。現生ヒト上科は、ぶら下がり適応と呼ばれる肩部、腕部の一連の形態と、「滑車状」の上腕骨滑車-尺骨滑車切痕、短縮した肘頭など、特殊化した肘関節をもっている。ところが、前期-中期中新世の化石ヒト上科では、こうした特徴は発達していない。シバピテクス(Sivapithecus)では、上腕骨の遠位部に現生ヒト上科に近い形態が見られるが、ぶら下がり適応と見なされる特徴は見られない。一方、クモザルなどは、一連のぶら下がり適応と見なされる形態を備えているが、肘関節部は一般的な形態を維持しており、現生ヒト上科に見られるような特殊化を遂げていない。ヒト上科の肘関節の特殊化は、ぶら下がりとの関連で説明されることが多い。しかし、上のような矛盾を考えると、ヒト上科の肘関節の特殊化については、ぶら下がり以外の移動様式の影響を考慮する必要があると思われる。だが、化石種において、外部形態のみから、移動様式を推定するには限界がある。骨の形態を決める要因には、系統や、移動様式、加齢変化など、様々なものが考えられるが、一般に、骨の内部において、緻密骨、海綿骨といった材料の配置は、その骨にかかる負荷を反映したものになっていると見なされる。そのため、骨内部での材料の配置と移動様式との関連パターンがわかれば、外部形態と合わせて、化石種の移動様式を知るための有力な情報となる。本発表では、尺骨の近位部の内部形態の予備的な比較について報告し、ヒト上科の肘関節の特殊化の要因について考察する。
  • 中務 真人, 國松 豊, 辻川 寛, 酒井 哲弥, 實吉 玄貴, 田中 里志, 沢田 順弘
    セッションID: B-16
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/06/30
    会議録・要旨集 フリー
    近年600万年前に遡る初期人類が発見され、人類・チンパンジー分岐の様相の解明が進むかと期待されている。こうした最初期のホミニド間の関係、また、鮮新世猿人との系統関係の分析を進める上で、骨格特徴・生態特徴の極性の特定がきわめて重要である。ところが、そうした作業に欠かせないアフリカ類人猿化石資料は極めて貧弱である。ケニア、ナカリ山周辺は、後期中新世の動物相を産出することが知られていたが、本格的な発掘、地質学的調査は行われず、既知の後期中新世化石サイトとしてはケニアでただ一つ手つかずで残されていた。われわれはナカリ地域における古人類学的調査を2002年より開始し、23の化石サイトから200点を超える動物化石を収集した。化石の状態は断片化が進んでおり、中型以上の動物の資料が中心であった。単純に資料数を見ればウシ科とキリン科で過半数を占め、続いてサイ科、イノシシ科、ヒッパリオンなどが多数であった。2004年度の調査では、化石の豊富なサイトの集中的な発掘、柱状図の作成、年代決定を行う予定である。ところで、(ゴリラ(チンパンジー・人類))という関係があるとして、これらの運動様式の進化についての考え方は大きく二つに分かれる。1)チンパンジー・人類の最後の共通祖先は樹上性の類人猿であった。チンパンジー、ゴリラの地上性とナックルウォークは平行進化した。人類は地上に降りると同時に二足歩行に進化した。2)三者の人類の最後の共通祖先は地上性のナックルウォーカーだった。人類はその後、二足性に進化した。ナカリ地域での発掘はこの問題に答える証拠を見つけることを目指しているが、発表では現在利用できる資料からこの問題について議論を行う。なお、2002年度の調査は京都大学霊長類研究所COEプログラム、2003年度の調査は京都大学大学院理学研究科生物科学専攻21COEプログラムの補助を受けた。
  • 江木 直子, 高井 正成, Soe Thura Tun  , 茂原 信生, 鍔本 武久, 西村 剛
    セッションID: B-17
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/06/30
    会議録・要旨集 フリー
    アンフィピテクス科は、始新世後半の東南アジアに分布した化石霊長類である。その系統的な位置は未解決で、真猿類の起源と関連して議論されてきた一方、化石曲鼻猿類のアダピス類と近縁であるという意見もある。始新世化石霊長類は主に歯顎の形態特徴から研究されているが、本研究では、アンフィピテクス科の系統的な位置の決定に四肢骨形態が有効であるかどうかを検討した。アンフィピテクス科の四肢骨については、上腕骨と踵骨・距骨の標本が見つかっている。これらの保存部位の計45形質について、アンフィピテクス科の形質状態を、現生種や第三紀前半の化石種のものと比べてみた。比較サンプルにはキツネザル上科、アダピス上科、オモミス上科、メガネザル、初期真猿類、広鼻猿類が含まれる。先行研究では、アンフィピテクス科の系統位置について、初期真猿類、アダピス上科ノタルクトゥス亜科、アダピス上科の基幹という主に3つが示唆されている。これらの系統仮説にしたがった場合について、系統解析プログラムMacCladeを用いて、アンフィピテクス科の形質状態の系統的な意義を解釈した。どの仮説に従った場合も、アンフィピテクス科の形態の半数近くが、現代型霊長類の中での原始的な状態の保持と解釈された。幾つかの形態は直鼻猿類や真猿類の共有派生形質と解釈することが可能で、四肢骨形態にもとづいて、アンフィピテクス類が少なくとも直鼻猿類に属すことは示唆できる。特に足根骨の形態には直鼻猿類の派生形質が多く見られる。アンフィピテクス科の上腕骨形態はアダピス上科基幹での形質状態とも類似点が多い。しかし、アダピス上科との共有派生形質と考えられるものはほとんどない。アンフィピテクス科とアダピス上科の四肢骨形態の類似は両者の近縁性を支持するとされていたが、この研究の結果はアダピス上科との類似はむしろ原始的と解釈されるべきであることを示唆する。
  • 河村 正二, 平松 千尋, Filippo AURELI, Linda M. FEDIGAN
    セッションID: B-18
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/06/30
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    新世界ザルは色覚に高い種内変異を有する点で全動物中特異であり、色覚と行動の関連を研究する上で希有で優れた観察系を提供する。色覚の違いは赤-緑視物質の遺伝子型の違いによりもたらされることがわかっており、我々はこれまでに糞DNAから赤-緑視物質遺伝子の遺伝子型を判定する非侵襲的方法を確立してきた。今回我々は色覚と行動の関連を研究するために必要な前段階として、色覚の変異が野生集団に実際に存在するかどうか、そしてそれはどのような頻度で存在しているのかを検証する目的で、コスタリカ共和国サンタロサ国立公園に棲息する野生フサオマキザル(Cebus capucinus)2群(各18頭)とチュウベイクモザル(Ateles geoffroyi)1群(25頭)を対象に糞の採集とそこからの赤-緑視物質遺伝子型の判定を行った。これまでにオマキザルの1群では13個体について2つの異なる糞サンプルで一致した判定結果を得ることができ、色覚型を確定した。さらに3個体について1つのサンプルから色覚型を推定した。もう1群では9個体について色覚型を確定し、さらに7個体について推定した。クモザルでは5個体について色覚型を確定し、さらに8個体について推定した。オマキザルの1群では赤-緑視物質に緑、黄、赤と便宜的に呼ばれる3つの対立遺伝子が確認され、それらの頻度はそれぞれ約10%、40%、50%であった。そのうち雌では1頭を除いて全て3色型色覚であった。一方もう1群では全ての個体が2色型色覚であり、赤の頻度が97%と圧倒的であった。クモザルでは2つの対立遺伝子が確認された。そのうち黄型と推定される遺伝子はこれまでに報告が無く新しい赤-緑視物質遺伝子の対立遺伝子であった。頻度は黄型40%、赤型60%であった。これらの結果から色覚変異が実際に野生新世界ザル集団に存在し、その頻度分布は種や集団により大きく異なることを示した。
  • 庄武 孝義, 山根 明弘, Ahmed BOUG
    セッションID: B-19
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/06/30
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    発表者らは1997年以来サウジアラビアのマントヒヒの遺伝的変異を検索してきている。今回はこれまでに行ってきたエチオピアの純粋と思われるマントヒヒ(ソマリアとの国境近くに生息している群)とサウジアラビアのものとのミトコンドリアDNA変異を比較し、両者の遺伝的分化を定量し、紅海を挟んで生息する種の由来を考察しようと意図した。サウジアラビアでは北はメジナから南はナジランまで南北1000 kmの間で9群(メジナ、タイフ近郊4群、アルバッハ、アブハ、ワジダバン、ナジラン)160頭から採血を行い、またエチオピア上述の1群から40頭の採血を行い合計200頭の試料を検索した。ミトコンドリアDNAのD-loop の上流部の340塩基配列を決めた。その結果サウジアラビアのものからは19ハプロタイプ、エチオピアのもから6ハプロタイプが見いだされた。これらのハプロタイプをNJ法でクラスタリングしてみるとサウジタイプとかエチオピアタイプと言うようにははっきりとした区別は不可能であった。またアヌビスヒヒのハプロタイプに近いものがサウジアラビアのものに見られたり非常に複雑な様相を示した。この結果は近い過去に両者の間に遺伝子の交流があったことが示唆されが、今後はエチオピア内部のマントヒヒ、アヌビスヒヒやそれらの雑種のハプロタイプを検索し、両者の特性を明確にしてゆきたい。
  • 中山 一大, 石田 貴文
    セッションID: B-20
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/06/30
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    (目的)メラノコルチン1レセプター(MC1R)は、Gタンパク共役型7回膜貫通レセプターで、メラノサイトで発現しメラニン合成の制御に重要な役割を果たしている。また、ヒトをはじめとする多くの哺乳類で、MC1R遺伝子(MC1R)上の変異が毛色・皮膚色多様性の遺伝的背景となっていることが明らかになっている。シロテテナガザルの体毛色は多様性に富むが、その背景となっている遺伝子は未だ同定されていない。そこで本研究ではMC1Rのシロテテナガザルの体毛色多様性への寄与を調査した。
    (方法)タイ中央部のシロテテナガザル26個体(暗色12個体、明色14個体を含む)について、PCR、サブクローニング、ダイレクトシーケンシングによってMC1Rの多型検出ならびにハプロタイプの決定を行った。さらに、COS-7細胞における一過性発現系を用いて、各ハプロタイプにコードされるMC1RのcAMP産生能を、酵素免疫アッセイによって測定した。また、他のテナガザル属の種についてもMC1Rの塩基配列決定を行った。
    (結果)対象固体中に9個の単一塩基多型から構成される8種類のハプロタイプが発見された。しかし、これらのハプロタイプと特定の体毛色の相(明色あるいは暗色)の間には有意な関連性は発見されなかった。また、cAMP産生能にも関しても、ハプロタイプ間で大きな差異は認められなかった。
    (考察)これらの結果から、MC1Rはシロテテナガザルの体毛色決定に関与していないことが示された。しかし、cAMPアッセイの結果、シロテテナガザルMC1Rは恒常的活性型に進化していることが示された。他種との塩基配列の比較から、テナガザル属の全体の祖先系列に生じたMet73Thr置換がこの恒常的活性化の原因であると考えられる。
  • 平井 啓久, 平井 百合子, Ana Karina ZAVALAGUILLEN, 田上 哲也
    セッションID: B-21
    発行日: 2004年
    公開日: 2005/06/30
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    核小体形成部位 (NOR) の不活性化は、以前から色々な生物で知られていた。特に、ヒトではNORを持つ10本の染色体のうち、7∼8本だけが活性である個体が多いことが知られている。しかし、その機構は未だに不明な点が多い。そこで、その不活性機構を解明する目的で、NOR近傍のクロマチン構造が異なる、ヒトとチンパンジーのNOR不活性化機構を解析した。ヒト48個体およびチンパンジー46個体の染色体を用いて、18SリボソームRNA遺伝子(rDNA)の局在部位決定、ならびにrDNAが存在する部位におけるNORの活性を調べた。加えて、NOR不活性を生じる染色体において、構成ヘテロクロマチン(C-バンド)の存在様式とDNAメチル化についても解析した。両種はrDNAの存在様式多型に大きな相違を示した。すなわち、ヒトではrDNAを失う変異が56%の個体に観察されたのに対し、チンパンジーでは11%にすぎなかった。NORの活性解析では、rDNA陽性部位がNOR陰性になる(rDNA(+)/NOR(-))頻度がヒトでは48%であるのに対し、チンパンジーでは65%であることが明らかになった。rDNA(+)/NOR(-)の機構を探るために、DNAメチル化とクロマチン構造の解析を行ったところ、メチル化が生じている染色体と、不活性部位がC-バンド領域と一致していることが観察された。今回下記の2点が明らかになった。第1に、ヒトではrDNAの座位を失う変異が有意に多いのに対し、チンパンジーでは座位の消失変異は少ないが、NORの不活性頻度が高い。第2に、連続染色法解析から、NORの転写活性は下記の3つの機構によって生じていることが示唆された:(1)rDNAの消失、(2)rDNAのメチル化、(3)C-バンドの位置効果によるrDNAの発現沈黙。結論として、ヒトとチンパンジーの間でrDNA消失変異が異なる理由は、ヒトのrDNAは非相同染色体間交叉によって移動できる位置に存在し、チンパンジーのそれは一部が交叉の生じ得ない領域に存在するためであると推測できる。一方、チンパンジーの染色体にNOR不活性化が頻発する理由は、メチル化に加えてC-バンドの位置効果による遺伝子沈黙も生じていることに起因しているらしい。
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