霊長類研究 Supplement
第25回日本霊長類学会大会
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自由集会1 ニホンザルの稀な行動に関する情報の交換
  • 山田 一憲, 中道 正之, 中川 尚史
    p. 1
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/06/17
    会議録・要旨集 フリー
    本自由集会の目的は,全国各地で観察されたニホンザルの稀な行動に関する情報を交換し,その魅力を参加者と共有することに加え,稀な行動の観察を研究として成立させるための道筋を探ることである。われわれは,昨年度の日本霊長類学会大会において,「ニホンザルにおける社会行動の文化的変異:情報収集のためのネットワーク作り」と題する自由集会を企画した。その際,参加いただいた方々にご協力を仰ぎ,社会行動のみならずニホンザルでは稀にしか見られないであろう行動に関するアンケート調査を行なうとともに,さらに情報交換するためのメーリングリストを立ち上げた。本自由集会の前半では,まず中川がアンケート調査の集計結果について報告する。次に中道,山田が,稀な行動の観察を研究として実践させた事例として,昼間出産,基盤使用行動,子殺しを例に報告する。自由集会の後半は,参加者がこれまでに観察した稀な行動を披露していただく時間帯とし,最後に,稀な行動の観察を研究として成立させるための道筋について議論する。本自由集会の特徴は,後半に予定している参加者による“お宝映像”の披露にある。対象がニホンザルで,かつ動画,あるいは静止画に収められていることが望ましいが,行動を具体的に表現して頂けて“すべらない話”であれば,画像はなくても構わない。また,画像を伴うなら他種の霊長類の稀な行動も歓迎する。当日飛び入りで発表いただいても構わないが,できれば事前にyamada@wrc.kyoto-u.ac.jpまでご一報願えれば幸いである。参加者が「稀な行動」に関する情報の交換を楽しむことによって,次のオリジナルな研究が展開していくことを期待している。
自由集会2 社会の学としての霊長類学(第3回)―「他者」としての他個体と「社会的な複雑さ」
  • 花村 俊吉, 清野(布施) 未恵子
    p. 2
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/06/17
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    近年の霊長類学や隣接諸分野のトピックの1つである「社会的な複雑さ」とは一体何を指しているのだろうか。そもそも何が「社会的」なのだろうか。過去2回の同名自由集会において,ヒトを含む霊長類の社会を捉える多様な認識論と方法論が議論されてきたが,本自由集会では,社会生活を営む個体は「モノ」ではなく各々が主体的にふるまう「いきもの」であり,ある個体にとって他個体は自分のふるまいに応答する「他者」であるという事実に再度立ち帰りたい。他個体が「他者」であるということは,交渉相手のふるまいを完全に予測することができず,自分のふるまい次第で相手のふるまいも変化するということを意味する。このことは相手にとっても同様であり,複数の個体が互いに相手のふるまいに依存しつつ交渉するという事態が生じる。こうした事態は,霊長類学や隣接諸分野でも社会の複雑さの由来として扱われてきた。たとえば「マキャベリ的知性」は,こうした事態において,他個体のふるまいを予測して自分の繁殖成功度を高めるようにふるまうために進化してきたと考えられている。また,「ゲーム理論」が出発点とする個体間のジレンマは,まさにこの事態のことであろう。これらの研究によって,霊長類の行動戦略や認知機構とそれらの進化について様々なことが明らかになってきたが,その一方で,研究者がフィールドで観察する霊長類の社会生活のリアリティーやその複雑さには,そうした個体の行動・認知やそれらを表現する遺伝子に還元するだけでは捉え切れない側面もあるように思われる。今回は話題の焦点を霊長類に絞り,霊長類たち自身の時空間的な文脈のなかで個体間の交渉によって生じる社会現象に関する複数の観点からの話題提供を通して,その社会が複雑と呼ばれていることの内実に迫りたい。動物行動学や人類学などの隣接分野からのコメントも交え,参加者とともに霊長類の社会について理解を深めていきたい。
    話題提供
    小川秀司(中京大・国際教養):マカクの「さるだんご」の形成過程(仮)
    中村美知夫(京都大・野生動物):霊長類の接触行為と個体概念の再考(仮)
    花村俊吉(京都大・理):チンパンジーの長距離音声による行為接続とその文脈(仮)
    コメント
    藪田慎司(帝京科学大・アニマルサイエンス)
    木村大治(京都大・アジアアフリカ地域)
自由集会3 筋形態から見た霊長類学
  • 藤野 健
    p. 3
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/06/17
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    日本霊長類学会が設立されて25周年を迎えたが,本学術大会の場では筋の形態に関する発表がほぼ途切れることなく続けられている。近年,若手研究者による発表も見られるようになり,この辺でヴェテランと若手で同じテーブルに着き,筋のマクロ形態の持つ意義についてその方法論的な問題も含めて論じ合う場を設けたらどうかと思い至った。今回はたまたま筋線維構築の仕事に関与する研究者が集積したが,これは当然ながら筋形態の仕事の極一部であることをここにお断りしておく。発表予定メンバーはいずれも各分野の専門家であり,方法論的には,生体の行動観察,筋の電気生理学的指標並びに筋紡錘・筋酵素活性の解析,また前肢・肩の筋,体幹起立筋群,後肢の筋の三次元的配置と筋線維内部構築に関する各動物間での比較解析,さらに筋線維構築とそれが付着する骨形態,関節機構,他の軟部組織(靱帯等)との関係の解析,などの視点に立ち,それを基に霊長類の筋骨格系の進化並びにロコモーションの進化に関してこれまで深い考究を継続して行っている。軟部組織としての筋は骨などの硬組織とは違って,計測して各種パラメータを得る自体に困難が多く,形態の持つ機能的意義を解釈するのは容易では無いが,それゆえに各研究者は自己の方法論についての問い直しを絶えず試みていると言えよう。この集会の場で,筋形態研究の持つ霊長類学への意義と果たし得る貢献について,また同時に,現在の筋形態研究の抱える方法論的な制約を認識した上での今後の展望について,活発な討論が交わされることを期待する。
  • 熊倉 博雄
    p. 107
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/06/17
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    我々が霊長類学の枠組,すなわちヒトに至る人類進化の過程を知ることを見据えて筋の形態分析を行う目的は,その筋の機能(function)を知ることにある。肉眼解剖学的な定性的観察は筋の作用(action)を示すことはできるが,実運動時の機能を探るためには限定的な知見しか示してくれない。筋電図法を肉眼解剖学的検索と同時に行なうことはこうした制限をある程度取り除いてくれる。しかしながら,「機能を知る」という観点からは精緻な運動計測手法と組み合わせる必要があり,霊長類の運動実験でどの程度まで「精緻」性が確保されるかという点には疑問がある。具体的には,体肢セグメントの回旋運動や体幹全体の運動について,正確なデータを得ている実感がない。このような状況の中で,筋電図学的研究を基礎におきながら,筋配置の問題に取組んできた。一旦は筋線維構築の問題から筋の機能分析を行う手段を模索したが,その過程で筋線維構築そのものが変異に富むため,一般化することが困難であることに気付いた。現実の筋線維構築は複雑な三次元的構造であって,そのモデル化は形態学者の手に余る。機能分析の最終的な目的に関しては筋全体の出力と力の方向こそが重要なのであって,筋線維構築はミクロ的にすぎると考えた。そこで,ある出力を持った筋を骨構造に対してどのように「貼りつける」かという筋配置の問題に取組んだ。この試みは一定の成果をあげたと考えているが,筋電図の解釈のような制御系の問題を解決するには至らなかった。そこで,筋内の機械的受容器である筋紡錘の配置の問題に取組んだ。この計画は現在も継続しているが,多大な時間を要するために現状では限定的な知見しか得られていない。次には,関節そのものの運動制限機構の実態を知ることが,精度的に不十分な運動計測を補完することになると考え,現在は靭帯配置が手がかりになると考えている。
  • 日暮 泰男
    p. 108
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/06/17
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    筋の機能を推定するために,解剖学的知見を補う手法として筋電図法が機能形態学分野で用いられてきた。現在も有用性のあるこの手法について,2008年に発行されたIntegrative and Comparative Biology誌48巻2号では小特集が組まれ,その意義と限界が議論されている。2000年以降に発表された,ロコモーションを対象とする筋電図学的研究は少数ではあるものの,機能形態学分野で意義ある成果を報告している。本発表は,ロコモーションにおける筋の機能を理解するために,筋電図法を用いた機能形態学的研究の最近の動向を紹介することから始める。現在の研究は2つの方向性のうちいずれかをもって進められている。ひとつは,筋活動電位を記録すると同時に,筋力や筋の長さの変化などを計測し,筋の機能をより詳細に解明することを目的とするバイオメカニクス分野の研究。もうひとつは,とくに霊長類を研究対象として,霊長類の四足歩行に見られる歩容や運動学的特徴と筋の機能との関連を調べることを目的とする自然人類学的研究である。発表者の所属研究室では,自然人類学的な立場から筋電図学的研究を行ったので,本発表の後半ではその成果を報告する。解剖学的所見から上腕のレトラクタ(retractor)に分類される広背筋,大円筋,大胸筋尾側部は,霊長類の四足歩行では上腕が後方に引っぱられるとき,活動しないか,あるいはわずかな活動電位しか発生させないことが知られている。筋活動電位に見られるこの特徴は霊長類の四足歩行における体重支持の後方移動などとの関連が指摘されている。発表者の所属研究室では,未検討であるマカク類(ニホンザル)を対象とした実験を行い,仮説を検討した。また,三角筋と上腕三頭筋の筋活動電位を計測し,それらの機能についても調べたので,その結果もあわせて発表する。
  • 小島 龍平
    p. 109
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/06/17
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    霊長類の固有背筋の比較機能形態学的な解析の出発点として,ニホンザル胸腰部固有背筋の筋束構成,筋構築,筋線維タイプ構成を検索してきた。固有背筋を構成する各筋は,起始停止を互いに異にする多数の筋束により構成される。したがって,起始,停止,走行中に越える関節等の基本的な解剖学的特徴も起始停止の異なる単一の筋束ごとに記載する必要がある。筋束長,筋線維部分の長さ,筋束長に占める筋線維部分の長さと腱部分の長さの比,筋束重量,単位長さ当たりの筋束重量といった筋構築学的測度は,筋の短縮量,発揮張力等の生体力学的特性と関連する。また,筋線維タイプ構成は収縮速度,代謝特性などの生理学的特性と関連する。ニホンザルの胸部の腸肋筋は比較的近くの分節間を連結する多数の筋束より構成され,また遅筋線維の割合が比較的多かった。これに対して胸部の最長筋は互いにより離れた分節間を連結する筋束より構成され,腸肋筋に比べ速筋線維の比率が高かった。また,腰部の仙棘筋は大きな筋量をもち,速筋線維の占める比率が比較的高かった。発表ではこれらの知見を紹介し,ニホンザルの胸腰部の固有背筋の機能形態学的特性について考察するとともに,今後の研究の課題について展望する。
  • 菊池 泰弘
    p. 110
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/06/17
    会議録・要旨集 フリー
    霊長類種8種(ヒト,チンパンジー,テナガザル,ヒヒ,ルトン,マカク,オマキザル,リスザル)を対象に,小円筋を除く回旋腱板(肩甲下筋・棘上筋・棘下筋)について,皮質骨厚と筋力指標値(生理的筋断面積・PCSA)の相関関係について調査した。結果:チンパンジーは,ぶらさがり行動を主な移動様式とするテナガザルよりは,むしろ四足歩行を主な移動様式とするマカク・ヒヒに類似した特徴をもつことが分かった。テナガザルのブラキーエーションによる移動様式では,骨の筋付着部は受動的な張力を強いられることが予測される。この場合,四足歩行の霊長類における張力よりも大きいと考えられ,テナガザルにおける筋付着部の皮質骨が相対的に厚いという分析結果との関連性が示唆される。オマキザルも観察される頻度は少ないが,ぶらさがり行動することが知られており,結果として筋付着部の相対的な皮質骨厚を増す一要因となっているのではないかと考えられる。旧世界ザルとリスザルにおいては,筋付着部の皮質骨厚は相対的に薄い結果となったが,それは,彼らの主な移動様式は四足歩行であり,ぶらさがり行動主体の霊長類に比べると,筋付着部に張力がかかることは少ないためなのかもしれない。ヒトでは,肩甲下筋はマカクに,棘上筋と棘下筋ではルトンに似た特徴を示し,ヒトの回旋腱板における皮質骨厚とPCSAの相関関係は,四足歩行をする旧世界ザルと類似していた。これらの結果と共に,上腕および前腕の骨・筋について調査した結果も併せて,ヒト・上肢の機能形態学的解釈について検討する。
  • 高橋 裕
    p. 111
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/06/17
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    肉眼解剖的手法により剖出した筋は,筋の付着部や筋を支配する末梢神経さらには周囲の筋との関連から筋の機能的特性を伺い知ることができる。比較解剖にあっては相同性の有無が吟味できる。筋腹や腱の形状は筋収縮特性に合致している。筋が起始と停止で示す骨への付着範囲や,運動の支点となる関節から筋付着部までの距離などからは,その筋が関わる運動特性が判る。これらの形態的特徴は各個体で少しずつ異なることが普通で,一定の個体差,雌雄差,左右差に収まっている。足背外側で伸筋群の最外側に位置する第三腓骨筋はヒトの場合は欠損する事が稀であるのに対してゴリラやカニクイザルでは出現する事が稀である。これは進化の過程で小指の働きが増したことと一致している。長腓骨筋はヒトとカニクイザルでは母指基節骨底部の付着場所が異なる。サルは枝掴みに,ヒトは地面のけりだしにそれぞれ働くのに都合の良い位置に付着している。この様に,相同筋にあっても,筋の形状を細かく見るとその動物固有の運動様式に合致している事がわかる。筋の変異は治療の対象はならないことが多い。生活習慣が大きな原因となる外反母指などの発症予防の知識としては意味がある。
  • 藤野 健
    p. 112
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/06/17
    会議録・要旨集 フリー
    爬虫類からの哺乳類化に伴い肩帯の構成要素が大きく縮小・退化した。この改変で肩関節は胸郭に対する自由度を著しく増大し,それに関節する上腕骨の胸郭に対する運動性も大きく質を変えた。即ち前肢操作能はその基部に於いて骨性要素に拠る関節運動性の制限を減らし,筋に拠る能動的で自由度の高い運動制御と関節維持(脱臼防止)機構への変換を遂げたことになる。この様な肩周りの特徴は,関節運動性の変化と共に筋の形態が如何に変化し移動・分化或いは退化していくのか,その機構を探る上での強力なヒントを与え得る。例えば烏口上筋(相当筋)が発生の過程で肩甲骨の前縁が盛り上がり,それが次第に尾方に移動して棘突起が形成されるに従い,2分して棘上下筋に分化する(Cheng,1955)事が知られるが,上腕骨の運動制御性に関するベクトル解析では後者が主に肩関節の固定に作用する筋であるのに対し,前者は明らかに上腕骨の遠位端を空間的に移動させる為の筋であり(藤野,1997),肩関節が自由度の増大と引き替えに脱臼し易くなったが,それらに対処すべく筋機能の鞍替えと再配分が図られたと考えられる。肩周りの筋は多様な運動性への要請から線維構築的に複雑な筋形態を呈し,更にそもそも関節運動の解明が未だ不十分である事も加わって,筋線維束の肩関節周りの空間配置や内部構築の機能的意義の解釈がなかなか進まない現状にある。いわば形態と機能とを点対点として関連づける自体が容易ではないのだが,近縁な系統を飛び越えたものとの比較が,形態の点から点への推移,即ち進化のあり方について新たな視点を与え,霊長類の肩の進化について突破口を開く可能性をここに強調したい。
公開シンポジウム
  • 竹ノ下 祐二
    p. 4
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/06/17
    会議録・要旨集 フリー
    現在,「母親」が揺らいでいます。生活様式の急激な変化や多様化により,母親たちが自らの「あるべき姿」を見出すことが困難になっています。他方,さまざまな「あるべき姿」が提示される中,その「あるべき姿」になれず悩む母親も増加しています。そのため,母親の育児をめぐる悩みは深刻化し,それが時には育児放棄や虐待,子殺し等の問題として顕在化しています。現代の母親はどうあるべきなのでしょうか。さまざまな分野の研究者,実践者たちが,議論していますが,なかなか答えは見えてきません。
    日本の霊長類学は,ヒトを含めた霊長類の研究を通じ,人類社会の進化,人間の本性を解明することをその目的の一つとしてきました。母親の行動・社会関係・心理・母子間相互作用といった問題に関しても,フィールドワークに基づく野外研究,実験室での心理学的研究,生殖生理といった諸領域からの多くの研究の蓄積があります。
    「子ども学」は,「子ども」およびその周辺領域に関する,総合的な新学問分野です。それは,発達心理学,保育学,小児科学,教育学といった,既存の学問分野の枠組みを超え,子どもという存在を総合的に捉え,「子ども理解」を基本に,発達障害や子育て支援といった現代的問題にもとりくむ領域です。
    そこで本シンポジウムでは,まず霊長類学の立場から,ヒトの母親をめぐる議論にあらたな論点を提示しようと思います。次いで,そうした論点をどのように発展させてゆくことができるか,子ども学の立場から検討します。ふたつの学問領域をクロスさせた討論を通じ,現代の母親問題を解きほぐす糸口を探りたいと考えています。

    霊長類学からの話題提供
    チンパンジーの母子の参与観察から見えてくる「母親」
    明和政子(京都大学大学院教育学研究科)
    母になること,母でいること ―ニホンザルとヒトの母子関係比較―
    広谷浩子(神奈川県立生命の星・地球博物館)
    「母親」を育てる ~母性を引き出すきっかけづくり~
    不破紅樹(林原生物化学研究所類人猿研究センター)
    だれもが「母親」:アフリカ焼畑農耕民社会の「母親」のすがた
    杉山祐子(弘前大学人文学部)
    子ども学からのコメント
    林陽子(中部学院大学子ども学部)
    別府悦子(中部学院大学子ども学部)
    オーガナイザー
    竹ノ下祐二(中部学院大学子ども学部)
口頭発表
  • 山田 博之
    セッションID: A-1-1
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/06/17
    会議録・要旨集 フリー
    人類進化史のかなりの期間(400-150万年前)においてAustralopithecus属,Paranthropus属とHomo属が共存していた。
    これらの間には,犬歯形態に違いが見出される。彼らは異なる系統であるばかりでなく,異なった生態・社会をもち,それは犬歯形態に反映されている。霊長類の犬歯形態は性的二型を著明にあらわすことで広く知られている。
    人類においても犬歯は性的二型が他の歯よりも強く現れるが,男女間に大きさの差はあまりない。犬歯の形態にあまり変異性がないとの予断により,犬歯の比較形態に関する研究はほとんどない。人類の棲み分けのモデルとして,今回は現生マカク属11種のメスをとりあげる。
    先の研究でマカク属のオスでは上顎犬歯形態に4つの外形パターン(?T型:遠心縁の曲率が強い,?U型:遠心縁の曲率が弱い,?V型:遠心縁が直線的で,全体に細長い,?W型:遠心縁の曲率が弱く,全体的に丸い)が存在していることが明らかになった。
    メスの上顎犬歯は他の歯と同じような大きさを示し,一見して単純と思われ,オスのような特殊な形態はしていない。
    しかし,メスの犬歯形態もオスと同じように,種内および種間において外形パターンに変異性が示唆された。本研究では,マカク属の中でメスの犬歯形態にどのような変異が存在するのかを比較検討する。
  • 山本 亜由美, 國松 豊, 濱田 穣, 川本 芳
    セッションID: A-1-2
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/06/17
    会議録・要旨集 フリー
    背景:ニホンザル(Macaca fuscata)もタイワンザル(M. cyclopis)も,どちらもカニクイザル種群に含まれ,マカカ属の中でも比較的近縁である。和歌山県では人の手によって持ち込まれたタイワンザルが野生化し,周辺のニホンザルとの交雑をしながら世代を重ねた。近年これらの交雑個体は駆除が進められ,骨格標本化されている。
    目的:今回はオスの歯牙に着目し,まずニホンザルと比較した際のタイワンザルの歯牙形態特徴を明らかにし,その後に交雑の影響を検討した。
    方法:ニホンザル,タイワンザル,両種の交雑集団の計3集団を対象に,上・下顎の歯牙の近遠心径と頬舌径をデジタルノギスによって0.01 mmまで計測した。交雑個体の交雑度は川本芳らによる遺伝的分析に基づいて,純粋なニホンザル(8/8)から純粋なタイワンザル(0/8)まで9段階に分けた。
    結果:全体的にタイワンザルの歯牙はニホンザルに比べて小さく,ニホンザルの地域集団の中でもっとも小さいヤクシマザル集団に比べても小さい。しかしながら歯種ごとの比較では,タイワンザルの上・下顎の犬歯と下顎第3小臼歯は必ずしも小さくなく,ニホンザル全体の平均値に近い。逆に大臼歯部についてはニホンザルの各地域集団と比べて上下とも明確に小さく,しかも遠心の大臼歯ほどその差は大きくなる。
    以上から,タイワンザルの歯列は相対的に大きなC-P complex部と小さな大臼歯部により特徴づけられる。犬歯と第二大臼歯を指標として交雑個体を見ると,ほとんどの個体はニホンザルの変異内にとどまっているものの,少数ながらニホンザルともタイワンザルとも異なる個体が出現している。また,歯種によっては,タイワンザルの比率が高い交雑個体はタイワンザルの変異内に近く,ニホンザルの比率が高い交雑個体はニホンザルの変異内に近い傾向が見られた。
  • 酒井 朋子, 三上 章允, 西村 剛, 平井 大地, 濱田 穣, 鈴木 樹理, 宮部 貴子, 友永 雅己, 田中 正之, 松沢 哲郎
    セッションID: A-1-3
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/06/17
    会議録・要旨集 フリー
    ヒトの知性や行動を本質から理解するうえで,ヒトにおける脳の発達の特異性を明らかにし,その進化的由来をたどることが重要であると考えられる。
    わたしたちは京都大学霊長類研究所で磁気共鳴断層画像法(MRI)を用いることにより,世界で初めて大型類人猿における乳幼児期から児童期までの脳の発達過程を縦断的に明らかにした。これにより,ヒトにおける脳の特異性の由来を,系統発生と個体発生の観点から包括的に分析することが可能となった。
    今回の研究では,(1)ヒトで顕著に発達しているとされてきた大脳,(2)思考,判断,行動計画,社会性など高次の精神機能を司り,ヒト知性の座と考えられてきた前頭前野,(3)情動と社会性に強く関与する扁桃体の三つの脳領域の発達過程についてヒトとの比較を行った。
    その結果,両者の乳幼児期から児童期にかけての発達様式が驚くほど共通しているが,一方で発達期間はヒトでは特異的に延長される可能性が高いという新知見を得た。この知見は,ヒトの脳の進化的基盤を解明するうえで大いに貢献すると考えられる。
  • 友永 雅己, 兼子 峰明
    セッションID: A-2-1
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/06/17
    会議録・要旨集 フリー
    われわれは複数の個体のうち誰と誰が社会的交渉を行っているか容易に判断できる。この判断は単純に個体間の空間的な近接関係にもとづいてなされるのではない。少し離れていても行為や注意の方向の共有などが重要な手がかりとなっている可能性があるだろう。逆に言えば,視線の共有などが存在する場合には個体間の「距離」はすこし近く感じられるということもあるのかもしれない。今回の発表では,この可能性について比較認知の観点からチンパンジーを対象に検討を行った結果について報告する。6個体のチンパンジーが参加して,モニタ上に水平に提示された3つの刺激のうち中央のものから「より遠い」方を選択すれば正解とする相対的距離判断課題を訓練した。まず,着色された円を刺激として用いて訓練をし,その後未知のヒトの正面顔および横顔を用いてテストを行った。その結果,円や正面顔では主観的等価点はほぼ物理的な等距離に一致したのに対し,横顔を用いた場合には,顔が向かい合っている側の距離が有意に過小評価された。つまり,お互いに見つめあっている顔どうしは「近く」感じられるようだ。この結果の解釈についてはさらなる検討が必要なのは言うまでもないが,視線による注意のシフトの影響,さらには,視線の共有(あるいは見つめあい)による社会的単位の明瞭化といったことが起きている可能性が示唆される。
  • 狩野 文浩, 友永 雅己
    セッションID: A-2-2
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/06/17
    会議録・要旨集 フリー
    アイ・トラッキングの手法を用いて,ヒトとヒトに最も近縁なチンパンジー(Pan troglodytes)の眼球運動の比較研究を行った。この試みは世界に先駆けて本研究が初めてである。実験では,ヒト・チンパンジー・その他様々な動物の全身画像を観察中の,ヒト・チンパンジー被験者の眼球運動を記録した。両種の眼球運動は極めてよく類似していたが,同時に興味深い差異も明らかとなった。両種ともに,画像の中でも人物/動物像を,身体部位の中でもとくに顔を長く注視した。また,顔を注視する回数と順序も両種においてよく似ていた。とくに,両種とも写真を提示した直後に顔を注視することが多かった(1・2番目の注視点が顔部位に定位する確率)。しかし,両種において決定的に異なる点は,顔を注視する一回あたりの長さであり,チンパンジーで平均300 ms,これはヒトの平均680 msに比べはるかに短かった。また,チンパンジーの注視点の移動(サッカード運動)はヒトよりも頻繁で,より大きく動く(角度)ことが多かった。これらの結果は,比較認知研究の発展に向けて新たな方法を示すとともに,ヒト特有の視線行動(あるいは情報処理方略)の理解に新しい知見をもたらす。
  • 兼子 峰明, 友永 雅己
    セッションID: A-2-3
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/06/17
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    本研究ではトラックボールを入力装置として用いて,チンパンジーにおいてセルフエージェンシーの知覚が成立するのかを検討した。セルフエージェンシーの知覚とは,環境中に観察された変化のうち,自己に由来するものと,その他の要因により生じた事象を区別する認知機能である。チンパンジーは鏡に写った自分の姿を自分の像だと認識できるということが報告されている。一方で,鏡に向かい腕を繰り返し上下に振るといった身体と鏡像の動きの同期を確かめるような行動を行うことが知られている。チンパンジーは,鏡に写った“自分の姿”が初めからわかったのではなく,鏡に写った像の“動き”が自己に起因するものだとわかったのではないだろうか。そこで本研究では,トラックボールとモニタを用いて被験個体の外見が関与しない状態で,行為における自己の認識に焦点を当てた。テストでは画面に2つのカーソルが表示された。ひとつはチンパンジーが操作した,もう一方はコンピューターによって制御された。チンパンジーは,2-5秒間の操作場面の後に,タッチパネル上で「自分の操作していたカーソル」を触れれば報酬を得た。コンピューター側が動かしていたカーソルに触れると不正解となった。実験に参加した4個体のうち3個体のチンパンジーは自分が操作していたカーソルを正しく選択することができた。また現在までに2個体のチンパンジーにおいて,カーソルの運動パターンの違いなどにもとづく視覚手がかりのみよる弁別ではなく,自己の運動とカーソルの動きとの照合にもとづく反応であることが確認された。今後残りの個体についても検討していく必要はあるが,以上の結果はチンパンジーにおいてセルフエージェンシーの知覚が成立することを示唆する。
  • 花塚 優貴, 緑川 晶
    セッションID: A-2-4
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/06/17
    会議録・要旨集 フリー
    カテゴリ認知とは対象を任意の基準にもとづいて分類する能力のことであり,ヒトにおいて特に発達している機能の一つである。比較認知科学の立場から,これまでヒトに最も近縁なチンパンジーにおいてもカテゴリ認知が可能であることが示されてきた。一方ヒトやチンパンジーと近縁なオランウータンを対象とした検討は少なく,カテゴリ認知の研究もオペラント条件付けを用いたものに限られているため,判断が学習の結果である可能性も否定できない。そこで本研究では,オランウータンのカテゴリ認知について生体が本来持つ嗜好をより反映しやすい選好注視法を用いて検討した。対象は多摩動物公園にて飼育されているオランウータン1個体(推定53歳のメス,ジプシー)とした。個体の寝部屋の前にノートパソコンを設置し,動物の写真8枚(ラクダ・ウマ・サイ・ゾウ・ウシ・ヤギ・イヌ・ネコ)と人工物の写真8枚(イス・テーブル・ベンチ・ベッド・クルマ1・クルマ2・クルマ3・トラック)をそれぞれ1枚ずつ15秒間呈示した。個体の注視反応の様子はノートパソコンの画面下に取り付けられたCCDカメラによって記録し,各刺激に対する注視時間を計測した。その結果,動物の写真を人工物の写真よりも有意に長く注視していたことが明らかになった。訓練を伴わない選好注視法において動物と人工物に対する注視時間に有意差が示されたことから,オランウータンが自発的にもカテゴリ認知を行っている可能性が示唆された。
  • 山梨 裕美, 渡邉 祥平, 佐々木 花子, 古橋 保志, ジャマン モハマド・フィロジュ, 林 美里
    セッションID: A-2-5
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/06/17
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    飼育下のチンパンジーは,食べたものを吐き出し,再び食べるという吐き戻し(Regurgitation and Reingestion)行動を時折おこなう。先行研究から,採食時間の延長や,繊維質の食べ物の増加による,吐き戻しの減少の事例が報告されてきたが,はっきりとした原因や対策はわかっていない。
    本研究では,京都大学霊長類研究所の8歳のオスのチンパンジー(アユム)の吐き戻しを効率よく減少させることを試みた。アユムは,昼食・夕食後(給餌量約600~900 g),認知実験中・後(給餌量約50~150 g)に吐き戻しをおこなっていた。実験期間は2009年1月から2009年4月で,屋外サンルーム・認知実験室で実験・観察をおこなった。
    まず,昼食後,6個体の群で生活しているサンルームにイタリアンライグラス1.5 kgをまき,アラカシなどの木の枝を各個体0.2 kg与え,昼食後30分と,認知実験中,夕食後のアユムの行動を観察した。結果,昼食後の吐き戻しがなくなり,認知実験中の吐き戻しが減少し,さらに吐き戻そうとして失敗するという行動が観察されるようになった。しかし夕食後の吐き戻しは変わらなかった。このことから,吐き戻しをおこなう時間を減らすことだけではなく,リンゴ等を食べる前に,繊維質の豊富な木の枝を与え,吐き戻しをしづらくさせるということも吐き戻しの減少につながることがわかった。しかしその効果は長時間続かない。
    次に,夕食前に木の枝を0.1 kg,または0.2 kg与え,夕食後の行動を観察した。夕食後にも吐き戻しを失敗するようにはなったものの,時間がたつと吐き戻しを連続しておこなった。このことから,多量の食べ物を与える昼食・夕食後には,草を探しながら食べることで時間をつぶさせ,少量の食べ物を与える実験中・後は,あらかじめ木の枝を与えておくという別々の対策を組み合わせることが効果的であることが示唆された。
  • 樋渡 智秀, 白井 祐介, 三上 章允, 後藤 俊二, BAMBANG Suryobroto, DYAH Perwitasari-Faraj ...
    セッションID: A-3-1
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/06/17
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    ヒトを含む狭鼻猿類はL,M,Sの3種類の錐体オプシンを持ち,3色型色覚である。LとMオプシン遺伝子はX染色体上に隣接しており,塩基配列も類似している。ヒトではLとMオプシン遺伝子間の不等交差により一方の遺伝子の失欠や両遺伝子のキメラが生じている例が多く,いわゆる色覚異常の原因となっている。一方,ヒト以外の狭鼻猿類ではそれらは例がないか極めて低頻度と報告されている。しかし,ヒト以外の狭鼻猿類でL-Mオプシン遺伝子領域の多型性を塩基配列レベルで多数の個体に対して調査した例は1種のチンパンジーのLオプシンについてのみである。そこで本研究では,これまで色覚多型の知見がないテナガザルの3属8種(H. lar,H. agilis,H. muelleri,H. klossii,H. moloch,H. pileatus,S. syndactylus,N. leucogenys)158個体を対象に,LとMの両方のオプシン遺伝子に対して,エクソン3~5までのゲノム領域約3.6 kbを,PCR法と塩基配列決定によって解析した。その結果,遺伝子欠失やキメラは存在せず,各遺伝子の塩基配列の多型性はエクソンがイントロンよりも低いことを明らかにした。これは両遺伝子とも,多くの遺伝子と同様に強い機能制約下にあることを示している。一方,LとMオプシン遺伝子の間の塩基配列の相違ではエクソンはイントロンより高かった。吸収波長に関わるアミノ酸サイトは少数であることから,このことは,LとMオプシン間で塩基配列を均一化させる遺伝子変換が生じており,エクソンでは各遺伝子の機能(吸収波長)の違いを保持する選択圧により,エクソンに生じた遺伝子変換が集団中に残らないことを示唆している。これらのことはヒトとヒト以外の狭鼻猿類においてはL-Mオプシン遺伝子に対する自然選択の様相が全く異なることを示している。
  • 菅原 亨, 郷 康広, 鵜殿 俊史, 森村 成樹, 友永 雅己, 今井 啓雄, 平井 啓久
    セッションID: A-3-2
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/06/17
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    哺乳類の味覚は,基本的に甘み・酸味・苦味・塩味・うま味の5つを認識することができる。その中で苦味は,有毒な物質の摂食に対しての警告であり,ほぼすべての動物が苦味物質に対して拒否反応を示す。一般に苦味は,有害物質の摂取に対する防御として進化してきたと考えられている。一方,チンパンジーにおいて寄生虫感染の際に自己治療として植物の苦味物質を利用することが知られている。苦味は薬理効果のある植物の認識としての役割も併せ持つことを示唆している。我々は,霊長類における苦味認識機構の進化・多様化に興味を持って研究をおこなっている。
    苦味は,七回膜貫通型構造を持つ典型的なG蛋白質共役型受容体の1種であるT2Rを介した経路で伝わる。T2Rは,舌上皮の味蕾に存在する味細胞の膜上で機能しており,全長およそ900bpでイントロンがない遺伝子である。近年の研究で,T2Rは霊長類ゲノム中に20~40コピー存在していることがわかっている。特徴的なことは,その遺伝子数がそれぞれの生物種で異なることである。これらの種特異性は,採食行動の違いと関連があると考えられる。また,ヒトやチンパンジーでは,味覚に個体差があることが知られているが,その要因はT2R遺伝子群の1つであるT2R38の一塩基多型(SNP)であることが明らかにされている。T2Rの機能変化は,個体の味覚機能に直接影響を与えると考えられる。
    本研究では,46個体の西チンパンジーでT2R遺伝子群の種内多型を解析した。T2R遺伝子群の進化や個々のT2R遺伝子のSNPを解析し,チンパンジーにおける味覚機能の進化や採食行動との関連性を考察した。
  • 松井 淳, 郷 康広, 新村 芳人
    セッションID: A-3-3
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/06/17
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    嗅覚受容は,7回膜貫通型の嗅覚受容体が環境中のにおい物質を分子認識することにより開始される。多様なにおい物質に対応するために,ゲノム中には多数の嗅覚受容体遺伝子が存在し,それらは哺乳類最大の多重遺伝子族を形成している。
    霊長目の進化の過程において,三色色覚の発達と引き換えに嗅覚の相対的な重要性が低下し,嗅覚受容体遺伝子が失われていったとする仮説がある。嗅覚機能の進化の道筋や,ヒト嗅覚の特異性を理解するためには,霊長目の様々な種についてゲノムデータから全嗅覚受容体遺伝子を網羅的に同定し,比較解析することが重要である。そこで本研究では,オランウータン,マーモセットのゲノム配列から,嗅覚受容体機能遺伝子・偽遺伝子の同定を行い,これまでに同定されたヒト,チンパンジー,アカゲザルの遺伝子と共に比較解析を行った。
    その結果,マーモセットの偽遺伝子の割合は,他の4種に比べて低いことが分かった。マーモセットは完全な三色色覚をもたないので,これは先行研究と一致する結果である。しかしながら,マーモセットの機能遺伝子数はヒトやチンパンジーとほとんど同じで,むしろアカゲザルやオランウータンの方が少なかった。このことは,偽遺伝子の割合では機能の優劣を推測できないことを示唆している。さらに,5種間で嗅覚受容体機能遺伝子の相同遺伝子を同定し,比較解析を行った。その結果,狭鼻猿類の系統で機能遺伝子は徐々に失われており,三色色覚の獲得によって嗅覚受容体遺伝子が急激に失われたということはないことが示された。また,5種の共通祖先がもっていた嗅覚受容体遺伝子は,ヒト,チンパンジー,マーモセットに比べてオランウータン,マカクでより大きく失われていた。従って,他の霊長目に比べて,ヒトの嗅覚はそれほど退化していないと考えられる。
  • 鈴木 南美, 菅原 亨, 松井 淳, 郷 康広, 平井 啓久, 今井 啓雄
    セッションID: A-3-4
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/06/17
    会議録・要旨集 フリー
    ヒトやチンパンジーでは,PTCという苦味物質に対する苦味感受能力に個体差のあることが古くから知られていた。この個体差は,舌で発現している数十種類の苦味受容体遺伝子(T2R)の1つであるT2R38の変異が要因であることが近年報告されている。
    我々は,T2R38の種内・種間多型をニホンザルおよびアカゲザルで解析し,他の霊長類種と比較することで,T2R38の種内多型が存在する意義や味覚機能との関連性,進化の過程で変異の起こった背景を明らかにすることを目的に研究をすすめた。
    霊長類研究所内で飼育されている合計243個体の遺伝子型を決定した結果,ニホンザルではT2R38遺伝子中に9カ所,アカゲザルでは7カ所で一塩基多型(SNP)が同定された。他のT2R遺伝子(T2R3,4,10,16,40など)では各遺伝子あたり平均1カ所のSNPが同定されたのに対して,T2R38では多くのSNPが観察された。
    このことから,ニホンザルやアカゲザルでもヒトやチンパンジーと同様にT2R38の遺伝子多型が苦味感受性に個体差を生じさせている可能性が示唆される。2種の多型解析結果から,ニホンザルとアカゲザルのT2R38ではそれぞれ独立に9種類のハプロタイプがあることがわかった。また,ニホンザルのT2R38は大きく2つのクラスターに分けられた。
    両者の違いは,受容体の細胞内領域に存在している2つのアミノ酸置換であり,Gタンパク質などの細胞内情報伝達系との相互作用に影響を与えている可能性が示唆される。発表ではこのようなアミノ酸変化に着目して,T2R38の遺伝子多型の成立過程や,受容体の機能に基づいた味覚の個体差との関係性について議論したい。
    また,T2R38が受容する物質はアブラナ科植物に含まれる苦味物質に類似しているため,霊長類の食性とT2R38の遺伝子型についても考察する。
  • 河村 正二, 樋渡 智秀, 岡部 友吾, 筒井 登子, 平松 千尋, 太田 博樹, 印南 秀樹
    セッションID: A-3-5
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/06/17
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    新世界ザルは一般にX染色体性のL-Mオプシンに吸収波長の異なる対立遺伝子多型があることにより,高度な色型多型を示す。この多型は種を超えて非常に長く持続していると考えられることから,色覚多型には平衡選択が働いていると考えられてきた。しかし,L-Mオプシン遺伝子のヘテロ接合体である3色型色覚の採食における優位性は従来考えられていたほど明瞭ではなく,遺伝的多型の持続時間を左右する有効集団サイズは未知のままである。さらに20頭程度の小集団である野生群における遺伝的浮動や集団サイズ変動の遺伝的変異性への効果もこれまで評価されておらず,L-Mオプシン遺伝子に対する平衡選択は検証を要している。
    そこで我々はコスタリカ共和国サンタロサ国立公園に生息するクロテクモザル(Ateles geoffroyi)とシロガオオマキザル(Cebus capucinus)の野生群を対象とし,機能遺伝子のイントロンや偽遺伝子を中立対照として,L-Mオプシン遺伝子の塩基配列レベルの多型性を評価した。両種ともL-Mオプシンの塩基多型性は中立配列のそれより大きい一方,種間で固定した塩基相違度は中立対照の方が高かった。このことは高い種内多型性が突然変異率を反映しているのではないことを示している。また,どちらかの種で固定した種間相違塩基サイト数に対する種内多型を示す塩基サイト数の比は,L-Mオプシン遺伝子の方が中立対照領域より有意に高かった(McDonald-Kreitman test)。
    さらに,中立対照領域の塩基多様度に基づくcoalescence simulation においてTajima’s D値は,L-Mオプシン遺伝子では期待分布域から正の方向に有意に逸脱した。これらの結果はすべて平衡選択がL-Mオプシン遺伝子領域に働いていることを強く示している。
  • 福世 裕貴子, 足立 和隆, 河村 正二, 太田 博樹
    セッションID: A-4-1
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/06/17
    会議録・要旨集 フリー
    概日リズムとは,約24時間周期の行動的リズムの総称であり,BMAL1・CLOCK転写調節因子複合体が時計遺伝子PeriodCryの上流領域(転写調節領域)に結合することで転写・翻訳を開始し,これらの産物であるPER・CRYタンパク質複合体が自身の発現を抑制するという分子機構(ネガティブ・フィードバック)により形成されることが,ショウジョウバエやマウスなどの分子生物学的研究から明らかにされてきている。
    しかし,霊長類ではヒトを対象とした研究がほとんどであり,霊長類全体で昼行性/夜行性の多様性が観察される概日リズムのパターンが,いかなる分子機構の違いにより生じているかは不明である。そこで本研究ではパイロット実験として,ヒトでcis-elementの研究が進んでいる時計遺伝子Period 1に着目し,原猿類と真猿類で遺伝子上流領域配列の比較検討を行った。
    まず,国際データベースからPeriod 1遺伝子領域を含むゲノム配列を取得し,Window Homology Analysisを行った。その結果,転写調節因子結合モチーフを複数含む領域からExon 2にかけての上流領域が非常に高い保存性を示すことが明らかとなった。
    次に,この上流領域約4 kbを対象とし,真猿類(ヨザル,コモンマーモセット,チンパンジー)と原猿類(オオガラゴ,ショウガラゴ,ワオキツネザル)のゲノムDNAをテンプレートとしたPCR-直接塩基配列決定を行った。これら配列について転写調節因子結合モチーフを含む5つの領域に分け比較解析を行い,分子系統樹のトポロジーおよび塩基配列の二次構造予測が種の系統関係を反映するか,または夜行性/昼行性の特徴を反映するか検証した。
    本発表では,これらの結果を報告し,霊長類の夜行性/昼行性の多様性を調べる上で,時計遺伝子のどの転写調節因子結合モチーフと領域に着目すべきか議論する。
  • 平井 啓久, 宮部 貴子, PERWITASARI-FARAJALLAH D., PAMUNGKAS J.
    セッションID: A-4-2
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/06/17
    会議録・要旨集 フリー
    アフリカ大型類人猿(チンパンジー,ボノボ,ゴリラ)の染色体は末端にヘテロクロマチンの塊を保有することが古くから知られている。その内部構造を分子レベルで解剖したところ,テロメア,ヒト内在性レトロウィルス,ならびにサブターミナルサテライト(ss DNA)などの反復配列から構成されていることが明らかになった(Hirai et al. 2005)。我々は配列の特性からその領域をRCROと命名した。ss DNAはチンパンジーにおいて始めてその存在が確認されたもので,テロメアの直近に存在するものである(Royle et al. 1994)。その先行研究では,この配列はチンパンジーとゴリラだけに存在し,ヒトとオランウータンに存在しないことから,アフリカ類人猿の共通祖先に出現し,ヒト系統群で消失したものと推論した。今回はそのss DNAの系統進化を明確にするため,霊長類の4大系統群を含む23種の染色体を,特異的プライマーを用いたprimed in situ labeling(PRINS)法で調べた。
    方法はプライマー5’GCGGTACCTTTCCATGTTTATG- GAGATAGCGG3’を用いて,PCRホットプレート上で,93度5分のDNA変性,ならびに61度30分のアニーリングと伸展をおこなうものである。プライマーが反応した部位は,PCR反応溶液に混入したハプテン・ヌクレオチド(dig)を,蛍光色素標識した抗-dig結合体で検出することで確認できる。蛍光顕微鏡で反応場所を観察したところ,チンパンジーでは18対の染色体,ボノボでは16対,ゴリラでは全染色体対,そしてシャーマンでも全染色体対の主に染色体末端が染色されることが明らかとなった。陽性であることが確認されたのはこの4種だけで,その他の19種では反応は全く検出されなかった。
    この解析において,アフリカ大型類人猿の全種とアジア小型類人猿のシャーマンだけがss DNAを共有していることが明らかになった。このことはss DNAを含むRCROの霊長類ゲノムへの侵入時期や,そのメカニズムを考察するための重要な基礎情報となると思われるので,その進化について議論したい。
  • 河合 洋介, 斎藤 成也
    セッションID: A-4-4
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/06/17
    会議録・要旨集 フリー
    ミトコンドリアDNAは核DNAと比べて塩基配列の多様性が高く,種内や近縁種間の遺伝的多様性を測るマーカーとして重要である。
    しかしながらミトコンドリアDNAは塩基置換速度や塩基組成が生物種や系統間で一様ではなく,分子進化過程の理解はミトコンドリアDNAを用いた系統解析において重要な課題のひとつである。
    ヒトおよび類人猿のミトコンドリアDNAは他の霊長類と比べてチミン(T)の含量が低く,シトシン(C)が高いという特徴がある。この特徴はこれらの生物種に固有な塩基置換によって生じたと考えられる。
    そこで人類集団のミトコンドリアDNAの単塩基多型から突然変異パターンを推定し塩基組成変化との関係を調べた。その結果人類集団のミトコンドリアDNAではT→C方向の突然変異がその逆方向(C→T)の突然変異を上回って生じており,その結果Tの減少とCの増加が起こっていることが明らかになった。
    さらに長期的な塩基組成の動態を明らかにするために,核DNA中に存在するミトコンドリアDNAの偽遺伝子の解析により類人猿の祖先系統のミトコンドリアDNAの塩基組成の推定を行った。その結果類人猿の共通祖先種のミトコンドリアDNAの塩基組成は他の霊長類の塩基組成とほぼ同等であることがわかった。
    これらから約2000万年前にミトコンドリアDNAの塩基置換パターンに変化が生じ,その結果類人猿ミトコンドリアDNA特有な塩基組成を生じたと結論づけた。本発表ではさらにこれらの結果に関してミトコンドリアDNAの複製過程との関係を議論する。
  • 嶋田 誠, 早川 祥子, 藤田 志歩, 杉山 幸丸, 斎藤 成也
    セッションID: A-5-1
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/06/17
    会議録・要旨集 フリー
    [目的]一般的にはチンパンジーではメスが群れ間を移籍し,遺伝子流動を担っている。ところがギニア共和国ボッソウの群れでは1976年観察開始以来メスの移入は観察されていない。本研究はボッソウ群全個体の母系関係を明らかにし,遺伝的な多様性および群れの移出入に関する行動への影響への手がかりを示すことを目的とした。
    [方法]ボッソウ群では,1976年観察開始時に母親から独立して行動していたのは7個体のメスと1個体のオスであった。我々はこれら記録上の全母系について,母系遺伝するミトコンドリアDNAのタイプを決定することにより,遺伝的な関係を推定した。
    [結果]観察開始時独立個体のうちメス3個体とオス1個体が同一のタイプ(メジャータイプ)であり,現在まで常に最大個体数(約半数)を擁していた。その他の4個体のメスに由来する母系はそれぞれ別々のタイプであったが,そのうち1母系タイプは2004年に絶え,残りの3母系タイプを構成するメスは少数かつ繁殖可能年齢を過ぎており,次の世代には伝わらないと考えられる。
    [考察]仮にメジャータイプの共通祖先がボッソウ群の個体自身が母系血縁関係を認識できるほど近くインセスト回避すると想定すると,そのような想定がない場合に比べ,群れ内の交尾相手候補個体数対競争相手個体数はオス個体ではメス個体の10倍減少(つまり異性が減少し同性が増加)することがわかった。従来までの個体記録によると,ボッソウ群にメスの移入がないばかりか,オスも移出している可能性が示唆されている。また,他の群れに比べインセストを回避する傾向が薄いことを疑わせる行動観察記録も存在する。本研究はボッソウ群において,個体数の小ささだけでなく,母系の組成の偏りがミトコンドリアDNAタイプの急激な減少をもたらすとともに,群れを移出や性行動に影響を与えている可能性を示した。
    [文献]Folia Primatol 80: 19-32(2009)
  • 佐藤 亮子, 太田 博樹, JACK Katharine, FEDIGAN Linda, 河村 正二
    セッションID: A-5-2
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/06/17
    会議録・要旨集 フリー
    我々これまでコスタリカ共和国サンタロサ国立公園に生息するシロガオオマキザル(Cebus capucinus)の複数の自然群を対象に色覚に関連するオプシン遺伝子の集団調査を行なってきた。その過程でこれまでに12群,約130個体の糞由来DNAを収集してきた。これは野生動物自然群の遺伝的多様性や群れ間の遺伝的関係性を知る貴重な機会を与える。特に,常染色体性,ミトコンドリアDNA, Y染色体性の自然選択に中立的な遺伝的変異性を総合的に解析することで,性による移出入パターンの違い等に関する,行動観察結果と相補できる情報を得ることが期待できる。また,これらの情報は自然選択の対象となる遺伝的変異の研究における重要な基礎情報ともなる。本発表では中立マーカーを用いたこれらオマキザル群の遺伝的解析の第一報として,ミトコンドリアDNAの集団遺伝学的解析の途中経過を報告する。
    互いに隣接しあう5群のほぼ全個体(140個体)について,ミトコンドリアDNAの非コード領域であるD-loop約1 kbをPCR法で増幅単離し,塩基配列決定を行なった。群れごとの配列型頻度構成を調べた結果,メスは5群全体としては多様性を示す一方で群れ内での多様性は低かった。一方オスは群れ内での多様性がより顕著であった。このことはメスに比べてオスが頻繁に群間を移住する母系型の社会構造をとることを示すこれまでの行動観察の結果と一致しており,この遺伝マーカーの妥当性が確認できた。今後,解析対象集団と遺伝マーカーを増やし,本調査地における長期行動観察データの知見と総合しながら,集団サイズの動態なども含めた詳細な集団遺伝学的解析を進める。
  • 田中 洋之, 森本 真弓, 釜中 慶朗, 松林 清明, 川本 咲江, 川本 芳
    セッションID: A-5-3
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/06/17
    会議録・要旨集 フリー
    アカゲザルは実験用霊長類として広く用いられているマカクザルである。当研究所でもインド及び中国由来のサルが,それぞれ地域ごとに繁殖コロニーとして維持されている。野生のアカゲザルは,その広い分布域ゆえに遺伝的にも多様であることが知られているが,こうした遺伝的多様性は,マカクザル繁殖コロニーにも存在すると考えられる。本研究は,当研究所のアカゲザルの遺伝的多様性に関する特徴を明らかにすることを目的とした。
    インド群(n=48)および中国群(n=47)を研究対象とした。(1)ミトコンドリアDNA D-loop内のHSV1領域の塩基配列の分析:Smith & McDonough(2005)に記載されたプライマー及び条件を用いて,HSV1領域 約800bpをPCR増幅し,塩基配列を決定した。BLASTを用いて,当研究所のアカゲザルで見いだされたHSV1配列に近縁な塩基配列を検索し,その塩基配列をもつ個体の出身地域を調べた。(2)マイクロサテライトDNA多型の分析:昨年度の第24回大会で報告したマイクロサテライト,およびKanthaswamy et al.(2006)が提唱したstandardized marker set のマイクロサテライト計25遺伝子座の分析を現在すすめている。
    インド群は9家系の母系で構成されているが,7種類のHVS1タイプが見いだされた。中国群においては7母系から3種類のタイプがみつかった。BLASTによる検索結果から,インド群のHVS1タイプのうち,4種類がハプログループ Ind1に属するもの,1種類がInd2,もう1種類がBurmに近縁であることがわかった。残りの1種は,他の6種類から約10%の違いをもつ隔たりの大きいタイプであった。中国群では3種類のハプロタイプが見いだされ,うち2種類がChiEのタイプ,1種類がChiW2に近縁であった。マイクロサテライトDNAの多型調査の結果についても報告する。
  • 江木 直子, 荻原 直道, 矢野 航
    セッションID: A-6-1
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/06/17
    会議録・要旨集 フリー
    体肢骨の様々な構造は,その動物の運動行動や体重支持と関係していると考えられている。骨構造には,骨量や骨内での骨質の分布,海綿骨骨梁の方向などの内部の構造が含まれるが,これらが成長過程においてどのように形成されてくるかを観察した研究は少ない。本研究では,ニホンザルの横断サンプルを用いて,踵骨内部構造の成長変化を調べ,内部構造の形成と運動行動の発達との関係を検討した。
    資料には,胎児から9歳の成体までの個体が含まれる。もっとも若い胎児個体の体重は,新生児の約半分であり,これより若い個体では骨化がまだ進んでいなかった。出生後の個体は,すべて出生日・死亡日と性,体重が判明しているものを用いた。踵骨内部構造の観察は,結節部と後距骨関節部を中心に,CT画像にもとづいて行った。踵骨は,晒し骨か液浸状態のものを,micro CTで0.02~0.05 mmの精度で撮影した。
    後距骨関節での海綿骨骨梁は,胎児の段階で既に異方的に発達していることが観察された。結節部は部位自体が出生前には非常に小さく,骨梁の配列がはっきりするのは生後6ヶ月である。これは,アカンボウがしっかりと歩き出す時期と一致する。皮質骨の形成は後距骨関節部で生後1ヶ月,結節部では2歳ごろに始まった。後者は,コドモが長距離歩行を始める時期と一致する。皮質骨の変化は亜成体の段階でも続き,厚くなり続ける。
    本研究では,踵骨結節部の骨梁配列形成時期については,歩行能力獲得時期と一致し,運動行動発達と形態形成の相関を支持した。しかし,後距骨関節での骨梁配列は歩行能力の獲得以前に形成されており,また皮質骨の形成は歩行獲得後に長く続いた。このことから,体肢骨内部構造の個体成長における形成には,運動行動による荷重変化だけでなく,遺伝的な制御や体サイズ・筋量増加などが影響していることが示唆された。
  • 陳 華岳, 西村 剛, 高井 正成
    セッションID: A-6-2
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/06/17
    会議録・要旨集 フリー
    骨粗鬆症は骨強度の低下を特徴とし,骨折の危険性が増大する骨疾患である。現在わが国では,骨粗鬆症患者数は約1000万人と推定されている。男性より女性のほうが多く,加齢とともに著しく増加する。骨粗鬆症は高齢化社会の深刻な重荷となっている。骨粗鬆症の診断,治療,予防につながるような病態の解明には,実験動物を用いた研究が必須である。
    マウス,ラットなどのげっ歯類ではその生理・代謝機能が必ずしもヒトのものを忠実に反映していない部分がある。そこで,霊長類を用いて,その骨量と骨の微細構造の加齢変化を調査し,ヒトと比較検討する。
    3歳から26歳までのニホンザル81個体(オス38頭,メス43頭)の第3腰椎の乾燥骨標本を使用した。骨標本をマイクロCTで観察し,512×512ピクセル,スライス厚30-50 mmの条件で連続撮影した。画像解析ソフトウェアを用いて,腰椎椎体における海綿骨の三次元骨形態計測を行った。また,基準ファントムを利用して,腰椎椎体海綿骨の骨密度を測定した。
    その結果,ニホンザルでは加齢による骨量の減少はヒトに比べて少ないが,海綿骨における骨梁の配列はヒトと似ていることを明らかにした。
    ニホンザル腰椎椎体海綿骨の骨量と骨密度の値は3歳から9歳にかけて増大した。その後10歳から20歳にかけて有意な変化は認められなかった。20歳以上の骨量と骨密度の値はピーク時に比べ,14-15%減少した。また,骨量と骨密度に有意な性差はみられなかった。
    ニホンザルにおける腰椎椎体海綿骨の微細構造はヒトに類似する。上下方向の骨梁配列はほぼまっすぐになっているが,前後,左右方向ではストレートの骨が少なく,蜂の巣のような迂回路が目立つ。これは前後,左右の非荷重方向の骨梁は荷重のかかる上下方向の骨梁の変形に伴う間接的な負荷であるため,一部の骨梁が断裂したのではないかと推測する。
  • 西村 剛, 邱 占祥, 高井 正成, 張 穎奇, 金 昌柱
    セッションID: A-7-1
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/06/17
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    Paradolichopithecusは,中期鮮新世から前期更新世にかけてユーラシア大陸に生息していた地上性の大型のオナガザル亜科,ヒヒ族のサルである。ヨーロッパのほぼ全域から模式種であるP. arvernensisが産出し,中央アジアのタジキスタン南部KuruksayからP. sushkiniが見つかっている。
    フランスSenëze産タイプ標本は,鼻腔が幅広く,上顎洞がないが,Kuruksay標本には歯槽まで広がる上顎洞がみとめられる。
    2004年に中国北西部の龍担からP. gansuensisが記載,報告された。龍担標本(HMV1142,中国科学院古脊椎動物・古人類学研究所蔵)は鼻腔底表面が露出している上顎骨標本を含んでいる。本研究では,その鼻腔底形態の分析と上顎骨体内部構造のCT分析を行い,その鼻腔構造を比較検討した。
    龍担標本には,鼻腔底の左側表面が犬歯からM3レベルまで,右側表面が犬歯からM1レベルまで残っている。犬歯からM2レベルまでに上顎洞や海綿質骨領域の存在を示す特徴は認められない。M3レベルに残る上顎骨体部には,海面質骨を示す骨片がみられた。さらに,CT画像から,同体部内に上顎洞の形成を示す骨構造はみとめられなかった。
    本研究で観察された形態学的特徴は,Senëze標本に共通する。龍担標本には,M3レベルの上顎骨上部に非常に限られた上顎洞が形成されている可能性はあるものの,その形態学的特徴は上顎洞がないことを強く示唆する。一方,Kuruksay標本にはM2-3レベルに歯槽まで及ぶ上顎洞があり,両標本とは大きく異なる。
    旧世界ザル系統では,上顎洞の形成はマカク系統のみにみられる派生的特徴とされる。P. sushkiniは,地理的にはP. arvernensisP. gansuensisの中間に位置するが,それら両種とは系統位置を大きく異にするのかもしれない。
  • 高井 正成, タウン・タイ , ジン・マウン・マウン・テイン , アウン・ナイン・スー , 江木 直子, 西村 剛
    セッションID: A-7-2
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/06/17
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    京都大学霊長類研究所が行っているミャンマー中部の古生物学的調査において,2009年2月にふたつの調査地点(チャインザウック地域とグウェビン地域)から2種類の旧世界ザル類の化石を発見した。本発表ではこれらの化石の形態的特徴とその意義に関して予備的な報告を行う。
    チャインザウックの地層は,これまでの調査で見つかっていた哺乳類化石の解析から中新世末~鮮新世初頭と考えられている。今回の調査では,コロブス類の下顎骨破片と上下顎の遊離歯化石を発見した。南アジア地域で見つかっている最古のコロブス類化石は,イラン及びアフガニスタンの後期中新世の地層から見つかっているMesopithecusである。チャインザウックの化石はMesopithecusとは形態的に明らかに異なっている。また現生のアジア産コロブス類に近い化石としてはインド・パキスタンの前期鮮新世の地層から見つかっている”Presbytis” sivalensisが最も古いが,チャインザウックの化石はこれよりも明らかに大きく,少なくとも別種と考えられる。
    グウェビンの地層は,産出する哺乳類化石から後期鮮新世とされてい るが,はっきりした年代はまだ決定されていない。今回発見されたマカク類の化石は,2本の遊離歯(右下顎第4小臼歯と左上顎大臼歯)である。アジア地域の最古のマカク類の化石は,中国北部の楡社(山西省)の前期鮮新世の遊離歯化石であるが,今回のグエビンのマカク化石はそれに次ぐ古さである。
    今回ミャンマーで発見されたコロブス亜科とオナガザル亜科の化石は,東南アジア地域における最古の旧世界ザル類の化石である。東部ユーラシアにおける旧世界ザル類の進化プロセスの研究において,重要な役割を果たすことが期待される。
  • 國松 豊, 中務 真人, 沢田 順弘, 酒井 哲弥, 仲谷 英夫
    セッションID: A-7-3
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/06/17
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    ケニヤ共和国を南北に走る東部大地溝帯の東のへりに位置するナカリ地域からは大型類人猿Nakalipithecus nakayamaiを含む後期中新世の動植物化石が多数採集されてきた。日本隊の調査によってナカリ動物相には少なくとも2種の非オナガザル上科小型狭鼻猿が含まれていることがわかっていたが,2008年の野外調査によって,さらにそれら2種とは別の小型狭鼻猿が採集された。
    ナカリにおいては,ナカリ累層下部層の最上部と上部層が化石を産出している。従来,下部層と上部層からそれぞれ1種ずつ小型狭鼻猿が見つかっていた。上部層では,Nakalipithecusの模式標本が採集されたNA39地点から小型狭鼻猿の下顎片が1個見つかっていた。2008年にNA39地点で実施した発掘によって小型狭鼻猿の下顎遊離歯2個を発見したが,これらはサイズ・形態の両面で従来ナカリから産出した小型狭鼻猿とは異なるものであった。
    新たにNA39地点で発見されたのは,下顎第一・第二大臼歯である。M1は咬耗が大幅に進んでおり,M2もかなりすり減っている。従来NA39地点から知られていた小型狭鼻猿とくらべると,大臼歯のサイズが大きく,歯冠が比較的近遠心に長く幅が狭いなど,明らかに別種である。
    歯冠が比較的長いという点では,下部層(NA3地点)から知られていたもう1種の小型狭鼻猿に似るが,後者は2008年の新標本に比較してサイズが小さく,また咬合面の稜線の発達がよいという点で異なっている。
    2008年の発見によって,ナカリ動物相には少なくとも3種の非オナガザル上科小型狭鼻猿が含まれていることになり,大型類人猿や旧世界ザル類と合わせて,当時のナカリの霊長類相の多様性が非常に豊かであったことを示唆する。
  • 中務 真人, 國松 豊, 仲谷 英夫, 酒井 哲弥, 沢田 順弘
    セッションID: A-7-4
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/06/17
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    演者らはケニア国立博物館と共同で,ケニア中部ナカリ地域の古人類学的発掘調査を行っている。この化石産出層の年代は980-990万年前である。ナカリでは,大型類人猿ナカリピテクスが発見されているが,それ以外にも多くのオナガザル類が発見されている。昨年の大会では,オナガザル科コロブス亜科マイクロコロブスの部分骨格発見について予備的な報告を行った。マイクロコロブスはこれまで知られている最古のコロブス亜科のメンバーであり,ナカリ以外ではトゥゲン丘陵のンゲリンゲルワ層(およそ950-1000万年前)からしか知られていない。ナカリのマイクロコロブスは現生のコロブス類が共有する四肢骨の派生形質を数多く示す。現生のコロブス類は手の親指の退化傾向を示す。この程度には,系統間の違いがあり,アジアのグループは,機能を果たすものの同サイズのオナガザル亜科よりも短い親指をもち,アフリカのグループはほとんど痕跡的にまで親指が退化している。ところが,ナカリのマイクロコロブス骨格の分析から,マイクロコロブスでは,親指が全く退化していない事が明らかになった。マイクロコロブスの系統的位置により,その親指の解釈は異なるが,いずれにせよ,手の親指の退化が,コロブス類の中で比較的遅れて現れた四肢の特徴であることには間違いない。決定的な証拠はないものの,現在のところ比較的可能性が高いと考えられる解釈について議論する。この研究は科研費#18255006,#19107007の補助を受けておこなった。
  • 吉田 洋, 中村 大輔, 林 進, 小林 亜由美, 藤園 麻里, 杉田 幹夫, 北原 正彦
    セッションID: A-8-1
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/06/17
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    近年,ニホンザル(Macaca fuscata:以下,サルと称す)による出没被害を軽減するために,各地でモンキードッグ(サル追払い犬)の導入が進められている。しかし,モンキードッグ出動時におけるイヌとサルの行動学的知見が少なく,その効果の判定は難しい。そこで本研究では,GPSテレメトリーによりモンキードッグを移動追跡し,さらに,モンキードッグ出動時のサルの行動を観察して,被害防除の効果について考察することを目的とした。
    調査は,2008年12月~2009年3月の4ヶ月間,山梨県富士吉田市旭地区および南都留郡富士河口湖町船津地区で行った。集落や農地でサルの群れが確認されると,5秒ごとに測位するように設定したGPSロガー(i-gotU GT100, Mobile Action Technology, Taiwan)を装着したモンキードッグ「ラッキー(4歳・雑種(紀州)・オス)」を,サルが目視できる地点で放した。
    その結果,調査期間中のモンキードッグの出動回数は13回で,GPSの測位率は100%と大変高かった。さらに,サル追払い時のモンキードッグ平均出動時間は65分,平均走行距離は5.3km,平均標高差は77m,平均最高速度は26.5km/hrであった。時期別にみると,1月中旬までは,モンキードッグの走行距離および標高差とも,時期を経るごとに増加する傾向が認められたが,その後は,顕著な傾向は認められなかった。
    また,モンキードッグ出動時に多くのサルは,イヌを確認するとすぐに走って林内に逃げ,立木に登り,イヌが確認できなくなると,林内を歩いて移動した。一方,モンキードッグを放した際に,集落に取り残されたサルは,人家の屋根や電線を伝い,林内へ移動した。さらに,オトナメス4頭に装着した発信器(ATS-M2950, Advanced Telemetry System, U.S.A.)の受信音は,長くても出動後3時間で微弱になった。以上のことから,モンキードックにサルが慣れると,追払いにかかる時間および距離は長くなるものの,サルが集落に取り残されても,サルは林内へ移動するため,被害防除機能が発揮されているといえる。
  • 藤田 志歩, 座馬 耕一郎, 花村 俊吉, 中村 美知夫, 清野(布施) 未恵子, 坂巻 哲也, 郡山 尚紀, 島田 将喜, 稲葉 あぐみ, ...
    セッションID: A-8-2
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/06/17
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    大型類人猿を対象としたエコツーリズムは,大型類人猿の保護や生息地の環境保全を進めるとともに,地元社会や生息国に経済的便益をもたらすとして,各地の保護区で導入されている。しかしその一方で,観光客をはじめとする人と大型類人猿との接触機会の増加は,大型類人猿に精神的ストレスを与えたり,ヒト由来の病原体を生息地に持ち込んだりする可能性があるため,このようなエコツーリズムはリスクもあると考えられる。
    本研究は大型類人猿の健康状態をモニタリングすることによって,エコツーリズムが大型類人猿に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。調査は2006年10月から2009年2月までタンザニア・マハレ山塊国立公園において行った。調査員および調査助手がチンパンジーの健康状態および観光客の人数を可能な限り毎日記録した。
    健康状態は,栄養状態,被毛・皮膚,糞便の性状(下痢・軟便),糞便の色,食欲,動き・歩行,咳,くしゃみ,鼻水,呼吸,外傷の各項目について,異常の有無を記録した。これらの各項目を目的変数とし,観光客数(ツアーガイドを含む),調査員数(調査助手を含む),雨量,最低気温および最高気温を説明変数として,重回帰分析ステップワイズ法を行った。
    その結果,下痢・軟便および咳のそれぞれの変数について,観光客数がモデルに取り込まれ,有意な正の偏回帰係数が得られた(p < 0.05)。以上より,観光客との接触がチンパンジーの下痢や咳の発症に関係があることが示唆された。また,エコツーリズムの影響を評価する上で,観察による健康状態のモニタリングは有効であると考えられた。
    本研究は環境省地球環境研究総合推進費(F-061)および科学研究費補助金(基盤研究A,19255008)によって行われた。
  • 早石 周平, 川本 芳
    セッションID: B-1-1
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/06/17
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    鹿児島県の屋久島には,海岸部の亜熱帯性照葉樹林から山岳部のヤクザサ草原まで植生の垂直分布がみられ,標高帯間でニホンザルの生態が異なることが知られている。本研究は,この多様な生息環境がニホンザルに与える影響を二つの時間スケールで解明することを主な目的としている。二つの影響の一つはメスを主な対象として,長い時間スケールで分布がどのように変遷したか,もう一つはオスを主な対象として,短い時間スケールで個体の分散がどのように起こっているかである。
    これまでミトコンドリアDNAの第2可変域の多型を遺伝標識として用い,多型が見られる海岸部,一様な内陸部という地理的構造がわかった。母系社会をもつニホンザルでは母性遺伝するミトコンドリアDNAの地理的分布は過去の分布変遷を反映すると考えられる。したがって,遺伝的な地理的構造からは,過去の分布変遷において,垂直方向に何らかの制限があったことが示唆された。
    2006年から新たに糞試料と組織片試料を採取し,ミトコンドリアDNAの第1可変域と,Y染色体のマイクロサテライト多型の解析を始めた。現在までにオスメス41個体のミトコンドリアDNA第1可変域に4ハプロタイプ,オス14個体のY染色体マイクロサテライトに5ハプロタイプが検出されている。今回はこの地理的分布を報告する。今後も試料採取と分析を進め,これらのハプロタイプの地理的分布を島内全域で解析し,二つの時間スケールで屋久島のニホンザルの系統地理学的特性を明らかにしたい。
    本研究は,京都大学霊長類研究所の共同利用研究として実施された。
  • 森光 由樹, PATHOUMTHONG Sithideth, 濱田 穣
    セッションID: B-1-2
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/06/17
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    【目的】ラオス人民民主共和国には,5種のマカク(アカゲザル,ベニガオザル,カニクイザル,アッサムザル,ブタオザル)の生息が確認されている(Fooden, 1995)。しかし,ラオス中部のマカクの分布の詳細はよくわかっていない。現地,聞き取り調査,踏査を実施しマカクの分布を明らかにする。
    【方法】Vientianeから東へ,Bolikhamxai県,Khammouan県で各集落聞き取り調査を実施した。聞き取り調査は,種の特徴が示されているラオス語の解説入りの写真を見せて,正確な種判定を目指した。また,情報の精度をあげるため1集落,複数人(4~5人)を基本に聞き取りを実施した。
    聞き取り内容は,生息確認および,農業被害の有無,被害作物の種類,防除方法などについて情報を収集した。また,集落で飼育しているサル(ペット)を捜索し,捕獲場所を記録した。Nakai-Nam Theun公園(NBCA)については,森林監督官およびWCS職員から情報収集した。
    【結果および考察】63地点において,聞き取り調査を実施した。その結果,4種のマカク(アカゲザル,ベニガオザル,アッサムザル,ブタオザル)の情報を収集した。しかし,Nakai-Taiでは,大規模なダム建設が実施されており,この地域でのサルで情報は無かった。
    また,カニクイザルの群れの生息情報が,Vientiane から東約50 kmで認められた。カニクイザルの生息情報は繁殖飼育施設から逃げ出した個体が野生化したものだった。マカクの情報のあった地域のほとんどで農業被害が認められた。被害作物は米,次にトウモロコシが多かった。被害防除は,銃器による捕殺がほとんどであった。ラオス国内では,トラやゾウと比べるとマカクの調査や保護管理が遅れているのが現状である。今後の課題である。
  • 濱田 穣, PATHOUMTHONG Sithideth, KINGSADA Phouthone, 栗田 博之, MALAIVIJITNON ...
    セッションID: B-1-3
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/06/17
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】5種のマカク(Macaca mulatta, M. arctoides, M. fascicularis, M. assamensis, and M. nemestrina leonina)はインドシナ半島で広域に同所性もしくは側所性に分布している。それらの多くは,実際には棲分けていると推測される。これら5種の分布するラオス人民民主共和国は(Duckworth et al., 1999),分布パターンを明らかにするための良いフィールドである。聞き取りと直接観察調査によってパターンを抽出し,マカク進化への含意を考察する。
    【方法】ラオス中西部ではVientiane県で,南部ではSavannakhet県以南で,道路沿いの集落でマカクとそれ以外の霊長類について,聞き取り調査を実施し情報を収集した:生息種,生息地環境,豊富さ,農業被害の有無と防除法などについて。ペットにつては,観察とともに,捕獲場所・捕獲者・捕獲方法などを聞き取った。
    【結果および考察】中西部では,アッサムモンキー,ブタオザル,ベニガオザルが山岳地,特に石灰岩の切り立った山をもつ多くの地点で確認されたが,アカゲザルについては,確認された地点はごく少数であった。一方,メコン河近くの河辺林では,アカゲザルとブタオザルが比較的多く報告された。南部では,国境付近(北緯14.5度近辺,隣国カンボジアの分布は不明)までアカゲザルが分布し,カニクイザルは北緯15.5度まで分布し,2種の分布は重複している。これら2種は,局所的には同所分布ではなく,カニクイザルはメコン河支流の河辺林に多い傾向がある。アッサムモンキーはサイ・プー・ルアン(アンナム)山脈の山地林に北緯15.2度まで分布し,一方,ブタオザルは,山地林のみならず,メコン河流域の乾燥林や撹乱をうけた林にも広く分布している。ベニガオザルはこれら2種の分布パターンの中間で,山地林に多い傾向がある。これらの分布パターンに関して,各マカク種の系統地理学モデル(特に分散の)とあわせて考察する。
  • 大谷 洋介
    セッションID: B-1-4
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/06/17
    会議録・要旨集 フリー
    本研究ではヤクシマザルを対象に定点調査を行い,単独で遊動する雄個体の密度を初めて明らかにした。
    ニホンザルの雄個体は群れ,雄グループ,単独,と帰属対象を繰り返し変化させるという特殊な生活史形態を持つ。ニホンザル研究の多くは群れの観察によるため,これらのステージの中で単独個体に関する知見は不足している。
    今回,ブロック分割定点調査法によって得られたデータから単独で遊動する雄個体の密度を算出し,その密度に影響する要素を検証した。調査地は屋久島西部の海岸部から標高1300 m付近までで,分析には1989年以降毎夏行われているヤクシマザル調査隊が集積したデータの内1993,1994年(海岸部),2000~2008年(上部)のものと,2008年秋季(上部)に行った調査によるものを用いた。
    いずれの場合も調査地を500 m四方のブロックに分割し,各ブロックに配置された調査員が目視による観察を行った。調査時間は1993,1994: 1261h, 2000~2008: 10061h, 2008秋: 331hであった。
    データが十分量蓄積された上部について単独個体の密度を求めたところ,1.4頭/km2であった。植生別では天然更新林で最も密度が高く,人工林で最も低かった。これは植生による食物量の多寡と符合する。一方で集団密度とは相関がなかった。
    また秋季における単独個体発見頻度は夏季に比べて低い傾向にあった。以上から単独で遊動する雄個体は,非交尾期には群れの分布よりも食物を重視して遊動し,交尾期には群れに追従する可能性が示唆された。
    標高による差について,上部では海岸部の5.3倍の頻度で単独個体が観察されており,上部における単独個体の密度は非常に高いと考えられる。
  • 島田 将喜, 宇野 壮春, 中川 尚史, 藤田志歩 , 伊沢 紘生
    セッションID: B-2-1
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/06/17
    会議録・要旨集 フリー
    金華山A群を追随していたピアスと名付けられたワカモノオス(推定7歳)一頭が,複数の群れのメンバーによって一方的に攻撃され,その攻撃的交渉の終了までがビデオにより記録された。
    少なくとも16頭のメンバーがピアスに一回以上接近したが,そのうち攻撃したのは群れのオトナオス1頭と群れのワカモノオス2頭だけだった。ピアスは攻撃にさらされる間中うずくまりの姿勢を維持し,一度逃げ出し,その結果,荒れた海に飛び込んだ。交渉は1時間以上におよび,その数時間後ピアスは死亡した。オスたちが攻撃によってピアスに与えたダメージは小さく,ピアスの直接の死因は海での漂流による低体温によるものと推定された。
    ピアスはB1群のまわりのオスグループに2年ほど所属したのち交尾期後にA群に追随を始めた,ごく普通のワカモノオスと考えられた。攻撃的交渉は,群れのオスと群れ外のオスとの間の競合の一例と考えられる。
    これまで報告されたニホンザル同士の競合と比べてその持続時間は長かった。これは群れの潜在資源を巡る競合相手となりうるピアスが,開けた場所でうずくまり続けたために,群れのメンバーたちの視界から逃れることができず,また攻撃者に対して劣位や和解を示さなかったために,オスたちは攻撃をやめなかったためと考えられた。
  • 大西 賢治, 中道 正之
    セッションID: B-2-2
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/06/17
    会議録・要旨集 フリー
    子ザルは母ザルに対して授乳や保護などの投資を求める鳴き声を発する。先行研究から子ザルが授乳や保護をそれほど必要としない場面で過度に鳴いて,母ザルからより多くの投資を引き出している可能性が示唆されているが,研究によって結果が異なり結論が出ていない。
    先行研究で母ザルの反応として記録されたのは授乳/運搬と子ザルを回収する行動である。もし,子ザルの鳴きが母ザルの注意を喚起するために発信されており,投資を行なうかどうかは母ザルが判断しているならば,先行研究の結果のみから子ザルが母ザルを操作するような「manipulative」な信号を発しているという結論は導けない。
    本研究では,ニホンザルの子ザルの鳴きに対する母ザルの反応性を,母ザルが子ザルを見る行動を含めて分析し,子ザルが「manipulative」な信号を発しているのかを検討する。
    勝山ニホンザル集団において,2005,2006年に生まれた0歳齢の子ザルとその母ザル16組を対象に,子ザルの7-8週齢から17-18週齢までを観察し,1セッション20分間の連続観察を,2週ごとに2時間,各母子ペアにつき12時間行った。
    記録項目は子ザルの鳴き声(Geckers,Whistles/Screams),母子それぞれの行動,母ザルの反応(子ザルを見る行動,授乳/運搬,回収行動)であった。
    本研究の結果からは,子ザルが「manipulative」な信号を発していることを支持するデータは得られず,子ザルの鳴きが単に母ザルの注意を喚起するために発信されている可能性が示唆された。
    また,母ザルは子ザルを回収するかどうかを,子ザルがどのような状態であるかよりも自分が何を行なっているかに照らして判断していることを示唆する結果が得られた。つまり,子ザルは正直に鳴き声を発しており,子ザルに投資を行なうかどうかを決定する主導権は母ザルが持っているようであった。
  • LECA Jean-Baptiste, GUNST Noëlle, HUFFMAN Michael A.
    セッションID: B-2-3
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/06/17
    会議録・要旨集 フリー
    Many new behaviors have been reported to appear in primate troops, but were either idiosyncratic, or independently adopted by very few individuals, or their performance was restricted to a small class of the population, and for some reason, they never widely spread within the group by social means to become traditions. Among the various behavioral innovations reported in Japanese macaques (Macaca fuscata), we focused on three behaviors: fish-eating on Koshima Island, dental flossing at Arashiyama, and stone handling in four captive and six free-ranging troops across Japan. We used longitudinal and cross-sectional data to explore the history and assess the current prevalence of these behaviors at the group-level. We examined the factors that may have favored these innovations, including the environmental context, the individual characteristics of the innovator, and the structural and functional aspects of the behavior. Group size, kinship, and dominance are socio-demographic factors that are likely to limit the opportunities for any group member to observe the innovator, and thus constrain the diffusion or maintenance of these potential candidates for behavioral traditions. Identifying the determinants of innovations and the constraints on their diffusion within social groups of non-human primates is of special interest to understanding cultural evolution in hominids.
    Sponsors: Lavoisier Grant (Ministère des Affaires Etrangères, France); JSPS postdoctoral fellowship (No. 07421); Grant-In-Aid for scientific research (No. 1907421, Ministry of Education, Science, Sports and Culture, Japan)
    Keywords: social learning, innovation, tradition, behavioral variants, tool-use, Macaca fuscata
  • 川添 達朗
    セッションID: B-2-4
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/06/17
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 ニホンザルのオスはメンバー構成の異なる集団を形成することが知られている。そのような集団の中で,他個体の存在がオス同士の関係や集団の形成,離散に影響することが考えられる。本研究では2個体での近接と3個体での近接を比較し,第3者の存在が2個体の個体間関係にどのような影響を及ぼすのか検討した。
    【方法】 宮城県金華山島で2007年1月から9月の非交尾期に調査を実施した。追跡個体から5 m以内に他個体がいる状況を近接と定義し,近接個体と近接が開始された時刻と終了した時刻をそれぞれ記録し近接の継続時間を求めた。それらの結果をもとに,2個体での近接の継続時間と3個体での近接の継続時間を比較した。
    【結果】 調査期間中に8頭のオスを識別し,それぞれ50時間以上の個体追跡を行った。2個体での近接は個体の組み合わせにより近接の継続時間に差があることがわかった。3個体での近接では特定の個体の組み合わせにおいて,2個体だけで近接しているときよりも第3者となる個体が同時に近接しているときの方が近接の継続時間が有意に長くなることがあった。また,2個体だけで近接しているときより3個体で近接しているときの方が近接の継続時間が短くなる個体の組み合わせも見られた。
    【考察】 本研究では2頭での近接の継続時間と3頭での近接の継続時間を分析の対象とした。その結果からは第3者の存在が他の2個体の近接の維持に影響している可能性があり,個体の組み合わせによって3頭での近接が親和的にも敵対的にもなり得ることが示唆された。この様な第3者の存在が2個体の関係に影響することがオス同士の集団形成の一因となっているのではないかと考えられる。
  • 山田 一憲, 中道 正之
    セッションID: B-2-5
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/06/17
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    【序論】生後初期のニホンザルの母子は,身体接触や授乳を通じて極めて密接な関係にある。しかし離乳期には,授乳を求める子ザルと,離乳を求める母ザルとの間に,葛藤が生じる。この離乳期において,子ザルは初めて,他個体との激しい利害の対立を経験する。本研究では,乳首接触をめぐる母子の相互交渉を,子ザルの生後1年半にわたり縦断的に調べることによって,子ザルが他個体(母ザル)との利害の対立に対処する能力をどのように獲得していくのかを検討した。
    【方法】勝山ニホンザル集団において,子ザルと母ザル11組を対象とし,2004年7月から2005年10月までの162日間,総計405時間の縦断的な行動観察を行った。子ザルの月齢に応じて観察期間を「0歳齢前半」「0歳齢後半」「1歳齢前半」の3期間に分類し,子ザルが乳首接触を試みた時の母ザルの活動内容と,子ザルが試みた乳首接触に対する母ザルの拒否行動の有無を記録した。
    【結果と考察】子ザルが0歳齢前半の時,母ザルによる乳首接触の拒否は,低頻度であり,母ザルの活動内容とは関連していなかった。子ザルも母ザルの活動内容には関係なく乳首接触を試みていた。一方で,子ザルが0歳齢後半や1歳齢前半に成長すると,乳首接触の拒否が増加し,母ザルは自分の活動内容によって乳首接触の拒否率を明確に変化させていた。この離乳期の母ザルの変化に対応して,母ザルが「採食・移動」や「他個体に毛づくろいを行う」といった乳首接触を拒否しやすい活動を行っている時には,0歳齢後半や1歳齢前半の子ザルは乳首接触を行わないようにしていた。
    本研究によって,ニホンザルが「母ザルの活動内容に合わせて乳首をくわえるタイミングを調節する能力」を発達的に獲得していることが示された。このことは,他個体(母ザル)との利害の対立に対処する能力,すなわち,社会的知性の萌芽が,離乳期の母子の相互交渉において見られることを意味している。
  • 松田 一希, TUUGA Augustine
    セッションID: B-3-1
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/06/17
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    テングザルがなぜ川沿いにのみ生息・適応したのかという明確な理由は未だ明らかにされていない。多くの先行研究は,川沿いが地上性の捕食者からの攻撃を回避するために有利であることをその理由に挙げている。しかし,川沿いが捕食者回避に有利な場所であるならば,他の同所的に生息する霊長類も捕食の回避のために川沿いを頻繁に利用するはずであるが,そのようなデータは未だ示されていない。一方,本種の川沿いへの適応と餌資源量の関係については,これまであまり議論されてこなかった。これはテングザルが好む生息環境である河畔林は,足場が悪く,本種の行動と餌資源量の関係を詳細に観察することが困難なことが原因であった。しかし本研究では,比較的地盤の安定した川辺林を調査地として選定することで,終日テングザルのハレム群を追跡することが可能となり,川辺だけではなく,林内も含めた本種の行動と餌資源量の関係を調査することに成功した。そこで本発表では主に,2005年5月から2006年5月の13ヶ月間(各月2回)に行ったラインセンサスの結果を用いて,テングザル以外の霊長類においても川辺(川から<50 m)が林内(>50 m)よりも頻繁に利用されていることを示す。また,13ヶ月の調査期間にテングザルのハレム一群より収集した3000時間以上の行動観察をもとに,川辺と林内の行動を比較する。以上より,捕食圧と餌資源量がどのようにテングザルの川辺への適応に影響したのかを考察する。
  • 辻 大和, YANGOZENE Kumugo, 坂巻 哲也
    セッションID: B-3-2
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/06/17
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    果実食者であるボノボ(Pan paniscus)は,その体サイズや行動圏の広さゆえに熱帯林で種子散布者としての主要な役割を果たしていると考えられている。シードレインの形成に関わる種子の散布距離の推定は,種子散布研究において主要な項目のひとつだが,大型類人猿を対象とした散布距離の報告は極めて乏しい。
    野性ボノボによる種子の散布距離を定量的に評価するため,2008年11月から翌年1月にかけて,コンゴ民主共和国ワンバ地区で調査を行った。16日間(132.3hr)にわたってボノボの行動観察を行い,採食木の位置をGPSで記録するとともに排泄された糞を集めた。ボノボは果実類を中心に採食し(採食時間割合: 67.1%),とくにDialium属の果実2種(D. zenkeriD. pachyphyllum)の採食時間が長かった(2種合計で平均69.8%)。また,収集した糞(n=33)からのDialium属の種子の出現頻度は高く(90.9%),また種子数も多かったので(平均26.8個),この2種の散布距離を推定した。Julliot[1996]にしたがい,糞を採集した時刻からさかのぼり,チンパンジーの排泄時間(23.2 - 63.3hr: Lambert[1998])内にDialium属の果実の採食が見られた地点を母樹の位置と仮定した。
    その上で,2地点間の距離を種子の散布距離とすると,推定された種子の平均散布距離は,D. zenkeriが783 m,D. pachyphyllumが728 mと,これまで報告されている霊長類による散布距離よりも長かった。今後は,他の時期や他に樹種について同様の推定を行うとともに,同所的に生息する霊長類ならびに他の動物と散布量や散布距離などの比較を行い,種子散布者としての大型類人猿のパフォーマンスについて検討する必要がある。
  • 佐藤 宏樹
    セッションID: B-3-3
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/06/17
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    【目的】チャイロキツネザルは複雄複雌群を成し,周日行性の活動リズムを示す果実食性原猿である。生息地であるマダガスカル北西部の熱帯乾燥林では明瞭な雨季(12月~3月)と乾季(5月~10月)にわかれ,食物資源量の季節変動が著しい。この季節変動に対してチャイロキツネザルはどのように活動や遊動を変化させるのか。本発表ではチャイロキツネザルの1年間の活動性,採食内容,遊動パターンを示し,各季節での採食戦略について考察する。
    【方法】12個体で構成される1群を対象に終日観察(6:00-18:00)を2006年12月から1年間行った(計1252時間)。群れはまとまって遊動するため,群れ全体の行動や利用した食物を1分間隔で記録し,GPSで各行動が起こった場所を定位し,GISで解析した。乾季は終夜観察(18:00-6:00)も行った(計164時間)。
    【結果と考察】雨季の月あたりの利用果実は21.5種で,利用果実のパッチ密度は高かった。パッチをめぐる採食と移動が一日中見られ,安定した長い日遊動距離,広い遊動域(50 ha)が維持された。乾季は月あたりの利用果実が9.2種に減少し,そのパッチ密度も低くなった。中でもVitex属1種の果実とラン科草本が圧倒的な頻度で利用され,果実パッチの繰り返し利用率が高くなった。乾季は日中の休息時間が増えて移動時間が減り,活動は朝夕に二極化した。夜間の観察も見られたが,朝夕の活動量に劣る。乾季の遊動距離は短く,遊動域は狭かった(20 ha)。季節の移行期(4月と11月)には安定した遊動域から1.5 kmほど離れたパッチに数週間滞在し,1,2種の果実を集中して利用するMigration行動が見られた。果実資源の利用可能性の季節変化が著しい熱帯乾燥林に生息するチャイロキツネザルは,食物獲得に費やす労力と報酬のトレードオフにより活動性と遊動パターンを切り替えていると考えられる。
  • 郷 もえ
    セッションID: B-3-4
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/06/17
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    ブルーモンキーとレッドテイルモンキーが同所的に生息している地域では,2種がひとつの群れのように共に移動し採食する,いわゆる「混群」を形成することが知られている。これまでの混群研究では,異種が積極的に混群を形成していることを,群れの移動速度や密度を用いたモデルによって評価してきた。しかしモデルには,移動速度の変化が考慮できないなどの問題点が指摘されている。また,混群形成の積極性を論じる上では,混群状態がどのように維持されているのかを明らかにすることが重要であるが,その維持のメカニズムについてはほとんど明らかにされていない。本研究では,混群を形成するブルーモンキーとレッドテイルモンキーの移動ルートと移動速度の変化を明らかにし,2種の混群が積極的に形成されているかを,同所的に生息しており2種と同属のロエストモンキーの動きと比較して検討した。2004年9月から2005年2月,ウガンダ共和国カリンズ森林において,ブルーモンキー,レッドテイルモンキー,ロエストモンキーの群れ各1群を対象に調査を行った。3人の観察者が同時に3種の個体を追跡し,各群れの追跡個体の位置を5分ごとにGPSで記録した。その結果,3種の行動域は重複していたが,ブルーとレッドテイルの行動域の重複度がより高かった。また,ブルーとレッドテイルの2種間の距離は50 m以内であることが最も多く,ロエストと比較して2種の移動ルートはよく似ていた。2種間距離とそれぞれの移動速度を比較すると,ブルーの移動速度はどの2種間の距離にかかわらずほぼ一定であったが,レッドテイルの移動速度はブルーとの距離が近いときに速かった。同所的に生息している3種のうち,ブルーとレッドテイルによる2種の混群は,レッドテイルによってより積極的に形成されていると考えられた。本研究はJSPS-HOPEによる助成を受けて行われた。
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