霊長類研究 Supplement
第28回日本霊長類学会大会
選択された号の論文の113件中1~50を表示しています
自由集会
  • 白井 啓
    p. 1-
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/11/01
    会議録・要旨集 フリー
    ニホンザルは,日本の固有種であり,在来生態系の重要な構成員である。また,人間をのぞく霊長類において世界最北限に分布し学術的にも貴重である。しかし,近年,同じマカカ属のタイワンザル,アカゲザルが野生化し,交雑を引き起こすという重大な問題が生じている。その他,在来種では起こりえない他種の捕食などによる生態系に与える影響について心配されるが,科学的に検証されていない。
    日本霊長類学会は,要望書を提出するなどにより,行政に対策を求め,科学的な観点から助言し,地域での取り組みを支援するとともに,独自の調査を行ってきた。そこで,今までの調査,対策の成果を会員のみなさまに報告するとともに,課題を整理し,今後の対応の方向付をする。
    プログラム
    ・わが国の外来マカク問題の概要
    ・下北半島のタイワンザル問題(群れ根絶の報告)
    ・和歌山のタイワンザル問題(根絶間近の近況)
    ・千葉のアカゲザル問題(ニホンザル個体群内での交雑確認)
    ・遺伝と形態(交雑の影響)
    ・コメント
    ・討論
  • 河村 正二, 大井 徹, 竹ノ下 祐二
    p. 2-
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/11/01
    会議録・要旨集 フリー
    東日本大震災から1年を経過したが,震災や放射線被曝の問題は今も人々の生活に深刻な影響を及ぼしている。人々の関心が人の生活の復興に向いている中,忘れてはならないのはその生態系への影響,とりわけ本学会の注視するニホンザルを取り巻く諸問題への影響である。本自由集会は,これらに深く関わる3名の演者に話題提供をしていただき,被災地域における野生ニホンザルの保全,サル害問題,ニホンザル野外研究の現状と問題を情報共有し,解決と支援に向けて意見交換を行なうことを目的とする。

    話題提供者
    羽山伸一(日本獣医生命科学大学 獣医学部獣医学科 野生動物学教室 教授)
     「原発事故で放出された放射性物質によるニホンザル健康被害調査の現状と課題」
    今野文治(新ふくしま農業協同組合 営農部 農業振興対策室 鳥獣害対策センター長)
     「原発事故後の福島県内におけるニホンザル対策の現状と課題」
    伊沢紘生(宮城のサル調査会 会長)
     「震災後1年を経た金華山のニホンザルとその研究の現状と課題」
  • 座馬 耕一郎, 西川 真理
    p. 3-
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/11/01
    会議録・要旨集 フリー
     「動物は,夜,何をしているだろう?」そんな興味を抱く人は多いだろう。たとえば昼行性霊長類を夜明けから日没まで調査している研究者の中には,調査を終えたあと真夜中に彼らの声や活動音を聞いた経験を持つ者も多いと思う。また動物園の飼育員は日中の業務を終えた後,動物たちが獣舎でどのように過ごしているか気になっていることだろう。1日の半分は夜である。その夜の動物を観察することで,昼間の動物とはちょっと違った新しい知見が得られるはずである。
     本自由集会では,夜の動物の行動研究について大きく2つの点について注目していきたい。ひとつは研究テーマである。夜ならではのテーマとして,まず睡眠が挙げられる。睡眠は哺乳類にとって「脳の脳による脳のための」活動であるとされているが,安らかに眠るために,動物たちはどのような寝相をとり,どれくらい眠っているだろうか? また夜の自然環境下には夜行性の動物や捕食者が活動している。ではそれらの動物に対して昼行性の動物たちはどのような行動をとっているのだろうか? そしてそもそも,夜は眠っているだけで,昼と同じ行動は見られないのだろうか?
    議論したいもうひとつの点は観察方法である。夜は暗く,新月の夜などは目の前にある手すら見えない。テーマがあっても観察する手段がなければ研究として成立しないが,夜間観察の方法にはどのようなものがあるだろうか。
     本自由集会では,現在おこなわれている飼育下および野生下の動物を対象とした先駆的な研究を紹介し,夜の動物の行動研究の意義やおもしろさについて情報交換をおこなう。

    話題提供者
     高木直子(京都市動物園)「飼育下のキリン,ゾウ」
     西川真理(京都大学人類進化論)「野生下のヤクシマザルとヤクシカ」
     持田浩治(琉球大学熱帯生物圏研究センター)「野生下のヤクシマザル」
     宝田一輝(京都大学野生動物研究センター)「飼育下のニシゴリラ」
     座馬耕一郎(林原類人猿研究センター)「飼育下と野生下のチンパンジー」
  • 杉山 幸丸, 栗田 博之
    p. 4-
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/11/01
    会議録・要旨集 フリー
     1970年代末頃から金華山や屋久島で餌付けなしの観察が可能になるにしたがって,「餌付けは止めよう」という声が高まってきた。1996年のPSJ大阪大会の自由集会はその頂点だった。その後も餌付けのもたらした罪ばかりが喧伝され,その霊長類学に果たした,そして今も果たしている役割が軽視される傾向にある。もう一度餌付けのもたらした功罪を明らかにして,これからの霊長類学における役割を明らかにしたいと思う。その第1回の集まりとして,各地の餌付け個体群でどんな研究が行われてきたかを中心に検討する。

    1.霊長類学の勃興と餌付けの果たした功績(杉山幸丸)
    2.幸島でどんな研究が行われてきたか(渡邊邦夫)
    3.高崎山でどんな研究が行われてきたか(栗田博之)
    4.勝山でどんな研究が行われてきたか(中道正之)
    5.嵐山でどんな研究が行われてきたか(Mike Huffman)
    6.餌付けのもたらした問題点(杉山幸丸)
公開シンポジウム
  • 菅原 和孝, 刀根 卓代, 佐倉 統, 菊池 吉晃, 山極 壽一, 渡邊 毅
    p. 5-
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/11/01
    会議録・要旨集 フリー
     日本の霊長類学は,第二次大戦後すぐに世界に先駆けて人間社会の由来を探求する学問,すなわち,「人間とは何か」,「人間社会の由来はどのようなものなのか」といった課題を,人間と人間以外の霊長類の諸特徴を比較することで探求する学問として出発し,これまで多くの分野で世界をリードする成果を上げてきました。そして本学会は,こうした成果を公開シンポジウムや公開講演会を通して,広く社会に還元する活動を継続して行ってきました。ここ数年の本学会が主催した公開シンポジウム等のテーマは,多岐にわたっていますが,最初期の課題であった「人間性の解明」という点にストレートに切り込んだものはここ数年ありませんでした。そこで,今回の大会が「人間になろう」という教育目標を掲げる椙山女学園大学で開催される点を活かし,「人間性の由来」を霊長類学やその周辺領域の研究成果から今一度見つめ直し,現時点でどれほど迫れるのかという問題意識のもとに本シンポジウムを企画いたしました。
     本シンポジウムでは,人類学に関連する五つの学会と開催校である椙山女学園大学人間学研究センターから代表を出していただき,上記の問題意識に基づいた講演をしていただきます。このシンポジウムを通して,人間性の起源や現代社会における様々な課題と人間が根源的に持つ特徴との関連を広く皆さまに知っていただけたらと考えております。

      13:30~13:35 趣旨説明
      13:35~14:15 「身体化の人類学のために-自然主義とのねじれた関係-」
       菅原和孝(京都大学大学院・人間・環境学研究科・教授,日本文化人類学会)
      14:15~14:55 「身ごもりに始まる児やらひ」
       刀根卓代(日本民俗学会)
      14:55~15:05 休憩
      15:05~15:45 「鏡と窓-サルとロボットから人間を考える-」
       佐倉統(東京大学大学院・情報学環・教授,日本霊長類学会)
      15:45~16:25 「人間性の神経基盤を探る-脳イメージング研究から-」
       菊池吉晃(首都大学東京大学院・人間健康科学研究科・教授,日本生理人類学会)
      16:25~16:35 休憩
      16:35~17:15 「社会的存在としての人間の由来-共感と暴力の過去と現在-」
       山極壽一(京都大学大学院・理学研究科・教授,日本人類学会)
      17:15~17:55 「総合人間学への展望」
       渡邊毅(椙山女学園大学・人間関係学部・教授,椙山女学園人間学研究センター)
      17:55~18:00 閉会の辞
口頭発表
  • 布施 未恵子
    セッションID: A-01
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/11/01
    会議録・要旨集 フリー
     マハレに生息する野生チンパンジー(Pan troglodytes schweinfurthii)は,2歳になると授乳とともに堅いものを食べ始めることが明らかになっている.道具使用など特別な技術を伴う採食行動も,2歳ごろからみられるようになることが明らかになっている.ただし,モッピングという方法でオオアリを食べる行動はそれよりも若い年齢で観察されている.道具を使用せずに昆虫類を捕食する行動に,枯れ枝に営巣するアリ類の捕食行動があるが,このアリは枯れ枝を割らない限り食べることができない.また,枯れ枝にアリが営巣しているかどうかを瞬時に外見から判断するのが難しいため,どのような枯れ枝をアリが巣として利用しているか,といった枯れ枝に営巣するアリの生態を知ったうえでないと得ることができない食物である.アリの巣に直接アクセスすると幼虫や蛹などを効率よく得ることができるため,アダルトオスに比べて若いオスの方がこのアリ類の採食行動が頻繁であることが明らかにされている.よって,成長とともに採食品目を増やしていく子どもにとっても枯れ枝に営巣するアリは重要な食物であることが予想される.そこで,体のサイズや力に見合った枯れ枝選択能力や,アリが営巣した枯れ枝を見分ける能力といった,いくつかの要因が関係した採食行動におけるスキルがどのように発達していくのかを検討するため,枯れ枝営巣性アリ類の採食行動を性年齢クラス間で比較した.調査期間は2006年6月~8月,2006年10月~2007年4月の10ヶ月間で,マハレに生息するMグループを調査対象とし,総観察時間は554.6時間であった.今回は,枯れ枝営巣性アリ類の採食行動が開始される年齢と,1)枯れ枝の太さや種類の選択,2)枯れ枝営巣性アリの獲得率を性年齢クラスで比較した.これらの結果と,オオアリ釣り行動の発達に関する先行研究結果との比較から,マハレに生息するMグループのアリ類捕食行動全般の発達について考察する.
  • 松本 卓也
    セッションID: A-02
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/11/01
    会議録・要旨集 フリー
    植物食の霊長類のアカンボウは、環境内の膨大な植物種の中から、必要な栄養素を補うための植物種および植物部位を取捨選択し、採食する必要がある。これまで、採食品目の選択に関わる要因として食物分配に焦点をあてた研究が多くなされ、アカンボウが独力で採食困難な品目を学習する機能が論じられてきた。しかし、アカンボウが独力でも手に入れることができる、採食が容易な品目を、アカンボウが多様な植物の中からどのように取捨選択しているかという点を詳細に分析した研究はこれまで行われていない。
     本研究は、アカンボウ期が約5年と長いチンパンジーを対象に行なった。チンパンジーの母子は比較的メンバー数の少ないパーティで遊動することが多く、アカンボウが母親以外の個体から受ける影響は小さいと考えられる。本研究では、母親の活動がアカンボウの採食行動にどのように影響するかを捉えるため、(1)母子の採食品目や採食場面におけるやりとりの分析、および(2)母親と同時に採食する際のアカンボウの採食行動の分析を行なった。調査対象はタンザニア・マハレ山塊国立公園の野生チンパンジーM集団に属する母子10組である。
     その結果、母親と同時に採食をする場合、アカンボウは母親と同じ採食品目を選択する傾向があった。その理由として、アカンボウは母親と常に同じパーティで遊動しなければならず、母親のいる場所から遠く離れることができないという身体的な影響が考えられる。特に1歳半までのアカンボウにおいては、母親と同じ植物種の異なる部位を採食している時間割合が高かった。その理由として、アカンボウの消化能力や咀嚼能力が未発達であるために、母親がアカンボウにとって採食困難な品目を採食していた場合、母親の近くで採食容易なものを選択して採食している可能性が示唆された。母親からアカンボウへの奨励や禁止など、教育と捉えられるような直接的なやりとりは観察されなかった。
  • 吉川 翠, 小川 秀司, 小金澤 正昭, 伊谷 原一
    セッションID: A-03
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/11/01
    会議録・要旨集 フリー
    乾燥疎開林地帯に生息するチンパンジー(Pan troglodytesの採食品目の季節変化を調べた。タンザニア西部のウガラ地域は,チンパンジーの生息地の中で最も乾燥した地域の1つである。同地域の8割以上は樹高が約20mになる落葉樹がまばらに生える乾燥疎開林であり,他には川辺林と草地がパッチ上に存在している。季節は乾季と雨季に分けられる。調査はウガラ地域のングエ地区(05°13.0’S, 30°27.5’E)において,2007年12月から2008年2月,2008年6月から8月,2010年8月から2011年8月に採集した合計306個のチンパンジーの糞を分析した。糞は1mmメッシュのザルで洗い,残差を乾燥後,その中に含まれていた品目(種と部位)を記録した。草本のアフリカ・ショウガ(Aframomum spp)の果実は,1年の内の10ヵ月間,イチジク(Ficus spp)の果実は9ヵ月間採食されていた。この期間は,雨季と乾季の両方の季節にあたる。アフリカ・ショウガの出現頻度が50%以上だった月は6ヶ月あった。これほど長い期間にわたって頻繁に採食されていた食物は他にはなかった。また,出現頻度が80%以上の月のあるGrewia mollis and/or platycladaおよびAzanza garkeanaと,糞中に占める重量の合計が高かったParinari curatelliifolia),およびMultidentia crassaは雨季の終わりから乾季にかけて採食されていた.一方,雨季にはAntidesmavenosumが4ヶ月間採食されていた.季節ごとに出現頻度や重量の高い樹種は見られたが,熱帯雨林に比べて樹木密度が低く,果実の絶対量が少ない乾燥疎開林では、樹上の果実だけではなく、長期間利用が可能である草本性のアフリカ・ショウガの実が重要な食物資源となっていた.
  • 井上 紗奈, KABURU Stefano S. K., NEWTON-FISHER Nicholas E.
    セッションID: A-04
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/11/01
    会議録・要旨集 フリー
     野生チンパンジーにおいて、同群の成熟個体を殺すことはまれである。特に、在位中のアルファオスが群れのメンバーによって殺される、という事例はこれまで報告されたことがない。本研究では、タンザニア・マハレ山塊国立公園のMグループでおきた殺害行動の概要と、死後の死体へのメンバーの反応について報告する。事件は、2011年10月2日におきた。アルファのPM(23歳)は在位4年目で健康なオスであった。事件は、PMと第二位のオス(PR)の喧嘩からPRが他のオスに助けを求めたことを発端とし、オス2個体を中心としたPMへの攻撃が始まった。攻撃は断続的に約2時間つづき、PMは死亡した。発表者はPMの死後直後に到着し、群れが現場から移動するまでの間、群れの観察をおこなった。到着時、PMの死体は水のない川岸すぐ脇の川底にあった。川岸15m程度頭上の木の枝に、攻撃時にPM擁護にまわったオスが座っていた。10m以内の藪にはPMを攻撃したオス数個体がいたが、数分でその場を離れた。その後、死体より3m以内の川岸にて、攻撃に加わっていないワカモノオスが枝を振り回して走り抜けるディスプレイをおこなった。直後に、数個体のメスが反対の川岸より15m~10m距離を横断した。そのうち1個体が向きを変えて死体の方へ接近したが、ワカモノオスのディスプレイにより離れた。つづいて来た子ども連れのメスが、死体に最接近した。顔に触れそうな距離で臭いを嗅ぎ、1m距離でしばし座った後、その場を離れた。一緒に来た子どもは、2m距離まで近づいたもののそれ以上は接近せず、少し離れた所から枝を振ったり、立ち上がってのぞきこむような行動をとった。事件は突発的におこったものだが、結果として現役アルファオスの死をもたらした。死後の死体への反応は、いずれも、通常ならアルファオスに対して絶対にとらない行動である。激しいけんかをしたと
  • 市川 彩代子, 長尾 健太, 山田 一憲, 中道 正之
    セッションID: A-05
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/11/01
    会議録・要旨集 フリー
     ニホンザル(Macaca fuscata)のメスの出産率は、20歳齢を超えると急激に低下する。これまでに26歳齢での最高齢出産が2度報告されているが、その後の報告はない。ニホンザルのメスが25歳齢を超えて生存していることはまれであり、これまでほとんど行動研究の対象とされてこなかった。嵐山ニホンザルE集団には、25歳齢以上の老齢メスが、2010年には15頭、2011年には17頭も生息していた。本研究では25~32歳齢の老齢メスを対象に行動観察を行い、加齢や順位による影響を調べることを目的とした。他の集団にはほとんどいない25歳齢以上の老齢メスに焦点を当て、2年にわたり観察を継続した初めての研究である。
     嵐山モンキーパークいわたやまに生息する25~32歳齢の全ての老齢メスを対象に個体追跡観察法を用いて観察した。観察は2010年9月~11月、2011年6月~12月にかけて行われた。1セッション20分間の連続観察を1頭当たり39セッションずつ行った。総観察時間は207時間であった。
     老齢メスの活動性を評価するために休息の生起率を、社会交渉の量を検討するために毛づくろいの生起率を算出した。休息の生起率も毛づくろいの生起率も年齢との間に有意な相関は見られなかった。ただし高順位メスは中・低順位メスに比べ、横たわる姿勢の休息が有意に多かった。中・低順位メスにおいて、「攻撃する/サプラントする」生起頻度は加齢に伴い減少し、「攻撃される/サプラントされる」生起頻度は加齢に伴い増加した。これまでの研究では、若齢メスとの比較から、老齢メスは休息の生起率が増加し、社会交渉の量が減少するという結果であった。しかし、本研究では25~32歳齢にかけては休息や社会交渉の量が変化しないという結果が得られた。一方、「横たわる休息」や「攻撃/サプラント」の結果から、老齢メスであっても順位による影響が大きいことがわかった。
  • 上野 将敬, 山田 一憲, 中道 正之
    セッションID: A-06
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/11/01
    会議録・要旨集 フリー
     怪我をした他者へ霊長類が行う行動から、彼らの認知能力や行動の柔軟性に関する有益な情報を得られる。霊長類において、怪我を負った同種の個体への行動に関する研究は少なく、怪我をした他者への援助行動の事例報告にも定量的なものはない。他方、ニホンザルにおいて、先天的に四肢に欠損のある子へ、母親が運搬や授乳を手助けすることが報告されている (Turner et al.2005)。子が怪我をして以前のように行動できなくなったとき、ニホンザルの母親はどのように行動するのだろうか。2011年11月、勝山ニホンザル集団において、1.5歳齢の子ザルが左後肢に怪我をし、後肢を用いての移動ができなくなった。本研究では、2011年5月以降、怪我をした子の母親を含む14頭のメスを対象に、ビデオカメラを用いて、個体追跡法による観察を継続的に行っている。そこで、子が怪我をした前後1-2カ月間での、その母子の行動と、同年齢の子を持つ2組の母子の行動を調べた。その結果、怪我をした子の母親だけは、子が怪我をした後、以前よりも有意に多く、子へ毛づくろいを行っていた。しかし、怪我をした子の母親は、子へ授乳や運搬を行ってはいなかった。他の2頭の母親のうち、1頭の母親は、子へ授乳を行っていた。母子が近接しているときに、子がどの程度distress callを発しているのかを調べると、怪我をした子は、怪我をする前に比べて、distress callを発する回数が有意に増加していた。他の2頭の子には、distress callの増加は見られなかった。また、怪我をした子がdistress callを発した直後には、母親から毛づくろいを受けていることが多かった。以上より、ニホンザルの母親は、子が怪我をしたとき、子の働きかけに応じて行動を変化させる柔軟性を持っていることが示された。しかし、後肢の怪我により移動が困難になった子に対して、運搬による援助がなかったため、本研究が報告した母ザルは、子の立場で何が必要なのかを理解してはいなかったのかもしれない。
  • 川添 達朗
    セッションID: A-07
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/11/01
    会議録・要旨集 フリー
    ニホンザルの群れオス同士で非交尾期に見られる親和的行動は、個体間での緊張を緩和しオス同士の共存や交尾期における協力関係の構築に有効であると考えられている。本研究では群れ外オスが多く生息する宮城県金華山島の野生ニホンザルを対象として、群れオスだけでなく群れ外オスを含めた非交尾期のオス間の親和的関係がその後の交尾期のオスの親和的、敵対的関係に与える影響を明らかにすることを目的とする。
     本研究は金華山島に生息するニホンザルのうち1群の群れオスと群れ周辺で観察される群れ外オスを対象とし、2009年の非交尾期と交尾期に実施した。対象となるオトナオスを終日個体追跡し、親和的、敵対的交渉の交渉相手と回数を記録した。敵対的交渉が見られたときには追跡個体の活動状況と交渉への参加個体、発情メスの有無を同時に記録した。
     1頭の群れ外オスを除き非交尾期に比べ交尾期では親和的交渉の相手個体数、頻度はともに減少し、すべての追跡個体において交尾期に敵対的交渉の相手個体数と頻度が増加した。敵対的交渉の多くは非交尾期には採食場面で、交尾期では交尾場面で観察された。また、季節や状況を問わず敵対的交渉に第3者の参加はほとんどなかった。個体の組合せごとに交渉頻度を非交尾期と交尾期で比較すると、非交尾期の親和的交渉頻度は交尾期の親和的交渉頻度と正の相関を示し、交尾期の敵対的交渉頻度とは負の相関を示した。また群れオスと群れ外オスの組合せでは季節を問わず親和的交渉頻度と交尾期の敵対的交渉頻度は負の相関を示し、群れ外オス同士の組合せでは有意な相関は見いだせなかった。
     以上の結果から、非交尾期と交尾期ではオス同士の競合を引き起こす要因となる資源が異なると考えられる。また、特定のペアでは非交尾期に見られる親和性が交尾期まで持続し、交尾期における敵対的行動の発現に影響していることが示唆された。
  • 鈴木 南美, 郷 康広, 松井 淳, 平井 啓久, 颯田 葉子, 今井 啓雄
    セッションID: A-08
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/11/01
    会議録・要旨集 フリー
    苦味感覚は採食品目に含まれる生理活性物質や毒性物質を検知する役割をもつ。そのため、苦味受容体遺伝子TAS2Rは、動物の採食行動や代謝能力と関係して進化した可能性がある。我々は、野生集団におけるTAS2Rの多様性および集団間における差異を調べることを目的として、12地域由来のニホンザル409個体において、TAS2Rの一種、TAS2R38 (柑橘類に含まれる苦味物質リモニンなどの受容体遺伝子) の多型解析を行った。その結果、紀伊半島の集団だけにTAS2R38遺伝子変異による苦味感受性変異が起きていることを発見した (Suzuki <et al. 2010)。この変異をもつハプロタイプは集団中に約3割の頻度で存在した。遺伝子周辺領域を解析することにより、この変異が集団中に拡がるのに要した時間を推定し、この変異が中立的であったと仮定した場合に要した時間と比較した。その結果から、偶然生じたこの変異が集団中に拡がる過程において、自然選択の影響があったかどうかを明らかにすることを本研究の目的とした。
     紀伊集団ニホンザル40個体において、TAS2R38遺伝子周辺領域10kbp (上流、下流5kbpずつ) における遺伝子多型を決定した。その結果、感受性変異を引き起こすハプロタイプ (80アリル中23アリル) はすべて同一の配列を示し、ハプロタイプ内で塩基多型は存在しなかった。このことから、この変異が生じてから集団中に拡がるのに要した時間は多く見積もっても1-2千年程度と推定された。この結果を中立的であった場合に要した時間と比較する。そして、この変異が集団中に拡がった背景について、ニホンザルの柑橘類に対する採食行動、生息環境中の植生変化などの視点から考察する。
  • 早川 卓志, 鈴木 南美, 松井 淳, 今井 啓雄, 平井 啓久, 郷 康広
    セッションID: A-09
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/11/01
    会議録・要旨集 フリー
    採食選択には味覚による判断が伴う。味覚受容体遺伝子には顕著な種間、種内変異(アミノ酸変異、遺伝子数変異など)があり、採食環境に対する適応や退化を反映しているとされている。霊長類は虫食性、果食性、葉食性など、種間で多様な食性を有するが、このような霊長類の食性多様化に伴い、味覚受容体レパートリーはどのように進化してきたのだろうか?
     霊長類及び近縁種18種の全ゲノム配列から、甘味、うま味、苦味の受容体遺伝子を相同性検索により同定した。各々の相同遺伝子について、霊長類の系統にわたるアミノ酸置換の程度(ω)を求め、自然選択の強さを推定した。その結果、TAS1Rファミリーに属する甘味、うま味受容体は、どの分類群でも明確な遺伝子重複は認められず、ωの平均は0.313であった。一方でTAS2Rファミリーに属する苦味受容体には多くの分類群で遺伝子重複が存在した。遺伝子系統樹から、霊長類の共通祖先は少なくとも24個の機能的なTAS2Rを持ち、真猿類と狭鼻猿類の共通祖先でそれぞれ数個ずつ段階的に遺伝子重複が起きた歴史が示された。曲鼻猿類の共通祖先では明確な遺伝子重複は認められなかった。ωの平均は0.517であった。
     TAS1Rファミリーで種間変異が少ないことは、甘味やうま味が普遍的な栄養物の受容感覚であることに関係しているだろう。一方でTAS2Rファミリーの遺伝子数が進化過程で変化していることは、苦味が環境間で変化に富む毒物の受容感覚であることと関係しているだろう。TAS2RファミリーのωがTAS1Rファミリーよりも高いことは、重複遺伝子を持つことによる選択圧の緩和か、機能変異に伴う正の自然選択の結果と考えられる。真猿類における顕著なTAS2Rファミリーの遺伝子重複は、虫食性であった真猿類の祖先が多様な植物採食レパートリーを獲得する過程で、植物に特異な毒物を検出するように進化した結果かもしれない。
  • 松下 裕香, Melin Amanda, Moritz Gillian, Dominy Nathaniel, 河村 正二
    セッションID: A-10
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/11/01
    会議録・要旨集 フリー
    フィリピンメガネザル(Tarsius syrichta)はLオプシン遺伝子、ニシメガネザル(T. bancanus)はMオプシン遺伝子を持っていることが報告されており、メガネザルの共通祖先におけるL/Mオプシン遺伝子の対立遺伝子多型及びそれによる色覚多型が示唆されている。しかし他のメガネザルのL/Mオプシン遺伝子は明らかにされていない。我々はメガネザルの共通祖先における色覚多型を検証するために、メガネザルの中で最も分岐の古いスラウェシメガネザル(T. spectrum)のL/Mオプシン遺伝子を調査した。まず東京都恩賜上野動物園のスラウェシメガネザル3個体の口内スワブからDNAを抽出し、L/M オプシン遺伝子のエクソン3から5までのゲノム領域の塩基配列を決定した。その結果、スラウェシメガネザル3個体はすべてLオプシン遺伝子を持っていた。また、フィリピンメガネザル1個体、ニシメガネザル1個体のL/Mオプシン遺伝子についても塩基配列を明らかにし、それぞれ先行研究で報告されていたL/Mオプシンと一致することを確認した。L/Mオプシン遺伝子の塩基配列情報を基に系統樹を作製したところ、イントロン及び同義塩基サイトではスラウェシメガネザル(Lオプシン)を外群としてフィリピンメガネザル(Lオプシン)とニシメガネザル(Mオプシン)がクラスターを形成する種の系統関係を反映した系統樹が得られたのに対し、非同義塩基サイトでは、スラウェシメガネザル(Lオプシン)とフィリピンメガネザル(Lオプシン)がクラスターを形成し、ニシメガネザル(Mオプシン)がその外群となった。このことは、L及びMオプシン遺伝子はこれら3種のメガネザルの共通祖先集団に対立遺伝子として存在し、少なくともフィリピンメガネザルとニシメガネザルの共通祖先までは色覚多型が存続していた可能性を支持している。
  • 原 暢, 古賀 章彦, Baicharoen Sudarath, 平井 百合子, 平井 啓久
    セッションID: A-11
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/11/01
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     ヒトのゲノムの約 45 %はトランスポゾン由来とされており,動いているトランスポゾンとして4種類が知られている.SVAはその一つであり, 遺伝子に転移して様々な病気を引き起こす例が知られている. しかし,ヒト上科の進化の過程で生じたはずのSVAの中間体やそれに関連する因子は未だに報告されておらず,どのような機構でこの複合型因子が生じたのかは明らかではない.そこで我々はSVAのVNTR領域に着目してその探索を行った.VNTR領域の起源となった小型の因子はすでに知られており,この因子はVNTRと97 bp の特異的な3‘配列から成っている.そこでこの因子と何らかのDNA配列が結合した複合因子を仮定し,その検出を試みた.そのため,まず97bpの特異的な配列を用いて,各種霊長類データベースでの相同性検索を行った.その結果,ホオジロテナガザル (Nomuscus leucogenys) ゲノムにおいて,仮定する因子を実際に発見した.この配列はSVAのSINEの部分がプロスタグランジン還元酵素 2 様 (PTGR2-like) 遺伝子の一部に置き換えられた構造をしており, 我々はこれをSr-SVAと名付けた.Sr-SVAがどのように生じてきたかについては以下の2つの説明が可能である.1) SVAと同様のメカニズムでSVAとは独立に形成された.2) SVAが組み換えを起こし形成された.塩基配列の特徴は前者を支持している.また,ゲノム中のSr-SVAのコピー数はSVAより数倍多く,転移頻度がより高いことが推測される.よってPTGR2-like遺伝子の部分は転移反応に関するエンハンサー領域を含んでいるものと予想される.
  • 松平 一成, Reichard Ulrich H., Malaivijitnond Suchinda, 石田 貴文
    セッションID: A-12
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/11/01
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    [背景・目的]Hylobates属のテナガザルは7種に分類され、それぞれの種は側所的に生息しているが、生息域が隣接する3つの地域において交雑が報告されている。しかし、それらの交雑を遺伝学的に示した研究はなく、また交雑によって周辺に住むテナガザルの遺伝子プールにどの程度別種の遺伝子が流入しているかについては、調べられていない。本研究では、シロテテナガザル(Hylobates lar)とボウシテナガザル(Hylobates pileatus)の交雑が報告されているタイのKhao Yai国立公園において、シロテテナガザルにおける、ボウシテナガザルからのイントログレッションの有無を調査した。
    [方法]2010年6~8月および2011年3~5月に、Khao Yai国立公園の2種の交雑地域から西に20~30kmのMo Singto、Khlong E-tau地域に生息するシロテテナガザル17群67個体および単独オス1個体の糞便を収集した。これから得られたDNAについて、mtDNAの超多型領域Iを含む631~632塩基対の配列を決定し、データベース上に登録されているテナガザルの配列との比較解析を行った。
    [結果]68個体について、11のハプロタイプが確認された。その内、1つのハプロタイプがボウシテナガザルのものであった。9個体がこのハプロタイプをもち、それらの個体は少なくとも2つの母系の家系に属し、ひとつの家系では3世代にわたってこのハプロタイプが伝達されていた。よって、野生のテナガザルにおいてmtDNAのイントログレッションが起きていることが初めて示された。
    [考察]外見的特徴からは、9個体全てが褐色タイプのシロテテナガザルと判断され、雑種個体に見られるとされているボウシテナガザル(オトナのオスは黒色、メスは灰白色で、どちらも異なる色の毛が帽子状に生えている)との中間的特徴は見られなかった。このことと、3世代にわたってボウシテナガザルのmtDNAが観察されたことから、両種の交雑が起きて遺伝子が流入してから、相当な世代数が経過していると考えられる。
  • 栗田 博之, 鈴村 崇文, 冠地 富士男
    セッションID: A-13
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/11/01
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     野生動物の保護管理において、その栄養状態や繁殖成績の把握は最重要課題のひとつであるが、それが長年月にわたって継続されている動物個体群は世界的にも多くない。高崎山の餌付けニホンザル群と幸島の餌付けニホンザル群は、長期に上述データの蓄積が行われてきた。本発表では、繁殖母体である成熟雌の体重・体長・出産率を2個体群間で比較した結果を発表する。
     体重については、高崎山雌では成長に伴う増加の後、18歳頃から急激に減少する傾向があったが、幸島雌では加齢による顕著な減少は認められなかった。一方、幸島雌の体重は非常に年変動が大きく、変動パターンは個体間で同調していることがわかった。これは、自然食物の豊凶の影響を受けていると推測される。体重年変動を考慮し、2007年と2008年の2年のデータを用いて成熟雌の体重を2群間で比較したところ、両年とも高崎山群の方が重かった。
     体長については、高崎山雌では成長に伴う増加の後、加齢に伴う短縮は認められなかった。一方の幸島雌ではまだ調査年数が不十分であり、明瞭な傾向は不明である。
     出産率については、高崎山雌の方が初産年齢が早く最終出産年齢が遅い傾向があり、かつほとんどすべての年齢で高い値を示した。
     以上の結果は、高崎山群の方が相対的に給餌量が多いことが、高崎山雌の方が栄養レベルおよび繁殖成績が高く、幸島雌体重が自然食物の豊凶に影響を受けやすいという結果につながっていると推測される。
  • 杉山 幸丸, 栗田 博之, 松井 猛, 木本 智, 江川順子 順子
    セッションID: A-14
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/11/01
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     1960年代から1970年代前半にかけて餌付けされた野生ニホンザル(Macaca fuscata)で高頻度に奇形個体が誕生した。多いところでは新生児の40%を超えたという。高崎山でも5%に近づいた。初期には近親交配と人工餌、とくに特定国からの輸入大豆に付着した農薬がその原因として指摘されたが、特定できないままその発生頻度が減少して話題に上らなくなった。しかし減少してもゼロに帰したわけではない。最近5年間の高崎山は0.2%である。私たちは奇形発生が頂点に達した1970年代後半以降の高崎山個体群の資料を中心に、その発生頻度の変化を分析した。奇形児の発生は投与餌量と相関を示した。これは個体数増加の著しい時期とも一致する。しかし総個体数とも出産率とも相関していない。すなわち、高栄養条件で出産率が向上して奇形胎児が流死産せずに誕生したという説は必ずしも適切ではない。最終的な究明にまでは至らなかったが、投与餌が原因として残された。また、多発時にも指摘された遺伝的要因も家系集積の存在からその原因の一部として残された。奇形は雄に多く発生したが統計的な有意差には至らなかった。また多くの奇形が手足とも第4指に圧倒的に多く見られたが、その原因は不明だった。
  • 森光 由樹
    セッションID: A-15
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/11/01
    会議録・要旨集 フリー
     野生動物の行動の研究は、これまで直接観察法が主体であった。しかし、多くの野生動物は人間を忌避し、観察が困難な場合が多い。近年、無人自動撮影技術の向上により センサー付きカメラを生息地に設置することで動物観察が容易となった。しかし、センサー付きカメラは一定の箇所でしか情報を収集することができず、限界がある。そこで本研究では野生動物に超小型撮影装置を装着し、動物側から撮影し情報を収集することに着目した。動物側の目線で撮影された画像を解析することで動物の生態を解明する。ニホンザルに装着する超小型カメラの開発を実施した。小型の赤外線照明内蔵のカメラを、電源とともに防水ケースに収納し、脱落機能の付いた発信器首輪 に取り付けた。ニホンザルの行動を妨げない重量120gにした。カメラは、長時間連続録画及び静止画撮影が可能なものを選択した。超小型タイマーを取り付けて、録画時間の設定、赤外線照 明のオンオフの設定を可能とした。録画媒体は、小さく軽度で記録容量が多いSDカードを採用した。捕獲不動化したニホンザルにカメラを装着し放獣した。電波発信器を利用して脱落したカメラを回収し、動画を解析した。その結果、生息環境、採食物のデータを入手することができた。今後は、さらに長期間撮影できるバッテリーの開発が重要である。
  • 土居 理雅, サンガ・ンゴイ カザディ
    セッションID: A-16
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/11/01
    会議録・要旨集 フリー
     本解析では亀山市のニホンザル(Macaca fuscata)をケーススタディとした生息適地モデリングを行う.人間に負荷のかからない猿害対策として、サルの移住は有効な考えであり、それに適した土地を抽出することが肝要である.標高・相対群密度・植生・温量指数の4つの環境要因を観点に置き,サルの生息し易さを表すHSI (Habitat Suitability Index)を算出する為にDempster-Shafer理論を用いた.温量指数が低い地域は標高が高く,植生はEvergreen broad-leaves forestsとConiferous forestsが大半を占めサルの餌にはならない.サルの生息面積が全体の約70%となった温量指数域121-126℃・月では生物多様性の高い植生であるGolf courtsとMixed forestsが優占していること分かった.温量指数がより高い地域は標高が低く,人為的カテゴリーの占める割合が高いためにサルの生息は制限され現在は生息情報が少ない.得られたHSI Mapより低地にHSI≧0.8が多く見られるが,渡邊(1994)によるとサルのもつ環境要求と人間のそれは高い割合で一致する.このためHSI≧0.8の大部分が低地となった.本来であればサルの生息に適したhabitatに今は人間が住んでいるため, 住み分けが上手くいかない地域では猿害が生じている.つまり現在の山奥は生物多様性の低い植生に占められておりHSIは低くサルの生息には適さない.反対に植生の豊かな低地はHSIが高いが人間活動が盛んな地域に隣接しており,畑や水田にサルが出没しやすい環境となっている.サルの生息は山の針葉樹林と低地の人間活動に挟まれて,制限されていることが科学的かつ定量的に証明された.また低地に広く広がるHSI≧0.8の存在は、この地域が潜在的に害獣問題を増長させる危険性を示唆している.
  • 森 明雄
    セッションID: A-17
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/11/01
    会議録・要旨集 フリー
     サルが行動域の中をどのように動き回るのかというのは、興味深い問題である。採食樹から採食樹へ移動すると単純にはいえず、地形の影響を受ける。行動域内の1点を通過する標準通過確率が分かれば、その点の実際の通過頻度が、たまたま果実がその場所で結実したために特に高くなったといった評価を下すことができる。行動域を 20m X 20m のメッシュで覆い、実際の観察データを利用して、各区画の標準通過確率を算出する。標準とは、果実の稔らない年の通過頻度の平均値である。サルは各区画を標準通過確率で通過し、かつ、採食樹に誘引されるという、行動域内の移動モデルを利用して、遊動のシュミレーションを行った。 モデルを利用したシュミレーションと、実際の遊動データとの一致度から、移動モデルの妥当性を検証することができる。<モデル1>各区画にいるサルは、周囲の8区画を標準通過確率に従って、確率的に選択して次の区画へ進む。結果は、サルは同じ区画に繰り返し回帰し、重ね塗りをするように進む。そこで、サルの進行に直進性を持たす必要がある。観察した遊動データに 20mX20mメッシュをかけて、区画から区画への進行に、読み替える。周囲の上下、左右の区画へ進行した後、元の区画の斜め方向の区画へ進行した場合は、元の区画から直接斜めの区画へ移動したと仮定し、周囲8方向への進行方向割合を求める。<モデル2>進行方向割合と標準通過確率を掛け合わせたものを、8方向への 進行確率として、移動させる。モデルと観察はかなり一致する。<モデル3>サル道があることを考慮して、各区画は進行方向が決まっているとし、観察から各区画内からの進行方向(8方向の内1方向)を決める。方向の変異が大きい区画では、標準通過確率のみに従う。
  • 杉浦 秀樹, 下岡 ゆき子, Di Fiore Anthony , 辻 大和, LINK Andre's LINK
    セッションID: A-18
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/11/01
    会議録・要旨集 フリー
    ニホンザルはまとまりの良い群れをつくるが、まれに、群れが2つ以上に分かれて独立に移動するサブグルーピングもおきる。クモザルは離合集散型の社会を持っていると言われ、サブグルーピングが頻繁に起きる。両者のサブグルーピング行動を比較し、両者の特徴を明らかにした。2名の観察者による同時個体追跡を行い、2個体間の水平距離を連続的に記録した。両種とも、100m前後までにまとまった分布があり、群れがまとまっている状態であると考えられる。それより長い距離では、裾野の長い分布になり、両種とも1km以上に達した。これらはサブグルーピングの状態であると考えられる。群れがまとまっていると考えられる状態では、両種とも個体間距離が離れた後に距離が縮まる傾向があり、群れの凝集性を保とうとしていることが示唆された。しかし、サブグルーピングをしていると考えられる状態では、このような傾向はなく、2個体間の動きはお互いに関連がなかった。群れが2つに分かれていく過程を見ると、ニホンザルは2個体共に、移動が速いことが多い傾向があった。しかし、クモザルでは必ずしもそうではなく、片方がほとんど移動しない時に、片方が一方的に離れていくこともあった。両種のサブグルーピングの共通点と相違点を議論する。
  • 中川 尚史, 谷口 晴香
    セッションID: A-19
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/11/01
    会議録・要旨集 フリー
     霊長類の文化的変異研究が道具使用や採食に関わる行動に集中する中、チンパンジーやオマキザルなどで社会的慣習の証拠が知られるようになってきた。ニホンザルにおいても、近年、緊張緩和行動として機能している抱擁行動のパタンが、金華山島と屋久島で異なることが報告され、文化的変異と見なされている。具体的には、金華山では対面で抱き合い互いの体を大きく揺するのに対し、屋久島では対面のみならず一方は他方の体側や背側から抱きつき、体を大きく揺するかわりに他個体を握った掌の開閉動作を伴う。本発表では、下北半島のニホンザルにおいて観察された抱擁行動のパタンについて報告する。
     当該行動は、2008年12月27日から2009年4月20日、下北半島南西部のニホンザルA87群を対象に谷口が行った母親と赤ん坊の採食行動の調査中、母親、赤ん坊それぞれ200時間の個体追跡中に、8回と2回の計10回、追跡個体以外で3回観察された。
     観察された抱擁行動は、事例数が少ないながら、金華山や屋久島同様、闘争直後や毛づくろいの中断後など緊張をはらむ状況で観察され、やはり緊張緩和行動と考えられた。他方、行動パタンとしては、屋久島同様3方向からの抱擁が見られた一方で、金華山同様の掌の開閉動作のない相手の体を大きく揺するという、両地域の特徴が交じり合ったパタンが認められた。
     アンケート調査の結果、嵐山、勝山、高崎山からは複数の長期継続調査者から抱擁行動そのものを観察したことがないとの回答が得られ、金華山においても群れによっては観察したことがないという回答が得られている。行動の有無も含め抱擁行動の個体群間、群れ間変異を文化的変異と見なすなら、今後の行動の革新や消失が起こる可能性がある。また、抱擁行動の見られない群れで緊張状態がないとは考えられないことから何らかの代替行動があるとも予測される。今後の課題である。
  • 丸橋 珠樹, 岡崎 祥子, 小川 秀司, Nilpaung Warayut, 浜田 穣, Malaivijitnond Suchinda
    セッションID: A-20
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/11/01
    会議録・要旨集 フリー
    2007年12月5日から2008年2月10日までの乾季66日間、158時間の観察時間のデータから、樹上活動時間割合は3%で、ほとんどすべての時間を地上で過ごし、移動は地上移動である。採食部位別時間構成は、果実50%、葉25%、種子24%である。昆虫食は頻繁にみられる。なお、石をひっくり返してカタツムリを採食しようとする行動がみられるが、実際に採食したのは観察158時間で4回に過ぎなかった。また、カエル(未同定)採食も1度観察され、内臓の一部を食べて遺棄した。
     このような採食生態をもっているベニガオザルの、ウサギの捕獲、肉食が観察された。ウサギ捕食あるいは試みの3例の事例を報告する。2008年1月9日に、何か振り回して捨てていった所に近づいたところ、背中の皮を剥がれたウサギが残され、ウサギは飛び跳ねて森へ逃げていった(丸橋)。2011年10月14日、5歳雄のウサギ捕獲・肉食のVIDEO撮影に成功した(岡崎)。また、2011年12月29日にオトナ雌のウサギ肉食が観察され短時間のVIDEO撮影に成功した(小川)。
     ベニガオザルのウサギ肉食行動観察の特徴として以下の点を指摘できる。1)肉食対象種はビルマノウサギ (Lepus peguensis) Blyth. 1855 (from Mammals of Thailand) である。2)ウサギが生きている状態で肉食が始まり、つまり捕獲し、その時点でウサギは断末魔の悲鳴を上げていた。3)ウサギの大部分、内臓も含めて消費され、観察時間内では、毛皮は食べられなかった。4)捕獲した個体がだけが継続して、移動しながら肉食し、最低7分半は継続していた。5)他個体の近接や近接個体の追随は見られるが、他の優位個体による奪取や残渣の拾い食いなどは見られなかった。議論では、同じ程度の大きさであるロリスとベニガオザルとの異種間行動についても報告し、反撃を行うロリスNycticebus coucang (from Mammals of Thailand) では捕食にいたらなかった事例観察(丸橋)との比較を行う。
     ベニガオザルにとって、ウサギ肉食行動は頻度が低い行動であると考えられ、群のなかで肉食経験のある個体は少なく、食物としての共有認識は低いと考えられ、その影響は個体間での競争や追随はほとんどみられなかったことにも現れている。
  • 松田 一希, 張 鵬, Swedell Larissa, 森 梅代, Tuuga Augustine, Bernard Henry, Sue ...
    セッションID: A-21
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/11/01
    会議録・要旨集 フリー
     オナガザル科に属するいくつかの霊長類種では、重層的な社会を形成する。これは、複数の群れが集まりさらに高次の社会を形成するというものである。重層社会を形成するオナガザル科のサルに共通するのは、群れの基本単位が、単雄複雌の群であるという点である。重層社会の種間比較研究の多くは、単雄複雌の群れ間の関係性に着目して進められてきた。ところが、単雄複雌の群れ内の個体間の関係性に着目し、それを定量的に種間比較した研究例は今までにない。霊長類の重層社会を理解する上で、その根幹をなす最少ユニットである単雄複雌の群れ内の個体間関係を比較することも、群れ間の関係性を比較する研究と同様に重要である。本研究では、重層社会を形成することが報告されているコロブス亜科2種(テングザル、キンシコウ)と、オナガザル亜科2種(マントヒヒ、ゲダヒヒ)の単雄複雌の群れ内の個体間の社会交渉を、ソーシャルネットワーク分析を用いて比較・検討した。これら4種において、群れ内の個体間で観察された社会交渉をもとに、オスとメスの中心性を比較したところ、コロブス亜科とオナガザル亜科で明確な違いが見られた。コロブス亜科2種では、社会交渉の中心はメスであるのに対して、オナガザル亜科2種ではオスが、その中心となっていることがわかった。これらの違いは、オナガザル亜科に比べてより頻繁に報告されている、コロブス亜科のメス間でよく見られる、アロマザリング行動が影響している可能性が示唆された。この他にも、クラスター指数やクラスター解析の結果から、それぞれの種における個体間の社会交渉の傾向が、各種の性分散様式とどのように関係しているのかも考察する。
  • 辻 大和
    セッションID: A-22
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/11/01
    会議録・要旨集 フリー
     研究の背景・目的:秋から初冬にかけて地上に大量に落とされる堅果類は脂肪分に富み、冷温帯地域のニホンザルにとって重要な食物資源である。いっぽう液果類は供給量の絶対量の少なさゆえにサルの依存度が相対的に低く、補助的な食物となっている。果実類の生産量は年次的に変化し、その程度は堅果類で著しい。堅果類の供給が少ない年には、サルは液果類を多く採食することで栄養要求を満たそうとするが、このようなサルの採食行動の変化が、液果種子の散布特性、具体的には種子の出現率・個数・破壊率などに影響している可能性がある。本研究では、長期データを利用してこの点を検証する。
     方法:調査は宮城県金華山島で実施した。1999年から2008年にかけて各季節のサルの糞を採集し、糞中の種子の取り出しと種同定・個数のカウント・破壊率の評価をおこなった。糞から出現した36種のうち出現頻度の高かった主要12種について、各年の1) 糞からの種子の出現率、2) 糞一個あたりの種子の数、3) 種子の破壊率を調べた。いっぽう調査地内に設置した種子トラップを用いて各年の主要堅果類4樹種の単位面積当たりの結実量を評価した。
     結果:堅果類4種の結実が少ない年には、サルの糞からの種子の出現率が高まり、糞一個あたりの種子数が増加し、逆に種子の破壊率が低下した。異なる季節のデータが得られたガマズミとノイバラの二種に関しては、堅果類の結実が少ない年には秋に多くの種子が出現するのに対して結実が多い年は冬まで種子が出現しないこともわかった。
     考察:堅果類の結実の年次変動が液果類の種子散布特性に影響していること、いくつかの樹種では果実の利用開始時期も堅果類の結実状態から影響を受けることがわかった。液果種子の散布特性の評価において生息環境のモニタリングが不可欠であること、またシードレインの推定に当たっては、種子が散布される時期の動物の行動特性の理解が不可欠であることが示唆される。
  • 久世 濃子, 金森 朝子, 山崎 彩夏, 田島 知之, Bernard Henry, Malim Peter T., 幸島 司郎
    セッションID: A-23
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/11/01
    会議録・要旨集 フリー
     野生下でのオランウータンの出産間隔は6~9年であり、陸上棲哺乳類では最長である。オランウータンは2種3亜種に分類されているが、種および亜種によって出産間隔が異なっている(スマトラ:9年、ボルネオ:6~7年)。スマトラ島は火山性で栄養豊富な土壌である為、非火山性土壌のボルネオ島よりも果実生産量が高く、オラウータンの栄養状態が良いと言われている。このことからオランウータンでは栄養状態が良い(死亡率が低い)環境であれば、出産間隔が長くなる、という仮説が提唱されている。しかし飼育下や、餌付けされている半野生下(保護されて人に育てられた後、森に放された個体)では、種・亜種に関わらず、出産間隔が短くなる(6年)と報告されている。本発表では、最も栄養状態が悪い(果実生産量の変動が激しく、果実生産量が少ない期間が長い)と言われている、ボルネオ島北部に生息する亜種Pongo pygmaeus morioの雌の繁殖(妊娠・出産・乳幼児の死亡)を報告し、果実生産量が雌の繁殖に与える影響について考察する。
     ボルネオ島マレーシア領サバ州のダナムバレー自然保護区内のDanum川の両岸2km2の一次林を調査地とし、2005年3月から2011年12月まで、毎月平均15日間、オランウータンを探索及び追跡した。また栄養状態を測定する為に、ヒト用尿試験紙を用いて尿中ケトンを調べた。
    6年間で10頭の雌が9頭のアカンボウを出産した。うち1頭(雄)は出産後1週間以内に消失し、1頭(雄)が4歳で消失したが、他8頭は2011年12月末の時点で生存していた。また2011年に死産または新生児死亡が疑われる1事例があった。妊娠は2010年に集中(4/10)しており、2010年に起きた一斉開花の影響の可能性がある。発表では、尿中ケトンおよび果実生産量の変動の結果とあわせて、果実生産量が雌の繁殖に与える影響について考察する。
  • 中村 美知夫, 井上 紗奈, 伊藤 詞子
    セッションID: A-24
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/11/01
    会議録・要旨集 フリー
    [目的]
     後天的な負傷を除けば、野生下で身体障害のあるチンパンジーが観察される例は少ない。マハレで、おそらく先天的に身体障害を持っていると思われるアカンボウが観察されたので、その症例を報告する。

    [方法]
     身体障害のあるXT11(2011年1月生、メス)の観察をおこなった。おもに9~11ヶ月齢にかけて、身体的特徴、身体能力、および母親や周辺個体がどのようにXT11に対応しているのか、についての情報を収集した。

    [結果と考察]
     外部から判断できるXT11の特徴として、背中の脊髄部分が盛り上がりその部分の毛が少なく、腹部には4~5センチほどの瘤がある。また、左手に6本目の指があるが、通常の指よりも細く、骨が入っていないのか手の角度によっては外側にだらりと曲がっている。また、顔の表情が通常よりも弛緩している。吸乳に問題はないようで、同齢児よりもやや体格は小さいものの、栄養状態は良好に見える。
     身体能力に関しては、上肢の把握力には問題ないため、母親の腹部の毛を掴むことはできる。しかし、下肢の把握力は完全ではなく、母親の腹部を掴めずにだらりと落ちてしまうことが多い。このため、母親は、移動する際に頻繁に片手でXT11を押さえねばならず、三足での歩行となることが多かった。さらに、体幹を立てることができず、自力で座ったり立ち上がったりすることはできない。このため、母親は毛づくろいなどの際には、XT11を地面に仰向けに寝かせていることが多く、樹上で採食する際にも常にXT11を支える必要がある。
     母親のXTは、これまでの子の場合、非血縁個体にも頻繁に運搬させ、どちらかと言えば放任型のメスであった。しかし、XT11については上の娘XP以外には一切運搬させず、非血縁のコドモが触るのを牽制することも観察された。娘のXPにも初めはあまり運搬させなかったが、観察後半では積極的にXT11の運搬を促す例も観察された。XT11の成長に伴い運搬する負担が増えたことが理由の一つかもしれない。
  • 島田 将喜
    セッションID: A-25
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/11/01
    会議録・要旨集 フリー
    目的
    野生チンパンジーの社会的遊びでは、ある瞬間に形成される遊びの繋がりにおけるインバランスな関係を避け、バランスした関係を維持しようとする結果、大きいクリークは不安定になり、相称的なダイアドクリークへと縮減する。一方複数のダイアドの遊びが同時に狭い空間内で生じ、その結果大きな遊びクラスターが形成される。比較的大きな遊びクラスターを分析し、そのネットワーク上の特徴を個体の遊びへの積極性と中心性の観点から検討した。
    方法
    タンザニアマハレ山塊国立公園のMグループのチンパンジーを対象に約二ヶ月間、デジタルビデオカメラを用いて社会的遊びを記録した。一分単位の観察ユニット(OU)を設け、そのOU内にある個体が別の個体に遊び行動を向けたかどうかによりOUの社会的遊びの有無を定義した。10m以内で生じた一分以内に連続する社会的遊びのはじめから終わりまでに参与した個体の繋がりを遊びクラスターとし、符号なし有向グラフとして扱った。サイズが4以上の遊びクラスターのそれぞれにおける、各個体の出入次数・出次数/入次数中心性・参与時間を算出し、グラフ中心性を求めた。
    結果と考察
    各個体の遊びクラスターへの参与時間は、性に関わりなく年齢カテゴリーが上がると短くなるが、参与者数が多いクラスターほど、長かった。長く参与する個体の入次数・出次数中心性はともに高かった。二つの中心性の間には有意な正の相関関係があった。各遊びクラスターのグラフ中心性は低い値に集中した。グラフ中心性が高い場合であっても、中心的な個体は不特定であった。これらの結果は、そのクラスターにおいてより遊びに積極的な個体が、ある瞬間には一個体のみと相称的に遊ぶものの、経時的にはより多くの他個体に遊び行動を向け、他個体から遊び行動を向けられることで、結果的に多くの繋がりをもつ中心的個体となり、積極的でない個体は周辺的個体となることを示唆する。
  • 橋本 千絵, 古市 剛史
    セッションID: A-26
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/11/01
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     ウガンダ共和国カリンズ森林M集団の野生チンパンジーを対象に、遊動パターンとパーティ構成の雌雄差を調べるため、オスとメスそれぞれを同時期に個体追跡し、遊動パターンとパーティの構成を記録した。先行研究によると、東チンパンジーでは、メスたちはそれぞれ狭いコアエリアを分かれて遊動し、雄は同じ集団のメスたちの遊動域をすべて含むエリアを遊動するというMale-Bondedモデルと呼ばれる社会構造をもつといわれてきたが、本研究の分析によると、カリンズ森林のチンパンジーは、ニホンザルやボノボにみられるように、オスもメスも集団の遊動域すべてを使うという、BisexulallyBondedモデルとよばれる遊動パターンを示すことがわかった。ところが、1hour party法を用いたパーティの構成をみると、オスは発情メスを含むパーティやオスたちが複数一緒に遊動するパーティで遊動していたが、メスでは、自分の子どもたちとのみ遊動することが多いことがわかった。つまり、パーティ構成でみると、ニホンザルにみられるように集団全員のメンバーと一緒に遊動しているわけではなく、Male-Bondedモデルが示すような社会構造をもつことになる。また、1日あたりの遊動を比較すると、メスはオスに比べて、遊動距離が短い結果が示唆された。本研究では、パーティ構成の変化や遊動パターンとの関係を調べ、カリンズ森林のチンパンジーにみられるオスとメスに見られる遊動とパーティ構成の違いについて考察を行い、それらに見られる雌雄差がどのように集団全体の社会構造に影響をしているのかを明らかにしたい。
  • 古市 剛史, 坂巻 哲也, N. Mulavw Mbangi
    セッションID: A-27
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/11/01
    会議録・要旨集 フリー
     近年にいたるまで,湿地帯は類人猿の生息地としてはあまり重要視されてこなかった。たとえばルオー保護区ワンバ地区のボノボは、日中頻繁に湿地林を遊動して採食するが、夕方には乾燥林に戻ってきて泊まると考えられていた。しかし最近、餌付けを行わない状態で終日追跡を行ってみると、泊まり場の10%以上が湿地林に作られていることがわかった。ルオー保護区以外でもボノボによる湿地林や水辺の利用が見直されている。ルイコタレのボノボは、頻繁に湿地林を横切って川岸を訪れ、二足で立ち上がって上半身まで水につかって水草を採食する。また、トゥンバ湖とマインドンベ湖にはさまれた50パーセント以上を湿地林が占める地域にも、かなり多くのボノボが生息していることがわかってきた。コンゴ盆地の中央部を占めるボノボの生息域は、北西部の湿地帯がえぐれたような形になっているが、この地域にボノボがいないことがはっきりと確かめられているわけではない。ボノボによる湿地林の利用実態が明らかになれば、ボノボの生態や推定個体数が大きく見直される可能性もある。この研究では、ルオー保護区のボノボの湿地林の利用実態とその季節変化を分析し、近年の他の地域のボノボや他の類人猿種による湿地林の利用についての報告と比較して検討する。
  • 中島 啓裕, 岩田 有史, 竹ノ下 祐二, Nguema Pierre Philippe Mbehang, Okoue Etienne Ak ...
    セッションID: A-28
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/11/01
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     大型霊長類の分布・アバンダンス調査では、これまで、ネストカウントに基づく手法が主流を占めてきた。しかし、ネストのアバンダンスは、崩壊速度が環境によって大きく異なること、2種の大型類人猿が共存する地域ではその作り手を判別することが困難なことから、必ずしも信頼性の高い密度指標となりうるわけではない。本研究では、ネストカウント法(ライントランセクト法及びルコネッサンス)と同時に、自動撮影カメラ法をチンパンジー(Pan troglodytes troglodytes)及びニシローランドゴリラ (Gorilla gorilla gorilla)に対して適用し、信頼性の高いハビタットモデルを作成することにした。調査は、2010年の8月(乾季)にガボン・ムカラバ国立公園の東部で行った。調査エリア(約500平方キロメートル)は、標高68mから723mにまたがる様々な植生帯を含むよう設定した。ライントランゼクト法から得られたデータは、プログラムDistanceを用いてネストのグループ密度を計算した。ルコネッサンスによるデータからは、遭遇頻度(発見ネストグループ数/踏査距離)を、自動撮影カメラのデータは、撮影頻度(撮影枚数/調査努力量)とともに、検出確率(Detection Probability)をコントロールした占有率(Occupancy rates)を計算した(Occupancy model)。この結果、ネストカウント法による密度指標と自動撮影カメラの撮影頻度の間には、ゴリラにおいては有意な相関が得られないものの、占有率との間には両種において有意な相関が得られることが確認された。ネストグループの密度、遭遇頻度、占有率を応答変数としたハビタットモデルは、いずれも、チンパンジーとゴリラは、空間的に異なる分布パターンを持つことを示した。チンパンジーは山地に、ゴリラは低地に多かった。山地には、乾季にも比較的高い果実が得られること、低地にはTHVが多いことが、その後の調査から示唆されている。両種の分布の違いは、資源の分布と各種の食資源の選好性の違いを反映したものであると考えられた。
  • 松原 幹
    セッションID: A-29
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/11/01
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     遊び行動は社会的発達において重要な役割を果たしていると言われている。様々な霊長類で、コドモはコドモ同士で遊ぶことが多いことが知られている。特に、年長との遊びは、身体的発達や運動能力の発達、自分より強い相手と接することで得られる社会的スキルの獲得といった効果がある。しかし、単雄複雌群を形成する場合、新群形成の初期は、群内にコドモが少なく、年長のコドモと接する機会が皆無、もしくは少ない場合もある。この時期のコドモの遊び相手として、オトナがあげられるが、オトナとコドモの遊びの違いについては、ゴリラでは未報告である。
     そこで英・ハウレッツ・ポートリム野生動物公園のニシローランドゴリラの家族群2群の行動観察を行った。家族群形成から10年以上経ち、常に年長コドモがいるジャラ(DL)群と、家族群形成から5年ほどで、年長コドモが皆無、または少ないジャングウ(DG)群において、遊びのレパートリー、継続時間、遊び相手を比較した。
     DL群はDG群の同年齢の個体より、遊びの継続時間が長く、遊びの誘いかけ行動が多くみられた。DL群では、シルバーバックや非血縁オトナメスが、コドモの遊び相手になる時間は極めて低いが、DG群では非血縁オトナメスがコドモと遊ぶ行動がDL群より長時間見られた。
     オトナがコドモと遊ぶ時間に群間差がみられた原因は、1)DG群はDL群よりオトナ個体の年齢が若い
     2)経産後にコドモを失ったオトナメスは、コドモと遊ぶことが多い  (Fossey, 1983)
     3)オトナの性格の個体差等が考えられる。
     ゴリラでは、非血縁メスが新群形成初期に生まれるコドモの社会的スキルの獲得にかかわることで、社会的発達を促進していると思われる。雌雄ともに生まれた群れから移籍し、新群形成するゴリラでは、こうした成長発達過程が、将来的に非血縁個体との社会交渉(求愛、群れ形成・維持)で役立つと考えられる。
  • 井上 英治, 安藤 智恵子, Akomo Okoue Etienne, 岩田 有史, 十代 真理子, 藤田 志歩, Nze Nkogue C ...
    セッションID: A-30
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/11/01
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    霊長類の社会を考える上で、その血縁構造を明らかにすることは重要である。本研究では、ニシローランドゴリラの群れの血縁構造の調査を行なった。ガボン、ムカラバドゥドゥ国立公園において、2004年から、グループジャンティと名付けた群れの人付けを開始し、現在ではすべての個体を識別している。2011年4月にベッドサイトで採取した糞および随時追跡中に採取した糞など、おもに個体が判別していない糞56試料からDNAを抽出し、アメロジェニン遺伝子の一部を用いた性判別と常染色体上のマイクロサテライト16領域を用いた個体識別と血縁判定を行なった。2011年4月時点で群れを構成していた22個体のうち、DNAを用いた個体識別で19個体の遺伝子型を特定できた。糞サイズ、性判定、親子判定の結果から、観察で確認されているオトナオス1個体とオトナメス6個体はすべて遺伝子型を決定でき、コドモ1個体、アカンボウ2個体の糞が採取できていないと推定された。オトナ以外の12個体の父親は、すべて群れにいる唯一のオトナオスと推定された。同様に母親を推定したところ、8頭の母親を決定できたが、残り4頭は群れ内に母親がいなかった。また、オトナメス間の15ペア中2ペアで半兄弟以上の血縁があると推定された。DNAで復元できたオトナメスの数や母親のいない子どもの数は観察データと矛盾しない結果であった。DNAの分析から、1998年生まれと推定した個体の父親も群れのオトナオスであったので、このオスは最低でも10年以上は集団を維持していると思われる。また、オトナメス間でよく一緒にいるペアが観察されており、それが血縁者である可能性も考えられる。このように観察による個体識別とDNA判定を組み合わせることで、群れ内の血縁構造を明らかにできた。今後、集団内の個体の社会関係に与える血縁の影響を明らかにしていきたい。
  • 佐藤 杏奈, 香田 啓貴, Lemasson Alban, 南雲 純治, 正高 信男
    セッションID: B-01
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/11/01
    会議録・要旨集 フリー
     乳児に特有な物理的特徴(大きな瞳や小さな鼻・口、広く突き出た額、丸い頬、短い四肢など)は、かわいいという「感情」を喚起し、鍵刺激となって、養育行動を引き出していると、動物行動学者のローレンツは提唱した。これはローレンツの幼児図式仮説と呼ばれている。幼児図式(乳児特有の物理的な特徴)は哺乳類と一部の鳥類に普遍的存在しており、ヒトに限らず他の動物種においても、同様な選好反応が期待されるはずだが、ヒト以外の動物ではほとんど検討されてこなかった。本研究では、ニホンザルとキャンベルズモンキーを対象に、視覚対呈示法を用いて乳児への選好性の有無について検討した。実験では、ニホンザルのオトナメスの全身写真と、乳児(0歳児)の全身写真を刺激として用い、対呈示して、その注視時間を分析した。その結果、ニホンザルにおいても、キャンベルズモンキーにおいても、乳児の画像に対して注視時間が長くなった。特に、キャンベルズモンキーでは、ニホンザルを見たことがないにもかかわらず、ニホンザルでの結果と同様に乳児画像に対する注視時間が長くなった。これら結果は、種を超えた選好性が存在している可能性を示唆している。本研究から、ヒト以外の動物における乳児画像に対する選好性について議論する。
  • 菊池 瑛理佳, 三輪 美樹, 中村 克樹
    セッションID: B-02
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/11/01
    会議録・要旨集 フリー
    ヒトの子どもには、おもちゃの選好性に性差があることが報告されている。例えば、男の子はミニカーなどの動くおもちゃを好み、女の子はぬいぐるみや人形などを好む。これらの選好性が親の教育方針などによって左右されるという見解も多くあったが、こうした選好性は、出生前のホルモン暴露の影響を強く受けていることなど生物学的要素が影響しているという考えが支持されている。さらにヒト以外の霊長類でも、ベルベットモンキー(Alexander and Hines, 2002)やアカゲザル(Hassett, Siebert, & Wallen, 2008)でもヒト用おもちゃに対する選好性の性差が報告されている。ヒト以外の霊長類がおもちゃの意味を理解しているとは考えにくいが、こうした物体の何らかの要素に対する選好性の性差が存在することを示唆する。本研究は、小型新世界ザルであるコモンマーモセットが物体の選好性に関する性差を示すか否かを、ヒト用おもちゃを刺激として調べることを目的とした。実験には1歳半以上のコモンマーモセットのオス9頭、メス9頭を対象に実験した。刺激として、ぬいぐるみ(ヒトの女児用おもちゃ)とミニカー(ヒトの男児用おもちゃ)を用いた。実験は飼育ケージで行なった。実験1では、ぬいぐるみとミニカーを同時に30分間個体に提示し、実験2では、ぬいぐるみ2つとミニカー2つを用意し、一つずつ5分間個体に提示した。おもちゃの提示期間中、コモンマーモセットの行動をビデオ撮影した。結果、実験1において有意差は見られず、実験2においてメスがぬいぐるみに接触する時間がオスよりも有意に長かった(Mann-Whitney’s U test, P < 0.05)。コモンマーモセットにも物体の選好性に関する性差が存在することが示唆された。コモンマーモセットは霊長類における行動の性差を研究するモデルになる可能性がある。
  • 櫻庭 陽子, 友永 雅己, 林 美里
    セッションID: B-03
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/11/01
    会議録・要旨集 フリー
    京都大学霊長類研究所には14個体のチンパンジーが群れでくらしている。そのうち、レオというオトナの男性は、2006年に脊髄炎を発症し、四肢麻痺から寝たきりの生活になった。その後スタッフの懸命な治療と介護の結果、寝たきりの状態から自力で起き上がるまでに回復した。2009年には狭い治療用ケージから広い部屋に移動し、歩行やブラキエーションなどの移動ができるようになった。2009年11月から環境エンリッチメントとリハビリテーションを兼ねた、コンピュータ制御による認知課題を導入した。毎日午前(10~12時)と午後(14~16時)に自動的にPCが起動し、問題に正解すると少し離れたところから食物小片1個が提示される。この報酬をとるためにはモニターから離れて数m歩かなければならない。本発表では、蓄積された2010年と2011年のデータから、このチンパンジーの行動について、特に「正答率」「実施した試行数」「課題を開始するまでの時間」に注目して分析をおこなった。その結果、正答率は2010年では午前と午後の違いは見られなかったが、2011年には午後の方が有意に高かった。また2年間を通して、実施した試行数は午後の方が有意に多く、課題を開始するまでの時間は午前の方が有意に長かった。実施試行数と開始時間からは、午前の方が午後よりも課題に対するモチベーションが低いため、試行数が少なくなり課題が始まってもすぐにおこなおうとしないことが考えられる。それにもかかわらず、2010年では午前と午後で成績に差がなかったことから、モチベーションが成績そのものに大きな影響を与えないことも考えられる。リハビリテーションをおこなう上でモチベーションを維持することは重要である。今後は課題の難易度や食物報酬の質などの操作をおこなうとともに、行動観察をおこない、モチベーションの変動をもたらす要因について検討していく。
  • 村松 明穂, 松沢 哲郎
    セッションID: B-04
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/11/01
    会議録・要旨集 フリー
     Inoue & Matsuzawa(2007)は,チンパンジーのアイ(当時31歳)とアユム(当時5.5歳)の作業記憶課題の正答率を比較し,チンパンジーが加齢の影響を受けている可能性を示した。しかし,縦断的な検討は行っていない。また,Inoueらは,ヒト(大学生)も実験の対象としたが,加齢の影響については検討していない。本研究では,先行研究と同じ装置・課題を用い,チンパンジーとヒトそれぞれの作業記憶課題のパフォーマンスに対する加齢の影響について調べ,比較した。
     マスキング課題では,チンパンジー3親子を対象とした。オトナ群の平均年齢は31.7歳(ヒト換算で47.5歳),ワカモノ群はすべて11歳(ヒトで16.5歳)であった。タッチモニタ画面上のスタートキーをさわると,非連続なアラビア数字が5個呈示された。そして,一番小さい数字をさわると,残りの数字がマスキングされた。参加者は,マスキングされた刺激を小さい数字から順にさわるよう求められた。
     時間制限課題では,チンパンジーはアユム(11歳)・アイ(36歳),ヒトは若齢群(平均26歳)・高齢群(平均62歳)を対象とした。スタートキーをさわると非連続5数字が呈示され,一定時間(全6条件)経過後,自動的に全数字がマスキングされた。
     マスキング課題において,チンパンジーのワカモノ群の正答率はオトナ群より有意に高かった。しかし,両群とも,アユム以外は,Inoue & Matsuzawa(2009)での同課題の正答率より下がった。また,時間制限課題において,アユムの正答率はアイより有意に高かった。しかし,アユム・アイともに5年前よりも正答率が下がった。従って,チンパンジーについては,縦断的にも横断的にも加齢の影響が認められた。ヒトの参加者では,若齢群の正答率が高齢群より有意に高く,ヒトについても横断的な比較によって加齢の影響が認められた。
  • 植田 想, 兼子 峰明, 友永 雅己
    セッションID: B-05
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/11/01
    会議録・要旨集 フリー
     ヒト以外の霊長類における意識や内省は、ヒトのこころの進化を考えるうえで興味深い。しかし、ヒト以外の動物における意識の研究はヒトと同様の言語報告を主とした方法で進めることはできない。一方、第一次視覚野に損傷を受けた患者では、主観的な見え(知覚経験)は成立しないが行動には視覚情報が反映される「盲視(blindsight)」という現象が起きることが知られている。盲視を調べることで、視覚処理における意識と無意識の役割を考えることができるのではないだろうか。本研究の目的は、大脳右半球後頭部に嚢胞が見つかり、行動課題から視野の問題も確認されているチンパンジー(宮部ら、投稿準備中;兼子ら、投稿準備中)を対象に盲視の可能性を検討することである。盲視における、主観的な見えと、視覚情報の行動への反映という2つの側面を調べるため、モニターに呈示される光点の有無を報告させる検出課題と、先行呈示された光点の位置を2点の候補位置から強制的に選択させる強制選択課題を用いて検証した。チンパンジーはトラックボールを使ってモニター上のカーソルを操作することで課題を遂行した。課題中の視線の移動は非接触・非拘束型のアイトラッカーで記録した。検出課題では、半数の試行で画面中央のターゲットへのヒット後、画面周辺に光点プローブが128ms呈示された。その後1000ms以内に中央エリアからカーソルを移動させることが要求された。一方、強制選択課題ではプローブ呈示後、2点の候補位置が呈示された。うち一方はプローブと同位置であり、位置の再認を強制的に行わせた。Go/NoGo課題において、先行研究で確認されていた患部での光点検出率は著しく低かった。一方、強制選択課題におけるこの領域内での正答率は53.4%でチャンスレベルよりも有意に高くなった(p < .01)。この結果は、光点検出ができないにもかかわらず、強制選択では位置の再認が可能であることを示し、盲視の可能性が高いことを示唆している。
  • Widayati Kanthi Arum, Suryobroto Bambang, Farajallah Achmad, Mikami Ak ...
    セッションID: B-06
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/11/01
    会議録・要旨集 フリー
    Categorization is an ability to group individuals into different classes. There are several levels of categorization. At the most concrete level, all members of the category share common physical attributes that differ from other categories. The higher level, the fewer common attributes between members of the group. In humans, categorization is fundamental in language, prediction, inference, decision making. In animals, the ability to categorize has also been proposed. The present experiment tested ability of categorization in long-tailed macaques (Macaca fascicularis). We used facial photos of humans and animals for the stimuli. First, we tested their ability to classify humans and macaques into separate groups. Second, we tested their ability to discriminate their conspecific from other macaques. And the last, we tested whether the subjects were able to discriminate non-human animals from humans. In all of these experiments we found that the subjects showed high performance in categorizing objects, even when we discarded details of visual informations, such as color and local shapes. The results suggested that the subjects could create a more abstract category based on logical relations. Thus, we concluded that M. fascicularis were able to perform multiple levels of categorization.
  • ポムチョート ポラウィ, 濱田 穣
    セッションID: B-07
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/11/01
    会議録・要旨集 フリー
    Purpose: To describe age-related changes by osteometry, density, and osteoarthritis and the interrelationship between the skeletal parameters of aging in captive Japanese macaque (Macaca fuscata) skeletons. Materials: 80 Japanese macaques (Macaca fuscata) including 38 males and 43 females from the Primate Research Institute, Kyoto University, Japan. All specimens were divided into 4 age groups: 1. 7-10 years, 2. 11-15 years, 3. 16-20 years, and 4. > 20 years.
    Methods: All odd numbered lumbar vertebral bodies (L1, L3, L5, and L7) were examined their bone properties by direct osteometry of dorsal and ventral length, cranial and caudal height, and cranial and caudal width; trabecular structure and density at a sagittal plane with peripheral quantitative computed tomography (pQCT) machine; and assessment of osteoarthritis (OA) including osteophytosis (OS) by scoring 0-5.
    Results: Both in males and females, all 3 vertebral body properties in all vertebrae: length ratio = ventral/dorsal (VBL/DBL); height ratio = cranial/caudal (CraBH/CauBH); and width ratio = cranial/caudal (CraBW/CauBW) displayed decrease with age, especially between 1 and/or 2 and 4 age classes. There were distinct age changes in trabecular architecture and density between age group, particularly between 1 and 4 age classes. OS and OA clearly advanced with age in both sexes. Male younger age group exhibited higher score of OS than female counterpart and then increased slightly in the older group while in female, clearly different trend was observed. The correlation between age change parameters of osteometry, density and OA (with OS) were significantly correlated positively.
    Discussion: Our study conforms to following reports conducted in both non-human primates and humans. For instance, our osteometric results are congruent with Evans et al., 1993; Hermann et al., 1993; and Diacinti et al., 1995, that the decrease of vertebral lengths is sustained by aging as studied in humans particularly in L5 and L7 for males, and L7 for females. In addition, some parameters of our study showed clear correlation with advance age such as CraBH of L1 to L5 for males and L3 for females or CraBW of L1 to L5 for males, and L5 for females. Riggs et al. (2002) stated that age-related bone loss is universal, affecting older women and men in every population as we found in captive Japanese macaques especially trabecular density. Our reports note that trabecular density in both sexes of Japanese macaques has a tendency to decrease from the youngest to the oldest age groups. These changes are consistent with age-related decreases in bone density (Pope et al., 1989). Furthermore, change in trabecular architecture was noticeably found in aged Japanese macaques in both sexes (Agarwal et al., 2007) and humans (Grote et al., 1995). OS correlated with age in both sexes of Japanese macaque specimens and females showed less OS in the youngest age group than males, but clearly exhibited more than males in the oldest age group in all vertebrae. Our results showed similar trend with that found by Lipps et al. (2007) although the latter only examined L7. Cvijetic et al. (2000) found that age is the most associated with OS in elderly population, which was also indicated in our results. Besides aging, several factors were suggested to correlate with bony changes such as physical activity, body mass, race, and food (Kramer et al., 2002), which will be inspected in the future.
    Conclusion: Although Japanese macaques are quadrupedal and seasonal breeders, they are useful model for study age-related bone changes in humans.
  • 矢野 航, Gunz Philipp, Mitteroecker Philipp, 高野 智, 江木 直子, 荻原 直道, 西村 剛
    セッションID: B-08
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/11/01
    会議録・要旨集 フリー
    [背景]霊長類の頭蓋骨の多様性は共通祖先の骨格発達パターンの時間的空間的改変によって生み出される。これをヘテロクロニー(異時成長)と呼ぶ。マントヒヒPapio hamadryasとニホンザルMacaca fuscataのオスは共にメスに比べて発達した口吻部を持つが(Ikeda and Watanabe, 1966; Leigh, 2003;2006)、両者の3次元頭蓋顔面全体形状の発達の方向性が少し異なっている(O’Higgins, 2001)ことから、性差を生み出すヘテロクロニーが起こる場所、時間が2種の間で異なっていると予想される。 [目的]1.吻部における性差を生み出すヘテロクロニーが2種で同じであるという(帰無)仮説を検証する。2.種で異なる場合、それぞれのヘテロクロニーが起こる場所、時間を同定する。 [方法]幼児期からオトナ期までの頭蓋骨格標本(マントヒヒn=32、ニホンザルn=57)を霊長類研究所所蔵のX線CTスキャナーで撮影した。計算機上で再構成した3次元像上で標識点および準標識点を取得し、これを発表者らが改良した幾何学的形態計測法で1.頭蓋顔面骨全体の形状変異傾向、および2.各骨単位での形状変異傾向を定量化し、サイズ変量を成長の代理変数として、成長の独立変数に用いて回帰分析およびPLS(Partial Least Square)分析によって成長傾向の導出をおこなった。[結果と考察] 同じオナガザル亜科に属するマントヒヒとニホンザルは共にオトナにおいて吻部に性差が見られるがこれらは相似(Homoplasy)であり、性差を生み出すヘテロクロニーは2種で異なるものであった。これらのヘテロクロニーの違いは両者における上顎洞などの形態差異の発達とも相関しているかもしれない。
  • 伊藤 毅, 西村 剛, 高井 正成
    セッションID: B-09
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/11/01
    会議録・要旨集 フリー
    マカク属はヒト以外の霊長類の属の中で最も広範な気候環境に適応し,熱帯から温帯にかけての広い地域に分布している.従来マカクの顔面頭蓋の多様性に関して,適応的・系統的な観点からいくつもの研究がなされてきたが,顔面頭蓋の形状はアロメトリーにも大きく影響されると考えられる.本研究は13種584個体の成体標本を対象に,幾何学的形態測定と主成分分析を用いて顔面頭蓋のアロメトリー様態を明らかにし,その上でアロメトリーに影響されない変異の適応的・系統的意義の検討を行った.第一主成分の形状変異はサイズに大きく依存し,サイズが大きくなるほど細長い顔を持つ傾向があった.この傾向はマカクを含むヒヒ族に普遍的に見られ,系統的に保守的なアロメトリー様態であると考えられる.一方このアロメトリー軌跡からの残差は,系統関係よりも生息地の気候環境によって説明された.これは,熱帯に生息する種に比べて亜熱帯や温帯に生息する種の方が,同じサイズの個体を比較したときにより丸い顔を持つことを意味する.このような相対的に丸い顔は異なる系統群で独立に出現するため,なんらかの選択圧を反映していると考えられる.より丸みを帯びるほど体積に対する表面積が小さくなるので,比較的寒冷な環境下では生存に有利に働いたのではないかと私たちは推察している.第二主成分以下はサイズに非依存的であり,順に食性,性差,系統などによって説明された.ヒヒ族の他の分類群において頭蓋形状は進化的に保守的でその変異の多くがアロメトリーで説明されるのに対し,一部のマカクは寒冷な気候環境に対する適応によってアロメトリー拘束からの逸脱が起こったと考えられる.
  • 濱田 穣, 早川 清治, 鈴木 樹里
    セッションID: B-10
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/11/01
    会議録・要旨集 フリー
    [目的]:ニホンザル(Macaca fuscata)の身体加齢過程はあまり知られていない。生体計測データから身体加齢を横断的明らかにする。[材料]:生年月日の記録されている京都大学霊長類研究所飼育ニホンザル(以下PRI)より、メス933(最大年齢36.1歳)、オス267(28.3歳)の合計1,200頭。幸島ニホンザル(KOS)はメス156(23.7歳)、オス130(27.7歳)の合計286頭。用いた生体計測項目は、体重、前胴長、大腿長、胸囲、大腿囲、頭長、頭最大幅、上顔高、皮厚(腹部、肩胛骨下部、腸骨稜上部の合計)、乳首容量、精巣容量である。年齢変化曲線と速度曲線から、加齢変化を記述した。[結果と考察]:年齢変化曲線の示す平均的な値で、体重はPRIでオスは12.7歳でMax 13.7Kg、25歳で11.4kgに、メスでは18.5歳でMax 10.1kg、30才で8.4kgと減少した。KOSでは、オス16.7才Max 9.3kgが25才で8.7kg;メス13.6才Max 6.45kgが20才で6.2kgと減少は少ない。長径と周囲径で10才以降に有意な減少を示したのは、PRIの前胴長だけで、メスでは13.4才でMax 388mmが30才で361mm(7.0%減)に、オスは13.7才でMax 427mmが30才で380mm(12.4%減)と減少した。KOSでメスは15.8才で発達期からの増加が止まり355mm、23才で358mm、オスは17.7才で386mm、25才で383mmと、いずれも実質的な変化はない。野生群では胴長の減少を導く前に、死亡している、あるいは元気な個体のみが生き延びている可能性がある。皮厚ではKOSは変動がなく、7-23才で7-8mm。PRIでは年齢クラス別メディアンでメスでは13-17mmの間で変異するが、系統的な年齢変化はない。オスでは15-21mmで変異し、15才以降、減少するようである。乳首サイズでは季節変動と年齢変化で、7-10才では交尾期に増大し、非交尾期に減少し、1.7程度であるが、10-15才では育児期の6-9月に他時期より大きくなり、Max3.6、15-20, 20-25才では年間を通じて大きく、とくに8-9月にMaxで4.5、25才以降では同様の季節変化を残しながら2.3に減少する。精巣サイズでは年齢変化はほとんどなく、7才の34cm3から15才以降は39cm3である。生殖器官の加齢変化でメスでは、25才以降に機能低下があるが、オスでは明確な変化は見られない。
  • 松村 秋芳, 中村 好宏, 野口 立彦, 岡田 守彦
    セッションID: B-11
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/11/01
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     骨の形態は動物の日常生活における負荷をよく反映する。これまでの研究から、チンパンジー大腿骨頸部横断面では、上部の緻密骨厚が下部や上前部よりも薄いことが知られている。チンパンジーの行動様式と大腿骨頸部の機能形態との関連性をしらべるために、大腿骨頸部の緻密骨および海綿骨の分布と骨密度を分析し、頸部にかかる負荷について考察した。
     実験材料は獨協医科大学所蔵のチンパンジー(Pan troglodytes)大腿骨標本(右側)6個体を用いた。pQCT骨密度測定装置XCT Research SA+(Stratec Medizintechnik GmbH)を使用して、大腿骨の頸部長軸に沿った5カ所をスキャンして、骨密度の測定を行った。横断画像から部位ごとの緻密骨の厚さ、断面特性値および骨密度を計算した。ビデオ画像と先行研究のデータからチンパンジーの下肢の運動と大腿骨頸部の形態的特徴との関係を検討した。
     大腿骨頸部の緻密骨面積は基部から大腿骨頭下縁にかけて減少した。緻密骨密度は個体差があるが、遠位にかけて減少し、緻密骨面積と類似した傾向を示した。海綿骨の面積は頸部の基部から骨頭下縁にかけて増加した。海綿骨密度は基部から骨頭下縁にかけて増加する傾向を示した。断面2次モーメントは、骨幹長軸方向に大きかった。緻密骨厚は、既知の計測値と同様に、上部が下部や上前部よりも薄いことが確認された。チンパンジーの大腿骨頸部は、ヒトほど明確ではないが、上部が下部よりも薄く、鉛直方向の負荷に適応していると考えられる。大転子への移行部にあたる上前部で緻密骨厚が大きいことは、大転子に付着する中殿筋の負荷が大きいことを示唆する。海綿骨が骨頭近くの頸部に多いことは、頸部の遠位側で負荷の方向が多様なことを示唆する。これらの特徴は、この動物の木登り行動や二足行動、四足行動などの多様な行動様式を反映していると考えられる。
  • 山田 博之
    セッションID: B-12
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/11/01
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    目的:変異が少ないとの予断により,機能に較べ研究がほとんど行われていない犬歯の形態について、大型類人猿の下顎犬歯形態の変異を明らかにする。
    資料:Pongo pygmaeus(オス:10,メス:10) Gorilla gorilla(オス:11,メス:3), Pan troglodytes(オス:12,メス:8), P. paniscus(オス:13,メス:12)の下顎骨標本。方法:石膏模型より尖頭観・舌側面観の写真撮影を行い,点描画で観察。
    結果:尖頭側で4種とも歯冠長軸と近心切縁隆線は斜交している。概形は全体に長円形を呈し,とくにメスでは全体的に丸みを帯びる。舌側面ではオスは4種ともshoulderが低く(歯頚近くに位置する),概形は二等辺三角形。とくにオランウータンとゴリラは舌側面全体に皺(細かな隆線と溝)が比較的多い。チンパンジーとボノボは遠心舌側基底部が外側に張り出す。歯頚隆線の発達は4種とも良い。 メスは4種ともオスよりは尖頭が低く,ゴリラ以外は近心shoulderが高く(尖頭寄り),この傾向はボノボで著明。近心切縁隆線と近心辺縁隆線の角度はオスよりも鋭角である。近心切縁縦溝の発達は微弱で,オスと同様に歯頚隆線で遮断されている。遠心舌側隆線は4種とも太く,オランウータンとゴリラは尖頭から舌側結節まで直行するが,チンパンジーとボノボは近心へゆるく湾曲し,遠心舌側部が発達。歯頚隆線はメスの方が4種とも膨隆し,オランウータンでは舌側結節部で歯頚隆線の幅が広い。
    考察:オランウータンとニシローランドゴリラのオスは概形が二等辺三角形で、表面に皺が多い。一方、チンパンジーとボノボのオスは遠心舌側基底部が外側に張り出すが,メスではこの傾向はやや弱い。化石人類のA. africanusは舌側面に皺がなく,隆線や溝が明白で,舌側結節も発達し、近遠心shouldersの位置もボノボのメスと類似している。しかし,遠心舌側部の外側への張り出しはない。現代人犬歯は大型類人猿よりもA. africanusに似ており,遠心shoulderの位置はさらに尖頭寄りにある。
  • 郷 康広, 辰本 将司, 豊田 敦, 西村 理, 友永 雅己, 平井 啓久, 松沢 哲郎, 藤山 秋佐夫, 阿形 清和
    セッションID: B-13
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/11/01
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    <目的>塩基配列を高速に決定できる次世代シーケンサーの登場により、ゲノム研究は質的な変貌を遂げた。国際コンソーシアムによる数千億円・13年掛かりのヒトゲノム解読から、1研究室による百万円・1ヶ月のヒトゲノム解析への変貌である。この技術革新の恩恵を受け、2012年4月現在2000人を超えるヒトゲノム配列がこの世に存在する。しかし、ヒトとは何か、あるいはヒトの特殊性を語る時にヒトだけを見ていても解を得ないのは明らかである。そこで、我々はヒトをより良く理解するために、ヒトパーソナルゲノム研究のチンパンジー版であるチンパンジーパーソナルゲノム研究を行っている。
    <方法>京都大学霊長類研究所のチンパンジー親子(アキラ(父)、アイ(母)、アユム(子))の全ゲノム配列決定を行い、150Gb以上の配列を3個体すべてから得た。
    <結果>チンパンジー参照ゲノム配列と比較した結果、250万前後の一塩基多型(SNPs)を検出し、そのうち80個前後の変異は遺伝子機能を喪失させる変異であった。3個体間の変異解析を行った結果、親子3個体間で遺伝子機能が異なる可能性のある変異を17箇所同定した。ゲノム解析により同定した父母間で異なる変異を持つ箇所を指標として、子供のアリル間の発現の偏り(allelic biased expression)をゲノムワイドに行なった結果、ゲノム全体のおよそ17%において発現の偏りが見られた。
    <考察>チンパンジーの全ゲノムSNPsの数はヒトで報告されている数より少なく、これには両種での有効な集団サイズの大きさの違いが関係している事が示唆された。また、親子間においても変異の組み合わせの結果、個体の表現型の違いに結びつく可能性のある遺伝子を同定した。さらに、トランスクリプトーム解析の結果から、子供(アユム)のゲノムには父親(アキラ)由来のアリルを選択的に発現している箇所と母親(アイ)由来のアリルを選択的に発現している箇所が多数認められ、その生物学的意義を解明中である。
  • 古賀 章彦, 原 暢, JAHAN Israt, 平井 百合子, 平井 啓久
    セッションID: B-14
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/11/01
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     トランスポゾンは、転移するという性質から、入った場所や近辺にある遺伝子に遺伝情報の変化をもたらす。また、散在反復配列であることから、相同組換えを通して逆位や転座などの染色体構造変化の原因にもなる。このようにトランスポゾンは、進化の素材である変異をゲノムに供給する。我々は今回、上記のような既知のものとは異なる様式でのトランスポゾンの影響を、テナガザルで見出した。SVA 因子とよばれるレトロトランスポゾンは、ヒト上科の共通祖先で生じたと考えられている複合型因子である。3つの領域からなり、右端(SINE)と左端(Alu)は、それぞれが単独のトランスポゾンに由来する。内部(VNTR; variable number of tandem repeat)は 30-50 bp の単位が縦列に連なった反復配列である。ヒトのゲノムには SVA 因子は約 2,800 コピーあり、染色体の全域に散在する。VNTR 領域の長さがコピーごとに異なり、因子の長さの平均は約 0.8 kb、最大は約 2.3 kb である。フーロックテナガザル(Hoolock hoolock)でも同様の因子が存在するが、これに加えて長大な VNTR が多数存在する。染色体上での場所はセントロメアであり、ヘテロクロマチンを形成していると考えられる。1か所の長さは 40 kb 以上、ゲノム内での全量は標準型 SVA 因子に含まれる量の合計の10倍ほどである。すなわち今回の発見は、トランスポゾンが新規のヘテロクロマチンを大量に供給する現象である。ヒトのゲノムにも SVA 因子は多数存在することから、ヒトでも同様の現象が起こる可能性はあると考えられる。
  • 平井 啓久, 原 暢, 平井 百合子, 古賀 章彦
    セッションID: B-15
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/11/01
    会議録・要旨集 フリー
     染色体の構造に関して、チンパンジーとヒトの間には顕著な違いがある。チンパンジーは多くの染色体の端部に大規模なヘテロクロマチンをもつのに対し、ヒトにはこれがみられないことである。チンパンジーのこのヘテロクロマチンの主成分は、StSat 反復配列とよばれ、32 bp の単位が縦列に連なった構造となっている。この配列の起源と機能に関する研究の途中経過を、昨年の本大会で発表した。研究は進展をみているが、近縁の生物種で同様の例があれば、比較や証明に有用であることが期待できる。同様の例は、同じヒト上科に属するテナガザル科にみられる。シアマン(Symphalangus syndactylus)に、チンパンジーのものと類似の形態の大規模ヘテロクロマチンがあり、シロテテナガザル(Hylobates lar)にはこれがない。そこでシアマンのヘテロクロマチンの主成分を明らかにする実験を行った。まずシアマンのゲノムから、コピー数の多い反復配列を多数、クローンとして得た。続いてそのうちから、シロテテナガザルではコピーが多くないものを選んだ。さらに染色体への in situ ハイブリダイゼーションを行い、端部の大規模ヘテロクロマチンでシグナルを発することを確認した。塩基配列を解読した結果、アルファサテライトDNAであることが判明した。アルファサテライトDNAは、霊長類のセントロメアの主成分となっている反復配列であり、171 bp の単位が連続している。チンパンジーのヘテロクロマチンの主成分とは異なる反復配列である。チンパンジーとヒトに加え、シアマンとシロテテナガザルの組でも、染色体端部の大規模ヘテロクロマチンの起源や機能の解明の研究が可能となった。
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