霊長類研究 Supplement
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第29回日本霊長類学会・日本哺乳類学会2013年度合同大会
選択された号の論文の417件中1~4を表示しています
公開シンポジウム
  • 松沢 哲郎
    原稿種別: 公開合同シンポジウム
    p. 18-
    公開日: 2014/02/14
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     チンパンジーの研究を日本とアフリカでおこなってきた.日本の研究室での認知研究から,チンパンジーには人間よりも優れた瞬間記憶能力のあることがわかった.しかし人間のように言語的シンボルを習得することは容易ではない.彼らの知性が実際にどう使われているかをアフリカの野外研究でみると,道具使用など文化的伝統がみつかった.「教えない教育・見ならう学習」を通じて,親から子の世代へと文化が受け継がれる.しかし詳細にみると,人間ほどには模倣ができない.積極的に教えることも無い.こうした事実をつなぎあわせると,人間に固有な「想像するちから」の存在が見えてきた.チンパンジーは基本的には「今」「ここ」「わたしひとり」という世界に生きている.しかし人間は,眼の前にないものに思いをはせ,遠く離れた者に心を寄せる.自分が生まれる前のできごとを記憶にとどめ,自分が死んだ後の未来にまで思いをめぐらせる.この世界にわたしひとりで生きているわけではない.親やなかまと助け合う暮らしが欠かせない.食べ物を分かちあう.経験や体験や感動を分かちあう.その蓄積としての知識や技術や価値を分かちあう.人間が固有に発達させた言語という認知機能の本質は,「個人の経験を, ①持ち運べる, ②他者と分かちあえる」ということにある.自分が見たもの聞いたことをもって帰って仲間と分かちあう.言語を通じて経験を共有する.他者と協力する,他者に手を差し伸べる,お互いに助け合う,そうした人間に固有な社会性が進化の過程で育まれてきた.その基盤にあるのは子育ての違いだろう.親が子どもを育てる.一般的には当然のことのように受け止められている.しかし身体や心が進化の産物であるのと同様に,人間の親子関係や社会性も進化の産物である.そう考えて動物の親子関係を広く見渡すと,親は子どもを産みっぱなしで育てない,というのが動物の基本だ.魚類や両生類では卵を産むが多くのばあいその世話はしない.一方で,鳥類は卵を温めて雛をかえし雛鳥に餌を与える.哺乳類では母乳という体液を与えるのが一般的だ.親が子育てに時間や労力をかけるようになった.生命の進化が約 38億年だとすると,親が子どもを育てるようになったのは,哺乳類や鳥類の共通祖先が確実に現れた約 3億年くらい前だと考えるのが妥当だろう.霊長類は四肢の末端で物をつかめる.かつて四手類と呼ばれていた.その四つの手で子どもは親にしがみつく.親は必ずしも子どもを抱かない.ニホンザルや類人猿をみるとそっと手をそえる.そうした濃淡はあるが母子のあいだの緊密な関係は一貫している.しかし子育ては母親だけのしごとではない.オランウータン,ゴリラ,チンパンジー(およびボノボ)と,ヒトに近縁な種を見比べてみると,母親以外の者すなわち父親やなかまが子育てに参加するようになってきたという傾向がある.野生チンパンジーの平均出産間隔は約 5年.女性は約 50歳で死ぬまで子どもを産み続ける.「おばあさん」という社会的な役割は原則として無い.一方,人間では,手のかかる子どもたちを短期間で産み,おとうさんズとおかんさんズという複数形で表現できる,おとなの男女が共同した子育てがみられる.人間に固有な社会性とその進化のシナリオについて紹介したい.
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  • 室山 泰之
    原稿種別: 公開合同シンポジウム
    p. 19-
    公開日: 2014/02/14
    会議録・要旨集 フリー
     ニホンジカやイノシシ,ニホンザルなどによる農作物被害,ニホンジカによる森林生態系被害,クマ類による人身事故など,野生動物と人との軋轢が,全国各地で大きな社会問題となっている.そのなかでも農作物被害(以下,獣害)は,1970年代から 1990年代にかけて急増し,2009年以降は毎年 200億円を超えている.
     日本における野生動物の保全と管理は,「鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律(以下,鳥獣保護法)」を根拠として国が定める鳥獣保護事業計画の基準に従って,都道府県が定める鳥獣保護事業計画にもとづいておこなわれている.このうち,獣害対策にかかわるものとしては,有害鳥獣捕獲制度と特定鳥獣保護管理計画制度が設けられている.
     有害鳥獣捕獲は,後述する特定鳥獣保護管理計画制度が確立するまでは,行政による獣害対策の中心的な手段の一つであった.この制度では,被害の有無が捕獲を実施するかどうかの判断根拠であり,その地域に生息している野生動物の個体数や生息環境の状況などの情報がないままに捕獲が実施されることが多く,地域個体群への影響評価や被害軽減効果の分析などはほとんど行われてこなかった.
     このような有害鳥獣捕獲の問題点を踏まえて,1999年に鳥獣保護法が改正され,科学的で計画的な順応的管理(アダプティブ・マネジメント)を目指した特定鳥獣保護管理計画制度が導入された.この制度は,「農林業被害の軽減」と「地域個体群の安定的な存続」を目標として,適切な保護管理によって人と野生鳥獣との共生を図ることを目的としている.順応的管理の特徴は,ある時点での最新の情報によって立てられた将来予測にもとづいた計画を遂行しながら,つねに現状をモニタリングし,その結果に応じて計画の目標や内容を変えるという,フィードバックを行なうところにある.この制度により,野生動物の生息状況や被害状況などの科学的なデータを長期的に蓄積し,必要に応じて計画を修正して行政施策に反映させるということが可能になった.
     では,この制度が整備されたことにより,被害状況はどのように変化しただろうか.本来なら,それまで計画的に行なわれてこなかった捕獲や集落防護柵の設置が,科学的なデータにもとづいて計画的に実施されることによって,獣害対策が効率的に実施され,被害が軽減するはずである.しかしながら,その後の被害状況は,前述のとおり必ずしも期待どおりに推移していない.
     特定鳥獣保護管理計画制度の理念はすでに十分理解されている段階にあり,この制度の柱の一つである「地域個体群の安定的な存続」については,個体群動態のモニタリングなどが実施され,順応的管理が軌道に乗りつつあるといえるだろう.一方,もう一つの柱である「農林業被害の軽減」に関しては,目標設定が明確でなかったり,目標を達成するための施策が抽象的なレベルにとどまり,モニタリングや評価ができないなど,順応的管理が十分行われているとは言えない状況にある.
     ここでは,これまでの獣害対策の経緯と課題について述べるとともに,1990年代後半から現れた新たな視点を紹介し,今後の被害管理について考察したい.
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  • 高田 伸弘
    原稿種別: 公開合同シンポジウム
    p. 20-
    公開日: 2014/02/14
    会議録・要旨集 フリー
     ここではヒトと動物に共通の感染症,とくにダニ媒介性のものを中心に紹介するが,通常の医学的な視点とはやや変えて,今回のシンポジウムの趣旨に沿って述べてみようと思う.そのような視点は演者の持論の一つでもある.すなわち,ヒトと動物に共通した感染症を,動物がヒトにもたらす迷惑な医学問題としてだけ捉えるのでなく,そこに絡む環境要因などとともに動物側の事情も勘案してみようということである.
     ヒトーヒト伝播の微生物は別にして,自然界を源とする微生物はヒトを害せんと頭で念じているわけでなく,彼ら自身の在り方で淡々と生きている.ただ,その微生物種が,例えばダニ類と動物の間を循環するものである場合,ヒトがその循環の場に絡むことがあれば偶発的にヒトに感染してしまい,その微生物種は「病原体」と呼ばれて誹られることになる.それでも,動物とヒトの距離が保たれているならほどほどの感染頻度で収まるだろうが,距離が縮まって接触の機会が増えるようになれば(多くの場合,ヒトが動物のテリトリーに侵入する,あるいは逆にテリトリーの境目が分からなくなるなど,ヒト誘導の結果であるが),偶発的なはずの感染リスクが常態化することになり,住民の危惧感も加われば問題が膨らんでくる.
     感染症法の中の第4類として公式届け出される感染症統計の中で,近年は,ツツガムシによる恙虫病とマダニによる紅斑熱はトップグループを占めるが,それらの患者発生は各地にただ漫然と見られるのでなく,地域ごとに観察すれば,地理,気候など環境要因および動物相に伴って発生し,しばしば多発地(有毒地)が形成されるなどのパターンが見られる.例えば,大きな水系や山系,時には人工的な町筋や交通路などで囲まれた地区,あるいは河川の氾濫原としての中山間盆地などに限局された多発地がしばしば見られる.そういった複数の多発地が境を作って住み分けの状態になることもある.そういう多発地の内部では,媒介能をもったダニ種が住家に密着して生息したり,その供血源としての動物が密度高く繁殖もしている.気候条件も重要な要因で,例えばツツガムシでは種類ごとに列島の雪の降る寒い地方と冬暖かい地方で分布に違いがあり,それに伴い異なった型の恙虫病が見られる.マダニでは,南方系と言えるチマダニ類の分布に依存して,例えば日本紅斑熱や最近注目の SFTSが南西日本に偏って確認されたりする.
     そのようなことで,ダニ媒介感染症については,通り一遍に「山野で注意しよう」と呼びかけるだけでなく,そのようなダニ類は例えばタヌキが背負って来て家の裏庭に落としてゆくような身近な問題であることを直に啓発すべきであろう.かと申して,それがヒトと動物との触れ合いの狭間で起こる軋轢であるとしても,動物を悪者扱いにして一方的にコントロールしてよいものか,もし動物が消え去るようなことがあれば,それは自然界のゆがみや崩壊につながりかねないだろうから,やはり,ヒトと動物は互いに迷惑をかけあって生きてゆかねばならない定めと達観すべきなのであろうか? そうこうして,医動物学の分野でコントロール controlという英単語の解釈は実にむずかしいことになる.
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  • 織田 銑一
    原稿種別: 公開合同シンポジウム
    p. 21-
    公開日: 2014/02/14
    会議録・要旨集 フリー
     生物多様性条約に規定される動物資源をみてみると,野生動物とともに動物愛護法のもとに飼育動物(生殖が管理されているという意味では家畜)がある.また飼育動物は法律用語としての産業動物,家庭動物,実験動物,展示動物に分けられ,野生動物との間に一線が引かれているようである.
     飼育動物の現状を概観してみると,それぞれに社会の変容の様を反映しているようにみえる.1)産業動物の例では,和牛の 1品種の黒毛和種が松坂牛や飛騨牛といったブランド牛のように脂肪交雑で高い評価を受ける.脂肪交雑を主にした育種は黒毛和種の遺伝的変異性を低下させ,在来品種の駆逐に貢献した.乳用種でみればほぼホルスタインに一元化され繁殖障害に直面している.2)家庭動物をみると,1200万頭のイヌと 950万頭のネコが飼養され,年間 30万頭の殺処分があり,また治療費に悩まされる.それでも「いやし」と「きずな」を動物に求め,飽くなきペットブームが一人世帯と高齢化社会の中で広がっている.3)実験動物は科学目的で利用される動物である.いまや極度の近親交配と生殖統御が行われ,遺伝子改変動物の作出華やかな時代であるが,種レベルの多様性という点では劣化が起きている.4)展示動物では,もはや野生からの収奪は許されず,飼育下での繁殖に依存するが,繁殖がうまくいけば余剰動物問題に直面する.近親交配の弊害に目を奪われ,繁殖制限となれば,世代の継承に赤信号がつく.生涯飼育に頭が固まれば,老齢個体の扱いに悩まされることになる.
     衣食住を動物に頼るヒトと言う種は畜産動物を作り出し,脳の進化からくる精神的不安と孤独を逃れるためにペットを求め,知的欲求と教育・研究という名目で実験動物を作り出し,一般家庭では飼育困難な動物を内在化するために動物園/水族館を持つことになった.こうした飼育動物の世界は,もともとは野生動物であった動物がヒトによって改変され,ヒトの要求によって作り替えられた動物世界ということになる.同じ野生集団から出発しても,人間にじゃれつく集団(品種)と恐怖し攻撃的な集団(品種)を育成できる事実がそれを証明している.無価値から価値あるものへの転化の可能性を示す野生動物の飼育動物化,つまり育種という思想は,動物をみる新しい境地に運んでいってくれるように思える.
     動物を利用して文化を享受してきた人間社会は,一方で,動物利用を否定する動物権利論者を生み出している.動物がかわいいという心情は,かわいそう,といった哀れみの心に転化するが,それを基盤に,一定の賛同者をあつめている.彼らからみれば,動物飼育を認めるような動物愛護論者や動物福祉論者は時には敵対者となる.ヒトによる非ヒト動物の支配であり,隷属化ということになり,許されざる事象ということになる.
     未来への展望を語るには,人間を知り,動物を理解する形での「食物連鎖」から「生命連鎖」へ展開する自然の叡智に学ぶしかない.パキスタンで女性教育を否定するタリバンに狙撃された 16歳のマララさんは,貧困,差別,テロは無知によるものだ,その最も有効で最大の武器は教育と訴えている.動物と人間との軋轢の解決には,ホモサピエンスの特権とも言える頭脳の活性化が最も重要であり,それが鍛えられるのは教育と学習によってである.
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