霊長類研究 Supplement
第29回日本霊長類学会・日本哺乳類学会2013年度合同大会
選択された号の論文の417件中1~50を表示しています
公開シンポジウム
  • 松沢 哲郎
    原稿種別: 公開合同シンポジウム
    p. 18-
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
    会議録・要旨集 フリー
     チンパンジーの研究を日本とアフリカでおこなってきた.日本の研究室での認知研究から,チンパンジーには人間よりも優れた瞬間記憶能力のあることがわかった.しかし人間のように言語的シンボルを習得することは容易ではない.彼らの知性が実際にどう使われているかをアフリカの野外研究でみると,道具使用など文化的伝統がみつかった.「教えない教育・見ならう学習」を通じて,親から子の世代へと文化が受け継がれる.しかし詳細にみると,人間ほどには模倣ができない.積極的に教えることも無い.こうした事実をつなぎあわせると,人間に固有な「想像するちから」の存在が見えてきた.チンパンジーは基本的には「今」「ここ」「わたしひとり」という世界に生きている.しかし人間は,眼の前にないものに思いをはせ,遠く離れた者に心を寄せる.自分が生まれる前のできごとを記憶にとどめ,自分が死んだ後の未来にまで思いをめぐらせる.この世界にわたしひとりで生きているわけではない.親やなかまと助け合う暮らしが欠かせない.食べ物を分かちあう.経験や体験や感動を分かちあう.その蓄積としての知識や技術や価値を分かちあう.人間が固有に発達させた言語という認知機能の本質は,「個人の経験を, ①持ち運べる, ②他者と分かちあえる」ということにある.自分が見たもの聞いたことをもって帰って仲間と分かちあう.言語を通じて経験を共有する.他者と協力する,他者に手を差し伸べる,お互いに助け合う,そうした人間に固有な社会性が進化の過程で育まれてきた.その基盤にあるのは子育ての違いだろう.親が子どもを育てる.一般的には当然のことのように受け止められている.しかし身体や心が進化の産物であるのと同様に,人間の親子関係や社会性も進化の産物である.そう考えて動物の親子関係を広く見渡すと,親は子どもを産みっぱなしで育てない,というのが動物の基本だ.魚類や両生類では卵を産むが多くのばあいその世話はしない.一方で,鳥類は卵を温めて雛をかえし雛鳥に餌を与える.哺乳類では母乳という体液を与えるのが一般的だ.親が子育てに時間や労力をかけるようになった.生命の進化が約 38億年だとすると,親が子どもを育てるようになったのは,哺乳類や鳥類の共通祖先が確実に現れた約 3億年くらい前だと考えるのが妥当だろう.霊長類は四肢の末端で物をつかめる.かつて四手類と呼ばれていた.その四つの手で子どもは親にしがみつく.親は必ずしも子どもを抱かない.ニホンザルや類人猿をみるとそっと手をそえる.そうした濃淡はあるが母子のあいだの緊密な関係は一貫している.しかし子育ては母親だけのしごとではない.オランウータン,ゴリラ,チンパンジー(およびボノボ)と,ヒトに近縁な種を見比べてみると,母親以外の者すなわち父親やなかまが子育てに参加するようになってきたという傾向がある.野生チンパンジーの平均出産間隔は約 5年.女性は約 50歳で死ぬまで子どもを産み続ける.「おばあさん」という社会的な役割は原則として無い.一方,人間では,手のかかる子どもたちを短期間で産み,おとうさんズとおかんさんズという複数形で表現できる,おとなの男女が共同した子育てがみられる.人間に固有な社会性とその進化のシナリオについて紹介したい.
  • 室山 泰之
    原稿種別: 公開合同シンポジウム
    p. 19-
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
    会議録・要旨集 フリー
     ニホンジカやイノシシ,ニホンザルなどによる農作物被害,ニホンジカによる森林生態系被害,クマ類による人身事故など,野生動物と人との軋轢が,全国各地で大きな社会問題となっている.そのなかでも農作物被害(以下,獣害)は,1970年代から 1990年代にかけて急増し,2009年以降は毎年 200億円を超えている.
     日本における野生動物の保全と管理は,「鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律(以下,鳥獣保護法)」を根拠として国が定める鳥獣保護事業計画の基準に従って,都道府県が定める鳥獣保護事業計画にもとづいておこなわれている.このうち,獣害対策にかかわるものとしては,有害鳥獣捕獲制度と特定鳥獣保護管理計画制度が設けられている.
     有害鳥獣捕獲は,後述する特定鳥獣保護管理計画制度が確立するまでは,行政による獣害対策の中心的な手段の一つであった.この制度では,被害の有無が捕獲を実施するかどうかの判断根拠であり,その地域に生息している野生動物の個体数や生息環境の状況などの情報がないままに捕獲が実施されることが多く,地域個体群への影響評価や被害軽減効果の分析などはほとんど行われてこなかった.
     このような有害鳥獣捕獲の問題点を踏まえて,1999年に鳥獣保護法が改正され,科学的で計画的な順応的管理(アダプティブ・マネジメント)を目指した特定鳥獣保護管理計画制度が導入された.この制度は,「農林業被害の軽減」と「地域個体群の安定的な存続」を目標として,適切な保護管理によって人と野生鳥獣との共生を図ることを目的としている.順応的管理の特徴は,ある時点での最新の情報によって立てられた将来予測にもとづいた計画を遂行しながら,つねに現状をモニタリングし,その結果に応じて計画の目標や内容を変えるという,フィードバックを行なうところにある.この制度により,野生動物の生息状況や被害状況などの科学的なデータを長期的に蓄積し,必要に応じて計画を修正して行政施策に反映させるということが可能になった.
     では,この制度が整備されたことにより,被害状況はどのように変化しただろうか.本来なら,それまで計画的に行なわれてこなかった捕獲や集落防護柵の設置が,科学的なデータにもとづいて計画的に実施されることによって,獣害対策が効率的に実施され,被害が軽減するはずである.しかしながら,その後の被害状況は,前述のとおり必ずしも期待どおりに推移していない.
     特定鳥獣保護管理計画制度の理念はすでに十分理解されている段階にあり,この制度の柱の一つである「地域個体群の安定的な存続」については,個体群動態のモニタリングなどが実施され,順応的管理が軌道に乗りつつあるといえるだろう.一方,もう一つの柱である「農林業被害の軽減」に関しては,目標設定が明確でなかったり,目標を達成するための施策が抽象的なレベルにとどまり,モニタリングや評価ができないなど,順応的管理が十分行われているとは言えない状況にある.
     ここでは,これまでの獣害対策の経緯と課題について述べるとともに,1990年代後半から現れた新たな視点を紹介し,今後の被害管理について考察したい.
  • 高田 伸弘
    原稿種別: 公開合同シンポジウム
    p. 20-
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
    会議録・要旨集 フリー
     ここではヒトと動物に共通の感染症,とくにダニ媒介性のものを中心に紹介するが,通常の医学的な視点とはやや変えて,今回のシンポジウムの趣旨に沿って述べてみようと思う.そのような視点は演者の持論の一つでもある.すなわち,ヒトと動物に共通した感染症を,動物がヒトにもたらす迷惑な医学問題としてだけ捉えるのでなく,そこに絡む環境要因などとともに動物側の事情も勘案してみようということである.
     ヒトーヒト伝播の微生物は別にして,自然界を源とする微生物はヒトを害せんと頭で念じているわけでなく,彼ら自身の在り方で淡々と生きている.ただ,その微生物種が,例えばダニ類と動物の間を循環するものである場合,ヒトがその循環の場に絡むことがあれば偶発的にヒトに感染してしまい,その微生物種は「病原体」と呼ばれて誹られることになる.それでも,動物とヒトの距離が保たれているならほどほどの感染頻度で収まるだろうが,距離が縮まって接触の機会が増えるようになれば(多くの場合,ヒトが動物のテリトリーに侵入する,あるいは逆にテリトリーの境目が分からなくなるなど,ヒト誘導の結果であるが),偶発的なはずの感染リスクが常態化することになり,住民の危惧感も加われば問題が膨らんでくる.
     感染症法の中の第4類として公式届け出される感染症統計の中で,近年は,ツツガムシによる恙虫病とマダニによる紅斑熱はトップグループを占めるが,それらの患者発生は各地にただ漫然と見られるのでなく,地域ごとに観察すれば,地理,気候など環境要因および動物相に伴って発生し,しばしば多発地(有毒地)が形成されるなどのパターンが見られる.例えば,大きな水系や山系,時には人工的な町筋や交通路などで囲まれた地区,あるいは河川の氾濫原としての中山間盆地などに限局された多発地がしばしば見られる.そういった複数の多発地が境を作って住み分けの状態になることもある.そういう多発地の内部では,媒介能をもったダニ種が住家に密着して生息したり,その供血源としての動物が密度高く繁殖もしている.気候条件も重要な要因で,例えばツツガムシでは種類ごとに列島の雪の降る寒い地方と冬暖かい地方で分布に違いがあり,それに伴い異なった型の恙虫病が見られる.マダニでは,南方系と言えるチマダニ類の分布に依存して,例えば日本紅斑熱や最近注目の SFTSが南西日本に偏って確認されたりする.
     そのようなことで,ダニ媒介感染症については,通り一遍に「山野で注意しよう」と呼びかけるだけでなく,そのようなダニ類は例えばタヌキが背負って来て家の裏庭に落としてゆくような身近な問題であることを直に啓発すべきであろう.かと申して,それがヒトと動物との触れ合いの狭間で起こる軋轢であるとしても,動物を悪者扱いにして一方的にコントロールしてよいものか,もし動物が消え去るようなことがあれば,それは自然界のゆがみや崩壊につながりかねないだろうから,やはり,ヒトと動物は互いに迷惑をかけあって生きてゆかねばならない定めと達観すべきなのであろうか? そうこうして,医動物学の分野でコントロール controlという英単語の解釈は実にむずかしいことになる.
  • 織田 銑一
    原稿種別: 公開合同シンポジウム
    p. 21-
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
    会議録・要旨集 フリー
     生物多様性条約に規定される動物資源をみてみると,野生動物とともに動物愛護法のもとに飼育動物(生殖が管理されているという意味では家畜)がある.また飼育動物は法律用語としての産業動物,家庭動物,実験動物,展示動物に分けられ,野生動物との間に一線が引かれているようである.
     飼育動物の現状を概観してみると,それぞれに社会の変容の様を反映しているようにみえる.1)産業動物の例では,和牛の 1品種の黒毛和種が松坂牛や飛騨牛といったブランド牛のように脂肪交雑で高い評価を受ける.脂肪交雑を主にした育種は黒毛和種の遺伝的変異性を低下させ,在来品種の駆逐に貢献した.乳用種でみればほぼホルスタインに一元化され繁殖障害に直面している.2)家庭動物をみると,1200万頭のイヌと 950万頭のネコが飼養され,年間 30万頭の殺処分があり,また治療費に悩まされる.それでも「いやし」と「きずな」を動物に求め,飽くなきペットブームが一人世帯と高齢化社会の中で広がっている.3)実験動物は科学目的で利用される動物である.いまや極度の近親交配と生殖統御が行われ,遺伝子改変動物の作出華やかな時代であるが,種レベルの多様性という点では劣化が起きている.4)展示動物では,もはや野生からの収奪は許されず,飼育下での繁殖に依存するが,繁殖がうまくいけば余剰動物問題に直面する.近親交配の弊害に目を奪われ,繁殖制限となれば,世代の継承に赤信号がつく.生涯飼育に頭が固まれば,老齢個体の扱いに悩まされることになる.
     衣食住を動物に頼るヒトと言う種は畜産動物を作り出し,脳の進化からくる精神的不安と孤独を逃れるためにペットを求め,知的欲求と教育・研究という名目で実験動物を作り出し,一般家庭では飼育困難な動物を内在化するために動物園/水族館を持つことになった.こうした飼育動物の世界は,もともとは野生動物であった動物がヒトによって改変され,ヒトの要求によって作り替えられた動物世界ということになる.同じ野生集団から出発しても,人間にじゃれつく集団(品種)と恐怖し攻撃的な集団(品種)を育成できる事実がそれを証明している.無価値から価値あるものへの転化の可能性を示す野生動物の飼育動物化,つまり育種という思想は,動物をみる新しい境地に運んでいってくれるように思える.
     動物を利用して文化を享受してきた人間社会は,一方で,動物利用を否定する動物権利論者を生み出している.動物がかわいいという心情は,かわいそう,といった哀れみの心に転化するが,それを基盤に,一定の賛同者をあつめている.彼らからみれば,動物飼育を認めるような動物愛護論者や動物福祉論者は時には敵対者となる.ヒトによる非ヒト動物の支配であり,隷属化ということになり,許されざる事象ということになる.
     未来への展望を語るには,人間を知り,動物を理解する形での「食物連鎖」から「生命連鎖」へ展開する自然の叡智に学ぶしかない.パキスタンで女性教育を否定するタリバンに狙撃された 16歳のマララさんは,貧困,差別,テロは無知によるものだ,その最も有効で最大の武器は教育と訴えている.動物と人間との軋轢の解決には,ホモサピエンスの特権とも言える頭脳の活性化が最も重要であり,それが鍛えられるのは教育と学習によってである.
受賞講演
  • 福井 大
    原稿種別: 受賞講演
    p. 23-
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
    会議録・要旨集 フリー
     コウモリ類は,翼の形やエコーロケーション音声の構造といった機能形質を多様化させて様々な環境や空間に適応することで,哺乳類の中でも極めて高い多様性と広い分布域を有している.コウモリ類のみならず,対象となる分類群の空間分布ならびに群集構造のパターンとその形成プロセス・メカニズムを結びつけることは,哺乳類生態学の重要なテーマの一つである.
    これまでに発表者は,多様性の高いコウモリ類群集の動態を説明するために,個体群ごとの空間分布と環境要因の関連性について,ハビタットの物理的空間構造や餌資源量,食性や機能形態など,様々な生態学的観点および空間スケールからアプローチしてきた.例えば,森林内の河川周辺を採餌場所として利用する種の場合,河川からの羽化水生昆虫の量が重要な空間分布要因であることが実験的に示された.また,森林の空間構造の改変に対する応答は撹乱の程度や対象とするコウモリ種によって変化することや,同所的に生息するコウモリ種の食性が大きく異なることなどを明らかにし,それらは各種の持つ機能形質によって説明されることが明らかになった.また,これまで全くの謎とされていたコテングコウモリの出産哺育生態や,ヤマコウモリの意外な食性など,空間分布特性を大きく反映していると考えられる生態も明らかにしてきた.一方で今後は,群集全体の空間分布パターンを解析し,そのパターンが形成されるためのプロセス・メカニズムを特定する,トップダウン型アプローチの研究も進めていく予定である.また,市民参加型の大規模長期モニタリングプロジェクトもスタートさせている.本講演では,これまでの研究成果と共に,今後の展望として,現在進行中の研究についても紹介したい.
  • 小池 伸介
    原稿種別: 受賞講演
    p. 23-
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
    会議録・要旨集 フリー
     ツキノワグマの生態研究は GPS受信機の登場などでこの数十年で大きく発展してきた.一方で,ツキノワグマは多くの人間活動との軋轢を発生させることから,その科学的な管理が急務とされている.しかしながら,依然として,その生態には多くのブラックボックスが存在しているのも事実である.このような状況を打開するには,明確なビジョンを持った長期研究が欠かせない.
     本講演では,これまで発表者が行ってきたツキノワグマの生態研究,特に採食生態に注目した内容を中心に構成する.具体的には,これまで短期的にしか行われてこなかった食性研究を長期的・多角的におこなうことで,その長期変動を明らかにするとともに,変動要因としての果実やシカの増加の影響を評価した.また,果実類の結実変動が食性だけでなく行動にも影響する点を,複数の個体に GPS受信機を装着し追跡することで,その関連性も明らかにしてきた.さらに特定の食物に焦点を当て,栄養分析や直接観察を取り入れることで採食効率を検討することで,ツキノワグマの食性研究の新たな扉を開いてきたこれらの成果を紹介する.
     また,受賞者らの研究グループがこれまで行ってきているツキノワグマの長期研究プロジェクト(Asian Black Bear Research Group:http://www.tuat.ac.jp/~for-bio/top_bear.html)で得られはじめた成果を紹介するとともに,欧米でのクマ類の長期研究プロジェクトと比較することで,これからの日本でのツキノワグマの長期研究システムに求められる姿や成果についても発表したい.
  • Andrew J. J. MacIntosh
    p. 24-
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
    会議録・要旨集 フリー
    “Nature.exhibits.not.simply.a.higher.degree.but.an.altogether.different.level.of.complexity”
    ‏-.Benoit.B..Mandelbrot,.1924-2010
     Interdisciplinary studies of complex phenomena can provide novel insight into ecological processes..I illustrate this through studies of two emergent properties of behavioral organization - fractal behavior.patterns and animal social networks. using the relationship between host behavior and parasite infection.as a working example. First, after introducing the concept of fractals and their use in behavioral ecology, I present a comprehensive investigation of fractal patterns in the behavior of a wild animal (the Japanese macaque) in relation to life history, social and ecological variables. I then further explore the methodology and its application using bio-logged data from penguins. These studies show that animal behavior occurs.in fractal time, supporting the hypotheses that complexity is biologically adaptive and that complexity loss, i.e. greater periodicity or stereotypy, may reflect reduced behavioral fitness. Second, I turn to network models and highlight their importance for understanding social phenomena, focusing on the role of social networks in infectious disease spread. My work with Japanese macaques provides the first evidence that.transmission of nematode parasites is mediated by host social networks. Together, these works draw ideas.and methodologies from fields as diverse as statistical physics, network science, behavioral ecology, parasitology, epidemiology and endocrinology, leading to novel insights into host-parasite dynamics and, I hope, encouraging future interdisciplinary research into the role of behavioral organization in ecological processes.
  • 香田 啓貴
    原稿種別: 受賞講演
    p. 24-
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
    会議録・要旨集 フリー
     霊長類の社会構造が種によって独自性があるように,霊長類のコミュニケーションも種に応じて変化する多様性があり,種に特有な形で存在している.高次な認知機能を持つ霊長類では,コミュニケーションが彼らの社会生活において果たす役割が大きいことは言うまでもないだろう.ヒト以外の霊長類では,ヒトとの近縁性や系統的な連続性から,ヒトとのコミュニケーションとの比較研究が豊富である.ヒトの言語を代表するような,ヒトの高次なコミュニケーション能力や関連する認知過程との類似性や連続性を議論する研究が,とても多い.同時に,サルや類人猿の行動研究の進展で,純粋なヒト化にかかわる研究から離れ,種に特有なコミュニケーションに関する研究やその証拠も十分に蓄積されていると思われる.人類進化という霊長類学の原点である視点,同時に種そのものと向き合う動物学としての視点,どちらにとってもコミュニケーションの進化というテーマは大変おもしろいものである.本発表では,近年の演者自身が,種の独自性という視点・ヒトとの連続性という視点,どちらも持ちながら取り組んできたコミュニケーションの研究例を紹介したい.
     種の独自性という視点では,東南アジアに生息するテナガザルの「歌」に関する研究を,ヒトとの連続性という視点では,母子間コミュニケーションとその認知に関する研究を紹介したい.そのほかにも,異種間コミュニケーションや霊長類の生活史とコミュニケーションの発達など多岐にわたる研究を紹介したい.
     このような栄誉ある機会をいただき,これまでの研究をあらいなおし,今後の霊長類のコミュニケーションの進化という研究テーマを続けるうえで,今後に必要な方向性や姿勢について熟慮する場としたい.
自由集会
  • 白井 啓, 川本 芳, 濱田 穣, 大澤 浩司, 東岡 礼治, 丸橋 珠樹, 丸山 康司, 常田 邦彦, 大井 徹, 山田 文雄, 浅田 正 ...
    原稿種別: 自由集会
    セッションID: FS-1
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
    会議録・要旨集 フリー
     千葉県が実施した調査により,房総丘陵中央部に生息する複数のニホンザルMacaca fuscataの群れで外来種アカゲザル M. mulattaとの交雑個体が生まれていることが確認されました.アカゲザルおよび交雑個体の拡散,そしてニホンザルの群れの中での交雑の浸透により,房総半島の純粋なニホンザルが消滅してしまう可能性が高まっています.さらに,他地域のニホンザルへの影響も懸念されます.
     早急に抜本的な対策が必要です.そのため,これまで継続されている千葉県の対策事業のほかに,環境省でも交雑のリスク評価を行うことを目的に交雑の判定手法を検討するための事業を開始することになりました.しかし,ニホンザルの群れ内で交雑個体が子孫を残すという事態は,私たちが経験したことのない事態です.適切に対応するためには,1)交雑の程度や広がりの把握や管理のための技術,2)そのような技術的な裏付けに基づいた管理の最終目標のあり方,3)最終目標やその達成方法が有する社会倫理的な問題について,専門家,関係者間での十分な検討が必要です.
     そこで,この自由集会は,日本哺乳類学会保護管理専門委員会,日本霊長類学会保全・福祉委員会の共同開催とし,両学会員などの関心を高めるとともに,上記テーマについて研究者や行政担当者も交えて議論し,有効な対策を見出したいと思います.

     プログラム
      1.千葉県アカゲザル問題の経過 白井 啓(野生動物保護管理事務所)
      2.遺伝学的実態と遺伝子指標について 川本 芳(京都大学霊長類研究所)
      3.形態学的指標について 濱田 穣(京都大学霊長類研究所)
      4.千葉県の対応について 大澤浩司(千葉県環境生活部自然保護課)
      5.環境省の対応について 東岡礼治(環境省自然環境局野生生物課外来生物対策室)
      6.管理の目標設定とロードマップ 丸橋珠樹(武蔵大学)
      7.総合討論
      コメンテータ:社会倫理の点から 丸山康司(名古屋大学) これまでの外来種対策から 常田邦彦(自然環境研究センター) 和歌山のタイワンザル管理から 白井 啓(野生動物保護管理事務所)
      企画責任者:
      大井 徹(森林総合研究所・東京大学大学院農学生命科学研究科)
     山田文雄(森林総合研究所)
      浅田正彦(千葉県生物多様性センター)
  • 小島 龍平, 藤野 健, 森 健人, 後藤 遼佑, 関谷 伸一
    原稿種別: 自由集会
    セッションID: FS-2
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
    会議録・要旨集 フリー
     骨格筋はロコモーションの背景をなす解剖学的構造として,機能的要請を反映すると同時に様々な制約のもとに存在する.種々の動物種や筋群を対象として,あるいは手法を用いて骨格筋およびその関連構造を研究している研究者から以下の 5題の話題提供をしていただき,骨格筋研究の未来を含め自由で活発なディスカッションを展開したい.

    [話題 1]イタチ科動物の後肢筋形態と水中ロコモーション特性(森 健人,東京大学)
     ニホンイタチ,チョウセンイタチ,アメリカミンク,ユーラシアカワウソ,ラッコといった半水棲,水棲イタチ科動物の後肢筋形態を比較し,遊泳ロコモーションの違いがどのような形態の違いとして現れるかを観察した.各筋の付着部位および筋線維の走行を観察,また筋重量,筋全長,筋束長の計測を行い,定性的,定量的に比較を行った.

    [話題 2]モグラの土中適応と前肢帯(藤野 健,東京都老人研)
     モグラは巨大な手に加え,背側方に反転した上腕骨とそれにのみ関節する桿状の肩甲骨,短縮・扁圧した鎖骨などの高度に特殊化した前肢帯構造を持つ.上腕骨を長軸回りに反復回転し,直角に突き出た前腕+手で掘削並びに前進動作を強力に行う.パイプ(枝)の外面を伝う他動物と裏返しに,パイプ(隧道)の内面を伝う環境への適応と考えられる.特殊化に至る進化の道筋について,他の穴掘り動物との比較も交え考察を加えたい.

    [話題 3]霊長類の足関節機構とロコモーション特性(後藤遼佑,大阪大学)
     力学的性質の異なる多様なロコモーション様式をもつ霊長類の体肢関節には機構的な多様性が存在すると考えられる.なかでも,常に支持基体と接触する足部の運動と関係する足関節は,移動様式の力学的性質を形態に反映する.ロコモーション様式を異にする霊長類の足関節機構に関する知見をもとに,系統関係を考慮しつつ霊長類の運動適応について考察する.

    [話題 4]腓腹神経の比較解剖学(関谷伸一,新潟県立看護大学)
     ヒト腓腹神経は外側足背皮神経となり,さらに第 5趾外側縁を支配する足背趾神経となる.しかし希に,アキレス腱の前で脛骨神経から交通枝を受け,小趾外転筋や短小趾屈筋へ運動線維を与えることがある.このような交通枝や運動線維はヒトでは変異例としてしか認められないが,ラット,イヌ,あるいはニホンザルでは普通に見られる.これらのことから腓腹神経は単なる皮神経ではないことがうかがわれ,比較解剖学的に興味深い.

    [話題 5]長期保存標本における筋線維タイプの判別(小島龍平,埼玉医科大学)
     免疫組織化学的手法を用いて 10年以上を経過したホルマリン固定・保存標本においても,骨格筋線維タイプの判別が可能である.このことは,希少種や,時間をかけて詳細な肉眼的解剖を行いながら筋線維タイプ構成を検索できる可能性を示す.手法を紹介し,方法の有用性を考察する.
ミニシンポジウム
  • 友永 雅己, 森阪 匡通
    原稿種別: ミニシンポジウム
    セッションID: MS-1
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
    会議録・要旨集 フリー
     わたしたち人間の知性の「独自性」を明らかにするためには,他の生物と「共有」されている部分の切り出しが不可欠だ.このような知性の 2つの顔を生み出した進化的要因を,「比較認知科学」という手法を通じて解明する.進化を決定づけるきわめて重要な要因は,「系統発生的制約」と「環境適応」である.人間が属する霊長類,特に人間に系統的に近いとされる類人猿を対象として,その知性の源を探る研究が多く行われている.こうした「相同」の視点による比較では,系統的,身体的,環境的な相同性が伴い,これらの影響を排除することができない.そこで系統的にも身体的にも環境的にも異なる,もう一つの比較軸を導入したい.それは,系統的にはわれわれとは離れているものの,高い知性を獲得しているとされるイルカ類を中心とした鯨類である.それぞれの系統群は全く異なる環境の中で,それぞれの知性,すなわち「森のこころ」と「海のこころ」を育んできた.このそれぞれの知性の全体像を,系統内での種間比較(系統発生的制約),環境のさまざまな側面に対応する知性の間の比較(領域固有性),そして発達という時間軸の中での知性のダイナミックな変容(比較認知発達),という階層的な視点に立って明らかにしていく.このような大規模なスケールからの知性の比較と理解をもとに,「人間とは何か」という問いに答えを出したい.
     本ミニシンポジウムではこの視点に立ち,霊長類,イルカ類の研究者2名ずつが各自の最新研究などを紹介し,最後にこれからの研究の展望を議論したい.

    1)森阪匡通「イルカの社会行動と音」:イルカの社会行動と音について,霊長類との違いを意識しながら紹介する.

    2)中原史生「イルカの社会的認知研究」:イルカは他個体を何をもとに識別しているか,最新の研究と研究を進めるために開発中の新ツールを紹介する.

    3)足立幾磨「チンパンジーにおける感覚間一致」:チンパンジーにおける感覚間一致の分析を通して,言語を支えるメカニズムの進化を考える.

    4)友永雅己「チンパンジーとイルカの視覚認知」:森と海ということなる環境に適応してきたチンパンジーとイルカが,彼らの物理的,社会的環境を視覚的にどう認識しているかについての比較認知科学研究を紹介する.

    5)ディスカッション 「これからの研究の展望と課題」

     なお本ミニシンポジウムは科学研究費補助金基盤研究(S)「海のこころ,森のこころ-鯨類と霊長類の知性に関する比較認知科学-」(課題番号:23220006; 研究代表者:友永雅己)の一環として企画されたものである.
  • 安田 雅俊, 八代田 千鶴, 関 伸一, 小高 信彦
    原稿種別: ミニシンポジウム
    セッションID: MS-2
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
    会議録・要旨集 フリー
    「自動撮影法の極意とは何か」を議論した 2007年から6年後,第2段を開催する.自動撮影カメラをつかって野生動物の写真を撮るのは簡単だ!でも,自分の研究目的に合った機材は何なのか,十分なデータを得るにはどうすればいいのかといったことを考えると夜も眠れない.自動撮影カメラは万能じゃない.研究のひとつのツールだ.だからこそ,使い方次第でデータの質と量が変わる.あの人のノウハウを知り,自分で工夫することで,僕らの調査能力は大きく高まるだろう.この6年間の技術の進歩をみつめ,この先を議論しよう! ▼話題提供者と話題:(1)八代田千鶴(森林総研関西)「機種間比較をしてみる」,(2)関 伸一(森林総研関西)「1年間,放ってみる」,(3)小高信彦(森林総研九州)「経年変化を追ってみる」(タイトルは仮のものです). ▼前回の自由集会の記録:『哺乳類科学』48: 203-204.
  • 久世 濃子
    原稿種別: ミニシンポジウム
    セッションID: MS-3
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
    会議録・要旨集 フリー
     現在,少なくない哺乳類が絶滅の危機にさらされており,野生下での保全はもちろん,生息域外(飼育下)での遺伝的多様性の維持も重要視されている.また野生下では繁殖に関わる行動は観察や測定が困難なことが多く,飼育下での研究は対象種の繁殖生態を理解し,効果的な個体群の維持管理計画を策定する為にも欠かすことができない.本発表では,近年用いられるようになってきた,哺乳類の発情や授乳期間を正確に測定する新しい実験的手法を紹介する.次いでこれらの手法を用いて,飼育下及び野生下でのオランウータンの繁殖生態に関する共同研究と,動物園での繁殖成績の向上を目指す取り組みを紹介する.

    (1)近赤外分光法を用いた希少哺乳類の繁殖整理研究:木下こずえ(京都大学)
     飼育下で一定の個体数を長期間維持するには,適切な繁殖計画に沿った個体群の管理が必要であり,日常的に雌の生理状態を把握していることが望ましい.通常,雌の生理状態は酵素免疫測定法や放射免疫測定法を用いたホルモン濃度測定により調べられているが,これらの方法は測定に時間を要し,多くの試薬や放射性同位体元素を必要とする為,動物園等ではほとんど使用されていない.本発表では,試薬を必要としない近赤外分光法を用いた迅速・簡便な雌の発情モニタリング法について,ジャイアントパンダ等の研究例を紹介する.

    (2)微量元素を用いた哺乳類の離乳年齢の推定:蔦谷匠(東京大学)
     授乳は排卵再開の抑制にはたらき,雌の繁殖生態を研究する上で,正確な離乳年齢や離乳過程を知ることは非常に重要である.しかし野生下及び飼育下において,行動観察だけでは正確な離乳時期を特定することは困難である.近年,微量元素を調べることで,離乳時期をかなり正確に特定できることがわかってきた.本発表では霊長類を含む哺乳類の骨,歯,糞中の安定同位体比や元素濃度を測定することで,飼育下及び野生下において離乳時期を特定した研究を紹介する.

    (3)野生×飼育~オランウータンの陰部腫脹を例にして:田島知之(京都大学)
     オランウータンの雌は他の霊長類種とは異なり,妊娠時にのみ陰部が腫脹し,野生下で雌の妊娠を識別する手がかりとなる.腫脹の発達に関連するホルモン動態のモニタリングは野生下での実践が困難であり,飼育下での研究が重要である.野生下と飼育下の双方から相補的にアプローチする研究例を紹介する.

    (4)オランウータンの繁殖に関する共同研究:久世濃子(国立科学博物館)
     オランウータンは絶滅の危機に瀕しているが,哺乳類の中で最も繁殖スピードが遅いため,飼育下での繁殖においても様々な困難に直面している.我々はオランウータンの繁殖を総合的に理解し,飼育下での繁殖成績の向上を目的として,ヒトの産婦人科学の研究成果も取り入れた新しい共同研究を立ち上げたので,その概要を紹介する.
  • 早川 大輔
    原稿種別: ミニシンポジウム
    セッションID: MS-4
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
    会議録・要旨集 フリー
     中四国外から今大会に参加された方のなかで,会場の岡山県をはじめとした中四国各地においてこれまでフィールドあるいは標本を活用した研究をされた方はどのくらいおられるのだろうか?各研究対象動物の中四国における現状についても明らかにされていないと考えておられる方も多いかもしれない.
     そのため,このミニシンポジウムでは中四国の哺乳類学,霊長類学の現状の一部を報告することに加えて,中四国各所の標本の収蔵状況なども併せて紹介し,今後の各所との共同研究を進める布石とすることで,このミニシンポジウムを単なる現状のまとめではなく中四国の哺乳類学,霊長類学の進展への端緒としたい.

    司会進行:奥村栄朗(森林総合研究所四国支所)

    趣旨説明:早川大輔(わんぱーくこうちアニマルランド)

    トピック:四国における親子グマの撮影記録
    山田孝樹(四国自然史科学研究センター)

    四国の報告:四国地方の哺乳類研究の概況および標本の蓄積状況とその活用について
    谷地森秀二(四国自然史科学研究センター)

    中国の報告:中国地方の哺乳類研究の概況と博物館・研究機関の標本について
    田中浩(山口県立山口博物館)

    総合討論,コメントと今後へ向けての展望・課題
    金子之史(香川大学名誉教授)
  • 安藤 正規, 飯島 勇人, 明石 信廣
    原稿種別: ミニシンポジウム
    セッションID: MS-5
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
    会議録・要旨集 フリー
     ニホンジカ(以下シカ)の保護管理においては,シカの採食による植生への影響が様々な方法で評価され,結果から管理目標が設定され,対策が進められてきた.しかしながら,これまでに各地で実施されてきた植生影響評価は,段階的な管理目標を設定しうる量的な評価ができているのだろうか?シカの保護管理において適切なスケールでの管理目標を設定しうるのだろうか?本シンポでは,植生への影響の評価,これに基づいた管理目標の設定,そして具体的な対策の実施に至るまでの一連のプロセスについて,質/量的な評価の在り方やスケーラビリティ等を軸に検討・意見交換をすすめる.

    趣旨説明:安藤正規(岐阜大学)

    1)シカによる植生への影響評価手法の比較
      飯島勇人(山梨県森林総合研究所)
     日本国内で実施されている,シカによる植生への影響を広域・複数人で評価する手法を比較した.評価には A4で 1~ 2枚程度の調査シートが用いられていた.調査者は研究者とそれ以外,評価対象は林冠木,稚樹,下層植生,シカの痕跡であった.林冠木や稚樹については剥皮の本数割合など,下層植生は被度など,シカの痕跡は糞や目撃などがよく用いられていた.研究者以外が調査者のシートは,調査項目数が少なく,種同定が必須ではなく,記述回答よりも選択回答が多い傾向にあった.発表では,これらの比較を通して今後のシカ影響評価の在り方について議論したい.

    2)シカと森林の一体的管理を目指した総合対策技術開発 神奈川県丹沢山地の事例
     鈴木透(酪農学園大学)
     神奈川県丹沢山地ではシカの過密化による下層植生の劣化や土壌流出の拡大が長期にわたり問題となっている.この問題に対して,神奈川県では自然再生事業や水源林整備事業,シカ保護管理計画等の事業を連携させ,シカと森林の一体的管理を目指した施策を行ってきた.また,現在事業の中で蓄積された情報を集約し,効果的・効率的に施策を実行するための総合対策技術の開発を行っている.
     本報告では総合対策技術開発の内,施策の意思決定支援における管理目標や対策効果の評価等の情報分析について紹介する.

    3)森林生態系保全に向けたシカの密度管理における目標設定方法の一般化
     岸本康誉・藤木大介(兵庫県立大学)
     森林生態系保全のために県域でシカの個体群管理を進めるには,広域スケールでの植生と密度のモニタリングと,それらの関係解析により,管理の目標値を設定することが重要である.しかし,この方法に基づいた密度管理の目標設定が特定計画に記載されている県は,わずか 2県である.さらに,植生の状況と密度の関係を一般化するためには,履歴効果を含めた解析が必要となる.本講演では,兵庫県で得られたデータをもとに,森林生態系保全のためのシカの密度管理の目標設定手法を紹介するとともに,技術の普及方法についても議論したい.
  • 清田 雅史, 保尊 脩
    原稿種別: ミニシンポジウム
    セッションID: MS-6
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
    会議録・要旨集 フリー
     【企画趣旨】
     多変量解析は,多数の要因間の複雑な関係を解き明かし,要約してくれる統計ツールである.主成分分析,クラスター分析,判別分析,対応分析など新旧様々な方法があり,各々どんな用途に使用され,出力結果が何を表すか理解しにくい面もある.そこで本ミニシンポでは,異なる研究分野の具体例を挙げながら,『何を目的として,どのようなデータを使い,何ができて,何ができないか』紹介してもらい,多変量解析を用いたフィールド研究の展開可能性について,初心者の視点から一緒に考えたい.来場者からのコメントやアドバイスも歓迎する.

    【演題1】形態学への応用:アロメトリーを用いたジュゴン頭骨の多変量解析
      保尊 脩(水研セ国際水研,国立科学博物館),金治 佑(水研セ国際水研)
     多変量解析を使って形態の差異を解析するにあたり,誤った結果の解釈を避けるために,個体間の成長段階や計測値間のスケールの差を考慮することが重要である.そこで,これらを解決する一つの方法として,アロメトリー回帰直線より得られた残差を用いて行う正準判別分析を紹介する.

    【演題2】群集生態学への応用:多変量解析で生物群集パターンとその決定機構を探る
      奥田武弘(水研セ国際水研)
     多変量解析によって,群集構造の時空間分布パターンと,そのパターンの決定に関与する環境要因の影響を調べることができる.しかし,データ構造と解析の目的に応じて,適切な手法を選ぶ必要があるのが統計解析の常であり,多変量解析も例外ではない.本発表では,多変量解析手法を使って「できること」・「できないこと」を,海岸生物群集データを例にして紹介する.

    【演題3】採食生態学への応用:アソシエーソン分析を用いたイリオモテヤマネコの食性解析
      中西 希(琉球大学理工学研究科)
     イリオモテヤマネコは,哺乳類から昆虫類まで様々な動物を捕食していることがその生態の大きな特徴である.近い時間帯に連続して食べられたと考えられるイリオモテヤマネコの 1個の糞に含まれる餌動物種の関連性に注目し,アソシエーション分析を用いて解析した結果を紹介する.

    【演題4】獣害対策への応用:被害防除のための因果関係推定
      本田 剛(山梨県総合農業技術センター)
     イノシシやシカ,サルによる農作物被害対策として,集落を単位とした高コストな獣害軽減柵が広く利用されているが,この柵は必ずしも十分な効果を発揮しない.何故効果が得られないのかに着目し,直接的な要因と遠因を区別できるパス解析を用いた例を紹介する.
  • 田戸 裕之, 藤井 猛, 澤田 誠吾, 中村 朋樹, 静野 誠子, 金森 弘樹
    原稿種別: ミニシンポジウム
    セッションID: MS-7
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
    会議録・要旨集 フリー
     西中国地域のツキノワグマは,本州最西端の孤立個体群であり,生息数が少ないことから「絶滅のおそれがある地域個体群」として,1998年に環境省のレッドデータブックに掲載された.そのため,広島県,島根県および山口県では 1993年以降順次に「ツキノワグマ保護管理計画」を策定するなど,全国的にみても比較的早い段階から保護管理の取り組みが始まった.また,生物学的な単位である個体群を管理するために,個体群の分布域を共有する三県が一体となって保護管理に取り組んでいる.本ミニシンポジウムでは,三県の協力体制を作るに至った行政および研究者の立場からの経緯,また地域の研究者,行政の担当者の活動を報告し,西中国地域におけるツキノワグマ保護管理対策の現状と課題,および今後の展望について議論する.

    趣旨説明
      田戸裕之(山口県農林総合技術センター)
    演題1 西中国個体群の保護管理の歴史と特定鳥獣保護管理計画の概要
      藤井 猛(広島県自然環境課)
     西中国地域3県では,モニタリング調査や特定計画の策定等,早い段階から3県で連携してツキノワグマの保護管理対策に取り組んできており,広域連携の先駆けとも言える.これまでの3県連携の取組みの歴史と,特定計画の概要について紹介する.
    演題2 鳥獣専門指導員及びクマレンジャーの活動
      澤田誠吾(島根県中山間地域研究センター)
     特定計画の目標達成のために取り組んできた島根県の「鳥獣専門指導員」と広島県と山口県での「クマレンジャー制度」について紹介する.
    演題3 鳥獣専門指導員の現場活動
      静野誠子(鳥獣専門指導員,島根県西部農林振興センター)
     被害発生等があれば,鳥獣対策専門員はすぐに現地に駆けつけて,誘引物の除去や電気柵の設置を住民と一緒に行っている.鳥獣専門指導員が現場での活動を紹介する.
    演題4 西中国山地におけるツキノワグマの餌資源について
      中村朋樹(山口大学大学院農学研究科),細井栄嗣(山口大学農学部)
     ツキノワグマの出没予測のため,2012年度より三県が一体となって,堅果類およびクマノミズキの豊凶調査を開始した.その調査について報告する
    演題5 時期特定計画へ向けた取組み
      藤井 猛(広島県自然環境課)
     西中国地域では,次期特定計画(2017年度~)に向けて調査等を実施していく予定にしており,今後の取組みやスケジュールなどの予定を紹介する.
    コメント・統合討論
  • 高井 正成
    セッションID: MS-8
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
    会議録・要旨集 フリー
     東南アジア大陸部の中新世末(約 700万年前)~鮮新世末(約 250万年前)にかけての陸生哺乳類相の変遷を,最新の化石発掘調査の成果を基に報告し,同地域の現生哺乳類相への進化プロセスについての検討をおこなう.

     京都大学霊長類研究所では,2002年からミャンマー中央部の第三紀後半の地層を対象に,霊長類化石の発掘を主目的とした発掘調査を行ってきた.この調査では複数の調査地点を対象にしているが,これまでに中新世末~鮮新世初頭に相当するチャインザウック地点と,鮮新世後半のグウェビン地点の化石動物相の記載が進展し,この期間におけるミャンマー中央部の動物相の変遷状況が明らかになりつつある.

     現在のミャンマー中央部はモンスーン気候の影響下にあるが,夏季の湿った季節風は西部のアラカン山脈で雨となってしまうため,風下側では比較的乾燥した環境にある.しかし後期中新世の前半では,南~東南アジア地域は比較的湿潤な森林地帯であり,ミャンマー中央部でも主に森林性の哺乳類が生息していたことが先行研究で明らかになっていた.最近のミャンマー中央部の鮮新世初頭~鮮新世末の地層の発掘調査の結果,当時の環境が森林と草原の混在する状況で,森林性と草原性の動物が混在していたことが判明している.現在のような乾燥地域ほどではないが,ヒマラヤ山脈やチベット高原の上昇に伴いモンスーン気候が進み,次第に乾燥化・草原化が進む段階にあったことが明らかになりつつある.

     またチャインザウック相では南アジアの動物相の要素が多いのに対し,グウェビン相では東南アジアの動物相が急増していることが判明した.その原因としては,後期中新世以降に顕著になったアラカン山脈の上昇にともない,ブラマプトラ河などの大型河川の流路が変わり,現在の様な地理的障壁が成立して南アジアと東南アジアの動物相の交流が低下したのではないかと考えられる.

     今回のシンポジウムでは,霊長類(オナガザル科),小型齧歯類(ヤマアラシ科,ネズミ科,リス科),大型食肉類(クマ科など),長鼻類(ステゴドン科など)の化石の産出状況について4名の発表者が成果を報告し,東南アジアや南アジアの現生種との関連性を中心に話題提供をおこないたい.古生物学者だけでなく現生種の研究者からの参加も歓迎する.
  • 古川 泰人, 中西 希
    原稿種別: ミニシンポジウム
    セッションID: MS-9
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
    会議録・要旨集 フリー
     近年の科学技術分野では,位置情報を客観的に表現し,解析することは,重要な技術となった.
     哺乳類・霊長類学研究においても,テレメトリーデータや,生息確認情報をもとに,植生や地形といった環境情報と関連付けた統計的な解析を行い,地図として表現することが必須となりつつある.
     しかし,これらの処理を可能にするGIS(地理情報システム)ソフトは,高価かつ導入に手間がかかるため,多くの研究者が気軽に利用できる状況ではなかった.
     そこで,Quantum GIS(QGIS)などのFOSS4G(Free Open Source Software for Geospatial)と呼ばれるオープンソース GISソフトが近年注目されている. FOSS4Gは無料で入手・再配布が可能なため,導入時のハードルが低い.また,データ作成,GPSとの連携,空間解析処理などといった有償 GISソフトと同等の機能を持っている.
     オープンソースの統計ソフト ”R”と同様に,近年様々な学術分野,研究機関,地方公共団体,民間組織,NPO・NGOなどで FOSS4Gの利用が拡大しており, 有用なツールに成長している.
     本集会は,「FOSS4G に興味がある」「FOSS4G を導入したい」と考えている参加者を対象に,FOSS4G に関する基礎知識や最新の活用事例などを紹介し,導入支援を行う事を目的とする.

    演題1 イントロダクション・FOSS4Gて何? 古川泰人(北海道大・院・農 /(株)地域環境計画 /OSGeo 財団日本支部)
     FOSS4Gに関する歴史的背景・基礎知識・機能・最新動向についての概要説明を行う.
    演題2 獣被害対策へFOSS4Gの導入 小野晋(株式会社 地域環境計画)
     全国の農村で見られる獣害に対する農業被害対策では情報を地図化し,共有することが有効である.アンケートや現地調査によって集めた情報を FOSS4Gでまとめ,行政担当者へ提供した事例について報告する.
    演題3 QGISで野生動物の追跡結果を解析してみよう 中西希(琉球大・院・理工)
     野生動物の追跡調査は多大な時間と費用,労力を必要とするが,そこから得られる情報量は莫大である.QGISと Rを用いてテレメトリー調査の結果を解析した手法について,報告する.
    演題4 野生生物データ収集・整理・解析をFOSS4Gで 三島啓雄(北海道大・サステイナビリティ学教育研究センター)
     様々な研究機関や行政担当部署における野生生物データの収集・整理・解析の現場で,QGISをはじめとするFOSS4Gがどのように利用されているかの実践例を紹介する.

     デモストレーション 入門者向けのQGIS を用いて,オープンデータ,GPS データの利用といった,研究にすぐ応用できるデモンストレーションを行う.
  • 渡邊 邦夫, 常田 邦彦, 江成 広斗
    原稿種別: ミニシンポジウム
    セッションID: MS-10
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
    会議録・要旨集 フリー
     ニホンザルを対象とした特定鳥獣保護管理計画がスタートしてすでに 10年が経過した.これまでに東日本を中心とした 19県において特定計画が実施されており,すでに第三次計画が進められている県も多い.特定計画がスタートする以前の 1980~ 90年代と比べると,あきらかに個体群モニタリングの実施体制は整ってきたし,各種の被害防止対策や個体群管理の手法にも,大きな進歩があった.ただ全国的に見わたしてみれば,まだまだ不十分な点は多い.ニホンザルの場合は,数十頭からの個体が群れをなして行動し,且つ一定の行動域を持った群れが連続して分布しているのが普通である.またニホンザルは樹上性であることから三次元的な対策が必要であり,高度な知的能力を有する故に被害対策にも高度な技術と集中した努力が求められる.ニホンザルの個体群管理,農林業被害軽減のためには,単なる個体数調整だけでは不十分である.明確な理念とアイデアをもった企画実現的な施策が求められる.また年間の野生ニホンザル捕獲数はすでに 2万頭を超しているが,殺生を好まない風習もあって,必ずしも必要なところで計画的に捕獲されているというわけでもない.こうした実情が,ニホンザルの個体群管理,ひいては実施されている特定計画の実態,具体的な成果や問題点,将来への課題を非常に見えにくくしている.
     本シンポジウムは,ニホンザルに関する特定計画この 10年の大まかな総括を行い,現在の到達点とさまざまな課題を整理し,今後のニホンザル個体群管理をより有意義なものにしていくことを目的に計画された.まず,全国的な取り組み状況とその概要,その問題点と課題についてのまとめを,話していただいた上で,その中でも具体例として取り上げられている宮城県と兵庫県の例を,それぞれの現場に即して,より具体的に紹介していただく.また可能であれば,その他の県や地域についても,具体例をコメントしていただくことにより,全国的なニホンザル保護管理計画の現状に関する総括を行っていきたい.また近年,市街地,都市部に進出してくるニホンザルの群れやハナレザルの問題が各地で大きく取り上げられるようになった.こうしたニホンザル群・個体に対する管理上の問題についても,コメントしていただき議論を深めたい.

       発表者
       「これまでのニホンザル特定計画の概要と問題点」
        滝口正明(自然環境研)
       「宮城県のニホンザル個体群管理の事例から」
        宇野壮春(東北野生動物保護管理センター)
       「兵庫県のニホンザル個体群管理の事例から」
        鈴木克哉(兵庫県立大)

       コメント
       「都市部に進出したニホンザルの管理とその問題点」
        江成広斗(山形大学)
  • 畑瀬 淳, 早川 大輔
    原稿種別: ミニシンポジウム
    セッションID: MS-11
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
    会議録・要旨集 フリー
     近年,動物園と研究機関が連携した研究事例が目立ちはじめた.しかしながら,行動研究の分野からは,「野生下でない動物たちから何がわかるのか?」といった疑問の声や,他分野の研究者からは「動物園から試料の提供をしてもらう方法や,そのルートが分からない」といった声をよく耳にする.一方で,動物園側でも多くの動物を飼育しながら「研究の方法が分からない」,動物が死んでしまった場合にも研究や展示などさまざまなことに役立てることができないか・・・・と思いながらも,結局は何もできずに処分してしまうことが少なくない.この企画では,これまで行われてきた研究者と動物園,両者の実践事例を紹介していきたい.またこの企画が,試料を提供する動物園と,試料を使って研究する大学などの研究者との橋渡しのきっかけとなればと考えている.

    演題1 動物園と大学の共同研究における両者の考え方の相違と研究上の問題点 ~動物園動物の繁殖生理学研究の経験から~
        楠田 哲士(岐阜大学応用生物科学部)

    演題2 動物園での行動研究の可能性と必要性
        中道 正之 (大阪大学大学院人間科学研究科 )

    演題3 動物園と「研究」
        森角 興起 (横浜市立金沢動物園)

    演題4 動物園と大学 それぞれの事情  ~歩み寄りの一歩~
        畑瀬 淳(広島市安佐動物公園)
  • 海部 陽介, 濱田 譲, 本川 雅治
    原稿種別: ミニシンポジウム
    セッションID: MS-12
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
    会議録・要旨集 フリー
     島嶼ルールは,1964年にJ.B. Fosterが動物の体サイズについて提唱した概念で,大陸から隔離された島では,身体の巨大化や矮小化といった特異な進化が起こる傾向があるとするものである.それ以来,ルールの妥当性や原因をめぐって様々な調査・検討が重ねられてきた.2004年にインドネシアのフローレス島から,矮小化したらしい原人(Homo floresiensis)の化石が報告されたことを契機として,近年,島嶼ルールの問題が再び国際的注目を集めるようになっている.その中で,例えば島嶼環境において相対的脳サイズも影響を受けるかどうかといった,新たな課題も出てきた.

     大小様々な島で構成される日本列島は,島嶼化研究の理想的なフィールドである可能性が高い.それにもかかわらず,これまで日本列島での島嶼生物学の研究はあまり活発でなく,特に哺乳類・霊長類進化における実態については不明な点が多い.本シンポジウムでは,フローレス原人に関する最近の研究状況を紹介するとともに,国内の哺乳類・霊長類研究の例を見渡して,島嶼化問題について日本列島の視点から何が言えるのかを考える.

     演題

     1.フローレス原人は島嶼化した人類か
       海部陽介(国立科博) 

      2.小型哺乳類の「島嶼化」を日本から考える
       本川雅治(京大博物館)

      3.島嶼化研究のモデル動物としての小型食肉類
       鈴木聡(福井市自然史博) 

      4.島嶼ルールと局所適応:ヤクシカを中心に面積と地形の関係について考える
       寺田千里・斉藤隆(北海道大)

      5.ニホンザルの地域変異性と島嶼化
       濱田譲(京大霊長研)

      6.総括コメント
       高槻成紀(麻布大)
  • 浅利 裕伸, 嶌本 樹
    原稿種別: ミニシンポジウム
    セッションID: MS-13
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
    会議録・要旨集 フリー
     日本産滑空性哺乳類は,直接観察の他,発信機や自動撮影カメラでの調査によって研究が進歩していると言えるが,研究者が少ないという大きな課題がある.そのため,今後の研究の発展に向けては,「新たな知見の共有」と「若手研究者の育成」が不可欠である.
    今回のミニシンポジウムでは,ムササビ・ニホンモモンガ・エゾモモンガと同様に植物食であり,樹上・地上空間を利用可能なニホンザルとニホンリスの研究者を交えて,採食物および繁殖について発表していただく.滑空性哺乳類とその他の植食性動物の採食・繁殖の関係を知ることにより,今後の研究の可能性について考えてもらいたい.
    《演者》
    ・谷口晴香:ニホンザルにおける食物の季節変化と繁殖の季節性との関係
     一般に,繁殖の季節性は,生息環境の季節変化に応じて効率よく子孫を残すための適応であると考えられている.ニホンザルは食物生産量が比較的高く,タンパク質に富む食物が多い春に出産する.そして,冬前には,アカンボウはミルク以外の食物を積極的に採食するまでに成長している.本発表ではニホンザルにおける食物の季節変化と繁殖の季節性との関係について紹介する.

    ・矢竹一穂:直接観察法によるニホンリスの採食と繁殖の生態的特性
     ニホンリスは日本の中では数少ない昼行性であり,直接観察法による行動調査が可能な種である.本種は生息環境の違いによってマツ類やオニグルミ等の少数の食物(メインフード)に強く依存する傾向がある.しかし,メインフードは結実期が限られるため,木本の花・芽,草本,キノコ類など様々な食物を利用している.また,貯食習性によって食物が乏しくなる季節に対応している.このような食物の季節変化,採食特性と繁殖について考察したい.

    ・嶌本樹:タイリクモモンガの繁殖と採食物の関係
     タイリクモモンガの繁殖期は地域差があるが,これは一般的に採食物と関係しているためと考えられている.繁殖期のエネルギー要求量は妊娠期と泌乳期で大きいと考えられ,北海道では,2月下旬~ 3月上旬と 6月中旬~ 7月上旬に繁殖期を迎え,妊娠期と泌乳期に多くの食物を利用できように適応していると考えられる.しかし,利用する食物の個々の栄養成分の詳細は不明であるため,今後は栄養分析などにより,繁殖との関係を詳細に調査していく必要がある.

    ・浅利裕伸:ムササビの採食物の季節変化と繁殖シーズン
     ムササビは,本州・四国・九州に分布し,生息地域の植生に合わせた採食物を選択するうえ,多様な樹種や部位を利用し,どの地域でも採食物の季節変化がみられる.また,授乳時期~幼獣の独立時期(5月,9月)には,成葉の利用が少ないことや堅果類の採食物が利用可能な時期であることから,高栄養価の植物が利用可能な時期に幼獣の独立が起こっていると考えられている.今回は,ムササビの採食物の季節変化と繁殖に関する内容を紹介する.
  • 小坂井 千夏, 近藤 麻実, 中村 幸子, 中下 留美子, 有本 勲, 伊藤 哲治, 後藤 優介, 間野 勉
    原稿種別: ミニシンポジウム
    セッションID: MS-14
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
    会議録・要旨集 フリー
     日本哺乳類学会クマ保護管理検討作業部会では,クマ類の特定鳥獣保護管理計画,特定計画以外の任意計画,計画によらず実施されている事業やモニタリング等に関して,2007年に全国アンケート調査を実施,結果をまとめた事例集を作成した.今回,2回目の事例集作成のため,行政のクマ類保護管理担当者対象のアンケート調査を行った.2007年度の特定計画策定数は 11府県に対し,2012年度では 21府県.進んだようにみえる保護管理の取組みであるが,前回からの課題はクリアできたのか,新たに発生した課題は何か?
     科学的な保護管理を進めるには,個体群と被害・生息地の状況をモニタリングし,その結果から計画を修正するフィードバックが重要である.ここでの研究者の役割は,科学的データや効果的なモニタリング技術の提供等であり,今回のアンケートでも行政担当者から学会,専門家への要望として多く挙げられていた.様々な地域の現状や課題を理解し,その解決策について幅広い知識を持っていれば,より適切にそれらの期待に応えられる.しかし,果たして私たち,特に若手研究者は幅広い十分な知識を持ち合わせているだろうか?
     本集会では全国アンケートの結果を元に,まずは各地の現状,課題を整理して知識を共有した上で,保護管理を次のステップに進めるための研究者の役割,研究上の課題について,今一度,議論を深めたい.学生や若手の参加もお待ちしている.
    1.道府県アンケート結果の概要~2007年と2012年の比較~
    小坂井千夏(神奈川県立生命の星・地球博物館,学振特別研究員):クマ類の生息状況,それをとりまく社会的状況は日本国内でも地域により異なる.まずは,地域の特徴に沿って保護管理全般の取組みの変化や課題の概要を整理する.
    2.個体数管理の様々な考え方
    近藤麻実(北海道立総合研究機構):個体数管理の方法や目標も地域の状況により様々である.どのような地域がどのような管理目標を掲げているのか,課題は何かを整理する.また,課題の解決策を模索し,各地における保護管理の新たな一歩につなげたい.
    3.被害・生息地管理のカギはどこにある?
    後藤優介(立山カルデラ砂防博物館):近年,人身,農業被害等の軋轢が増加傾向にある.個体群を安定的に維持しながら被害を低減させるためには個体数管理と併せて被害・生息地管理が必要不可欠である.各地で様々な方法が模索されるなか,参考となる情報の不足,関係機関の連携の希薄さ,科学的モニタリングや効果測定の困難性などの課題があげられた.現状を整理することで管理を前進させるポイントを探したい.
    4.まとめと展望~次のステップへ~
    中村幸子(兵庫県立大学,学振特別研究員):各地の状況を踏まえて保護管理全般の成功例や新たな取り組みを紹介し,日本全体で保護管理を次のステップに進めるための鍵,そのための研究者の役割について提案,議論したい.
    5.コメント,総合討論
  • 森光 由樹, 鈴木 克哉
    原稿種別: ミニシンポジウム
    セッションID: MS-15
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
    会議録・要旨集 フリー
     ニホンザルの有害捕獲頭数は 1970年代から年々増え,1998年以降は毎年,年間1万頭以上の個体が駆除されている.捕獲により加害個体を除去することができれば,その個体による被害はなくなると考えられるが,従来の有害捕獲のほとんどは個体や集団を特定せず,目標捕獲頭数を曖昧にしながら実施していた.このような方法での被害軽減効果は疑問視されている.地域によっては個体群の絶滅も懸念されており,保全上の観点からも科学性・計画性のある対応が求められる.
     一方,近年では,対象個体群の被害状況や生息状況を評価したうえで,被害を効率的に軽減するための計画立案のもと,群れ捕獲や部分捕獲,問題個体を識別して実施する選択的捕獲など,さまざまな手法による個体数管理を実践する地域も現れるようになった.
     この自由集会では,こうした個体数管理を立案・実践している3地域から,それぞれの管理方針,目標設定ならびに選択された手法の成果や実践上の課題を報告する.
     総合討論では,これらの報告をもとに,効率的な被害軽減にむけたニホンザル個体数管理の考え方を整理し,方法論の確立にむけて,今後必要となる効果検証の課題,個体数管理を進める上での課題を整理する.

        1.「安定的個体群における個体数管理」
         ~群れ捕獲・部分捕獲・選択的捕獲の実践例~
         清野紘典(野生動物保護管理事務所)

        2.「絶滅危惧個体群における個体数管理」
         ~個体群の安定的維持と被害軽減~
         森光由樹(兵庫県立大学 /兵庫県森林動物研究センター)

        3.「被害対策を効率化させるための個体数管理」
         ~追い払いを効率化させる群れサイズの検討~
         山端直人(三重県農業研究所)

        4.合討論: ニホンザルの個体数管理~方法論の確立にむけて~
  • 中川 尚史, 井上 英治, 南 正人
    原稿種別: ミニシンポジウム
    セッションID: MS-16
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
    会議録・要旨集 フリー
     日本では,ニホンザルやニホンジカの研究が戦後間もない頃から行われてきた.彼らを「餌付け」することにより至近距離からの観察を可能にし,徹底的に観察することを通して,彼らの顔やその風貌だけで個体識別をする.そのうえで様々な行動を事細かに記録して,それを長期にわたり続けていく.必要なのは,双眼鏡,フィールドノート,鉛筆のみ.「餌付け」はその後,餌を用いないで動物を人に慣らせる「人付け」へと変わっていったが,「個体識別」,「長期継続調査」は,日本霊長類学のお家芸となり,今や世界標準となった.
     近年,GPS,データロガー,カメラトラップ,遺伝子解析,放射性同位体解析などなど,野生動物の生態調査のための調査機材や技術の進歩が著しい.これらにより,夜行性の動物の生態や,昼行性でも急峻な山林や海に生息していて,直接観察が困難な動物の生態が明らかになりつつある.しかし一方で,こうした革新的な機材や技術に過度に依存して,いつしか直接動物を観察することを忘れてはいないだろうか? 直接動物と対峙し,自らの目を直接通して観えたものを記録する.実に単純ではあるが,だからこそ分析して出てきた結果にも自信がもてる.その動物のことが心底分かった気になれる.そう思えるのは,自分自身が観てきたものだから.そして何より楽しい.見えない動物の生態が,機材や技術を駆使して “みえる ”楽しさも分からないわけではない.しかし,そうした楽しさを追求する皆さんにも,ぜひ直接観察を体験してもらいたい.見えない時に動物がいったい何をしているのか,イメージしやすくなるはずである.
     本集会は,まず,野生動物の行動を正しく分析するために必要な行動データ収集法について紹介する.初心者向けに収集法を紹介するだけでなく,行動観察を始めたばかりの学生が陥りやすい誤りや問題点についても発表する.次に,それぞれ異なる分類群に属する野生哺乳類の行動について,直接観察の実践者から,特にデータ収集法に重きをおいて静止画・動画を交えながら発表いただく. 本集会を通じて,行動の直接観察が身近なものとなり,自分でも実践してみようという方々が増えることを期待している.

       趣旨説明:中川尚史(京都大学大学院理学研究科)
       演題1 方法編:行動データ収集法
           井上英治(京都大学大学院理学研究科)
       演題2 実践編①:クリハラリスの対捕食者行動を例に
           田村典子(森林総合研究所多摩森林科学園)
       演題3 実践編②:ノラネコの雄間のマウンティングを例に
           山根明弘(北九州市立自然史・歴史博物館)
       演題4 実践編③:ニホンザルの毛づくろい中の抱擁行動を例に
           下岡ゆき子(帝京科学大学生命環境学部)
       演題5 実践編④:ニホンジカの交尾行動を例に
           南正人(麻布大学獣医学部)
  • 田島 木綿子, 山田 格
    原稿種別: ミニシンポジウム
    セッションID: MS-17
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
    会議録・要旨集 フリー
     解剖学はすでに完了した研究領域と考えられており,教育面では学名を暗記するだけの退屈な科目ともいわれる.解剖学の研究・教育に従事する側に,解剖学が興味深い学問領域であることを伝えられないところに問題がある.しかし肉眼解剖学的手法による比較解剖学を断絶させてはならない.

     今回のミニシンポジウムでは,比較解剖学の歴史を概観した後,前肢と後肢の比較解剖学的考察の実例を紹介し,比較解剖学とは何か,ワクワクする解剖学を実感していただこうと考えている.

    1 比較解剖学の過去,現在,未来
      山田 格(国立科学博物館)
     Comparative anatomy, past present and future
      Tadasu K. Yamada (National Museum of Nature and Science)

    2 肩帯筋の比較解剖学 -特に背側の肩帯筋について-
      小泉政啓(東京有明医療大学)
     Comparative anatomy of the dorsal shoulder girdle muscles
      Masahiro Koizumi (Tokyo Ariake University of Medical and Heal th Sciences)
     脊椎動物が陸に上がったのち,前肢で体幹を持ち上げる必要のある爬虫類と哺乳類では体幹をハンモック状につりさげる背側肩帯筋(前鋸筋,肩甲挙筋,菱形筋など)が発達してきた.これらの背側肩帯筋は,従来明確な根拠を欠いたまま比較解剖学的に体幹筋と分類されてきた一方で,腕神経叢の根部から分かれる支配枝を受けるため,前肢筋としての関連も示唆されてきた.これらの筋群について,改めて支配神経の分布や頚神経からの由来を精査した結果,肋間筋やさらには哺乳類で一般に見られる長斜角筋などの頚胸部固有腹側体幹筋との密接な関連が明らかになった.この結果を基に,背側肩帯筋の頚胸部体幹筋の中での形態学的な位置づけについて考察する.

    3 後肢の神経の比較解剖
      関谷伸一(新潟県立看護大学)
     Comparative anatomy of nerves of the hind limb
      Shin-ichi Sekiya (Niigata College of Nursing)
     ヒトおよび各種霊長類の足背皮下には,伏在神経,浅腓骨神経,深腓骨神経,腓腹神経が分布している.特にヒトの足背皮神経の分布様式はきわめて多様であるが,各種の類人猿における具体的な神経の分布を比較解剖学的に検討することによって,直立二足歩行をするヒトの足の特殊性が浮き彫りになってくる.ヒト,ゴリラ,チンパンジー,オランウータンの足背における浅腓骨神経と深腓骨神経の分布様式の違いはそれぞれのロコモーションの違いを反映しているかもしれない.
  • 森田 哲夫, 平川 浩文, 坂口 英, 七條 宏樹, 近藤 祐志
    原稿種別: ミニシンポジウム
    セッションID: MS-18
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
    会議録・要旨集 フリー
     消化管共生微生物の活動を通して栄養素の獲得を行う動物は微生物を宿すいわゆる発酵槽の配置により前胃(腸)発酵動物と後腸発酵動物に大別される.消化管の上流に微生物活動の場がある前胃発酵の場合,発酵産物と微生物体タンパク質はその後の消化管を食物とともに通過し通常の消化吸収を受ける.一方,後腸発酵ではその下流に充分に機能する消化管が存在せず,微生物が産生した栄養分は一旦ふりだしに戻り,消化を受ける必要がある.その手段として小型哺乳類の多くが自らの糞を食べる.このシンポジウムでは消化管形態が異なる小型哺乳類を対象にこの食糞の意義について考える.

     糞食はウサギ類に不可欠の生活要素で高度な発達がみられる.発酵槽は盲腸で,小腸からの流入物がここで発酵される.盲腸に続く結腸には内容物内の微細片を水分と共に盲腸に戻す仕組みがある.この仕組みが働くと硬糞が,休むと軟糞が形成される.硬糞は水気が少なく硬い扁平球体で,主に食物粗片からなる.一方,軟糞は盲腸内容物に成分が近く,ビタミン類や蛋白などの栄養に富む.軟糞は肛門から直接摂食されてしまうため,通常人の目に触れない.軟糞の形状は分類群によって大きく異なり,Lepus属では不定形,Oryctolagus属では丈夫な粘膜で包まれたカプセル状である.Lepus属の糞食は日中休息時に行われ,軟糞・硬糞共に摂食される.

     ヌートリア,モルモットの食糞はウサギ類と同様に飼育環境下でも重要な栄養摂取戦略として位置付けられる.摂取する糞(軟糞,盲腸糞)は盲腸内での微生物の定着と増殖が必須であるが,サイズが小さい動物は消化管の長さや容量が,微生物の定着に十分な内容物滞留時間を与えない.そこで,近位結腸には微生物を分離して盲腸に戻す機能が備えられ,盲腸内での微生物の定着と増殖を保証している.ヌートリア,モルモットでは,この結腸の機能は粘液層への微生物の捕捉と,結腸の溝部分の逆蠕動による粘液の逆流によってもたらされるもので,ウサギとは様式が大きく異なる.この違いは動物種間の消化戦略の違いと密接に関わっているようにみえる.

     ハムスター類は発達した盲腸に加え,腺胃の噴門部に明確に区分された大きな前胃を持つ複胃動物である.ハムスター類の前胃は消化腺をもたない扁平上皮細胞であることや,前胃内には微生物が存在することなどが知られているが,食物の消化や吸収には影響を与えず,その主な機能は明らかとはいえない.一方,ウサギやヌートリアと比較すると食糞回数は少ないが,ハムスター類にとっても食糞は栄養,特にタンパク質栄養に大きな影響を与える.さらに,ハムスター類では食糞により後腸で作られた酵素を前胃へ導入し,これが食物に作用するという,ハムスター類の食糞と前胃の相互作用によって成り立つ,新たな機能が認められている
  • 佐藤 喜和, 高田 まゆら
    原稿種別: ミニシンポジウム
    セッションID: MS-19
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
    会議録・要旨集 フリー
     個体群の分布域や個体の行動圏が大きな動物では,その分布域や行動圏の内部に環境の空間的異質性があり,利用する地域によって個体あたりの獲得栄養量や死亡リスクに差がある可能性がある.北海道東部阿寒白糠地域のヒグマ個体群に関する研究から,この空間的異質性が,駆除による死亡の危険が高いのにヒグマに農地付近を利用させ,軋轢を増し,高い死亡率につながるアトラクティブ・シンク現象を起こしていると仮説を立てた.まずこの仮説提起の根拠となる知見,次に仮説の妥当性を検討した事例を報告し,最後に被害管理への応用のためのコメントをいただく.
    演題1 駆除を続けても被害が減らない-アトラクティブ・シンク仮説
       佐藤喜和(酪農大・野生動物生態)
     北海道東部浦幌町ではヒグマの出没と食害が増加し,その対策として駆除が続けられているが被害は減る傾向が見られない.駆除統計によりこの実態を説明する仮説を提案する.
    演題2 分布中心部から周縁部に向けた移動・分散と繁殖の実態
       伊藤哲治((株)野生動物保護管理事務所)
     阿寒白糠地域のヒグマのミトコンドリアおよびマイクロサテライト DNA解析により,中心部および周縁部のメスのハプロタイプの分布,オスの移動実態,およびオスの移動先での繁殖行動の実態が明らとなり,アトラクティブ・シンク現象が示唆された.
    演題3 ヒグマの食性-個体群中心部と周縁部の比較
       小林喬子(農工大・野生動物保護管理)
     軋轢が増す初夏や晩夏にヒグマが利用した採餌物は,周縁部では農作物の利用が多かったのに対して,中心部では草本類,昆虫類,液果類などの自然資源が多かった.秋は両地域とも堅果類や液果類を利用する傾向にあった.エゾシカの利用は周縁部で多かった.
    演題4 ヒグマにとってアトラクティブな資源とは?
       高田まゆら(帯畜大・動物生態)
     ヒグマを農地や集落付近にアトラクトする原因の1つと考えられているシカの駆除残滓や農作物がヒグマにとって質の高い資源となっているかを確かめるため,それらの分布と全道で捕獲されたヒグマ個体の腎脂肪量との関係を検討した.
    演題5 ヒグマの分布地点と駆除地点の空間分布
       園原和夏(日大・森林経営)
     阿寒白糠地域を対象に,ヒグマの駆除地点と出没確認地点を用いて空間分布図を作成し,それぞれの分布を説明する環境因子を明らかにした.さらに,ヒグマの出没地点と駆除地点の空間分布における相互関係ついて,アトラクティブ・シンクの視点から検討した.
    コメント 狩猟管理学の視点から-駆除・狩猟によるヒグマ管理と残滓問題の今後
       伊吾田宏正(酪農大・狩猟管理)
     依然として過剰なエゾシカ個体数の削減のため,クマを誘因するシカ残滓の放置が今後も懸念される.シカの資源利用の促進および適正な残滓処理に加えて,最終的な管理オプションとしてクマを捕獲できる高い技術をもった狩猟者の育成が北海道の野生動物管理の大きな課題となるだろう.
  • 押田 龍夫, 金子 弥生, 本川 雅治
    原稿種別: ミニシンポジウム
    セッションID: MS-19
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
    会議録・要旨集 フリー
    企画趣旨

     本学会の英文誌 Mammal Studyは,哺乳類学関連雑誌としてはアジアで初めて SCIEに登録され,昨年からインパクトファクターが開示されることとなりました.昨年秋頃から投稿数は急激に増えており,インド,ネパール,ベトナム,韓国,中国,シンガポール,台湾,イギリス,ロシア,アメリカ,ベナン等々 …様々な国から原稿が届きます.晴れて本格的な国際雑誌の仲間入りを果たした本誌に投稿するにはどうすればよいのでしょうか?

     本自由集会では,はじめに,1)論文の投稿方法,2)論文審査の流れ,3)論文審査結果に対する対応について分かりやすく解説します.特に昨年4月からは電子投稿システム (ScholarOne Manuscripts)の運用が開始されていますので,その利用方法について説明を致します.そして,編集委員長が約3年間編集活動を行う中で発見した問題点,勉強になった点等々について,覆面査読体制に支障が出ない様に注意しながら振り返ってみたいと思います.加えて Mammal Studyの現状(投稿論文数,受理論文数,棄却論文数,インパクトファクター等々)について説明を致します.さらにその上で,今後の Mammal Studyのあり方について参加者全員で議論することが出来ればと考えています.Mammal Study,そして英語論文の作成に少しでも興味がある方はどうぞお気軽に御参加下さい.学生,院生の方々はもとより,大学や研究機関等で論文作成の指導をされているベテランの先生方も大歓迎です.皆様の御参加をお待ちしています.
  • 山田 文雄, 大井 徹, 竹ノ下 祐二, 河村 正二
    原稿種別: ミニシンポジウム
    セッションID: MS-21
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
    会議録・要旨集 フリー
      福島原発事故で放出された放射性物質による野生動物への蓄積と影響についての調査研究が開始されつつあるが,野生動物の管理については人間活動の制限もあり不十分な点が多い.今回の集会では,野生哺乳類のモニタリングや管理問題について,特にニホンザルや大型狩猟動物を対象に,研究成果や社会的問題を紹介し,今後のあり方を議論する.今後,行政機関にどのような働きかけが必要か,要望書の提出も見据えながら議論を行う.本集会は,2012年5月に開催した4学会合同シンポジウムを受けて,日本哺乳類学会保護管理専門委員会と日本霊長類学会保全・福祉委員会の共同開催とした.

    1.「福井県におけるニホンザルの生息状況と餌食物の歩車占領の実態、及び今後の保護管理の問題点」
      大槻晃太(福島ニホンザルの会)
     サルの主要な餌を分析し,放射能汚染による餌への影響や放射能汚染に伴う耕作状況の変化によるサルの行動変化を明らかにした.人間活動の再開に向けたニホンザルの保護管理の問題点などについても話題提供したい.

    2.「福島市の野生ニホンザルにおける放射性セシウムの被ばく状況と健康影響」
      羽山伸一(日本獣医生命科学大学)
     世界で初めて原発事故により野生霊長類が被ばくしたことから,演者らの研究チームは,福島市に生息するニホンザルを対象に低線量長期被ばくによる健康影響に関する研究を 2011年 4月から開始した.サルの筋肉中セシウム濃度の経時的推移と濃度に依存した健康影響に関する知見の一部を報告する.

    3.「大型狩猟動物管理の現状と人間活動への影響
      仲谷 淳(中央農業総合研セ)・堀野眞一(森林総研東北)
     イノシシやシカなどの大型狩猟獣で食品基準値を超える放射性セシウムが検出され,福島県を中心に獣肉の出荷規制が継続されている.狩猟登録者数が減少し捕獲数にも影響する一方,農業等の被害増加が懸念されている.最新の放射性セシウム動向と,震災地域における狩猟者の意識変化について紹介し,今後の大型狩猟獣対策の方向を考える.

    4.「福島件における野生動物の被爆問題と被害管理の現状と課題」
      今野文治(新ふくしま農業協同組合)
     東日本震災から 2年が経過したが,山林等の除染は困難を極めており,年間の積算線量が 100mSv/hを越える地域も存在する.多くの野生動物への放射能の影響が懸念されており,基礎的なデータの収集と保全に向けた対応が急務である.一方,避難指示区域の再編が進められており,帰宅が進むにつれて被害管理が必要となっている.新たな問題が発生する地域での野生動物と人間の共生に向けた情報の共有と整理が重要となっている.

    5.総合討論「今後の対応と研究について」
      山田文雄・大井 徹(森林総合研究所),竹ノ下祐二(中部学院大学),河村正二(東京大学)

    企画責任者 山田文雄(森林総合研究所)・大井 徹(森林総合研究所・東京大学大学院農学生命科学研究科)・仲谷 淳(中央農業総合研究センター)・竹ノ下祐二(中部学院大学)・河村正二(東京大学)
  • 栗原 望, 曽根 啓子, 子安 和弘
    原稿種別: ミニシンポジウム
    セッションID: MS-22
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
    会議録・要旨集 フリー
      鯨蹄類(CETUNGULATA)は現生哺乳類の鯨偶蹄類と奇蹄類を含む単系統群である.本シンポジウムの開催により,鯨蹄類研究のさらなる発展を期待している.
    演題1 キリン科における首の運動メカニズムの解明:
         郡司芽久(東京大学大学院農学生命科学研究科)・遠藤秀紀(東京大学総合研究博物館)
     ほぼ全ての哺乳類は 7個の頸椎をもち,首が非常に長いキリンもその例外ではない.しかしキリンでは,第一胸椎が頸椎的な形態を示すことが知られている.本研究では,キリンとオカピの首の筋構造を比較し,キリン科の首の運動メカニズムの解明を試みた.調査の結果,首の根元を動かす筋の付着位置が,キリンとオカピで異なることがわかった.筋の付着位置の違いから,第一胸椎の特異的な形態の機能的意義について議論する.
    演題2 カズハゴンドウ(Peponocephala electra)に見られる歯の脱落

         栗原 望(国立科学博物館動物研究部脊椎動物研究グループ)
     ハクジラ類の歯は一生歯性であり,生活史の中で必然的に脱落することはない.しかし,カズハゴンドウでは,複数の歯を失った個体が非常に多く見受けられる.歯の脱落傾向や歯の形状を調べたところ,歯の脱落が歯周病などの外的要因により引き起こされたのではなく,内的要因により引き起こされたことが示唆された.本種で見られる歯の脱落が示す系統学的意義について議論したい.
    演題3 偶蹄類ウシ科の歯数変異と歯冠サイズの変動性
         夏目(高野)明香(NPO法人犬山里山学研究所,犬山市立犬山中学校)
     哺乳類全般の歯の系統発生的退化現象から歯式進化の様々な仮説が提唱されてきているが,これらの仮説は分類群ごとの傾向を反映していない.そこで偶蹄類ウシ科カモシカ類の歯数変異と歯冠サイズの変動性を調べたところ,P 2は変異性が高い不安定な特徴や,計測学的解析から他臼歯とは異なる特徴的な形質を保有することが明らかとなった.この事から,カモシカ類において,下顎小臼歯数 2が将来の歯式として定着する可能性があると考えられる.
    演題4 愛知学院大学歯科資料展示室とカモシカ標本コレクション

         曽根啓子(愛知学院大学歯学部歯科資料展示室)
     展示室には1,300頭以上のカモシカの頭骨標本が保管されている.これらの標本は 1989年度から2011年度にかけて愛知県内で捕獲されたものであり,2001年から標本登録されている.この標本コレクションは展示室の収集物でも,研究上重要な位置を占めるものであり,カモシカの形態学・遺伝学的研究に活用されている.本発表では,カモシカの収集・保管活動を紹介するとともに,頭蓋と歯に認められた形態異常および口腔疾患 (歯周病 )について報告する.
    演題5 鯨蹄類における乳歯列の進化
         子安和弘(愛知学院大学歯学部解剖学講座)
    「三結節説」と「トリボスフェニック型臼歯概念」の陰で忘れさられた「小臼歯・大臼歯相似説」に再度光をあてて,歯の形態学における乳歯と乳歯式の重要性を指摘する.最古の「真獣類」とされるジュラマイアの歯式,I5,C1,P5,M3/I4,C1,P5,M3=54から現生鯨蹄類の歯列進化過程における乳歯列の進化と咬頭配置の相同性について概観する.
  • 中川 尚史, 島田 卓哉
    原稿種別: ミニシンポジウム
    セッションID: MS-23
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
    会議録・要旨集 フリー
     採餌に関する理論においては,動物は「エネルギーもしくは何らかの栄養素の摂取効率を最大化するよう採餌を行っている」と考えられている.実際の行動としては,動物は,食物を探索し,見つけたら場合によっては殻を割る,皮を剥くなど若干の操作をし,口に入れる.その後,咀嚼という処理をし,嚥下後は,消化・吸収が行われる.これらの過程は,採餌効率の最大化という視点から統一的に理解することが重要であるにもかかわらず,研究の対象としては,「探索」,「操作」,「摂取」,「処理」,「消化・吸収」は,個別に取り扱われてきた.特に,「探索」から「摂取」までは直接観察可能なため生態や行動の研究者が,「処理」から「消化・吸収」は,解剖や生理の研究者という形で分担され,総合的に論じられる機会は少ないという現状がある.そこで,本集会では,哺乳動物の採餌行動を探索から消化までの一連のものとして理解するための取り組みとして,以下の 4つの話題提供を行う.

    演題1.「植食者にとって採餌速度とは?」 中川尚史(京大・人類進化論)
     採餌効率に関わる二大要素の一つである「採餌速度(単位時間あたりの餌量)」は,植食者においてはほとんど注目されてこなかった.本発表では,採餌速度,言い換えれば食物の量や大きさが,採餌量を高める上でいかに重要か,動物種の大きさ,生息地の植生や季節性にも触れながら話題提供する.

    演題2.「植食者にとって質の良い餌とは?」 島田卓哉(森林総研・東北)
     「食物の質」は採餌速度と並んで採餌効率に関わる二大要素の一つであるが,様々な要素を考慮した上で,どのような指標によって質を評価すべきかが難しい.タンニンをはじめとする防御物質にどう動物が対応しているのかを解説しつつ,食物の質の評価における課題について,植食者を対象として話題提供する.

    演題3.「ニホンザルの食-探索から消化まで」 澤田晶子(京大・霊長研)
     ニホンザルは,季節や地域に応じた幅広い食物レパートリーを持つ.本発表では,採食行動を「食物摂取前」と「食物摂取後」に分け,前者についてはニホンザルがどのようにして食物を選ぶのか,後者については食物の質・量と消化・吸収の関連性について話題提供する.

    演題4.「ツキノワグマの食-野外での採餌行動と消化生理とをつなぐ」 中島亜美(多摩動物公園)
     ツキノワグマは,その時々の食物資源量に応じて柔軟に食物を変える採餌戦略をとると考えられている.野生個体の採餌・探索行動の季節変化を,供餌実験で得られた消化・吸収に関する知見に基づいて考察し,「探索から消化まで」をつなぐ取り組みについて話題提供する.
  • 上野 真由美, 浅田 正彦
    原稿種別: ミニシンポジウム
    セッションID: MS-24
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
    会議録・要旨集 フリー
     【企画趣旨】ニホンジカなど一部の哺乳類では生息モニタリングのデータ蓄積が進み,統計モデルを駆使することで個体群の絶対数(密度)や年次変化が明らかになりつつある.モニタリングデータの基本骨格は共通する部分が多いので,先行事例に続きたい研究者は多いはずだが,統計モデリング初心者による推定作業は一筋縄ではいかない.本シンポジウムでは,複数の試行錯誤の事例を紹介しながら,できるだけ同じ轍を踏まないための教訓を導きたい.また,実際の運用には素人の独学だけでは難しいことから,統計モデリングのサポート体制についても議論する.

    【演題1 千葉の事例:ニホンジカとキョンのシンプルなモデル構築-浅田 正彦(千葉県生物多様性センター)】千葉県に生息するニホンジカとキョンを対象に,区画法推定密度,糞粒法糞粒密度を用いて,状態空間モデルによる個体数推定を行った.モデル構築には,可能なかぎりシンプルで,それでいて現場で利用可能な精度をもつことを目指した.検討したモデルについて両種で異なる点,共同研究者のモデラー各位からの教示内容,そして,検討したが不採用としたパーツなどについて紹介したい.

    【演題2 北海道の事例:単純なモデルでも個体数や増加率が推定できないこともある?-上野真由美(道総研・環境研)】北海道では絶対数を調査する区画法はないが,5kmメッシュでの 1人 1日あたりの目撃数(SPUE)と捕獲数を用いて,個体数,増加率,捕獲数からなるシンプルな個体群動態モデルを作成し,メッシュ別年別個体数と年別増加率の推定を試行した.推定の成功・不成功を比較しながら,推定成功につながる基本構造を見出したい.

    【演題3 ベイズ個体群動態モデルと付き合うための 7つのコツ-深澤圭太(国立環境研究所)】階層ベイズモデルによりモニタリングデータから個体群動態を推定する際に,パラメータが収束しない,原因不明のエラーが起きるなどの症状に見舞われ,途方に暮れた経験をもつユーザーは多いと思われる.本講演では,奄美大島のマングースを対象とした Fukasawa et al. (2013)を例に,試行錯誤の過程で気づいた推定に失敗しないためのコツを紹介する.

    【演題4 統計モデリングのサポート体制-岸本 康誉(野生動物保護管理事務所,兵庫県立大学),坂田宏志(兵庫県立大学)】兵庫県や島根県のシカの個体数推定のプログラム開発と,他の都道府県への普及に向けて,データに合わせてプログラムを修正するコンサルティングを含めた「野生動物管理意思支援システム」を開発した.このシステムは,個体数推定や将来予測に限らず,目標設定や対策の効果検証のためのアウトプット等が出力される.本講演では,個体数推定プログラムの汎用化に着目し,行政,研究機関,民間企業の役割分担についても議論したい.
  • 河内 紀浩, 中井 真理子
    原稿種別: ミニシンポジウム
    セッションID: MS-25
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
    会議録・要旨集 フリー
     外来生物の防除を目的とした探索犬の導入が各地で行われている.探索犬の育成には,現場で探索犬を運用するハンドラーが技術を体得することが必要不可欠であり,事例ごとにユニークな特徴をもっている.しかし,このような性質上,事例間の横のつながりに乏しく,情報交換する機会が少ない.本集会では,探索犬の育成と導入に携わる者が各事例を紹介し,成功した点や失敗から学んだ点などについて情報を共有することを目的とする.また,探索犬の現場導入における課題を整理し,今後の展望について議論したい.

    演題1:アライグマ探索犬の活用事例(北海道)
      中井真理子(北大院・文)・山下國廣(軽井沢ドッグビヘイビア)・
      福江佑子(NPO法人生物多様性研究所あーすわーむ)・池田透(北大院・文)
     本発表では,アライグマ探索犬育成と訓練の過程,さらに訓練中の失敗から学んだことなどを紹介する.日本で実用化するにあたり,他事例の調査結果や犬種の特性などの情報を基に,日本で入手可能な狩猟犬の特性を持つ犬種群から甲斐犬を選定した.育成方法には,動物行動学・学習理論に基づくモチベーショントレーニングを採用した.現在では,野生のアライグマを探索できる実用段階まで達している.しかし,訓練の途中で,意図しない行動を強化してしまう例もあり,修正に時間を要したことがあった.訓練の修正の過程や実践の成果,今後の展開について紹介する.

    演題2:小笠原諸島におけるノヤギ排除を目的とした犬の活用事例(東京都)
      滝口正明(一般財団法人自然環境研究センター)
     東京都が実施した小笠原諸島弟島での植生回復事業において,島内に残存するノヤギを探索するために探索犬(ボーダーコリー)を導入した.またノヤギの排除作業が完了し,根絶を確認する段階においても探索犬を使用した.今回は,探索犬の導入に当たって留意した事項と使用実績を紹介する.

    演題3:マングース探索犬の活用事例(沖縄島・奄美大島)
      河内紀浩・渡邉環樹(八千代エンジニヤリング株式会社),
      橋本琢磨・後藤義仁(一般財団法人自然環境研究センター),
      福原亮史・東江純之介(株式会社南西環境研究所)
     沖縄島や奄美大島でのマングース対策事業では,マングース探索犬を導入している.導入した探索犬は主に生体探索を行うテリアと,糞探索を行うシェパードで,これらの 2種は体の大きさや性質が大きく異なることから,探索手法にも違いがある.これまでの育成方法や探索実績,根絶に向けた探索犬を使用した取り組み,今後の展開などを紹介する.
  • 日野 貴文, 吉田 剛司
    原稿種別: ミニシンポジウム
    セッションID: MS-26
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
    会議録・要旨集 フリー
     生物多様性保全に向けたシカ個体数管理について,過去の自由集会ではシカの行動特性の把握,個体数管理目標,捕獲手法の確立,捕獲個体の処理方法,技術者集団の育成,法的整備等の課題が整理されている.これらの課題は相互に関連しており,例えば個体数管理目標を策定するには生態系モニタリングは欠かせず,統合して全体調整を行う必要がある.
     全国の国立公園・鳥獣保護区で,高密度のシカによる生態系の改変が報告されている.国立公園や鳥獣保護区においては一般狩猟者による個体数調整ができない等の特性があり,特性を考慮して統合的なシカ管理を進める必要がある.本ミニシンポジウムでは,統合的なシカ管理の重要性を再確認し,国立公園・鳥獣保護区における一般狩猟に頼らない総括的なシカ管理について,各地からの報告と共に議論を深めたい.
    演題1:国立公園・鳥獣保護区におけるシカ管理の課題整理
         吉田剛司(酪農学園大)
     日本のシカ管理においては,統合的に行われるべき個体数調査,捕獲等は個別に実施されていることが多い.しかし,より効果的にシカ管理を行うにはこれらが有機的につながる必要がある.本発表では現状の課題を整理し,野生動物管理の基本概念をもとになぜ統合的な管理が必要かを論じる.
    演題2:支笏洞爺国立公園をモデルとした統合的なシカ管理体制の立案
         日野貴文(酪農学園大)
     統合的なシカ管理を概念だけでなく,全国の保護区等で実行するにはモデルが必要である.そこで,支笏洞爺国立公園をモデルとして,研究者によりシカ個体数調査,生態系影響調査,捕獲手法の検討,地元との合意形成を統合して行った事例を紹介する.
    演題3:統合的なシカ管理を担う団体のあるべき姿-技術論から体制論へ-
         鈴木正嗣(岐阜大)
     統合的なシカ管理は,受け皿として担う団体がなければ成立しない.そのような団体には,個体数調査や捕獲といった個別の技術の専門家というより,生物学的・社会学的条件を調整するトータルコーディネーターの資質が必要である.本発表では統合的なシカ管理業務の受け皿としての団体のあるべき姿を提示する.
    演題4:生態系維持回復事業制度に基づく国立公園における統合的なシカ管理の現状と課題
         若松 徹(環境省 自然環境局 国立公園課)
     国立公園のシカ管理は,長年,個別の事業や予算に基づく個々の対応に終始していたが,平成 21年6月の自然公園法改正において生態系維持回復事業制度が創設され,生態系維持回復事業計画に基づく統合的なシカ管理が実践され始めている.本発表では,この制度に基づき統合的なシカ管理を実施している国立公園の現状と課題について報告する.
    演題5:総合討論
    コメンテーター:梶光一(東京農工大),石名坂豪(知床財団),自然環境研究センター(常田邦彦)
口頭発表
  • 斎藤 英彦, 山田 格, 川田 伸一郎, 田島 木綿子
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: A1-1
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】ゴリラの上肢で,肘レベルで正中神経の本幹から分岐し前腕前面を斜走して手関節尺側縁に至り,手掌深部に入って手内在筋を支配する尺骨神経深枝相当の比較的太い神経束が見られた.この神経束が腕神経叢のどの神経根・幹・束に由来するのか,尺骨神経を構成する神経線維束との関係を検討し,ヒトの正中・尺骨神経間の Martin-Gruber anastomosisと比較検討することである.
    【材料・方法】材料はメスのニシゴリラ Gorilla gorilla(推定年齢 40歳)の頚椎外側縁で切断された右上肢である.骨・関節を抜いて神経根レベルから指先までの筋肉神経標本を作製した.手術顕微鏡視下でこの神経を近位方向に腕神経叢の神経根レベル迄可及的に神経上膜を除去して神経周膜に被覆された神経線維束を追究した.
    【結果】正中神経から前骨間神経が分岐する円回内筋レベルで,その尺側からこの神経束は分岐していた.前腕近位部で尺骨神経から分岐した細い枝が二分しこの神経束と交通していた.手関節尺側縁に達したこの神経束は有鉤骨鉤の尺側を回って手掌深部に入っていた.手掌深部で環・小指列の虫様筋,全骨間筋,母指内転筋を支配していた.この神経の神経線維束は前骨間神経,正中神経本幹の神経線維束と分離することができ,近位方向に追って行くと,大部分の線維束は内側神経束から来ていた.
    【考察】Raven(1950)の Plate 40には,今回見られた神経と同様な正中神経から分岐して手関節尺側縁に走る神経が描かれている.ヒトでは内側神経束から尺骨神経を経由して手の内在筋に至る神経線維束(深枝)が,内側神経束から正中神経に入りそこからこの神経を経由して手の内在筋に達している.Hepburn(1892)によれば,ある種の霊長類では正中神経と尺骨神経の交通は普通に見られるという.進化の一過程なのかもしれない.
  • 山田 格
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: A1-2
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
    会議録・要旨集 フリー
     哺乳類の前腕筋についてはStraus(1942)は,独自に発生したもので両棲類,爬虫類の構成との連続性がないと述べた.Abdala & Diogo(2010)は両棲類,爬虫類の前後肢の筋の系統発生を論じた.残念ながらこれらは筋の形状などを検証したもので支配神経の所見や考察を欠く.山田(1986)は,ヒト前腕屈筋の精査を行い筋の形状,支配神経の所見,神経の線維解析結果に基づき,浅指屈筋が,浅層筋のみではなく深層筋を含んでいること,最浅層に位置する長掌筋が深層筋から派生していることを明らかにした.本研究では原猿類,爬虫類,両棲類の前腕を精査した結果,一貫した筋分化の傾向があることを確認した.哺乳類では前腕屈筋群は,前腕の回内,肘関節,手首関節,近位指節関節,遠位指節関節の屈曲に機能する筋群からなっており,それらの分化様式は一貫している.
  • 姉帯 飛高, 時田 幸之輔, 小島 龍平
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: A1-3
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
    会議録・要旨集 フリー
     上殿動脈(Gs)の変異については諸家の報告があるが,仙骨神経叢との関係に留意した調査は渉猟した限りない.
     京都大学霊長類研究所共同利用研究のニホンザル 5体 10側において,Gsが仙骨神経叢を貫く位置と,大腿神経(F),閉鎖神経(O),腰仙骨神経幹(Tr)の 3枝に分岐する分岐神経(Nf;仙骨神経叢の上界を示す)の起始分節の関係を調査した.
     ニホンザルの Gsの貫通位置は L7/L7間,S1/S1間の 2通りが観察された.
    1)L7/L7間(2側):Nfの起始分節はL5(2側)であった.F,O,Trの 3枝の相対的な太さの関係はTr>F>Oで L5の仙骨神経叢への参加が多い例(1側),F>Tr>Oで仙骨神経叢への参加が中等度の例(1側)があった.後者は前者よりも仙骨神経叢構成分節が低い.
    2)S1/S1間(8側):Nfの起始分節はL5(2側),L5+L6(2側),L6(4側)であった.L5の例では 3枝の太さが,F>O>Trで L5の仙骨神経叢への参加が少なく,仙骨神経叢構成分節は1)の例よりも低い(2側).L5+L6の例では,L5の 3枝の太さは F>O>Trであり,さらに L6が Oに参加する(2側).L6の例では L5は仙骨神経叢へ参加せず,L6が F, O, Trの 3枝を分岐する(4側.これらの仙骨神経叢構成分節はさらに低い.
     以上より仙骨神経叢構成分節が高いと Gsの貫通位置も高く(L7/L7),仙骨神経叢構成分節が低いと Gsの貫通位置も低い(S1/S1).よって,仙骨神経叢構成分節の尾側へのズレに伴い Gsの貫通位置も尾側へズレる可能性が示唆された.
     我々はヒトの Gsと仙骨神経叢の位置関係についても調査しており(2012),同様の可能性を示唆している.よって,ヒトとニホンザルの Gsと仙骨神経叢は,共通した形態形成を辿る可能性が示唆された. 本研究は京都大学霊長類研究所共同利用研究によって実施され.
  • 時田 幸之輔, 姉帯 飛高
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: A1-4
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
    会議録・要旨集 フリー
     我々は,腹壁から下肢への移行領域に着目し,ヒト及びニホンザルにて腰神経叢と下部肋間神経の観察を行ってきた.その結果,下肢へ分布する神経(腰神経叢)の起始分節(構成分節)が尾側へずれる変異が存在すること,この変異にともない最下端の胴体(胸腹部)に特徴的な神経の起始分節も尾側へずれることが明らかになった.これらの変異に伴い最下端の肋骨の長さの延長や肋骨の数の増加(腰椎肋骨突起の肋骨化,腰肋)も観察している.しかし,これまでの観察では,腰神経叢よりも下位の脊髄神経(仙骨神経叢・尾骨神経叢)にどのような形態的特徴が出現するかは明らかにされていない.よって,今回,胴体(胸部)の延長に関連した,仙骨神経叢の形態的特徴を明らかにする目的で,ニホンザルの下部肋間神経から腰仙骨神経叢の観察を行った.
     腰神経叢と仙骨神経叢の境界に位置する分岐神経を起始分節の高さから L5群,L5+L6群,L6群の 3群に分けることができた.分岐神経起始分節は,上方から L5群,L5+L6群,L6群の順で尾側へズレると言える.
     坐骨神経の構成分節は,L5群で L5+L6+L7+S1,L5+L6群で L5+L6+L7+S1,L6群で L6+L7+S1+S2であった.陰部神経の構成分節は,L5群で S1+S2+S3,L5+L6群で S1+S2+S3,L6群で S2+S3であった .
     胴体に特徴的な神経である肋間神経外側皮枝(RcL),前皮枝(Rcap)のうち最下端の RcL,Rcapの起始分節は L5群で L2,L5+L6群で L2+L3,L6群で L3であった.また,L6群においては第 1腰椎の肋骨突起が肋骨(腰肋)となっている例もあった.
     以上より,胴体(胸部)に特徴的な神経である Rcap,Rclの起始分節の起始分節が尾側へずれると,分岐神経を中心とした下肢への神経も尾側へずれ,坐骨神経,陰部神経の構成分節も尾側へずれること言える.これらの変異には腰肋の形成(腰椎の胸椎化)を伴うことがあり,胴体の延長に関連した変異であると考えたい.本研究は,京都大学霊長類研究所共同利用研究として実施された.
  • 緑川 沙織, 時田 幸之輔, 小島 龍平, 影山 幾男, 相澤 幸夫, 熊木 克治
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: A1-5
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
    会議録・要旨集 フリー
     ヒトをはじめとする哺乳類の腕神経叢,特に内側神経束より分岐する皮神経に注目してきた.その結果,マカクやブタ胎仔では内側上腕皮神経(Cbm)が欠如し,その分布領域を肋間上腕神経(Icb)が補うという特徴がみられた.更に,マカクやブタ胎仔には皮幹筋が存在し,内側神経束に由来する支配神経と皮幹筋を貫く皮神経が観察された.河西は,ヒトにおける後上腕皮神経(Cbp)を背上顆筋が退化した後,その支配神経を土台として生じた皮神経としている.そして,このような現象は他の皮神経についても適用される可能性を含んでいると述べている.今回はヒト Cbmとニホンザル,ブタ胎仔の皮幹筋の支配神経について比較解剖学的に検討,Cbmについて Cbpと同様の考察を試みた.
     ヒト Cbmは,内側神経束の背側層に所属し,第 2肋間外側皮枝(RclⅡ)と吻合し,上腕内側から後面にまわり,上腕後面から肘頭までの皮膚に分布する.
     ニホンザルの皮幹筋には,内側神経束より分岐した内側胸筋神経の一部が分布する.この神経は RclⅣ背側枝と吻合し,腋窩後面の皮下への分枝を持つ.
     ブタ胎仔の皮幹筋には,内側神経束の腹側より分岐した支配神経が分布する.また,内側神経束の背側より分岐した枝が RclⅡと吻合し,皮幹筋と上腕後面に分布する.
     ニホンザル,ブタ胎仔とも肘頭付近には Icbが分布する.
     ブタ胎仔やニホンザルの皮幹筋の支配神経のうち,上腕または腋窩後面の皮下に分布する神経は,皮幹筋の有無を除けば起始・経路・分布域がヒト Cbmと類似す.今回の所見よりヒト Cbmは,皮幹筋が退化した,皮幹筋の支配神経に関連する神経を土台として生じた皮神経である可能性が示唆された.
     本研究の一部は京都大学霊長類研究所共同利用研究によって実施された.
  • 小澤 幸重
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: A1-6
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
    会議録・要旨集 フリー
     背景;演者は歯の形態形成を比較解剖学的に解析し,全ての歯が分節(集合)性,対称(平衡)性,周期(律動)性に基づいて理解できること,これらは体制の原則と一致し,かつミクロからマクロまで統一的に認められる普遍性の高い法則であることを報告してきた.そのなかで体制の対称性は非常に重要な要因であるが,対称性として理解が得にくいと考えられる頭.臀の対称性について昨年の本学会で発表した.今回は歯の分節を系統発生的に解析し時間軸を加えると共に,分節の分化様式について検討を加え,進化要因としての原則を議論したい.
     検討;哺乳類の歯の構造はおおまかに起源から系統発生的な要因に基づく分節が認められる.ここから象牙質の定義は顎骨弓の辺縁における上皮直下の分節としての硬組織であるという定義が生まれる.一方,歯冠の高まり(咬頭,切縁結節,尖頭など)や歯根は動物種,歯種によってそれぞれ別個に歯のどこからでも生じかつ対称的に分化するが顎骨の制約を受ける.いずれも分節が単位となり分化しあるいは消失する.また Osbornが三結節説で理解しようとしていた長鼻類やイボイノシシの歯の形態は,歯の分節の集合が単位としても分化することがあることを示している.このような現象は体内のいろいろな臓器に当てはまるものであり,そこから種の特異性が生まれ,体制全体の律動性から進化の要因となる,と推定される.以上の現象から,さらに嗜好性,親和性,相補性という概念が進化に必要である.以上の点を議論したいので諸賢のご検討を願うものである.
  • 山田 博之, 清水 大輔, 濱田 穣
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: A1-7
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
    会議録・要旨集 フリー
     テナガザルはペア社会を営むことから,これまで犬歯の大きさに性的二型がないと言われてきた.しかし犬歯形態の雌雄の違いについてはまだ明らかになっていない.今回はシロテテナガザル(Hylobates lar)の犬歯の表面レリーフを詳細に調査するとともに,シロテテナガザルの犬歯に性的二型がどの程度みられるかを調査した.資料:京都大学霊長類研究所ならびに日本モンキーセンターに所蔵されている雌雄がはっきり判っているシロテテナガザルの頭蓋骨と下顎骨(上顎:オス 4個体,メス 7個体,下顎:オス 5個体,メス 5個体)である.方法:頭蓋骨と下顎骨に植立している犬歯を付加型精密シリコーン印象材により印象採得し,硬石膏模型を作成した後,犬歯模型について写真撮影を行い,パソコンに画像を取り込んだ後,画像を印刷し,犬歯の形態をトレース用紙に点描した.歯の計測は模型上で 1/20mm副尺付ノギスで行い,上顎犬歯は歯冠近遠心径と歯冠頬舌径を,下顎犬歯は咬合面からみて概形の長径と短径(長径に直角)を計測した.また上下顎犬歯の歯冠高の計測は,尖頭がほとんどの個体で磨耗を被っているため,近心と遠心の切縁の延長線が交叉する点を本来の尖頭があった位置とみなし,その点から舌側面の歯頚線最深部までの投影距離を歯冠軸に平行に計測した.結果:シロテテナガザルの上顎犬歯の舌側面形態はオス・メスとも良く似ていた.類似点1)サーベル状の概形,2)歯頚部の近くに shoulderが存在,3)辺縁隆線はほとんどない,4)近心切縁溝と近心隆線が発達,5)歯頚隆線の発達は弱い,6)歯冠の遠心 2/3に深い窩を形成,7)歯頚線は水平的という特徴である.しかし相違点としてあげられるのは1)サイズ,2)隆線や溝の発達度合,3)歯冠の舌側への湾曲度合である.下顎犬歯もオス・メスはよく似ているが,相違点は1)サイズ,2)近心 shoulderの位置,3)歯頚隆線の発達,4)歯冠の舌側への湾曲度合である.
  • N V Minh , Mouri T, Hamada Y
    セッションID: A2-1
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
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     In nonhuman primates, age-related changes in the postcranial skeleton have been studied (DeReousseau, 1988; Kimura, 1994) but little is known about such changes in the skull. This study aimed to elucidate changes in skull patterns in Japanese macaques Macaca fuscata, with implications for aging in the human skull. A total of 140 (68 male; 72 female) skulls from macaques of known age were measured for 21 craniometric items. Facial and mandibular dimensions showed a greater and significant increase than neurocranial dimensions, e.g., facial length, facial height, bizygomatic breadth, mandibular angle, mandibular body height, and ramus breadth in both sexes from 7.04 to 1219.1 years of age in males (8.07 to 13.69%) and 7.04 to 22.1 years or more in females (4.65 to 16.37%). Peak skull size tended to occur later in females than in males, which might relate to reproductive costs in females. After the increase phase, these dimensions stabilized or decreased only slightly. Similarly, facial length, facial height, cranial base length, and bizygomatic breadth also continue to increase in humans (Ruff, 1980; Israel, 1973). The significant decrease in inter-temporal distance and increase in cranial length in males may be related to the development of insertion processes (tubercles) on which muscles attach and/or the accumulation of physical stress, those dimensions may relate to tooth loss and/or dental disorders, both of which are evident in humans but were found to be minimal in the present study.
  • ポムチョート ポッラワィー, 濱田 穣, S Malaivijitnond, N Kitana, S Jaroenporn
    セッションID: A2-2
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
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      Osteoarthritis (OA) and bone loss are generally physical changes with age in mammals. Our objective was to investigate age changes in bone mineral density (BMD) and OA in cynomolgus macaque (as a human model). Both sexes (19-37 years) were examined on BMDs; disc space narrowing (DSN, score) and osteophytosis (OST, score); and bone biomarkers of intact osteocalcin (OC), bone-specific alkaline phosphatase (BAP), and pyridinoline crosslinks (PYD). Males had higher OA than females as found in rhesus macaques and humans. DSN involvement in females is similar to rhesus and pig-tailed females, but different from that in women, while males had similar pattern to rhesus males and men. OST pattern in macaques differed from that in humans. Cortical BMD (CorBMD) and OST significantly differed between sexes (independent samples t-test). Significant relationship (Pearson’s correlation) were found positively in females between age and BAP, age and body mass index (BMI), BAP and DSN, and OST and BMI; and negatively between CorBMD and DSN, and CorBMD and OC; while in males negatively between age and volumetric BMD (vBMD). Controlling age and body weight, significant relationship was found only between BPand DSN (positive) in females. So, BAP can be a good marker for DSN. However, longitudinal study is strongly recommended. In sum, aged cynomolgus macaques showed naturally occurring OA and association with other variables as found in other macaques.
     This work was financially supported by JSPS AS-HOPE Project and the Global Center of Excellence Program.
  • 伊藤 毅, 西村 剛, 高井 正成
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: A2-3
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
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     鼻腔は,吸気を温める働きを持つため,その形態は気候環境に対する適応を反映すると考えられている.吸気を効率よく温めるためには,吸気が鼻腔の粘膜に万遍なく触れる必要がある.そのため,寒冷地ほど鼻腔内の「体積に対する粘膜の表面積」を大きくするためにその断面は細長く(縦長に)なると予測され,ヒトを対象にした最近の研究ではこれが確認されている.我々は,多様な気候環境に分布するマカク属霊長類の頭骨標本をCT撮像し,その種間とニホンザル種内の鼻腔形状の地域変異を定性的・定量的に比べることで,この仮説を検証した.結果,予測通り温帯に分布するバーバリーマカクは熱帯や亜熱帯に分布する多くの種に比べて縦長の鼻腔をもっていた.しかし,同じく温帯に分布するニホンザルは比較的幅広い鼻腔をもつことが分かった.さらに,ニホンザル種内においても,寒冷な地域に分布する個体ほどより鼻腔の内部が幅広い傾向が確認された.眼窩間幅の広いヒトやバーバリーマカクは鼻腔が縦に広がる余地を持つため寒冷適応として縦長の鼻腔を持つが,その余地のないニホンザルは鼻腔を横方向に拡大し鼻甲介を発達させることで粘膜の表面積を拡大しているのではないかと考えられる.これらの種は寒冷地において吸気を温めるという共通する目的を持つが,構造的制約の違いによって異なった戦略をとっている可能性が示唆される.
  • 大貫 彩絵, 高槻 成紀, 南 正人
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: A2-4
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
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      金華山島(以下「島」)のニホンジカは高密度なために慢性的な貧栄養状態にある.この角を岩手県五葉山(本土1)と長野県八ヶ岳(本土2)のそれと比較したところ,角の重さは本土2>本土1>島であり,同じ長さクラスでは島が有意に軽かった.密度 (g/cm 3)は本土1(1.7)>本土2(1.6)>島(1.5)の順であった.また角の断面形は本土 2はほぼ円形であったが,島は前後に扁平であった.これらの結果から,島集団は角への投資を最小限にしているが,長さを維持し,前後方向の負荷に強い変形をしていることが示唆された.
  • 四津 有人, 緒方 直史, 亀山 仁彦, 中原 康雄, 戸島 美智生, 張 雅素, 芳賀 信彦
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: A2-5
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
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    【背景】ヒト乳児の四つ這いに関する定量的な研究は,十分になされていない.光学機器による分析では,立脚・遊脚の判断が正確でない.
    【目的】ヒト乳児の四つ這いにおける,四肢の動きを,正確に記述すること.
    【方法】典型的な四つ這いをしているヒト乳児 6名を対象とした.圧センサーマット BIG-MAT 2000(サンプリング80Hz)の上を四つ這いさせた.速度,1歩行周期,前肢・後肢の立脚期間,前肢・後肢の接地のタイミングを計算し,Hildebrand(1965)の Gait Graph上にプロットした.
    【結果】16施行(3施行× 4名+ 2施行× 2名)が解析可能であった.1歩行周期中,後肢の立脚期間(平接地のタイミング(平均±標準偏差)は,同側後肢の接地の 42.0 ± 3.7%後であった.前肢の立脚期間(平均±標準偏差)は,後肢の立脚期間の 102.1 ± 9.5%であった.四肢の動きのパターンは,Walk-Lateral Sequence-Diagonal Coupletか Trotであった.四つ這いの速度と 1歩行周期との間には,強い負の相関があった(相関係数-0.875,p=0.000)
    【考察】われわれの結果(.) は,過去の研究に比べ,1歩行周期における立脚期間の割合が大きかった.動きのパターンは一致していた.光学機器を用いた過去の研究に比べ,サンプリング周波数が比較的高く,立脚期を圧センサーマットで直接計測した我々の研究の方が,より正確に動きを記述できたと考える.
  • 稲用 博史, 平崎 鋭矢, 濱田 穣
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: A2-6
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
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    <目的>ヒトは直立二足歩行する.このため,チンパンジーと異なり,ヒトは股関節と膝関節を伸展した肢位をとる.また,ヒトの骨盤の幅はチンパンジーより広く左右の寛骨臼は離れている.更に両膝関節を接近させた肢位をとるため,大腿骨は,膝関節から股関節に向かって傾きをもつ.他方,チンパンジーでは,四足,二足,いずれの立位の状態においても両膝関節は離れた肢位とるので,大腿骨の傾きは小さい.
     ヒトは直立二足歩行をするために,骨盤,大腿骨の形状を変化させ筋の走行を変化させてきた.この適応的変化は,腸脛靭帯による大転子への圧迫が関与していると考えた.
     ヒトとチンパンジーの大腿骨の形状を比較し,筋力を推定し,推定された力学的ストレスと骨形状の関係の妥当性を検討した.
    <方法>筋骨格の数学モデルを作成し,汎関数を定義した.汎関数を三次元有限要素法で離散化した.大腿骨を想定し,臼蓋と腸脛靭帯からの力に相当する力学的ストレスを加え,表面歪エネルギー密度を計算することで表面形状を変化させた.この過程を繰り返し力学的最適形状に近づける,という手法を用いて大腿骨に与えられる力学的ストレスを推定した.
     ヒトにおいては大臀筋が大きいことを考慮し,腸脛靭帯から大きい力が大腿骨に加わるように数学モデルに組み込んで計算した.
     形状変化を,チンパンジーの骨標本と比較して,評価,検討を行った.
    <結果>腸脛靭帯からの,より大きい力により,ヒトの大腿骨体部がチンパンジーと比較して内側凸の緩やかな円弧を描く様に傾き,遠位端で傾きを形成する,という結果が得られた.
     この結果は,実際の大腿骨に加えられている力学的ストレスと大腿骨形状との関係が,異なった種における筋の作用の相違を表現していると思われた
  • 河部 壮一郎, 小林 沙羅, 遠藤 秀紀
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: A2-7
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
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     食肉目における水中への適応進化は幾度かおこっており,そしてその度合いも様々である.これまでに,一部の半水棲種における嗅球が小さくなることが知られているが,このことから嗅球体積は水棲環境への依存度を反映していると考えられている.嗅球体積は頭骨形態から計測できるため,絶滅哺乳類における水棲適応の進化を知る上で欠くことのできない重要な情報である.しかし鰭脚類における嗅球体積が他の食肉動物のものと異なるのかどうか詳しく知られていない.一方,視力や眼球サイズも水棲環境への依存度により変化するとされている.しかし,水棲適応度と眼窩サイズに関係があるのか,その詳細な検討はされていない.水棲適応の進化を解明する上で,嗅球や眼窩サイズが水棲環境への適応度の違いを反映しているのかどうかを明らかにすることは重要である.よって,本研究では食肉目における嗅球および眼窩サイズが脳や頭蓋サイズに対してどのようなスケーリング関係を示すのか調べた.その結果,眼窩・脳・頭蓋サイズは互いに高い相関を示すことがわかった.しかし,嗅球体積と脳あるいは頭蓋サイズとの間に見られる相関は比較的低かった.陸棲種と比較すると,鰭脚類を含む水棲・半水棲種の嗅球体積は,脳や頭蓋に対して小さいという結果を得た.これまで,水棲適応度が高い種ほど嗅球体積は小さくなると言われていたが,鰭脚類においてもこのことは当てはまることが明らかとなった.よって絶滅種における水棲適応度を考える上で,嗅球体積は一つの重要な指標になる得ることが示された.しかし,水棲適応度と眼窩サイズには明確な相関が見られなかった.このことは,視覚器は水棲適応により構造的な変化は示すものの,サイズは大きく変化しないという可能性を示しているが,今後のより詳細な検討が必要である.
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