霊長類研究 Supplement
第29回日本霊長類学会・日本哺乳類学会2013年度合同大会
選択された号の論文の417件中301~350を表示しています
ポスター発表
  • 山田 文雄
    原稿種別: ポスター発表
    セッションID: P-141
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
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     アマミノクロウサギは,現在奄美大島と徳之島に生息するが,かつては(150-170万年前)沖縄島には生息していたという(小澤2009).本種は,ウサギ科 Leporidaeの種分化の初期に誕生し,ウサギ科の原始的特徴を持ち,有力な捕食性哺乳類が存在しなかった奄美大島と徳之島に遺存固有的に生存してきたと考えられる(Corbet 1983; Yamada et al. 2000).原始的特徴として,短い四肢,短い耳介,小さな眼,水平に広い椎骨の横突起など,さらに音声コミュニケーションがあげられる.アナウサギタイプの本種は,湿潤亜熱帯の森林に住み,日中は巣穴で休息し夜間に採食と排糞尿などの活動を行う夜行性である.本種は活動の開始時や活動中に頻繁に音声を発するが,詳細な野外研究はなかった.そこで,本種の生息地において,活動時間帯に音声を録音しスペクトラム分析を行った.採音方法は,林道上に駐車した車両内でデジタル録音機とマイクロフォンで記録し,ウサギとの距離は約 10-30mであった.音声周波数は 6-12kHzの範囲で,環境中の音(コオロギなど)よりも高かった.1回の鳴き声(バウト)は,1-4回程度の音声(エレメント)で構成された.1つの音声(エレメント)の波形は,小文字の n字形や m字形を示し,1つのエレメントの持続時間は 0.3-0.8秒程度であった.音量は 60-90dBであった.このような音声コミュニケーションの利用は,捕食性哺乳類からの攻撃に不利と考えられ,現存する他のウサギ科の種では認められず淘汰された可能性がある.本種の音声コミュニケーションは,捕食性哺乳類の不在の島嶼において,遺存的に保存されてきた種的特徴の 1つと言える.それゆえ,奄美大島と徳之島における近年の外来哺乳類(ネコ,イヌ,あるいはマングース)の生息は,クロウサギにとって捕食リスクを高める可能性があると考えられる.
  • 山本 詩織, 高槻 成紀, A Campos-Arceiz
    原稿種別: ポスター発表
    セッションID: P-142
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
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     アジアゾウ(Elephas maximus)(以下ゾウ)は人間活動による生息地の減少や密猟によって個体数が減少し,絶滅が危惧されている(Sukumar 2003). マレーシア半島には野生のゾウが約 3900頭生息しているが(Saaban et al. 2011),その生息地は急速に減少しており,「ヒトとゾウの軋轢」が起きるようになった.このような背景から,マレーシアの国立公園や野生生物局,ノッティンガム大学が協力して ‘Management & Ecology of Malaysian Elephants’ (MEME)を立ち上げた.MEMEは GPS付きの首輪をゾウに装着して行動圏利用や個体間関係の解明に成功している.ゾウの保全のためには食性情報は不可欠であるが,これまでアジアゾウの食性情報は農地を含む二次植生に生息するゾウのものしか知られていない.マレーシアも開発が進み二次植生が広がるが,一部の保護区には自然状態が残る熱帯林もある.以上の背景から,マレーシアのゾウの食性を異なる 3地域(原生林,伐採林,道路沿い)で比較し,ヒトの介入がゾウの食性に与える影響を調べることとした.そのために,GPS発信器を装着したゾウを定位することにより糞のサンプリングをおこなった.サンプルは篩(1mm)で洗浄した後,顕微鏡下のポイント枠法(200カウント)で分析した.2012年 10月の予備調査で採集した伐採林と道路沿いのサンプルでは,どちらも単子葉植物や繊維が過半数を占めた(伐採林 : 単子葉植物55.5%,繊維27.4%,道路沿い : 単子葉植物60.9%,繊維26.6%).大会発表時には今夏(6~ 7月)に採集したサンプルのデータを追加して報告する予定である.
  • 山﨑 文晶, 重昆 達也, 御手洗 望
    原稿種別: ポスター発表
    セッションID: P-143
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
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     埼玉県入間市では 1990年代から外来リスの野生化の情報があり,2011年 3月にクリハラリス Callosciurus erythraeusであることが確認された.昨年度の大会では,2012年 7月までに 38個体を捕獲したこと,また,定着早期の低密度な時期の生息確認には,本種の声を再生させて誘引する音声再生法が有効であるなど,初期防除の試みについて報告した.捕獲は 2013年 6月現在も毎月継続中であり,これまで主に捕獲を行ってきたゴルフ場内だけでなく,新たに生息が明らかとなったゴルフ場周辺の樹林4ヶ所でも 2012年 10月から順次捕獲を開始した.2013年 6月までの総捕獲個体数は 57個体であるが,ゴルフ場内では 46個体目を捕獲した 2012年 11月以降約半年間捕獲が途絶え,トラップ配置を変更した以降の 2013年 6月に新たに 3個体が捕獲された.一方,周辺の樹林では捕獲開始直後は合計 8個体を捕獲したが,その後捕獲が途絶えている.しかし,センサーカメラや音声再生法による調査では,ゴルフ場内,周辺の樹林ともいまだに複数個体の生息が確認されている.低密度で残存する個体を確実に捕獲する手法を検討しなければならない段階に入っている.捕獲された 54個体のうち 48個体について,計測および解剖を行った.メス 23個体を解剖したところ,妊娠個体は 6個体で妊娠率は 26.1%であった.妊娠個体は1・2・6・7・8・9月に各 1個体ずつであった.胎児数は 1または 2個体で,平均胎児数は 1.33個体であった.メス 23個体のうち 12頭に胎盤痕が観察され,妊娠していた個体も含めると 78.3%が繁殖に参加していることがわかった.幅広い季節にわたって,繁殖個体が確認されているため,捕獲季節を限定することはできない.しかし,妊娠個体が比較的頻繁にみられた夏季に先立って,捕獲努力を集中することが,より効率的であることが推察された.
  • 若山 学, 田中 正臣, 米田 吉宏
    原稿種別: ポスター発表
    セッションID: P-144
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
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     奈良県西南部の伯母子岳(標高1344m)地域の森林は,ブナ・ミズナラの落葉広葉樹林であり,緑の国勢調査において原生林もしくはそれに近い自然林として日本の重要な植物群落に選定されているが,樹木の剥皮被害が発生するなど,ニホンジカの影響が生じている.私達は当該地域の森林の保全を目的に調査研究を実施しているが,その一環としてニホンジカが中大型哺乳類に与えた影響を検討した.
     自動撮影カメラ(Field Note Ⅱ)による定点調査を,2003年 12月から約 16ヶ月間と,2010年 10月から約 30ヶ月間の2回実施した.1回目の調査では 10定点にカメラを設置した.2回目の調査では1回目に設定した 10定点から 7定点を選びカメラを設置した.撮影画像は O’Brien et al.(2003)や他の研究に倣い,各種の撮影時間が 30分以内のものは同一の撮影とし,種ごとに撮影数を集計,撮影頻度指数を算出した.撮影された中大型哺乳類はニホンジカの他 9種であった.ニホンジカは 1回目,2回目それぞれの調査期間の総撮影数の約 65%を占め,春季から秋季の撮影頻度指数,そして撮影数に占める割合のいずれも高くなった.一方冬季は撮影頻度指数,撮影数に占める割合も低くなる傾向にあった.撮影された中大型哺乳類について1回目と2回目の調査の撮影頻度指数を比較すると,殆どの種で撮影頻度指数は低下しており,ニホンジカの撮影頻度指数も大きく低下した.
     2012年 8月に実施した調査では,下層植生は著しく衰退していた.自動撮影カメラの定点調査は,下層植生も撮影されるため,1回目と2回目の調査の撮影画像を比較したところ,ササ類の消失が確認された.
     ニホンジカによる強い採食圧は下層植生を衰退させ,間接的に中大型哺乳類の当該森林の利用を阻害し,ニホンジカも餌資源量の減少により,当該森林の利用が困難になっているものと推測された.
  • 若澤 英明, 片岡 友美
    原稿種別: ポスター発表
    セッションID: P-145
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
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     玉川上水中流部の 18km区間において、外来生物アライグマ(Procyon lotor)と中型食肉目の生息状況を明らかにするため,2012年 2月から 2013年 3月まで餌トラップや自動撮影装置による生息確認調査を行った。調査期間中は水路内にアライグマに特化した餌トラップを延 180ヶ所と自動撮影装置を延 31ヶ所設置し、 5-10日間に 1回の間隔でこれらの仕掛けを見回った。このほか、東京都の島嶼を除く全ての市区町村の役所、 JA等にアライグマ,ホンドタヌキ(Nyctereutes procyonoides)、ハクビシン(Paguma larvata)に関する目撃や捕獲、農業被害等の聞き取りを行なった.さらに,市民からも目撃情報を収集し,東京都内におけるアライグマとタヌキ、ハクビシンの 3種の分布を明らかにした.
     自動撮影装置によって水路内 3ヶ所でアライグマの生息が確認された.しかし、アライグマが撮影された地点以外で本種の痕跡や餌トラップによる誘引餌の消失は見られなかった.このため,アライグマは玉川上水中流部の限られた場所に生息している可能性が示唆された.タヌキとハクビシンは痕跡や自動撮影装置によって多くの場所で生息が確認された。また、アライグマとタヌキ、ハクビシンの 3種が全て確認された地点が 1ヶ所あった.生息確認調査,自治体への聞き取り,文献資料を集計した結果,35市区町村でアライグマの生息情報または目撃情報があり、中流部付近ではこれまで記載のなかった小平市でも生息が確認された.本調査によって玉川上水中流部周辺ではまだアライグマの生息密度は低いと予想されたが,今後、生息数の増加に加え,分布拡大する可能性は高く,被害が発生する前に早期の防除対策が肝要であることが示唆された.
  • 小柳 恭二, 辻 明子, 田村 常雄, 奥村 一枝, 前田 喜四雄
    原稿種別: ポスター発表
    セッションID: P-146
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
    会議録・要旨集 フリー
     演者らは 2002年から沖縄県石垣島全域において,カグラコウモリ Hipposideros turpisの分布および生息実態調査を実施している.石垣島では近年,ねぐら周辺での森林伐採や洞口付近のごみの投棄などにより生息環境が悪化していることが予想されている.本研究では洞内での目視およびバットディテクターを用いた調査で積み重ねてきた本種の個体数を基に,これまでに確認されているねぐらの重みづけをし,保全のための基礎データとする.
  • 小澤 一輝, 安藤 正規
    原稿種別: ポスター発表
    セッションID: P-147
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
    会議録・要旨集 フリー
     近年,岐阜県高山市荘川町の山中峠湿原に群生するミズバショウ(Lysichiton camtschatcense)が野生動物の被害をうけて減少したことが問題となっており,2010年にはこの被害がニホンジカとイノシシの採食によるものであることが確認された.山中峠湿原のミズバショウは県の天然記念物に指定されていることから,2011年には高山市および飛騨森林管理署により湿原の一部に電気柵(以下柵)が設置され,その後 2012年からは湿原の大部分を囲うように柵が拡張された.柵の設置期間は 2010年にミズバショウが食害を受けていた時期を参考に毎年 6月中旬から 11月上旬にかけて設置されている.本研究では,野生動物の採食により数を減らしたミズバショウが回復していく様子をモニタリングするために,以下の調査をおこなった.(1)柵の内部に野生動物が侵入していないかを確認するため,柵の内外にそれぞれ 3~4台の自動撮影装置を設置し,野生動物の撮影回数をカウントした.(2)野生動物によるミズバショウの採食の時期と程度を明らかにするため,柵内外の計 12か所に設置した 1m× 3mの固定調査プロット内の全ミズバショウ株について生育状況を調査した.調査は(1),(2)ともに 2011年から 2013年にかけて実施した.
     調査の結果, 2011年および 2012年ともに,柵の設置後は柵内への野生動物の侵入がほとんどなかったことが確認された.またミズバショウ株は,地下部の根茎が野生動物の掘り返し被害を受けると消失してしまうが,地上部が採食を受けても地下部が残っていれば翌年開花・展葉することが明らかとなった.ミズバショウの株数は,柵内のプロットでは増加し,柵外のプロットでは減少した.これらの結果から,山中峠湿原では今後も柵を用いた防除を継続していくことで,衰退したミズバショウが回復していくと考えられる.
  • 小澤 咲久美, 渡邊 千晶, 和久井 諒, 原口 拓也, 米澤 隆弘, 姉崎 智子, 佐々木 剛
    原稿種別: ポスター発表
    セッションID: P-148
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
    会議録・要旨集 フリー
     哺乳類動物は人間との関わり合いが強く,興味関心が集まっている.その中でも,ツキノワグマは被害が出ると必ずニュースや新聞で取り上げられるなど,国民の関心は強いと言える.しかし,危険性や,直接観察の難しさから,研究されていないことが多く,その生態や行動は不明瞭のままである.ツキノワグマ (Ursus thibetanus)は日本国内に生息する哺乳類としては,最大級の大きさを誇る森林性動物である.生息地は本州・四国(九州では絶滅したとされる)で,その中でも現在 5地域の個体群が絶滅の危機にさらされている.森林内におけるアンブレラ種として,保護することにより,生態系ピラミッドの下位にある動植物や広い面積の生物多様性・生態系を保全出来るとされている.しかしながら,逆に農林業被害や人身被害といった問題も存在し,有害獣として捕殺されてしまっている.そこで,本研究では,群馬県ツキノワグマの遺伝的多様性を調査し,その集団構造解析を行うことで,適正管理計画の基礎資料とすることを目的とした.
     本研究ではミトコンドリア DNAの D-loop領域や MHCといった遺伝子配列を決定し,分析を行った.ミトコンドリア DNAでは,6つのハプロタイプを同定した.これは Onishi et.al.(2009)で示された東日本に生息するツキノワグマで同定された 38ハプロタイプの内,E01,E06,E10,E11,E31,E34に該当した.このハプロタイプの地理的分布と集団構造解析から,群馬県適正管理計画で設定されていた人為的な地域個体群(越後・三国個体群と関東山地個体群)とは,異なる境界分布をしていることが示された.これは,現在の適正管理計画の分類ではツキノワグマの自然集団の適切な保全を実施していくために,分布境界線を見直していく必要があると言える.
  • 森部 絢嗣
    原稿種別: ポスター発表
    セッションID: P-149
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
    会議録・要旨集 フリー
     近年,野生獣類の増加に伴い,農林業や自然生態系への被害が増えている.一方で猟師等の捕獲従事者は年々減少しており,一定の捕獲圧を確保することが難しくなっている.そのため,捕獲従事者一人当たりの捕獲効率を上げる手法が求められている.くくり罠は,安価で小型であるために扱いが容易である.しかし,くくり罠による捕獲には獣道を的確に発見し,適切な場所へ罠を設置する高度な技術を必要とする.そのため,捕獲を成功させるまでに時間と労力がかかり,捕獲意欲の減退や被害の増大につながっていた.そこでそれらを解消するために捕獲の初心者でも単独で低コストかつ高効率に獣類をくくり罠で捕獲する「誘引誘導型捕獲法」を開発した.本手法は,誘引された獣類を罠へ誘導し,効率よく捕獲する方法である.
     試験は,2013年 1~ 3月に岐阜県本巣市内の農地に隣接する森林内(A)と森林に隣接する草地(B)で行った.捕獲対象獣はニホンジカ(以下シカ)とした.誘引餌には米ぬかを用い,誘導体は捕獲場所に既存する直径 15 cm以上,全長 2 m以上の倒木を利用した.罠は OM-40型(オリモ製作販売株式会社製)を Aと Bに 1基ずつ設置した.シカの誘引状況の確認および罠を設置する場所を最適化するためにトレイルカメラ(Trophy Cam HD Max 119476C, Bushnell社製)を用いた.手法は次の通りである. ①誘導体(倒木)上,中央部に約 500 mlの米ぬかを撒き,シカを誘引する. ②十分に誘引された後,罠を餌付近の前肢を置く場所に設置した.その結果, Aでは 4日間で 3頭(捕獲効率:0.75頭 /基),Bでは 2日間で 2頭(捕獲効率:1頭 /基)を捕獲した.捕獲個体に雌雄および齢の偏りはなかった.いずれの場所も,同一場所で同一罠での連続捕獲を可能とした.
     なお,本研究は岐阜県森林・環境基金「野生動物総合対策推進事業」によって実施された.
  • 清野 紘典, 中川 恒祐, 宇野 壮春
    原稿種別: ポスター発表
    セッションID: P-150
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
    会議録・要旨集 フリー
     全国的なサルの捕獲数は増加傾向で近年 2万頭 /年に達するが,被害問題は減少傾向になく,分布が拡大する地域もみられる.一方,過去の乱獲によって個体群が分断・消滅している地域があり,無計画な捕獲による個体群への不可逆的な影響が懸念されている.そのため,サルの個体数コントロールでは,群れ単位の総合的な被害管理を推進するとともに,適切なモニタリングに基づき保全を担保したうえで,効果的な被害軽減につながる方法論の検討が求められている.
     保全に配慮した捕獲方法として,サル絶滅危惧個体群では問題個体の選択的捕獲の実践例がある (森光・鈴木,2013).また,効果的な捕獲方法はシカ等で専門家によるシャープシューティングの技術開発が進められている(鈴木 ,2013など).これらの考え方をふまえ,群れの安定的存続を確保しつつ,効率良く被害を減少させ,総合的被害対策を支援する個体数管理の手法を検討して実践した.
     特定計画に則り立案された捕獲計画において,滋賀県の安定的個体群に位置する高レベル加害群 1群 (76頭 )を麻酔銃にて約 35%,25頭を短期間で捕獲した.捕獲対象は,人や集落環境に慣れ警戒心が低く・農作物への依存性が高い,高レベル加害個体とし,該当する個体を群れ内で特定して選択的に捕獲した.捕獲効率の低下を避けるため,捕獲者の存在を認知されないよう工夫し,かつ亜成獣以下の個体および周辺オス,劣位の成獣個体から順に捕獲するよう捕獲管理した.なお,群れ内の社会性を撹乱し分裂を誘発しないよう成獣メスの捕獲は最低限とした.
     捕獲実施後,対象群は分裂せず,群れの加害レベルを低下させることに成功したことから,本法が保全への配慮と効果的な被害軽減の双方に機能する個体数管理の一手法となることが示唆された.本法の適用に必要な条件の検討,捕獲に必要な技術・技能的要件の吟味および実施体制の整備が今後の課題である.
  • 山元 得江, 清野 紘典, 岸本 康誉, 西垣 正男, 美馬 純一
    原稿種別: ポスター発表
    セッションID: P-151
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
    会議録・要旨集 フリー
     ニホンザルの保護管理計画を策定・運用するにあたり,群れの生息状況は基礎的な情報として必要である.限られた予算のなかで費用対効果が高い群れ生息分布調査を実現するため,サル出没カレンダー調査(日誌形式アンケート調査)から,低コストで広域的に群れの生息分布を推定するプログラムを開発し,その実用性が検証されている(清野 他,2011).サル出没カレンダー調査は,既存の分布のみを把握するアンケート等と比較し,行動圏・個体数・加害レベル等が群れごとに推定できるため,群れ管理が必要とされるサルのモニタリングとしては得られる情報が多く,広域に群れが生息している地域では汎用性が高い方法と考えられる.
     福井県は,特定計画の策定に向け,サルの生息状況をモニタリングするため嶺南地域においてサル出没カレンダー調査を実施した.嶺南地域の 2市 5町約 850名に 1ヶ月間一斉にサルの出没を記録してもらい 1825件のサル出没情報を収集した.サル出没情報のうち,群れ情報のみを群れ判別プログラムで分析した後,一部の群れで実施したテレメトリー調査の結果で補正し, 36群の行動圏を推定した.推定された各群れの情報から,群れごとの加害レベルと個体数を推定した.加害レベルを 10段階で評価したところ,大半の群れは 6~ 8レベルにおさまり,個体数は約 1200~ 1600頭と推定された.
     福井県嶺南地域は,連続的な群れの生息分布が確認されている地域ではあったが,群れごとの行動圏と特性がはじめて体系的に明らかにされ,本法が管理計画に資する基礎情報の収集に適していることが示された.また,サル出没カレンダー調査から得られた情報を各地域スケールで GIS解析し,サルの出没や被害状況を可視化した.これらの情報は,被害対策を優先的・重点的に取り組む際の意思決定を支援する資料して活用されることが期待される.
  • 村上 隆広, マケエフ セルゲイ, オレイニコフ アレクセイ, 松林 良太, 増田 泰
    原稿種別: ポスター発表
    セッションID: P-152
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
    会議録・要旨集 フリー
     カワウソLutra lutraは日本国内での絶滅が発表された種である.斜里町ではナショナル・トラスト運動による森林生態系復元の取組が行われており,その一環でカワウソの再導入の可能性も検討されている.一方 IUCNの再導入スペシャリストグループは再導入のガイドラインを示しており,その中で対象種の生息に必要な環境の調査や再導入後に地域経済に及ぼす影響を評価することを掲げている.そこで演者らは,北海道に類似したカワウソ生息地であるサハリンにおいて,行政資料,スペースシャトル地形データ(SRTM-3)等を用いてサハリンにおけるカワウソの分布や主要魚種,地形の特性を評価した.また 2011年~ 2013年にはサハリンにおいて糞や足跡,食痕を調査したほかサケマスふ化場への聞き取り調査を実施した.これらの情報から,サハリンではほぼ全域にわたってカワウソが生息していること,河川や海岸などと多様な環境を利用していること,ふ化場がカワウソ生息地と重複しているもののこれらへの被害はほとんど生じていないことがわかった.サハリンでの調査結果をふまえ,さらに今後必要な検討課題を考察する.
  • 小澤 理恵, 大岩 幸太, 牧野 俊夫, 島村 祐輝, 山本 修悟, 小川 博, 安藤 元一
    原稿種別: ポスター発表
    セッションID: P-153
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
    会議録・要旨集 フリー
     神奈川県厚木市では総延長約 25kmのシカ・サル兼用の広域柵が,2008-2012年に段階的に設置された.このような広域柵は耕作地の周囲に設置される簡易柵と異なり,違い容易に張り替えることはできないし,頻繁な維持管理作業も困難である.本研究ではこうした広域柵の維持管理状況を踏査と聞き込みによって調べた.踏査は 2009~ 2012年にかけて 2週間に 1回の割合で実施し,倒木による破損数,動物による破損数,柵上部にある電気柵への通電の有無,破損箇所の修理状況,サルが枝伝いに柵を越えることのできる樹木(柵から 2m以内の樹木)の数を記録した.柵の管理については市役所と自治会にも聞き取りを行った.
    1)広域柵の設置には地権者の了解が必要なので,柵 25kmの設置を完了するのに 5年を要した.設置費用は 12,000円/m,年間維持管理費用は年間 100円 /mであった.市が管理を地域自治会に委託する折には,月 1回の見回りと年 2回の草刈りが委託条件であった.しかし実際の管理方法は自治会ごとに異なり,倒木や柵のめくれ等が何年も放置されている場所も見られた.
    2)倒木による破損は 0.6ヶ所 /kmの割合で見られた.地権者の伐採許可を得ることができないために,サルが柵を越えることのできる樹木は 78本 /kmの割合で存在し,サルが広域柵を超えられる場所は数多く存在した.柵基礎部分の土砂が流出することによって将来的に倒壊の危険性のあるカ所は 3.7カ所 /kmの割合で見られた.台風のために大規模な修理を要する柵破損カ所は 1.5カ所 /kmの割合で見られた.すなわち,柵メーカーの示す耐用年数は 16年であったが,実際にはその半分の年数も満たないうちに多くの破損が確認されたことになる.
    3)漏電や倒壊のために柵上部の電線に電気が流れていない期間は,ある区間の例では 177日中 44日に及んだ.距離で見ると,多くの調査日において 25kmのうち 2-3kmは通電されていなかった.
  • 池田 透, 島田 健一郎
    原稿種別: ポスター発表
    セッションID: P-154
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
    会議録・要旨集 フリー
     知床半島では,2001年以降断続的にアライグマの侵入情報が得られている.自動撮影カメラによるモニタリングと並行して侵入情報近辺での捕獲作業も継続する中で,2011・2012年には箱ワナによる捕獲も記録されるに至っている.斜里町・羅臼町の町別にみると侵入情報は未だ断続的であり,高密度状況には至っていないことが予想されるが,初記録から 12年が経過した現在,潜伏期を終えて増加期に移行してきていることも想定される.
     侵入状況のモニタリング調査は現在も継続して実施中であるが,ヒグマが高密度で生息している知床半島においては,アライグマの侵入情報が得られても,捕獲を実施する際に誘因餌を用いる従来の箱ワナ捕獲は,ヒグマを人里に引き寄せる可能性があるために,ヒグマが生息していないことが確実と判断される市街中心部以外では実施が困難な状況にある.アライグマは人里周辺を好む動物であり,幸いにして知床半島でもこれまでにアライグマ侵入情報が得られた地域は人里近周辺ではあるものの,今後アライグマが拡大した際には当然ヒグマ生息地域での防除も必要となってくる.
     こうした状況を鑑みると,技術的にはヒグマ生息地域でも適用可能な捕獲手法の検討が急務となっており,アライグマの樹洞等での営巣習性を利用した誘因餌の不要な巣箱型ワナの開発とヒグマ冬眠期間におけるアライグマ探索犬の導入を検討している.現在のアライグマ捕獲手法は,捕獲技術と作業コストの両面において山間地でのアライグマ捕獲には不適であり,新たな捕獲プログラムの策定が必要となっている.今後は,知床半島全域での自動撮影カメラによる侵入状況モニタリング調査をベースに,侵入情報が得られて地域では,ヒグマの生息しない市街地では箱ワナを設置,ヒグマ生息地域では巣箱型ワナを設置して,冬期間にはアライグマ探索犬による探索を実施するプログラムの導入を考えている.
  • 竹下 毅
    原稿種別: ポスター発表
    セッションID: P-155
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
    会議録・要旨集 フリー
     日本各地で野生動物による農林業被害や生活被害が発生し,野生動物と人間との軋轢が社会問題となっている.これまで多くの地方自治体は野生動物問題の対応を地元猟友会に頼ってきたが,猟友会員の高齢化・会員数減少により猟友会員の負担は年々増加しており,従来行われてきた「猟友会に頼った野生鳥獣問題対策」が成り立たない地域や地方自治体も現れてきている.長野県小諸市も例に漏れず,平成 19年に 95人いた猟友会員数は平成 24年には 57人(年齢平均値 62歳,中央値 65歳)にまで減少・高齢化し,今後も減少していくことが予想される.このため,猟友会の負担を減らしつつ被害も減少させる「新たな野生鳥獣問題対策」を構築する必要があった.
     このような状況の中,長野県小諸市では野生動物問題を専門職とするガバメントハンター(鳥獣専門員)を地方上級公務員として正規雇用すると共に,行政職員に狩猟免許を取得させ,ガバメントハンターをリーダーとする有害鳥獣対策実施隊(以下,実施隊)を結成した.
     銃器を必要とする大型獣(クマ・イノシシ)は猟友会員から構成される小諸市有害鳥獣駆除班(以下,駆除班)が主に対策を行い,小・中型獣は実施隊が主に対策を行うという分業体制を敷いた.この取り組みによって駆除班の負担を減少させると共に,被害を減少させることに成功した.
     現在のガバメントハンターの活動内容は,1)有害鳥獣の捕獲・駆除,2)ニホンジカの個体数管理のための捕獲,3)野生鳥獣のモニタリング,3)猟友会と行政との連絡,4)市民への野生動物問題の普及啓発,5)捕獲動物の科学的利用である.
     本発表では,小諸市にガバメントハンターが正規雇用される経緯と活動内容について報告するとともに,今後の課題について議論したい.
  • 釣賀 一二三, 近藤 麻実, 深澤 圭太, 間野 勉
    原稿種別: ポスター発表
    セッションID: P-156
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
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     これまでの研究で,ツキノワグマを対象に体毛を用いた生息密度推定を行う際の遺伝子マーカーの選択やその適切な組み合わせ,またそれらを用いた分析フローが確立されてきた.ヒグマで実施する際にもこのような基礎研究は必須であるが,ツキノワグマで開発された分析フローが比較的大規模な調査(約 600 km2,245トラップ)を対象としているのに対して北海道のヒグマで実施可能な調査規模は中程度(約 250 km2,50トラップ程度)であり,精度の高い推定のためにより事実に即したデータの処理(取捨選択や同一個体とする基準)が必要である.本研究では,既存研究で明らかになったヒグマに関する適切な遺伝子マーカーとその組み合わせを用い,新たに分析フローを確立するとともに,フローに従った試料分析結果を用いて空間明示型モデルによる生息密度推定を行うことを目的とした.2012年度に,上ノ国町内の道有林渡島西部管理区に設置した 51基のヘア・トラップを用いて709試料を回収した.このうちヒグマ毛根が確認された 538試料を対象に 3組(9座位の遺伝子マーカー)のマルチプレックス PCRを実施し,分析を行った.得られたデータを用いて,精度の高い個体識別を目的とした分析波形の判読およびデータ採用に係わる基準について検討した.また,架空の個体創出による過大推定を軽減する目的で,ツキノワグマを対象とした分析フローで採用された同型接合体過多の試料に関する採用基準の見直しを行った.これらの過程を経て作成した分析フローに従ってデータセットを作成したところ, 60頭(オス 27頭,メス 33頭)のヒグマを識別することができた.フローを適応しない場合と比較して識別個体数が 5頭(オス 3頭,メス 2頭)減少し,架空個体の誤認による過剰推定を抑制できる事が期待された.現在,これらの結果を用いて空間明示型モデルによる生息密度推定を実施中である.
  • 田尻 研介, 竹田 謙一, 西村 尚之
    原稿種別: ポスター発表
    セッションID: P-157
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
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     八ヶ岳ではニホンジカ(Cervus nippon,以下,シカとする)の採食圧による高山植物の衰退,消失が報告され始めており,被害実態の把握と適正密度を目標としたシカの個体数管理が求められている.そこで本研究では,八ヶ岳の亜高山帯針葉樹林における長期モニタリングより,シカの採食圧による被害実態を明らかにした.八ヶ岳麦草峠周辺のシラビソ -オオシラビソ混交林で調査を実施した.2010~2012年に実施したスポットライトセンサスより,本地域の平均シカ出現頻度は 2.6 ± 0.3頭 /kmだった.はじめに, ① 2001年 ~2011年にかけて林床にササ以外の植物が優占する林内(NS林)と,ササが優占する林内(S林)にそれぞれ設置した 1haプロット内において,出現した全樹木の胸高直径およびシカの食害の有無が記録されたデータを用いた.各プロット内の全樹木の生存本数および枯死本数から,樹木の死亡率および新規加入率を求め,シカの樹皮剥ぎが認められた樹木本数から剥皮本数割合を明らかにした.そして, ② 2010年 9月,11月,2012年 1月,6月に,採集したシカの糞粒から,シカの摂食食物構成を糞分析法によって明らかにした. ① 2001~2007年および 2007~2011年の NS林における幼木(胸高直径 5cm未満)の死亡率は,それぞれ2.2%,1.7%,新規加入率は1.8%,4.1%だった.一方,S林における幼木の死亡率は,それぞれ16.7%,12.9%となり,同時期の新規加入率(0.1%,0.0%)に比べて顕著に高かった.さらに,2003年,2007年,2011年のそれぞれの調査年までの S林の剥皮本数割合(4.2%,1.3%,19.0%)は, NS林(0.1%,0.3%,1.6%)に比べて有意に高かった(P < 0.01). ②全ての季節で糞中の植物片に認められたササの葉の割合は他の植物種に比べて有意に高く(P < 0.05),年間を通じて 60~70%だった.以上より,S林ではシカの採食圧が森林動態に深刻な影響を及ぼしていることが明らかになった.
  • 島田 健一郎, 池田 透
    原稿種別: ポスター発表
    セッションID: P-158
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
    会議録・要旨集 フリー
     本研究は,日本全国で問題化している外来アライグマ問題の解決に向け,アライグマ侵入初期と対策後期の低密度生息下においても効率的に捕獲できる捕獲技術を開発・運用することを目的とした.
     北海道においては野外からのアライグマの排除を目標に,道や市町村が主体となり捕獲事業が行われている.しかし,対策後期や侵入初期の生息数が少ないエリアでは,一般に使用されているエサを誘引に用いる捕獲方法は,エサ補充や混獲動物の放獣のための見回りコストばかりがかかり,捕獲効率が著しく低下する.そのため,ほとんどの事業では短期間に多くの個体を捕獲するために,比較的生息数の多いエリアだけを選択して捕獲が行われるため,生息数を低減できても,生息数をゼロにできた地域はない.すなわち低密度生息下における効率の良い捕獲方法の開発が急務となっている.
     アライグマは繁殖や休息に樹洞を利用するが,冬季には納屋や倉庫,屋根裏や軒下の人工物を利用することが多いとも言われている.そこでアメリカで販売されているアライグマ用の巣箱をもとに,ワナ機能を持った巣箱型ワナを開発し捕獲可能かを検討した.
     実際にはまず,販売されている巣箱を野外に設置し,実際に利用することを確認したうえで,アライグマが選好的に利用する形状(巣箱入口径・容積)を飼育個体を用いて決定し,次にワナ機能を持たせた試作機を作製して,飼育個体が捕獲可能であることを検証した.
     本発表においては,飼育個体を用いて捕獲が成功した試作機と,アライグマが捕獲されると捕獲実施者に知らせることができるシステムを実際に野外に設置して,捕獲の可否,および箱ワナと巣箱型ワナの捕獲に係るコスト比較を行った.
     本研究の一部は平成 23~ 25年度環境省環境研究総合推進費により実施された.
  • 馬場 稔, 河野 淳一, 遠藤 晃, 土肥 昭夫
    原稿種別: ポスター発表
    セッションID: P-159
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
    会議録・要旨集 フリー
     九州山地では 2011年度から 2012年度にかけてニホンカモシカ特別調査が実施され,2002年度~2003年度の前回特別調査時から危機的な状況が継続していることが報告されている.この調査のなかで,大分県において,2011年 12月から 2012年 10月にかけて 6地点に各 2~ 4台の自動撮影カメラを設置し,ニホンカモシカ生息調査の補完と生息する野生動物のモニターを行った.使用したカメラはフィールドノートII(麻里府商事)で,概ね 1~ 3箇月で電池とフィルムの交換もしくは回収を行った.合計 1191台・日の設置数のうち,電池やフィルムの消耗のため実際に稼働していたのは地点毎に約 50台・日から 240台・日,合計 871台・日であった.撮影された数は 653枚で,そのうち野生哺乳類は 352枚が撮影されていた.
     ニホンカモシカは豊後大野市緒方町の前障子調査地につながる小川内林道でのみ撮影された.最も多く撮影されたのはニホンジカであった.テンの撮影数が多く,アナグマもタヌキと同等もしくはより多く撮影されている.地域によって哺乳類相に若干の違いがみられ,ニホンザルは一箇所のみで撮影された.
     ニホンカモシカの撮影頻度は少なく,唯一撮影された小川内林道では 2012年 6月 25日, 6月 26日,6月 31日の 3例 7枚だけであった.九州山地ではニホンカモシカの分布と生息数に大きな変化がおこっており,自動撮影においても裏付けられる結果となった.自動撮影による調査は,設置場所や設置方法によって大きく結果が異なる.調査はその後も継続しており,以降の結果も含めて報告する予定である.
  • 八代田 千鶴, 森元 萌弥, 中須 真史, 岡本 宏之, 鈴木 正嗣
    原稿種別: ポスター発表
    セッションID: P-160
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
    会議録・要旨集 フリー
     シカによる林業被害軽減のために個体数管理の実施が重要とされており,新たな捕獲技術の開発が求められている.誘引狙撃法は新しい効率的捕獲技術として各地で実施されており,成果を上げつつある.しかし,本手法は狙撃に適した見通しのよい場所が必要であり,森林内での実施は場所が限定されるといった課題も残されている.一方,伐採地または植栽地は見通しがよいこと,餌資源量が一時的に増加しシカの出没頻度が高まることから本手法の実施が可能である.また,被害防止対策として提案されているパッチディフェンスと本手法を組み合わせることで,より効果的な森林再生技術を確立できると考えられる.そこで本研究では,パッチディフェンスを設置した植栽地内において誘引狙撃法を試行し,捕獲成功に必要な条件の整理を目的とした.調査は三重県多気郡大台町内のパッチディフェンスを設置した植栽地(3.2ha)において実施した.植栽地内に給餌場を 3カ所(H1,H2,H3)設置し,60~ 80m離れた地点にそれぞれ狙撃場を設置した.餌はヘイキューブおよび圧片トウモロコシを用い,給餌場に設置した自動撮影カメラを用いてシカの出没状況を記録した.調査は 2013年 2月に実施し,6日間の餌付け作業後に捕獲を実施する工程を 2回繰り返した.H2は日中におけるシカの出没頻度が最も高く,給餌開始後から日数の経過とともに出没時間帯が早くなる傾向がみられた.1回目の捕獲実施後も同様の傾向が確認された.その結果,H2では 2回の捕獲実施で 3回シカが出没し,合計 6頭の繰り返し捕獲に成功した.一方,H1および H3では日中におけるシカの出没がほとんどなく,H1では捕獲成功に至らなかった.これは,狙撃場の配置がシカの出没に影響したものと考えられた.植栽地において誘引狙撃法を実施する場合は,シカの警戒心を高めないようにパッチディフェンスなどの構造物を利用して射手を配置するなどの検討が必要であると考えられた.
  • 望月 翔太, 村上 拓彦
    原稿種別: ポスター発表
    セッションID: P-161
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
    会議録・要旨集 フリー
     野生動物の生息空間を構成する景観構造は,動物の生息地利用に大きく影響する.生息地利用は,動物の生息地選択や環境選好性の結果であり,これらはスケールの定義により異なる事が明らかとなっている.近年,深刻な問題となっている野生動物由来の農作物被害は,動物の生息地選択の結果である.つまり,この問題に適切に対応するためには,スケールの概念を考慮した被害対策が必要になる.本研究では,新潟県新発田市に生息する野生ニホンザル(Macaca fuscata: 以下,サル)の群れを対象に,サル由来の農作物被害に対する要因分析を行った.サル由来の農作物被害発生地点(n=312)と未発生地点(n=312)の情報を使用した.被害に関係する環境要因として,広葉樹林の割合,針葉樹林の割合,林縁形状,草地の割合,住宅地の割合,林縁からの距離,広葉樹林からの距離,針葉樹林からの距離,草地からの距離,住宅地からの距離,水域からの距離,道路からの距離,防護柵の個数,警報装置の個数,防護柵からの距離,警報装置からの距離の 16変数を選択した.本論では,複数の群れに着目し,群れごとに農作物被害の発生要因をランダムフォレス法によって評価した.これまでの研究から,群れを考慮しない場合,農作物被害に発生に寄与する重要な環境要因は,広葉樹林の割合,林縁形状,草地の割合,住宅地の割合,針葉樹林の割合でることがわかっている.また,最も農作物被害を説明する空間スケールは被害地点から半径 1000m内の景観構造であることも確認されている.一方,農作物被害の形態は,群れの加害履歴によって様々である.つまり,景観の組成や形状からは表現できない群れ特有の空間スケールが存在するかも知れない.本論では,新潟県新発田市の地域個体群において一般化された情報を基に,群れごとの農作物被害を説明する空間スケールからニホンザル加害群の資源選択におけるスケールニッチを評価する.
  • 堀野 眞一, 千田 啓介
    原稿種別: ポスター発表
    セッションID: P-162
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
    会議録・要旨集 フリー
     2013年 3月 25~ 28日に岩手県五葉山地域においてニホンジカの空中センサスを実施した.調査対象は五葉山山頂をほぼ中心とし,北を北緯 39度 18分,南を北緯 39度 1分,西を国道 340号線等,東を海岸線で囲まれた約 880km 2の地域である.航空機は BELL412型ヘリコプタ 2機を用いた.ヘリコプタはあらかじめ決められた調査ライン上を地上からの高度約100m,速度約 50km/hで飛行した.調査員はヘリコプタの左右に 2人ずつ搭乗し,飛行ラインの左右それぞれ約 100m幅の中で発見したシカについて記録した.記録項目は発見時刻,シカグループの個体数,性別,成獣・幼獣の別,移動している場合はその方角などである.結果の統計処理上必要な独立性を確保するため,左右の同じ側に乗った調査員の間での情報交換を一切禁じた.得られた結果は Petersen法により処理し,推定生息密度を求めた.その密度と調査対象面積から算出した生息頭数は 4996 ± 749頭(90%信頼限界)であった(四捨五入して 4250~ 5750頭と公式発表).この調査は過去にも同様の方法で 4回実施している.それらによる推定生息頭数はいずれも過少評価である可能性が高いが,調査方法を統一しているため相対的な比較をすることは可能である.過去の調査結果は,1993年 4500~ 6300頭,1997年 3000~4800頭,2000年 3200~ 5000頭,2007年 3300~ 4600頭であり,1993年から 1997年にかけてやや減少した後は大きな変化が認められないまま推移してきたこの地域の生息個体数が,最近になって増加傾向にあることがわかった.
  • 木戸 文香, 城ヶ原 貴通, 黒岩 麻里, 越本 知大, 望月 春佳, 中家 雅隆, 村田 知慧, 三谷 匡, 山田 文雄
    原稿種別: ポスター発表
    セッションID: P-163
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
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     トゲネズミ属Tokudaiaは沖縄島,徳之島及び奄美大島のみに生息する我が国の固有属で,島ごとに独立種を形成し,国指定天然記念物と環境省 RDB絶滅危惧Ⅰ類に指定されている.しかし,その生息状況把握を含め,具体的保全策は図られていないのが現状である.そこで,本属 3種の生息状況と遺伝的多様性について検討した.本属 3種の生息状況は島により異なるが,とくにオキナワトゲネズミT. muenninkiは沖縄島北部(やんばる)の森林の数平方 kmの範囲にしか生息が確認されなかった.また,トクノシマトゲネズミT. tokunoshimensisはこれまで知られていた生息地点においても生息がほとんど確認されず,特に島南部での生息情報は少なかった.一方,アマミトゲネズミT. osimensisはここ数年生息数が回復し安定した生息状況になってきており,マングース防除事業による捕食圧低下の効果と考えられる.更にこれらを対象に実施した mtDNA多型解析の結果,オキナワトゲネズミでは 1個のハプロタイプしか認められなかった一方で,アマミトゲネズミでは 12個のハプロタイプが検出された.しかし,アマミトゲネズミにおけるハプロタイプのネットワーク樹分析によると,中間型のハプロタイプが多数消失していることや,特定のハプロタイプの検出頻度が多いことから,過去に個体数減少を経験したが現在は回復傾向にあることが示唆された.さらに,核 DNA分析において,オキナワトゲネズミでは多様性が低く,アマミトゲネズミでは比較的高いことが示された.これらの結果から,オキナワトゲネズミは集団サイズが小さく,遺伝的多様性を消失しており,環境変動に十分適応できない可能性が高いため,早急の保護対策が必要と考えられる.また,トクノシマトゲネズミにおいても,生息数減少や遺伝的多様性低下を起こしている可能性が高く,同様の対策が求められる.
  • 立木 靖之, 吉田 剛司, 日野 貴文, 金子 正美, 赤松 里香
    原稿種別: ポスター発表
    セッションID: P-164
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
    会議録・要旨集 フリー
     近年,野生動物調査に使用する GPS首輪は衛星電話の回線を利用してデータを転送し, PC上でデータを閲覧できるものが開発されてきた.また技術革新により,GPSの測位性能も向上していると考えられる.そこで本研究では,GPS首輪を用いて林内において測位試験を実施し,従来型と最新型の測位精度(正確度:絶対座標とのずれ,精密度:測位点の分散)を評価し,測位精度に影響を及ぼす要因について考察した.
     実験は酪農学園大学内の林内で行った.大学構内及び周辺の上空が開放した地点で VRS-RTK測量を用いて絶対座標を求め(RMS誤差 4.2cmと4.6cm),これを元に測量を行い,林内に落葉広葉樹と針葉樹の複数の林相を含むように座標既知点を 6点設定し,テストサイトとした(以下「RGT(Rakunogakuen GPS Test-sight)」とする).「4500S」実験に用いた GPS首輪は従来型の GPS_4500S(以下,とする)及び最新型のGPS_IridiumTrackM2D(以下,「Iridium」とする.共に Lotek社製)である.これらを座標既知点に同時に設置し,15分毎に 1回の測位を 24時間実施して比較した.実験は 2012年 9月に実施した.
     実験の結果,両首輪ともに測位成功率は 100%であったが,4500Sの正確度は 6地点の平均で3.4m,精密度は 16.7mとなった.一方,Iridiumの正確度は1.9m,精密度は 8.8mと 4500Sよりも良好であった.GPSの精度として一般的に利用される 2DRMS値でも Iridiumの精度が有意に精度が高く(P<0.01),4500Sが 37.10であったのに対し,Iridiumは 19.65であった.各地点の上空の開空度と精度には正の相関がみられ,Iridumでは 0.58となり,上空の開空度が測位精度に影響を与える要因のひとつであることが考えられた.
  • 六波羅 聡, 鈴木 義久, 川本 芳
    原稿種別: ポスター発表
    セッションID: P-165
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
    会議録・要旨集 フリー
     三重県に生息するニホンザルの生息範囲は,ほぼ連続的に全県におよび(特定哺乳類生息状況調査報告書 (平成 23年),環境省),その農作物被害額は毎年全国でもトップクラスにある(全国の野生鳥獣による農作物被害状況について,農林水産省).今回は,三重県内に生息するニホンザルのオスの Y遺伝子検査とメスのミトコンドリアDNA(mtDNA)の第1可変域の検査から,三重県内のニホンザルの分布について,性特異的な標識遺伝子の地理的な分布構造を明らかにし,マネジメントに利用する基礎データを収集することを目的とした.また,オスについては,和歌山県で野生化している外来種であるタイワンザル遺伝子の拡散状況のモニタリングも目的とした.
     オスは 83個体について Y染色体上のマイクロサテライト DNA標識3座位の多型を検査し,メスは64個体について mtDNAの D-loop第 1可変域の塩基配列の分析を行った.
     オスのY染色体は 15タイプに分類された.複数のタイプ内に広範囲の個体が含まれており,多様なタイプが広域に分布していることが確認された.タイワンザル由来とみられるタイプは確認されなかった.メスの mtDNAは 26のハプロタイプに分類され,亀山市周辺を境に大きく南北 2グループに分類された.過去に D-loop第 2可変域の分析で大きく 2グループに分類された傾向と同じであった(Kawamoto et al. 2007).このうち北のグループは本州系統の遺伝子であると考えられる.南のグループは紀伊半島固有の遺伝子タイプで,松阪市,大台町付近を中心に周辺へ拡大したことが予想できた.
     今後,分析個体を増やして,さらに群れごとに細かい遺伝的構造を明らかにしていくとともに,タイワンザル遺伝子の拡散状況のモニタリングも行っていく予定である.
  • 金 炫, 小川 博, 安藤 元一
    原稿種別: ポスター発表
    セッションID: P-166
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
    会議録・要旨集 フリー
     希少動物の保全については各国で多くの対策が展開されている.しかし域外保全された飼育下個体を野生に復帰させる再導入の事例は限られており,日本において野外への再導入にまで至った種類は鳥類(コウノトリとトキ)だけである.再導入事業は韓国や中国でも行われており,その進捗状況は種類によって様々である.本研究では韓国におけるツキノワグマ,キツネ(韓国では希少種),コウノトリ,タンチョウ,トキの 5種,中国におけるシフゾウをとりあげ,事業の現状と諸問題について比較検討した.韓国で絶滅危惧種に指定されている動物は哺乳類では 20種,鳥類では 61種であるが,2006年に政府が策定した「絶滅危機種の増殖・復元総合計画」(2006-2015年度 )の支援対象は,哺乳類が 7種,鳥類が 1種であった.日本の場合と異なり,事業が進んでいるのは哺乳類である.智異山で行われているツキノワグマの再導入事業は 10年以上の実績があり,人慣れをはじめとする放獣に伴う諸問題も確認されている.鳥類ではコウノトリが飼育下で 100羽以上に増えるなど増殖は進んでいるが,放鳥にまでは至っていない.野生復帰の事業を進めている団体は大学から準政府機関まで様々であり,国や自治体から支援を受けている場合が多かった.事業の殆どには地域住民が深く関わっていて,両国とも自治団体は農家との契約,名誉保護員制度,認証制度を通じて生息環境づくりや地元商品のブランド化を図っていた.中国のシフゾウについては,野生復帰を目的とした大.(ダーフェン)麋鹿国家級自然保護区(面積 700km 2)が 1986年に開設され,英国から返還された 39頭をファウンダーとして放された.現在は中国内の複数箇所において再導入が進められている.
  • 小野 英理, 鈴木 樹理, 石田 貴文
    原稿種別: ポスター発表
    セッションID: P-167
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
    会議録・要旨集 フリー
     霊長類では繁殖期にメスの臀部性皮に変化の見られる種がある.その外見上の変化は腫脹と色変化に分けられ,性ホルモンの調節を受けると考えられるが,依然として機序は不明である.我々はマカク性皮の紅潮に着目し,色変化をもたらす組織学的背景を調べた.非繁殖期(2011年 7月 , 2012年 8月)と繁殖期(2011年 10月 , 2012年 11月)に京都大学霊長類研究所のアカゲザル Macaca mulatta16頭とニホンザル Macaca fuscata15頭を対象とし,測色計によって性皮色変化を評価した(CIELab色空間:明暗軸L*,赤緑軸a*,黄青軸b*).平均的にニホンザルの性皮色はアカゲザルに比べて暗く(t検定,P<0.01)かつ赤かった(P<0.05).皮膚色変化はヒトで調べられており血管と色素が影響する.そのため測色の直後に性皮を採取して組織切片を作製し,HE染色と Fontana-Masson染色を行った.画像解析により表皮付近の血管数とメラニン量を計測し色値との相関を調べた(ピアソンの相関係数).その結果,アカゲザルは非繁殖期に血管数とL*(r=-0.84, P<0.001),a*(r=0.81, P<0.001),繁殖期に血管数とa*(r=0.57, P< 0.05)の相関が見られた.一方,メラニン量と a*の相関が非繁殖期のみに見られた(r=-0.56, P<0.05).ニホンザルでは繁殖期に血管数とL*(r=-0.59, P<0.05),b*(r=0.54, P<0.05)の相関が見られた一方,非繁殖期では相関は見られなかった.結果から血管数と色値の相関に種差が認められた.先行研究から a*はヘモグロビンの酸化程度,b*は血液量に影響されることから,近縁なマカク2種において異なる血管動態が性皮色の差異に影響することが示唆された.
  • 小林 恒平, 淺野 玄, 羽田 真吾, 松井 基純
    原稿種別: ポスター発表
    セッションID: P-168
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
    会議録・要旨集 フリー
     近年,野生動物の個体数管理の手法として,繁殖の成功に不可欠な物質を標的とした抗体を産生し,繁殖を抑制する避妊ワクチンが注目されている.避妊ワクチンの野外適用には,効率的に多数の個体に投与できること,種特異性が高く他種動物に影響がないことが求められる.我々はこれまで,卵子の周囲に存在し精子の結合部位となる透明帯について,ブタのアミノ酸配列に基づく合成ペプチドをニホンジカに投与し,ブタ透明帯に特異的な抗体を産生されることを示した.本研究では我々が同定したニホンジカ透明帯のアミノ酸配列に基づいて透明体を模した合成ペプチドによる抗体産生を試みた.
     エゾシカ透明帯のアミノ酸配列の中で,種特異性が期待され,精子との結合に関与すると考えられるエピトープを基に,18アミノ酸残基からなる合成ペプチドを設計した.設計した合成ペプチドにキャリア蛋白(KLH)を結合したものをウサギに免疫し,抗体を作成した.免疫は 2週間間隔で4回行い,1回につき合成ペプチド 100 μ gとアジュバンド(TiterMax) 100 μ lを投与し抗血清を得た.合成ペプチドに対する抗体の透明帯への結合能およびその特異性を検証するために,合成ペプチド投与によるウサギへの免疫によって得られた抗血清を一次抗体として用い,ニホンジカ,ウシおよびブタの卵巣の凍結切片を用いた免疫染色を行った. 産生された抗体は,ニホンジカの透明帯を認識し結合する事が明らかになった.一方,ウシおよびブタの透明帯に対する結合は認められず,種特異性が示された. 本研究で用いたニホンジカ透明帯の一部の配列に基づく合成ペプチドは,ニホンジカの透明帯に特異的に結合する抗体の産生を誘導することがわかった.また,ウサギへの投与で透明帯に結合する抗体が得られたことから,ウサギを用いた抗体作成と免疫染色による機能検査が,避妊ワクチンの候補抗原の選択に有用であることがわかった.
  • 石黒 龍司, 清水 慶子
    原稿種別: ポスター発表
    セッションID: P-169
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
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     クロキツネザル(Eulemur macaco)はマダガスカル島のみに生息する昼夜行性の曲鼻猿類である.彼らはオスが漆黒,メスが褐色の毛色という雌雄で大きく異なる毛色を呈することが知られている.しかしながら,彼らの毛色の性差が何に起因するものなのかについては解明されていない.本種と同じように雌雄で異なる毛色を呈するものに多種の鳥類があげられるが,彼ら鳥類のオスの鮮やかな羽色には性ホルモンが強く関わっていることが知られている.そこで本研究では,飼育下クロキツネザルを用いて,さまざまな性ステロイドホルモン動態を調べることにより,本種の毛色と性ホルモンとの関係性を明らかにすることを目的とした.研究対象には成獣オス,成獣メスおよび去勢により体色が漆黒から褐色に変化した成獣オスの 3つのパターンの毛色の個体を用いた.性ホルモン測定のためのサンプルとして対象個体の糞を採取し,糞中に含まれるエストロゲン,プロゲステロン,テストステロン等の性ステロイドホルモン代謝産物動態を酵素免疫測定法にて調べ,毛色と性ホルモン動態の関係性を考察したので報告する.
  • 辻 知香, 横山 真弓, 淺野 玄, 鈴木 正嗣
    原稿種別: ポスター発表
    セッションID: P-170
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
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     野生動物の繁殖特性は,個体群動態の把握の基盤情報であるため,適正管理を実施していく上で不可欠である.科学的根拠に基づく繁殖情報が乏しかったニホンイノシシについて,演者らは,これまでに妊娠率や胎子数,繁殖時期という基本的な特性を明らかにした(辻 2013,Tsuji et.al.2013).その中で,繁殖時期の算出に用いる胎齢推定において,多胎動物特有の同腹胎子間での胎齢の違いを整理することが課題として挙げられた.そこで本研究では,一腹内の胎齢のばらつきの幅を明らかにし,胎齢推定の精度を検討することを目的とした.
     材料は,2004~ 2013年に兵庫県で捕獲された妊娠個体 46頭から得られた胎子 187頭を用いた.まず胎子体重を計測し,推定式T = P1/3/0.097 + 21.1379(T:胎齢,P:胎子体重)にて胎齢を算出した.次に一腹内の胎子体重の最小値と最大値から,一腹内の胎齢の差を算出した.また胎子の各成長段階の指標となる外部形態の観察を行った.
     その結果,一腹内の胎齢の差は 0~ 10日であり,1例が 16日であった.胎齢差が 8日以上あった 5例では,最小胎子体重がそれ以外の胎子体重よりも極端に小さかった.ただし胎子の外部形態の観察では,一腹内で成長段階にずれはほとんど認められなかった.また一腹内の胎齢差と妊娠期間は有意に相関し(P<0.01),妊娠後期ほどその差が大きくなった.
     以上より,本種では,同腹胎子の体サイズのばらつきにより,厳密な胎齢算出は難しいことが明らかとなった.とくに急激に体重が増加する妊娠後期は,個体差が大きくなりやすいため,胎齢のばらつきが大きくなることが示唆された.ただし体サイズが小さい個体でも成長遅延は認められなかったことから,現段階では,全ての胎子を用いて平均胎齢の算出をするべきと考える.そのため算出される受胎日や出産日にも幅を持たせる必要がある.
  • 平井 仁智, 石黒 龍司, 島原 直樹, 岡田 彩, 清水 慶子
    原稿種別: ポスター発表
    セッションID: P-171
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
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     オランウータンは,東南アジアのボルネオ島とスマトラ島のみに生息する樹上性の大型類人猿である.生息している島によって,ボルネオオランウータン Pongo pygmaeusとスマトラオランウータン Pongo abeliiの 2種に分けられる.雌の寿命は,53歳以上で,霊長類の中では最長の 6.1~ 9.3年間隔で子どもを出産し,母親が単独で子を育てることが報告されている.このことが主要因となり,個体数の減少が始まると歯止めをかけるのが難しい.野生下では 50歳での出産報告があるにも関わらず,飼育下では,40歳を過ぎると年老いた個体とされているため繁殖に用いられない.この理由の一つとして,いつ繁殖不可となるのかの基礎データがないことがある.また,本種においては妊娠した個体や若い個体を対象とした生殖生理学的研究はあるが,老齢個体を対象とした研究はほとんどない.
     現在,日本国内においてボルネオオランウータンは 12園館で 34頭( ♂ 19頭, ♀ 15頭),スマトラオランウータンは 5園館で 11頭( ♂ 5頭, ♀ 6頭)が飼育されているが,本研究では飼育個体数が多いボルネオオランウータンを研究対象とし,2012年 8月~ 9月に多摩動物公園にて,雌ボルネオオランウータン 4個体(推定 57歳,47歳,推定 42歳,39歳)を対象として糞尿の採取をおこなった.酵素免疫測定法により,糞尿中性ホルモン代謝産物を測定し,年齢不明の個体の生殖状況の推定が可能になり繁殖計画の基礎データとなることを目的として,加齢に伴い変化する生殖内分泌動態について考察をおこなったので報告する.
  • 片岡 政喜, 山﨑 晃司, 松山 薫, 正藤 陽久, 木村 聡志, 小池 伸介, 中島 亜美, 根本 唯, 清水 慶子
    原稿種別: ポスター発表
    セッションID: P-172
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
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     ニホンツキノワグマ Ursus thibetanus japonicusは,6~ 8月に交尾期を迎え,4~ 5ヶ月の着床遅延を経て,冬眠に入る 11月~ 12月に着床が起こることが知られている.しかし,このユニークな繁殖生態のメカニズムについて詳細は分かっておらず,未だ謎が多い.着床遅延中の生理学的メカニズムの解明にはホルモン動態による知見が必要となるが,野外において継続的な採血は難しく,また,採取者にも危険が及ぶ可能性が高い.飼育下においても同様であり,長期的な採血は動物への負担にもなりかねない.したがって,これらの研究を進める上では非侵襲的なホルモン測定が求められる.そこで本研究では,着床遅延における内分泌学的基盤の解明を目標とするが,まずはじめに,ツキノワグマにおける非侵襲的なホルモン測定系の確立を目指すことを目的として実験を行った.今回は動物園から提供して頂いたサンプルを用いて,尿糞中性ステロイドホルモン代謝産物を測定した.また,野生個体由来の血中性ステロイドホルモンも測定し,比較の対象とした.
     対象個体は,よこはま動物園ズーラシアで飼育展示中の 2頭の成熟雌と日立市かみね動物園で飼育展示中の成熟雌個体の計 3匹である.これらから得られた糞および尿を用いて,尿糞から性ステロイドホルモン代謝産物を抽出し,尿糞中のエストロゲン代謝産物(E1C)とプロジェステロン代謝産物(PdG)を酵素免疫測定法により測定した.血液については,血中のエストラジオール ‐17β(E2)とプロジェステロン(P4)濃度を同じく酵素免疫測定法により測定した.
     これらの結果から,飼育下ニホンツキノワグマの尿糞を用いて性ステロイドホルモン代謝産物の測定が可能であることが分かった.また,野生個体の血中性ステロイドホルモン動態との比較を行ったので,その結果を報告する.
  • 峰本 隆博, 淺野 玄, 森 孝之, 小林 恒平, 鈴木 正嗣
    原稿種別: ポスター発表
    セッションID: P-173
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
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     【はじめに】特定外来生物のマングースは,大規模な防除事業により沖縄島北部や奄美大島などでは低密度化を達成することに成功した.その結果,罠による捕獲効率が低下し,新たな個体数抑制手法の開発が求められている.われわれは,免疫学的に繁殖を抑制する避妊ワクチン開発のための研究を行ってきた.前大会では,抗原候補として着目している本種の卵透明帯蛋白(ZPC)の塩基配列を解読し,マウスとヒトのZP3,イヌ,オコジョおよびネコの ZPCの配列との相同性,加えて同配列中の精子卵結合部位のアミノ酸配列における相同性の比較結果を第一報として報告した.本大会では,精子卵結合部位のアミノ酸配列を元にして合成したタンパク質を用いてウサギへの免疫接種を行い,精製したポリクローナル抗体を ELISA法によって確認した結果などを報告する.
    【方法】われわれの研究グループが明らかにしたマングース ZPC完全長配列(1,336bp)中の精子卵結合部位と考えられるアミノ酸配列 (23AA)とその直後のアミノ酸配列 (5AA)を元にして,それぞれ8AAの共通部分を持つ 2種類の合成タンパク質 A,B(共に 19AA)を作成した.これらをそれぞれウサギ 2羽に,開始日を 0日目とし,0,14,28,42日目に接種した.また,各接種前に採血して得られた血清を用い,合成タンパク質 A,Bに対する抗体を検出するために ELISA法を行った.
    【結果・考察】合成タンパク質 Aを接種したウサギ 2羽,Bを接種したウサギ 1羽において有意な抗体価の上昇が認められた.よって,合成タンパク質 A,B共にエピトープ部位を含み,抗原候補として有用であるものと思われた.今後,最終の免疫接種を行って得られた血清を用いてマングースおよび他種の野生動物の卵透明体に対する免疫組織化学を実施し,合成タンパク質 A,Bのワクチンとしての有効性および種特異性を確認する予定である.
  • 淺野 玄, 峰本 隆博, 小林 恒平, 鈴木 正嗣
    原稿種別: ポスター発表
    セッションID: P-174
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
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    【はじめに】アライグマは防除実施計画の認定・確認が最も多い特定外来生物であるが,わが国では根絶を達成しえた地域はまだない.その一因は,農作物被害の防除を目的とした箱罠捕獲が中心となっている地域が多く,計画的・効率的な個体数管理が実現されていないためであろう.この現状を打開する一助として,本種の効率的な個体数抑制のため,捕獲をすることなく免疫学的に繁殖を抑制しうる経口避妊ワクチンの開発に向けた基礎研究を行ってきた.とくに,抗原候補として受精に関与する卵透明帯(Zona pellucida; ZP)蛋白に着目しており,本大会ではその塩基配列の解読結果や今後の課題を報告したい.
    【方法】既報のネコ目(イヌ,ネコ,マングース,オコジョ)における ZP蛋白の 1種である ZPCの塩基配列を基にプライマーを作成し,アライグマの卵巣を用いて RT-PCR法を行った.さらに RACE法によりアライグマの ZPCの完全長配列を解読し,既報の他種(イヌ,ネコ,マングース,オコジョ,マウス,ヒト)の同蛋白塩基配列との相同性を比較した.また,同配列のうちで精子卵結合部位と考えられるアミノ酸配列 23AAを解明して他種との相同性も比較した.
    【結果・考察】アライグマの ZPC完全長配列 1,279bpが明らかになった.また,同配列における他種との相同性は,イヌ86.4%,ネコ82.9%,マングース86.4%,オコジョ92.2%,マウス72.2%,ヒト78.5%であった.精子卵結合部位のアミノ酸配列 23AAでは,イヌ19AA,ネコ11AA,マングース16AA,オコジョ18AA,マウス4AA,ヒト 8AAでのみ一致し,同部位はワクチン抗原として種特異性を有しているものと考えられた.今後は,in vivoによる避妊効果および同所性に生息する在来他種への影響の評価,野外での効果的な投与方法などについても検討する必要がある.
  • 毛利 恵子, 清水 慶子
    原稿種別: ポスター発表
    セッションID: P-175
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
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     Dehydroepiandrosterone-Sulfate(DHEAS)は主に副腎から分泌され,ヒト血中に最も多く存在するステロイドホルモンである.
     DHEASはテストステロンやエストロジェンの前駆物質であり,ヒトでは Adrenarcheの発現,老化時の性ホルモンの補充,また,神経ステロイドとしての役割も担っていると報告されている.さらに,ヒト血中 DHEAS量は新生児期に最も多く,その後劇的に減少するが,Adrenarcheの発現に伴い再び増加,20代から 30代にピークを迎え,老化に伴い緩やかに減少することが知られている.しかし,ヒト以外の霊長類では DHEASの役割やその機能に関して確かな結論は得られていない.また,これまでヒト以外の霊長類の DHEAS量測定は血中放射免疫測定法が主で,そのため,採血ができない野生個体では測定も不可能であった.さらに,サンプル採取に伴うストレスにより DHEAS量の変化も考えられ,非侵襲的な測定法の確立が求められる.そこで,ELISAによる糞中尿中 DHEAS測定法の確立を目的として実験をおこなった.
     3頭の成熟メスニホンザルに,DHEASを投与し,その後経時的に血液,尿,糞を採取,それらのDHEAS量を測定した.ELISAは DHEA-3-Succinate-BSAのウサギ免疫抗体と DHEA-3-Glutarate-HRPを用いた競合反応によっておこなった.
     その結果,本法によりニホンザル尿中糞中の DHEAS量が測定可能であることが分かった.また,糞中尿中の測定値は血中の DHEAS量とよく相関していた.これらのことから,本法を用いてヒト以外の霊長類の DHEASの役割や機能についての研究が進むことが期待される.
  • 野口 裕美子, 細井 栄嗣, 田戸 裕之
    原稿種別: ポスター発表
    セッションID: P-176
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
    会議録・要旨集 フリー
     有蹄類の個体群動態の予測において,繁殖率や死亡率などに影響を及ぼす栄養状態の把握は非常に重要であり,個体群の栄養状態を知ることで,その個体群が生息する環境の質を知ることができる.その指標としては脂肪の蓄積が主に用いられる.餌資源が不足したとき,脂肪の動員は皮下脂肪,腹腔内脂肪,骨髄内脂肪の順に起こることから,腎周囲脂肪指数(以下RKFI),大腿骨骨髄内脂肪指数(以下FMFI)が利用される.これらの指標は捕殺することで栄養状態が判断できる指標で精度も高いが,捕殺することのできない個体群では利用できない.
     それに対して,血液などの生化学的分析によって算出された指標は捕殺することなく栄養状態を判断することが可能であると考えられる.そして,脂肪蓄積量を利用した指標と同様,信頼に足るものとして約束されてきた.しかしながら,これらの手法による栄養状態の判断は飼育下の個体の制限した条件下での実験で精度を実証しているものがほとんどである.そのため,野生下の個体の栄養状態を推定する際に利用した時の有効性の範囲が不明瞭である.
     そこで本研究では,野生個体群である山口県西部に生息するニホンジカ Cervus nipponの雌の成獣において,血清成分を利用することで,栄養状態をどの程度まで判断することが可能か,血清成分の指標の有効性の範囲の検討を目的とした.本大会では,血清成分である総タンパク,アルブミン, A/G比,遊離脂肪酸,ケトン体,尿素態タンパクと,体重,RKFI, FMFIとの関係を解析した結果を報告する.
  • 櫻井 裕太, 岡松 -小倉 優子, 小林 万里, 斉藤 昌之, 木村 和弘, 角川 雅俊, 白木 雪乃, 高井 秀徳
    原稿種別: ポスター発表
    セッションID: P-177
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
    会議録・要旨集 フリー
     アザラシの寒冷環境における体温保持には皮下脂肪による熱放散の抑制が有効であるとされており,成獣は 4cm以上の厚い皮下脂肪を蓄積する.しかし,ゴマフアザラシ ( Phoca largha: 以下,本種 ) の新生児 は,流氷上へ産み落とされるため出生に伴い 40度弱の寒冷曝露を受けるが,皮下脂肪は 1cm未満と薄い.そのため,十分な断熱効果を得られていないと考えられ,発熱により体温を保持している可能性が推察された.そこで本研究では,寒冷環境で発熱を行うのに有効である,褐色脂肪組織 (BAT) に注目し,本種における BATの存在を明らかにすることを目的とした.さらに,他の大型哺乳類のBATは成長に伴い退縮していくことから,本種の成長に伴う BATの有無の変化を知ることにより,成長に伴う体温保持機構を考察した.本種の新生児,幼獣,成獣それぞれ 3頭を解剖した結果,頸部,腋下,肩甲骨間,心臓周囲,腎周囲,鼠径部には,皮下脂肪よりも褐色の脂肪組織が存在した.これらの組織において,HE染色,ウェスタンブロット法による Uncoupling protein 1 (UCP1) タンパク質の検出及び UCP1mRNAの検出を行った.HE染色の結果,全ての個体の全ての部位で BATの特徴である多房性の細胞が存在したが,腎周囲及び鼠径部は,他の組織に比べて脂肪滴が肥大していた.さらに,新生児の頸部,腋下,肩甲骨間,心臓周囲のみで UCP1タンパク質が検出されたが,幼獣及び成獣はどの部位からも UCP1タンパク質は検出されなかった.これらのことから,本種の新生児にはBATが存在し,BATの発熱により出生に伴う寒冷曝露から体温を保持している可能性が示唆された.さらに,新生児以外の個体では UCP1タンパク質が検出されていないことから,成長に伴い体温保持機構を発熱から熱放散の抑制に変化させていると推測された.
  • 豊田 有, 清水 慶子
    原稿種別: ポスター発表
    セッションID: P-178
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
    会議録・要旨集 フリー
     京都市嵐山で餌付けされているニホンザルでは,出産が何年も見られていない高齢個体であっても,頻繁に交尾行動を行う個体が観察される.これらの交尾行動は,加齢に伴う生殖機能の衰えから,繁殖に結びつく可能性が低いと考えられる.そこで本研究では,高齢個体に見られる交尾行動と内分泌動態との関連について解析したので報告する.
     嵐山E群の高齢個体(25才以上) 13個体を対象に,交尾行動の観察および糞サンプルの採取を行った.観察期間は 2012年 10月 30日から 12月 30日までの 61日間で,対象個体の発情兆候,交尾栓や交尾行動の有無,交尾行動のパートナーや射精の有無をアドリブ方式で記録すると同時に,10分おきのスキャンサンプリングを行い,視野にいる対象個体の行動も記録した.また,採取した糞サンプルから,EIA法により糞中性ホルモン代謝物である Estrone conjugates (E1C)と Pregnanediol glucuronide (PdG)量を測定し,これらのホルモン動態と行動観察のデータを併せて関連性を検討した.
     これらの結果,3個体(32才,32才,26才)で交尾行動が観察され,別の 1個体(33才)では交尾栓が確認された.これらの 4個体の糞中性ホルモン動態の変動については,いずれの個体においてもE1C,PdG値ともに緩やかで,排卵の有無は推定できなかった.また,観察された交尾行動は,E1Cが高値を示している時期にまとまって観察されていた.さらに,E1C値の上昇に伴う交尾パートナー数の増加,同性愛行動やオスへのマウントなどの交尾行動以外の性行動が長期間観察されるなどの傾向もみられた.
     これらのことから,高齢になり明確な排卵周期がなくなることが,交尾行動やその他の性行動の発現に影響を与えていることが考えられた.今後,高齢でも交尾行動を示さない個体との比較や,加齢に伴い変化する他種のホルモンの測定を行い,高齢個体の性行動についてより詳細に分析する必要があると考えられる.
  • デイアス・サッコファン ホセ, 伊澤 雅子, 今井 秀行
    セッションID: P-179
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
    会議録・要旨集 フリー
     The Iriomote cat is a highly endangered felid endemic to Iriomote-jima Island, with a population of around 100 individuals. To minimize disturbance, non-invasive genetic methods were developed to distinguish between Iriomote cats and domestic cats and to identify sex of Iriomote cats. Scats were collected throughout Iriomote-jima Island for DNA extraction. Scats were separated according to degree of freshness (scat category) and preservation method to compare between results of the different genetic methods. Multiplex PCR using mtDNA 16S was developed obtaining a success rate of 99.4% in identifying Iriomote cats. One scat sample was identified as belonging to both species, possibly due to the proximity of latrine sites. The SRY gene, found exclusively in males, was amplified using PCR, from 25.0% of the scat samples. The ZFY marker using PCR-RFLP with Dde I digestion was performed obtaining reliable results in 43.2% of scat samples. This method was determined to be more e.cient than the SRY marker to distinguish between the sexes, and therefore, it could prove effective for studying several sex-specific ecological traits of the Iriomote cat to aid in its management and conservation.
  • 権田 彩, 松村 秀一, 斉藤 正一郎, 郷 康広, 今井 啓雄
    原稿種別: ポスター発表
    セッションID: P-180
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
    会議録・要旨集 フリー
     近年,味覚受容体が舌だけでなく消化器系やその他の臓器にも存在していることが,各種哺乳類において報告されている.本研究では,ニホンザルとコモンマーモセットを中心に, RT-qPCR法を用いて,味覚情報伝達に関わるであるGタンパク質 α -gustducinとTRPM5,および各種味覚受容体などの存在量を定量解析した.その結果,コモンマーモセットで特異的にこれらの mRNAが,盲腸や大腸などで,舌と同量もしくはそれ以上に発現していることが確認された.また,免疫組織染色法を用いて,これらのタンパク質が存在している細胞の特定を試みた結果,特徴的な細胞に陽性シグナルが観察された.
     コモンマーモセットで観察された盲腸・大腸における味覚情報伝達分子群の特異的な発現は,マカクに加えてリスザルやヒヒなどでも観察されなかったことから,霊長類の中でもマーモセット科に特殊な現象である可能性が高い.マーモセットは樹脂や樹液を摂取し,盲腸で発酵することが知られている.盲腸における味覚情報伝達タンパク質群の発現は,この食性に関係しているかもしれない
  • 高梨 脩, 土屋 公幸, P Aplin K, 鈴木 仁
    原稿種別: ポスター発表
    セッションID: P-181
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
    会議録・要旨集 フリー
     生物の環境適応の進化過程を理解する上で,ニオイ受容に関わる嗅覚受容体遺伝子や色素タイプの決定に関わるメラノコーチン受容体遺伝子など,環境応答に直接関わる受容体遺伝子群の進化的動態は注目されている.クマネズミ類 (= Rattus属及びその近縁属 ) はその種数が約 200種と著しく多く,その一員であるドブネズミ Rattus norvegicusは現在全ゲノム配列が解読されているため,遺伝子の進化的動態を詳細に探る上で優れた研究対象であると目されている.本研究では,上述の2種の受容体遺伝子について,その進化的動態の概要を解明することを目的として研究を行った.嗅覚受容体遺伝子は遺伝子重複によって生じた大規模な多重遺伝子族を形成し,その重複数は哺乳類ゲノムの中で最大であることが知られているが,嗅覚受容体遺伝子それぞれの機能や進化に伴う遺伝子の獲得・消失の詳細については未だ不明な点が多い.ハツカネズミ Mus musculusとの分岐後に遺伝子重複によってコピーされたと考えられる特定の遺伝子に着目し系統学的解析を行ったところ, Rattus属の分岐後に重複が起きた可能性が示唆された.さらに,重複直後に複数のアミノ酸の置換が認められ,遺伝子変換の関与の可能性も示唆された.一方,毛色において多様なクマネズミ類において,毛色関連遺伝子 Mc1r (melanocortin 1 receptor) のコード領域全長配列 (954 bp)を約 20種について解読を行った.現在,系統ごとのアミノ酸置換速度の違いについて検討している最中である.本研究を通して,クマネズミ類は多様性科学において極めて有用な研究対象であることを部分的にでも実証できるものと考えている.
  • 寺田 祥子, 平井 百合子, 平井 啓久, 古賀 章彦
    原稿種別: ポスター発表
    セッションID: P-182
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
    会議録・要旨集 フリー
     アルファサテライト DNAは,霊長類のセントロメアで主成分となる反復配列である.ヒトのアルファサテライト DNAは 2量体~ 15量体といった高次構造をとることが知られている.この高次構造はチンパンジー・ゴリラ・オランウータン等の大型類人猿にも存在する.ただし,ヒトほど複雑ではない.これらのヒト科とおよそ 1400万年前に分岐したとされるテナガザル科に関しては,探索はなされているものの高次構造が未だに見つかっていない.このため,高次構造はヒト科とテナガザル科が系統分岐した後に,ヒト科の系統で生じたと考えられている.本研究の目的は,テナガザル科でのアルファサテライト DNA高次構造の有無を詳細に分析し,高次構造の起源をより正確に推定することである. そのために,テナガザル科 4属 (Hylobates, Hoolock, Symphalangus, Nomascus) 各 1種のゲノム DNAから,アルファサテライト DNAをクローニングして,その塩基配列を解析した. Symphalangus syndactylus(フクロテナガザル)のアルファサテライト DNA約 9kbからは,4量体と 6量体からなる高次構造が見つかった. Nomascus leucogenys(クロテナガザル )のアルファサテライト DNA約 12kbでも 9量体を形成していた.しかし,この 2属に関してはアルファサテライト DNAに高次構造があっても,セントロメア領域アルファサテライト DNAだとは断定できない.テナガザル科 4属の内この 2属において,染色体末端付近のサブテロメア領域でアルファサテライト DNAが増幅しているからである.これは,テナガザル科の活発な染色体構造変異の影響だと考えられている. サブテロメア領域かセントロメア領域かは未だに明らかでないものの,テナガザル科のアルファサテライト DNAにも高次構造があることが確認できた.そのため,アルファサテライト DNAの高次構造はヒト科とテナガザル科の共通祖先において出現したことと推測される.
  • 森脇 潤, 下鶴 倫人, 山中 正実, 中西 將尚, 永野 夏生, 増田 泰, 藤本 靖, 坪田 敏男
    原稿種別: ポスター発表
    セッションID: P-183
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
    会議録・要旨集 フリー
     動物が高密度に生息する地域において,集団の血縁関係を明らかにすることは,その地域を利用する個体毎の繁殖,行動および分布様式を解明する上で重要である.そこで知床半島ルシャ地区におけるヒグマの繁殖,行動および移動分散様式を解明することを目的として,個体識別調査および集団遺伝学的解析により,個体間の血縁関係を解析した.材料は,同地区でヘアートラップ,ダートバイオプシー等により収集された遺伝子材料 51頭(雄 21頭,雌 30頭)分と,周辺地区(斜里,羅臼および標津地区)で学術捕獲あるいは捕殺個体 164頭分の遺伝子材料および各種メディアの情報を利用した.遺伝子解析には 22座位のマイクロサテライト領域を利用した.その結果,ルシャ地区には 15頭の成獣メスと,その子供からなる集団が生息しており,血縁は大きく2つの母系集団に分かれていた.また,最大で 3世代が共存していた.ルシャ地区で繁殖に関与する父親は,現在までに 5頭認められ,近親交配やマルチプルパタニティーが存在することが明らかになった.ルシャ地区を利用する個体の中で,5頭の亜成獣オスが斜里および羅臼地区側へ移動分散して捕殺されていることも明らかになった.このように,高密度に生息する知床半島ルシャ地区でのヒグマ集団の血縁関係を明らかにすることは,従来の野外調査では明らかには出来ないヒグマの繁殖システムの解明に寄与するだけではなく,繁殖個体の周辺地域への移動分散を明らかにすることができる.尚,本研究はダイキン工業寄附事業 「知床半島先端部地区におけるヒグマ個体群の保護管理,及び,羅臼町住民生活圏へ与える影響に関する研究」の一環として行われたものである.
  • 尾頭 雅大, 筒井 圭, 櫻井 児太摩, 鈴木 -橋戸 南美, 早川 卓志, F Aureli, M Schaffner C, M Fedi ...
    原稿種別: ポスター発表
    セッションID: P-184
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
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     霊長類の色覚と化学物質感覚(ケミカルセンス)は相互に関連して進化してきたと考えられている.しかし,その実態や食性との関連での適応的意義は明らかでない.新世界ザルは色覚の種間・種内変異が顕著であり食性も多様であるため,その優れた研究モデルとなる.苦味受容体は遺伝子数が約 20と比較的少なく,イントロンレスで遺伝子単離が容易であり,マカクやチンパンジーでの種内変異やヒトにおけるリガンド特性の先行情報が利用できるため,研究対象とした.昨年の本大会で我々は,コスタリカ・サンタロサ保護区に生息するノドジロオマキザルとチュウベイクモザルの野生集団に対して,数種類の苦味受容体遺伝子の塩基多型調査を行なったことを報告した.その中で TAS2R1に,リガンド結合に関与が予想されているアミノ酸サイトや,保存的なアミノ酸サイトに,種間・種内変異を見出した. 本大会では,TAS2R1及びヒトにおいて TAS2R1とリガンドの共通性のある TAS2R4に焦点を絞り,色覚や食性が異なるノドジロオマキザル(3アレル 2色 -3色多型色覚,果実・昆虫食),チュウベイクモザル(2アレル 2色 -3色多型色覚,果実食)コモンマーモセット(3アレル 2色 -3色多型色覚,昆虫・樹液食),ヨザル(夜行性完全色盲,果実食)の,間で,ヒトでいずれかの受容体で感受性が確認されているリガンドとの反応性をカルシウムイメージングにより定量し,比較した.その結果,パルテノリド,コルヒチン,樟脳などいくつかのリガンドに対して,反応性に種間の顕著な相違があることが明らかになった.リガンド感受性の大きな種間相違はこれまでに知見がなく,新世界ザル類という近縁種間で相違を示したことは,今後の色覚や食性との関連への研究展開に重要な一歩といえる.
  • 服部 薫, 柳本 卓
    原稿種別: ポスター発表
    セッションID: P-185
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
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     マイクロサテライトマーカーは様々な野生生物の集団解析や家系解析,個体識別などに利用されているが,近縁種で開発されたものや 2塩基繰り返しのものを使用することが多く,正確なタイピングが困難な場合があった.近年,次世代シーケンサーの急速な普及によって短期間で大量の遺伝子情報を得ることが可能となり,マイクロサテライトマーカーの単離も容易となった.そこで本研究ではトドを例に,次世代シーケンサーを用いて新たに繰り返しが 3塩基以上であるマイクロサテライトマーカーを探索し,得られたマーカーを用いたトドの遺伝子解析への応用を検討した. 北海道で採取されたトド 1個体から抽出した粗 DNAを用い,454RocheGLXによってシーケンシング分析を行った.得られた塩基配列の中からタンデムリピートファインダーによってマイクロサテライトを含む配列を探索した結果,2~5塩基の繰り返し配列を含むマイクロサテライト領域が 886座位得られた.このうち 3~5塩基の繰り返し配列 655座位中 20座位について同じく北海道で採集された24個体分の試料を用いて増幅の確認と多型の検証を行った結果,8座位で多型性が認められ,対立遺伝子数は 2~4個で平均 2.63であった.ヘテロ接合体率の平均は観測値 Ho=0.54,期待値 He=0.47であった.トドの複数の個体群を対象としたマイクロサテライトマーカー 6座位による集団解析の先行研究では,個体群あたりの平均対立遺伝子数は 4.75であり,本研究で開発したマーカーは変異性がやや小さいものと考えられた.一方,開発した 8座位の組み合わせによって 24個体全ての識別が可能であった.今後分析個体数を増やし,集団解析等への応用の可能性について更に検討する予定である.また,今回検討したのは得られた 3~5塩基繰り返し座位の 3.1%に過ぎず,より変異性の大きいマーカーが得られる可能性も考えられた.
  • 笹森 翔一, 中田 勝士, 鈴木 仁
    原稿種別: ポスター発表
    セッションID: P-186
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
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     クマネズミ (the Rattus rattus species complex)は世界中に広く分布する侵略的外来種であるが,その起源はアジア亜熱帯域にあり,これまでの mtDNA変異を基づいた研究によると,6つの地域系統群が存在し,さらにヒトに随伴し,分布域を拡大しているのはインド・ヨーロッパの系統Ⅰ,ミャンマー・南中国の系統Ⅱ,東南アジアの系統 Ⅳであることが示されている.日本には系統 Ⅱに属する集団が生息しているが,東京,小笠原諸島および小樽で系統 Ⅰの個体が見つかっている.またクマネズミの毛色には通常の茶色型と変異型の全身黒色型があり,我々はこれまで,沖縄島で発見された全身黒色型は, Asip (agouti signaling protein)上に責任変異があることを明らかにした.しかし,沖縄島の全身黒色型の系統的起源については明らかにされていない.そこで本研究では,Asipのexon 2 (401 bp), exon 3 (367 bp),exon 4 (347 bp)の3つのコード領域周辺をマーカーとして用い,系統Ⅰ,Ⅱ, Ⅳに属するクマネズミ 58頭を対象に系統地理学的解析を行った.連結配列 (ハプロタイプ;1115 bp)を用いて Splits Tree4で描いた Neighbor Net法によるネットワークにおいて,クマネズミの配列は 4つのクラスターに分かれた.2つのクラスターは系統Ⅰ,系統 Ⅳに相当し,残り2つは沖縄産黒色個体を含む日本産クマネズミを代表するクラスターであった.このことから,mtDNA系統 Ⅱに属する日本産クマネズミは,核遺伝子変異に基づくと,2つの別個の地域系統の複合系統として位置づけられることが示唆された. Asipの変異に見られた系統 Ⅱの融合の歴史を解明するために,現在, Asipハプロタイプ間の組換えに注目し解析を行っている.
  • 重昆 達也
    原稿種別: ポスター発表
    セッションID: P-187
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
    会議録・要旨集 フリー
     2011年 4月から,群馬県藤岡市の上越新幹線 1.2kmの区間(以下,藤岡区間)の高架橋の隙間に集結するヒナコウモリ Vespertilio sinensisの出産哺育コロニーの規模と越冬期の利用を調査した.その結果,出産期(6月下旬~ 7月上旬)に約 7,258個体以上の成獣が集結すること,また,越冬期後半である 3月に 358個体以上の利用が確認された.しかし,群馬県の上越新幹線および長野新幹線全線の高架橋区間(約25km)における出産哺育コロニーの分布や厳寒期を通じた越冬地としての利用があるのかは不明であった.そこで筆者は 2012年の出産期に藤岡区間を除く高架橋区間全線で,可聴音で鳴き声が聞こえるか,糞の堆積がみられる隙間すべて(256ヶ所)の内部の写真撮影を行い,集団の有無と個体数を調べた.結果,3次メッシュ毎の集計では,長野新幹線の西部をのぞく,高架橋が通過する大部分のメッシュで集団が確認された.すべてが出産哺育コロニーかの精査は必要だが,確認個体数は 154ヶ所の隙間に 3,406個体以上であった.なお,ヒナコウモリの同定は落下死していた成獣から行った.技術的な課題が残るが,異種(ヤマコウモリとアブラコウモリと推測)の混在はわずかだった.また,藤岡区間では出産期に全隙間(130ヶ所)の内部にいる個体数を写真撮影により計測したが(1,031個体),2011年の目視による出巣観察(7,258個体)よりも大幅に少ない結果となった.越冬期の利用については,藤岡区間の全隙間を対象に 2012年 11月から 2013年 4月まで月 1回の隙間内部の写真撮影を行い,個体数を計測した.結果は 11月 → 117個体,12月 → 207個体,1月 → 87個体,2月 → 74個体,3月 → 178個体,4月 → 427個体と推移し,少数個体が厳寒期を通じて隙間内を越冬地として利用していることが判明した.ただし,越冬期にみられる集団が,出産哺育期にみられる集団と共通するのかは不明である.
  • 松浦 宜弘, 疋田 努, 本川 雅治
    原稿種別: ポスター発表
    セッションID: P-188
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
    会議録・要旨集 フリー
     ニホンハタネズミは,本州,九州,佐渡島に分布する草食性の小型哺乳類である.その生息地は,田畑や牧草地,河川の氾濫源など草原が維持された場所が多く,本種は日本では数少ない草原生哺乳類である.現在の日本では,森林が国土の約 70%を占め,草原は,わずか1%に過ぎず全国に点在している.このような状況で,草原生種であるハタネズミは,遺伝的な分断化が予想されるが,どのような遺伝構造を維持しているかはわかっていない.また,数万年前までは,草原が現在よりも多く存在していたとされるが,九州,本州から佐渡島まで分布域を拡げた,系統地理学的歴史も解明されておらず,これを理解することは,日本の哺乳類の分布変遷を理解する上で重要なことであると考える.そこで,本研究では,分子系統学的手法と生態学的手法を用いて,ハタネズミの遺伝構造と遺伝子流動,ハタネズミが辿ってきた分布変遷を明らかにすることを目的とした.これまでに本州,九州,佐渡島から 25集団,353個体のハタネズミを採取し,ミトコンドリア DNA遺伝子 2座と核 DNAマイクロサテライト遺伝子 4座を用いて,遺伝構造と分岐年代の推定を行った.その結果,佐渡島を除く分布域では,核 DNAで 6系統(九州で 3系統,本州で 3系統),ミトコンドリア DNAで 5系統(九州で2系統,本州で 3系統)に分かれることが明らかになった.また,九州北部と南部の系統の分岐は深く,九州北部系統では遺伝的多様性が低いこと,北日本では,1系統が優占していることが明らかとなった.これらの結果から,九州では,阿蘇の大規模な噴火が分化に大きく影響していること,北日本では,最終氷期の寒冷化によって,分布限界が南下しており,最終氷期後,急激に分布が拡大したことが示唆された.これらの結果と 5月に捕獲した佐渡島の結果を含め,過去にハタネズミの各集団が受けた環境変動とそれに伴う分布変遷について考察を行う.
  • 早川 美波, 林 秀剛, 岸元 良輔, 伊藤 建夫, 東城 幸治
    原稿種別: ポスター発表
    セッションID: P-189
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
    会議録・要旨集 フリー
     ツキノワグマ Ursus thibetanusは,アジア広域に生息する中型のクマで,日本には,固有亜種,ニホンツキノワグマ Ursus thibetanus japonicusが,本州と四国に生息している.中でも,本研究の対象地域である長野県は,日本アルプスを含む中部山岳域に囲まれていること,長野県におけるツキノワグマの推定生息数が約 3600頭 (長野県 2011年) であることからも重要な生息地の 1つであると考えられる.一方,長野県には独立した山塊がいくつかあり,盆地には都市が広がっているため,ツキノワグマの生息地が必ずしも連続しているとは言えず,また,山塊間の移動の程度や遺伝的多様性の評価などの研究が十分行われていないことから,一概にも安定した個体群が維持されているとは言えない.本研究では,2006年から 2012年に捕獲されたツキノワグマ約 200個体を用いて,mtDNA制御領域 626-bp及び,核 DNA MHC クラスター Ⅱベータ遺伝子 2領域 270-bpを解析し,長野県ツキノワグマ個体群における遺伝的構造の究明を行った.
      mtDNA制御領域の解析では,12のハプロタイプを検出した.ハプロタイプの地理的分布から,長野県の北部と南部では解析した個体から検出されるハプロタイプが異なったため,長野県の北部と中南部間での遺伝子流動,すなわちツキノワグマの移動分散が起きていない,あるいは非常にまれであることが示唆された.
  • 村上 正志, 大舘 智志, 本川 雅治, 織田 銑一, 山縣 高宏
    原稿種別: ポスター発表
    セッションID: P-190
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/02/14
    会議録・要旨集 フリー
     ジャコウネズミ(Suncus murinus)は,現在インド洋 ~東シナ海沿岸の広範囲な地域に分布しているが,古くからの人為的な交易により分布域を広げたとされ,人間活動と動物の分布変遷の関係を調べる上で好適な材料である.野生動物の空間分布への人間活動の影響を解明するための,第一歩として,本研究では,現在の分布域を決定している生態学的要因を,種分布モデル(species distribution model,あるいはニッチモデル)により推定する.
     これまでの発表者らの調査および文献から,日本,グアムからアフリカのマダガスカル,タンザニアに渡る,インド洋 ~東シナ海沿岸における,ジャコウネズミの分布情報を収集した.これらの生物分布情報に対して,環境情報としてBioclim,土地利用情報として Global Land Cover Maps (GLCM)を用いて,種分布モデリングを行う.この推定結果を用いて,生息域の連続性を基準とした,原産分布地域と移入分布地域の区分の有効性を検討する.また,潜在的な分布可能域と現在の分布域,さらに,過去の交易の歴史を比較することで,ジャコウネズミ分布に対する人為的な影響について考察する.
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