霊長類研究 Supplement
第32回日本霊長類学会大会
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自由集会
  • 中川 尚史, 村山 美穂
    原稿種別: 自由集会
    セッションID: W1
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/21
    会議録・要旨集 フリー

    日時:2016年7月15日(金)12:30-14:45

    場所:理学部1号館101講義室


    霊長類の社会的形質に関しては、これまで近縁種間の変異が注目され、それが生息環境への適応で生じるのか系統的慣性で決まるのか、盛んに議論されてきた。一方、日本霊長類学の黎明期に、他個体に対する寛容性の点でニホンザル餌付け個体群間に大きな変異があることが指摘されていた。本自由集会は、ニホンザルの示す寛容性が、その属するマカカ属の種間変異に匹敵するほどの可塑性を持つことを明らかにし、その個体群間変異と性格関連遺伝子の個体群間変異の分布を比較することを通じて、寛容性の遺伝的背景の有無を明らかにすることを目的とする。さらに、その発展型として性格関連遺伝子の1個体群内の個体間変異に着目し、個体の遺伝子型と社会行動の関連性をみることを試みた。


    話題提供

    1. ニホンザルの社会構造の個体群間変異(仮題) 中川尚史(京大・理)

    2. 餌付け群における寛容性の個体群間変異:給餌実験と協力行動実験から(仮題) 山田一憲(阪大・人間科学)

    3. 性格関連遺伝子の個体群間変異と群れの寛容性との関連(仮題) 村山美穂(京大・野生動物)

    4. 性格関連遺伝子の個体間変異と社会性の関連(仮題) 大西賢治(東大・総合文化,日本学術振興会)


    責任者:中川尚史(京都大学大学院理学研究科)、村山美穂(京都大学野生動物研究センター)

    連絡先:nakagawa@jinrui.zool.kyoto-u.ac.jp

    共催:日本学術振興会科研費基盤研究B(代表:中川尚史)、文部科学省科研費新学術領域研究「共感性の進化・神経基盤」(代表:長谷川寿一)

  • 森光 由樹, 半谷 吾郎
    原稿種別: 自由集会
    セッションID: W2
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/21
    会議録・要旨集 フリー

    日時:2016年7月15日(金)12:25-14:40

    場所:理学部1号館大会議室


    1999年に鳥獣保護法が改正され、科学的・計画的な保護管理の枠組みとして特定鳥獣保護管理計画制度が創設されてから17年が経過した。2014年、鳥獣保護法は、鳥獣保護管理法へと改正され、それに伴い、2015年、特定鳥獣保護・管理計画作成のためのガイドライン(ニホンザル編)も変更された。また、近年住宅集合地域へのニホンザルの出没が多くなったことをうけ、鳥獣保護管理法において麻酔銃の取り扱いについて改正が行われた。ニホンザルは、被害管理のデータの蓄積や管理体制の整備が進み、管理目標をある程度達成する状況が一部の地域で生まれている。しかしその反面、管理目標を達成できない自治体や西日本を中心に計画の策定を行わない自治体もある。この自由集会では、法律改正に伴いニホンザルの特定鳥獣保護・管理計画のガイドラインに示されている考え方や方法論について報告する。また、法律改正により、すでにシカやイノシシで導入されている指定管理鳥獣捕獲等事業制度および認定鳥獣捕獲等事業者制度について、近い将来ニホンザルが仮に選定された場合のメリット・デメリットについて整理し、今後のニホンザルの将来の管理方法について議論する予定でいる。


    趣旨説明  半谷吾郎(京都大学霊長類研究所)

    特定鳥獣保護・管理計画作成のためのガイドライン(ニホンザル編)  滝口正明(一般財団法人 自然環境研究センター)

    保護管理計画のための新たなモニタリング技術  清野紘典(株式会社 野生動物保護管理事務所)

    法律改正後の住宅集合地域における麻酔銃使用  森光由樹(兵庫県立大)

    新たなガイドラインと次期計画の方向性

      宮城県の管理計画  宇野壮春(合同会社 東北野生動物保護管理センター)

      三重県の管理計画  山端直人(三重県農業研究所)

    鹿児島県のニホンザルの現状と課題  塩谷克典(一般財団法人鹿児島県環境技術協会)

    指定管理鳥獣捕獲等事業制度および認定鳥獣捕獲等事業者制度について  滝口正明(一般財団法人 自然環境研究センター)

    コメンテーター  鈴木克哉(NPO里地里山問題研究所)

    総合討論  森光由樹(兵庫県立大)


    責任者:日本霊長類学会保全・福祉委員会 森光由樹(兵庫県立大学)、半谷吾郎(京都大学霊長類研究所)

    連絡先:morimitsu@wmi-hyogo.jp

    後援:鹿児島県

  • 島田 将喜
    原稿種別: 自由集会
    セッションID: W3
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/21
    会議録・要旨集 フリー

    日時:2016年7月15日(金)15:00-17:00

    場所:理学部1号館101講義室


    遊びはエソロジーの研究史上、その最初期から関心がもたれ、社会生物学的にも重要な研究課題とされてきた。また遊びは学際的研究テーマであり、心理学的研究などとも親和性が高いはずであるが、実験的コントロール、遊びの定義、仮説検証等の難しさが障害となるためか、これまで専門家による研究対象としては敬遠されてきた感がある。

    しかし、たとえばカレントバイオロジー誌2015年1月号において「楽しみfunの生物学」という特集が組まれ、遊び行動の至近要因としての楽しいという感情の神経学的基盤を明らかにしようとする学際的研究の進捗が紹介されたように、近年、遊びは研究対象として注目を集めつつあるようだ。

    本企画では、近接諸分野における遊びの研究の進展についてレビューをし(島田将喜)、霊長類学の各分野で活躍する研究者に、遊びを対象とした研究の取り組みや、対象とすると面白いと考えられる遊びの諸側面について話題提供をしていただく(チンパンジー:中村美知夫、ニホンザル:大西賢治)。また霊長類以外の哺乳類で遊びが多く観察される代表的動物としてのイヌの遊び行動についての最近の研究の進展について知見を整理する(薮田慎司)。そのうえで霊長類の遊びを研究対象とする際に考慮すべき困難、論点について情報を共有し、遊びの研究をいかに生産的なものとしてゆくかについて自由討論を行う。

    「遊びはテーマとして面白そうだが、科学的研究ができるのかどうかわからない」と二の足を踏んでいる若手研究者の積極的な参加を促したい。


    責任者:島田将喜(帝京科学大学アニマルサイエンス学科)

    連絡先:masakishimada@japan.email.ne.jp

  • 川本 芳, 白井 啓
    原稿種別: 自由集会
    セッションID: W4
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/21
    会議録・要旨集 フリー

    日時:2016年7月15日(金)14:55-17:10

    場所:理学部1号館大会議室


    房総半島では輸入され放逐されたアカゲザルが野生化し、ニホンザルとの交雑が問題となってきた。半島南端に定着したアカゲザルの群れでは交雑が進行し、外来種個体群としてアカゲザル遺伝子の供給源となっている。半島中央部のニホンザル個体群でもニホンザルのメスが交雑個体を出産するという事態となっている。アカゲザルはニホンザルに最も近縁な種であり、和歌山県や青森県で発生したタイワンザルの例とくらべて、交雑の進んだ個体を形態や遺伝子で判定することが難しくなっている。

    日本霊長類学会(以下「学会」)の保全・福祉委員会は、これまでも2012年度大会(椙山女学園大学)、2013年度大会(岡山理科大学)の自由集会でニホンザルと外来マカクの交雑問題を取り上げてきた。また対策に向けて、2006年度と2012年度に環境省および千葉県へ学会要望書を提出してきた。

    アカゲザル個体群およびニホンザル個体群について、千葉県は2005年度から交雑対策を継続している。国は交雑対策を進めやすくするために、2005年度に施行した外来生物法を2013年度に改正し、タイワンザルとニホンザルの交雑種、アカゲザルとニホンザルの交雑種も特定外来生物に指定した。また、千葉県を支援するためこれまで3年におよぶ事業を実施し、現在交雑対策の考え方と交雑判定手法についてまとめを行っている。

    さらに、房総半島には国の天然記念物「高宕山サル生息地」があり、近年その地域のサルでも交雑が確認され、対策が必要になっている。

    今回の自由集会では、関係者に房総半島のアカゲザル交雑の現状と課題を整理して話題提供いただき、今後の対策の在り方につき討論したい。

    1.交雑問題の概説

    2.行政の対応

    3.交雑モニタリングの現状と課題

    4.天然記念物「高宕山サル生息地」における問題点

    5.総合討論(課題と対応)


    責任者:日本霊長類学会保全・福祉委員会 川本芳(京都大学霊長類研究所)、白井啓(野生動物保護管理事務所)

    連絡先:shirai@wmo.co.jp

  • 江木 直子, 仲谷 英夫
    原稿種別: 自由集会
    セッションID: W5
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/21
    会議録・要旨集 フリー

    日時:2016年7月15日(金)17:15-20:00

    場所:理学部1号館101講義室


    国内には霊長類化石の発掘を主眼にした研究調査を行っている海外調査隊が幾つか存在し、日本霊長類学会でもその成果が毎年発表されてきた。化石発掘では、霊長類化石の収集だけではなく、その他の化石の収集、地質学的調査も行われ、ここから得られたデータは、各霊長類化石産出地の生物相の特徴の評価、古環境の復元、堆積環境の推定、時代的変化・地理的変異の中での各化石生物相の位置づけの検討などに用いられてきた。しかし、霊長類化石発掘という共通項をもちながらも、現状では、これらの化石産出地について、霊長類以外のデータも含めて異なる化石産地間や系統群間で統合的に論じる機会は多くはない。

    本自由集会では、新第三紀を中心とした東アフリカ、東南アジア、中国の化石を扱う研究者が話題提供を行い、総合討論では霊長類や他の哺乳類の間での進化パターンの関連や各地域での哺乳動物相の進化について検討することを目指す。この企画が異なる系統群や調査で得られた情報の交換の機会になればと考えていますので、来場者からのコメントも歓迎します。


    講演

    1.アフリカとアジアをつなぐ新第三紀ウシ類の進化

    西岡佑一郎(早稲田大学高等研究所)

    2.ゾウ科の起源とアフリカ・アジアの後期中新世長鼻類の進化

    三枝春生(兵庫県立人と自然の博物館)

    3.アフリカの新第三紀齧歯類について

    田邉佳紀(鳥取県立博物館)

    4.ミャンマー新第三紀の化石食肉類相の変遷と古生物地理学的特徴

    江木直子(京都大学霊長類研究所)、高井正成(京都大学霊長類研究所)

    5.エチオピア、チョローラの900-700万年前の哺乳動物相から見えてきたこと

    諏訪元(東京大学総合研究博物館)

    6.中国・広西のギガントピテクスを中心とした更新世霊長類化石相

    河野礼子(国立科学博物館人類研究部)、高井正成(京都大学霊長類研究所)

    総合討論


    責任者:江木直子(京都大学霊長類研究所)、仲谷英夫(鹿児島大学理学部)

    連絡先:egi.naoko.6z@kyoto-u.ac.jp

  • 河合 香吏
    原稿種別: 自由集会
    セッションID: W6
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/21
    会議録・要旨集 フリー

    日時:2016年7月15日(金)17:25-20:05

    場所:理学部1号館大会議室


    人類は群居性動物である霊長類の一員として、集団で生活する方途をさまざまに進化させてきた。現代のわれわれは、家族、仲間、地域社会、職業集団、国家、国際社会等、重層的で複雑に絡み合い、しばしば巨大な集団の中に生きている。本集会では、人類を含む霊長類の事例に焦点を絞り、人類と近縁の大型類人猿の社会に明瞭には認められない重層社会なる社会形態の形成について議論したい。話題提供には、松田一希「コロブス類の重層社会:ヒヒ類と比較して」、杉山祐子「(仮)姉妹になるか母になるか:焼畑農耕民の離合集散と社会の重層化を考える」、寺嶋秀明「(仮)ヒトは誰と一緒にいたいのか?:狩猟採集民の生態と社会から考える」、中川尚史「(仮)初期人類の重層社会についての新説:霊長類学の立場から」を予定している。

    本集会を企画した背景には「人類社会の進化史的基盤研究」と題する共同研究(於東京外国語大AA研)がある。霊長類社会/生態学、生態人類学、社会文化人類学の3分野を中心に、「集団」「制度」「他者」「生存・環境・極限」とテーマを展開しながら議論を続けてきた。その一貫した目的のひとつは、人類の社会性Socialityの進化的な解明にある。社会性とは、他者(他個体)と相互に関係しつつ同所的に存在する能力、つまり集団をなして生きる能力であり、集団の中で複数個体の共存を保証する能力のことである。より複雑な集団の生成には、諸制度(規範やルール、コンヴェンション等を含む)の生成も必要であったはずだ。重層社会もまた、そうした複雑な集団のありかたと言えよう。初期人類はどのような集団を形成していたのだろうか。それはどのような能力や傾向の獲得と関連していたのか。生息環境とはどのような関係にあったのだろうか。初期人類の社会を見据えつつ、現生の人類以外の霊長類と現生の人類の重層社会の両面から、家族の起原や社会性の進化についても議論したい。


    責任者:河合香吏(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所)

    連絡先:kkawai@aa.tufs.ac.jp

公開シンポジウム
  • 原稿種別: 第32回日本霊長類学会大会 公開シンポジウム
    セッションID: PS
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/21
    会議録・要旨集 フリー

    日時:2016年7月17日(日)13時15分~16時15分

    場所:鹿児島大学稲盛会館


    生物多様性の保全は地域住民の協力がなければ実現できない。つまり、地域の人々によって培われてきた自然に対する伝統知を評価し、人間と自然がつながりながら、生活の営みを通して地域社会が活性化し、発展することで、生態系の保全と持続的利用が可能となる。本シンポジウムの目的は、自然と共生しながら地域社会が発展するために、地域の住民、行政、研究者はそれぞれ何ができるか、何をすべきか、ということについて共に考え、生態系保全の観点から地域社会のこれからについて見つめ直すことである。

    鹿児島県は、世界でも有数の原生的な照葉樹林をもつ屋久島や、多くの固有種が生息する奄美群島など、貴重で豊かな自然が残されている。屋久島は日本で最初の世界自然遺産に登録され、奄美も数年後には登録される予定で、県民の自然環境やその保全に対する関心は高い。屋久島では、世界自然遺産に登録される以前から地元の有志による自然保護活動が活発に行われており、住民、行政、研究者が一体となって地元の自然環境を守り、また、これが地域社会の発展に寄与するという方式が国内で先駆けて開始された地域でもある。一方、日本霊長類学会は、設立当初より霊長類を中心とする自然環境の保護・保全やそのための教育と普及を目的に掲げ、地域の人々と協働してきた。ヤクシマザルが生息する屋久島では、1980年代から、屋久島の自然環境保全や環境教育活動に研究者が加わり、地域住民や行政とともにこれをすすめてきた。

    本シンポジウムでは、屋久島および奄美大島で活動する研究者、自然保護の専門家、および行政関係者に地域の生態系保全に関する講演をしていただき、さらに、地域住民を交えて、自然と共生する地域社会の将来について議論を行うことを目的とする。


    講演プログラム

    司会:藤田志歩(鹿児島大学共同獣医学部)


    13:15~13:20 趣旨説明

    13:20~13:45 「サルと歩いた屋久島―研究と保全の半世紀」 山極寿一(京都大学総長)

    13:45~14:10 「どんな自然生態系をどうやって守るのか考えよう!」 揚妻直樹(北海道大学北方生物圏フィールド科学センター和歌山研究林長)

    14:10~14:20 休憩

    14:20~14:45 「奄美大島における海洋生物の保全と活用」 興克樹(奄美海洋生物研究会/奄美クジラ・イルカ協会会長)

    14:45~15:10 「薩南諸島の生物多様性に関する教育と研究及び社会連携」 河合渓(鹿児島大学国際島嶼教育研究センター長)

    15:10~15:35 「生物多様性鹿児島県戦略~鹿児島の自然環境保全の現状と課題」 長田啓(鹿児島県自然保護課課長)

    15:35~15:45 休憩

    15:45~16:15 パネルディスカッション コーディネーター:湯本貴和(京都大学霊長類研究所所長)


    後援:鹿児島大学、鹿児島県、鹿児島市

口頭発表
  • 奥村 太基, 菊田 恭介, 根本 慧, 坂口 慎吾, 廣川 類, 綿貫 宏史朗, 打越 万喜子, 松田 一希, 伊谷 原一
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: A01
    発行日: 2016/06/20
    公開日: 2016/09/21
    会議録・要旨集 フリー

    コロブス類では、母親以外のメス個体が赤ん坊の世話をする、「アロマザリング」と呼ばれる行動が頻繁に見られることが知られている。本行動には、群れ内のメスの出産経験の有無、メス間の血縁度に加え、アカンボウの年齢が影響しているといわれている。アビシニアコロブスの新生児の毛色は純白で、成長とともにオトナ同様に毛色が黒みがかっていく。本発表では、日本モンキーセンターのアビシニアコロブス新生児(2015年7月12日出生)の観察をとおし、本種のアロマザリング行動のパタンが、新生児の成長にともなう毛色の変化とともに、どのように変わっていくのかを報告する。新生児の行動観察は、2015年7月から2016年1月の延べ40時間(合計64日、10~100分/日)おこなった。新生児の行動は、連続記録の個体追跡法で記録し、同時に毛色の変化を定量化するため定期的に新生児の写真を撮影した。行動観察の結果、観察期間終盤には、新生児の毛色はオトナ個体とほぼ同様な程度にまで黒みがかり、単独での行動頻度も増加した。母親が新生児を抱く頻度は、新生児の成長(毛色の変化)と顕著な関係性は見られなかった。一方で、アロマザリングの頻度は新生児の成長過程、特に毛色の変化にともなって大きな変化が見られた。つまり、新生児の毛色がオトナの毛色に近づくにつれ、母親以外のメス個体が新生児を世話する頻度が減少していった。本結果は、アビシニアコロブスにおける新生児の特殊な毛色が、母親以外の個体からの注目を集め、新生児への世話行動を促すシグナルになっている可能性を示唆している。

  • 勝 野吏子, 山田 一憲, 中道 正之
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: A02
    発行日: 2016/06/20
    公開日: 2016/09/21
    会議録・要旨集 フリー

    ヒト以外の霊長類の音声行動にはどれほど可塑性があるのか。警戒音に関しては音声を用いる対象が発達に伴い修正されることが知られているが、他の種類の音声では研究が少ない。また、どのような経験がその習得に影響するのかはほとんど明らかになっていない。ニホンザル(Macaca fuscata)は、穏やかで音量の小さい音声(girney, grunt)を他個体と関わる際に用いることがある。先行研究では、成体メスはこの音声を普段は関わりの少ない非血縁メスへ近づく際に用いることが多く、これは敵意がないことを相手に伝える機能があるとされている。本研究は、ニホンザルが社会交渉にかかわる音声の用い方を発達に伴い習得するのか、その習得に他個体と関わった経験が影響するのかを明らかにすることを目的とした。嵐山ニホンザル集団において、未成体(1-3歳齢)、準成体(4-5歳齢)、低年齢成体(6-7歳齢)、成体メスを対象とし、最長3年にわたり個体追跡観察を行った。対象個体が成体メスに対して行った接近と、接近の際に対象個体が音声を用いたかどうかを記録した。成体や低年齢成体メスでは、血縁メスよりも非血縁メスに対して音声を用いやすかった。一方、準成体や未成体メスではこの傾向はみられなかった。どの年齢段階の個体においても、接近の際に音声を用いたほうが、非血縁メスとの間で親和的交渉が生じやすかった。低年齢成体と準成体メスにおいて、非血縁メスと関わった頻度の高い個体ほど、その翌年に非血縁メスに対して音声を用いた割合が高かった。血縁メスと関わった頻度は、音声を用いた割合に有意な影響を持たなかった。これらの結果から、音声を用いると非血縁メスとの間で交渉が円滑に行われるため、音声を用いることが促進されると考えられる。音声行動の習得には、母をはじめとする血縁メスとの関わりを通じて社会的学習を行うというよりも、実際に非血縁メスと関わり、試行錯誤を行うことが重要である可能性が示唆された。

  • 谷口 晴香
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: A03
    発行日: 2016/06/20
    公開日: 2016/09/21
    会議録・要旨集 フリー

    アカンボウ期は、群れ他個体との関係が形成される重要な時期であり、特に離乳期は、採食を通じた関係が生じる。ニホンザルのアカンボウは、冬には採食を行う必要が生じるが、食物条件は地域によって異なる。本研究は、生息環境の異なる2地域間を比較し、食物の物理的性質を含む生息環境がアカンボウの伴食行動に与える影響を検討することを目的とした。2008-2009年に落葉樹林帯に属す下北半島、2010-2011年に常緑樹林帯に属す屋久島において、冬季に母子4組を対象に採食行動と近接個体の行動を記録した。各食物を4つの物理的性質(食物の大きさ、操作の有無、高さ、かたさ)により評価し、アカンボウに好まれる寄与度に応じ重みづけし、食物の物理的性質を総合的に評価するスコアを作成した。両地域共に、母親が入手や処理の難しい(スコアが高い)食物を利用した際は、アカンボウは母親から5mを超えて離れる傾向にあった。また、母親から分離後、アカンボウは、母親より入手や処理の容易な食物を利用する他のアカンボウと伴食することが多かった。屋久島と比較し下北では、母親が入手や処理の困難な食物を利用した際に、アカンボウの近接率が高かった。また、下北のアカンボウは、他のアカンボウとの伴食時間が短かった。これらの結果から、両地域共に、アカンボウは身体能力が未熟なため、母親の食物が入手や処理が難しい場合は母親から離れやすく、また、母親と分離時には、食物選好性が類似する他のアカンボウと伴食し、群れとはぐれる危険を回避していたと考えられる。屋久島と比較し、下北では、気温が低く、食物条件が厳しいため、採食時にアカンボウは母親の保護を受けやすい距離に留まりやすく、また、そのため下北では他のアカンボウとの伴食が少なかったと考えられる。以上のことから、食物の物理的性質は、気温や食物条件などの他の生息環境の違いと相まって、アカンボウの伴食行動に影響を与えていた。

  • 栗原 洋介, 半谷 吾郎
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: A04
    発行日: 2016/06/20
    公開日: 2016/09/21
    会議録・要旨集 フリー

    エネルギー収支(獲得エネルギー量と消費エネルギー量の差)は動物の採食行動の結果であり、生存や繁殖に影響する重要な要因である。食物環境の季節変化が大きい温帯に進出したニホンザルは、食物の多い時期に余剰エネルギーを脂肪として蓄積することが生存および繁殖成功につながる。これまでは冷温帯林にすむニホンザルの研究が中心であり、冬に成熟葉を利用可能な暖温帯林にすむニホンザルのエネルギー収支が1年を通してどのように変化するかはわかっていない。本研究では、屋久島海岸域にすむニホンザルのエネルギー収支の季節変化およびその決定要因を解明することを目的とした。2012年10月から2013年9月の間、2群・9-13個体のオトナメスを個体追跡し、活動、採食時間、採食品目、採食速度を記録した。また、GPSを用いて追跡個体の位置を記録した。獲得エネルギー量は行動データと食物の栄養データをもとに推定した。行動データから採食量を推定し、食物の栄養分析を行い粗脂質・粗タンパク質・炭水化物含有量を測定した。消費エネルギー量は活動時間配分と移動距離をもとに推定した。エネルギー収支は獲得エネルギー量と消費エネルギー量の差分とした。獲得エネルギー量は、果実種子を採食する秋に最も多く、次いで新葉を採食する春、キノコや昆虫を採食する夏や成熟葉を採食する冬に少なかった。このパターンには採食速度と採食時間が影響していた。消費エネルギー量の季節変化が小さかったため、エネルギー収支は獲得エネルギー量と同様に変動し、夏と冬に収支がマイナスとなった。本研究の結果は、冬に成熟葉を利用可能な暖温帯林においても、秋に採食速度の大きい果実種子を採食することが脂肪蓄積を通して繁殖成功につながることを示唆している。

  • 川添 達朗
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: A05
    発行日: 2016/06/20
    公開日: 2016/09/21
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    オス分散社会におけるオス間の親和的関係は互恵性の観点から議論されてきた。十分な交渉機会が想定される同一群内の個体間では、互恵性は長期的な時間枠で成立することが多く、短期的な時間枠で互恵性が成立するという証拠は乏しい。ニホンザル(Macaca fuscata)において、群れ外オス同士で見られる親和的交渉は、群れオスに比べ交渉機会は限定的であると考えられ、群れオスと群れ外オスでは互恵性が異なる時間枠で成立している可能性がある。本研究では、ニホンザルの群れオスと群れ外オスの近接時間とグルーミング時間をもとに、交渉機会の違いが、短期的あるいは長期的な互恵性の成立に影響するか検討する。2009年と2010年の非交尾期に宮城県金華山島で、群れオス3頭(延べ6頭)と群れ外オスを含む11頭(延べ16頭)のオトナオスの観察を計671時間行った。各個体の個体追跡を行い、他個体が5m以内に近接していた時間、グルーミングの相手と継続時間を交渉の方向と併せて調べた。グルーミングバウトと互恵性指数を定義し、バウト内と観察期間毎に互恵性指数をそれぞれ算出した。交渉機会の指標となる近接時間割合は、群れオス同士に比べ群れオス外オス同士では小さくなった。バウト内での互恵性指数は、群れオス同士に比べ群れ外オス同士で高かった。バウト内と観察期間全体での比較からは、群れオスは観察期間全体での互恵性指数が高くなるのに対し、群れ外オスはバウト内と観察期間全体での有意差はなかった。これらの結果は、ニホンザルのオスは交渉機会に応じて異なる交渉パターンを持ち、十分な交渉機会がある場合は長期的な時間枠で互恵性を成立させる一方、交渉機会が限定される場合は、より短期的な時間枠で互恵的に交渉することを示唆している。

  • 田村 大也, 風張 喜子
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: A06
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/21
    会議録・要旨集 フリー

    母系社会を形成するニホンザル(Macaca fuscata)において、メスの群れ離脱は『例外的』な現象であると考えられてきた。今日までにメスの離脱事例は複数の調査地から多数報告されているが、それらの事例の多くは餌付け群からの報告であり、その離脱背景には給餌量の制限や給餌の停止、捕獲による攪乱など人為的な影響が強いと考えられている。一方で、野生群においてはメスの群れ離脱はほとんど観察されていない。今回演者は、純野生群において1頭のオトナメスの長期群れ離脱と、その約1ヶ月半後に起きた群れとの再合流の瞬間を観察したので、その詳細をここに報告する。対象は宮城県金華山島のニホンザルB1群で、調査期間中2015年10月20日を境にオトナメス1頭(Nao、19歳)の存在が確認できなくなった。しかし、その日から52日後の12月10日にNaoは群れと再合流し、演者は再合流直後のNaoの行動と群れ個体の反応を53分間にわたって記録した。再合流地点はB1群の遊動域の端にあたり、群れの利用頻度が極めて低い場所であった。Naoの再合流直後、群れ内で17事例の攻撃交渉が観察され、群れ全体の興奮が高まっている様子であった。さらにNaoは再合流直後、離脱前に親密度が比較的高かった6個体のオトナメスとグルーミングを行った。同時に、Naoの抱擁行動が53分間で7回観察され、そのうち6回は娘個体(7歳)との抱擁行動であった。また、再合流日以降におけるNaoの攻撃交渉や採食場面のサプラントの記録から、母子間で娘が優位となる順位の逆転が起きていることが明らかになった。再合流日までに要した日数や再合流地点を考慮すると、今回Naoは積極的に群れから離脱し続けていたことが考えられる。また、再合流直後のNaoの行動と群れ個体の反応から、少なくとも1ヶ月半の間直接交渉が無かったとしても、母系血縁個体間と非血縁個体間の両方で親和的関係は維持され、非血縁個体間では優劣関係も維持されることが示唆された。

  • 本郷 峻, 中島 啓裕, Etienne F. AKOMO-OKOUE, Fred L. MINDONGA-NGUELET
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: A07
    発行日: 2016/06/20
    公開日: 2016/09/21
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    多くの霊長類のような集団性の動物では、資源量など環境の周期的変動に各個体が対応することで、集団の行動にも可塑性が生じると考えられる。私たちは、数百個体の大集団を形成するマンドリル(Mandrillus sphinx)が、資源量が季節的に変動するアフリカ熱帯林の環境に対応してどのように食性・土地利用・凝集性のパターンを変化させるかを明らかにするため、2009-13年にかけてムカラバ国立公園(ガボン)において調査を行った。1)集団の食性を明らかにするため、採食行動を直接観察するとともに食痕と糞内容物の同定を行った。2)また、約500 km2の範囲での2年間のカメラトラップ調査で得られた動画データから、集団の相対土地利用頻度を地域ごと(全11地域)に算出した。3)さらに、凝集性の指標としてカメラトラップ動画あたりの被撮影個体数を計数した。1)糞分析の結果、マンドリルの食性は資源量の季節変化に対応して変化し、果実期には果実の体積割合が、非果実期には繊維質の体積割合が高くなっていた。2)集団のカメラ撮影頻度は年間を通じて特定の2地域で高く、さらに果実量が最も多い時期(果実期)においてはそれらの地域への集中度が有意に高くなっていた。一方で、非果実期には地域ごとの撮影頻度の差が小さくなっていた。さらに、2年間で地域ごとの撮影頻度の年次相関をとると、果実期においてのみ1年目と2年目の撮影頻度が有意な正相関を示した。3)採食中の個体の凝集性は非果実期に比べ果実期で有意に低下していた。これらの結果は、マンドリル集団が環境の季節変化に対し行動を変化させ、果実期には特定地域の集中利用と凝集性の低下によって果実の採食効率を上昇させる一方で、非果実期には広い範囲に利用を分散させて繊維質を採食することで果実資源の枯渇を補っていることを示唆している。多数の個体が集まることによって集団として広大な範囲の認知地図を保有し、土地利用パターンの大規模な季節変化を可能にしているのかもしれない。

  • 徳山 奈帆子, 古市 剛史
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: A08
    発行日: 2016/06/20
    公開日: 2016/09/21
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    霊長類においてメスの連合攻撃行動は、母系かつ専制的な順位関係を持つ種に多くみられる。その形成パターンは血縁選択で説明され、血縁のあるメス同士で、順位や食物を巡る競争のために形成される。ボノボ(Pan paniscus)においてはメスが集団を移籍するため、基本的にメス同士の血縁関係はない。にもかかわらず、メスの頻繁な連合攻撃がみられる。近縁のチンパンジーにおいては、血縁関係にないオス同士も親和的関係や互恵的な支援関係に基づいて連合を形成することが知られている。この研究ではボノボのメスにおいて、連合が親和的関係や互恵性より形成されているか検討した。コンゴ民主共和国ルオー学術保護区に生息する野生ボノボPE群のオトナメス9頭を対象に観察を行った。攻撃的行動をすべて記録し、2頭以上が共同で同じ個体に攻撃した場合、連合攻撃とした。はっきりと観察できた場合のみ、どの個体がどの個体を支援したか記録した。5分間隔のスキャンサンプリング法により、視界内すべての個体の近接(3m以内)とグルーミングを親和的関係の指標として記録した。メスの連合攻撃はすべて、オスを攻撃対象として行われた。特に、オスがメスに対し攻撃的に振る舞った直後に行われることが多かった。グルーミングや近接の頻度と、そのペアが連合を形成する頻度との間に有意な相関はなかった。攻撃の支援は互恵的ではなく、年上のメスが年下のメスを支援するという一方向的な関係がみられた。ボノボのメスの連合は、互恵性や親和的関係に基づいて形成されているわけではないことが分かった。メス間の競争のためではなく、オスからのハラスメントへの対抗として年上の優位なメスが年下の劣位なメスを支援することで形成されていると考えられる。年上のメスは、年下のメスを支援することでメス間の凝集性を高め、息子の繁殖効率の上昇などの利益を得ているのかもしれない。

  • 室山 泰之
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: A09
    発行日: 2016/06/20
    公開日: 2016/09/21
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    個体の空間的位置は、群れ生活にかかわる利益と損失にかかわる重要な役割を果たしており、それは群れの構造や凝集性を含む社会システムのさまざまな側面を形作っている。北カメルーンに生息している野生のパタスモンキー(Erythrocebus patas)の一群を対象として、個体間の距離の変異を出産季と非出産季で比較した。その結果、非出産季の個体間距離は出産季より大きく、凝集性が高かった。また、出産季には新生児の母親は、新生児を持たないメスよりも、ほかのメス個体の近くにいることが多かった。一方、血縁関係や個体間の優劣関係は、メス間の距離にあまり影響しなかった。

  • 森光 由樹
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: A10
    発行日: 2016/06/20
    公開日: 2016/09/21
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    特定鳥獣保護・管理計画において、群れのモニタリング調査は重要である。これまで、モニタリング調査は主に、直接観察法によるデータ収集が多かった。しかし、直接観察法は、動物が人を忌避するため情報収集が困難な場合が多い。また、我が国特有の急峻な地形や森林などによる障害物で観察が難しい地域もあり労力がかかる。マルチコプターを用いた研究は進展しており、野生動物の調査研究にも少しずつ利用され始めている。そこで報告者は、マルチコプターを用いて、群れを追跡し撮影することができれば、頭数の把握や個体生息情報を収集することができると考え検討した。兵庫県船越山に生息している群れを対象に、マルチコプター(Parrot Bebop 2)を用いて観察を行った。群れの忌避および馴致状態を観察するため、複数回の飛行を行った。飛行時間は、バッテリー容量から20分間、群れがいる場所を飛行し撮影した。飛行スケジュールは、連続7日間1日、1回20分間とした。個体の忌避状態、撮影状態を記録し本法の有効性について検討した。飛行1日目は、群れの全ての個体が、マルチコプターに驚き、逃避する個体がほとんどあった。3日目から少しずつ馴れはじめ観察が可能な個体が観察された。7日目には、一部の個体が逃避するものの、観察が容易となった。今回の試験から、マルチコプターによる撮影が可能になれば、動物の観察が容易となりモニタリング調査に有益な情報を収集すると思われた。しかし、本法には課題も多い。特に今回の例から、使用には対象動物に馴致期間が必要であった。また、本法は、操縦にある程度トレーニングが必要なこと、風雨の影響を受けること、バッテリー容量から飛行時間が短いこと、航空法の制限を受ける地域があることなどがある。今後は、対象動物に忌避されない、長時間、誰でも簡単に飛行できる機材の開発が課題である。

  • 大井 徹, 前橋 亮太
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: A11
    発行日: 2016/06/20
    公開日: 2016/09/21
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    ニホンザルによる農作物被害が深刻化する原因の一つとして、集落周辺に存在する食物資源への依存が進むことが挙げられている。集落周辺には農作物以外にカキ、クリ、クワなど集中して分布する高栄養の食物があり、群れはそれらに強く誘引され、集落周辺への定着化が促進されると考えられるからである。このことを検証するため、私たちは、石川県白山麓に生息するクロダニA群を調査対象とし集落周辺に存在するカキの実やその他の食物資源が群れの行動圏利用に与える影響を定量的に明らかにしようと考えた。11月、12月の上、中旬に、群れの行動圏内で結実しているカキの位置と果実数を記録した。また、30分毎に群れの位置と個体の食性を記録した。解析の単位として、GIS(Arc Map10.1)上で行動圏の林縁(約14.2km)を15等分、山側と集落側に100mのバッファを発生させ、15個のセクションを作成した。そして、11月と12月それぞれ、セクション単位で群れによる利用頻度とカキの実の個数、植生との関係を検討した。11月から12月にかけてカキの実の個数は11,504個から1,981個へと急速に減少した。セクション毎のカキの実の量とサルの利用頻度には、11月では正の相関関係があった。一方、カキの実が少なかった12月には相関関係は認められなかった。また、11月において利用頻度と広葉樹林の面積割合にも正の相関関係があった。11月においてカキの実が少ないのにも関わらず利用頻度が高かったセクションでは、群れは収穫後の水田で落穂や二番穂、草本類をよく採食していた。また、12月にはカボチャ、ダイコンなどの廃棄農作物や水田の雑草をよく採食していた。この地域において、群れの集落周辺への依存を減らすためには、収穫しないカキの伐採、カキの実の早期摘果、廃棄農作物の処理を適切に行うとともに、水田においては収穫後には耕起し、落穂と雑草を土にすきこむことが有効である可能性がある。

  • 吉田 洋, 中村 大輔, 北原 正彦
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: A12
    発行日: 2016/06/20
    公開日: 2016/09/21
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    本研究では、モンキードッグ(サル追い犬)による追払いが、野生ニホンザル(Macaca fuscata)群の土地利用におよぼす影響を明らかにすることを目的とした。調査は2004年4月から2012年8月に、山梨県富士吉田市および同南都留郡富士河口湖町を生息地とし、67個体で構成される野生ニホンザル群の「吉田群」を対象に、ラジオテレメトリーを実施した。本調査地のうち、富士吉田市の2地区(旭地区・新倉地区)では2007年6月から、富士河口湖町の3地区(河口地区・浅川地区・船津地区)では2008年12月から、体重12~22kgのモンキードッグを用いた追払いが2012年8月まで実施されていた。調査の結果、先に追払いを始めた2地区では、追払いを始めると「吉田群」のコアエリア(MCP method, 50%)から外れたが、後に追払いを始めた3地区はコアエリアのままだった。また「吉田群」は2012年4月頃に分裂し、先に追払いを始めた富士吉田市新倉地区をコアエリアにした。さらに、先に追払いを始めた2地区では、追払いにより出没頻度が22.1%から2.1%に減少したが、後から追払いを始めた3地区では、サルの出没頻度が29.8%から22.2%に減少したものの、その減少量は少なかった(chi-square test, N = 1,101, df = 1, p < 0.01)。これらのことから、Iモンキードッグによる追払いには、サルの群れが人里の利用を避けるようになる効果がある。II野生ニホンザル群は、先に追払いを始めた集落よりも、後れて対策をした集落に執着する。III同じぐらいの追払いの強度では、追払いを早く始めた集落のほうが、後から追払いを始めた集落より効果が高い。IV効果の高い追払いを続けると、群れは分裂して利用できなかった集落を利用しようとする。の4点の可能性が指摘できる。

  • 栗田 博之, 高橋 明子, 鈴村 崇文
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: A13
    発行日: 2016/06/20
    公開日: 2016/09/21
    会議録・要旨集 フリー

    宮崎県串間市にある幸島のニホンザル(Macaca fuscata)は、管理者から播かれた小麦粒を地面から採る際に、①舌で舐め取る行動と、②指でつまんで口に運ぶ行動の2種類を織り交ぜる。われわれは、「幸島個体は、その時の餌分布条件に応じて採餌効率が高くなるよう、行動を選択している」との仮説を立て、数種類の餌分布条件を実験的に設定し、各条件下で2種類の採餌行動の生起頻度を測定することで、その仮説の検証を試みた。下記の各種餌分布条件下で、30cm×59cmの実験区画に小麦を播いて対象個体に提示し、2種類の行動の生起パタンを記録した。2種類の行動選択に影響を及ぼす要因と仮定したのは、空腹度、小麦粒が播かれた地面の形状、及び小麦粒の密度である。その際、実験的に設定した餌分布条件とは、空腹度については、管理者が小麦を播く「管理者給餌」の前(空腹時)と後(満腹時)の2条件、地面形状については、平坦と凸凹の2条件、小麦密度については、地面の小麦密度を変えた4条件である。その結果、空腹度における2条件間での違いは明確ではなかったが、土地が凸凹の場合や小麦分布密度が低いほど、行動②の生起頻度が高いことが明らかになった。これらの結果は、(小麦の存在を確認し易い)平坦な地面に、高密度で分布する小麦を採るには、顔を地面に近づけて舌で舐め取る(行動①)方が効率的であることを示唆している。

  • 松田 一希, John SHA, Ismon OSMAN, Sen NATHAN, Danica STARK, Benoit GOOSSEN ...
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: A14
    発行日: 2016/06/20
    公開日: 2016/09/21
    会議録・要旨集 フリー

    東南アジア・ボルネオ島の固有種であるテングザルは、体格、鼻の形態に顕著な性的二型がみられる。雄は雌の2倍もの重量を有し(約20kg)、長く伸びた大きな鼻が特徴的である。これらの一連の雌雄差は、性選択による産物だと逸話的に語られてきた。しかし、それがどのようなメカニズムを経て進化し、その進化にどういった意味があるのかはわかっていない。私たちは、テングザル雄の鼻の肥大化に、その音声が密接な影響を与えていると考え、異なる大きさの鼻をもつ雄の音声、体重の関係性を検討した。また、人工的に操作した雄の音声を使ってのプレイバック実験、野生下における異なる大きさの鼻をもつ雄に対する雌の選好性も検討した。本講演では、飼育下、野生下のテングザルから明らかになった、雄の鼻の肥大化が促された進化要因の一端を議論する。

  • 丸橋 珠樹, 豊田 有, Suchinda MALAIVITNOND
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: A15
    発行日: 2016/06/20
    公開日: 2016/09/21
    会議録・要旨集 フリー

    Macaca属は雄が移出入する社会を形成している。出生した出自群から他群へと移籍する第一次移籍、移籍した群れからさらに他の群れへと移籍する第二次移籍の実態を明らかにすることは、雄の生活史の最も重要な側面の一つである。雄間の順位、雄の性行動、群れの遊動域、群間優劣関係などと雄の移籍との関係を明らかにすることは、M. arctoidesの進化研究の基盤を与えるにちがいない。しかし、野外研究がほとんどないM. arctoidesでは雄の移出入に関する研究はほとんどないのが現状である。我々は、タイ王国・カオクラプックカオタオモ狩猟保護区において、2012年から長期継続調査を始めた。本個体群は数十年前には少数個体の単群であったが、2012年には4群となっていた。これらの群れを人付けし長期連続観察を進めてきた。本報告では、以下の3つの調査期間に分けて雄の移出入とそれに関係する雄の生活史の側面について報告する。第1期間:2012年から2014年までの主調査群Ting群での雄の移出入、第2期間:2014年までには4群の人づけが完了し、2014年から2015年の1年間継続調査中の雄の移出入、第3期間:2015年10月にThird群が分裂した前後から2016年3月までの期間の雄の移出入。第1期間では第1位雄の交替、第3期間では分裂という大きな社会変動が起きたことと雄の移出入とを関連づけて考察する。なお、現在DNAによる父子判定、血縁判定の研究を推進しており、雄の生涯繁殖成功度と連関させて雄の生活史を理解することが最終目標である。

  • 半谷 吾郎, Henry BERNARD
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: A16
    発行日: 2016/06/20
    公開日: 2016/09/21
    会議録・要旨集 フリー

    一斉開花結実があり、季節性の大きな低地フタバガキ林に覆われた、ボルネオ島、ダナムバレー森林保護区のレッドリーフモンキー(Presbytis rubicunda)1群の遊動パターンを、25か月にわたって調査した。他のコロブスの個体群に比べて、遊動域が小さく、一日の遊動距離が長く、食性の季節変化との関連が見られないことが、この個体群の遊動の特徴だった。全調査期間を通じた遊動域(95%カーネル)は、21.4haだった。月ごとの遊動域、およびコアエリア(50%カーネル)の大きさは、4つの食物カテゴリー(種子、新葉、Spatholobus macropterusの新葉、Spatholobus macropterus以外の新葉)の採食時間から、統計的に有意な影響を受けていなかった。種子をよく食べる季節に、遊動域をシフトさせる傾向も見られなかった。一日の遊動距離、および月ごとの1時間当たりの遊動距離は、いずれもその日・その月の食性から有意な影響を受けていなかった。一日の遊動距離は1160±340 m(平均±SD、レンジ: 550-2140 m)だった。この遊動パターンは、森林内に小さなパッチが高密度で存在するマメ科のつる、Spatholobus macropterusの新葉1種だけをフォールバック食物として利用する、この個体群の独特な採食戦略によって説明できる。遊動域が小さいのは、食物が総量として豊富にあるからである。一方、一日の遊動距離が長いのは、パッチの一つ一つが小さく、すぐに枯渇してしまうからであると考えられた。

  • 久世 濃子, 金森 朝子, 山崎 彩夏, 田島 知之, Renata MENDONÇA, Henry BERNARD, Peter T. M ...
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: A17
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/21
    会議録・要旨集 フリー

    野生下でのオランウータンの出産間隔は6~9年であり、陸上棲哺乳類では最長である。オランウータンは2種3亜種に分類されているが、種および亜種によって出産間隔が異なっている(スマトラ:9年、ボルネオ:6~7年)。スマトラ島は火山性で栄養豊富な土壌である為、非火山性土壌のボルネオ島よりも果実生産量が高く、オラウータンの栄養状態が良いと言われている。このことからオランウータンでは栄養状態が良い(死亡率が低い)環境であれば、出産間隔が長くなる、という仮説が提唱されている。本発表では、最も栄養状態が悪い(果実生産量の変動が激しく、果実生産量が少ない期間が長い)と言われている、ボルネオ島北部に生息する亜種Pongo pygmaeus morioの雌の繁殖(妊娠・出産・乳幼児の死亡数)を報告し、果実生産量が雌の繁殖に与える影響について考察する。ボルネオ島マレーシア領サバ州のダナムバレイ森林保護区内のダナム川の両岸2km2の一次林を調査地とし、2005年3月から2014年12月まで、毎月平均15日間、オランウータンを探索及び追跡した。また栄養状態を推定する為に、尿中のインスリン分泌能指標物質(C-Peptide)について、エンザイムイムノアッセイ法を用いて測定した。9年間で6頭の定住雌が8回の妊娠で7頭のアカンボウを出産した。うち1頭は出産直後に消失し、1頭が4歳で消失したが、他5頭は2015年12月末の時点で生存していた。また妊娠は2010年に集中(5/8)していた。測定の結果、発情している可能性が高い(非妊娠・非授乳中)雌でC-Peptideが最も高く、授乳中や妊娠中の雌では低い、という結果が得られた。C-Peptideは個体の栄養状態を反映し、栄養状態が良いと高値となる。従って(非妊娠・非授乳で)発情している可能性のある雌は、妊娠や授乳によって栄養的に負荷がかかっている雌よりも、栄養状態が良いことが確かめられた。発表では、月毎の果実生産量の変動の結果とあわせて、果実生産量が雌の繁殖に与える影響について考察する。

  • 松原 幹
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: A18
    発行日: 2016/06/20
    公開日: 2016/09/21
    会議録・要旨集 フリー

    種子散布は、霊長類の森林生態系における重要な役割のひとつとして注目されている。果実食者による種子散布後、その後の行方を調べた調査は数少ない。ニホンザルの糞に集まる二次散布者としてセンチコガネ類(丸橋, 2000; Enari, et al., 2001)が報告されている。屋久島ではシカによるサル糞食が見られる(揚妻 & 揚妻-柳原, 2006; Nishikawa & Mochida, 2010)。げっ歯類やヤクジカ等の動物による糞中種子食の頻度や時間帯を調べるために、カメラトラップ調査を行った。2015年10~12月に屋久島西部地域でサル糞を採集し、サル糞内の長径3mm以上の種子を除去後、着色した種子を各糞100個ずつ埋め込んだ(以下、調整糞と呼ぶ)。サル糞から噛み砕かれずに出た種子から長径3mm以上の植物種を4種(カラスザンショウ、ハゼノキ、モッコク、シラタマカズラ)選び、それらの果実から種子を摘出、果肉・果皮を除去した種子を用いた。森林内に各植物種につき実験区を5つ設置し、各実験区に1)シカ避けカゴを被せた調整糞、2)小動物避けカゴを被せた調整糞、3)センチコガネ類避けカゴを被せた調整糞、4)着色種子、5)無着色種子、6)カゴなしの調整糞を置き、実験区のある地表面に向けてカメラトラップを設置し、訪問動物を撮影した。設置から3日後(実験区A)、1週間後(実験区B)、1ヶ月後(実験区C)に残存種子数を確認した。実験区Cにカメラトラップを設置した。ヤクジカのサル糞食は設置から24時間以内に実験区の90%以上で確認された。サル糞に混ぜなかった種子の半数以上は、1ヶ月後、実験区内で再発見された。このことから、この地域ではサル糞がシカを誘引することで、シカによるサル糞内種子被食率が増加すると推測された。また、げっ歯類等の他の動物の訪問・行動についても報告する。

  • 辻 大和, Jenni INDAH, 北村 俊平, Kanthi Arum WIDAYATI, Bambang SURYOBROTO
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: A19
    発行日: 2016/06/20
    公開日: 2016/09/21
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    コロブス類は「リーフモンキー」とも呼ばれるように、葉食専門の霊長類だと考えらえてきた。しかし近年、多くのコロブス類で果実食が観察され、ゆえにコロブス類はマカク類・グエノン類・類人猿と同様、熱帯林の有効な種子散布者として機能している可能性がある。この点を検証するため、2011-2013年にインドネシア・ジャワ島のパガンダラン自然保護区ならびにジャカルタのラグナン動物園でジャワルトン(Trachypithecus auratus)を対象に調査/実験を行い、1)糞分析、2)野生のルトンの土地利用パターンと、動物園で行った給餌実験の結果を組み合わせた散布距離の推定、3) 排泄場所のマイクロハビタットの調査、4)発芽実験を実施した。一年間に集めた240個の糞からは7種の植物の種子が出現した。とくにイチジク類(Ficus spp.)が多く含まれていた。ルトンが果実と共に飲み込んだ種子は、24-96時間後に排泄され(平均47時間)、この時間に野生個体が移動した距離は1-299mだった。以上の結果から種子の散布距離を推定したところ、49%の種子が100m以内、92%の種子が200m以内の場所に散布されていた。排泄場所は採食場所に比べて開空度が低く木の生育密度が高いという特徴があった。最後に、ルトンに飲み込まれた種子の発芽率はコントロールと比べて低く、マカク類に飲み込まれた種子の発芽率とは違いがなかった。1)散布する植物の多様性の低さ、2)散布距離の短さ、3)散布場所の開空度の低さ、4)飲み込まれた種子の発芽率の低さという特徴から、個々の種子の適応度に対するルトンの相対的な有効性は低いと考えられたが、森林バイオマスにしめる割合の大きさを考慮すると、ルトンは森林生態系の中で一定の役割を果たしていると考えられる。ゆえに、森林と果実食者の関連性を評価する際は、コロブス類による種子散布についても考慮することが重要だろう。

  • 五百部 裕, 田代 靖子
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: A20
    発行日: 2016/06/20
    公開日: 2016/09/21
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    ヒト以外の霊長類、とくに真猿類の多くは雑食であり、植物性食物に加えて動物性食物も摂取している。そして主要な動物性食物は昆虫をはじめとする無脊椎動物であることが多い。しかしながら、ヒト以外の霊長類が鳥類や哺乳類の肉をまったく食べないわけではなく、多くの種で肉食行動は観察されている。アフリカに生息する霊長類種の中では、ヒト科のチンパンジーによる肉食が有名である。しかし樹上性グエノン類においてもこの行動は観察されている。ウガンダ共和国カリンズ森林には、3種の樹上性グエノン類(レッドテイルモンキー、ブルーモンキー、ロエストモンキー)が生息しており、これまでの観察で3種すべてにおいて肉食行動が観察されている。さらに2015年8月に、ロエストモンキーにおいて、肉食行動に加えて肉を分配する行動を初めて観察した。この事例では、ネズミ(種不明)を採食していたおとなオスが、発情していたわかものメスに肉を分配することが観察された。この事例は、ロエストモンキーにとどまらず、樹上性グエノン類における肉の分配行動に関する初めての観察例であると思われる。本報告では、この事例を中心に樹上性グエノン類における肉食行動やその分配行動の意義について考察する。

  • 保坂 和彦, 桜木 敬子
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: A21
    発行日: 2016/06/20
    公開日: 2016/09/21
    会議録・要旨集 フリー

    マハレのチンパンジー研究が50周年を迎えた2015年の8月20日朝、通算14例目にあたるカニバリズム(子殺しだけの観察を除く)がM集団で観察されたため速報する。犠牲者は生後間もない乳児(♀)である。母親は不明であるが、現場で採取した頭蓋骨片の輸入手続きが終わり次第、M集団のDNAバンクを扱う研究者の協力を得て、DNAによる親子判定を進めたい。本発表では、約3時間の映像写真資料を用い、肉を所持したアルファ雄PRと周囲個体との社会的相互作用を分析した結果を報告する。PRは、観察者が騒ぎを聞きつけた時点から死体を食べ始めるまでの約5分間、周囲の雌からwraaやbarkを浴びながら、死体を口に銜えたまま河原をcharging displayした。騒ぎが収まった後、PRは河原に座り死体を頭からかじり始めた。PRが樹上に位置を移すと、年寄り雌NKが近づいてきて物乞いを始め、僅かな肉片を獲得した。その他の雌は距離を置いて観察するか、河原に落ちてくる骨片の拾い食いを始めた。騒ぎが聞こえる範囲にいたオトナ雄2頭は現場には近づかず、ワカモノ雄1頭だけが拾い食い集団に加わった。PRは約2.3時間かけて死体が皮になるまで食べきった。その皮は妹PFが譲り受けた。集団内カニバリズムの観察は1995年の事例を最後に途切れていたが、昨年のPSJ大会で西江が約20年ぶりの事例を報告した。今回の新事例は、わずか8ヶ月半後の出来事であった。偶然の可能性も排除できないが、新生児をねらったカニバリズムが一時的に流行した可能性も否定できない。マハレにおけるカニバリズムは犠牲者が♂に大きく偏り、犠牲者の性別が判明している13例中2例だけが♀である。かつて、集団内の性的競争者を減らす社会性比調節機構としての子殺しが論じられた経緯があるが、カニバリズムが減った過去20年間も社会性比に大きな変化はなく、今その存在を主張する根拠は乏しい。代替仮説として、肉食それ自体がカニバリズムの動機づけとなりうることを論じる。

  • 西江 仁徳
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: A22
    発行日: 2016/06/20
    公開日: 2016/09/21
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    2014年11月に、タンザニア・マハレM集団のチンパンジーが、地中の穴の中にいるセンザンコウに遭遇した事例を報告する。ギニア・ボッソウのチンパンジーはキノボリセンザンコウを捕食することが知られているが、これまでマハレではチンパンジーとセンザンコウの遭遇事例の報告はない。今回の観察では、マハレM集団全65個体(当時)のうち20個体が、地中の穴の中にいるセンザンコウに対して何らかの働きかけをおこなった。このうち、穴の中を覗き込んだだけの個体が17個体、さらに穴に枝を挿入した個体が3個体、さらにそのうち2個体は自分の腕を穴の奥に突っ込んだ。穴の中を覗き込むさいには、穴に顔を突っ込む個体も多く見られた。穴に枝を挿入した3個体は、1個体がオトナオス、2個体がワカモノオスで、最初にオトナオスが枝を挿入したあと、ワカモノオス2個体が引き続いて枝の挿入をした。穴の中に腕を突っ込んだのはこのワカモノオス2個体で、いずれも覗き込みや枝挿入をしたあとに腕の挿入をおこなった。穴に挿入した枝は4本回収し、最長のもので約4メートル(基部の直径≒1.5センチメートル)、最短のもので約50センチメートル(基部の直径≒1.2センチメートル)だった。チンパンジーはセンザンコウに対しておおむね新奇な対象を探索するような反応をしていたことから、マハレではチンパンジーとセンザンコウはふだんから互いに出会うことがほとんどなく、ボッソウのような捕食/被食関係にはないことが示唆される。

  • 坂巻 哲也, 徳山 奈帆子, 古市 剛史
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: A23
    発行日: 2016/06/20
    公開日: 2016/09/21
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    社会組織が入れ子状の重層構造を成すのは、人間社会の卓越した特徴の一つである。他の霊長類で重層的な社会は、ヒヒ類の一部とアジアのコロブス類の一部で知られる。それらの形成には複雄複雌集団にOMU(one-male unit)が生じた過程と、複数のOMUが集合した過程が想定され、選択圧としては食物パッチの分散、捕食圧、同種のハナレオスの脅威が考えられる。多くの霊長類で集団間関係が拮抗的な中で、ヒトに近縁なパン属のボノボでは、ときに異なる集団同士が出会い融合することが見られる。このようなボノボ社会では、単位集団と呼ぶ社会組織の輪郭はどのように保障されるのか。また、複数集団を包括する上部構造を措定するには、集団間関係にどのような条件が必要と考えられるのか。本研究では、コンゴ民主共和国にある調査地ワンバのボノボ集団の分布を報告する。1970年代から同定されているE1集団と2010年に集中調査を再開したPE集団は、全個体が識別され、ベッドからベッドまでの終日追跡を継続している。PE集団の西に隣接するPW集団は、時々の調査とPE集団と出会った時の観察を繰り返す中で人づけが進み、全個体が識別された。その西に隣接する集団も時々の調査を繰り返し、2015年には集団の輪郭がだいぶ明らかとなり、BI集団と名づけた。これらの集団のサイズ、遊動域、社会性比について報告する。集団内で見られる安定したサブグループ、集団間の出会い頻度、集団間の個体の移籍についても結果を提示する。集団の輪郭を見定めるには、メンバーシップの安定性がほぼ唯一の重要な点であった。複数の集団を自由に行き来するのは集団間を移籍する若いメスだけであり、集団に所属しないハナレ個体は認められなかった。これまでに、集団を超えた協力を示唆する観察事例が得られている。

  • 伊谷 原一, 岡安 直比, 山本 真也, 新宅 勇太
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: A24
    発行日: 2016/06/20
    公開日: 2016/09/21
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    ボノボ(Pan paniscus)は、コンゴ民主共和国(DRC)に固有の大型類人猿であるが、その調査研究は、主な生息域である同国中央部の熱帯雨林で行われてきた。他方、2006年にWWFが行った、同国西部のトゥンバ湖ランドスケープの広域調査において、推定5000~7500個体(総個体数の25~30%)という、まとまったボノボの個体群の存在が確認された。この西個体群分布域の南西端に位置するマレボ地域では、WWFの支援を受けた地元の環境保全NPO・Mbou-Mon-Tourがすでにボノボの人付けを試みているが、主目的はエコツーリズム振興であり、本格的な学術調査は行われていない。そこで発表者らは、2013年に同地域においてボノボの社会生態学的研究と保全に向けた調査に着手した。マレボ地域には複数集団の存在が確認されており、そのうちのNkala集団の14個体とMpelu集団の16個体はすでに個体識別されている。この地域では伝統的にボノボの狩猟がタブーとされてきたことから、ボノボはあまり人を恐れず、人付けは比較的スムーズに進んだ。その一方で、2013年と2014年には、人獣共通感染症による複数個体の死亡が確認されている。また同地域は保護区ではないことから、罠によって手足の指を欠損しているボノボが多く、ボノボ以外の野生動物相も乏しい。マレボ地域の植生は川辺に広がる熱帯林と湿性草原が混交した、ボノボの生息地としては特異な環境であるが、彼らは熱帯林だけでなく湿性草原も頻繁に利用していることが確認された。この環境適応に関する新たな知見が蓄積されれば、ヒト科の環境適応や進化の違いについて、より議論が深められると期待できる。さらに、保全の観点からみると、より広範な西個体群の生息密度や分布域などを把握することも重要である。ボノボはコンゴ盆地の熱帯雨林生態系の頂点に立つ、生物多様性の指標である。また種子散布などを通じて熱帯雨林の更新に中心的な役割を果たしていることから、その保護は熱帯雨林の保全に直結する。保護に向けたモニタリングや施策の導入プロセスとして、広域調査体制の確立も検討したい。

  • 山越 言, 森村 成樹, 松沢 哲郎
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: A25
    発行日: 2016/06/20
    公開日: 2016/09/21
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    ギニア共和国ボッソウでは、1976年より同村周辺を生息域とするチンパンジー一群の長期継続観察が行われてきた。研究開始当初から個体数は約20個体で推移して来たが、2003年の感染症によりほぼ3/4の個体が失われた。その後も個体数は減少を続け、2016年4月現在で8個体を残すのみである。また、8個体のうち半数は老齢個体であり、近い将来、個体数がさらに半減する可能性が高い。2013年末に発生したエボラウィルス病による研究中断を挟み、2015年末から研究活動を再開したところであるが、現状においてギニア政府筋からは、個体群の「持続性」の担保をもくろみ、同国内のサンクチュアリ施設からの個体導入の検討を強く求められている。ボッソウのチンパンジー個体群の存続のために何ができるのか,という問いを真剣に検討する時期に来ているといえる。周辺群との個体の移出入の促進と近親交配回避の現状、地域個体群の遺伝子の「真正性」の維持、道具使用等の地域文化の継続性、地域住民の観光資源となっている社会的継続性の問題など、この問題に影響を与える要因は多様である。ギニア政府からの要望にどのように対処するかも含めた当面の対策として、観察者との接触頻度を抑え、過剰な人馴れを防ぐことで周辺群からの移入を促すという暫定的方針を提案する。1970年代以降、「地域絶滅」していたオナガザルが、エボラによる中断期にボッソウの森で確認されたことをひとつの希望と考えたい。

  • 一色 真理子, 石田 貴文
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: B01
    発行日: 2016/06/20
    公開日: 2016/09/21
    会議録・要旨集 フリー

    多くの哺乳類の精液は射精後、凝固と液化の二相を示す。精漿の主要構成分であるセメノジェリン1,2(SEMG1,2)は精液の凝固を担うことが知られているが、霊長類においてそのアミノ酸長は多様に変化している。SEMGのアミノ酸長と凝固度、並びに、精子競争の強さには正の関係があることが先行研究において示唆されており、これまでヒトやアフリカの大型類人猿を中心に霊長類のSEMGについて調べられてきたが、小型類人猿については詳細な解析が未だなされていない。本研究ではテナガザル科4属のうち3属6種51個体{Hylobates lar(N=28)、Hylobates agilis(N=2)、Hylobates pileatus(N=6)、Symphalangus syndactylus(N=11)、Nomascus leucogenys(N=3)、Nomascus gabrillae(N=1)}についてSEMG2遺伝子の塩基配列を決定した。その結果、SEMG2の長さは属レベルで異なることが分かった。Symphalangus属、Nomascus属のSEMG2はヒトや大型類人猿と同様、IIIa-IIa-IIb-Ia-Ib-Ic-Id-IIIbという8つのドメインから構成されるが、Hylobates属のSEMG2のドメイン構造はIIIa-IIa-IIb-Ia-Ib-Id-IIIbとなり、ドメインIcが欠失していることが確認された。配列中にストップコドン、及び、フレームシフト変異は見られず、属内あるいは種内におけるSEMG2の長さの多型も見られなかった。また、属間で塩基多様度を比較すると、ゲノム中の他部位に関する先行研究同様にHylobates属がSymphalangus属、Nomascus属の2属に比べ有意に大きな値を示した。

  • 林 真広, C. C. Veilleux, E. C. Garrett, A. D. Melin, 今井 啓雄, 河村 正二
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: B02
    発行日: 2016/06/20
    公開日: 2016/09/21
    会議録・要旨集 フリー

    味覚・嗅覚・フェロモン知覚などの化学物質感覚(ケミカルセンス)と視覚は相互に関連して進化してきたと考えられ、中でも味覚は食性の影響を受け、味覚受容体遺伝子の機能や数を変化させてきたことが予想されている。しかし、霊長類全体として食性と味覚の関連性はまだ明らかでなく、特に多様な食性を持つ新世界ザルの味覚はほとんど調べられていない。新世界ザルは多くの種で種内に2色型色覚と3色型色覚の多型があり、種間においても色覚型が異なることが報告されている。また、色覚はケミカルセンスの中でも嗅覚との関係はよく研究されているが、味覚との関連に関する研究は少ない。そこで本研究では食性や色覚が多様な新世界ザルを対象に、味覚受容体のうち視覚センサー(オプシン)や嗅覚受容体と同じGPCRファミリーに属する旨味・甘味受容体(TAS1Rs)と苦味受容体(TAS2Rs)について、遺伝子の種間相違と種内変異を明らかにすることを目的とした。種間相違を調べるために、新世界ザル全3科と多様な色覚型を網羅して、フサオマキザル(オマキザル亜科:3アリル2-3色型色覚)、セマダラタマリン(マーモセット亜科:3アリル2-3色型色覚)、アザレヨザル(ヨザル亜科:1色型色盲)、チュウベイクモザル(クモザル亜科:2アリル2-3色型色覚)、マントホエザル(ホエザル亜科:恒常3色型色覚)、ダスキーティティ(ティティ亜科:3アリル2-3色型色覚)を対象に、各1個体の高純度ゲノムに対するTAS1RsTAS2Rsのターゲットキャプチャーと次世代シークエンシングを行った。一方、種内変異を調べるために、ノドジロオマキザルとチュウベイモザルの野生群を対象に、糞サンプルから抽出したDNAを用いて、リガンド感受性の幅が異なることがヒトで知られている一部のTAS2R遺伝子(TAS2R3,5,10,38)に対し、PCRとサンガーシーケンシングを行った。本発表ではその経過について報告する。

  • 西 栄美子, 筒井 圭, 今井 啓雄
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: B03
    発行日: 2016/06/20
    公開日: 2016/09/21
    会議録・要旨集 フリー

    味は食物が採食者に対しどのような影響を与えるかを示す情報である。脊椎動物はそれぞれの食性に合わせて味覚受容体の機能を変化させることで多様な味覚を獲得してきた。中でも甘味は栄養価の高い糖が食物中に含まれることを意味するため、ヒトをはじめ多くの霊長類が甘味を好むことが知られている。天然に存在する糖の中でヒトが最も強い甘味を感じる糖はスクロースである。このことから、ヒト以外の多くの霊長類でも行動実験によるスクロース感受性の測定が行われており、霊長類種間で甘味を感じる濃度が異なることが確かめられている。これらの感受性の違いは甘味受容体を構成するサブユニットTas1R2/Tas1R3におけるアミノ酸配列の種間差が原因だと考えられているが、甘味受容体機能と甘味感受性の関連性について直接比較を行った研究は少ない。また、ヒト以外の霊長類が野生下で採食する食物にはスクロースはほとんど含まれていない。そこで、本研究では葉・果実・樹皮など食性の幅が広いニホンザルに焦点をあて、野生下の採食行動における甘味感覚の役割を解明すべく分子レベルと行動レベルにおける実験を行った。まず甘味受容体機能を調べるため、ニホンザルのTas1R2/Tas1R3を強制発現させた培養細胞を用いて様々な天然の糖類に対する応答を測定した。その結果、ヒトのTas1R2/Tas1R3では応答を示さない糖に対し、ニホンザルのTas1R2/Tas1R3では低濃度でも強い応答を示すことが分かった。さらに飼育下のニホンザル4個体の同溶液に対する感受性を二瓶法によって測定したところ、受容体が応答し始める濃度と同程度の濃度から積極的に溶液を摂取するようになる結果が得られた。これらの特定の糖に対する高い感受性、及び受容体機能はニホンザルが高栄養価の食物を選択し、積極的に採食するのに役立っている可能性がある。今後、食性の異なる霊長類と甘味受容体機能を比較することで、霊長類の甘味感覚と食性の関連性について調べる予定である。

  • 直井 工, C. C. Veilleux, E. C. Garrett, 松井 淳, 新村 芳人, A. D. Melin, 東原 和成, ...
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: B04
    発行日: 2016/06/20
    公開日: 2016/09/21
    会議録・要旨集 フリー

    霊長類は3色型色覚の進化に伴い、嗅覚を退化させたと解釈されてきたが、近年の全ゲノムデータの整備に伴い、恒常的3色型色覚の狭鼻猿類と多型的色覚の広鼻猿(新世界ザル)類の間ではORの機能遺伝子数や偽遺伝子数に大きな違いがないことがわかっている。新世界ザルは食性や色覚の多様性が顕著であるため、嗅覚と食性や色覚との関連を検証するのに適している。しかし、全ゲノムデータの公開されている少数の種を除いて、新世界ザル類のOR遺伝子レパートリーは未解明である。そこで本研究は、新世界ザル全3科と多様な色覚型を網羅して、フサオマキザル(オマキザル亜科:3アリル2-3色型色覚)、セマダラタマリン(マーモセット亜科:3アリル2-3色型色覚)、アザレヨザル(ヨザル亜科:1色型色盲)、チュウベイクモザル(クモザル亜科:2アリル2-3色型色覚)、マントホエザル(ホエザル亜科:恒常的3色型色覚)、ダスキーティティ(ティティ亜科:3アリル2-3色型色覚)を対象に、各1個体の高純度ゲノムに対して、真猿類のOR遺伝子の全571orthologous gene groupのターゲットキャプチャーと次世代シークエンシングを行った。一方、種内変異を調べるために、ノドジロオマキザルとチュウベイクモザルの野生群を対象に、リガンド感受性の幅が異なることが他の哺乳類で知られている、一部のOR遺伝子(OR1A1,OR51L1,OR2A25)に対して、PCRとサンガーシーケンシングを行った。本発表ではその経過について報告する。

  • 遠藤 瑞輝, 白須 未香, R. E. Williamson, O. Nevo, A. D. Melin, 東原 和成, 河村 正二
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: B05
    発行日: 2016/06/20
    公開日: 2016/09/21
    会議録・要旨集 フリー

    霊長類は、視覚や聴覚、嗅覚といった感覚を通じて外界の情報を認知している。中でも視覚に関する知見は多く、3色型色覚を持つ霊長類は、遠方の果実などの食べ物を見分ける際に有利であると考えられてきた。しかし、近年の研究から従来の視覚重視の考えに疑問が持たれるようになってきた。オマキザルやクモザルの野外観察の結果、自然界で背景となる葉と視覚上のコントラストが低い果実ほど頻繁に匂い嗅ぎを行い、果実の成熟を判断しているという結果が得られている。しかし、霊長類が食する果実の匂い成分が、成熟に応じてどのように変化しているのか、またこれらの匂いが霊長類の果実の選好性にどのように関与しているのかは、未知である。匂いの他にも、果実は、成熟に応じて色や大きさ、固さなどの様々な性質を変化させることが知られており、霊長類が、果実採食においてどのような特徴を重視し、選択するのかを解明することは、霊長類がどのような感覚を使って採食するのかを理解するうえで非常に重要である。そこで私たちはコスタリカのグアナカステ保全区内サンタロサ地区において、色覚多様性が既知であるノドジロオマキザル(Cebus capucinus)が実際に食する果実の採集を行った。果実は、シリカ母材のカーボングラファイト含有である吸着剤とともに密閉したオーブンバッグに入れ、匂いを捕集した。果実1種につき成熟段階ごとに3段階に分け、それぞれ5回ずつ匂い捕集を行った。現在、4種の果実の成分分析、及び分析結果を基にした主成分分析までが完了している。その結果、いくつかの果実において、成熟段階に応じて果実の揮発性有機物(VOC)の総量や組成が変化していることわかった。また、種によっては熟度による色の変化よりも匂いの変化の方が大きいという結果も得られている。今後より詳細な解析と検討が必要だが、今回の分析の結果、果実の匂いが霊長類の採食行動に大きな手掛かりとなっていることが予想される。

  • 平松 千尋, Amanda D. MELIN, William L. ALLEN, Constance DUBUC, James P. HI ...
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: B06
    発行日: 2016/06/20
    公開日: 2016/09/21
    会議録・要旨集 フリー

    霊長類の3色型色覚は顔色変化などの社会的シグナルの検出に最適化されているという仮説が提唱されている。そこで、排卵周期と同期して繁殖可能時期に赤く暗くなる雌のアカゲザルの顔色に着目し、この仮説を検討した。ヒトを対象とし、同一個体の排卵期と非排卵期の顔写真を呈示し、どちらが排卵期の顔かを選択させる実験を行った。一般3色型色覚の見え方に加え、色覚をシミュレートするプログラムを用い、S、M、L錐体のいずれかを欠損した2色型色覚、M錐体とL錐体の波長感受性領域が一般3色型よりも近い3色型、S、M、L錐体の感受性領域が均等に離れた3色型色覚を模擬した。その結果、一般3色型とM、L錐体の感受性領域が近い3色型では、2色型よりも速く正確に排卵期の顔を選択することができた。しかし、S、M、L錐体の感受性領域が均等に離れた3色型の成績は2色型と同様であった。また、2色型よりも有利な3色型条件では、顔の赤みを明示的な選択の手がかりとしていたが、反応速度は顔の暗さとより相関していた。結果を総合すると、霊長類の3色型色覚は、2色型色覚よりも顔色変化検出に適していることが示唆された。よって、社会的シグナルの知覚および検出は、霊長類の錐体波長感受特性を保持する要因であるかもしれない。しかし、M、L錐体の感受性領域が近い3色型条件においても一般3色型と同等な反応を示したことから、必ずしも繁殖に関連した顔色変化の検出に最適化されているわけではないと考えられる。

  • 三上 章允, 今井 啓雄, 辻 大和, 西 栄美子, 早川 卓志, Kanthi Arum WIDAYATI, Bambang SURYOB ...
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: B07
    発行日: 2016/06/20
    公開日: 2016/09/21
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    狭鼻猿類はヒトと同様、網膜視細胞に3種類の錐体視物質を持つ3色型色覚である。ヒトでは3種類の視物質のうち長波長(赤)、および、中波長(緑)の遺伝子はX染色体上にタンデムに並んでいる。また、アミノ酸配列も長波長と中波長の視物質は96%相同である。そのため、どちらかが容易に欠損し、2色型色覚の男性は5-8%に達している。一方、ヒト以外のアジア・アフリカの霊長類では2色型は1998年まで見つかっていなかった。その理由として2色型は自然環境では生息が困難であると説明されてきた。しかし、われわれはインドネシアのパンガンダラン地区において、1998年に色盲のカニクイザル個体を発見した。2色型個体が自然環境で生息困難であるかどうかを確認するため、2011年から2015年にかけて、かって2色型個体が生息していたパンガンダラン地区において、カニクイザルが餌としている食べ物を調べた。また、彼らが餌とする植物を採取し、その分光分析を行うことにより餌となる直物の色環境を調査した。その結果、カニクイザルは植物の果実や若葉以外に、草の根や茎、蟹、魚など多様な餌を食料としていること、また、餌となる果物や若葉の大部分は、2色型個体が識別困難な色味の違いの手掛かりがなくても、明るさの違いや識別可能な色味の違い、表面性状の違いなどがあり、2色型個体にとって特に識別困難な条件はほとんど存在せず、2色型であることで生存が困難になる環境ではないことが示された。

  • 香田 啓貴, 森田 尭, 小林 智男, 宮川 繁
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: B08
    発行日: 2016/06/20
    公開日: 2016/09/21
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    テナガザル類の音声は、複数の単一音素が繰り返し連続され長時間にわたり続く系列構造を示すことから、鳴禽類や鯨類などの発声と同じように、「歌」と呼ばれている。また、これまでの研究から、テナガザルの歌の機能には縄張りの防衛や夫婦間の絆を強めるといった機能が知られており、この点においても鳴禽類の歌と類似していると考えられてきた。しかし、鳴禽類の歌の複雑性は、単一音素が組み合わされた構造であるフレーズといった上位の構造が、組み換えを起こすような系列規則にあるとも考えられており、鳴禽類や鯨類で指摘されるような歌と相同な現象であるかについては疑問が残る。そこで、我々はズーラシアに飼育されているボウシテナガザルを対象に、その音声を長時間にわたり録音し系列音素の遷移確率を計算し、ヒトの言語と鳴禽類の歌の比較研究で指標とされてきた形式言語理論的区分(cf. Chomsky Hierarchy)に基づき、予備的にその複雑性について検討した。その結果、一見複雑そうに見えるボウシテナガザルの音系列は、直前の音素にのみ依存して次の音素の出現確率が決定されるBigramで大部分が記述でき、ほとんどが2音の簡潔な遷移の繰り返しで表現され、鳴禽類の歌で見られるフレーズの組み換え構造や、ヒト言語で顕著な入れ子構造は見当たらなかった。以上の結果から、テナガザルの歌について、その特徴を整理するとともに鳴禽類の歌の再評価も併せて行い、動物の歌の系統的な理解について今後どのような研究が望まれるかについて検討したい。

  • Jie GAO, Yanjie SU, 友永 雅己, 松沢 哲郎
    原稿種別: Oral Session
    セッションID: B09
    発行日: 2016/06/20
    公開日: 2016/09/21
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    This study investigated the ability of chimpanzees (Pan troglodytes) to understand non-transitive relationships by training them in the rules of the Rock-Paper-Scissors (RPS) game. Seven chimpanzees were trained to perform a computer-controlled discrimination task. Each task used two figures, representing two of the three elements in each trial, which were completed in the following order: Paper-Rock sessions; Rock-Scissor sessions; Scissor-Paper sessions; and finally, mixed-pair sessions. The chimpanzees received a food reward every time they chose the correct figure. They had three sessions of 48 trials each day. On average, they received 339 training sessions. Four of the seven chimpanzees completed training. Three of them then received generalization tests using different stimuli with the same circular relationship, and one of the three passed the new task in 23 sessions. These results suggest that chimpanzees could learn about non-transitive relationships, and they are able to generalize this circular concept to new stimuli.

  • 齋藤 亜矢
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: B10
    発行日: 2016/06/20
    公開日: 2016/09/21
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    チンパンジーは、採食などの特定の目的と結びつかない自発的な物の操作をおこなうことがある。この一見無駄にも思える行動の背景を明らかにするため、新奇物に対する物の操作を分析した。対象は、京都大学野生動物研究センター熊本サンクチュアリのチンパンジー58個体(5~44歳、11群)とした。各運動場に長靴、デッキブラシ、鈴、布などの18個の新奇物を設置して、群れごとに放飼し、120分の観察のなかでの新奇物に対する行動を随時記録した。その結果、物の形状に依存しない単純な探索的操作(例:触る、匂いを嗅ぐ)にはじまり、物の形状に依存した探索的操作(変形、身体への定位、他の物への定位をともなうもの)が多く観察された。繰り返しの操作も多く、たとえば「長靴を倒して起こす」繰り返しのなかでも、微妙に力加減を変えて倒し方を変えるなど「シェマの調節」がされていた。また「ホースを天井格子にかけてぶら下がった後に、長靴を天井格子にかける」など、同じシェマを別の物に試みる「シェマの同化」もおこなわれていた。さらに「長靴のなかに鈴を入れて、上下にふって音を出す」など、一度に複数の物や動作シェマ(行動の枠組み)を組み合わせた複雑な操作も観察された。したがって、チンパンジーが既存のシェマの調節や同化を自己強化的におこなうことで、多様なシェマを獲得し、物の操作の可能性を把握していることが示唆された。このことは「〇〇するもの」というカテゴリーの生成にもつながり、道具使用や、物の表象的な理解の土台にもなるのではないかと考える。実際に、より表象的な操作とされる「ふり」遊びも観察された。たとえば「ホースの先をバケツの中に入れたまま持ち、水をためるような操作」や「ブラシを紙の上に定位するおえかきのような操作」などである。物を見て、一連の操作のイメージが想起されていることが示唆される。実際の観察場面を紹介しながら、これらの考察について論じたい。

  • 落合 知美
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: B11
    発行日: 2016/06/20
    公開日: 2016/09/21
    会議録・要旨集 フリー

    日本には、全国各地に動物園がある。それら動物園の運営形態は様々であるが、民間所有の動物園には、私鉄が運営する「電鉄系動物園」がある。これらの動物園は、私鉄沿線に作られ、公立動物園とは異なる発展を遂げてきた。関西地方においても、複数の私鉄が動物園を所有し、そこで大型類人猿を飼育してきた。しかし、2000年に入るといくつかの動物園は閉園し、残る電鉄系動物園も大型類人猿を飼育することはなくなった。そのため、飼育されていた大型類人猿の情報が紛失したり、確認が難しい状況となっている。そこで、関西の電鉄系動物園の成り立ちや歴史を調べるとともに、そこで飼育された大型類人猿の情報収集を試みた。調査は、文献調査を中心としておこなった。公益社団法人日本動物園水族館協会が発行する年報や国内血統登録書、文部科学省ナショナルバイオリソースのデータベース、図書館の郷土資料、地域の過去の新聞などを確認した。調査の結果、関西の電鉄系動物園の始まりは、1907年に阪神電気鉄道が開いた香櫨園大遊園地だろうと推測された。香櫨園大遊園地には、動物園のほか、ウォーターシュートや音楽堂などの施設もあった。1910年には、箕面有馬電気鉄道が箕面動物園を開園し、そこではボルネオオランウータンが飼育された。当時の記録には「佛領ボルネオ産の大ゴリラ」との記載がある。その後、京阪電気鉄道、阪急電気鉄道などが動物園を開園した。これら電鉄系の動物園は、沿線開発の一環として、都市と都市をつなぐ沿線に作られ、大型類人猿は珍しい動物として集客に使われていた。開園時期は、蒸気機関車から電車に変化し、都市間を走る私鉄が増加した時代である。一方、2000年代に入り電鉄系動物園の閉鎖が相次いだのは、沿線の宅地開発が終わった時期である。沿線に動物園を所有する意味や、大型類人猿を飼育する理由が時代とともに変化したことが大きな原因になったと推測された。

  • 木下 こづえ, 奥村 文彦, 星野 智紀, 廣澤 麻里, 坂口 真悟, 綿貫 宏史朗, 岡部 直樹, 木村 直人, 伊谷 原一, 鵜殿 敏史 ...
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: B12
    発行日: 2016/06/20
    公開日: 2016/09/21
    会議録・要旨集 フリー

    通常、多くの動物種において、授乳期間中は発情が回帰しないことがよく知られている。チンパンジーは周年性多発情動物であり、発情ホルモン濃度に関連して性皮が腫脹する。また、他の動物種と同様に、妊娠および授乳期間中は発情が休止し、性皮の腫脹はみられない。そして、発情回帰は出産からおよそ3年後にみられる場合が多いとされている。しかし、日本モンキーセンターにて飼育されている雌(マルコ:#0582)において、授乳行動が観られているにもかかわらず、出産後75日目に性皮の腫脹が観察され、83日目には交尾行動も確認された。これほど早期に発情が回帰した例は稀であり、その後の性皮腫脹の周期も安定していた。本研究では、授乳期間中の性皮腫脹時の内分泌動態を明らかにするため、尿中発情ホルモン代謝産物(E1G)および黄体ホルモン代謝産物(PdG)濃度動態を酵素免疫測定法により調べた。また、霊長類研究所で飼育されている他の雌3個体(アイ:#0434、パン:#0440、クロエ:#0441)の出産後および発情回帰時の尿中E1GおよびPdG濃度も測定し、動態比較を行った。その結果、授乳中に性皮腫脹が観られた期間、性皮腫脹の増減に伴って尿中E1GおよびPdG濃度動態に周期的な変化が見られた。本種のホルモン動態は、通常の発情周期であれば、尿中E1G濃度ピーク日直後に排卵が起こり、卵巣では黄体が形成される。そして、黄体期は黄体ホルモンに加えて発情ホルモン濃度も上昇することが知られている。しかし、マルコの授乳期間中におけるホルモン濃度動態では、黄体期におけるE1G濃度の上昇は認められず、PdG濃度しか上昇が見られなかった。また、黄体形成ホルモンにおいても陰性反応しか得られず、排卵は起こっていなかったと考えられた。よって、授乳期間中の性皮腫脹では、腫脹の周期に合わせて尿中E1G濃度も周期的な変化を示し、交尾行動も観られたが、黄体期のホルモン濃度動態から排卵は伴っていなかったことが内分泌学的に示唆された。

  • 橋本 千絵, リュ フンジン, 毛利 恵子, 清水 慶子, 古市 剛史
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: B13
    発行日: 2016/06/20
    公開日: 2016/09/21
    会議録・要旨集 フリー

    ヒトでは、妊娠しても流産する割合が10%を超えるといわれている。ヒトに最も系統的に近いチンパンジー・ボノボでは、1回出産するために何回も発情周期を繰り返し、何百回も交尾を行うことが報告されているが、どうしてなかなか妊娠・出産に至らないのか、といったことについては詳しく研究されてこなかった。何らかの原因でなかなか妊娠に至らないのか、あるいは妊娠しても高い確率で流産しているのか。特に流産の多くを占めると思われる初期の流産に関しては直接観察が難しく、詳しい研究はされてこなかった。私たちは、野生ボノボとチンパンジーにおける排卵や流産について調べるために、糞や尿など用いた非侵襲的試料を使って、性ホルモン動態をモニタリングした。ボノボに関しては、コンゴ民主共和国ワンバ地区E1集団のボノボを対象に尿試料を採集した。チンパンジーに関しては、ウガンダ共和国カリンズ森林M集団のチンパンジーを対象に、尿試料と糞試料を採集した。私たちは、E1CL(エストロゲン代謝物)、PdG(黄体ホルモン代謝物)の測定を行い、直接観察によって得られた、性皮の腫脹、交尾の有無についてのデータと併せて分析した。予備的な分析の結果では、若い未経産のチンパンジーで初期の流産が見られ、流産の後すぐ発情し、再び妊娠していた。これまでの研究では、若いメスが発情を繰り返すもなかなか出産しない「青年期不妊」という現象が報告されていたが、本研究の結果から、若いメスは妊娠しないのではなく、流産しやすいのではないかということが示唆された。また、若いチンパンジーのメス以外にも、チンパンジー・ボノボにおいて、流産と考えられる例が観察された。本研究により、ボノボ、チンパンジーでも、ヒトと同じように流産が頻繁に起き、それが見かけの「妊娠しにくさ」につながっている可能性があることが示された。

  • Chiméne NZE NKOGUE, 堀江 真行, 藤田 志歩, Alfred NGOMANDA, 山極 壽一, 小原 恭子
    原稿種別: Oral Session
    セッションID: B14
    発行日: 2016/06/20
    公開日: 2016/09/21
    会議録・要旨集 フリー

    Adenoviruses are widespread in African great apes as well as in human population. Although recent studies have described the ancient gorillas to be the origin of the species Human mastadenovirus B, more comprehensive studies are still needed to unravel the mechanisms driving the evolution of adenoviruses. We conducted the surveillance of adenovirus infection in wild western lowland gorillas in Moukalaba-doudou National Park (Gabon), in order to investigate naturally occurring adenovirus in target gorillas and tested specifically a possible zoonotic transmission with local people inhabiting the vicinity of the park. Fecal samples were collected from western lowland gorillas and humans, and analyzed by PCR. We detected adenoviral genes in samples from both gorillas and the local people living around the national park respectively: the overall prevalence rates of adenovirus were 24.1% and 35.0% in gorillas and humans, respectively. Sequencing revealed that the adenoviruses detected in the gorillas were members of Human mastadenovirus B (HAdV-B), HAdV-C, or HAdV-E, and those in the humans belonged to HAdV-C or HAdV-D. Although HAdV-C members were detected in both gorillas and humans, phylogenetic analysis revealed that the virus detected in gorillas are genetically distinct from those detected in humans. The HAdV-C constitutes a single host lineage which is compatible with the host-pathogen divergence. However, HAdV-B and HAdV-E are constituted by multiple host lineages. Moreover there is no evidence of zoonotic transmission thus far. Since the gorilla-to-human transmission of adenovirus has been shown before, the current monitoring should be continued in a broader scale for gaining more insights about the naturally occurring adenoviruses which would be helpful for the safe management of gorilla populations and human health.

  • 岡本 宗裕, 吉川 禄助, 阪脇 廣美, 鈴木 樹理, 坂口 翔一, 兼子 明久, 中村 紳一朗, 三浦 智行, 宮沢 孝幸
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: B15
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/21
    会議録・要旨集 フリー

    近年、京大下霊長研および生理学研究所のニホンザル繁殖施設(以下生理研繁殖施設)において、原因不明の血小板減少症が流行し、多数のニホンザルが死亡した。我々は、疫学調査とニホンザルへの感染実験を行い、霊長研で発生したニホンザル血小板減少症の病因が、サルレトロウイルス4型であることを明らかにした。一方、生理研繁殖施設で発生した同症は、疫学調査の結果からサルレトロウイスル5型(以下SRV-5)との関連が強く示唆されていたが、病因の確定には至っていなかった。そこで、SRV-5のニホンザルへの感染実験を行い、SRV-5と同症の関連を調べた。発症個体から分離したSRV-5をin vitro培養し、2頭のニホンザルの静脈内および腹腔内に投与した。また、分離ウイルスから作製した感染性クローンも同様に2頭のニホンザルに投与した。投与後、血中の血小板数、ウイルスの有無を経時的に調べると共に一般性状、出血等を観察した。その結果、SRV-5ウイルスRNAは投与後8日目から確認され、その後実験終了までウイルス血症が持続した。血小板数は15日目まではほぼ正常値を維持していたが、それ以降培養ウイルスおよび感染性クローンを投与した各1頭で急激に減少し、24日目には1万以下となったため安楽殺した。また1頭は、22日目から血小板数が漸減し47日目には2万5千まで低下したが、その後回復し50日目以降はほぼ正常値で推移した。残りの1頭は、実験期間を通して血小板数の減少は認められなかった。そこで71日目より、生存中の2頭に対し免疫抑制剤としてデキサート2mg/kgを毎日筋肉内投与した。しかし、感染後100日まで血小板数の減少やその他の臨床症状は認められなかった。以上より、ニホンザル血小板減少症はSRV-5の単独感染で引き起こされることが確認された。一方で、感染個体の半数は無症候性のキャリアとして生存し、免疫抑制をかけても発症しなかったことから、発症・非発症には複数の宿主要因が複雑に絡み合っていると考えられた。

  • 西村 剛, 今井 宏彦, 松田 哲也
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: B16
    発行日: 2016/06/20
    公開日: 2016/09/21
    会議録・要旨集 フリー

    テナガザル類は、東南アジアの熱帯林の樹冠に生息する小型類人猿で、現在、Hylobates, Hoolock, Symphalangus, Nomascusの4属に分けられる。この4属に共通して、高いピッチの純音的で大きな音声で朗々と歌う「ソング」とよばれる音声行動で有名である。その音声は、ヒトのソプラノ歌唱と同様に、声道共鳴の第一フォルマントに声帯振動のピッチを合わせる発声・構音方法でつくられる。音声のピッチや大きさは、主として、喉頭にある声帯の振動によって決まり、その声帯振動は、声帯自身の弾性の高さと呼気流の勢いによって決まる。特に、声帯の弾性は、声帯の内部にある声帯筋の収縮に加えて、喉頭軟骨同士の位置関係の変化によって変わる。本研究は、テナガザル4属の摘出喉頭標本を高解像度MRIにより撮像し、その画像データをもとに喉頭声帯の形態学的特徴を多角的に比較し、その機能的適応を考察した。喉頭室は、Symphalangusは喉頭外に伸びて喉頭嚢を形成するが、それ以外の3属では喉頭内で嚢状にとどまる。前者は大型類人猿に共通するが、後者はヒトと共通する。テナガザル4属に共通して、声帯筋が薄く、披裂軟骨の長い声帯突起から伸びる声帯靭帯により、薄い声帯膜が形成される。また、気管軟骨が輪状軟骨の内側に入り込んで、声帯靭帯につながる弾性靭帯が短くて厚い。これにより、声帯膜の弾性は高く維持されやすい。さらに、披裂軟骨には、弾性靭帯側へ大きく膨らむ突起があり、披裂軟骨の内転により、声帯膜の弾性が高めるとともに、声門下の弾性靭帯部で気管径を狭める。これにより、声帯弾性を高めると同時に、呼気流の勢いを容易に強めることが可能である。これらの解剖学的構成は、ヒトや他の類人猿と共通するものの、その形態学的特徴は、高く大きな声帯振動を作り出すとともに、その急激な変化を容易にするのに適していると考えられる。

  • 荻原 直道, 中務 真人, 諏訪 元
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: B17
    発行日: 2016/06/20
    公開日: 2016/09/21
    会議録・要旨集 フリー

    距骨は、足部を構成する骨で最も近位に位置し、距骨滑車関節面により脛骨と、距骨下関節面により踵骨と、舟状骨関節面により舟状骨と関節する。したがって、距骨関節面の3次元配向は、脛骨に対する足部の相対的な姿勢と運動を規定しており、足部の形態、運動、機能の進化を考察する上で重要な情報を提供すると考えられる。そこで本研究では、現代人、現生類人猿(チンパンジー、ゴリラ、オランウータン)、化石人類(アルディピテクス、アウストラロピテクス・パラントロプス、中期更新世ホモ属)、化石類人猿(プロコンスル、ナチョラピテクス)の距骨関節面3次元配向の定量的比較を試みた。具体的には、光学式3次元形状計測器、もしくはCTスキャナーを用いて、各距骨について3次元形状モデルを計算機内に構築した。そしてプロクラテス法に基づいて各距骨を基準座標系に座標変換し、滑車関節面、後踵骨関節面には二次曲面を、舟状骨関節面は主軸を算出することで、各関節面の基準座標系に対する3次元配向を定量化した。3つの関節面の計9つの角度変量を用いて主成分分析を行った結果、化石人類・類人猿の距骨関節面の3次元配向の変異傾向を明らかにすることが可能となった。

  • 濱田 穣, 若森 参, 平﨑 鋭矢, Suchinda MALAIVIJITNOND
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: B18
    発行日: 2016/06/20
    公開日: 2016/09/21
    会議録・要旨集 フリー

    マカク(Macaca)はアジアで熱帯域から冷温帯域まで幅広い生息地に適応放散した。同じ生息地で棲分けている種も多い。その一方で、マカクは他のオナガザル科分類群に比べて形態的に一般性を保存しているともいわれる。これらの実態を明らかにするためにマカクの四肢形態の量的比較を行った。材料と方法:3種群(sylvanus-silenus, sinica, fascicularis)、20種で、うち3種では亜種・地域集団を別に扱った(トクモンキーの生体計測データはCheverud el al., 1992によった)。他のオナガザル上科のいくつかを外群とした:African papionini 4属(Papio, Theropithecus, Mandrillus, Lophocebus)、Cercopithecus 4種、およびTrachypithecus 4種。頭胴長、尾長、上腕長、前腕長、大腿長、下腿長、手長、足長、手幅、足幅、拇指長、第3指長、第1趾長、第3趾長の12項目の生体計測値を用いた。頭胴長で身体サイズを比較し、体肢部サイズは頭胴長で基準化し、雌雄こみで比較した。結果と考察:異なる方向へ極端化する外群(Theropithecus, Cercopithecus, Trachypithecus, Papio, Mandrillus)に比べて、マカクは変異の中心部にある(一般的)。特に、四肢の相対的長さでは変異するが、熱帯域に分布するブタオザル・スラウェシマカク・カニクイザル・トクモンキー・ボンネットモンキーの12種がそうである。これらに比べてバーバリー、シシオザル、インド産アカゲザルとタイワンザルでは前肢が後肢より短く(CercopithecusTrachypithecusほどではないが)、アカゲザルは指・趾が長い、ニホンザルは四肢が相対的に短く、手足幅が大きい;そしてアッサムモンキーとベニガオザルはPapioなどよりも前肢が長めであり、指趾が長い。これらの中高緯度地域に生息する種では、藪的環境・乾燥地・岩崖・地上性、および捕食圧への適応によって、種群での系統発生を基盤として、異なる条件の生息地へ位置的行動(枝上四足歩行、climbingやclambering、あるいは短距離galloping)を進化させたことを反映すると考えられる。

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