霊長類研究 Supplement
第33回日本霊長類学会大会
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特別企画集会
  • 日本霊長類学会霊長類保全・福祉委員会, 第33回日本霊長類学会大会実行委員会
    原稿種別: 特別企画集会
    p. 12
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/12
    会議録・要旨集 フリー

    日時:2017年7月16日(日)15:15-16:45

    場所:4階多目的ホール


    司会 半谷吾郎(保全・福祉理事)


    1.集会趣旨説明(半谷吾郎)

    2.自由集会基調報告(集会責任者 大井徹)

    3.講演

    羽山伸一(日獣生命科学大・獣医)

    福島市の野生ニホンザルにおける健康影響調査について

    宇野壮春(東北野生動物保護管理センター)

    原子力発電事故後,ニホンザルの生態はどのように変化したか?

    4.コメント

    Thomas Hinton(福島大・環境放射能研)

    今野文治(JAふくしま未来)

    5.質疑

    6.学会声明発議(半谷吾郎)


    企画:日本霊長類学会霊長類保全・福祉委員会

    第33回日本霊長類学会大会実行委員会

第33回日本霊長類学会大会公開シンポジウム/第12回人類学関連学会協議会合同シンポジウム
  • 日本霊長類学会, 第33回日本霊長類学会大会実行委員会
    原稿種別: 第33回日本霊長類学会大会公開シンポジウム/第12回人類学関連学会協議会合同シンポジウム
    p. 13
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/12
    会議録・要旨集 フリー

    日時:2017年7月17日(月)13:00-16:00

    場所:4階多目的ホール


    人種,民族,国家,言語,宗教,さらには,性,世代・年齢,富,学歴などの違いから人と人の間にさまざまな軋轢が起こっています。大規模災害のように自然の脅威が人の生活を危機に陥れたり,逆に,人が自然を破壊に導いたりすることもあります。自然の一部である野生動物と人の間にもさまざまな軋轢が生じています。人が創り出してきた現代のテクノロジーは,人々の暮らしに深く入り込んでいますが,人の暮らしと調和しているものばかりではなさそうです。

    さまざまな軋轢を乗り越えるために,人と人が,人と自然が,さらには,人と新たなテクノロジーが,共生するために模索してきた過去を,あるいは模索している現代を,未来を見据えて語り合います。


    プログラム

    司会 中道正之(大阪大・院人間科学/日本霊長類学会)

    講演

    1.諏訪 元(東京大・総合研究博/日本人類学会)

    長期進化からみたヒトの特徴について

    2.岩永 光一(千葉大・院工/日本生理人類学会)

    テクノアダプタビリティ

    3.森田 敦郎(大阪大・院人間科学/日本文化人類学会)

    環境変動の時代の文化人類学と科学技術

    4.加藤 幸治(東北学院大・文/日本民俗学会)

    被災地の復興と生活文化をめぐる軋轢-宮城県・牡鹿半島における文化創造と安全-

    5.伊沢 紘生(宮城教育大/宮城のサル調査会/日本霊長類学会)

    サルから見た天災と人災-東日本大震災を例に-


    主催:日本霊長類学会,第33回日本霊長類学会大会実行委員会

自由集会
  • 日本霊長類学会霊長類保全・福祉委員会 , 第33回日本霊長類学会大会実行委員会
    原稿種別: 自由集会
    セッションID: W1
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/12
    会議録・要旨集 フリー

    日時:2017年7月15日(土) 13:00-16:00

    場所:5階研修室AB


    2011年3月11日に発生した東日本大震災は,東北地方の人と自然に未曽有の被害をもたらした。日本霊長類学会では,東日本大震災発生の翌年に関連3学会[日本野生動物医学会・野生生物保護学会(現,「野生生物と社会」学会)・日本哺乳類学会]とともに公開シンポジウム「どうなる野生動物!東日本大震災の影響を考える」を開催するとともに,毎年の大会自由集会や,2015年の国際野生動物管理学術会議でのシンポジウムにおいて,福島県など東北のニホンザルやその生息地の被ばく影響,,住民の帰還予定地における猿害問題など,霊長類研究者が取り組むべき課題について議論し,提言を行ってきた。また,被災地の研究活動や霊長類の保全活動に財政的支援を行った。

    今年で,大震災発生後6年が経過したことになるが,多くの人々の記憶からは,震災の教訓や未だ続いている震災の影響のことが薄れつつある。本自由集会では,1)現在のニホンザルの生息状況と被ばく影響について霊長類研究者に周知するとともに,2)取り組むべき課題を再整理し,今後の研究と活動の方向性を提案する。

    なお,本集会は京都大学霊長類研究所共同利用研究会を兼ねており,日本霊長類学会霊長類保全・福祉委員会が主催する。


    プログラム

    1.大槻晃太(福島ニホンザルの会)  被災地のニホンザルの生息実態と被害管理

    2.山田文雄(森林総研)  森林生態系への放射線影響

    3.羽山伸一(日獣生命科学大・獣医)  福島市のニホンザルにおける放射性セシウムの蓄積状況

    4.福本 学(東京医科大/東北大)  福島原発事故による動物影響の概要と課題

    5.関連学会からのコメント

    ・大沼学(日本野生動物医学会)

    ・奥田 圭(「野生生物と社会」学会)

    ・山田文雄(日本哺乳類学会)

    ・福本 学(日本放射線影響学会)

    6.総合討論


    責任者:半谷吾郎,川本芳(霊長類保全・福祉委員会),大井徹(第33回大会実行委員長)

    連絡先:toruoi@ishikawa-pu.ac.jp

  • 菊池 泰弘, 藤野 健
    原稿種別: 自由集会
    セッションID: W2
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/12
    会議録・要旨集 フリー

    日時:2017年7月15日(土) 13:30-16:00

    場所:5階小研修室


    クモザルは系統的に類人猿とかけ離れているものの,移動様式においては類人猿との類似性を見出すことができる。例えば,尾を補助的に用いて前肢によって枝にぶら下がる移動様式である「アームスイング」もしくは「セミブラキエーション」といったものは,「オランウータンのぶら下がり」や「テナガザルのブラキエーション」など,,一部の類人猿に恒常的な移動様式に部分的に共通するものの一つと言えよう。最近の報告では,野生クモザルが腰部を直立させ膝を完全に伸ばしたフェーズを含むような二足歩行をしている様子が報告されており,膝の伸展はヒトだけに見られる特有の位相であるがゆえ検討に値する。前肢を用いて「ぶらさがる」移動様式の類似性に関連して,クモザルと類人猿における前肢の形態学的調査を行い両者の機能的要求を示した研究や,クモザルの腰椎の一部形態が類人猿様であることを示唆した研究などが過去に散見される。また,直立二足歩行に関連して,後肢の床反力や筋電図を用いた先行研究より,クモザルとヒト,チンパンジーとの類似性が明らかとなっている。しかしながら,腰部前弯と膝の完全な伸展位相を示唆した直立二足歩行をする野生クモザルの移動様式における新知見を加味すると,クモザルを対象にした研究のポテンシャルの高さ,つまり,クモザル研究によって別の角度からみた類人猿の新たな側面を見出すことができるかもしれない。広い視野から議論を可能にするため,クモザルを含む複数種の新世界ザル研究を紹介し,動作観察や様々な形態学的な所見から,類人猿の移動様式に関する機能形態学的な特徴やロコモーション特異性についてなにかヒントが得られないか議論したい。発表予定の研究手法は,動作解析,筋線維タイプ構成,生理学的筋横断面積,マクロ神経解析などである。


    プログラム

    1.マクロ神経解析に基づく新世界ザル上肢―体幹移行領域の形態学的特徴

    緑川沙織(埼玉医科大・保健医療)

    2.コモンマ-モセット(Callithrix jacchus)における肩甲挙筋,,菱形筋,,腹側鋸筋の支配神経について

    江村健児(姫路獨協大・医療保健)

    3.生理学的筋横断面積からみたクモザルと類人猿の後肢特徴

    近藤 健・菊池泰弘(佐賀大・医)

    4.アカテタマリンの胸腰部固有背筋の筋束構成と筋構築

    小島龍平(埼玉医科大・保健医療)

    5.新旧世界に於けるぶら下がり移動の平行進化 - 比較ブラキエーション学の視点から

    藤野 健(東京都老人研)


    責任者:菊池泰弘,藤野健

    連絡先:kikuchiy@cc.saga-u.ac.jp

  • 中村 克樹
    原稿種別: 自由集会
    セッションID: W3
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/12
    会議録・要旨集 フリー

    日時:2017年7月15日(土) 16:30-18:30

    場所:5階研修室AB


    ニホンザルの提供を目的とした国家プロジェクトであるナショナルバイオリソースプロジェクト(NBRP)「ニホンザル」が開始されて15年が経った。平成29年度より第4期が京都大学を代表機関としてスタートした。日本霊長類学会の会員もこの間大きく入れ替わり,事業に関して詳しい情報を持たない会員も増えてきたと聞いた。本事業に関する情報共有が必要であると考えた。本自由集会では以下の内容で,事業の背景や目的,開始までの経緯,さらには現状と問題点を以下の内容で発表し,情報の共有及び意見交換を行う。


    プログラム

    1.挨拶

    湯本貴和(京都大・霊長研)

    2.NBRPニホンザル事業の背景と目的

    泰羅雅登(東京医科歯科大)

    3.サル学と実験用ニホンザルの供給問題 ―過去と現在―

    渡邊邦夫(京都大)

    4.現状と問題点

    中村克樹(京都大・霊長研)

    5.総合討論


    責任者:中村克樹

    連絡先:nakamura.katsuki.4z@kyoto-u.ac.jp

  • 今井 啓雄, 河村 正二
    原稿種別: 自由集会
    セッションID: W4
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/12
    会議録・要旨集 フリー

    日時:2017年7月15日(土) 16:30-18:30

    場所:5階小研修室


    ヒトをはじめとして多くの霊長類のゲノム配列が登録されてきている。また,ノックアウトマウスや培養細胞を使った研究により,様々な生体反応のメカニズムが明らかになってきている。これらの最近得られた情報をもとに,ヒトの特徴を説明することが国内外で試みられているが,まだ,多くの特徴は説明されていない。

    そこで,この機会に非ヒト霊長類と比較しながらヒトの特徴を整理し,それがゲノムや細胞研究により説明しうるかどうかを検討したい。分子生物学関連の研究者だけでなく,生態学・心理学・形態学・脳科学等,幅広い分野からの参加を期待している。


    話題提供

    河村正二(東京大・院新領域)

    今井啓雄(京都大・霊長研)

    勝村啓史(岡山大・理),太田博樹(北里大・医)

    荒川那海,颯田葉子(総研大・先導科学)


    責任者:今井啓雄,河村正二

    連絡先:imai.hiroo.5m@kyoto-u.ac.jp

  • 本郷 峻, 蔦谷 匠
    原稿種別: 自由集会
    セッションID: W5
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/12
    会議録・要旨集 フリー

    日時:2017年7月15日(土) 16:30-18:40

    場所:4階401会議室


    フィールドノートとペンと双眼鏡だけを持って野生のサルを追いかけることから始まった霊長類の行動や生態の研究は,時代を経るとともに研究分野と対象種が多様化し,それとともに直接観察以外の研究手法も発展してきた。例えばDNA分析は,個体間の血縁や父性,個体群の分散を解明できる画期的なツールとして導入され,いまや霊長類学の中で確固たる地位を占めている。このように新たな手法の発達は私たちの研究の幅を広げ,霊長類学の進歩を加速してくれる。一方で,そうした研究手法に特有の問題点や注意点があるのも事実である。

    本自由集会では,霊長類行動学・生態学における新奇な研究手法に着目する。従来の直接観察の幅を広げるカメラトラップやウェアラブル端末といった手法から,個体からサンプルを採取しホルモンや安定同位体の分析を行う手法,そしてロボットや人工知能という従来の霊長類行動学とは接点の薄かった手法まで,多様な技術や方法を用いて研究を行っている研究者に話題提供してもらう。各研究手法について現在の発展段階を簡単にレビューしてもらった上で,自身の経験を踏まえて,その手法の利点と欠点について語ってもらう。霊長類行動生態学の「王道的」手法である直接観察とどのようなタッグが組めるかについてなど,今後の研究のアイディアについて多くの方々と議論したい。


    プログラム

    趣旨説明(5分):本郷 峻


    話題提供(それぞれ発表15分,質疑5分)

    1.カメラトラップを用いた行動生態研究

    本郷 峻(京都大・霊長研)

    2.バイオロギング・ドローンやウェアラブル端末を用いた行動研究

    森光由樹(兵庫県立大・自然・環境科学研)

    3.ホルモン分析を用いた生理生態研究

    木下こづえ(京都大・野生研)

    4.安定同位体分析を用いた生態研究

    蔦谷 匠(京都大・理)

    5.ロボットや人工知能を用いた行動研究

    上野 将敬(京都大・文)

    フロアとのディスカッション(25分)


    責任者:本郷 峻,蔦谷 匠

    連絡先:hongo.shun.8s@kyoto-u.ac.jp

口頭発表
  • 瀧山 拓哉, 服部 裕子, 友永 雅己
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: A01
    発行日: 2017/07/01
    公開日: 2017/10/12
    会議録・要旨集 フリー

    ヒトに限らず多くの霊長類種で音声を用いたコミュニケーションが行われている。一般に,自然界には同時に多数の音源が存在しており,音声コミュニケーションを行う際にはシグナルの発信者が可視範囲にいるとは限らない。そのため,音声コミュニケーションによって頻繁に情報を交換する種にとっては,妨害刺激を含む音環境の中で他者が発する音からその位置を定位する能力は非常に重要であると考えられる。一方で,これまでの霊長類の音声研究のうちのほとんどは,発声のメカニズムや言語の起源に焦点があてられており,聴覚的音源定位といった基本的な聴覚の感受性についての研究はほとんど行われていない。そこで,本研究では,チンパンジーを対象に環境音が存在する場合の他個体の音声に対する音源定位能力について実験的に検討した。まず,2方向のうちどちらか一方から個体の音声が提示されると,同じ方向にあるボタンを押す事を訓練した。その後,他個体の音声刺激に先行して様々なタイミング(500ミリ秒,1500ミリ秒,2500ミリ秒)に妨害刺激として別方向から環境音を再生することが,音源定位にどのように影響を与えるのかを調べた。その結果,チンパンジーでは妨害刺激と他個体の音声刺激を500ミリ秒間隔で提示したときは音源定位の正答率が低下するが,1500ミリ秒,2500ミリ秒間隔の時は低下しないということが明らかになった。この結果はチンパンジーにとって,ほとんど同時に再生された音に対しては,注意が分散してしまうため,音源定位が難しくなるということを示唆している。これまでの先行研究から,ヒトはそうした短い時間間隔で妨害刺激が提示されても,音源定位能力に対する影響は受けないことが知られている。会話を行う人数が増加すればするほど,音源定位を行う重要性も増加する。従って,チンパンジーの聴覚的注意能力は,大人数での会話を頻繁に行うことができるヒトよりも環境音の影響を受けやすいのかもしれない。

  • 友永 雅己, 熊崎 清則, 原口 大貴, 櫻井 夏子, WILKINSON Anna, GONSETH Chloe, 松沢 哲郎
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: A02
    発行日: 2017/07/01
    公開日: 2017/10/12
    会議録・要旨集 フリー

    数という物理的次元は,動物たちが環境から得る情報として極めて重要である。数に関する情報は,採食や社会的な場面における意思決定に重要な役割を果たしているはずだ。これまでの数多くの研究から多くの種が数を手がかりに弁別行動を行うこと,そしてそれは,他の量的次元(大きさ・密度など)と同様にウェーバーの法則にしたがうことなどが明らかになってきた。本発表では,異なる課題状況(コンピュータ課題,対面課題),異なるモダリティのもとでわれわれが行ってきた研究を総括する。対象とした種は,チンパンジー,ウマ,イルカ,リクガメである。結果を概括すると,(1)すべての種において,比較すべき2つの数の比(ウェーバー比)で結果を説明しうること,(2)全体の数が大きいほど成績がよいこと,(3)コンピュータ課題の方が対面課題よりも成績が良いこと,などが明らかとなった。イルカでは,エコロケーションによる大小判断が可能であること,リクガメにおいても数の大小判断が可能であることが初めて示された。これらの種間比較を通して,数の大小比較能力の進化について議論したい。

  • 香田 啓貴, 豊田 有, 丸橋 珠樹, MALAIVIJITNOND Suchinda
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: A03
    発行日: 2017/07/01
    公開日: 2017/10/12
    会議録・要旨集 フリー

    発話はヒトにしか見られない発声運動動作であり,唇や舌,喉頭などの発声器官の迅速な規則的周期運動によって特徴づけられる。とりわけ,唇が開閉する周期的運動は,あらゆる言語圏に共通しておおよそ5Hz程度になることが知られており,発話動作の共通基盤として顔面動作を周期的に発振する中枢パターン発生機の存在が示唆されている。近年の研究によれば,マカクザルなど様々な真猿類のリップスマッキングに見られる発振動作は5Hzと類似しており,さらに発話運動と共通する運動神経基盤が確認されたことから,発話運動の前駆体候補として脚光を浴びている。今回我々は,リップスマッキング・発話前駆体仮説に基づいて,タイに生息する野生ベニガオザルの種特異的な表情(Teeth chattering)と発声(panting)について,類似するような5Hzの発振動作が確認出来るかどうか検討した。野外観察と動作解析を実施し,運動の開始時間を計測し,5周期あるいは10周期にわたる顎の開閉動作やパルス様の短発声の区間間隔を計測した結果,Teeth chatteringとpantingともに5Hz程度の周期を示した。ニホンザルなどのリップスマッキング動作の特徴である唇の突出が確認できないにも関わらず,他の動作も類似して発振することから,ベニガオザルやニホンザル,ヒトの共通祖先で顔面動作が5Hzに発振する共通基盤を獲得しており,その動作基盤が種それぞれにおいてTeeth chatteringやリップスマッキング,発話というコミュニケーションの信号として変容していった進化史が推察され,リップスマッキング・発話前駆体仮説を補強する証拠と考えられた。

  • 若森 参, 濱田 穣
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: A04
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/12
    会議録・要旨集 フリー

    霊長目の尾長はひじょうに変異性が高いが,各属では種間変異は小さい。例えば,オナガザル属(グエノン)では頭胴長よりも長い尾,マンドリル属では短い尾が特徴となっている。一般的に,樹上性の種は尾をバランサーとして使用するため長尾となり,それが不必要な地上性の種は短尾となる傾向がある。テナガザル,オランウータン,ロリスなどは例外で,樹上性だが尾なしであり,これらは共通して枝をしっかりと握る,あるいは懸垂型の位置的行動を行う。一方マカク属では,同属内に短尾(相対尾長:頭胴長に対する尾長,2%)から長尾(124%)まで著しい変異がある。極端に長くも短くもない中間的な尾長の種も存在し,かれらが尾をどのように使用しているのかが注目される。相対尾長が35%~40%のアカゲザル(Macaca mulatta),キタブタオザル(M. leonina),アッサムモンキー(M. assamensis)の3種を対象とし,餌付け群の行動観察をタイ王国で行い比較した。フォーカルアニマルサンプリング法で,尾の位置(腰椎に対して水平,垂直,背伸,脱力)を位置的行動(座る,立つ,歩く,走る,寝そべる,跳躍,登る)との組み合わせで記録した。また,アドリブサンプリングでビデオ録画を行い,尾椎形態との関連性を検討した。尾の可動域(最大背伸角度)はキタブタオザルが最も大きく,アッサムモンキーが中間,アカゲザルが最も狭かった。アッサムモンキーでは尾の横振りが特徴的に見られた。位置的行動と尾の呈示位置の関係は種間で異なっていた。最大背伸角度の違いは,各種の尾椎形態を反映していると考えられる。最も背伸角度の大きかったキタブタオザルは,アカゲザルと比較して,近位尾椎が短く,数が多く,その椎体は上下方向に扁平である。アッサムモンキーの近位尾椎は,左右方向に扁平であり,左右振りに適している。これら3種は尾長が中間的であっても,尾をバランサーとして使用する場合もあれば,コミュニケーション(優劣関係の呈示)の意味合いを無視できない場合が考えられる。

  • 後藤 遼佑, 中野 良彦
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: A05
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/12
    会議録・要旨集 フリー

    ロコモーションでは複数の筋が定型的に活動する。ロコモーションにおいて同期的に活動する筋は,筋シナジーとしてまとめて制御されると考えられている。シロテテナガザル(Hylobates lar)はロコモーターレパートリーに二足歩行と木登りを含む。どちらのロコモーション様式も,下肢の着地,身体の支持,蹴り出し,振り出しの類似した定型的な運動が反復される点で似ている。本研究の目的は,シロテテナガザルが行う二足歩行と垂直木登りでは同じ筋シナジーが動員されているかどうかを明らかにすることであった。大阪大学大学院人間科学研究科で飼育する1個体のシロテテナガザルを使用した。3つの体幹筋,および15の下肢筋から,表面電極もしくはファインワイヤ電極を用いて二足歩行と垂直木登りにおける筋電を収録した。筋電はハイパスフィルタ(遮断周波数:50 Hz)で高周波ノイズを除去し,全波整流化した。その後,ローパスフィルタ(遮断周波数:20 Hz)を介して得られた低周波成分を分析に使用した。筋シナジーの同定のため,18チャンネルの筋電データに非負値行列因子分解を適用し,筋シナジーの活動の位相を示す5つの波形と,それぞれのシナジーとの関連の程度を表わす係数を各筋について算出した。シロテテナガザルの5つの筋シナジーの活動の位相とシナジーを構成する筋は二足歩行と垂直木登りの間で基本的に類似していた。しかしながら,立脚相後半に活動する筋シナジーには相違点が認められた。本発表において,筋シナジーの類似点と相違点について議論する。

  • 岡 健司, 後藤 遼佑, 中野 良彦
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: A06
    発行日: 2017/07/01
    公開日: 2017/10/12
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】類人猿の体幹姿勢制御機序を明らかにする目的で,シロテテナガザルの二足歩行,垂直登攀,ブラキエーション時の体幹筋活動を比較分析し,共通点と相違点を検証した。【方法】シロテテナガザル1体(21歳,メス,体重6 kg)を被験体とした。脊柱起立筋および腹直筋に表面電極を貼付し,無線式筋電計(BioLog,S&ME)によって,二足歩行,垂直登攀,ブラキエーション時の筋電図を計測した。運動周期ごとに,ローパスフィルタ(遮断周波数:3Hz)で平滑化した。二足歩行時,垂直登攀時,ブラキエーション時(各20試行)の平均波形を得て,ロコモーション様式間で比較した。【結果】脊柱起立筋は,いずれのロコモーションにおいても相動的に活動し,サポート期とスイング期に1回ずつピークをなした。これらの活動期は,支持基体に足または手が着地した後であった。ブラキエーション時の筋活動は瞬発的に生じる傾向があり,他のロコモーション時と異なった。腹直筋は,二足歩行時には持続的に活動したが,垂直登攀時とブラキエーション時には,脊柱起立筋と逆相をなすタイミングで相動的に活動していた。【考察】シロテテナガザルの脊柱起立筋は,いずれのロコモーションでも相動的に活動し,体幹安定に関与すると考えられた。ただし,ブラキエーション時の脊柱起立筋は瞬発的に活動する傾向があり,他のロコモーション時とは異なっていた。腹直筋は,運動域の大きい股関節屈曲を伴う木登りとブラキエーションにおいては体幹固定筋として働き,脊柱起立筋と拮抗するかたちで活動したと考えられた。これらのことから,シロテテナガザルのロコモーション時の体幹筋には,体幹を安定させるため相動的に動員される基本パターンが存在し,ロコモーション様式ごとに若干修正されるということが示唆される。

  • 小林 諭史, 森本 直記, 西村 剛, 山田 重人, 中務 真人
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: A07
    発行日: 2017/07/01
    公開日: 2017/10/12
    会議録・要旨集 フリー

    ヒトおよび現生大型類人猿の共通祖先の形質状態については,直接的証拠となる化石記録が不足していることもあり,議論は収束していない。個体発生のパターンは,遺伝的に決定される発生プログラムの修正を反映するので,形質の進化的起源を探るのに有用な情報である。四肢のプロポーションは運動様式と深く関わることが知られているが,ヒトおよび現生大型類人猿の四肢の相対成長を大規模に直接比較した研究はない。われわれは,X線CT装置を用いて,出生前後からオトナ期までのヒト,チンパンジー,ゴリラ,オランウータンの液浸・骨格標本を撮像し,得られた画像から骨幹の長さを上腕骨,橈骨,大腿骨,脛骨について測定した。データの分析には,直交回帰,ランダマイゼーション検定,及びQuick test(Tsutakawa and Hewett, 1977)を用いた。その結果,前肢長(上腕骨と橈骨骨幹長の和)と後肢長(大腿骨と脛骨骨幹長の和)はチンパンジーとオランウータンでは等成長を示したが,ヒトとゴリラでは後肢長の方が優位に成長しており,その程度はヒトの方が顕著であった。ヒトは大型類人猿に比べて前肢に対し後肢の成長が有意に大きいが,大型類人猿間では有意差はなかった。また,前肢長に対し後肢はヒト,チンパンジー,ゴリラ,オランウータンの順に長かった。現生大型類人猿では,基本的に出生前に前肢と後肢のプロポーションがほぼ決定するが,ヒトでは,出生後にも大きなプロポーション変化を示した。これは,効率的な二足歩行を可能にする極度に長い後肢を獲得するためと考えられた。また,ゴリラではわずかに後肢優位の成長を示すことから,これらのヒト上科において前肢と後肢のプロポーションを厳密に一定に保つような発生学的,あるいは機能的な制約は存在しないと考えられた。

  • 山本 有紗, 吉村 久志, 山本 昌美, 加藤 卓也, 名切 幸枝, 石井 奈穂美, 落合 和彦, 近江 俊徳, 羽山 伸一, 中西 せつ子 ...
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: A08
    発行日: 2017/07/01
    公開日: 2017/10/12
    会議録・要旨集 フリー

    2011年3月11日に起きた東日本大震災に伴い,東京電力福島第一原子力発電所(以下,原発)が爆発し,大量の放射性物質が放出された。われわれの研究グループでは,2012年度に原発から約70kmに位置する福島市に生息する野生二ホンザル(以下,福島サル)と約400kmに位置する青森県下北半島に生息する野生ニホンザル(以下,下北サル)の血液学的検査を行ったところ,福島サルの赤血球数・白血球数・ヘモグロビン濃度・ヘマトクリット値が,下北サルと比べて低値を示していたことを報告した(Ochiai et al. 2014)。本研究では,2012年度から2016年度の5年間に捕獲された福島サルを対象に,同様のモニタリングを行ったところ,引き続き汎血球減少傾向が見られた。その原因の検討のため骨髄の組織学的検査を行った。その結果,骨髄組織中に造血細胞が占める面積の割合は,下北サルと比較し福島サルでは低値を示し,また経年的に減少傾向を示したため,骨髄造血組織の減少によって末梢血球数が低下していることが示唆された。

  • 土屋 萌, 落合 和彦, 鈴木 浩悦, 神谷 新司, 加藤 卓也, 名切 幸枝, 石井 奈穂美, 近江 俊徳, 羽山 伸一, 中西 せつ子, ...
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: A09
    発行日: 2017/07/01
    公開日: 2017/10/12
    会議録・要旨集 フリー

    2011年3月11日に起きた東日本大震災に伴い,東京電力福島第一原子力発電所(以下,原発)が爆発し,周辺に生息する野生ニホンザル(Macaca fuscata)は,ヒト以外の野生霊長類において世界で初めて原発災害によって放射線被ばくを受けた。放射線被ばくによる健康影響は数多く報告されており,ヒト胎仔の小頭化や成長遅滞もその1つとして知られている。本研究では,被ばくしたサルの次世代への影響を調べるため,震災前後における胎仔の脳容積の成長および,生後1年以内の幼獣の体重成長曲線を比較した。また,脳容積の推定のため,頭蓋骨の骨化度を考慮しCRL(頂臀長)が140㎜以上の個体21頭においてCT撮影により頭蓋内体積を計測した。震災後胎仔は震災前胎仔よりもCRLに対する頭蓋内体積が小さい傾向が見られ,胎仔に脳の発育遅滞が起こっていると考えられた。さらに,0歳の幼獣について捕獲日ごとに体重と体長との散布図を作成し,震災前個体と震災後個体の成長曲線を比較した。その結果,体長が250㎜に達するまでは震災前個体よりも震災後個体の方が体長に対する体重が軽い傾向が見られた。一方,成長が停滞する250~350㎜に達すると震災前個体も震災後個体も体重はほぼ変わらず,再び成長が見られる350㎜以上では大きな差は見られなくなった。以上より,震災後個体は生後も数か月間は成長が遅滞していることが示唆された。

  • 鈴木 諒平, 吉村 久志, 山本 昌美, 加藤 卓也, 名切 幸枝, 石井 奈穂美, 落合 和彦, 近江 俊徳, 羽山 伸一, 中西 せつ子 ...
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: A10
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/12
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    2011年3月11日,東日本大震災の地震・津波による東京電力福島第一原子力発電所の爆発によって,周辺に生息する野生ニホンザル(Macaca fuscata)が放射線被曝(以下,被曝)を受けた。今後,既存文献から甲状腺の癌化などの増殖性変化が起こる事が予想される。本研究の目的は福島県福島市に生息するニホンザルの甲状腺濾胞密度を定量化により,組織形態学的変化の有無を明らかにすることである。材料として,被曝を受けた福島県福島市のニホンザル(以下,福島サル)95検体,被曝を受けていない青森県下北半島のニホンザル(下北サル)30検体の甲状腺のHE標本を用いた。これらを光学顕微鏡下で200倍にて観察し,CCDカメラを用いて画像を取り込み,cell Sensモニターにて1視野のうち500μm×500μmあたりの濾胞数をカウントした。左右甲状腺から無作為に選出した5視野ずつ,計10視野についてカウントを行い,この平均を各検体の濾胞密度とした。これらの結果を福島サル,下北サル各々において,年齢(幼獣,亜成獣,成獣),季節(4~9月,10~3月),性別(雌,雄)に関して比較を行ったところ,年齢差のみ有意差が得られた。さらに福島サルと下北サルの各年齢区分どうしを比較したところ,どの年齢区分においても有意差は認められなかった。つまり現段階では,被曝した福島サルと被曝していない下北サルの甲状腺濾胞密度に関しては有意な差は認められないという結果になった。

  • 漆原 佑介, 鈴木 正敏, 鈴木 敏彦, 清水 良央, 桑原 義和, 宇野 壮春, 篠田 壽, 福本 学, 青野 辰雄
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: A11
    発行日: 2017/07/01
    公開日: 2017/10/12
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    東京電力福島第一原子力発電所事故により福島県内に生息する野生ニホンザルも被災した。我々は,2013年以降福島県内を中心に約400頭の野生ニホンザルから臓器や筋肉,血液などのサンプリングを行った。本研究では,野生ニホンザルの放射性核種の体内分布を明らかにし,その濃度の経年変化を解析することを目的に,これまでに採取した野生ニホンザルの各臓器,筋肉や血液中の放射性核種濃度の測定を行った。福島県においてニホンザル保護管理計画に基づいて捕殺された野生ニホンザルから骨格筋,各臓器,抹消血等を採取した。これら試料はゲルマニウム半導体検出器もしくはガンマカウンターを用いて放射性核種の同定と濃度測定を行った。試料採取を2013年度以降に開始したため,ニホンザル各組織中で検出された福島原発事故由来放射性核種はCs-137とCs-134のみであった。各組織中Cs-137濃度について骨格筋中Cs-137濃度との相関解析を行った結果,各組織中Cs-137濃度と骨格筋中Cs-137濃度は顕著な正の相関を示した。組織ごとの相対Cs-137濃度を計算すると,骨格筋のCs-137濃度が他の組織に比べて高く,筋肉以外では顎下腺,精巣,腎臓のCs-137濃度が高かった。捕獲地ごとの体内放射性セシウム濃度の推移では時間経過による緩やかな低下傾向がみられたが,2016年に浪江町で捕獲された複数の個体において,骨格筋中Cs-137濃度が10,000Bq/kgを超えた。ERICA Assessment Toolによる被ばく線量評価では,これらの個体では未だに放射性セシウム由来の高い線量の被ばくが予想されることから,原発周辺地域の野生ニホンザルの放射線影響を明らかにするために,今後も長期的な調査が必要である。

  • 新村 芳人, 松井 淳, 東原 和成
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: A12
    発行日: 2017/07/01
    公開日: 2017/10/12
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    環境中の匂い分子は嗅覚受容体(olfactory receptor, OR)により検出される。OR遺伝子は哺乳類で最大の遺伝子ファミリーを形成している。マウスやイヌなど多くの哺乳類は約千個ものOR機能遺伝子をもつが,ヒトを含む高等霊長類ではその数は300~400個であり,他の多くの哺乳類より少ない。このことは,霊長目が視覚型の動物であり,嗅覚が退化してしまったことを反映していると考えられる。しかし,霊長目は,視覚環境の異なる昼行性・夜行性の種を含み,色覚系や鼻の解剖学的構造も多様であることから,嗅覚系の退化を引き起こした主要な要因が何かは明らかになっていない。本研究では,生態的・系統的に多様な24種の霊長目およびヒヨケザル,ツパイの全ゲノム配列からOR遺伝子を同定し,比較解析を行った。その結果,曲鼻猿類は直鼻猿類の2倍程度のOR機能遺伝子数をもつことが明らかになった。夜行性の種は,昼行性の近縁種に比べてOR遺伝子数が多い傾向があったが,色覚系の違いはOR遺伝子数にはほとんど影響していなかった。また,OR機能遺伝子数は,嗅球の相対的な大きさに有意な相関を示した。次に,霊長目の進化過程における各枝において,OR遺伝子の消失速度を推定した。その結果,(1) 直鼻猿類の共通祖先,(2) コロブス類の共通祖先,および(3) ホミノイドの各系統においてOR遺伝子消失速度の大幅な上昇が見出された。直鼻猿類の祖先段階では中心窩の獲得による高精度の視覚系の発達が起き,コロブス類の共通祖先においては果実食から葉食へと食性が変化したことから,これらの要因とOR遺伝子の大規模な消失との関連性が示唆された。本研究は,霊長類の進化過程でOR遺伝子の大規模な欠失は何度も独立に起きたことを示しており,それぞれの種が現在もっているOR遺伝子レパートリーは,形態および生態との複雑な相互作用によって形成されたと考えられる。

  • 松村 秋芳, 鶴 智太, 岡田 守彦
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: A13
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/12
    会議録・要旨集 フリー

    骨の形質は動物の日常生活行動における負荷をよく反映する。チンパンジーの移動運動様式と大腿骨頸部の機能形態との関係を調べるために,pQCT骨密度測定装置XCT Research SA+(Stratec Medizintechnik GmbH)を用いて,チンパンジー(Pan troglodytes)大腿骨頸部の長軸に沿った5横断面のスライスについて緻密骨密度,海綿骨密度,緻密骨の厚さを分析した(n=8;獨協医大所蔵標本)。緻密骨の密度と厚さについては,1横断面につきそれぞれの周径に沿って8か所,1個体につき5断面40か所の測定を行った。チンパンジー大腿骨頸部の長軸に沿った骨密度は基部で高く,骨頭に近づくにつれて低くなった。各横断面スライス内の骨密度は部位によってばらつきが認められたが,5断面のどのレベルにおいても上部がほかの部位に比べて低くなる傾向を示した。緻密骨の厚さは5断面とも上部が下部に比べて相対的に薄かった。これらの結果は,チンパンジーの日常生活における大腿骨頸部の上部への負荷が,下部やほかの部位よりも少ないことを示している。また,今回上前部の緻密骨厚は,下部を除く他の部位よりも相対的に大きい傾向を示したが,この所見は,対象標本の異なる先行研究(松村他,第28回大会)の結果を裏付けるものであった。このような,大腿骨頸部の上前部に認められる緻密骨厚が大きい特徴が,化石人類オロリン・ツゲネンシス(Orrorin tugenensis)の大腿骨頸部横断面に見られる緻密骨の厚さの特徴と一致するかどうかについて検討を加えた。

  • 西村 剛, 森本 直記, 伊藤 毅
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: A14
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/12
    会議録・要旨集 フリー

    系統間でサイズ変異の重なりが少ない場合,アロメトリー効果により系統進化を反映した形状差異が見えにくくなることがある。これは,特に,化石標本の系統的位置の推定に混乱をもたらす。ヒヒ族は,マカク亜族とヒヒ亜族に分けられる。さらに,ヒヒ亜族は,Papio-Theropithecus-Lophocebus(PTL)系統とMandrillus-Cercocebus(MC)系統とに分けられる。小型のマンガベイは,頬骨のくぼみなど,サイズが重なるマカクザルとの間で明瞭な形状差異を示す。一方,大型のヒヒは,マカクザルに比して吻が長いなど,明瞭な形状差異を示すが,サイズの重なりが低いためアロメトリー効果を考慮に入れて評価する必要がある。本研究では,ヒヒ族頭蓋骨標本のランドマーク三次元座標データを用いて,幾何学的形態学的手法により,アロメトリー効果による形状変異を示し,その効果を除去した形状差異を分析した。ヒヒ亜族とマカク亜族に共通するアロメトリー効果を検出した。サイズの増大に対して,吻を含む顔面全体が細長い形状になる。その効果を除くと,中顔部の凹凸,突額の程度,顔高等が,マカク亜族とヒヒ亜族を分ける。さらに,PTL系統とMC系統をも大まかに分かつ。性差は,両亜族に共通して,犬歯にかかる形状差異として検出された。本研究は,ヒヒ亜族に共通するアロメトリー効果を除去することで,PTL系統とMC系統を分ける形態学的特徴を抽出することに成功した。さらに,その特徴が,ヒヒ亜族とマカク亜族の系統分岐を説明する形状差異でもあることから,遺伝的に分けられたPTL系統とMC系統を反映する形態学的特徴であることが支持される。この成果は,アロメトリー効果にさまだけられることのない化石種の系統推定の可能性を示した。本研究は,科研費(26650171:西村剛,26304019:高井正成)より支援を得て実施された。

  • 高井 正成, 河野 礼子, タウン・タイ , ジン・マウン・マウン・テイン , 西岡 佑一郎, 楠橋 直, 浅見 真生
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: A15
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/12
    会議録・要旨集 フリー

    ミャンマー中部を南北に流れるエーヤワディ河とチンドウィン河の流域には,脊椎動物化石を豊富に産出する新生代第三紀の陸成層が広範囲に広がっている。京都大学霊長類研究所では,ミャンマー国考古局と共同で同地域において後期中新世~前期更新世のイラワジ層を対象に,霊長類化石の発見を主目的とした古生物学調査を継続してきた。本発表では,2017年2~3月にマグウェー市の南方に位置するテビンガン地域で行った現地調査で発見した霊長類を含む動物化石群について予備的な報告をする。マグウェー地域では,2008年にフランスとミャンマーの共同調査隊がホミノイド類の化石を発見し,隣国のタイからみつかっていたKhoratpithecusの別種として報告している。マグウェー地域を含むイラワジ層は,火山性の堆積物がほとんど含まれていないため,これまで放射性絶対年代値は報告されていない。しかし共産する動物化石の産状から,後期中新世前半と考えられてきた。今回の我々の調査により,キリン科のBramatherium,ウマ科のHipparion,イノシシ科のHippopotamodonPropotamochoerusの化石が発見され,年代推定の精度が向上した。パキスタン北部のシワリク層から見つかっている動物化石の出現年代と比較すると,テビンガン地域の地層は10-8 Maの年代になると考えられる。今回の調査で新たに発見された霊長類化石も,この年代に由来するものと考えられる。動物相から推測される古環境と合わせて,同地域の霊長類相の変化について予備的な解析結果を報告する。

  • 矢野 航, 清水 大輔, 寺尾 由美子, 岡部 直樹, 早川 卓志
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: A16
    発行日: 2017/07/01
    公開日: 2017/10/12
    会議録・要旨集 フリー

    [目的]歯周病は,齲蝕と並ぶ口腔領域における2大疾患の一つであり,口腔内細菌叢に存在するPorphylomonas gingivalisを始めとした偏性嫌気性歯周病原菌による感染症である。近年,日本モンキーセンター(JMC)飼育のレッサースローロリス(Nycticebus pygmaeus)に広範な歯周病感染が見られることが分かった(寺尾ら,2016)。彼らに歯周病菌の感染が起こったことが示唆されるが,口腔細菌がどのように広がるのか,その経路は不明である。食物分配などがなく,接触感染機会が少ない単独性霊長類レッサースローロリスにおける口腔細菌の感染経路を解明するために,JMC内で歯周病と診断された個体の口腔及び皮膚の湿性試料を採取し,含まれる細菌叢をメタバーコーディング解析により網羅的に探索した。同じ個体内で異所的に存在する細菌叢の比較し,場所間での類似性から細菌感染経路の検討を行った。[材料と方法]JMCで飼育されているレッサースローロリスのべ6頭から,口腔内【歯垢(上下顎8箇所),唾液,舌苔】,口腔外【上腕部の腺液,耳垢】の湿性試料を採取し,Lysis buffer液に保存後,細菌叢DNAを抽出・精製した。ユニバーサルプライマーで16S rRNAの部分領域をPCRで増幅後,シークエンスライブラリを作成し,次世代シーケンサー(MiSeq, Illumina)を用いて細菌種構成を同定した。[結果と考察]各歯種および舌,唾液間に異所的に存在する細菌叢の比較から,レッサーロリスの口腔細菌叢の空間的分布と相互関係が明らかとなった。またプラーク除去処置が行われた1頭の処置前後データ比較から,細菌種構成の経時的変化が観察された。また,上腕腺を舐めるそれを防御毒として子供に塗布するレッサースローロリスの特異的行動が細菌叢間の交流に与える影響を考察し,同種での歯周病菌感染リスクを検討した。

  • 松田 一希, 早川 卓志, 澤田 晶子, NATHAN Senthilvel K. S. S., SALDIVAR Diana A. Ram ...
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: A17
    発行日: 2017/07/01
    公開日: 2017/10/12
    会議録・要旨集 フリー

    DNAをもちいた単一菌種の分離培養を必要としない菌叢解析により,野生霊長類の糞から膨大な腸内細菌の情報が得られるようになり,その種内/種間比較が盛んに行われている。結腸・直腸での微生物発酵(後腸発酵)を行う多くの霊長類において,糞由来の腸内細菌の分析はその消化機能や効率,共進化的意義の理解に重要な情報を提示する。だが霊長類の中のコロブス類は,複数に分かれた胃に共生する微生物にセルロースを分解させることによってエネルギーを得ており,前胃内微生物も消化機能に多大に影響している。しかし,野生コロブス類の前胃内微生物の収集は困難なため,解析手法は確立されているがその詳細はあまりよくわかっていない。本研究では先ず,DNAメタバーコーディング解析によって得られた,テングザル(前胃発酵霊長類)の前胃内の細菌叢についての情報を提示する。次に,多様な植生環境に棲むテングザルが,単調な植生に棲むものに比して,より多様な前胃内細菌叢を有すことを示す。特に,川辺林,マングローブ(野生個体群,半餌付け個体群),飼育下という4つの異なる環境条件に生息するテングザルの前胃内微生物叢を比較する。本研究では,コロブス類の前胃内細菌叢に関する基礎情報を提示するとともに,前胃内細菌叢の定着に対して環境要因が及ぼす影響について明らかにする。

  • 橘 裕司, GUAN Yue, FENG Meng, CAI Junlong, MIN Xiangyang, ZHOU Xingyu, XU ...
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: A18
    発行日: 2017/07/01
    公開日: 2017/10/12
    会議録・要旨集 フリー

    赤痢アメーバ(Entamoeba histolytica)はヒト以外の霊長類にも感染すると考えられており,サル類におけるアメーバ感染の実態を明らかにすることは,人獣共通感染症対策の見地からも重要である。我々はこれまでに,様々なマカク類における腸管寄生アメーバの感染状況について報告してきた。そして,野生のアカゲザルなどから,赤痢アメーバとは異なる新種の病原アメーバEntamoeba nuttalliを分離し,その性状について解析している。今回,中国四川省の峨眉山に生息する野生チベットモンキーの糞便89検体を採取し,腸管寄生アメーバの探索を行った。糞便から抽出したDNAについて,PCR法によって各種Entamoeba属虫体の検出を試みた。その結果,E. chattoni(E. polecki ST2)が59検体(66%),大腸アメーバ(E. coli)が37検体(42%),E. nuttalliが15検体(17%)において陽性であった。一方,赤痢アメーバとE. disparは検出されなかった。また,糞便を培養し,E. nuttalliの6株(EM3, EM4, EM22, EM38, EM50, EM54)を分離した。これらの分離株は更に完全無菌化した。このうちEM4とEM50についてクローニングを行い,18S rRNA遺伝子を解析した。その結果,これまでに中国の貴州省や広州チワン族自治区のアカゲザルから分離されたE. nuttalli株の配列と完全に一致した。更にtRNA関連の反復配列について6つの座位で解析したところ,5つの座位では6株間で完全に一致したが,座位A-LではEM4, EM38, EM50に複数の配列が検出され,多型性が認められた。一方,中国のアカゲザル由来株との比較では,6座位すべてで違いが認められ,これらの多型は地理的分布の違いを反映していた。今後,宿主の移動や拡散,進化と寄生アメーバの多型化との関係を明らかにしたい。

  • 河村 正二, 直井 工, 林 真広, 蘆野 龍一, 今井 啓雄, 新村 芳人, 東原 和成, MELIN Amanda D.
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: A19
    発行日: 2017/07/01
    公開日: 2017/10/12
    会議録・要旨集 フリー

    霊長類は一般的に視覚依存の動物とされ,他の感覚,特に嗅覚の重要性は低いと考えられてきたが,近年の研究の進展により再考が迫られている。新世界ザルは食性や色覚の多様性が顕著であるため,進化生態学的な文脈で様々な感覚の相互作用を理解するのに好適といえる。そこで本研究は,新世界ザル全3科と多様な色覚型を網羅して,フサオマキザル(オマキザル亜科:3アリル2-3色型色覚),セマダラタマリン(マーモセット亜科:3アリル2-3色型色覚),アザレヨザル(ヨザル亜科:1色型色盲),チュウベイクモザル(クモザル亜科:2アリル2-3色型色覚),マントホエザル(ホエザル亜科:恒常的3色型色覚),ダスキーティティ(ティティ亜科:3アリル2-3色型色覚)の6種を対象に,ターゲットキャプチャーと次世代シークエンシングにより,遺伝子数の膨大な嗅覚受容体(OR)に加え,苦味受容体(TAS2Rs)と旨味甘味受容体(TAS1Rs)遺伝子の全レパートリーを明らかにすることにした。トレードオフ仮説の予測と異なり,新世界ザルで唯一恒常的3色型色覚のホエザルは,他の2色型3色型多型の種に比べ,OR偽遺伝子割合は特に高くはなかった。総OR遺伝子数や偽遺伝子割合に種間で顕著な違いが見られない一方で,機能遺伝子と偽遺伝子のレパートリー構成は種間で大きく異なっていた。TAS2Rsは中立対照に対して塩基多型度が,特に非同義変異で高い傾向にあり,苦味感覚の多様化進化が示唆された。これら6種の新世界ザルのTAS2R16とTAS2R38を培養細胞系で再構成したところ,苦味物質に対する反応性に種間で顕著な違いが見られた。一方,TAS1Rsは機能制約が緩んでいる傾向がみられ,タマリン属では旨味受容体TAS1R1が偽遺伝子化していた。これらの結果は,霊長類の進化において,化学物質受容体遺伝子群の機能・偽遺伝子構成が能動的に変化していることを示唆し,化学物質感覚の重要性を物語っていると考えられる。

  • 古賀 章彦, 平井 啓久
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: A20
    発行日: 2017/07/01
    公開日: 2017/10/12
    会議録・要旨集 フリー

    同じ塩基配列の単位が縦列に繰り返すサテライトDNAが出現し,これが短期間に増幅してメガサテライトDNAになることがある。その結果として,系統関係は近いにも関わらずゲノムの構成は大きく異なるという状況が生じる。出現のほかに,染色体上の場所の移動,また消失も,ゲノムの構成の大きな変化をもたらす。染色体の構造の変化にもつながるため,種分化にも深く関わると推測される。霊長類では以下のような具体例がある。 [1] ヒト科のsubterminal satellite配列(反復単位は32塩基対。アフリカ大型類人猿の共通祖先で出現し,染色体端部で増幅。ゴリラ・チンパンジー・ボノボに見られる。ヒトでは消失。) [2] テナガザル科のalpha satellite DNA(171塩基対。セントロメアの主成分である反復配列が移動。Nomascus属とSymphalangus属の染色体端部で増幅。Hylobates属とHoolock属には見られない。) [3] テナガザル科のSVA因子(30-50塩基対。複合型レトロトランスポゾンであるSINE/VNTR/Alu因子の配列の一部が,Hoolock属のセントロメアで増幅。本来のセントロメア反復配列は,ほぼ消失。他の3属のセントロメアは本来の配列のまま。) [4] ヨザル科のOwlRep配列(187塩基対。ヨザル科Aotidaeが他の科と分岐した後に出現し,セントロメア周縁部で増幅。夜行性への移行と深く関連。) [5] ヨザル科のOwlAlp1配列(185塩基対。Aotidaeが他の科と分岐した後に,セントロメア反復配列の変異型が生じ,これが増幅。本来のセントロメア反復配列は機能を喪失。) [6] オマキザル属のCapA配列(約1500塩基対。Cebus属がSaimirti属などと分岐した後に出現して増幅。染色体の腕の中間部に大きなブロックを形成。)

  • 平井 啓久, 平井 百合子, 森本 真弓, 兼子 明久, 釜中 慶朗, 古賀 章彦
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: A21
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/12
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    ダーウィンの「種の起源」(1859)以来,種分化機構は地球上生命における多様性維持の基盤と考えられてきた。これらの中には,大容量のゲノム情報を包含する染色体変異のような生物現象を含んでいる。初期の研究において進化的に重要な関係を示す示唆的な現象が示されている。雑種におけるゲノムの劇的変化,雑種種分化,染色体種分化等である。雑種形成に関わる生物学的・進化的意義は古来議論されてきた。霊長類研究所のヨザルのコロニーで生じた異種間雑種に,新奇の染色体変異を発見した。Aotus azarae boliviensis (2n = 50) メスとA. lemurinus griseimembra (2n = 53) オスの間に7個体の種間雑種が生じた。そのうちの4個体の染色体を解析したところ,2個体は単なるゲノムの混合であったが,他の2個体の内1個体においてX染色体トリソミーが,他の1個体において18番染色体トリソミーならびに21番と23番染色体の相互転座が観察された。さらに,後者の個体では18トリソミーと21/23相互点座のモザイクが血液細胞で観察された。これは有胎盤類でははじめてのケースであり,雑種効果(hybridization effect)によって生じたものと推測され,雑種種分化や雑種染色体進化の機序を検討する糸口となる可能性がある。ヨザル類が南米大陸北部において複雑な種分化ならびに染色体変化を生じていることにも深く関わっているかもしれない。

  • 田村 大也
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: B01
    発行日: 2017/07/01
    公開日: 2017/10/12
    会議録・要旨集 フリー

    「取り出し採食」は霊長類の認知能力の進化を促進した要因のひとつとして近年再度注目されている。これらの研究は,主に大型類人猿やオマキザル類で行われてきたが,この行動について多様な系統や種で知見を蓄積し比較することは,認知能力の進化の理解を深めるために必要不可欠である。宮城県金華山島の野生ニホンザルで見られるオニグルミ種子(以後,クルミ)の採食行動は「取り出し採食」に位置付けることができる。ニホンザルはクルミの堅い外殻を歯で割るため,採食するには強い咬合力が必要であると予測される。一方で,咬合力だけでなく何らかの採食技術が必要な可能性もある。そこで本研究は,まずクルミ採食個体の性・年齢を記録し,咬合力とクルミ採食行動の関係について基礎的な情報を提供する。さらに,クルミ採食時の操作を動画から詳細に分析することで,採食技術の存在とそのバリエーションを明らかにする。2015年および2016年の秋,B1群を対象に調査を行った。その結果,7歳以上のオスではすべての個体で,メスでは5歳以上のほとんどの個体でクルミ採食が確認された。しかし,メスでは5歳以上の個体のうち6個体で採食が一度も確認されなかった。このことから,クルミを採食するためには咬合力に加え,特にメスでは採食技術を獲得する必要性が示唆された。動画分析の結果,採食技術として4つのクルミの割り型(粉砕型,片半分型,半分型,拡大型)が確認され,個体によって示す割り型が異なっていた。各割り型は5つの操作要素の組み合わせで構成され,その構成が割り型によって異なることが明らかになった。この結果は,クルミの採食という同一の目的に対し異なる採食方法を採用するといった行動の柔軟性や,複数の操作要素を構造的に組み合わせ,その構成が個体によって異なるという行動の複雑性を野生ニホンザルが有していることを示唆している。

  • 本郷 峻, 中島 啓裕, エチエンヌ・アコモ‐オクエ , ミンドンガ‐ンゲレ フレッド・
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: B02
    発行日: 2017/07/01
    公開日: 2017/10/12
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    生殖隔離と種分化のメカニズムを考えるうえで,野生動物の交雑に関する情報は重要である。野生霊長類の交雑個体はマカク属,ヒヒ属,グエノン属など同属の種間ではいくつか知られているが,属が異なる種間の場合にはほとんど報告がない。私たちは,初めてマンドリル(Mandrillus sphinx)とシロエリマンガベイ(Cercocebus torquatus)の交雑個体と推定される個体をカメラトラップ映像から確認したので,両種の混群形成のパターンと合わせて報告する。私たちは2012年1月から2014年2月において,ガボン共和国ムカラバ-ドゥドゥ国立公園東部の160ヶ所にカメラトラップを設置した。記録されたビデオ映像から種同定を行った結果,マンドリルとシロエリマンガベイの混群がしばしば観察された。混群のほとんどがマンドリルのヒトリオスとシロエリマンガベイの集団という組み合わせであった。シロエリマンガベイの集団の中に,外見的特徴からマンドリルとの交雑個体であると推定される個体がしばしば撮影された。これらの個体は尾が両種の中間程度の長さであり,鼻面がシロエリマンガベイと比べて長かった。顔部の色はシロエリマンガベイのように黒い個体がほとんどだったが,体毛の色は両種の中間的なパターンを示していた。これらの結果は,マンドリルのヒトリオスがしばしばシロエリマンガベイの群れと混群を形成し,集団内のメスと交尾して繁殖することを強く示唆する。両種は姉妹群ではあるが約500万年前に分岐したと推定されているため交雑個体には繁殖能力がない可能性が高いが,今後遺伝的研究により交雑形成を確認し,その繁殖能力を調べる必要がある。

  • 石塚 真太郎, 川本 芳, 坂巻 哲也, 徳山 奈帆子, 戸田 和弥, 岡村 弘樹, 古市 剛史
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: B03
    発行日: 2017/07/01
    公開日: 2017/10/12
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    霊長類の社会を理解する上で,親和的交渉の説明に用いられる個体間の血縁関係,およびそれらに影響を及ぼす繁殖システムを評価することは欠かせない。ボノボの社会では,オス間の熾烈な繁殖競合が見られず,集団間関係が比較的親和的である。これらは霊長類の中で特異的であるため,オスの繁殖成功の評価や,隣接集団の個体間の血縁関係の評価は必要であると言える。そこで本研究では,父子判定によってボノボのオスの繁殖成功を評価すること,集団内と隣接集団の個体間の血縁の濃さを比較することを目的とした。対象はコンゴ民主共和国・ワンバ村周辺に生息し,全個体が識別されている野生ボノボ隣接3集団とした。オスの順位は攻撃交渉に基づいて区分した。全成熟個体を含む合計70個体について,常染色体上STR8座位の遺伝子型を決定した。父子判定は父親由来のアリルを持たない父親候補オスの父権を否定した後,否定されないオスの信頼レベルを対数尤度から求め,決定した。個体間の血縁度は集団の遺伝子頻度,およびアリル共有に基づいて推定した。父子判定の結果,第一位のオスが少なくとも半分の子を残していることがわかった。血縁度推定の結果,集団内のオス間の平均血縁度は隣接集団のそれよりも有意に高かった。一方でメス間の平均血縁度は,集団内と隣接集団の間で有意な差が見られなかった。ボノボでも第一位オスが多くの子を残すことは他種と共通しており,順位の決まり方こそが他種と異なると考えられる。集団内のオス間で密な血縁は,オスが生涯出自集団に留まること,同一のオスが多くの子を残すことに起因していると考えられる。集団内と隣接集団のメス間の血縁に差がないことは,メスが得られる包括適応度が,集団内のメスとの親和的交渉と隣接集団のメスとのそれの間で差がないことを示唆している。これらが親和的な集団間関係の形成に寄与していると考えられる。

  • Xiaochan YAN, Chengfeng WU, Peng ZHANG, Hiroo IMAI
    原稿種別: Oral Session
    セッションID: B04
    発行日: 2017/07/01
    公開日: 2017/10/12
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    We investigated the relatedness among adult females in wild Rhesus macaque (Macaca Mulatta) to understand what kinship affects social behavior. DNA were extracted from fecal samples and microsatellite markers were used for establishing kinship network. Totally 117 specimens of 38 individuals were used to perform molecular experiment, each individual was collected more than 2 specimens, each specimen was amplified over than 3 times. 6 high polymorphic microsatellite loci of 10 candidate loci were selected successfully. On average, the PIC value (Polymorphism information content) of microsatellite loci was 0.567, ranging from 0.467 to 0.744. Establishing kinship network and comparing it with affiliative behavior network, we found that significant correlation between kinship network and affiliative behavior network, which supported to kin selection theory. Supporting by hierarchy data, genetic similarity is useful to determine the pedigrees and to explain social behavior.

  • Zhou Qihai, Huang Zhonghao, Tang Chuangbin, Huang Libin, Huang Ch ...
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: B05
    発行日: 2017/07/01
    公開日: 2017/10/12
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    Limestone hills are an unusual habitat for primates, prompting them to evolve specific behavioral adaptations to the component karst habitat. From September 2012 to August 2013, we collected data on the diet of one group of Assamese macaques living in limestone forests at Nonggang National Nature Reserve, Guangxi Province, China, using instantaneous scan sampling. Assamese macaques were primarily folivorous, young leaves accounting for 75.5% and fruit accounted for only 20.1%. The young leaves of Bonia saxatilis, a shrubby, karstendemic bamboo that is superabundant in limestone hills, comprised the bulk of the average monthly diet. Moreover, macaques consumed significantly more bamboo leaves during the season when the availability of fruit declined, suggesting that bamboo leaves are an important fallback food for Assamese macaques in limestone forests. In addition, diet composition varied seasonally. The monkeys consumed significantly more fruit and fewer young leaves in the fruit - rich season than in the fruit - lean season. Fruit consumption was positively correlated with fruit availability, indicating that fruit is a preferred food for Assamese macaques. Of seventy - eight food species, only nine contributed >0.5% of the annual diet, and together these nine foods accounted for 90.7% of the annual diet. Our results suggest that bamboo consumption represents a key factor in the Assamese macaque's dietary adaptation to limestone habitat.

  • Cecile Anna SARABIAN, Andrew MACINTOSH
    原稿種別: Oral Session
    セッションID: B06
    発行日: 2017/07/01
    公開日: 2017/10/12
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    To what extent do primates - our closest phylogenetic relatives and thus the most relevant to understanding the origins of human hygiene practices - exhibit counterstrategies when faced with risk of infection? To address this, we conducted feeding-related infection-avoidance experiments with 5 species of Papionini and Hominini: Macaca fuscata fuscata, Macaca fascicularis, Mandrillus sphinx, Pan troglodytes troglodytes, and Pan paniscus. First, we found that free ranging Japanese macaques vary in their sensitivity to infection risk during foraging under both experimental and natural conditions, and the ‘hygienic tendencies’ of individuals were good predictors of their current levels of geohelminth infection. Then, we expanded our experimental protocol to include visual, olfactory and tactile cues of feces and other contaminants such as blood, semen, rotten meat and rotten fruit with captive chimpanzees, semi-free-ranging mandrills, group-housed long-tailed macaques and semi-free-ranging bonobos. Results indicate that subjects demonstrated risk-sensitivity to these potential contaminants, manifest as increased latencies to consumption of food rewards, maintenance of greater distances from contaminants, and/or outright refusals to consume food in test versus control conditions. Current work is testing whether risk-averse individuals with greater tendencies to avoid potential sources of contamination are less prone to infection and thus characterized by better general health than risk-prone individuals. These studies are aimed at better understanding behavioral immunity to infection among primates, which is fundamental to the understanding of the origins of human hygiene.

  • Rafaela S. C. TAKESHITA, Michael A. HUFFMAN, Kodzue KINOSHITA, Fred B. ...
    原稿種別: Oral Session
    セッションID: B07
    発行日: 2017/07/01
    公開日: 2017/10/12
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    Castration has been used in nonhuman primates to control population demography, but the impact of this procedure on the social relationships of male Japanese macaques living in a complex society has not yet been investigated. This research examined fecal glucocorticoids (fGC) and fecal testosterone (fT) concentrations in male Japanese macaques residing in two social groups of contrasting environments (Jigokudani, Japan and Born Free Primate Sanctuary - BFS, Texas, USA), and males housed individually. The primary goal was to test the effect of castration on dominance hierarchy and steroid concentrations in Japanese macaques. We also investigated social, environmental and biological factors affecting steroid hormones. We collected behavioral data (focal animal and ad libitum sampling) to establish male dominance rank in the social groups, and fecal samples during the non-mating season from all males. We found that males housed in single cages had fT concentrations similar to castrated males and lower than intact social males. Castrated males maintained a dominance hierarchy primarily determined by age, and they were less aggressive than intact social males. Age had a positive relationship with fGC, but the opposite trend on fT levels. Rank and temperature were directly correlated to fT concentrations only in the intact social group. Our findings indicate that testosterone can be a consequence of the social structure of the group, and therefore is significantly affected by the social environment. Our results can contribute to the management and monitoring of primate populations in the wild and in captivity because they reveal that a complexity of connections link the social environment with male Japanese macaque steroid concentrations.

  • 久世 濃子, 金森 朝子, 山崎 彩夏, 田島 知之, MENDONÇA Renata, MALIM Peter T., BERNARD H ...
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: B08
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/12
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    オランウータンは2種3亜種に分類されているが,ボルネオ島北部から東部に生息する亜種Pongo pygmaeus morioは,他種に比べて雌の脳容量が小さい,という報告がある。P. p. morioの生息地は,果実生産量の変動が激しく,果実生産量が少ない期間が長いために,妊娠・授乳によって栄養的な負荷が特に高い雌で,消費エネルギーが大きい脳を小さくする方向に進化した,という仮説が呈示されている(Taylor & van Schaik 2007)。そこで本研究では,繁殖(妊娠・授乳)によるエネルギー的負荷が,雌の栄養状態にどのように影響を与えているのか明らかにするために,未成熟個体や雄の栄養状態を調べ,雌と比較した。ボルネオ島マレーシア領サバ州のダナムバレイ森林保護区内のダナム川の両岸2 km2の一次林を調査地とし,2005年3月から2014年12月まで,毎月平均15日間,オランウータンを探索及び追跡し,尿サンプルを採取した。栄養状態を推定するために,尿中のインスリン分泌能指標物質(C‐Peptide)について,エンザイムイムノアッセイ法を用いて測定した。その結果,フランジ雄(平均10.5 pmol/Crmg,N=20)や未成熟個体(平均22.8 pmol/Crmg,N=25)に比べて,授乳中(平均6.5 pmol/Crmg,N=39)や妊娠中(平均3.8 pmol/Crmg,N=11)の雌では濃度が低い,という結果が得られた。また発情している可能性があった非授乳中の雌では1サンプルしか測定できなかったが,C-Peptide濃度は最も高い値だった(777.9 pmol/Crmg)。C-Peptideは個体の栄養状態を反映し,栄養状態が良いと高値となる。したがって妊娠や授乳は,雌に栄養的負荷をかけていることが確かめられた。発表では,月毎の果実生産量の変動との関連や,他の調査地との比較を踏まえて,果実生産量が,異なる性や年齢区分,繁殖状態の個体に与える影響について考察する。

  • 蔦谷 匠, 清水 美香, 佐橋 智弘, 久世 濃子
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: B09
    発行日: 2017/07/01
    公開日: 2017/10/12
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    授乳・哺乳行動は,アカンボウの健康な成長に重要であるだけでなく,出産間隔などの繁殖パラメータにも関係する。そのため,飼育下においても,アカンボウの母乳摂取割合を正確に見積もることは重要である。しかし,栄養的母乳摂取をともなわない吸乳行動が見られる,夜間授乳を評価できないなどの問題点から,大型類人猿アカンボウの母乳摂取割合を行動観察から正確に推定するのは困難である。その一方で,安定同位体分析を用いることにより,アカンボウの母乳摂取割合を正確に推定できる可能性がある。食物に含まれる質量数の大きい同位体の割合(同位体比)は,それを摂取した生物の体組織に反映される。安定同位体分析は,この原理を利用して,生物の摂取した食資源の寄与割合を定量的に推定する方法である。母乳には窒素の安定同位体が比較的多く含まれるため,アカンボウ体組織の窒素同位体比を測定することで,母乳摂取割合の年齢変化を推定できる。本研究では,飼育下のオランウータン母子を対象に,授乳行動を出生直後から3~4年にわたって観察し,あわせて同位体分析を実施して,同位体分析によって母乳摂取割合が推定可能かを検証した。多摩動物公園(東京都多摩市)および旭山動物園(北海道旭川市)に飼育されるボルネオ・オランウータン(Pongo pygmaeus)母子それぞれ2組と1組を対象とし,定期的な行動観察と毛の採取を継続した。分析の結果,同位体分析によって,大型類人猿のアカンボウの母乳摂取割合が推定できる可能性が示された。行動観察,安定同位体分析,母親の性ホルモン状態の測定など異なる手法を組み合わせることにより,行動的な離乳,栄養的な独立,母親の発情回帰などの関係を明らかにできる可能性がある。

  • 突田 貴美子, 吉成 明紘, 青木 孝平, 下岡 ゆき子
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: B10
    発行日: 2017/07/01
    公開日: 2017/10/12
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    ニホンザルの抱擁行動は,金華山,屋久島,下北半島などで観察されている。抱擁行動には,抱擁の仕方や,揺さぶりの大小に地域差があることが知られているが,主にオトナメス間で行われる点が共通している。また,直前には接近や毛づくろいの中断など,緊張感を伴う場面が多いこと,直後には,多くの場合,毛づくろいに移行することが知られている。上野動物園のエンクロージャーで飼育されている,下北半島出身の1群37頭を対象に,2016年5月~2017年1月の43日間,計198時間の直接観察を行ったところ,抱擁行動154例を観察することができた。抱擁行動を行った個体の組み合わせは,オトナメスーワカモノメス間が最も多く,次いでオトナメス同士が多かった。抱擁行動の直前に行われた行動は,当事者同士の抱擁:52例(34%),当事者同士のマウント:42例(27%),接近:21例(14%)であり,また,抱擁行動の直後の行動も,抱擁:103例(67%),毛づくろい:35例(23%)といずれも他地域とは異なる文脈で行われていることが明らかとなった。飼育下では,毛づくろいの役割を交代しながら長時間にわたって毛づくろいをすることが珍しく,毛づくろいの交代がうまくいかなくてもそれを修復しようとしない,というように,生息環境の違いに基づいた,生活の中で生じる文脈の違いが大きいことと関連していると考えられた。また,上野動物園では,抱擁行動の生起頻度が観察期間全体では0.78回/h,交尾期に限定すると1.94回/hと他地域(金華山:0.48回/h; 屋久島:0.16回/h)に比べてかなり高かった。上野動物園では繁殖抑制のために2年前から交尾期にオトナオスを隔離しているため,全オトナメスが発情可能だが,妊娠することがない。そのために生じるストレスを抱擁行動で解消している可能性が考えられた。また,オトナメス同士がマウントし,口周りをすり合わせる不思議な行動も67回観察されたので,これについても報告する。

  • 上野 将敬, 寺田 和憲, 加畑 亮輔, 林 英誉, 山田 一憲
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: B11
    発行日: 2017/07/01
    公開日: 2017/10/12
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    霊長類研究者は,一頭一頭異なる個体の顔を識別することによって,個体間に血縁関係や順位関係といった社会関係があることや行動傾向が各個体によって異なることを発見してきた。霊長類の行動を研究するためには,長い時間をかけて繰り返し個体を観察して個体識別を行う必要がある。しかし,集団で生活する霊長類の個体識別を習得するためには多くの時間と労力を必要とする。本研究では,霊長類の個体識別を瞬時に行うことのできる装置の開発を目指して,ニホンザルの画像をもとに個体識別を行うプログラムを作成し,動画中のニホンザルの識別を行えるかどうかを検討した。岡山県真庭市神庭の滝自然公園付近に生息する勝山ニホンザル集団,兵庫県洲本市に生息する淡路島ニホンザル集団,及びインターネット上のニホンザル画像をプログラムの作成に用いた。これらの画像をもとに,ベイズの定理に基づいて逐次に状態推定を行うパーティクルフィルタと抽象化能力に優れるディープラーニングを組み合わせ,動画像中のニホンザルの追跡と,ニホンザルの顔画像から個体識別を行うプログラムを作成した。結果として,このプログラムによって,勝山ニホンザル集団における4歳齢以上の66個体に関して,頑健な追跡が可能であることが確認されたが,顔画像による個体識別には課題があることが分かった。本研究で開発する個体追跡・識別プログラムは,野生霊長類の行動研究を行いやすくするだけでなく,猿害対策のための画期的な手段となることが期待される。

  • 中川 尚史
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: B12
    発行日: 2017/07/01
    公開日: 2017/10/12
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    学会機関誌『霊長類研究』のあり方について,初代編集長の杉山幸丸氏による意見論文が2006年(杉山,2006)に引き続き掲載された(杉山,2016)。異分野の理解につながり,情報や意見の交換となる記事群が少なくなっていることを憂い,編集委員の奮起を促す内容である。これに対し,それぞれ編集長名(濱田,2006),編集委員会(準備中)名で回答も掲載されている。しかし,どちらの側も量的なデータに基づいて議論しているわけではなかった。本発表では,『「霊長類研究」の研究』(杉山,1994)の手法にならい,量的データに基づいて『霊長類研究』の変質を追ってみることにした。杉山(1994)の解析の対象となった1993年9巻3号まで(第I期),杉山(2006)発行年の22巻2号まで(第II期),そして杉山(2016)発行年の32巻2号まで(第III期)の3期に分け,記事種別ごとに1号当たりの記事数およびページ数,ならびに合計ページ数を調べた。なお,1993-2002年と2008年には特集号が発行されていたため,通常号と特集号は分けて分析した。まず,異分野理解につながる総説・講座は,通常号のみでも特集号を含めても件数,ページ数ともにIIIが最大であった。次に情報・話題・翻訳は,件数ではほとんど変化が見られなかったが,ページ数では通常号のみでも特集号を含めてもIII,II,Iの順に多かった。また,意見は,通常号のみでも特集号を含めても,記事数ではIIが極端に少なくIとIIIに差はない一方で,ページ数ではIIIが最大であった。発表抄録をSupplementに移し,学会記事を要約版に変えるなどして経費削減に努めたため総ページ数はIIIで最小だが,上記3種に加え原著,短報,調査・技術報告,資料,書評といった記事に限定した合計ページ数はIIIが最大であった。また概ね特集号と合わせた年3号を発行していたII期も,1号当たりでなく年当たりでは,ほとんどの記事種別で最大の値を示し,それぞれの期で奮闘している様子が覗えた。

  • 中村 美知夫, 山上 昌紘
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: B13
    発行日: 2017/07/01
    公開日: 2017/10/12
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    タンザニアのマハレで,チンパンジーが「対峙的屍肉食」をした事例を報告する。人類進化を考える上でかつて一世を風靡した「狩猟仮説」は,現在では「屍肉食仮説」に置き換わっている。初期人類が,屍肉食をしていただろうという点では概ね合意が得られているが,それが「消極的」だったのか「対峙的」だったのかについては,論争が続いている。前者は肉食獣が完全に放棄した後に骨髄などを利用していたとするもの,後者は肉食獣を追い払って獲物を奪っていたとするものである。こうした議論の中で現生類人猿が参照されることは少ない。それは,類人猿による屍肉食がそもそも稀であり,とくに肉食獣と対峙して獲物を奪った報告例がなかったからである。本事例では,ヒョウの姿が目撃され,その後チンパンジーによる警戒声が繰返し聞かれた。声の付近へ多くの個体が駆けつけると,一頭の雌が藪の下からブルーダイカーの成体雄を引きずり出した。ダイカーの頸部にはヒョウによると思われるごく新しい傷があったが,まだ食われてはいなかった。その後,チンパンジーたちはすぐ横の樹上でダイカーを食べ始め,肉食は計5時間以上続いた。のべ7頭がダイカー本体を保持した。その間,再びヒョウが近くで目撃され,チンパンジーによる警戒声が複数回聞かれた。ヒョウは獲物を置いて一旦その場から避難したものの,再び戻ってきたものと思われる。チンパンジーが完全に放棄してからダイカーの死体を回収したが,腹部・右後肢・左前肢以外はほとんど完全に残っていた。頭胴長が570 mm,残った部分の重量が2.20 kgであったことから,1~2 kgの肉が食べられたと推測される。マハレではこれまでにも,ヒョウから獲物を奪った可能性が指摘されてきたが,実際にヒョウの姿も確認された屍肉食の観察は今回が初めてである。こうした事例は稀であるが,チンパンジー大のホミニンが,自らを捕食する危険性もある大型肉食獣から獲物を奪うことが可能であったことを示唆する。

  • 竹元 博幸
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: B14
    発行日: 2017/07/01
    公開日: 2017/10/12
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    森林のヒョウは日中,サルが樹から降りたところを狙うことが多い。アフリカニシキヘビは昼間活動し,地上か水辺で58kgまでの獲物を捕らえる。カンムリクマタカはおよそ12kgまでの動物を林床で捕まえる。もちろん昼行性だ。猟師が仕掛ける罠も地上にある。熱帯林内では,昼間であっても,地上は樹上に比べ捕食や怪我のリスクが高いのではないだろうか。地上行動時は個体がより集まりやすくなり,オスが一緒に行動することが多いという作業仮説をたて,検証してみた。ワンバのボノボとボッソウのチンパンジーにおいて,それぞれ地上利用時間が異なる2季節で,一日一頭の個体追跡を行なった。10分毎に観察者から見える個体(independent individualのみ)を距離に関わらず全て記録し,追跡個体の行動カテゴリーで分類して解析した。一般化線形モデルでは,果実量,果樹の分布,THVその他パーティーサイズを増やすと考えられる地上性食物の採食時間,追跡個体の性別は観察個体数に影響せず,追跡個体の地上休息時間が多い日は平均で多くの個体が記録された。10分毎のデータでは,樹上休息時(ワンバ2.3±1.1, n=602; ボッソウ2.0±1.2, n=481)よりも地上休息時(ワンバ2.8±1.7, n=177; ボッソウ2.9±1.5, n=264)の方が観察個体数が多かった。ワンバ,ボッソウいずれにおいても,地上休息時はメスだけの集団が減り,オスメスの両性集団の観察比率が高くなった。地上行動は観察者にとって見にくい。それはボノボやチンパンジーにとっても同様だろう。霊長類全体では捕食圧は群れサイズの増加と複雄群化を促すが,チンパンジーのパーティーではこの傾向がはっきりしない。ここで示した個体数はパーティーサイズとは異なるが,より近接した個体数が増えること,オスを集団に含むことで,警戒行動の効率が高まり,捕食やそのほかの危険のリスクに対応しているのかもしれない。

  • 佐藤 宏樹
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: B16
    発行日: 2017/07/01
    公開日: 2017/10/12
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    果実食性で体サイズの大きい鳥類と哺乳類が少ないマダガスカル島では,大型種子植物は唯一の大型果実食者であるキツネザル科に種子散布を頼っていると考えられる。樹木個体が種子散布を成功させるためには,種子散布者の訪問を多くして種子の持ち去り率を高める必要がある。本発表ではマダガスカル北西部の熱帯乾燥林に自生する大型種子樹木2種の有効な種子散布者と,その訪問頻度を高める樹木の特徴を同定する研究について報告する。乾季結実植物Astrotrichilia asterotrichaの9個体,雨季結実植物Abrahamia deflexaの7個体を対象とし,結実期間中に昼夜を通して樹冠に訪れる動物の個体数と行動を観察記録した(各個体40時間・合計640時間)。果実を採食した動物3種のうち,小型キツネザル2種は種子を吐き出し,より大型のチャイロキツネザル(Eulemur fulvus)は種子を飲み込んで樹冠外に持ち去った。つまり両樹種にとって,チャイロキツネザルが唯一の種子散布者になる。果樹で採食する際,彼らは頻繁に糞を樹冠下に落とす。そこで両樹種13個体ずつの樹冠下に果実トラップを設置し,結実期間中は2日に一回糞の有無を確認して訪問頻度の指標とした。個体ごとの樹冠面積,果実トラップ内の果実密度,樹木の半径30m内で結実する果樹数,果実1個あたりの平均果肉量を説明変数とし,訪問頻度に対する効果を検証した。A. asterotrichaでは樹冠面積が大きく,果実密度が高く,周辺の果樹が多い個体が頻繁に訪問された。A. deflexaは高い果実密度だけが訪問頻度を高める効果を示した。乾季は少数の高木種だけが結実するため,5-15個体の群れを形成するチャイロキツネザルは群内の採食競合を緩和できる大きな採食パッチを選んでいると考えられる。雨季はツルや低木も含めた多様な種が結実し,チャイロキツネザルは長距離を遊動しながら大小さまざまな果実パッチを訪問するため,小さなA. deflexa個体でも訪問されたと考えられる。

  • 渡邊 邦夫
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: B17
    発行日: 2017/07/01
    公開日: 2017/10/12
    会議録・要旨集 フリー

    東南アジアの国々では,俗にテンプル・モンキーと呼ばれる,寺院や公園などで人と非常に近い関係をもったサルの群れをよく見かける。タイ国ロブリ市とインドネシア国西ジャワ州パンガンダラン自然保護区のカニクイザルを中心に,その長期にわたる個体数変動を分析した。シンガポールとバリ島ウブドのモンキー・フォレストの事例も参照したが,いずれにも共通して見られる特徴があった。1970年代までは,どの地域においてもそう個体数が大きくはなかった。だがその後急速に増加し,さらに現在もまだ増加している。それはこれらの国々の急速な経済発展や都市化の進行と同調しているように思える。また,こうした実情は日本における野猿公苑の歴史や,近年の農作物被害増加に伴う野生ニホンザルの個体数増加とも軌を一にしている。これらの種の特徴とともに,将来の個体群管理の必要性を議論したい。

  • 杉浦 秀樹, 揚妻 直樹, 揚妻-柳原 芳美, 藤田 志歩, 田中 俊明, 鈴木 真理子, 相場 可奈, 香田 啓貴, 原澤 牧子, 室山 ...
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: B18
    発行日: 2017/07/01
    公開日: 2017/10/12
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    屋久島西部地域には,野生ニホンザルが高密度で生息しており,ここを通過する道路では,容易にサルを観察できる。1999年から2016年の17年間にわたり,毎年8月に道路を歩いてサルの頭数をカウントした。1999年にはサルの大量死が起こったが,その後,約10年間の間,出産率は2年周期で増減を繰り返した。その後,このような周期性は見られなくなった。このような増減の繰り返しは,宮城県金華山島など類似している。また,国立公園外ではサルの発見率が減少傾向にあり,サルが減少している可能性がある。

  • 半谷 吾郎, 大谷 洋介, 本郷 峻, 本田 剛章, 岡村 弘樹, 肥後 悠馬
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: B19
    発行日: 2017/07/01
    公開日: 2017/10/12
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    サルのような追跡の容易な動物であっても,活動時刻のパターンを,追跡によって知るのは難しい。夜間や悪天候時のように,追跡ができない状況が存在するためである。カメラトラップは,そのようなバイアスなしに活動を記録することのできる,非常に有用な手段である。本研究では,野生ニホンザルの夜間を含めた全体的な活動パターンを知ることを目的に行われた。屋久島西部,標高800mから1300mの地域に30台の自動撮影カメラを設置し,2014年7月から2015年7月までの期間,動画の撮影を行った。カメラの稼働日数の合計は8658日・台で,カメラあたりの稼動日数は287±80日/台(平均±SD),最長352日,最短98日だった。合計で,ニホンザルを636回撮影した。一日の時間帯を,日の出日没前後各1時間,昼間,夜間の6つに区分すると,撮影頻度は昼間と日の出後1時間>日没前1時間>日の出前1時間>日没後1時間>夜間の順だった。日の出前後と日没前後は明るさでは差がないが,日の出前後の活動が高かったのは,夜間の絶食による空腹の影響と考えられる。夜間の撮影は全部で4回あり,撮影日時は3:42(8/17),3:26(3/14),1:30(11/12),18:30(11/7)だった。日の出・日没前後1時間の4つの時間帯について,撮影数の季節変化を分析すると,気温が高い時期に日の出前の時間の撮影が多い傾向があった。暑い時期には,より涼しい時間帯に活動を活発化させることが有利なのだろう。30分後との降水と撮影の有無の関係を検討すると,全体として降水と撮影のあいだに負の関係があり,降水がないときに比べて,30分間の雨量がわずか0.5mmでも,撮影頻度は下がった。撮影が観察された最大降水量は6.5mm/30分だった。

  • 森光 由樹
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: B20
    発行日: 2017/07/01
    公開日: 2017/10/12
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    平成27年度全国のニホンザルによる農業被害額は10億9100万円 (農水省,2017)と高い状況にある。簡便で効果的な被害防除法の開発が急務である。電動ガンやロケット花火などを用いた,人によるサルの追い払いは効果があるが,労力がかかり被害農家の負担が大きく継続して実施できない場合がある。そこで報告者は,ドローンを用いて群れを追跡し,追い払いの効果について検討した。兵庫県神河町に生息している加害群を対象に,ドローン(Parrot Bebop 2)を用いて農耕地に出没した個体の忌避状態を記録し,本法の有効性について検討した。群れの捜索と追跡は,山岳遭難探索で用いられているビーコン(ヒトココ,AUTHENTIC JAPAN)を群れの成獣メスに装着して行った。群れが農耕地に出没したらドローンを群れの上空に飛行させた。飛行は,群れが農耕地からいなくなったら終了とした。飛行1日目は全ての個体が,ドローンに驚き逃避した。しかし,14日経過後,逃げない個体が観察された。今回の試験から,ドローンは追い払いに有効な方法であるが,しかし他の防除法と同じく学習し馴れてくると効果が弱くなる可能性もある。ドローンは操縦にある程度トレーニングが必要なこと,風雨の影響を受けること,バッテリー容量から飛行時間が短いこと,航空法の制限を受ける地域があることなどがある。今後は機材の開発と合わせて運用方法が課題である。

  • 豊田 有, 丸橋 珠樹, 濱田 穣, MALAIVIJITNOND Suchinda
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: B21
    発行日: 2017/07/01
    公開日: 2017/10/12
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    Food transfer is defined as the unresisted transfer of food from one food-motivated individual, the “possessor”, to another, the “recipient” (Feistner & McGrew 1989). This behavior has been described in different terms, including sharing, scrounging, and tolerbated theft, and it is usually accompanied by diverse behaviors such as begging, displacement of feeding spot, resistance of possessor, stealing, offering, and retrieving (Yamagiwa et al., 2015). Food transfer is mainly reported from apes, however, very few from genus macaca. Here we preliminary report food transfer behavior observed in stump-tailed macaques (Macaca arctoides) in Khao Krapuk Khao Taomor Non Hunting Area, Thailand. In this report, “Retrieving” - an individual takes food that another individual has dropped on the ground or placed there - is regarded as food transfer (see Yamagiwa et al., 2015). The aspect of transfer is different by the food item; transfer was more frequently occurred when they are eating food item that is not abundant and rare, or need to pay risk to obtain. Food transfer is often observed when monkeys are eating big food items which produce the food particles during eating. On the other hand, small food items or all-eatable food items are rarely transferred. Plant food transfer was observed not only among adults but also from adult to immature including transfer from mother to infant. Social interaction which can be interpreted as “Begging behavior” like presenting and greeting was also observed before food transfer occurred.

  • 丸橋 珠樹, 豊田 有, MALAIVIJITNOND Suchinda
    原稿種別: 口頭発表
    セッションID: B22
    発行日: 2017/07/01
    公開日: 2017/10/12
    会議録・要旨集 フリー

    これまで演者らは,ベニガオザルの種特異的な行動の幾つかを報告してきた。唇や睾丸へのmock-biteや犬歯欠損などの多様な雄雄出会い行動,性行動におけるマスト交尾,最上位雄がわずか10分足らずの射精間隔で10から20回以上の連続射精交尾を行うなどである。ベニガオザルは,マカク属のなかでは,特異的な真っ白いあかちゃんを出産する。本発表では,白いあかちゃんの性器を口に含む,手で触るなどの多様な赤ちゃんの性器への接触行動(TBG, Touch Baby Genital)の概要を報告する。調査対象は,タイ王国カオクラプック野生動物保護区に生息する半野生ベニガオザル個体群である。Ting群の2頭の経産雌を個体追跡し13.7時間と6.9時間のヴィデオ記録を分析した。ATの観察によって,2雌とも出産初観察日は3月4日で,その数日前に出産したと推測された。したがって,TMの個体追跡期間(2017年3月20日から4月1日)での赤ちゃんの日齢は,16日から28日+数日と推測される。この日齢頃の赤ちゃんは,群れ移動時には腹にしがみついているが,群れ休息時には,母から離れて歩き回り,母へと戻ることを繰り返す。TBGは,母から離れていた赤ちゃんが母へと戻るタイミングで発生し,他個体はこのタイミングを見計らって待ち構えるように母へ接近し,TBGに特異的な音声(gugugu)を発する。TBGには,母にしがみつく赤ちゃんをひっくり返してその性器を口にふくむ行動を含めて多様なバリエーションが見られる。あかちゃんへの接近やTBGを許されず母から攻撃される場合もあるが,TBG後,母へ短時間グルーミングが見られることもある。本報告では,白いあかちゃんを巡って繰り広げられるベニガオザルの種特異的行動TBGについて報告し,親とは違う毛色の赤ちゃんを出産する霊長類のアロマザリング行動と比較検討する。

ポスター発表
  • 土田 さやか, 丸山 史人, MUJJWIGA Eddie W., NGUEMA Pierre P. M., 牛田 一成
    原稿種別: ポスター発表
    セッションID: P01
    発行日: 2017/07/01
    公開日: 2017/10/12
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    「ヒトにはヒトの乳酸菌」というように,動物種を特徴づける腸内細菌が存在している。我々は,野生ニシゴリラ,野生マウンテンゴリラばかりでなく,飼育下のニシゴリラからも共通して分離される「ゴリラの乳酸菌」Lactobacillus gorillaeの研究を進めている。これまでの研究によって,ニシローランドゴリラ由来本菌株の表現形質は,飼育個体由来株にくらべ野生個体由株では植物の難消化性成分の分解能が高く,一方,飼育個体由来株は,野生個体由来株にくらべ高いNaCl抵抗性を示すことを明らかにした。これらの表現形質の違いは,飼育ゴリラの食事が飼料作物中心かつペレット給与などでミネラルバランスを十分維持している点,野生ゴリラは自然の植物を摂取しており,まれに昆虫食はするものの食事中のNa不足に常にさらされている点等の食事内容の変化に起因しており,同一種においても株レベルで飼育下への適応が始まっていると考えられた。本発表では,これまでの結果に加え,ニシゴリラとは食性の異なるマウンテンゴリラ由来株の生理性状の特徴を示し,ニシゴリラとマウンテンゴリラ由来株の表現形質の比較を行う。さらにこれらの菌株の全ゲノム解析の結果を示し,L. gorillaeの種内変異を明らかにするとともに,それぞれが宿主と共生関係を確立するための条件や,飼育下の食事内容に本菌が適応する条件等について考察する。

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