近年, 化学物質による環境汚染が問題となっている。特に,残留性有機汚染物質(POPs)による環境汚染は深刻である。これらの物質は,食物連鎖の過程で高次生物に高濃度で蓄積する。そのため, 残留性有機汚染物質(POPs)の高次生物における残留実態を調べることにより,近年の環境汚染の度合いを知りたいと思った。 本研究では, 私が生物の中でも特に興味を持っている鳥類に焦点を絞り, 鳥類の体内にどのくらいの濃度でPOPsが蓄積しているのか, また, POPsの濃度が, 年が経つにつれてどのように変化しているか調べることを目的とした。実験方法は, 試料を採取(本研究では愛媛大学のes-BANKに冷凍保存されているトビの胸筋を使用)し, 凍結乾燥後, 抽出。ゲル浸透クロマトグラフィー{GPC にサンプルロードし,抽出液を計測する物質(POPs)と脂質に分ける操作}を行い,活性シリカゲルの後,窒素濃縮。バイアル管をGC-MS (ガスクロマトグラフ質量分析計)にセットし, POPsの分析を行った。実験結果は,まず汚染実態は測定した物質の濃度の平均を算出すると, PCBs>DDTs>CHLs>HBCDs>PBDEs>HCHsの順になった。この結果から, 有機塩素系の農薬も依然として相対的に高濃度で蓄積しているということが分かった。 また, トビは生態系の頂点に位置しているため, POPsによる暴露が顕著にあらわれていると考えられる。 次に経年変化は, PCBs・DDTs・HCHsでは有意な減少が見られたが, PBDEs・HBCDs は有意に増加した。 また, CHLsは増加も減少もほとんどなく定常状態だった。 PCBs・DDTs・HCHsの減少は, これらの物質が先進国では早い段階で使用禁止になったこと, また, PBDEs・HBCDs の増加は, これらの物質が最近まで使用されていたことが関係していると考えられる。 トビは留鳥であるため, この結果から愛媛でも近年まではPOPsが使用されており, 未だに生体内に高濃度で蓄積しているということが分かった。
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