東北地方の新第三系に含まれる浅海性貝化石群には, 時代と内容を異にする3つの動物群(中新統下部の門ノ沢型動物群, 中新統上部の塩原型動物群, 鮮新統の竜ノ口型動物群)を区別することができる。筆者らは, これらが標式的に含まれ, かつ化石の保存のよい奥羽山地の東側に分布する含化石層について, 各動物群の属種構成とその水平的変化を調べた。一方それとは独立に, 含化石層の岩相解析から堆積環境を推定して, それと化石群集との関係を明らかにすることを試みた。その結果各動物群には, いくつかの優占種によって特徴ずけられる4ないし5の群集が認められ, 各群集は化石の内容とは独立に推定復元された当時の湾の中のある限られた部分にのみ分布し, 含まれている岩相も一定のものであることが明らかになった。また, ある動物群を構成する群集は, 時代の異る他の動物群中に, それぞれ対応する群集をもっている。対応する群集間では, 互いに属構成が極めてよく類似するだけでなく, 復元された湾内での分布地域や岩相にも共通性が高い。このような対応は現生生態学でparallel communityとよばれる関係に相当すると考えられ, この概念が時代的にも成立することが示された。ここで示された新第三紀の群集によく似た属構成をもつ群集は現在の各地の内湾で知られている。
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