平和研究
Online ISSN : 2436-1054
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特別寄稿
  • 南 研子
    2022 年 58 巻 p. 1-17
    発行日: 2022/10/15
    公開日: 2022/10/13
    ジャーナル フリー

    人類には「自然への服従」しかないはずだが、牛などを飼育する牧場の造成や、大豆畑の拡大で、アマゾンの熱帯雨林は荒廃が進んでいる。ブラジルのボルソナーロ大統領は、こうした状況をさらに悪化させるかのように先住民を追いつめている。他方で、遠く離れた日本に住む私たちの身の回りでも、鶏肉がコンビニやファストフード店で売られているが、それはブラジル産であったりする。その鶏は大豆で育てられているため、大豆栽培のために熱帯林がどんどん伐採・消失していく。また缶ジュースなどに使用されるアルミもそこで採掘されてきたため、アマゾンの熱帯雨林の環境破壊がずっと進んできたことも確認された。これに対して、アマゾンのインディオの人びとは、全てのものに精霊が宿り、それらの力に自分たちは生かされていると考えており、そうやって畏敬の念をもって、「足る」を知り、自然とともに生活をしてきた。動植物にたいしても、インディオの人々はお互いにある距離を保ち、自然の「テリトリー」というもの尊重して生活をしている。熱帯森林保護団体(RFJ)としては、支援事業である養蜂事業と消防事業を通して、彼らの生活基盤である熱帯雨林を守る活動を続けてきたことが紹介された。

依頼論文
  • 前田 幸男
    2022 年 58 巻 p. 19-45
    発行日: 2022/10/15
    公開日: 2022/10/13
    ジャーナル フリー

    平和学は、気候危機やコロナ禍といったノン・ヒューマンにどのように向き合い、平和を創っていけるのかという問いが「気候変動と21世紀の平和」プロジェクト立ち上げの契機であったことを確認した。本稿は、ノン・ヒューマンとの平和を生成するためにヒトには何ができるのかを論じた。

    第1節ではバイオームとアンスロームの区分を確認し、ヒトの諸活動が地球にどのような負荷(=暴力)をもたらしているのかを論じた。第2と第3節では「複数の文化・単一の自然」という理解自体が問題であり、その脱却のために、「複数の文化・複数の自然」という視座の重要性を論じた。第4節では地球が生命にとって生存可能なのはノン・ヒューマンの複雑な相互作用の結果であることを近年の科学的知見に基づいて論じた。第5節では、ノン・ヒューマンの権利を近代法体系に書き込んだ例として2008年エクアドル憲法と2017年ワンガヌイ川申立調停法を取り上げ、そこではノン・ヒューマンが社会の中心に再配置されつつあることを明らかにした。第6節では、こうした動きによって人間特有の精神・や所有を起点とする近代法体系下の政治的諸概念の中身が変容する可能性を論じた。最後に、近代システムを内側から生成変化させる鍵としての「センス・オブ・ワンダー」に注目し、ノン・ヒューマンとの平和構築という課題に取り組むことの意義を確認した。

  • 田中 克
    2022 年 58 巻 p. 47-69
    発行日: 2022/10/15
    公開日: 2022/10/13
    ジャーナル フリー

    人新世に生きる私たちは深刻な地球環境問題に直面している。それは平和の対極の世界であり、自らが招いた問題でもある。なかでも生物多様性の劣化は、日々の食をほかの命に依存している人間にとっては死活問題である。地球に生きる全ての命にとって不可欠の物質は水であり、水は海と陸の間を悠久の時を経て巡る。水を求めて人々は川の流域に集まり、村を作り、町を形成し、多くの河川が集まる河口域に巨大な都市を生み出し、産業活動の巨大化や暮らしの利便性のあくなき追求により、水の循環に大きな障害をきたしつつある。森から里へ、そして海へと流れる水の巡りを巨大な環境改変事業によって壊し、自然の循環に依拠してきた地域社会を崩壊に至らしめた典型事例が九州の中央部に位置する有明海である。

    日本列島には背骨のように山々が連なり、それらの大半は森に覆われ、3万数千本の川が海に流れ、海の生き物を育む。日本古来の先人の知恵「魚付き林」思想を、日本全域の森と周辺の汽水域に拡大普遍化したのが、気仙沼のカキ養殖漁師が1989年に始めた「森は海の恋人」運動である。一方、森から海までの多様なつながりを解明し、崩した自然や社会を再生に向かわせるまでを視野に入れた統合学「森里海連環学」が2003年に京都大学に誕生した。2011年の東日本大震災以来、両者は協働して、7つのキーワード、命、海、水、巡り、共生、つながり、縄文時代を軸に、森里海が連環する平和な社会への取り組みが進められている。

投稿論文(特集)
  • 石井 一也
    2022 年 58 巻 p. 71-93
    発行日: 2022/10/15
    公開日: 2022/10/13
    ジャーナル フリー

    「人新世」は、人類が地球を根本的に改変し、それが生物種の生息できない場所になりつつある時代を意味し、人類史における「近代」、すなわち、18世紀半ば以降、人類が化石燃料を大量に消費し、莫大なエネルギーを手にした時代に相当する。こうした危機からの脱出口を探るために、斎藤幸平は晩期マルクスの著作に「脱成長コミュニズム」なる考えを見出し、セルジュ・ラトゥーシュは、非マルクス主義の立場から、イヴァン・イリイチのコンヴィヴィアリティ」の概念にもとづく「脱成長」を提唱している。しかしながら、斎藤の主張は、革新的であるが容易には支持しがたく、ラトゥーシュによる近代批判は、幾分不徹底にみえる。これに対して、イリイチやラトゥーシュに影響を与えたモーハンダース・K. ガンディーは、近代文明を徹底的に批判し、手紡ぎを中心とする村落基盤の経済を理想とした。彼は、人間の「貪欲」がやがて「惑星的限界」に到達することに直感的に気づいていたとみられる。こうした姿勢は、「人新世」が突きつける諸問題への応答となりうる。人類は、その必要を根本的に削減し、身の丈の経済へと回帰しなければならない。それは、人類が、みずからの世代内および世代間のコンヴィヴィアリティを構築するにとどまらず、これを他の生命体にも敷衍して、地球における生命の流れの一プロセスとして慎ましく生きつづけることを意味する。

投稿論文(自由論題)
  • 竹峰 誠一郎
    2022 年 58 巻 p. 95-118
    発行日: 2022/10/15
    公開日: 2022/10/13
    ジャーナル フリー

    2021年に発効した核兵器禁止条約には、兵器の禁止だけに注目すると、見過ごしてしまう意義と可能性がある。それは、同条約が核被害者の援助と国際協力を規定していることである。では被害者援助をどう進めていけばいいのだろうか。被害との因果関係の立証はどうするのか、核被害をどうとらえていけばいいのだろうか。本稿は、世界各地の核被害者補償制度を掘り下げていった。

    核実験中に特定地域に居た事実と特定疾患に罹患した事実でもって、健康影響を推定して補償する制度が、米国やマーシャル諸島をはじめ世界的に確立されている。さらに子どもや女性に目を配った核被害補償制度が、カザフスタンで確立されていることも注目される。

    疾患の有無だけで核被害はとらえられない。日本の被爆者援護法では、発病の有無にかかわらず、被爆者と認定された人は、健康診断や自己負担分の医療費の給付が受けられ、相談事業が確立されていることは注目される。カザフスタンやマーシャル諸島では、土地の環境汚染に伴う被害にも目が向けられている。

    重要なことは、核被害を多角的かつ重層的にとらえ、将来への影響も視野に入れて、援護措置も包括的に実施していくことだ。何より核被害を既知のこととして固定的にとらえず、新たに発見していく姿勢が求められる。

    核被害者援助と国際協力の出発点は、核兵器禁止条約の締約国会議で、核被害者の当事者の参加と参画を保障していくことだ。そこで核被害者の援助と国際協力を専門に扱う常設機関を創設していくことが、核兵器禁止条約が持つ可能性を拓く一つの道である。

  • 下谷内 奈緒
    2022 年 58 巻 p. 119-142
    発行日: 2022/10/15
    公開日: 2022/10/13
    ジャーナル フリー

    1990年代以降、世界各地で過去の戦争や数世紀前の植民地支配の責任を追及する動きが広がっている。本稿では、この時期に訴えが表面化することになった要因を明らかにし、被害者から提起されるこれらの動きを、より広範な社会的な和解につなげる条件について考察する。近年の責任追及の動きを特徴づけるのは、被害者個人が相手国や第三国にある法律事務所を介して政府や企業を提訴する形態をとっていることである。本稿ではその背景として、冷戦終結とともに国家間の戦略的妥協としての和解を支えた構造的要因の消失と、個人による責任追及を可能にする3つ条件(①民主化、②国際人道法の発展と国際的な被害者の権利の伸長、③新独立国の経済成長)を指摘する。そして過去の植民地支配や戦争の責任を追及する訴訟のうち、原告に有利な判断が出された例外的な2つの事例(インドネシア独立戦争期のオランダ軍による住民虐殺[ラワグデ事件]に関するオランダ・ハーグの地方裁判所判決[2011年]と、ケニア独立闘争[マウマウ団の乱]時の拷問被害者からの訴えに裁判所の管轄権と審議入りを認めたロンドン高等法院の判断[2011年、2012年])を、対日戦後補償裁判と比較分析することで、加害国の側で社会の広範な関心を喚起する出来事の有無が、広範な国民的議論を喚起し社会的な和解に繋げるうえで重要な要因となっていることを明らかにする。

  • 村上 登司文
    2022 年 58 巻 p. 143-161
    発行日: 2022/10/15
    公開日: 2022/10/13
    ジャーナル フリー

    本稿では,社会学的分析手法を用いた筆者の先行研究に依拠して,2000年代の平和教育について多角的に検討する。平和教育への公的支持が平和教育を進化・発展させ,それが平和意識を変革していく働きがあると捉える。公的指示を分析指標として,平和教育事象の展開についての構造的な把握を目指す。

    次に,中学生に対する平和意識調査のデータを時系列と,日英独以の平和意識を国際的に比較して,平和意識への社会的規定要因を考察する。日独英以のそれぞれにおいて,継承する戦争記憶(集団的記憶)は異なる。平和教育への公的支持の在り様は,その国が置かれた歴史的状況と地政学的環境の影響を受けている。日独英以の各国において,公的支持の指標を用いて,平和教育を促進する力の程度を想定することができよう。日本の地域レベルと国内レベルで,平和教育へ多くの公的支持が相乗的に働いていることが動因となり,平和主義的意識が多くの中学生に育成されているのではなかろうか。

    日本の中学生達の高い平和意識がこれからも存続する方向で,次世代型平和教育の展開方法を提示する。「戦争体験を継承する平和教育の類型」の分析枠組により,平和教育を世代ごとに類型化して,戦後から現在までの戦争体験継承方法の展開を示す。次世代型の平和教育は、戦争第4世代となる2006年~2035年頃生まれを対象としており、平和教育実践の担い手が変わり、平和教育の課題も変化している。

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