本研究ノートは、心理の専門家の立場からジェンダー分析を用いて被害者の代弁・擁護を行い、性差別社会の変革を目指すフェミニストカウンセリング(FC)のアドボカシーをフェミニスト平和運動と考え、その実践例を紹介する。ここで取り上げるフェミニスト平和運動とは、ベティ・リアドン(Betty A Reardon)の議論を基にしている。リアドンは、戦争システム、つまり武力で秩序の維持を図る社会制度は、軍事主義と性差別の相互依存関係で成り立っているとしている。であるので、性差別の根絶は脱軍事主義や平和を目指す上での課題であり、それに取り組む運動はフェミニスト平和運動と言える。
日本社会や司法の根強い性差別の影響で、性暴力やドメスティック・バイオレンス(DV)に関する裁判では、被害者の視点が理解されず、加害者の責任追及が不十分なケースが多い。FCのアドボカシーは、このような場合に実施される。
本稿では、京都府を中心に活動するFCグループ、「ウィメンズカウンセリング京都」が取り組んだ裁判でのアドボカシーを四例、紹介した。三例は意見書提出や専門家証言で、それぞれの実践を見る際に「ナラティヴ・アプローチ」、「継続した性暴力」、「迎合メール」という概念に注目した。残る一例は、DV裁判支援のネットワーク形成である。心理的ケアの知見を持つカウンセラーらの実践が、フェミニストの視点からの平和・安全保障概念をより深化・発展させる可能性を示唆した。
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