平和研究
Online ISSN : 2436-1054
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依頼論文(特集論文)
  • 上野 友也
    2023 年 59 巻 p. 1-21
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2023/03/25
    ジャーナル フリー

    国連安全保障理事会は、LGBTに対する戦時性暴力についてどのような議論を展開し、どのように対立してきたのであろうか。それにはどのような展望があるのか。それを明らかにするのが、本稿の目的である。LGBTに対する暴力と差別の問題は、大国間・地域間対立が先鋭化しているテーマの一つでもある。欧米諸国、ラテンアメリカ諸国、イスラエルは、LGBTの権利の擁護に積極的である一方、ロシア、中国、アラブ諸国、アフリカ諸国、アジア諸国の多くがLGBTの権利の擁護に消極的あるいは否定的な立場をとっている。両者の対立は、国連安全保障理事会においても繰り広げられている。国連安全保障理事会は、「女性・平和・安全保障」のアジェンダを構築したが、LGBTの権利の擁護を目的としていない。しかし、このアジェンダに関する国連安全保障理事会の決議、議長声明、議事録を分析することで、国連安全保障理事会がLGBTに対する戦時性暴力に対して一致した行動がとれない状況にある一方、国連LGBTIコア・グループに所属している理事国が戦時性暴力からのLGBTの保護に積極的な発言をしていることがわかるであろう。現在のところ、国連安全保障理事会において、戦時性暴力からのLGBTの保護に積極的な国家と、消極的あるいは否定的な立場の国家は拮抗しており、多くの理事国の賛同を得て決議や議長声明を採択することが困難であることに変わりはない。

依頼論文
  • 小川 玲子
    2023 年 59 巻 p. 23-50
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2023/03/25
    ジャーナル フリー

    世界を破壊し、略奪し、搾取し、傷つけるのではなく、社会を回復させ、育み、共に生きるための社会構想の中心概念に「ケア」がある。人生のライフサイクルにおいてケアする・ケアされるという相互行為が不可避であるとすれば、ケアを支えるのが誰であり、ケアの担い手とどのような関係を築くのかという問いが重要である。現在、ケアは多くの移住女性によって担われているが、国家と市場との共犯関係によるジェンダー化された国際移動は、不自由な労働者を生み出す「構造的暴力」と言える。本稿では、台湾と日本で就労する移住ケア労働者に着目し、多様な脆弱性を明らかにする。そのために移民レジームと福祉レジームという概念を手がかりとし、異なるレジームの交錯点における移住ケア労働者の特徴を踏まえ、移住ケア労働者が移住労働者であることに加えて、ケアという職種がどのように多様な脆弱性と結びつくのかについて検討する。ケア労働は高齢者と排泄に関わることから、社会秩序を乱すものとして忌避され、ケアの現場はグローバル資本主義による廃棄を集中的に体現する構造的暴力に満ちた空間になりえる。一方、国際規範形成やシティズンシップへのアクセス、多文化ケアコミュニティ形成も進行しており、移住労働者を含めたケア労働者の承認と権利付与に向けた対抗の足場も形成されつつある。移住労働者をケアすることは社会をまともなものとするための第1歩なのである。

投稿論文(特集)
  • 尹 在彦
    2023 年 59 巻 p. 51-73
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2023/03/25
    ジャーナル フリー

    本稿は反軍国主義の影響の強い社会及び国民においてどのような状況下で基本権制限の可能性を受け入れるかを検討したものである。戦後日本で有事を想定した政策や法律への議論は避けられてきた。悲惨な戦時の動員や人権侵害を連想させる点から,1960~70年代には構想だけでも野党や国民からの抵抗に直面する。このような状況からいわゆる「有事タブー」も生まれる。

    ところが,2003年には前年までにも困難だった有事法制が超党派議員らの賛成多数で成立する。本稿ではこのような変化を説明するため,二つの要因を提示する。北朝鮮拉致問題の発覚及びメディア環境である。こられの要因が日本社会の脅威認識を急激に増大させ,有事法制の成立を促す。2002年9月の日朝首脳会談で拉致問題が初めて明らかになり,多くの日本メディア,とりわけテレビ局は拉致問題や被害者を取り上げる報道や番組を次々と編成する。その手法は概ね感情に訴えるものであった。

    日本政府や政治家は有事法制を脅威への対抗手段,即ち国民を保護する措置として示す。世論からも大きな反発はなくなっていた。これが有事法制成立の政治過程であった。ただし,隣国の韓国では北朝鮮に対する脅威認識が高くなく,危機が地域的に共有されていたわけではなかった。また,2003年の総選挙で民主党が躍進したことからは反軍国主義規範が必ずしも崩壊していない状況も確認できる。

投稿原稿・研究ノート(特集)
  • 小阪 真也
    2023 年 59 巻 p. 75-90
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2023/03/25
    ジャーナル フリー

    本稿は、2021年に国際刑事裁判所(ICC)の第一審で有罪判決を受けた元子ども兵であるオングウェン被告に対し、何がICCで刑事責任の追及を正当化する論理とされているのかを論考する。

    本稿はまず18歳未満の子ども兵が不処罰の対象とされる背景として、強制的に紛争に動員される子ども兵の保護を企図した国際規範の発展が存在することを指摘する。オングウェン事件に関しても「加害者であり被害者」という子ども兵の性質からICCを通じた応報的な正義の追求が批判されている。しかし本稿は、このような批判が子ども兵の性質を実際には形式的に捉えていると指摘する。本稿は、子ども兵が「被害者であり加害者」という性格を常に平等に有するわけではなく、個々人で異なる武装勢力での地位や戦闘行為中の役割を踏まえた評価を考える必要があると述べる。

    本稿はICCにおける元子ども兵への責任追及の正当化が「国際刑事裁判所に関するローマ規程」第31条(d)の「強要」の法理を媒介として行われていると指摘する。すなわち、オングウェン被告の「被害者」性に基づく不処罰の妥当性は、人権侵害を「強要」ではなく主導したことで否定され、同被告への刑事責任の追及が正当化されたと論じる。本稿は、子ども兵としての過去を持っていたとしてもなお応報的な正義が追求される加害者として評価される余地があることをオングウェン事件判決は示唆しているのではないかと述べる。

投稿論文(自由論題)
  • 田邉 俊明
    2023 年 59 巻 p. 91-117
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2023/03/25
    ジャーナル フリー

    近年ようやく成立した核兵器禁止条約は、カント的な実践理性にもとづく近代啓蒙のプロジェクトが健在であることを印象づけたが、道徳や法の内的論理を政治に優先させ、条約の制定・推進を通じて軍縮・平和を実現しようとするリベラル・リーガリズムの試みに対しては、これまで政治的現実主義の立場から厳しい批判が寄せられてきた。そこで問わなければならないのは、こうした批判は核兵器禁止条約にも当てはまるのかどうか、仮にそうだとすれば、核軍縮・廃絶を実現するには、条約を制定する以外に何が求められるのかということである。

    本論文ではこの問いに取り組むため、第1に、英国学派の国際社会論を参照しながら、大国と国際法の矛盾に満ちた関係を理解することに努めたい。第2に、現行の無政府的な国際社会の構造を背景とする限り、国際法の力で核兵器を全面的に禁止しようとするリベラル・リーガリズムの試みが、さまざま理論的・実践的な行き詰まりに直面することを示したい。第3に、このアポリアに取り組むために、ハンナ・アーレントやユルゲン・ハーバーマスの政治・社会理論に見られる新しい「権力」の概念を取り上げ、これを生かしたポスト主権型立憲平和主義の構想を提示したい。そして第4に、この構想にしたがえば、英国学派の限界を乗り越えて核軍縮・廃絶を推進するとともに、核兵器禁止条約が直面するアポリアを打開する方向性が見えてくることを示したい。

投稿原稿・研究ノート(自由論題)
  • 相方 未来
    2023 年 59 巻 p. 119-138
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2023/03/25
    ジャーナル フリー

    本研究ノートは、心理の専門家の立場からジェンダー分析を用いて被害者の代弁・擁護を行い、性差別社会の変革を目指すフェミニストカウンセリング(FC)のアドボカシーをフェミニスト平和運動と考え、その実践例を紹介する。ここで取り上げるフェミニスト平和運動とは、ベティ・リアドン(Betty A Reardon)の議論を基にしている。リアドンは、戦争システム、つまり武力で秩序の維持を図る社会制度は、軍事主義と性差別の相互依存関係で成り立っているとしている。であるので、性差別の根絶は脱軍事主義や平和を目指す上での課題であり、それに取り組む運動はフェミニスト平和運動と言える。

    日本社会や司法の根強い性差別の影響で、性暴力やドメスティック・バイオレンス(DV)に関する裁判では、被害者の視点が理解されず、加害者の責任追及が不十分なケースが多い。FCのアドボカシーは、このような場合に実施される。

    本稿では、京都府を中心に活動するFCグループ、「ウィメンズカウンセリング京都」が取り組んだ裁判でのアドボカシーを四例、紹介した。三例は意見書提出や専門家証言で、それぞれの実践を見る際に「ナラティヴ・アプローチ」、「継続した性暴力」、「迎合メール」という概念に注目した。残る一例は、DV裁判支援のネットワーク形成である。心理的ケアの知見を持つカウンセラーらの実践が、フェミニストの視点からの平和・安全保障概念をより深化・発展させる可能性を示唆した。

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