平和研究
Online ISSN : 2436-1054
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巻頭言
依頼論文
  • 山田 哲也
    2026 年65 巻 p. 1-17
    発行日: 2026/01/20
    公開日: 2026/01/21
    ジャーナル フリー

    本稿は、国連創設80年の今日、「国連と平和」を語る難しさの背景を政治・安全保障面から検討するものである。アメリカの主導による多国間主義は冷戦終結後に全盛期を迎えたと考えられるが、長年の財政赤字やアフガニスタン撤退、トランプ政権の登場などを経て多国間主義への支持が弱まり、国連システムへの関心も全体として低下した。ロシアのウクライナ侵略での拒否権行使は、安保理の機能不全というより、P5に重大な利害がある案件では決議が通らないという憲章構造の限界を露呈したに過ぎないものと位置づけられる。その結果、OSCE 等の地域機構やアド・ホックな少数国枠組みが紛争処理を担う「国連迂回」が進展し、同時に事務局・専門機関の重複や官僚主義が財政難とともに厳しく批判され、大幅な構造改革を求められている。1960年代の脱植民地化に端を発する、今日のいわゆるグローバル・サウスと呼ばれる諸国の台頭により加盟国の構成や国連への期待は大きく変わったにもかかわらず、安保理の構成は1945年当時の大国中心のままである。著者は、国連の集団安全保障が実際に機能した時期はごく短いと冷静に評価しつつ、日本などの中堅国が「法の支配」や民主主義の擁護、自由で開かれたインド太平洋構想などを通じて、多国間主義の後退を食い止め、大国間協調と国連体制への信頼再建に努める必要があると結論づける。

  • 篠田 英朗
    2026 年65 巻 p. 19-40
    発行日: 2026/01/20
    公開日: 2026/01/21
    ジャーナル フリー

    国連の権威は、武力紛争の激増・深刻化に対応できず低下した。PKOは過去10年の間に予算・要員を大幅に減少させた一方、紛争と犠牲者は増加している。拒否権が乱発されている一方、憲章51条の個別・集団的自衛権も濫用されている。同時に、人道・開発援助の資金も大幅な減少を見せ、危機が拡大している。ただしこれらは、国連が抱える制度の内側で起こっていることだ。国連は大国間戦争の予防を最優先させる性格を持っている。財政危機は、米国の現政権の政策によるものだけでなく、伝統的なドナー諸国の低成経済長や財政赤字という構造的事情を反映している面もある。急進的な国連改革を模索できる状況ではなく、現状では、原則遵守を徹底し、拒否権・自衛権の逸脱を抑えることに焦点をあてた、地道な外交努力に軸足を置く方向性が模索される。

  • 蓮井 誠一郎
    2026 年65 巻 p. 41-66
    発行日: 2026/01/20
    公開日: 2026/01/28
    ジャーナル フリー

    本稿は、気候変動を安全保障上の「脅威増幅要因」とみなす気候安全保障論および国連安全保障理事会の議論を批判的に検討し、気候変動影響を構造的暴力として捉える平和学の視角から、気候変動を「暴力増幅要因」、気候変動対策を「平和増幅要因」として再定位することをめざす。質的文献調査により、第一に2007〜2025年の安保理における気候安全保障討論の動向と科学知の受容、第二にpeace multiplier、peace-positive adaptation、climate-resilient peaceなどの類似概念の用法、第三に国連気候安全保障メカニズム(CSM)の設計と実践を分析する。その結果、気候変動と暴力紛争との関係は学術と国際政治の双方で「多数の要因の一つ」とする理解に収斂しつつも、議論は依然として紛争リスクに偏り、構造的暴力やサブシステンスの破壊といった平和学への視点が弱いこと、CSMやIPCC第6次影響評価報告書が気候にレジリエントな平和や開発、気候・平和及び安全保障(CPS)を統合する枠組みなどを提示している一方で、脅威言説に依拠した安全保障化のリスクが残存していることを示す。結論として平和学は、環境平和や人間の安全保障、積極的平和の知見を通じて、国連のCPS活動と気候変動対策を暴力縮減と平和構築に資する「気候平和」へと再フレーミングする理論的基盤を提供し得ることを論じる。

投稿論文(特集)
  • 田中 駿介
    2026 年65 巻 p. 67-92
    発行日: 2026/01/20
    公開日: 2026/02/05
    ジャーナル フリー

    本稿は、戦後日本のリベラルな政治学者たちが、「平和と民主主義」という戦後民主主義の二大理念と、冷戦という現実との間で直面した思想的葛藤を分析し、提示した具体的な平和構想を検討する。当初、両理念の結合は自明視されていたが、再軍備や安保闘争をめぐる議論を通じてその緊張関係が顕在化した。本研究では、理想を維持しつつも、権力関係や社会動態を冷静に認識する広義の「リアリズム的要素」を共有していた丸山眞男、坂本義和、高畠通敏の三者に焦点を当てる。丸山は、保守派の「現実」主義に基づく改憲論を批判し、憲法9条を核時代における必要な「逆説」として擁護した。さらに市民の主体的責任を強調し、「自己武装」論を挑発的に述べて、失われた自然権感覚の回復を提起した。坂本は、国際政治のリアリズムを踏まえ、国連改革を通じた平和構築を模索した。「一方的イニシアティヴ」や「国連警察軍の日本駐留」案を提示し、後に「構造的暴力」の克服へと視座を広げた。高畠通敏は、社会運動(ベ平連など)への関与から市民の主体性を重視した。受動的な護憲論の限界を超えるため、「平和部隊」や非軍事奉仕のための「選抜徴兵」といったラディカルな制度構想を通じて、能動的な国際貢献のあり方を問うた。

投稿論文(自由論題)
  • 稲川 望
    2026 年65 巻 p. 93-116
    発行日: 2026/01/20
    公開日: 2026/02/05
    ジャーナル フリー

    本稿は、バングラデシュ南東部のチッタゴン丘陵地帯(CHT)を対象に、和平交渉における排他性が強化された要因と、和平協定後の暴力の再発に与えた影響を検証する。和平交渉の最終段階では、交渉主体がバングラデシュ政府とPCJSSの幹部層の間に限定され、市民社会や少数民族内の多様な主体が交渉に関与しえなかったことを指摘する。 排他性が強化された動機として、当時の与党アワミ連盟側には、インドへ流出した難民への対応を急いだこと、国際社会からの圧力回避、ロヒンギャの流入で顕在化した安全保障・対印関係の配慮という動機が働いた。一方のPCJSS側は、長引く戦闘やインド政府からの支援縮小に伴う軍事的な弱体化が顕在化する中で、協定後の政治的権益確保を優先し、交渉窓口の独占を志向した。しかし、排他的な和平交渉はUPDFなどの内部分裂や少数派の民族の周縁化を助長し、和平協定後の暴力の再発や社会の不安定化に大きな影響を与えた。チッタゴン丘陵地帯の事例は、多様なアクターが実質的影響力を持つ形で和平交渉プロセスに包摂することの必要性を示している。

  • 山岡 健次郎
    2026 年65 巻 p. 117-142
    発行日: 2026/01/20
    公開日: 2026/02/05
    ジャーナル フリー

    本論では第一に、難民移動の根源に関わるstatelessとdisplacementという全く異なる二つの存在論的位相を弁別する。その上で、従来の難民研究が難民問題の解決という目的に縛られているためにstatelessの観点に議論が集中し、displacementという位相が見えづらくなっていることを論証する。本論において論じられるdisplacementという事態は、たとえstatelessが解消されたとしても、問題として残り続ける。つまり、難民問題の解決をstatelessの解消に求めることには原理的な限界がある。本論では、難民移動に深く関連しているにもかかわらず、従来の難民研究において十分に分節化されないままとなっているdisplacementという事態を明確化する。第二に、以上のように弁別されるstatelessとdisplacementという二つの位相を、本論では、政治思想家のハンナ・アーレントが残した初期の論考の中に読み取っていく。法制度の整備によって難民問題の解決を目指す難民保護レジームとは対照的に、アーレントは、displacementの克服という課題を国家の位相において語るのではなく、難民と民衆とが一つになるというヴィジョンとして描き出した。そのような難民移動にまつわるdisplacementという位相に着目することで、本論では最後に、発展途上世界にとっての難民問題の実相を浮き彫りにしていく。

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