現象学と社会科学
Online ISSN : 2434-1231
最新号
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企画趣旨
特集論文
  • 静態・発⽣・世代
    根岸 陽太
    2024 年 7 巻 1 号 p. 5-21
    発行日: 2024/09/30
    公開日: 2024/12/08
    ジャーナル オープンアクセス
    本稿は、特にフッサールが展開した(1)静態的・(2)発生的・(3)世代的現象学の観点から、国際法規範の志向性を分析するための方法を提示することを目的とする。特に慣習国際法の同定という文脈に焦点を当て、自己決定権の慣習法性を同定した国際司法裁判所のチャゴス諸島分離事件勧告的意見を素材しながら考察を進める。国際法の主流である法実証主義は、(1)客観主義のもとで規範を物的に捉え、(2)時間や(3)空間も固定して想定する。これに対して、本稿の現象学的国際法学は、国際法があくまでも国際法律家の(1)主観的かつ相対的な意識作用と、それ以前から働いている(2)過去把持-原印象-未来予持の同時性や(3)故郷/異郷世界の共-構成といった働きから構成されていることを明らかにした。このような現象学の知見により、人間的生と分かち難く結びついている「事象そのものへ」と立ち返り、本来の精神に溢れた「真なる実証主義」が国際法理論にもたらされる。
  • レヴィナス法哲学のために
    松葉 類
    2024 年 7 巻 1 号 p. 23-36
    発行日: 2024/09/30
    公開日: 2024/12/08
    ジャーナル オープンアクセス
    二〇世紀フランスで活動した哲学者、エマニュエル・レヴィナス(1906-1995)は、現象学を出発点としつつ、根源的言語をもたらす特異的な「他者」との倫理的関係を論じた。さらに彼は、この特異な他者の複数性を問うことで、独自の法制度論を立ち上げようとした。レヴィナスの議論を端的に示しているのが、彼の「厳しき法、されど法なり(Dura lex, sed lex.)」の解釈である。一般にこの表現は、法治国家における法の正当性についての法諺、あるいは、法実証主義者ケルゼンのように法と道徳の分離、そして法規範の自律性を説いた法諺とされる。ところがレヴィナスは、それとは反対に、「いかに堅固な法でも、法である限りは更新しうる」と解釈しようとしている。本論考は、彼のこの発想が何を問題としており、いかなる法制度をもたらしうるかを考える。
  • 法哲学者の観点から
    宮田 賢人
    2024 年 7 巻 1 号 p. 37-50
    発行日: 2024/09/30
    公開日: 2024/12/08
    ジャーナル オープンアクセス
    ソフィー・ロイドルトの『法現象学入門』は、フッサール以降の法現象学の企てを網羅的に整理したもので、法現象学に関心を寄せる者にとって必読の一冊である。その一方で、現象学研究者が執筆した同書は、現代の法哲学=法理学の議論に対して現象学がいかなる仕方で貢献できるかを十分に考察していない。本稿の目的は、法への現象学的アプローチの可能性と課題を現代の法哲学の観点から整理・考察することである。法哲学の主題は三つに分けて整理されることが多い。すなわち、法とは何かという法の概念の解明を中心とする「法の一般理論」、法の解釈・適用過程や法的推論の構造の解明を試みる「法律学的方法論」、法の目指すべき価値とその具体的な制度構想を探究する「正義論(法価値論)」の三つである。本稿は、それらのうち法哲学に固有の前二者との関係で、現象学的アプローチの可能性を考察し、法的本質直観の分析、法秩序の静態的/動態的現象学、法的価値の構成分析、法的思考における暗黙知の現象学的解明、批判的法現象学という五つの課題を摘出する。
投稿論文
  • 「世界」、「道具」、「気分」に着目して
    呉 文慧
    2024 年 7 巻 1 号 p. 51-68
    発行日: 2024/09/30
    公開日: 2024/12/08
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究の目的は、自閉スペクトラム症(Autism spectrum disorder:以下,「ASD」)のある子どもに関わる際に発揮された、西特別支援学校教師である酒井先生の〈身体〉に根差した知性とその背景としての世界を、ハイデガーの現象学に基づいて探究することであった。先行研究の整理においては、ASD のある子どもに対する教育に焦点を当てた現象学的研究群を概観し、「ASDのある子どもの現象学」、「ASDのある子どもとの関係の現象学」、そして「ASDのある子どもに関わる実践者の現象学」の類型化を得たのち、「ASDのある子どもに関わる実践者の現象学」の中でもハイデガーの現象学に依拠する意義を論じた。酒井先生の住み込んでいる世界を道具や気分に着目して解釈した結果、酒井先生がASDのある子どもと相互作用を起こして新しい実践を生み出すことを志向する世界に住み込んでいること、そしてASDのある生徒であるカナさんに対しては、道具を介して自らの視線の強度を弱めることで相互作用を成立させるような〈身体〉に根差した知性を発揮していたことが明らかになった。
  • レアールな生状態と生感情の告知
    中川 暖
    2024 年 7 巻 1 号 p. 69-83
    発行日: 2024/09/30
    公開日: 2024/12/08
    ジャーナル オープンアクセス
    本論文は、エディット・シュタインにおける「心的なものの因果性」の概念の位置付けを再検討することにある。たとえば、私に突如として引き起こされる高揚感や疲労感のような「心的な状態」の要因は、どのように捉えられるであろうか。シュタインは、心的な状態をレアールな生状態(生命力)による生感情の告知という現象として捉えた。また、その現象は「因果性」と「動機付け」との間の境界にある特定の心的な状態として考察される。本論文では、心的なものの因果性の概念を、生状態としての「レアールな自我」の告知としての生感情において捉え直すことにする。その際に、テオドール・リップスとアレクサンダー・プフェンダーの感情論との思想的な接続を考察することで、リップス学派及びミュンヘン・ゲッティンゲン学派が主に提示した現象学的実在論の中に、シュタインの現象学を位置づけることにする。
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