変換視野への順応の研究においては,従来野外的な現象観察と実験室的な測定とが,相互の関連なしに行われるのが通例であった.ここでは両方法を併用し,その結果を比較して回転視野への順応メカニズムを探索するため,著者自身が視野を時計まわりに60度回転させる眼鏡(左眼単眼)を12日間連続着用した.頭の運動に伴う視野の動揺は,日常空間では着用後期にはほぼ消失したが,暗室中の光点では残続した.前庭動眼反射の適応的変化が左右両眼共に見い出された.この変化の程度は,暗室中の光点の動揺の大きさにはほぼ対応するが,日常空間における視野の動揺の消失を説明するほどは大きくないことが確認された.視覚的な見かけの垂直軸の変化は10度以下にとどまり,断片的な視野の傾きの印象はあまり減少せずに残続した.しかし着用後期には,自己を定位するような構造性を持つsceneにおける傾きの印象はほとんどなくなった.この見えの正常化を,著者は片足立ちの耐久時間やガラスの前での現象観察などから,Wertheimer効果による重力感覚の変化に加えて,visual captureによる身体感覚の変化が起ったためであると解釈した.
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