関東甲信越ブロック理学療法士学会
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第25回関東甲信越ブロック理学療法士学会
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  • 既存の股関節サポーターの工夫・JOA変化
    井出 友洋
    セッションID: 1
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/08/02
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】 変形性股関節症に対しての保存療法の希望者に対しての装具などの選択に難渋する経験もあると思います。今回、末期変形性股関節症の症例について、既存の股関節サポーター以外の工夫による除痛の効果を得た2症例について報告する。
    【症例1】 70歳女性、平成16年12月7日初診、右変形性股関節症と診断、平成17年10月13日装具採型、股関節機能判定(以下JOA)右44/100点、X線像の評価判定0・20/100点、末期股関節症、同年12月6日痛みの軽減、平成18年2月7日(装具装着117日目)JOA60/100点で、+16点。
    【症例2】 75歳女性、平成16年1月28日初診、左変形性股関節症と診断、平成17年10月27日装具採型、JOA35/100点、X線像の評価判定0・20/100点、末期股関節症、同年11月26日痛みの軽減、平成18年2月18日(装具装着114日)JOA左36/100点で、+1点。
    【結果】 症例1のJOA変化は疼痛10→20点、立ち上がり・しゃがみこみ・車バス乗り降りが2→4点、計16点増加、症例2のJOA変化は可動域80→50度でー3点、腰掛2→4点、しゃがみこみ0→2点、計1点増加。
    【装具内容】 既存の関節サポーターにプラスチックにて股関節前面から後面まで包み、臼蓋への求心力を高められるものをつくり、サポーターに付属させた。
    【考察】 JOA判定基準やX線像評価において本2症例は末期股関節症であり、手術適応例であるが、本人希望により、保存療法を試み、痛みの軽減目的で装具療法となった。X線より、大腿骨骨頭変形も著明であり、股関節周囲筋力低下による歩行時痛が有り、歩行時の大腿骨骨頭求心力低下が痛みの原因と考え、これを補助するよう装具を考慮し、股関節の不安定性の減少により、痛みの軽減につながったと考えられる。また、症例1については可動域等の変化はないが、疼痛とADL面の改善が高く、これによる効果は高いと思われる。しかし、症例2においてはJOA変化は少なく、股関節屈曲可動域の減少はあったが、ADL面での改善があることから、今回の装具考案については良好な結果が得られたと思われる。
    【まとめ】1.末期変形性股関節症の2症例の装具検討による工夫について。2.装具内容において既存の股関節サポーターにプラスチックを付属させ、 大腿骨骨頭の求心力を高め、股関節の不安定性軽減により痛みの軽減とJOA変化につながったと考えられる。3.今後も既存の装具による工夫により、痛みやADLの改善を図りたい。
  • 前額面での骨盤傾斜と上半身重心位置に着目して
    長谷川 俊輔, 高須 孝広, 相川 浩一, 湯田 健二
    セッションID: 2
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/08/02
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    当院人工関節・リウマチセンターにおいては年間約280症例の人工股関節全置換術(以下THA)が行われており、その全症例に理学療法士が術前より携わっている。患者の大半が術前に痛みと跛行を訴えにあげ、術後から退院に至るまでに、我々は多くの時間を跛行の改善に費やしている。しかし変形性股関節症患者の歩行分析を行う際に、臨床上では高価な工学的な機器を用いて分析を行う事は難しい。そこで歩行分析は視覚的観点より行なうことが重要となるが、観察的なものになる為、一つの評価として確立していくには熟練を要する。そこで我々は歩行分析を行う際の簡易的な指標を検討し、一昨年の同学会にて第一報を報告した。今回はTHA術前・術後における歩容の変化を同様の指標を用いて比較検討したのでここに報告する。
    【方法】
    対象は当院にてTHAを施行され、以下の条件を満たす症例に術前・術後で測定を行った。
    1.THAを片側のみ施行
    2.術後の脚長差が無い
    3.術後の測定は3週以上経過し荷重制限がない
    測定は上前腸骨棘と剣状突起にマーカーをつけ、デジタルビデオカメラにて前額面より静止立位・歩行を撮影した。左右の上前腸骨棘を結んだ線と床面がなす角を前額面上における骨盤傾斜角とし、静止立位・立脚中期にて記録し計測を行った。その後に静止立位と立脚中期の骨盤傾斜角を比較し、立脚側の反対側の骨盤が静止立位時に比べ挙上するものを挙上群、下制したものを下制群と分けて定義づけた。歩行分析の指標として、左右の上前腸骨棘を結んだ線の垂直二等分線(骨盤からの垂線)と、福井らの提唱する上半身重心との位置関係を検証し、術前後において変化を追った。なお本研究における角度・距離の計測はscion imageを用いて行った。また歩容と筋力(いわゆるパワー)との直接的な関連を検証する為に、THA術前・術後の股関節周囲の筋力をダニエルらの徒手筋力テスト(以下MMT)にて測定を行った。
    【結果・考察】
    ・THA術前・術後ともに静止立位に比べて立脚期中期の骨盤傾斜は、挙上群・下制群ともに5°以内の角度変化であった。
    ・THA術前では骨盤からの垂線と上半身重心の一致は認められなかったが、術後では一致が認められた。
    ・股関節周囲筋の筋力は術前に比べて、術後では股関節の筋力の低下が見られた。
    本研究より歩行分析において、骨盤の位置変化のみを観察するだけではなく、骨盤の垂線と上半身重心との一致をみることにより、歩容の変化を捉える一指標になるのではないかと考えられた。また歩容の変化と筋力の回復との直接的な関係性は乏しいことが示唆された。
  • 畑野 里枝, 松土 理恵, 唐牛 大吾, 萩原 礼紀, 榎本 洋司, 曷川 元, 木村 忠彰
    セッションID: 3
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/08/02
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 近年、当院では両側変形性股関節症患者に対して手術適応を満たした場合、両側同時人工股関節全置換術(以下THA)を行っている。今回、両側同時THAと片側THA術後の理学療法経過および、術前後の筋力について比較検討した。
    【対象】 2004年11月より2006年2月までに当院で変形性股関節症に対してTHAを行った患者19名、女性17名、男性2名。両側同時THA群は7例14関節、平均年齢59±9歳(平均±標準偏差)、片側THA群は12例12関節、平均年齢65±10歳。使用機種はTotal Nichidai Hipで、全例重篤な合併症がなく、T字杖歩行自立にて退院した。なお対象者には口頭と文書にて研究の趣旨を説明し、調査・測定したデータを研究に使用する同意を得た。
    【方法】 理学療法経過については術後から理学療法開始・平行棒内歩行練習開始・四点車輪付歩行器(以下歩行器)練習開始・T字杖歩行練習開始・階段昇降練習開始・退院までの所要日数を算出した。また術前と退院時に徒手筋力計(コマンダー、日本メディックス社製)を使用して、股関節筋力を測定した。測定肢位は股関節屈曲を坐位、伸展を腹臥位、外転と内転を仰臥位とし、最大等尺性収縮を三回測定し、最大値を採用した。各術関節について術後値を術前値で除し、100を乗じ、術前値に対する術後筋力の割合(%)を算出した。
    統計解析はSPSS10.0Jを用いてMann-Whitney検定を行い、有意水準を5%とした。
    【結果】 歩行器練習開始までの平均所要日数は両側同時群11.4±2.3日、片側群9.5±2.4日であった。T字杖歩行練習開始までの平均所要日数は両側同時群18.7±4.9日、片側群13.8±3.9日で有意差を認めた(p<0.05)。術後から退院までの平均所要日数は両側同時群29.0±7.3日、片側群22.3±3.7日であった。
    術前値に対する術後筋力の割合は平均で、両側同時群の股関節屈曲139.8±27.8%、外転113.7±62.6%、片側群の股関節屈曲117.5±71.6%、外転102.0±29.0%であった。
    【考察】 術後から理学療法開始・平行棒内歩行練習開始・歩行器練習開始・退院までの平均所要日数は両側同時群と片側群では有意差を認めなかった。一方、両側同時群は片側群と比してT字杖歩行練習までの所要日数が有意に長かった。このことから両側同時群は両側下肢への均等荷重と体幹正中位を意識した歩行を再学習するために歩行器練習期間をより長く必要としたと考える。
  • 和田 有希子, 川瀬 美紀, 藤田 貴子, 加藤 正二郎(MD)
    セッションID: 4
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/08/02
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】近年、わが国では下肢切断の原因が著しく変化しており、外傷性のものから血管原性へと移行している。高齢者の切断においては歩行の獲得をゴールとしたい一方、体力面や合併症、認知症の要素も検討し義足歩行の見通しについて考えていく必要がある。今回、閉塞性動脈硬化症(以下ASO)による両下腿切断後の理学療法を行い、義足歩行が可能となった一例を経験したので報告する。
    【症例】76歳、男性、既往として75歳(H16・7)急性心筋不全にてペースメーカー挿入。現病歴として、H17年1.月17日うっ血性心不全にて入院、内科的加療により1.31自宅退院。その後2.10頃より下腿に疼痛出現し2.17に両足急性ASOにて緊急入院となる。保存的加療にて経過観察となるも治療困難、3.8両下腿切断(膝蓋骨下15cm)施行、翌日より理学療法開始となる。
    【理学療法経過】開始時の身体機能としては、ROM-T は著明な制限なく、MMTは下肢4、体幹4、上肢4、起居動作は寝返り自立、起き上がり介助、著しい疼痛は認められなかった。術後1日目より車椅子可能との指示であったが、座位にて血圧の低下があり術後1週間はベッド上にてROM訓練、筋力強化訓練、座位訓練、断端部のsoft dressingを実施した。2週目より血圧安定しリハビリセンターでの訓練を開始、車椅子をスカートガード開閉式のものとし、3週目にはトランスファー自立となった。4週目より床上動作・膝立ち訓練を開始し、義足歩行を意識した膝立ち位での歩行訓練や断端訓練を実施した。術後6週目に義足採型しソケットは懸垂機能のあるシリコン製TSBのICEROSSを用い足部は単軸足とした。義足完成後、平行棒内歩行が可能、9週目には義足装着・トランスファー・トイレ動作自立、20mのT字杖歩行が見守りにて可能となった。
    【考察】本症例は急性ASOにより両下腿切断となった高齢者が義足歩行可能となった症例である。その要因として、1)著明なROM制限がなく床上動作や膝立ち位が可能、2)断端部の状態が良好、3)知的機能が保たれており断端管理や義足装着が可能、4)罹患期間が短く術前は歩行が可能であったことが考えられる。下肢切断における立位時の身体への影響として、体性感覚の変化、姿勢保持機構としての遠位から近位への筋活動の変化があるとされる。両下腿切断においては足関節制御が困難となるため、より膝・股関節の役割が大きいと考えられる。そのため本症例では膝立ち位など下肢の膝・股関節制御を歩行への見通しの一つとして着目し、評価・訓練を実施していった。また義足の種類についても、着脱が可能であり、伸縮性に優れ、断端皮膚への刺激も少ないICEROSSを使用し、足部にも左右の安定性が良い単軸足を用いたことが義足歩行可能に至ったと考えられる。
  • 富永 潮也, 炭 孝昭, 廣瀬 仁, 勝木 三千枝, 関根 桂代子, 佐藤 範佳, 六本木 哲
    セッションID: 5
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/08/02
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    【はじめに】大腿四頭筋断裂は筋実部での断裂が主であり、大腿四頭筋腱断裂はまれとされている。諸家の報告によれば膝伸展機構損傷のうち2~4%にすぎないとされている。その発生は中年以降の男性に多く肥満との関連性も指摘されており、また基礎疾患に併発して発症する場合が多い。リウマチ、甲状腺機能障害、慢性腎不全(血液透析患者)などの基礎疾患を有する患者ではつまずく程度の小外傷により損傷される例が報告されているが、健常人の報告は少ない。今回、われわれは健常人における大腿四頭筋腱皮下断裂(腱骨付着部)術後の理学療法を経験したので報告する。
    【症例】59歳、男性、身長167cm、体重78kg、BMI 28、会社員。会社にて階段を踏み外し、左下肢の支持が困難となり当院整形外科受診。MRI上大腿四頭筋腱断裂が確認された。
    【手術手技】受傷後14日目にScuderi法を施行した。正中縦皮切に侵入しアンカーシステムを用いて断端を膝蓋骨に縫着後、大腿直筋筋膜部に三角形の皮弁を形成し、これを反転し膝蓋骨前面骨膜に縫合し、補強を行った。
    【理学療法経過】術後2日よりCPM開始(伸展0°/屈曲30°)。術後2週より大腿四頭筋に対する温熱療法後、自動介助にて関節可動域(以下、ROM)訓練を開始。術創部に対して超音波療法を開始。大腿四頭筋の等尺性収縮運動も開始した。術後3週より前足部荷重開始。また、屈曲30°の角度制限にて過屈曲防止目的で膝装具を術後16週まで装着した。術後4週より1/3荷重。術後5週より2/3荷重。術後7週より全荷重許可とし、抗重力での大腿四頭筋の訓練を開始。術後12週より重垂ベルトを用いた抵抗運動及び、closed kinetic chainでの筋力増強訓練を開始。膝関節ROMの推移は術後4週時屈曲90°、術後14週時140°、術後30週時145°であった。術後45週経過した現在、階段降下時、膝関節に対する不安定感の訴えはまだ有るものの、関節可動域は全可動域屈曲可能、extenstion lagはなく、正座などの日常生活に問題はなかった。
    【考察】今回、比較的稀である大腿四頭筋皮下断裂の1症例を経験した。術後経過は良好であった。縫合部の状態に合わせ主治医と定期的なカンファレンスを行い理学療法を設定した。縫着部安定化までの間、筋短縮の予防、関節周囲軟部組織伸張性の向上、膝蓋上嚢の癒着防止、膝蓋骨の可動性の改善、術創部の癒着の防止を目的とし訓練を実施した。縫着部安定化までに、一定期間の固定・安静が求められる本症例においては、拘縮因子に対するアプローチを早期より施行することが重要であると考える。
  • ファンクショナルリーチテストを用いて
    大木 雄一, 曽根 理
    セッションID: 6
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/08/02
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】本研究の目的は、ファンクショナルリーチ(以下FR)を用いて屋外歩行自立脳卒中片麻痺者(以下A群)、屋内歩行自立及び要監視脳卒中片麻痺者(以下B群)の2群の数値を調べ、比較することにより屋外歩行自立度の判断に際しての一助となる客観的な指標を得ることである.
    【対象】歩行能力に重篤な影響を及ぼす認知機能障害、整形外科疾患を有さない当院入院中および外来通院中の脳卒中片麻痺者33名.A群(16名)の平均年齢±標準偏差は64.9±8.4歳、Brunnstrom Recovery Stage(以下BS)による分類はBS1、2:0名/BS3、4:3名/BS5、6:13名、麻痺側は左9名、右7名であった.B群(17名)の平均年齢±標準偏差は70.6±9.9歳、BSによる分類はBS1、2:1名/BS3、4:10名/BS5、6:6名、麻痺側は左4名、右13名であった.なお被験者には本研究の主旨およびプライバシーには十分配慮する旨を伝え全員より口頭での了解を得た.
    【方法】FRの測定はDuncanらによる原法に準じて行い、非麻痺側上肢を測定肢とした.また歩行の際に装具を用いている場合は、装具を装着した状態で測定を行った.各被験者とも2回の練習後3回測定し、その平均値を各被験者の身長で除し百分率で表した値(FR身長比)を各被験者の代表値とした.なお、身長でFRを補正した理由は健常成人40名を対象とした事前調査により、身長とFRの間に有意な正の相関を認めたためである(r=0.65 p<0.001).群間の比較には2標本t検定を用い統計学的有意水準は5%とし、有意差を検定した.カットオフ値の検討にはROC曲線を用いた.
    【結果】A群のFR身長比平均値±標準偏差は18.0±3.4、B群では12.8±2.3であり両者の値に有意差を認めた(p<0.05).カットオフ値を16.5としたときの感度は81.3%、特異度は94.1%、14.5では感度は87.5%、特異度は82.4%であった.
    【考察】両群間でFR身長比に統計学的有意差が認められたことから、FR身長比が脳卒中片麻痺者の屋外歩行自立度を判断する際の客観的指標になり得るのではないかと考える.また判断に際してのカットオフ値はROC曲線からFR身長比16.5を目安として考えている.その理由は、14.5でも感度、特異度とも良好ではあるが特異度をより重要視したため、つまり屋内歩行レベルにとどまる脳卒中片麻痺者をより鋭敏に判別するためである.今後、他の歩行能力を反映する指標との関係についても検証していく.
  • 尾形 友則, 有賀 裕記, 松野 佳奈, 指田 高宏, 飯田 真奈美, 斉藤 秀之, 小関 迪
    セッションID: 7
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/08/02
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】今回、受傷後1年半経過した外傷性脳挫傷患者に対し歩行練習を実施。その後転倒リスク軽減、歩行量増加を目標に、6週間経過時より部分免荷トレッドミル歩行装置を用いた歩行練習を導入。歩行能力変化について若干の考察を加え報告する。
    【症例紹介】48歳男性。体重:68kg、診断名:外傷性脳挫傷、障害名:両片麻痺、現病歴:2004/9/23交通事故にて外傷性脳挫傷受傷、2004/12/14当院療養病棟に転院。
    【初期評価2005/12/21】
    BRS:両上肢4・両下肢5・両手指3
    知的機能面:記憶障害(+)・集中力の低下・脱抑制
    連続歩行距離:膝装具(+)2m(最大介助)
    DRS(Disability Rating Scale):18/30点
    FAC(Functinal Ambulation Category):1
    基本動作能力:起居動作・座位保持(最小介助)
    FIM:36/126点(しているADL)、47/126点(できるADL)
    【経過】
    6週経過時2006/2/1
    連続歩行距離:平行棒内10m(最小介助)、膝装具(-)
    DRS:14/30点、FAC:2
    FIM:46/126点(しているADL)、53/126点(できるADL)
    9週経過時2006/2/22
    連続歩行距離:平行棒内15m(最小介助)
    部分免荷トレッドミル歩行:連続45m
    DRS:13/30点、FAC:2
    FIM:52/126点(しているADL)、60/126点(できるADL)
    【考察】
    本症例は積極的な歩行練習は行われてはいなかったものの、転院時できるADL能力としては起座・移乗能力共に最小介助にて可能であった。文献によれば、受傷1ヶ月以上を経過した患者で起座と車椅子への移乗が自立していた患者の25人中24人は可能、また頭部外傷後遺症からの回復は受傷後3年まで可能である、といわれている。
    リハビリテーション開始時より歩行練習を開始し、6週目では注意の散漫さはあるものの集中してくると積極的に介助歩行練習を行うようになった。しかし、連続歩行距離が平行棒内1往復と停滞しており歩行能力を向上させる上で課題となっていた。そこで転倒リスクの軽減と歩行量増加を目標に部分免荷トレッドミル歩行を開始した。
    歩行開始6週・9週において歩行能力向上が認められた。理由としては身体機能面に著明な変化は認められなかったことから、歩行練習の反復により歩行に対する慣れと、適切な歩行練習を設定することにより課題遂行による達成感により歩行意欲が向上され、また日常生活での動作時の依存心を軽減させ、ADL能力向上につながったのではないかと考える。
  • 一症例報告
    高尾 敏文, 斉藤 秀之, 宮崎 仁, 伊佐地 隆, 土屋 滋, 小関 迪
    セッションID: 8
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/08/02
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】1990年代以降に脊髄損傷患者に対して提案されたトレッドミルと部分免荷装置を用いた歩行再建は,2004年に発行された脳卒中ガイドライン2004の「歩行障害に対するリハビリテーション」の項において,バイオフィードバックや,FESと並んで推奨されるなど,脳卒中患者に対する歩行練習としても近年注目されている.今回,歩行練習の一方法として部分免荷トレッドミル歩行練習を取り入れ,バランスおよび歩行能力に改善がみられたので報告する.
    【症例】59歳,男性.<診断名>脳内出血(左視床).<障害名>右片麻痺.<現病歴>2006年1月28日自宅にて発症,救急車にて当院へ来院,入院.<経過>1月30日より理学療法開始.
    【方法】<介入>部分免荷トレッドミル歩行練習.<練習期間>発症12病日から21病日の間で,理学療法を実施した9日間.<免荷量>体重の20%~40%.<歩行速度>時速0.2~1.2マイル.<練習時間>5~15分.
    【評価】<介入初期>Brunnstrom Recovery Stage:右上肢IV・手指IV・下肢II,Functional Balance Scale:5/56点,10m歩行速度:3分04秒(片手すり・弾性包帯使用,中等度介助).<最終:介入2週目>Brunnstrom Recovery Stage:右上肢IV・手指IV・下肢IV,Functional Balance Scale:17/56,10m歩行速度:1分11秒(T字杖・弾性包帯使用,近位監視).
    【結果】バランス能力の改善および歩行能力の改善を認めた.
    【考察】要因としては,介助歩行レベルの患者に対し通常行なう歩行練習に比べて長時間行なうことができたこと,それに伴い患側下肢への荷重機会を多く作れたことなどが挙げられる.
    【まとめ】今回の症例から,急性期の脳血管障害患者に対する部分免荷トレッドミル歩行練習が,バランスや歩行能力の改善に寄与したと考えられる.今後さらにその有用性について検討していく予定である.
  • 原 由美子, 成瀬 瑠美, 藤井 恵美, 加藤 譲司(MD), 近藤 和泉(MD), 冨田 昌夫
    セッションID: 9
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/08/02
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】重度感覚障害を呈した片麻痺患者は、運動障害の改善にもかかわらず左右非対称で不安定な歩行にとどまることが多い。麻痺側では、運動し環境に働きかけたときに起こる変化を表在感覚・深部感覚・視覚等で同時に協調した感度で知覚することが難しくなるため、非麻痺側との非対称性が助長され、歩行リズムやバランスの障害を生じていると考える。今回、床反力内蔵トレッドミルによる床反力測定とビデオ撮影による歩行分析を行い、その特徴から感覚障害が歩行に及ぼす影響を検討した。
    【対象】当院へ入院した初発脳血管障害患者4名。下肢Brunnstrom Stage6、下肢感覚障害は中等度から重度鈍麻、ロンベルグ徴候陽性。歩行は全例、監視~修正自立。
    【方法】快適速度に設定したトレッドミル(ADAL 3D Treadmill, Tecmachine社製)上で、前方手すりを使用して歩行し、内蔵された床反力計で20秒間の床反力を測定、同時にビデオ撮影を行い、歩行分析した。歩行能力の指標として、平地での10m歩行速度と歩数を計測し、歩行率を算出した。本研究は、当院倫理委員会で承認された研究である。
    【結果】床反力垂直成分では、全例、両側共に踵離地からつま先離地にばらつきがみられたが、非麻痺側で顕著だった。非麻痺側では正常にみられる2峰性波形に加え、立脚中期にも凸波がみられ、3峰性を呈した。両側共に踵接地直後に棘状波が出現、症例によって異なったばらつきがみられた。前後成分では1例を除き、両側に踵接地直後の棘状波がみられた。側方成分も、全例両側とも踵接地後の棘状波がみられた。ビデオによる歩行分析では、麻痺側と比べ非麻痺側で単脚支持期が長く、麻痺側遊脚期には過度の膝屈曲、麻痺側立脚期にはトレンデレンブルグ徴候がみられた。歩行効率は、90.1~124.9歩/分だった。
    【考察】ビデオによる歩行分析では麻痺側の異常歩行パターンがみられたが、床反力では麻痺側よりも非麻痺側で多くの正常波形からの逸脱がみられた。感覚障害により環境の変化を知覚することが制限されるため、支持面に対する姿勢の崩れや非麻痺側との歩行リズムの乱れに気付かず、振り出し時膝を過度に屈曲し、強い勢いで踵接地しており、この努力性の振り出しを非麻痺側の立脚期で代償していたと考える。このような片麻痺患者の治療目的は、リズム運動に基づいた重心の効率的な移動を阻害している原因にアプローチし代償動作を最適化することにあると言われている。非対称性に対し、正中軸を成立し、身体軸を環境に適応させるための運動療法と、それを強化するためにトレッドミル歩行を組み合わせることで、左右対称の歩行をリズミカルな運動パターンで繰り返すことができ効率的な運動学習を実現できる可能性がある。
  • 石原 未来, 村山 尊司, 大賀 優
    セッションID: 10
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/08/02
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】前頭葉には一次運動野,高次運動野などの運動関連領域が存在する.特に高次運動野は直接的な運動制御よりも開始や維持などを含めた高次の運動遂行過程機能を有することが知られている.今回,両側前頭葉に広範な損傷を呈した症例を経験した.その臨床所見は,両下肢の随意的な運動が全く不能でありながら,自動的な歩行運動は可能という症状を呈した.高次運動野における随意運動の発現機構,歩行運動における神経系の機能的役割が背景に存在するものと考えられたので報告する.
    【症例】34才女性,右手利き.2004年12月くも膜下出血発症,両側前大脳動脈領域に梗塞を伴い,2005年1月前交通動脈瘤頚部クリッピング術施行.発症後71日で当センター入院.
    【画像所見】CT(発症後8週)で両側の前大脳動脈領域,前頭極内側部を中心として低吸収域を認めた.特に右は補足運動野を大きく含んでいた.
    【神経・神経心理学所見(発症後15週)】運動麻痺;両側上肢・手指認めず,両下肢は精査困難.腱反射;左右差および亢進なし.病的反射;陰性.感覚障害;再現性低く判別困難.MMSE20/30,失見当識,注意障害を認めた.簡易前頭葉機能検査(FAB)13/18.失語症軽度.両上肢に本能性把握反応・道具の強迫的使用を認めた.身体失認,半側空間無視;陰性.見当識障害のため状況に不適切な言動が多くみられたが,検査訓練の指示理解は概ね保たれており,下肢運動以外の協力動作は可能であった.
    【下肢の運動障害】両下肢の随意運動は姿勢や内的・外的誘導に関わらず困難であった.介助移乗・立位で両下肢の支持的反応は認められなかった.サドル付き歩行器を用いた歩行場面に限り両下肢運動が出現した.表面筋電図では,随意運動指示の際に筋活動は記録されなかったが,歩行時は下肢主要四筋に歩行周期にほぼ合致した筋活動が確認された.
    【考察】本症例は,画像所見上で明らかな一次運動野の損傷は認められず検査上も錐体路徴候は認めなかった.このため,下肢の運動障害はいわゆる運動麻痺とは異なるものと考えられた.一方,画像所見,両上肢の病的把握現象などの出現から補足運動野をはじめとした前頭葉内側の両側高次運動野の損傷は明らかであった.補足運動野は随意運動の発現,特に運動開始の機構に関与することが指摘されている.本症例の両下肢の随意運動障害は,両側前頭葉内側領域の損傷による随意運動の開始困難によるものと考えられた.一方,歩行器使用時に半ば自動的な両下肢運動が発現したことは,中枢神経系の下位組織(脳幹や小脳)に存在が推察されている歩行誘発野の働きによる可能性が考えられた.
  • 8週間の腰部・骨盤帯の安定性強化トレーニングによる効果
    齋藤 隆子, 池田 由美, 中俣 修, 金子 誠喜
    セッションID: 11
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/08/02
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    【目的】近年、姿勢制御において脊椎の分節的安定性に関与する腹部深層筋の機能が注目されている。そこで、今回腹部深層筋と下部体幹の再教育を行い、脊椎と腰部安定性を獲得することによる静的バランスの変化について、姿勢安定度評価指標(以下IPS)を用いて検討した。
    【対象者】健康な女性10名(平均年齢22.7±2.49)。
    【手続き】被験者は裸足とし、重心動揺計上に軽度平行開脚位で立たせた。そして、開眼にて120cm前方に設置した印を注視させた状態でクロステストを実施し、そのときの重心動揺を計測してIPSを算出した。週1回1ヶ月間、計5回の測定(初期、1、2、3、4週後)を行い、その後1ヶ月の期間をおいて再び計測(8週後)を行った。その間トレーニング群(以下A群)5名には毎日課題を課し、コントロール群(以下B群)は週1回の計測のみとした。
    【トレーニング方法】1.腰部安定性獲得の練習、2.視覚的フィードバックを伴う腹部引き込み練習、3.肢位を変えた腹部引き込み練習を毎日行った。1は60mmHgに加圧したマンシェットを腰部に入れ、crook lyingから片足を挙上し5秒間で膝関節完全伸展位にし、5秒間で屈曲位に戻すという練習を10回、左右それぞれの脚について行った。2は70mmHgに加圧したマンシェットを腹部に入れ圧数値を確認しながら腹臥位で脊椎・骨盤を動かさず腹部を引っ込めて、その状態を10秒間保持することを10回連続して行った。3は2の課題を座位、立位、背臥位、四這い位で行った。
    【結果】両群間比較において、初期時点でのIPSには有意差は認められなかった。ただし、2週後の測定以降はA群のIPSがB群を上回っており、2、8週後のIPSは、A群の方が大きい傾向が認められた。また、群内比較において、A群はトレーニング開始2週後からIPSは上昇し8週後までその状態が維持されていた。一方、B群では3、4週後の測定でIPSが有意に上昇した(p<0.05)が、8週後の測定では初期状態の値まで戻っていた。
    【考察とまとめ】B群における3,4週後のI PS上昇は、8週後の測定では初期状態に戻っていたことから、重心動揺計測に対する慣れがあったと考えられる。A群における2週以降のIPSの値は、B群の3、4週後の値を上回っていたことから、これはトレーニングの効果を反映していると考えられる。また、A群において個人間でIPSの上昇の仕方に違いが認められたが、これは課題の達成度の違いにも起因していると思われる。今後、腹部深層筋を再教育するトレーニング方法を検討し再評価していく必要があると考える。
  • 邑口 英雄, 松信 貴志, 清水 美保子, 冨樫 満希子, 瀬谷 明博, 後閑 浩之
    セッションID: 12
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/08/02
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    【目的】脳卒中片麻痺患者の立位バランスは下肢機能,感覚機能とともに体幹機能の関与が重要といわれている.我々は2004年に体幹能力の内,左右の重心移動能力が歩行獲得初期の段階で有用であることを研究・報告した.本研究では体幹の回旋能力が立位バランスにどのような影響を及ぼしているか検討し,肢位が回旋角度に与える影響やADL能力との関連も含め回旋能力の関与を包括的に捉えてゆく事を目的とした.
    【方法】対象は検査内容を理解できる座位保持監視または自立レベルの脳卒中片麻痺患者50名(男:32名,女:18名,平均年齢67.0±11.4,右麻痺:28名,左麻痺22名).検査前にヘルシンキ宣言に基づき研究内容を説明し同意を得た.検査課題はFunctional Balance Scale(FBS),座位・立位における体幹回旋角度(Active,Passive),Brunnstrom stage,Stroke Impairment Assessment Set(SIAS)の感覚機能,Functional Independence Measure(FIM)の移乗・トイレ項目とした.解析は座位・立位における体幹回旋角度を麻痺側・非麻痺側およびActive・Passiveで比較し,さらにそれぞれFBSおよびFIMとの相関を求め比較検討した.統計には群間比較にはt検定,相関にはSpearmanの順位相関係数を用い,危険率5%未満を有意水準とした.
    【結果】座位における平均体幹回旋角度(Active)は,立位回旋可能群:33.2±13.5°,立位回旋不能群:23.2±11.4°であり2群間に有意な差が認められた.相関は1)回旋角度とFBS:座位rs=.465?.517,立位rs=.584?.617.2)回旋角度とFIM:座位rs=.297?.389,rs=.302?.365,立位rs=.407?.482,rs=.430?.447.3)FIMとBrunnstrom stage:U/E rs=.673,rs=.657,Finger rs=.697,rs=.683,L/E rs=.569,rs=.582.4)FIMとSIAS:U/E rs=.651?.714,L/E rs=.645?.717でありすべて有意な相関(p<.05)を示した.
    【考察】体幹回旋角度は立位バランスと有意な相関が認められ,特に座位における体幹回旋能力は立位バランス能力にも影響を及ぼす可能性があることが示唆された.ADL能力との関連についても上下肢機能や感覚機能等に加え体幹回旋能力も関与していることが推察された.
  • 移乗動作の自立度が向上した1症例について
    井上 豊, 松葉 貴司, 渡邉 慎一
    セッションID: 13
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/08/02
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    【目的】在宅において、PTが徒手療法を中心としたアプローチを実施し、ROMの改善、移乗動作の自立度向上を呈した症例を経験したので、考察を加え報告する。
    【症例】発症後9ヶ月を経過したくも膜下出血による四肢麻痺、高次脳機能障害の64歳、女性。Br.stageは右5-5-5、左4-4-4、左下肢屈筋群の筋緊張は軽度亢進。他動的ROMは股関節伸展が右-20°左-50°(以下右左省略)、膝伸展-45°-55°、足関節背屈-5°-5°。各関節の遊び(Joint play)は制限され、左下肢屈筋群には筋スパズム、伸張痛あり。下肢伸筋群はROM中間域で右G、左G(一部F)。協力動作が一部に見られるが、発動性低下等によりADLは全介助。主介護者の長女によるベッド・車いす間の移乗動作は、長女の頚部に上肢を支持させ、下肢が屈曲位のまま接地しない状態で腋下を持ち上げる方法で全介助、FIMの移乗スコアで「1」に相当。
    【PTアプローチ】初回訪問時の徒手療法により、疼痛は減少、ROMが改善した。動作指導を加えることにより下肢支持性がわずかに向上し、FIM「2」となった。しかし、尖足位、股・膝屈曲位の立位による自重保持と前後バランス保持は困難であった。このため、問題点を下肢の伸展ROM制限、最終域の疼痛、動作・介助方法未習熟とし、これらの改善や習熟による移乗介助量の軽減をゴールとした。PTは、週1回(約1時間)、1ヶ月間(計4回)訪問し、Joint playの制限や筋スパズム、筋伸張痛の伴う関節拘縮に対する徒手療法(関節モビリゼーションと筋マッサージ)と長女等へのホームプログラム(可及的なROM訓練、筋力訓練、移乗訓練等を週5回程度)、移乗介助方法指導を実施した。
    【結果】股・膝関節伸展、足関節背屈のROMは5°から30°の範囲で拡大。Joint playの評価基準は1または2ランク改善し、疼痛は減少。長女による移乗動作(6回/日)は、足底接地、動作誘導等が可能となり、FIM「3」。これらの変化はPT訪問時に少しづつ得られ、変化した機能が次の訪問時まで一部低下を除き維持されたため、身体機能はおおむね段階的に改善した。
    【考察とまとめ】PTは徒手療法を用いて訪問時に疼痛を軽減、ROMを改善した。加えて、実際に移乗介助量が軽減することを介護者に示した。こうしたアプローチにより、介護者と移乗動作の目標・改善方法を共有することが可能となり、介護者によるROM訓練が定着するとともに、本人および介護者の移乗動作が習熟したと考えられる。このような単にROMの改善やADL訓練にとどまらない、介護者指導を含めた包括的なアプローチの考え方が重要と思われた。 
  • 佐藤 史子, 秋田 裕, 小田 芳幸, 高柳 友子
    セッションID: 14
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/08/02
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】当センターでは、2003年7月より介助犬の認定業務を行なっている。介助犬の適応については、PTが犬の習性や動作の特徴、介助可能な動作についての知識が不十分であること、介助犬訓練者の障害理解が不十分であることから、症例を通して学んでいく部分も多い。今回、介助犬導入により、屋外歩行が実用化した症例を経験したので紹介する。
    【症例】35歳女性。27歳時に脳幹部梗塞により右片麻痺出現。CT検査上異常所見はなかったが、運動中の悪心があり、現在も姿勢変換、方向転換時にはたびたびめまいを経験している。Br.Stageは上肢3、手指3、下肢4、歩行はT字杖にプラスチック製短下肢装具を装着し、実用的な屋外歩行が可能な機能を有していた。しかし、再発作や転倒に対する不安が常にあり、引きこもりがちで夫に依存した生活を送っていた。
    【経過・結果】2005年4月実用歩行の確立と社会参加へ向けて介助犬導入の希望があり、同年7月から2ヶ月間、候補犬との基礎・介助訓練と平行して理学療法評価、訓練を実施した。身体機能の変化は認められなかったが、施設内の慣れた環境や他者と共に歩く場面での歩行スピードは10m16秒から12秒に、歩行耐久性も5分程度から15分程度に延長された。しかし、屋外での単独歩行はなお困難であり、立ちしゃがみや方向転換、物拾い動作時のめまいを抑えることは困難であった。これらの経過を踏まえ、介助犬に依頼する介助動作を、歩行介助、物の拾い上げ、立ちしゃがみ動作時の補助手段、緊急時対応とし、合同訓練を実施し、2006年1月に介助犬を帯同して、自宅と職場間の約1kmの実用歩行が自立した。
    【考察】本症例は、実用的な屋外歩行が可能な身体機能を有しているにも関わらず、たび重なる悪心や日常的に出現するめまいに対する不安が強く、単独での外出が困難な状況であった。評価を通して、めまいが出現する動作と症例が不安に思う行為を確認することで、機能訓練で解決できること、他者の介入、介助犬の導入が必要なことを整理できたことは、介助犬を有効に活用するための過程として重要であった。また、介助犬が行なう緊急時対応は、症例の精神的不安を取り除き、介助犬利用者自身が持っている身体機能を十分に発揮するために有効な手段となった。
    【まとめ】介助犬の役割は動作介助のみならず、精神的な支えとなることが、自立生活へ向けての重要な役割になることを学んだ。こうした症例が今後どのように自立していくかは、継続的にかかわる中で確認していきたい。
  • 山城 緑, 豊田 平介, 守 由美, 角 ちとせ, 山本 紘靖, 新美 英里, 東村 幸枝, 山﨑 美保
    セッションID: 15
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/08/02
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】今日、医療体制の変革が行われている中で、リハビリテーション(以下:リハビリ) 体制の見直しも必要となってくる。そこで今回、当院リハビリ科業務実績を顧みることで、今後に向けての課題や取り組みを考える。
    【対象】平成16年度(平成16年4月から平成17年3月)、平成17年度上半期(平成17年4月から9月)の期間で当院整形外科、脳外科でリハビリを実施し、入退院された541名(平成16年度:整形外科229名、脳外科156名、平成17年度上半期:整形外科119名、脳外科37名)。平均年齢は整形外科67.0歳、脳外科71.1歳である。
    【方法】対象患者の平均在院日数、転帰、歩行獲得率を求め、検討した。また、転帰別に平均在院日数、歩行獲得率を求めた。転帰の分類は自宅復帰、転院、死亡の3つに分類し、自宅復帰率を算出した。歩行能力は独歩、歩行補助具利用による実用的な歩行、車椅子レベルの3つに分類し、歩行獲得率を算出した。
    【結果】平成16年度対象患者全体の平均在院日数は整形外科37.2±26.9日、自宅復帰率86%、歩行獲得率86%、脳外科43.2±41.9日、自宅復帰率56.4%、歩行獲得率70%であった。平成17年度上半期対象患者全体の平均在院日数は整形外科34.2±21.6日、自宅復帰率91%、歩行獲得率92%、脳外科33.9±26.3日、自宅復帰率59%、歩行獲得率66%であった。
    【考察】当院は救急医療を含めた急性期の総合病院である。しかし、今回の結果から、平成16年度から17年度上半期にかけての対象患者全体において、平均在院日数が長期化している傾向にある。これは近隣で転院先として回復期を担う病院が不足しているため、当院リハビリが急性期から回復期の役割を担っており、早期から歩行獲得と自宅退院に向けてのリハビリが行われている現状である。よって平均在院日数が長期化しているものの、整形外科・脳外科両科ともに、歩行獲得率・自宅復帰率においては高値を示した結果となった。つまり、自宅復帰可能要因として歩行獲得が重要な要因の一つであることが伺える。今回の結果から、セラピストは身体機能・ADL向上につながるリハビリを提供していく努力が求められる。今後は診療報酬改定が行われるが、リハビリの適応や頻度・点数といった具体的な部分は、不明確である。適切なリハビリ体系を構築していく、もしくは理解してもらうための、病院におけるアウトカムの提出は必要なことだと思われる。そこより、対象者を中心とした、良質なリハビリを提供できるよう体制の整備へと繋げたい。
  • 小堺 里美, 沼田 憲治, 三岡 相至, 桐田 泰蔵, 阿波根 朝光, 吉田 康成
    セッションID: 16
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/08/02
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】脳卒中後の片麻痺の機能回復は,新たな神経回路網の再組織化やシナプス伝達の効率化といった脳の可塑性によって促されることが報告されている。今回、陳旧性梗塞に起因した病的把握の機能回復に非損傷半球が再組織化に関与していた可能性を示唆する症例を経験したので報告する。
    【症例】83歳,女性.2004年6月11日歩行障害と下肢脱力感出現。6月14日当院外来受診で右半球皮質下の脳梗塞と診断され入院となる。同年6月15日より理学療法が開始された。同年5月に理学療法実施の既往がある。今回発症直前において右手の病的把握が軽度出現があるも左右手の単独使用および両手動作は可能であった。1992年に左脳梗塞の既往があり、初回発症時早期における本症候の経過記録はなく詳細については不明である。
    【画像所見】今回発症直後のMRI拡散強調画像では右放線冠から基底核部に至る領域に高信号領域(ラクナ梗塞)を認めた。FLAR画像では左前頭葉内側面から帯状回吻側部、補足運動野に至る陳球性病巣を示す低信号領域を認めた。
    【検査所見】意識清明、日常的な会話は可能だが長谷川式簡易痴呆スケール10/30点、失見当識・記銘力に低下を認めた。右上肢下肢は腱反射亢進、病的反射陽性であった。運動麻痺はBrunnstrom Stageで右上肢V・下肢III・手指V、左上肢・下肢・手指はともにVIであった。表在覚は左右差なく、深部覚は右上肢下肢に軽度鈍麻を認めた。Frontal Assessment Batteryは2/18点であった。言語性、動作性保続を認めた。右手に病的把握現象(把握反射、本能性把握反応、強制把握、道具の強迫的使用)を認めた。杖、右短下肢装具を用いて屋内歩行要監視。更衣動作は部分介助、トイレ動作は要監視、食事動作は自立であった。右手の病的把握が著明に出現し物品使用を妨げる場面が多く認められた。
    【考察】病的把握現象は補足運動野、帯状回吻側部、脳梁膨大部など前頭葉内側面の損傷によって反対側の上肢に出現することが知られている。今回発症後における本症候の著明な出現は陳旧性梗塞巣(左前頭葉内側面)に一致しており、右放線冠梗塞が直接の責任病巣とは考えにくい。中枢神経の可塑性には、シナプス伝達の可塑性、神経回路網の可塑性などがある。先行研究により、脳卒中後の機能回復に関する過程には、損傷周辺部位の活動、高次運動野(補足運動野・前頭前野等)の活動、非損傷半球の1次運動野や頭頂葉などが再編に関与することが報告されている。本症例は、陳旧性梗塞に起因した病的把握は非損傷半球を含む神経回路網の再組織化により改善していた可能性と、再発症によりその症候の解発が生じた可能性が推察される。
  • 渡辺 学, 網本 和, 新井 智之, 廣瀬 隆一(MD)
    セッションID: 17
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/08/02
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    【目的】「鏡失認」は、鏡上の物体を探索しその物体が視野内に呈示された後でもその探索行動を変容できない症状で、1997年にRamachandranが初めて報告した。また彼は鏡の利用により半側空間無視が改善する可能性を示唆しているが、その後も定量的な研究は行われていない。今回、半側空間無視に鏡失認を認めた例に対して定量的な評価を行い、次に鏡を利用することで半側無視の改善が得られたので報告する。
    【対象】症例A:85歳、女性。右頭頂葉皮質下出血、左片麻痺。JCSI-1、Brunnstrom stage上肢II手指I下肢II、左感覚重度障害、同名半盲なし。合併症は、見当識障害、認知障害、注意障害、病態失認、左半側空間無視、Pusher症候群。ADLは全介助、作話あり。症例B:89歳、女性。右側頭頭頂葉皮質梗塞、左片麻痺。JCSI-1、Brunnstrom stage全てVI、左感覚障害なし。合併症は、同名半盲、認知障害、構成障害、注意障害、病態失認、左半側空間無視。ADLは監視レベル。
    【方法】車椅子の右側に矢状面方向で姿勢鏡を隣接した。検査者は対象者の右前方に位置し、鏡に注意を向けさせそれが何かを呼称させた後、鏡上に映る物体を呼称させた。次に閉眼させ、対象者の前方50cm両眼の下20cm高さで鏡面から水平方向に左50cm(対象者の身体正中線より左側)の所に、ピンク色で直径6.5cmのボールを上方から糸で吊して呈示した。対象者を開眼させ鏡上に映るボールが認識できるか確認してから、「手を伸ばしてボールを取って下さい」と口頭指示した。鏡上を探索し実際のボールが掴めない場合は再び閉眼させ、ボールを10cm間隔で鏡面に近づけて同様の指示した。これを実際のボールを掴めるまで繰り返し、掴めたら今度は10cm間隔で鏡面から離していき、再びボールを掴めなくなる位置を確認しこれを閾値とした(鏡条件)。その後、鏡条件での閾値位置前後でボールの認識とリーチ動作を繰り返し(ミラーアプローチ)、治療前後でAlbertテストを実施した。
    【結果】鏡条件では、症例Aはボールを鏡面から10cm、症例Bは5cmの位置に近づけるまでは一度実際のボールを見ても鏡像を掴もうとして鏡面を探り、「鏡に浮いていて掴めない」「掴めるわけない」と訴えた。反対にボールを鏡面から離していくと症例Aは40cmで再び鏡上を探るようになり、症例Bは50cm離れても実際のボールを直接握ることができた。ミラーアプローチ前後のAlbertテストは、症例Aは17/40から36/40に、症例Bは38/40から40/40に変化した。
    【考察】実際の目標をつかめた距離の測定により、鏡失認と半側空間無視の評価を定量的に行う手段となりうる。一方、鏡の利用により半側空間無視が改善する例があり、治療法として有効な手段の一つであると同時に、症例により効果が異なる可能性が示唆された。
  • 上出 直人, 隅田 祥子, 安藤 文予, 山崎 岳之, 藤橋 紀行, 荻野 美恵子, 福田 倫也
    セッションID: 18
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/08/02
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    【目的】ALSは、疾患の進行に伴って、四肢・体幹の筋力低下だけでなく、呼吸筋の筋力低下も引き起こされる。呼吸筋筋力の低下によって、肺活量の減少や残気量の上昇、高二酸化炭素血症などの呼吸機能障害が生じるため、呼吸理学療法は非常に重要であると言える。呼吸理学療法を施行していく上で、呼吸機能を的確に把握していくことが必要であるが、その一つとして自覚的な呼吸困難感を聴取する。しかし、患者の自覚症状の有無と客観的な呼吸機能の指標との関連は明らかにされているとは言えず、自覚的呼吸困難感の聴取がどの程度有用なのかは不明瞭である。そこで、本研究ではALS患者の自覚的呼吸困難感と客観的な呼吸機能との関連を検討することを目的とした。
    【方法】対象は、ALS患者18名で、年齢は48-79歳、罹病期間は1-13年、病型は球麻痺型4名、上肢型11名、下肢型3名であった。自覚的呼吸困難感はALS Functional Rating Scale(ALSFRS)の呼吸困難感の項目を基に聴取した。客観的な呼吸機能の指標としては、血ガス(PaO2、PaCO2)およびSniff Nasal Inspiratory Pressure(SNIP)を測定した。なお、血ガスの測定に関しては、主治医が実施した。統計解析に関しては、呼吸困難感を有する群と有さない群に分け、対応のないt検定を用いて、両群における客観的呼吸機能の差異を検討した。また、球麻痺症状の有無や病型による影響を、χ2検定を用いて検討した。なお、有意水準は5%とした。
    【結果】自覚的呼吸困難感を有する群と有さない群において、年齢や罹病期間に差は認めず、ALSの病像として両群に偏りはなかった。しかし、客観的呼吸機能の指標である、SNIPと血ガスにおいて、統計的有意差は認められず、呼吸困難感を有さない群においても客観的呼吸機能低下例もみられた。また、球麻痺症状の有無や病型の違いについても、自覚的呼吸困難感には影響は認められなかった。
    【考察】呼吸困難感の有無には、患者の心理的状態や流涎、痙性、ADLなどの様々な要因が複雑に関与することが考えられ、実際の呼吸機能が反映されていない可能性が考えられた。すなわち、ALSにおいて、呼吸困難感だけでは実際の呼吸機能の状態を把握することはできないと思われた。ALS患者の呼吸機能を的確に把握するためには、自覚的な症状だけでなく、客観的な指標を必ず参考にして呼吸状態を捉えていくことが必要である。
  • 寄本 恵輔, 平塚 勝, 池永 希, 草場 徹
    セッションID: 19
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/08/02
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    【目的】 我々は神経難病患者が肺炎により生命を脅かされることを多く経験してきた.肺炎により種々の重要な臓器が障害されるため全身状態が不良となり,また臥床によって発生する無気肺や肺炎の慢性化に加え,廃用性障害を引き起こすことが報告されている.今回,長期臥床に伴い難治性肺炎を呈した神経難病患者に対し,理学療法の積極的介入の効果を検討したので報告する.
    【対象】 多発性筋炎患者(症例1),Marburg型多発性硬化症患者(症例2),筋萎縮性硬化症患者(症例3),クロイツフェルトヤコブ病患者(症例4),筋萎縮性硬化症患者(症例5)で,症例4以外は気管切開,侵襲的人工呼吸器を装着し,全ての症例は長期臥床にて難治性肺炎を呈している患者である.
    【方法】 症例1では立位保持装置(ダイナミックパラポディアム)を,症例2では蘇生バックを利用したsqueezingや喀痰機器(カフアシスト)を,症例3では気管喉頭分離術後の経口摂取訓練を,症例4,5では体外式陽陰圧人工呼吸器(RTX)を実施し,かつ離床訓練を続け,難治性肺炎の改善の是非を胸部CT,血液検査等で検討した.
    【結果】 全ての症例で胸部CTの改善,炎症症状の沈静化を認めた.また症例1では活動性の向上を認め,症例2では短期間の呼吸理学療法の有効な成果を上げ,症例3では摂取嚥下能力の改善,症例4では感染症疾患対策効果を上げ,症例5は侵襲的人工呼吸器と併用効果を認めた.
    【考察】 難治性肺炎の病態は、様々な要因で起きた肺炎が長期臥床を伴うことで何度も繰り返され、結果、全身状態を徐々に悪化させ、死に至らしめるものであることが示唆された.そのような中で、積極的な離床や様々な介入は難治性肺炎を改善させる有効な治療法であることが考えられた.理学療法士の使命は,ただ障害を治すことに終止するのではなく,障害そのものをありのままに認めて社会参加を促し,「人間らしく生きる権利」を回復することにある.したがって,神経難病患者が気管切開やTV装着によって生命予後を改善させることに終止してはならない.気管切開,TV装着という「生の選択」をしたからこそ,その後は積極的に離床を促すべきである.何故ならば,今回の検討より長期臥床が難治性肺炎を引き起こし,死に至らしめることが示唆され,その対策として積極的かつ継続的な離床が難治性肺炎の改善に最も有効であったと考えられたからである.それに加え,離床することは「寝たきり」からの脱却となり,ADLやQOLの向上においては必要不可欠な第1歩目の取り組みとなるからである.
  • 萩原 朋尚, 小林 準, 伊藤 修一, 近藤 広陸, 赤星 和人(MD), 永田 雅章(MD)
    セッションID: 20
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/08/02
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】重心動揺計及び二重課題法(以下dual task)を用いて、脳卒中片麻痺患者の注意分配能力が姿勢調節に及ぼす影響について健常者と比較検討したので報告する。
    【対象】当院における外来を含む脳卒中片麻痺患者(以下患者群)9名(性別;男性4名、女性5名、障害側;右4名、左5名、平均年齢66.4±11.2)健常者群9名(性別;男性2名、女性7名、60.5.±16.1)とした。患者群は歩行がFIM5以上の者とし、失語や高次脳機能障害を有さない者とした。
    【測定方法】アニマ社製重心動揺G-6100を使用。30秒の立位を記録した。測定肢位は裸足で開眼し両足を肩幅程度に開き、直立立位とした。測定項目として、重心の総動揺距離(以下LNG)及び集中面積(以下SD AREA)を算出した。対象者には条件の異なるtaskを与え、測定条件の違いにおける各群のLNG及びSD AREAを比較検討した。single taskとしては、目の高さにあるマーカーを注視しながら開眼で立位を保持するように指示をした。Dual taskとして、これにstroop testを加えた。stroop testは目線の高さに貼った紙に書かれた文字の色を、立位保持にて右端から左端へできるだけ速く読み進める課題とした。統計は、各群におけるsingle taskとdual task時でのLNG及びSD AREAの比較をt検定を用いて実施し、有意水準は5%とした。
    【結果】(1)患者群のsingle task時とdual task時のLNGにおいて有意な差が認められた。一方、健常者群のsingle task時とdual task時のLNGにおいては有意な差が認められなかった。(2)患者群のsingle task時とdual task時のSD AREAは有意な差が認められた。一方、健常者群のsingle task時とdual task時のSD AREAは有意な差が認められなかった。
    【まとめ】患者群のみdual task時のLNG及びSD AREAが有意に増大した。このことから、歩行可能なレベルの脳卒中片麻痺患者においても注意分配能力は低下し、姿勢調節機能の低下に影響を及ぼしていることが確認された。また、脳卒中片麻痺患者の注意分配時の重心動揺は移動速度が速く、移動範囲の大きいものであったことが示唆された。従って、特に、複数の注意を必要とされる歩行時の注意分配能力にも着目する必要性が考えられ、今後の運動療法への応用を検討していきたい。また、今回の研究が脳卒中片麻痺患者の姿勢調節を注意機能の側面から評価する方法の一つとして示唆された。
  • X線分類に着目して
    渡邉 幸勇, 佐藤 謙次, 上村 梨菜, 岡田 亨
    セッションID: 21
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/08/02
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    【目的】近年、変形性膝関節症(膝OA)に対する運動療法の効果は多く報告されているが、X線分類に基づいた効果を報告したものは少ない。そこで今回、X線分類における、初期OAと中期OAの運動療法効果を比較検討した。
    【対象】対象は2005年3月1日から2006年1月31日の間に当院を受診し、膝OAと診断され研究に対する同意を得た35名である。その内訳は、男性6名、女性29名、平均年齢67.81歳であった。選択基準は、腰野の膝OAの荷重X線分類grade1~3、年齢50歳~80歳、疼痛が1ヶ月以上継続しているものとした。除外基準は、あきらかな外傷に起因する膝関節痛、著明な炎症を有するもの、神経疾患等その他の疾患を有するものとした。群分けは、腰野の膝OAの経過分類に従いgrade1を初期OA群とし、grade2・3を中期OA群とした。有効症例数は、脱落者17名を除く18名、初期OA群8名、中期OA群10名であった。
    【方法】介入方法はホームエクササイズにて、大腿四頭筋、ハムストリングス、大殿筋に対する筋力トレーニングとした。運動頻度は1日10回ずつとし、4週間毎日行なった。対象には、運動日誌を渡し運動状況を記録してもらい、運動頻度が1週間5回以下、評価日に来院できない場合は脱落群とした。評価項目は、患者立脚型評価としてWestern Ontario and McMaster Universities Osteoarthritis Index(WOMAC)とし、評価日は初回、4週後とした。検討項目は初期OA群、中期OA群における介入前後の評価値の比較、介入前に対する介入後の改善率とした。統計処理は、SPSS for Win12.0を用い、介入前後の比較は対応のあるt検定、改善率の比較は対応のないt検定を用い、危険率は5%未満を有意水準とした。
    【結果】介入前後の比較では、初期OA群(P=0.013)、中期OA群(P=0.001)両群ともに介入前に比べ介入後で有意に低値を示した。介入前後の改善率は、初期OA群では59.4%、中期OA群では25.4%であり、初期OA群は中期OA群に比べ有意に高い改善率(P=0.006)を示した。
    【考察】初期OA、中期OAともに介入前後で有意な改善を示した。介入前後の改善率では初期OA 群が中期OA群に比べ高値を示した。このことから、両群ともに運動療法効果はあるが初期OA群の方がより高い有効性が認められた。
  • ヒアルロン酸と運動療法の効果の検討
    橋川 拓史, 寺門 淳
    セッションID: 22
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/08/02
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    【目的】変形性膝関節症に対して外来で行える保存療法のうち、どの治療法が効率的であるかを調査、検討することを目的とした。
    【方法および選択基準】2004年6月から7月まで当院を初診した40歳以上80歳未満の患者で膝関節痛を訴え、発症より2週間以上経過し明らかな外傷歴がなく、階段昇降時痛か動作開始時痛を訴える者を対象とした。治療選択は乱数表にて無作為に運動療法単独群(以下Ex群)、ヒアルロン酸単独群(以下HA群)、ヒアルロン酸と運動療法併用群(以下Ex+HA群)に振り分けた。評価は日整会膝OA治療成績判定基準(以下JOA)とvisual analog scale(以下VAS)を用いて、治療開始前、3週、5週、8週で評価した。JOA点数の群内比較、群間比較はWilcoxon検定を、VASの比較はt検定を用いて検討した。
    【対象】対象症例はEx群25例30膝、HA群23例25膝、Ex+HA群27例33膝、合計75例88膝であった。脱落例はEx群21例、HA群11例、Ex+HA群15例であり最終評価対象症例はEx群4例7膝、HA群12例13膝、Ex+HA群12例17膝であった。
    【結果】JOAの腫脹、歩行能、可動域に関しては各群ともに治療開始前後で有意差はなかった。JOAの階段昇降能では3週目でEx+HA群がHA群よりも早期に有意な改善を示し、HA群は5週目から改善を示した。8週目では各群間の有意差はなかった。またEx群も他2群と同様の改善傾向を示した。JOAの合計点数では3週目でEx+HA群がHA群よりも早期に有意な改善を示し、HA群では5週目から改善を示した。8週目では各群間の有意差はなかった。VASではEx+HA群、HA群ともに3週目で有意に改善を示した。またEx群も他2群と同様な改善傾向を示した。
    【考察】本調査ではEx群が他の2群に比べJOA、VASとも類似した結果であったにも関わらず脱落症例が多く患者に運動療法継続のモチベーションを維持させることの難しさを示している。またヒアルロン酸の有効性に関しては疼痛、運動機能の点に認められたがEx+HA群は3週目よりHA群より早期に改善が認められたことからヒアルロン酸と運動療法を併用することが膝OA症状に早期治療効果が期待できると考えられた。今後の課題としてより効果的な運動療法の方法や患者のコンプライアンスを上げるための工夫などの検討が必要であろう。
    【まとめ】
    1)運動療法併用群はヒアルロン酸単独群より早期にJOAスコアの改善が見られた。
    2)8週時点では運動療法併用群とヒアルロン酸単独群のJOAおよびVASの改善度には有意差はなく、両者とも有効であった。
    3)運動療法単独群は他2群と比較しても遜色のない改善を得られる可能性がある。
  • 齋藤 里美, 齋藤 幸広, 濱野 俊明, 高関 じゅん, 畠中 佳代子(OT), 加藤 理恵(ST), 友井 貴子, 内田 賢一
    セッションID: 23
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/08/02
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】膝蓋骨骨折に対する骨接合術を施行した患者における経過と機能の変化を把握する目的で、調査検討を行ったので報告する。
    【対象と方法】対象は2002年4月以降、当院にて外傷性の膝蓋骨骨折に対する骨接合術を施行した患者28例(男18女10、平均年齢54.7歳)である。
     診療録より、各症例の骨折型、手術日、理学療法(PT)開始日、膝関節可動開始日、荷重開始日、退院日、退院時膝関節可動域、退院時移動能力を調査した。
    【結果】骨接合術後、PT実施計画に大幅な変更無く退院した例は28例中24例だった。骨折型は腰野の分類で、単純横骨折型8例、第3骨片型が9例、第4骨片以上多骨片型(多骨片型)が7例であった。手術日~PT開始日までは平均1.9日、退院日までは平均24.0日であった。
     PT開始日より術側膝関節伸展位での股・膝関節周囲筋の筋力増強、非荷重での立位・歩行を行った。膝関節可動域の回復に合わせて術側下肢の自動介助運動を追加したが、関節運動を伴う積極的な筋力増強は退院時まで行わなかった。
     膝関節可動域については、単純横骨折型と第3骨片型では全例で術後1週以内に開始したが、多骨片型では術後1週以内が4例、残りの3例は術後2週以降の開始となった。
     部分荷重負荷での歩行は単純横骨折型と第3骨片型では1例を除く16例で2週以内に開始した。多骨片型では4例は2週以内に開始、2例はギプス固定後早期に開始し、残りの1例は5週の安静となった。
     24例のうち3例は、手術後ギプス固定が必要となった。うち2例が多骨片型の骨折であり、バイク乗車中の受傷であった。
     退院時にギプス固定をしていなかった22例の膝関節屈曲角は平均120°であった。120°に達しなかったものは第3骨片型で9例中3例が100°~120°、多骨片型では6例中2例が90°未満であった。
     退院時移動能力は、独歩が9例、T字杖歩行が4例、片松葉杖歩行が6例、両松葉杖歩行が3例、その他2例であった。
     一方、28例中4例は在院中に再手術の適応となった。1例は術後10日で転倒し再骨折となった80歳男性で、再手術後2週で部分荷重負荷を開始し、30日後膝関節屈曲角130°でT字杖歩行退院となった。3例は術後早期の画像所見にて骨片脱転が認められ、うち2例は当院で再手術を施行した。術後15・28日後にギプスシーネ下にて部分荷重負荷・関節可動を開始し、43・44日後にそれぞれ片松葉・T字杖歩行にて自宅退院となった。尚、退院時膝関節屈曲角は70・90度であった。
    【まとめ】膝蓋骨骨折に対する骨接合術を施行した患者について調査検討を行った。再骨折や骨片脱転などで再手術となる例もあった。
  • 佐藤 正裕, 椎名 美沙, 丸尾 莉紗, 太附 広明, 加賀谷 善教
    セッションID: 24
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/08/02
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    【はじめに】前十字靭帯(以下ACL)再建術後の筋力に関する報告は数多くあるが,術後早期では等尺性筋力の報告が僅かにあるのみで,等速性筋力に関しては少ない。一般的に競技復帰は術後6ヶ月前後で,筋力の復帰基準についてもある程度の共通認識が得られてきた。しかし,ランニングなど比較的早期から開始される動作についての客観的な筋力の開始基準はない。ペダル駆動型筋力測定器は術後早期から安全に筋力測定が可能であり,等速性膝伸展筋力との相関が高いことから,術後早期の筋力基準となり得ると考えられる。今回はACL再建術後1ヶ月からの等速性脚伸展筋力を測定し,経時的変化を検討した。
    【対象】当院でACL再建術を実施し,本研究の同意を得た14名(男性7名,女性7名,年齢23.0±9.2歳,身長165.8±6.6cm,体重62.6±9.9kg)で,術後1ヶ月の時点で疼痛なく自転車駆動が可能となったものとした。術側は右9名,左5名,術式は全例半腱様筋腱・薄筋腱を用いたSTG法であった。
    【方法】脚伸展筋力はStrengthErgo.240(三菱電機社製)を用いた等速性筋力測定とし,回転数は60,100rpmとした。これは角速度180,300deg/secに相当する。両側5回ずつ測定し,ピークトルクを体重で除した体重比と,健側値で除した患健比を算出した。測定時期は術前および術後1~6ヶ月まで1ヶ月毎に行なった。統計学的手法はKruskal-Wallis検定とTukey-Kramer検定を使用して,各時期間の体重比ならびに患健比を比較した(P<0.05)。
    【結果および考察】体重比では1ヶ月は60,100rpmともに術前,2~6ヶ月より有意に低値を示した(P<0.05)。患健比では1ヶ月は60rpmで術前,2~6ヵ月より有意に低値を示し,100rpmで術前,3~6ヵ月より有意に低値を示した(P<0.05)。しかし2ヶ月とは有意差を認めず,患健比では高速域で回復が遅延する傾向が示唆された。また,体重比,患健比の60,100rpmともに術前,2~6ヶ月間での有意差を認めず,ペダル駆動型筋力測定ではACL再建術後患者の脚伸展筋力は,体重比,患健比ともに術後2ヶ月で術前レベルまで改善することが示唆された。これは脚伸展動作が複合関節運動のため,参加筋が膝伸展筋だけではないことや,術後早期はCKCでの訓練が多用されることの影響が考えられる。脚伸展筋力は膝伸展筋力より動作との相関が高いことが報告されており,スポーツ動作の開始基準となり得るが,筋力の経時的な変化を評価する上では考慮が必要である。
  • 松土 理恵, 畑野 里枝, 唐牛 大吾, 萩原 礼紀, 榎本 洋司, 曷川 元, 木村 忠彰, 吉田 行弘
    セッションID: 25
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/08/02
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    【はじめに】1970年以降、悪性骨腫瘍に対する外科的治療法は、系統的化学療法の進歩と腫瘍切除縁の正確な把握が可能となり患肢温存術が主流となっている。しかし、術後の筋力や歩行能力に関する報告は少ない。今回、大腿骨遠位に発生した骨肉腫に対し延長型人工膝関節置換術を施行された10歳男児を経験したので、退院までの筋力の変化とその理学療法について若干の考察を加え報告する。
    【症例と経過】10歳男児 平成16年11月左膝痛出現し12月4日近医受診X線画像上異常を指摘され12月6日当院整形外科受診12月8日入院。術前化学療法を行い、平成17年4月6日 広範切除、左延長型人工膝関節置換術施行。4月25日よりPT開始。5月3日よりリングロック付き硬性膝装具を使用し、1/3部分荷重 5月10日より2/3部分荷重 5月17日より全荷重開始し、両松葉杖歩行練習開始。6月13日 階段昇降練習を2足1段にて開始。7月5日 片松葉杖歩行練習開始。8月9日片ロフストランド杖での歩行練習開始。9月5日リングロック解除でのT字杖歩行。9月12日T字杖での階段昇降練習開始。12月1日リングロック解除での独歩。平成18年1月30日装具使用でT字杖歩行にて自宅退院となった。
    【方法】術後3ヶ月、6ヶ月、9ヶ月(退院時)に左膝関節可動域(以下ROM)の測定と、徒手筋力計(日本メディックス社製)にて膝関節伸展筋力を3回測定し、最大値を採用、下腿長と体重で補正した。退院時に10m歩行速度・歩数を3回測定し平均値を採用した。
    【結果】左膝ROMは術後3ヵ月(屈曲90° 伸展-15°)、6ヶ月(屈曲90° 伸展-10°)術後9ヶ月(屈曲90° 伸展-5°)。膝関節伸展筋力は術後3ヶ月(右1.17Nm/kg 左0.21Nm/kg)、術後6ヶ月(右1.52Nm/kg 左0.42Nm/kg)、術後9ヶ月(右1.52Nm/kg 左0.65Nm/kg)。10m歩行速度は21steps 11.0secであった。
    【考察】大腿骨遠位の骨腫瘍に対する延長型人工膝関節置換術では、膝伸筋群を広範切除することが多く、本症例でも伸筋群の切除が行われた。広範切除後の膝伸展筋力の低下に対しては、残存筋力の増強と代償運動の獲得が有用と考えられる。当院では、荷重開始早期より膝の屈伸運動などの練習により、代償運動の早期獲得を目指し運動療法を施行している。今回の結果では、退院時の膝伸展筋力は健側の43%まで回復した。また、歩行速度に関しては7歳児の歩行速度と比較しても低下しており、退院時の歩行能力の低下を認めた。骨肉腫患児の理学療法施行時には化学療法の副作用による体調不良、長期入院による体力低下を伴うことが考えられた。今後、更に経過を観察し経時的変化について検討していきたい。
  • 関 和正, 岩永 洋祐, 小口 健作, 小泉 玄, 内田 貴士, 田坂 哲哉(MD), 関 裕也
    セッションID: 26
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/08/02
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    我が国において超高齢化社会を迎えようとしている今日、より多くの高齢者が若々しく自立した生活を営むため、今後は老年症候群の早期発見・予防・予防事業の整備は急務であるといえる。介護保険により、介護が必要な人々が安心して生き生きとした生活が送れるような制度は整いつつある。しかし、実際に65歳以上の要介護の原因として、衰弱(17.0%)および転倒・骨折(12.4%)が約3割を占める。これらを東京都老人総合研究所が開発した「おたっしゃ21」健診によって、具体的に身体虚弱・転倒・軽度の認知症・尿失禁・低栄養について多岐にわたる側面から統合して評価し、各要素の関係性を明らかにすることを目的とした。
    【対象と方法】
    健診に同意した地域在住高齢者184名(男性80名、女性104名、平均年齢75.87±7.12歳)である。採血後、身長・体重を測定し、東京都老人総合研究所開発の介護予防健診「おたっしゃ21」に基づき、福生市により改訂された問診票にて18項目の質問に答えてもらい、続いて理学療法士が握力・開眼片足立ち・5m歩行(通常歩行速度)・3m歩行(通常歩行速度)・Timed Up and Go test(最大歩行速度)を測定した。それらの結果から「おたっしゃ21」の基準に従い、身体虚弱・転倒・軽度の認知症・尿失禁・低栄養を点数化した。
    【結果】
    身体虚弱・転倒・軽度の認知症・尿失禁・低栄養は互いに有意な相関を示した。その中で各項目との相関関係について、身体虚弱との相関関係は、アルブミン(r=-0.19)・血清鉄(r=-0.30)・5m歩行(r=0.39)・3m歩行(r=0.67)であった。また、転倒との相関関係は、アルブミン(r=-0.19)・血清鉄(r=-0.29)・5m歩行(r=0.34)・3m歩行(r=0.62)であった。
    【考察】
    身体虚弱・転倒・軽度の認知症・尿失禁・低栄養は互いに関連が深く、老年症候群の予防には身体能力だけでなく、他職種と連携し、多方面からの評価が必要であることが示唆された。
    また特筆すべき点として、低栄養の指標として一般的に血清アルブミン量が多用されるが、今回の結果では身体虚弱・転倒と血清鉄がより強い相関を示した。これは理学療法士が高齢者の栄養状態を考慮して運動処方する際、血清アルブミン量とともに血清鉄の生化学データを考慮する必要性が示唆された。
    また、通常歩行速度について、5mに比べ3mが身体虚弱・転倒ともにより強い相関を示した。これは、歩行が5mに至ると、より多くの因子が複雑に絡み合う事を示唆する。ゆえに、歩行評価において通常歩行速度を一因子とする時、3m通常歩行速度がより具体的に身体虚弱・転倒の危険性を評価する手段として有効であると示唆された。
  • 有馬 和美, 今井 一郎, 原 久美子, 松栄 亮介, 福室 智美, 田中 博(MD), 藤井 智恵子(MD)
    セッションID: 27
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/08/02
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    【目的】臨床現場において脳卒中患者の自転車に乗りたいという希望を聞く。しかし自転車乗車には評価や基準はなく、競技やエルゴメーター等の文献はあるが、障害者の移動手段としての自転車乗車に関する報告は少ない。そこで脳卒中患者の自転車乗車の現状と利用する交通機関を調査し、自転車乗車能力へのアプローチの必要性を検討した。
    【方法】平成18年1月10日~2月3日、当院外来通院中の歩行可能な脳卒中患者(脳梗塞・脳出血・くも膜下出血のみTIA・RINDを除く)を対象としたアンケート調査を実施した。無記名の質問紙法で1)自転車乗車の有無2)よく利用する移動手段3)歩行自立度4)自転車乗車の希望を調査し、回答を得た26名(男性17名、女性9名、平均年齢63.8歳、発症後1ヵ月~10年以上で平均42.8ヵ月)について検討した。
    【結果】歩行自立度は屋外杖なし自立12名(46.2%)、杖使用自立8名(30.8%)、監視6名(23.0%)であった。発症前の自転車乗車者は25名(92.3%)で発症後の乗車者は7名(26.9%)であった。現在の自転車乗車者7名は、杖なし自立5名、杖使用自立1名、監視1名であった。発症前最も利用していた交通機関は、自ら運転する乗用車11名(42.3%)、自転車6名(23.1%)、電車5名(19.2%)の順であった。発症後最も利用していたのは家族が運転する乗用車7名(26.9%)、次にバスと電車で4名ずつ(15.4%)であった。自転車乗車の希望者は19名(73.1%)であった。
    【考察】脳卒中発症前は自ら運転する交通機関を利用していたが、発症後は家族の運転する乗用車やバス・電車等に変化した。自転車使用者も3分の1以下に減少した。今回の自転車の調査は、歩行自立度が高い人ほど乗車数が多い傾向となったが、歩行監視レベルで自転車に乗車している人もいた。自動車の運転では免許センターの許可や病院での評価により運転の可否を判断できるが、自転車では同種の社会基盤がなく、自己や周囲の人が判断していると思われる。この不明確な判断により、自転車乗車能力を有する人が乗車をせず、危険度の高い人が乗車することが起こりうると予想される。今回の自転車乗車の希望者は全体の約7割と多く、明確な判断のできる環境が必要と思われる。
    【まとめ】脳卒中外来通院患者に、自転車乗車の現状と利用交通機関、歩行自立度を調査した。脳卒中発症後、自転車乗車者が減少し利用交通機関が変化した。歩行自立度が高い人程、自転車乗車数が多かった。今後は自転車乗車を希望する対象者に、実際の乗車による評価、観察を検討している。
  • 柳田 憲光, 藤井 智, 田治 秀彦
    セッションID: 28
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/08/02
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    【はじめに】我々は、福祉用具の講習会などにおいて、電動ベッドの背下げ操作(以下、背下げ)に寝ている人が枕を使用しないと、水平位より頭が下がる感じ(以下、錯覚)を訴えることをしばしば経験している。そこで、枕を準備しなくても済む方法を模索するとともに、枕を使用した場合でも、どの程度の高さが必要かを検討したので報告する。
    【対象および方法】背下げにより錯覚を訴えた健常成人11名(男性7名、女性4名)を被験者とした。被験者を75度の背もたれ角度から、験者が背下げを行い、以下の条件において錯覚が生じた背もたれ角度を測った。比較する条件は、「枕を使用しない(以下、枕なし)」「枕を使用する(以下、枕あり)」、以外の方法として「閉眼」、錯覚を訴えた背もたれ角度近くで「頭部を一旦離して戻す(以下、頭部離床)」、「頚部を左に回旋した状態にする(以下、左旋)」「15秒間停止し再開する(以下、停止)」とした。次に、枕の高さについては、まず、「枕なし」で錯覚を生じた位置の頭部傾斜角(水平線と耳孔-頭頂を結んだ線の成す角度)を計測した。背臥位でこの角度を予め設定し、5度ずつ角度を加えて背下げを行い、錯覚の有無を確認した。
    【結果】錯覚の生じた平均ベッド角度は、「枕なし」で12.3±4.9度、「閉眼」は10.4±5.8度、「頭部離床」は10.3±5.1度、「左旋」は9.1±5.0度、「停止」は9.5±4.4度であったが、「枕あり」は全員0度まで錯覚が生じず、他の方法と比較し優位な差がみられた。「枕なし」で錯覚が生じた頭部傾斜角度は(-0.3±4.7度)であった。この状態での背下げで錯覚が生じなかったのは1人だけであったが、5度加えた場合は5人で錯覚が出ず、10度加えた場合は残りの5人とも錯覚が生じなかった。
    【考察】「枕なし」「枕あり」の状況を把握するとともに、背下げにおいて錯覚を生じにくい方法を模索するため、「閉眼」「頭部離床」「左旋」「停止」を実施してみたが、これらの方法よりも「枕あり」が有効であると示唆された。これは、前庭迷路が水平感覚に影響があることから、予め垂直方向に頭部を位置させることは、錯覚を訴えにくくする方法だからとも考える。したがって、特に日ごろ電動ベッドを使用していない人に対し、個人差はあるものの背下げをする際には、枕を使用し頭部を垂直方向に屈曲させることは錯覚を生じさせない配慮点として重要だと思われた。また、枕の高さについては、錯覚が生じた位置での頭部傾斜角よりも5から10度高くする必要があった。これは、験者のベッド操作の遅れや主観性のとらえ方にもよるが、基本的に錯覚が生じる位置よりもわずかに高くすることが求められるからだと思われる。
  • 小泉 大, 渡邉 浩文, 加藤 研太郎, 平林 弦大, 本山 由記, 斉藤 成
    セッションID: 29
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/08/02
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    【目的】
     当院では平成14年度から笛吹市社会福祉協議会が運営する地域福祉事業「いきいきサロン」に於て、参加型転倒予防教室を開催してきた。平成17年度から定期開催・評価{初回・最終回(以下3ヵ月後)・最終回後半年(以下9ヵ月後)の評価とアンケート}を行なった。今回、当事業をより効果的に行なう為に結果を分析・考察したのでここに報告する。
    【方法】
     対象は参加者(25名)のうち全ての評価(身長・体重・BMI・2分間足踏み・ファンクショナルリーチ・開眼片脚立ち・体前屈・Timed Up&Go Test・握力・足趾筋力)とアンケートに協力していただいた高齢者9名(男性3女性6平均年齢76.5±5.5)であった。運動内容は{ストレッチ・筋力エクササイズ(以下Ex)・バランスEx}とし、初回から3ヵ月後まで週一回の頻度で指導とバランスExを行なうこととした。また3ヶ月後以降は、自宅で体操の内容を自主Exとして行なうように指導を行った。結果の分析には初回・3ヶ月後の結果と初回・9ヵ月後の結果を対応のあるt検定を用いて有意水準を0.05以下とした。
    【結果】
     初回・3ヵ月後・9ヵ月後の順に記載した。特に有意差の見られたものは2分間足踏み104.3±6.4回・115.1±10.4 回・119±13.8回(p<0.01)、開眼片脚立ち25±23.8秒・54.3±36.4秒・38.7±43.7秒(p<0.01)、ファンクショナルリーチ22.5±7.5cm・21.6±7.2cm・19.3±5.9cm(p<0.05)であった。全体として初回・9ヶ月後の改善率よりも初回・3ヶ月後の改善率の方が良かった。また9ヶ月後も初回よりは改善していた。そして9ヶ月後のアンケート調査の結果からは、自主Ex量に個体差があることが分かり、初回以前より外出する傾向が見られた。
    【考察】
     評価結果から殆ど全てに於て、3ヵ月後に改善が見られ、9ヵ月後も初回より改善している傾向が見られた。これにより、参加型転倒予防教室でも効果があり、9ヶ月後も自主Exで効果が維持されることが示唆された。特に有意差の見られた開眼片脚立ちと2分間足踏みは普段行なわない複合的な身体運動である為、定期的に行なうことで効果が得やすかったと考えられる。また、アンケートからも教室参加以前より外出するようになった等の回答があり、心理面においても良い結果が得られたとも考える。
    今後の課題は自主トレにおいては個体差があったことから教室終了後の定期的な介入とより効果的で継続できる為の個別プログラムの作成が必要であると考える。
  • 認知症高齢者のQOL評価
    柴 喜崇, 小田 優貴, 若松 直樹, 加賀谷 善教, 大槻 美智子, 渡辺 修一郎, 柴田 博
    セッションID: 30
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/08/02
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 グループホーム(以下 GH)在住の認知症高齢者に対し,面接形式での主観的なQOL評価を行い,GHが目的とする家庭的で落ち着いた環境で実際に認知症高齢者が生活をすごせているかを明らかにする.
    【対象】 鹿児島県K市在住のGH在住者(3か所)(以下 GH在住者群)21名,同地域在住認知症高齢者(以下 地域在住者群)20名の2群について調査した.すべての対象者に研究の趣旨を十分に説明した後,書面にて自署を得た.理解が足りない者に関しては,家族より自署を得た.Mini-Mental State Examination(以下 MMSE)11点未満であった者,Quality of Life-Alzheimer’s Disease Measure日本語版(以下QOL-AD)の下位13項目のうち,3項目以上返答不可能であった者は除外した.
    【研究デザイン】 GH在住者群と地域在住者群の2群について6か月の期間前後2回の調査を実施した.
    【調査項目】 1)QOL-AD, 2)Barthel Index(以下 BI), 3)老研式活動能力指標(以下 老研式)
    【結果】 ベースライン時にて,GH在住者群が3人除外(MMSE 11点未満3人),地域在住者群が4人除外(MMSE 11点未満3人,QOL-ADの下位項目11項目以上返答不可能1人)され,それぞれ18人,16人を対象とした.
     QOL-AD得点は,ベースライン時,追跡調査時ともに,2群間に差は見られなかった(各々,P=0.432,P=0.833).また,GH在住者群,地域在住者群ともに追跡調査前後においても差は生じなかった(各々,P=0.182,P=0.198).
     QOL-AD下位項目の「家族」,「気分」の2つの下位項目において,ベースライン時では2群間に差がなく(各々, P=0.233, P=0.672 ),GH在住者群のみ追跡調査時に低下がみられた(各々, P=0.027, P=0.035).
     BI,老研式共に,2群間にベースライン時,追跡調査時でも有意差は認められず,6か月の期間で有意な変化はみられなかった.
    【考察】 QOL-ADの「家族」,「気分」の2つの下位項目において,2群間の比較でベースライン時に差はなかったが,追跡調査時にGH 在住者に低下がみられた.「家族」においては,24時間の職員によるケアが可能であるGHの環境により,家族の介護負担が軽減されるという介護者のニーズを高めている一方で,家族と接する機会を減少させてしまっていることが推察される.「気分」においては、GH在住者群に脱落者が多かったことに加え、ベースライン時に,GHでの脱落者が,追跡調査可能者よりも平均点が高かったことが影響していることが考えられる。
    【まとめ】 6ヶ月の期間において,QOL-AD得点に変化はみられなかった.また,BI,老研式においても,ベースライン時,追跡調査時ともに2群に有意な差が生じなかったことは,GHの環境は地域在住者の実際の家庭環境と同程度の日常生活活動,そしてQOLを得ることが可能であるといえる.
  • ―自宅復帰となった症例を経験して―
    松川 亜希子, 飯塚 陽, 太田 理恵, 斉藤 秀之, 小松 恒彦, 小関 迪
    セッションID: 31
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/08/02
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】当院では血液内科患者に理学療法(PT)が介入している症例は、2005年4月からの1年間の中で53症例あり、そのうち臍帯血ミニ移植(ミニ移植)を施行した例は11例であった。その中でも、自宅退院が2例、死亡退院が9例であり、ミニ移植施行患者の自宅復帰は困難な場合が多い。今回ミニ移植を施行し、著明な日常生活活動(ADL)能力低下を認めずに自宅退院した、骨髄異形成症候群(MDS)患者の移植評価について報告する。
    【症例紹介】68歳、男性。2002/11再生不良性貧血、MDS疑いにて入院、退院後外来フォローしていた。2005/9 MDSと診断され、12/7ミニ移植目的にて当院準クリーンルームへ入院、同日よりPT開始した。PTでは廃用予防目的の下肢・体幹ストレッチ、筋力維持・強化練習を中心に実施した。12/8ミニ移植前処置開始し、12/16ミニ移植施行。移植後、移植片対宿主病(GVHD)様の症状出現、心身機能の低下が認められた。2006/1/6生着を確認、準クリーン管理終了し、1/29よりリハビリ室でのPTを開始。2006/2/8自宅退院となった。
    【方法】当院の移植評価項目は、形態測定・血液データ・筋力・ADL・QOL・心理状態・自覚症状である。血液データはカルテからの情報収集にて行い、下肢筋力はハンドヘルドダイナモメーター(HHD)により、右膝体重比伸展筋力(WBI)を測定した。ADLはFIMを使用、QOL・心理状態については、Short-Form36(SF36)とSelf-Rating Depression(SDS)を実施した。今回はこれらの評価を、約2週間に1回の割合で実施した。
    【結果】SF36においては、入院時日常役割機能:身体・精神(RE):43.75・25.0、活力(VT):12.5、心の健康(MH):23.8に比べ、移植後はRE:18.8・16.7、VT:6.25、MH:14.3と点数の減少がみられた。その後、生着時・退院時と徐々に点数の増加がみられ、退院時はRE:50.0・33.3、VT:12.5、MH:28.6であった。FIMにおいては、入院時114点、移植後89点、退院時110点であり、入院時のADLレベルを獲得した。
    【考察】本症例はミニ移植施行後、一時的に全身状態の悪化と共に著しい精神面の低下がみられ、PT継続に難渋した。今回の経験から、ミニ移植患者は心身機能のup-downがあり、PT継続が困難になりやすいと思われた。血液疾患患者の場合、訓練の継続だけでなく、全身状態の把握・理解と共に、適切な対応が重要であると示唆された。
  • 河野 裕治, 高橋 哲也, 熊丸 めぐみ, 立石 真純, 田屋 雅信, 宮澤 寛子, 櫻井 繁樹, 安達 仁, 金子 達夫, 大島 茂, 谷 ...
    セッションID: 32
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/08/02
    会議録・要旨集 フリー
    【背景】心疾患患者の心機能評価として理学療法士が実施可能な検査の一つに呼気ガス分析がある。呼気ガス分析から得られる嫌気性代謝閾値(anaerobic threshold; AT)や最高酸素摂取量が再現性のある予後予測指標として知られているが、実際の臨床現場では最大運動負荷は患者にとって侵襲が強いばかりか、リスクも高く理学療法士が行う評価としては実際的ではない。近年、安静時の呼気終末炭酸ガス分圧(PETCO2)が人工呼吸器装着患者のモニタリング指標として用いられるようになってきている。PETCO2は肺血流量(心拍出量)を反映する指標であることから心不全の重症度によって影響を受けるという報告もあるが、理学療法場面での臨床応用についてはまだ検討が少ないのが現状である。そこで本研究では安静時と運動時のPETCO2に着目し、心臓外科手術後患者の心臓モニタリング指標としての臨床応用性について検討した。
    【方法】対象は当院で心臓外科手術を受け、その後にリハビリテーション指示が出た患者10例(男性9例、女性1例)とした。内訳は、冠動脈バイパス術5例、弁置換・形成術5例であった。被験者は5分間の安静座位の後、リカンベントエルゴメータを用い20ワットで5分間の一定負荷運動を行った。運動中は呼気ガス代謝モニタメータマックス3B(CORTEX)を用いPETCO2などの各種呼気ガス指標を連続測定した。測定時期は運動負荷試験(CPX)後と退院直前とし、食後2時間以上開け同一時間帯に実施した。呼気ガスデータの分析には安静時、運動時それぞれにおいて安定した後半3分間の平均値を採用し、安静時PETCO2と運動時から安静時を引いた値(?PETCO2)を心臓外科術後の経過と比較し、左室駆出率(LVEF)や自覚症状などとの関連を検討した。
    【結果および考察】安静時のPETCO2はCPX後に比べて退院時で有意な改善を示した(p<0.01)。また?PETCO2の平均値は手術後の経過とともに有意に改善した(p<0.05)。PETCO2とLVEFには相関関係を認めなかった。安静時のPETCO2はCPX時から退院時までに有意な改善を認めたが、各測定時点での安静時PETCO2と?PETCO2の間には相関関係を認めず、安静時PETCO2から運動中の肺血流量(心拍出量)の増加を推定することは困難であったが、対象患者のADL拡大とともに安静時・運動時のPETCO2の値が改善したため、手術後早期の心臓モニタリングの一つの指標として活用できる可能性が示唆された。
  • 高橋 哲也, 熊丸 めぐみ, 立石 真純, 河野 裕治, 田屋 雅信, 宮澤 寛子
    セッションID: 33
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/08/02
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】近年、心疾患患者の理学療法では各種呼気ガス指標に加えて下肢筋力についても注目されている。これまで、運動耐容能と下肢筋力の関係についての報告は数多くなされてきたが、年代毎の筋力特性や、最大膝伸展筋力以外の骨格筋機能(呼吸筋力など)と運動耐容能との関係などについては十分な解析が行われてきたとはいい難い。
    【目的】心疾患患者における運動療法開始時の各種骨格筋機能と心肺運動負荷試験の諸指標との関連を年代ごとに分析し、心疾患患者の筋力特性を明らかにすること。
    【方法】対象は当院リハビリテーション課に心臓リハビリテーションの依頼のあった心疾患患者299例である。男性243例、女性56例、平均年齢は63.7(21-85)歳、疾患の内訳は狭心症患者103例、急性心筋梗塞患者66例、心臓外科手術後126例、その他4例であった。心肺運動負荷試験終了後に、下肢筋力、呼吸筋力、握力を測定した。下肢筋力の測定は等速性筋力測定装置を用いて、下肢筋力は角速度60度/秒と360度/秒で最大膝伸展トルクを測定し体重で除した体重比を算出した。併せて、最大呼気・吸気筋力を電子呼吸筋力計で測定した。心肺運動負荷試験からは換気効率の指標である二酸化炭素排出量に対する換気当量の傾き(VE/VCO2 slope)、最高酸素摂取量(peak VO2)、嫌気性代謝閾値での酸素摂取量(AT-VO2)を算出し、各骨格筋筋力指標の年代毎の平均値を算出し相互関係を分析した。
    【結果】握力、呼吸筋力、肺活量、下肢筋力は年代が上がるに従い有意に低値を示した。吸気筋力の年代別の値(cmH2O)は49歳以下59.1、50-59歳55.3、60-69歳56.9、70歳以上44.7、呼気筋力の年代別の値(cmH2O)は49歳以下74.3、50-59歳72.7、60-69歳72.6、70歳以上57.9であった。膝伸展筋力(体重比)の年代別の値は49歳以下172.3%、50-59歳160.1%、60-69歳140.7%、70歳以上116.5%であった。また、peak VO2やAT-VO2は年代別に差を認めなかったが、VE/VCO2 slopeは年代が上がるに従い有意に高値を示した(49歳以下30.7、50-59歳32.8、60-69歳33.9、70歳以上35.8)。また、各年代でpeak VO2と下肢筋力、VE/VCO2 slopeと下肢筋力との間に負の相関関係を認めたが、呼吸筋力は、peak VO2やAT-VO2と無相関であった。下肢筋力は各年代で運動耐用能と換気効率に関係しており、下肢筋力は理学療法にとっても重要な因子であることが示されたが、呼吸筋力は各種呼気ガス指標と独立した因子であり、呼吸筋トレーニング導入は目的を明確に行うことが重要であると考えられた。
  • 術後肺合併症の予防と早期離床について
    佐藤 隆一, 斉藤 啓二, 江端 広樹(MD), 安藤 惠美, 内野 稚悦郁, 亀高 尚(MD)
    セッションID: 34
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/08/02
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】近年、外科手術の対象年齢は年々高齢化し、ハイリスク患者が増加しており、術後の肺合併症の予防や早期離床が重要な課題となってきている。今回我々は、2005年8月より開腹・開胸術前後に理学療法士が介入し、外科医・リハビリテーション科医、看護師と連携を図りながら、呼吸理学療法を実施ししたので回復状況について報告する.
    【対象】2005年8月から2006年2月まで開腹・開胸術前後の呼吸理学療法に関わった15名(男性10名;女性5名;平均年齢70.8±10.8歳)を対象とした。原疾患は大腸癌5名(33.3%)、胃癌4名(26.7%)、肝癌3名(20.0%)、胆石症・総胆管結石2名(13.3%)、食道癌1名(6.7%)であった。
    【方法】本研究では肺合併症の危険因子を3分類し1.術前因子(1)呼吸機能検査(2)Brinkman Index(喫煙歴)(3)BMI(4)術前リスクスコア(5)術前理学療法日数2.手術因子(1)手術部位(2)術式(3)手術時間3.術後因子(1)呼吸理学療法開始時間(2)ICU在室期間(3)在院日数(4)術後在院日数(5)歩行自立期間(6)呼吸器合併症の有無の項目について分析した.なお呼吸理学療法として術前は理学療法士が呼吸機能評価、呼吸体操、呼吸法、排痰法指導、全身調節運動を行い、術後はリラクセーション、用手呼吸介助、体位変換、離床練習、歩行練習等を看護師と連携して実施した。
    【結果】1.術前因子では(1)呼吸機能検査;%VC平均103%,FEV1.0%平均73.2%(2)Brinkman Index(喫煙歴);平均630.6(0~2200)(3)BMI;平均20.7(16.2~28.5)(4)術前リスクスコア;平均11.5点(8点~16点)(5)術前理学療法期間;平均2.2日(1日~6日)であった。2.手術因子では(1)手術部位;上腹部11名(73.3%)下腹部4名(26.7%)(2)術式;開腹術11名(73.3%)、開腹・開胸術4名(26.7%)(3)手術時間;平均3時間56分(2時間1分~6時間7分)であった。3.術後因子としては(1)呼吸理学療法開始時間;平均1.97時間(2)ICU在室期間;平均2.67日(3)在院日数;平均36.7日(4)術後在院日数;平均24.7日(5)離床期間;平均2.8日(1日~5日)(6)歩行自立期間;平均5.9日(2日~12日)(7)呼吸器合併症者;0名であった。
    【考察】術後の肺合併症発生頻度は報告者によって様々であるが、危険因子としてあげられるのは患者要因で1.重喫煙2.高齢者(70歳以上)3.肥満(BMI25以上)、手術要因では1.手術部位(上腹部、胸部)2.術式(開胸、開腹)3.手術時間(3時間以上)などがいわれている。今回の対象者は肺合併症になりうる危険性を含んでいたが、幸いにも0名であった。これは早期からの呼吸理学療法の介入と看護師との連携がスムーズに行われ早期離床へ結びついたことが要因の1つと考えられる。しかし,術前理学療法が短期間なため在院日数の短縮には至らず、今後の課題として検討していかなければならない。
  • 運動強度の違いによる検討
    松本 卓也, 松永 篤彦, 齊藤 正和, 米澤 隆介, 上脇 玲奈, 前田 智美, 石井 玲, 忽那 俊樹, 山本 壱弥, 増田 卓, 石川 ...
    セッションID: 35
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/08/02
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】自律神経活動や呼吸循環応答は、運動様式(強度、種類、呼吸パターン)の変化によって影響を受けることが知られている。我々は、無酸素性作業閾値(AT)の65%強度の運動を健常者に施行し、吸気と呼気の比が1:2となる呼吸パターンを導入すると、1:1の呼吸パターンに比べて副交感神経活動が賦活化することを示した。しかし、一般的な運動療法のAT強度において、呼吸パターンを制御した運動様式が自律神経活動に及ぼす影響についての検討は極めて少ない。本研究は、心疾患患者の運動療法に呼気延長の呼吸パターンを導入する一環として、低強度とAT強度の運動において1:2呼吸パターンが自律神経活動と呼吸循環応答に及ぼす影響について検討した。
    【方法】対象は健常男性8例(平均22歳)で、運動様式は15分間の座位安静の後、自転車エルゴメータによる運動を6分間行い、その後に5分間の安静をとった。運動強度はATと60%ATの2種類の強度とし、呼吸パターンは呼吸数を制御するため1呼吸周期を6秒間に設定し、吸気対呼気が2秒対4秒を1:2パターン、3秒対3秒を1:1パターンとした。各強度の運動中に2種類の呼吸パターンを導入し、同一被験者に24時間以上の間隔を空けて4回の測定を実施した。被験者に呼気ガス分析器(AE300S、ミナト医科学)、自動血圧計(FB300、日本コーリン)、ホルター心電図(FM120、フクダ電子)を装着し、吸気時間と呼気時間の比(Te/Ti)、呼吸数(RR)、分時換気量(VE)、酸素摂取量(V(dot)O2)、血圧(BP)、心拍数(HR)を測定した。また、ホルター心電図より得られた心拍変動をMemCalc法(TAWARA/WIN、諏訪トラスト)にて解析し、副交感神経活動の指標として高周波成分(HF)を算出した。
    【結果】ATおよび60%ATのいずれの運動強度においても、Te/Tiは1:2パターンで1.98±0.04、1:1パターンで1.09±0.02であり、運動中に呼吸パターンは遵守できた。1:2パターンと1:1パターンの比較では、RR、VE、(V(dot)O2)、BPに有意差を認めなかった。60%AT強度のHF成分は、1:2パターンは1:1パターンと比べて有意に高く、HRは有意に低値を示したが(それぞれP<0.05)、AT強度のHF成分とHRは呼吸パターンの違いによって有意差を示さなかった。
    【考察】呼気を延長した1:2の呼吸パターンは、AT強度ではその効果が現れにくいが、低強度では副交感神経活動を賦活化し過剰なHRの上昇を抑制することから、心不全患者や心疾患患者に対し入院早期に処方される低強度運動時に適用できる可能性が示された。
  • 地神 裕史, 薄葉 航洋, 小松 泰喜, 上内 哲男, 田中 尚喜
    セッションID: 36
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/08/02
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】我々は日常診療において、歩容の改善や効率的に推進力を得ることを目的に、立脚後期の蹴り出しを意識した治療や歩行指導を行っている。変形性股関節症(以下、変股症)患者を対象に行った先行研究(第32回日本臨床バイオメカニクス学会)から、蹴り出す際の「蹴り出し角度」が、歩容の質的な評価指標として臨床的に有用であることが示唆された。
    【目的】先行研究にて変股症患者の人工股関節置換術前後の「蹴り出し角度」を比較したが、健常者のデータが乏しく、その信頼性や妥当性を検証するには至らなかった。本研究は、健常者に対し床反力計を使用した歩行解析を行い、「蹴り出し角度」の性差や左右差・年代間による加齢の影響を検証することを目的に行った。
    【対象】下肢関節疾患の既往のない健常者104名を対象とした。内訳は男性24名、女性80名、平均年齢54.3±19.3歳(20歳代19名、30歳代13名、40歳代10名、50歳代4名、60歳代28名、70歳代30名)であった。
    【方法】測定機器は床反力計(共和電業製DAPS-1056)を使用し、自由歩行を5施行、履きなれた靴を着用して計測を行った。「蹴り出し角度」は立脚後期の床反力前後成分の最大値とその時の垂直成分値の比から算出した。統計学的解析は統計パッケージSPSS(Ver.12)を使用し、Mann-WhitneyのU検定、一元配置分散分析を用い有意水準5%未満を有意とした。
    【結果】対象者全体の蹴り出し角度の平均値は、右13.4±1.8度、左13.1±2.1度であった。また年代別の蹴り出し角度は20歳代:右14.2±1.5度、左14.0±1.7度、30歳代:右14.5±1.9度、左14.4±1.2度、40歳代:右14.1±1.0度、左14.2±1.0度、50歳代:右14.0±1.2度、左14.7±1.0度、60歳代:右13.1±1.5度、左12.8±2.1度、70歳代:右12.4±2.1度、左11.7±2.1度であった。対象者全体の左右の蹴り出し角度は、統計学的に有意差はなかった。また、年代間の比較から、左右とも20歳代から60歳代では年代間に蹴り出し角度に有意差はみられなかったが、左右の20歳代、30歳代など70歳代の蹴り出し角度とは有意な差を生じる年代があった(p<0.05)。
    【考察】効率的に推進力を得るために必要な蹴り出し角度は、各年代によって多少異なり、加齢に伴い減少していく傾向が見られた。高齢者においては、蹴り出し角度が小さくなることでフットクリアランスが得られず、躓きや転倒を引き起こす可能性が高く、転倒予防として蹴り出しを意識した歩行指導が重要であることが示唆された。また、性差や年代間の対象者数の偏りを是正し、下肢関節機能や筋力と蹴り出し角度との関係を明確にすることで、より具体的な治療や歩行指導の確立を目指すことが今後の課題として挙げられた。
  • -SF-36を用いて-
    村上 幸士
    セッションID: 37
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/08/02
    会議録・要旨集 フリー
    【背景】腰痛は、一般成人の約8割が一生の内一度は経験するという程、多く発生する整形外科疾患である。近年では、グローバル筋群トレーニングに加え、ローカル筋群トレーニングが行われている。しかし、臨床上、疼痛への意識が強く、正しい筋力トレーニングや基本動作の獲得に時間を要し、指導も困難な事が多い。また、心理面への配慮をし過ぎると廃用を起こし、配慮が少ない場合は、重篤な腰痛を引き起こす可能性がある。
    【目的】本研究では、疼痛部位について調べ、SF-36を自己記入式で使用し、腰痛部位別に身体面・心理面への関与の相違を検討することを目的とした。
    【対象】研究に対して、同意を得られた腰痛(明らかな神経症状のない者)にて外来通院されている男女23名(平均年齢:43.3±19.5歳、平均身長:160.6±8.7cm、平均体重:56.1±9.4kg)を対象とした。
    【方法】被験者全員に対して日本整形外科学会腰痛疾患治療成績判定基準(以下、日整会と略す)の測定とSF-36を自己記入式にて実施した。また、腰痛発生部位を確認し、腰部脊柱部分の疼痛群と腰部筋肉部分の疼痛群に分類した。
    【結果】腰痛発生部位の結果は、(A)腰部脊柱部分の疼痛群7名、(B)腰部筋肉部分の疼痛群16名(C)合計23名に分類された。日整会の結果は、(A)18.1(B)22.2(C)21.0となった。また、SF-36の結果は、身体機能(PF)(A)25.3(B)26.6(C)26.2、日常役割機能(身体)(RP)(A)17.4(B)16.7(C)16.9、身体の痛み(BP)(A)6.1(B)6.1(C)6.1、社会生活機能(SF)(A)6.0(B)6.0(C)6.0、全体的健康感(GH)(A)16.4(B)15.2(C)15.6、活力(VT)(A)12.9(B)12.0(C)12.3、日常役割機能(精神)(RE)(A)13.4(B)12.8(C)13.0、心の健康(MH)(A)18.1(B)16.9(C)17.3となった。まとめると、日整会の結果では腰部脊柱部分の疼痛群が低値を示した。またSF-36の身体面に関与する質問では両者に差は認められなかったが、心理面に関与する質問では腰部筋肉部分の疼痛群側が低値を示した。
    【考察】今回の研究では、腰痛の症状を脊柱部分と筋肉部分に大きく分類すると、身体面や心理面に特徴があるのではないかと考えた。日整会の結果では腰部脊柱部分の疼痛群が低値を示したが、SF-36では心理面に関してのみ腰部筋肉部分の疼痛群が低値を示した。今回の結果より、腰部筋肉部分の疼痛に関しては、身体面のみならず、心理面からの要因が予測される。よって、今後腰痛患者に対して、疼痛部位の把握とともに、心理面への評価も併せて実施し、治療としては身体面に加え、臨床心理士とともに心理面への治療の必要性を今回の研究結果より示唆された。
  • ―運動習慣の有無による比較―
    渡辺 博史, 古賀 良生
    セッションID: 38
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/08/02
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】高齢者において習慣的に運動を行うことは,下肢筋力を維持し,廃用症候群の予防に重要である.今回,運動習慣の有無によって,下肢の筋肉量が異なるかを検討した.
    【対象】60才以上の健康な男女(以下高齢者)79名を対象とした.対象をシニア女子バレーボールチーム(以下バレー群)10名(67.4±2.9歳),男子野球チーム(以下野球群)12名(65.8±3.7歳),運動習慣のない女子コントロール群(以下F対照群)23名(64.8±4.9歳),男子コントロール群(以下M対照群)34名(67.4±4.3歳)に分けた.
    【方法】全例に対し下肢全長のMRIを撮像して,3次元モデル化解析ソフト(LEXI社製:ZED VIEW)で下肢筋肉量を求めた.大腿および下腿の最大周径横断面における筋肉率と下肢筋肉量について,バレー群・F対照群間,野球群・M対照群間で比較検討した.統計的処理は,t検定を行い有意水準を5%とした.
    【結果】大腿最大横断面積に対する筋肉の占める率では,バレー群51.8±8.2%,F対照群48.5±6.4%,野球群71.8±5.2%,M対照群68.4±6.3%で,バレー群,野球群とも対照群より高かったが統計的な有意差は認められなかった.下腿最大横断面積に対する筋肉の占める率では,バレー群64.4±6.6%,F対照群60.7±6.5%,野球群70.4±4.5%,M対照群71.3±5.4%で,バレー群・F対照群間,野球群・M対照群間において統計的な有意差は認められなかった.下肢筋肉量では,バレー群6.9±1.4kg,F対照群5.6±1.0kg,野球群9.1±1.3kg,M対照群8.2±1.2kgで,バレー群,野球群とも対照群より有意に多い結果であった.
    【考察】以上の結果より,大腿および下腿での最大横断面積の筋肉率の比較では,骨の太さなど筋肉以外の組織に影響されるため,バレー群・F対照群間,野球群・M対照群間において差を認めなかったと考えられた.しかし下肢筋肉量では明らかに差を認め,バレー群,野球群は対照群より有意に多く,定期的に運動を行っているため下肢筋力の維持ができていると考えられた.関節症などの予防においては,下肢の筋肉量が多くても実際の生活の場で筋力を発揮できるかが重要である.高齢者において下肢筋肉量がどの程度下肢筋力に反映しているのかを確認することが求められ,今後は,大腿四頭筋と屈筋などの個々の筋肉において,筋肉量と筋力の関係などの検討が必要と考える.
  • 能 由美, 鈴川 仁人, 玉置 龍也
    セッションID: 39
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/08/02
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    【はじめに】 バスケットボール競技で頻発する足関節捻挫は再受傷の多い外傷のひとつとして検討されてきた.過去に客観的な足関節不安定性と,足関節機能,バランス能力との関係を検討した報告はあるが,機械的不安定性と選手自身の不安定感の訴えは必ずしも一致しない.
    本研究では,足関節に不安定感を訴える女子バスケットボール選手について足関節不安定性と足部アライメントの特徴を調査することを目的とした.
    【対象】 2005-2006年シーズンに,バスケットボール女子日本リーグ機構2部に所属する選手12名24足を対象とした.(平均:年齢24.6±2.2歳,身長169.1±6.0cm,体重63.5±4.5kg,競技歴16±1.4年,全例右利き)
    【方法】 2005年5月のメディカルチェック時に,1)問診(足関節の既往および不安定感の聴取),2)整形外科医による徒手的足関節前方引き出しテスト(以下ADT),3)放射線技師による足部荷重位X-p(側面および前後像)撮像を実施した.
    また問診により足関節に不安定感を訴える足を不安定感あり群(A群),対側をコントロール群(C群)とし,各計測値を比較検討した.なお,統計処理はt検定を用い,危険率5%未満を有意とした.
    【結果】 足関節捻挫(1週間以上練習を休んだもの)の既往は8名11足,不安定感を訴えるものは5名5足ですべて捻挫の既往を有し,ADTでも内外側ともに不安定性を呈していた.
    ADTにおいて,内外側ともに不安定性を有すもの12足,外側のみ3足,内側のみ1足,不安定性のないものは8足であったが,足関節捻挫の既往はそれぞれ5足,1足,1足,4足であった.不安定性の有無と捻挫既往の有無は一致しなかった.
    X-pにより計測した前足部内転角は,A群15.4°,C群11.2°(p<.05),矢状面における第1中足骨傾斜角(側面像)はA群23.2°,C群19.4°(p<.05)となり統計学的に有意な差が認められた.
    【考察】 足関節に不安感を訴え、不安定性もある足の足部アライメントは前足部内転角と第1中足骨傾斜角が対側に比して増大していた.前足部内転角は中足部に対する前足部のアライメントを示したものである.A群の方が高値となったメカニズムとしては距骨の前外方への不安定性により後足部回外,中足部外転し,それに対して前足部が内転回内したことが考えられる.また,捻挫後に長腓骨筋機能低下や前脛骨筋の過緊張残存によって足部内反,第1中足骨底部挙上が助長されたことも推察される.
    その対応としては関節可動域改善や筋機能改善に加え,足底板やテーピングによる前中足部の補助的なコントロールによって荷重時の足部アライメントの修正を行うことがあげられる.それにより不安定感の改善効果が期待される.
  • 木村 充広, 西脇 弓絵, 隆島 研吾, 櫻井 好美
    セッションID: 40
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/08/02
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】両側下肢の切断者は義足の適合がADL能力により深く反映され,処方の際には社会的背景を十分考慮した慎重な仕様選択が求められる.今回,従来PTB義足を使用していた両側下腿切断者に対しTSB義足を処方し,歩行能力やADLに及ぼす影響を検証することを目的とした.
    【症例】39歳の主婦,疾患名はバージャー病である.断端長は左右それぞれ15.5cm,16.0cm.問題となりうる可動域制限はなく,下肢筋力は両側ともに概ね「4」レベルである.また両側の断端末梢部とその周囲に表在覚の鈍麻が存在し,荷重の局所集中により生じた発赤がスポット状に確認された.義足歩行は杖なし独歩にて可能であったが,慢性的な腰痛により連続した移動については車椅子を併用していた.
    【経過】平成9年から下肢の循環障害が出現し,徐々に足底部の壊疽が進行する.平成10年5月に他院にて両側ショパール関節で離断術施行.術後経過不良により同11月両側下腿切断となる.術後PTB義足を処方され訓練期間を経て翌11年4月に自宅退院となる.また平成15年5月には右第3指DIP関節の切断術を施行している.今回PTB義足の劣化に伴い当院にて再作製を行なう運びとなったが,膝関節の可動域の拡大を切望されていることや,手指欠損による巧緻性の低下,さらには断端部の脆弱性を考慮しTSB義足を処方するに至った.
    【方法】PTB義足からTSB義足へ変更した際における歩行能力の効果判定として,以下のテストバッテリーに沿って評価をすすめた.1)Timed Up&Go Test (TUG-T),2)3分間歩行距離(3MD),3)10m歩行速度,4)片側立位時間,5)床反力計による歩行時重心振幅.また応用的なADL能力を示す指標としてFrenchay Activities Index(FAI)を,痛みの評価としてVisual Analog Scale(VAS)をそれぞれ用いた.評価時期はPTB義足使用時と,TSB義足処方後約2ヶ月時とし双方の結果を比較した.
    【結果と考察】PTB義足に比較してTSB義足では良好な装着感が得られた上,TUG-Tで平均1.92秒短縮し,10m歩行速度でも0.55km/h速くなった.また歩行時の重心振幅もTSB義足がPTB義足に比べ明らかに減少するなど歩行能力の向上がみとめられた.一方で,FAIや慢性的な腰痛に対しては大きな変化は見られなかった.TSB義足は断端全表面で荷重を受け,軟部組織への刺激が比較的少ないのが特徴である.本症例においても自覚的装着感が向上し,断端末梢部の発赤が解消され,歩行能力が向上したことを考慮するとTSB義足の特徴が有効に機能しているものと思われた.
  • 土田 奈生子, 後閑 浩之, 井野 真由美, 関 香那子
    セッションID: 41
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/08/02
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 我々は、Test of active reverced penduium(以下TARP)を開発し、第39回日本理学療法学術大会において脳卒中片麻痺患者においてTARPは再現性が高いこと、歩行能力と関係があることを報告した。そこで本研究では、TARPが脳卒中片麻痺患者の機能予測および実用歩行獲得の予後予測に有用であるかを検討することとした。
    【方法】 対象は入院時に書面にて説明し同意の得られた、当院回復期リハビリテーション病棟に入棟した脳卒中片麻痺患者33名とした。右片麻痺17名、左片麻痺16名、平均年齢65.9±13.5歳であった。測定項目はTARP・Timed”Up and Go”(以下TUG)・Functional Balance Scale (以下FBS)・Stroke Impairment Asessment Set(以下SIAS)の下肢運動項目・感覚・体幹機能、発症日、退院日とし、経過を追った。解析は理学療法開始時(以下、開始時)・退院時のTUGと各項目をSpearmanの順位相関係数にて検討した。次に、退院時TUGを目的変数として重回帰分析を行い、退院時の歩行獲得に影響を与える要因について検討した。
    【結果】 退院時TUGと、開始時TARP・FBS・SIAS下肢運動項目(Hip-Flexion test(以下H-F)、Knee-Extension test(以下K-E)、Foot-Pat test(以下F-P))、退院時TARP・FBS・SIAS下肢運動項目(H-F)・FBSとの間に有意な相関関係を認めた(r=-0.88~0.39 p<0.05)。退院時TUGを目的変数とした重回帰分析では、説明変数を開始時・退院時のTARP・TUG・SIAS下肢運動項目・体幹機能・感覚とした場合、退院時TARPと開始時SIAS下肢運動項目のK-Eが採択された(R2=0.76)。次に、説明変数を開始時の測定項目に限定した場合、SIAS下肢運動項目のK-EとTARPが採択された(R2=0.52)。
    【考察・まとめ】 これまでの研究で、体幹機能が歩行獲得に必要な要素であると報告しているが、本研究でも、退院時TUGを目的変数としたときに退院時TARPが採択され、退院時の実用歩行の獲得には体幹機能が寄与していると考えられ、同様の結果が得られた。退院の歩行の予後予測については、開始時の検査項目を説明変数としたとき、SIAS下肢運動項目のK-EとTARPが採択され、退院時の実用歩行の獲得を予測するには、下肢機能(特に膝関節伸展)と合わせて体幹機能を考慮する必要性が示唆された。また、開始時には退院時TUGへ下肢機能の寄与が高いが、退院時ではTARPの方が高くなり、回復由来として、歩行獲得には初期に下肢機能が影響し、その後、実用歩行の獲得には体幹機能の改善が必要であると考えられた。
  • 内田 恵理, 篠原 智行
    セッションID: 42
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/08/02
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】脳血管障害(以下CVD)片麻痺患者において、起き上がり動作が阻害されることが多い。起き上がり動作は運動方向が単一でなく空間内で切り替っていく複雑な動作であると考えられる。CVD患者は感覚障害を有することが多いが、感覚障害は空間知覚の低下も招くと考えた。
    そこで今回、起き上がり動作における感覚機能と空間知覚の影響について検討し、若干の知見を得たので報告する。
    【対象】当院でリハビリテーションを実施している坐位保持が監視以上、指示理解が良好なCVD患者26名(男性14名 女性12名)平均年齢63.9歳 右片麻痺13名 左片麻痺13名を対象とし、対象には研究の趣旨を説明し同意書への記名を得た。
    【方法】起き上がりの所要時間の計測、感覚検査(SIAS評価)、空間知覚を評価するためのWAIS-Rの積み木テストを実施、また他の機能評価としてBr-stage、年齢、腹筋筋力(SIAS評価)、体幹屈曲・回旋の可動域、長谷川式簡易知能評価スケールを計測した。
    起き上がり時間は、最大速度で背臥位から端坐位になるまでの時間を3回計測し、その平均時間とした。
    起き上がり時間と積み木テストの点数、各感覚機能、各機能評価との関連をみた。また感覚機能と積み木テストとの関連もみた。
    統計処理はSpearmanの順位相関を用い、有意水準5%未満とした。
    【結果】起き上がり時間と積み木テストには有意な弱い負の相関がみられた(rs=-0.41)。また表在上肢、表在下肢、深部下肢感覚とも有意な弱い負の相関がみられた(rs=-0.41、-0.46、-0.41)。その他、各機能とは有意な相関はみられなかった。また各感覚機能と積み木テストには有意な相関はみられなかった。
    【考察】今回、起き上がり時間との有意な相関がみられたのは感覚機能と空間知覚であり、これらの障害により起き上がり時間を要する傾向があることが示唆された。起き上がりは向きが変化する姿勢をつなぎ合わせるように、運動を調節しながら動作が行われると考えられる。姿勢や運動の調節には体性感覚、視覚、前庭覚が重要である。起き上がり動作は麻痺の程度などの運動機能より、感覚機能や空間知覚による運動の調節が関連していると思われた。
    一方、感覚障害と積み木テストには有意な相関はみられず、感覚障害によって空間知覚も低下するという仮説とは異なった。その一因として、空間知覚は体性感覚よりも視覚や前庭覚の影響が大きいと考えた。
  • ~足位を5種類に分けて~
    近藤 広陸, 伊藤 修一, 萩原 朋尚, 高梨 晃, 小林 準, 赤星 和人(MD), 永田 雅章(MD)
    セッションID: 43
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/08/02
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】臨床上、歩行・静止立位時でのステップ肢位で患者各々違う形態をとっているのを見受ける。そこで今回健常者でのステップ肢位で、足位を5種類に分け重心動揺を計測し、若干の相違を認めたので報告する。
    【対象】下肢の外傷の既往のない健康な成人20名(男性10名、女性10名)で年齢29.9±4.4才、身長166.1±7.5cm、体重55.6±10.8であった。
    【方法】重心動揺計はアニマ社製「G6100」を使用し、測定肢位は裸足で、静止立位から足部を自然に前方移動させたステップ肢位で以下の5種類の足位を取った。(1)後足STRAIGHT、前足STRAIGHT(以下S/S)(2)後足STRAIGHT、前足TOE-OUT15度(以下S/O)(3)後足STRAIGHT、前足TOE-IN15度(以下S/I)(4)後足TOE-OUT15度、前足STRAIGHT(以下O/S)(5)後足TOE-IN15度、前足STRAIGHT(以下I/S)。歩隔は踵中央と第2趾先端を基準に15cm離し測定した。パラメーターは重心動揺距離(以下LNG)、重心動揺面積、またX軸、Y軸方向重心偏位を測定した。ステップ肢位での5種類の足位に対し、一元配置の分散分析を行い有意水準は5%とした。
    【結果】LNGは5種類のステップ肢位で有意差を認め、I/Sが一番大きく、S/O、S/S、S/I、O/Sの順に小さくなった。重心動揺面積については有意差を認めなったがLNGと同様な順に動揺面積は小さくなった。X軸方向重心偏位は有意差を認め、S/Iが一番中心に近く、I/S、O/Sが他の肢位に比べ後足に偏移していた。Y軸方向重心偏位は有意差を認めなかったが全肢位において後足に重心が偏移していた。
    【考察】今回の研究で5種類のステップ肢位で重心動揺、重心位置に違いがあることが示唆された。入谷らによると、STRAIGHTを基準にTOE-INでは距骨下関節(以下STJ)は回内し不安定な足部状態になり、TOE-OUTではSTJは回外し安定した足部状態になると報告している。今回、全肢位において後足に重心が偏移していた。このことは後足STJの状態により運動戦略が変わり重心動揺に影響を及ぼしたと考えられる。つまりI/S、S/Oでは後足STJが回内し股関節戦略が優位に働き重心動揺が大きくなり、O/S、S/Iでは後足STJが回外し足関節戦略が優位に働き重心動揺が小さくなったと推察できる。これらの結果から臨床上、患者のステップ肢位での足位を観察することでバランス指標の一手段になるのではないかと考える。今後は筋電図を含めた更なる検討が必要である。
  • 丸山 愛枝, 山岸 茂則, 大口 和哉, 竹前 秀一
    セッションID: 44
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/08/02
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】歩行練習を行う際、健側立脚期に同側外側への動揺がみられる患者を何人か経験した。その患者の多くは、患側の母趾屈筋力低下を来たしている印象を受けた。本研究の目的は、母趾屈筋力が対側立脚期の側方動揺にどのような影響を与えるかについて検討することである。そのために、母趾屈曲促通が、床反力データにどのような影響を及ぼすかを調査した。
    【方法】対象は健常成人12名(男性5名,女性7名,年齢26.8±3.1歳)。はじめに、メトロノームによる通常歩行リズムの設定とピンチ力計による左母趾屈筋力の測定をした。筋力測定後、床反力計による3回の歩行測定を行った。床反力計では、右側方分力の最小値から最大値までの、単位時間当たりの変化量(以下、単位Yとする)を算出し、3回の平均値を求めた。その後、左母趾屈筋群への時間的促通を5回3セット行った。各セット間に10秒の休憩を入れた。筋促通後も同様に単位Yの平均値を求めた。また、側方動揺の要因となる膝の側方不安定性がないことを確認した。促通前後での母趾屈筋力と単位Yの差を用いて検討した。
    【結果】母趾屈曲促通後の筋力は、すべての被験者で5から66%(平均30.6±18.4%)の増加があり有意差を認めた(P<0.01)。しかし、単位Yは増加する傾向にあるものの、有意差が認められなかった(P=0.07)。またむしろ減少する傾向にある者は、促通率が低かった。単位Yが増加した者は、母趾屈曲促通率が高かった者・促通前の筋力が3.5kg以上であった者に多く見られた。
    【考察】今回、歩行速度を一定にしたので、単位Y値は、単位時間あたりの重心側方動揺幅を反映していると考える。今回の結果、母趾屈曲力の増加は、反対側への側方動揺を助長する傾向となった。長母趾屈筋は、足関節底屈・内がえしの作用を持ち、歩行周期の立脚中期から踵離地にかけて大きく働く。歩行速度を一定に保ったことから、長母趾屈筋の力は推進力とならず、内がえしの作用が大きく働き、反対側の踵接地から立脚中期の側方動揺を増加させたと考えた。しかしながら、歩行は全身の筋活動と中枢神経系が関与しており、関わる要素が多い。今後、筋の促通率と歩行スピードから側方動揺について検討していきたい。
  • 佐藤 伸一, 目崎 保
    セッションID: 45
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/08/02
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     臨床において監視を外せず自立歩行が獲得できない患者様は多い.この自立歩行獲得の基準は担当理学療法士による主観により決定されることが多いと思われる.今回,自立歩行獲得において最大10m歩行時間が客観的な一指標となるか,自立歩行と監視歩行をされている患者様で比較,検討した.
    【方法】
     対象は疾患を問わず福祉用具を使用し,最大10m歩行時間が60秒未満の患者様58例(男性30例,女性28例,平均年齢73.7±10.5歳)とした.方法は自立歩行されている患者様(以下,歩行自立群)と,監視歩行されている患者様(以下,歩行監視群)に分類し,最大10m歩行時間を計測し,統計処理を用い検討した.
    【結果】
     歩行自立群は33名(男性15例,女性18例,平均年齢76.2±8.7歳),歩行監視群は25名(男性15例,女性10例,平均年齢70.5±11.8歳)であった.男女比,年齢において2群間比較では有意差がなかった(P<0.05).
     最大10m歩行時間において歩行自立群は19.9±8.7秒,歩行監視群は31.0±11.5秒で,2群間比較では有意差があった(P<0.05).
     最大10m歩行時間を5秒間毎に分類すると,5秒以上10秒未満は歩行自立群6.1%(2人)/歩行監視群4%(1人),10秒以上15秒未満は歩行自立群30.3%(10人)/歩行監視群0%(0人),15秒以上20秒未満は歩行自立群24.2%(8人)/歩行監視群12%(3人),20秒以上25秒未満は歩行自立群15.2%(5人)/歩行監視群12%(3人),25秒以上30秒未満は歩行自立群18.2%(6人)/歩行監視群24%(6人),30秒以上は歩行自立群6.1%(2人)/歩行監視群48%(12人)であった.
    【考察】
     最大10m歩行時間において15秒未満では歩行自立群が36.4%,歩行監視群は4%だった.30秒以上では歩行監視群が48%,歩行自立群は6.1%だった.このことから,15秒未満では自立歩行獲得の可能性が高く,30秒以上ではその可能性が低いことがわかった.また,最大10m歩行時間は自立歩行獲得に影響を与える一指標と考えられた.しかし,15秒以上30秒未満の間では,歩行自立群は57.6%,歩行監視群は48%が占め,最大10m歩行時間だけでは自立の判断は出来ず,他の客観的指標が必要であると考えた.
    【まとめ】
     最大10m歩行時間が15秒未満では自立歩行獲得の可能性が高く,30秒以上ではその可能性が低い.最大10m歩行時間が15秒以上30秒未満の間では,自立歩行獲得の判断に他の客観的指標が必要である.
  • うしくかっぱつ体操〈転倒予防体操)を通じて
    野口 信子, 浅野 信一, 内藤 友子, 渡辺 恭子, 石塚 悟
    セッションID: 46
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/08/02
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】牛久市では、介護予防事業に行政PTが介入、企画し、大きな成果が見られたため報告する。
    【方法】1.うしくかっぱつ体操(転倒予防体操)の作成 2.かっぱつ体操普及員の養成 3.体操普及員による歩いていける距離での定期的、継続的な体操の実施
    【結果】1.体力テスト(5項目)を行った60歳以上の65名のうち、6割以上にテスト項目すべてに効果が見られた 2.体操を通じて、サロン活動が盛んになり、地域の輪が作られた 3.閉じこもりや、独居老人が地域に出るきっかけ作りができた
    【考察】1.うしくかっぱつ体操は、筋力、バランス、柔軟性を向上させる効果がある 2.行政主体でなく、地域住民が主導となって動くことにより、地域の輪が作られ、それが結果的に閉じこもりが原因で作られる要介護者の減少につながっていくのではないか
    【まとめ】1.行政のPTが企画、介入した介護予防事業の効果について報告した 2.介護予防事業を市民主導型で行うことによって、地域づくりに大きな効果が期待できる 3.今後も歩いていける距離での、継続的、定期的な体操実施を続けられるよう援助していく
  • 澤田 小夜子, 萱野 稔, 佐藤 恵子, 大島 治, 丸山 悟, ニノ倉 寿弘, 青木 一行, 保坂 登(MD)
    セッションID: 47
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/08/02
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】居宅介護支援事業所より、腰痛の予防・体操の指導を中心とした社内研修の依頼があり実施した。我々は社内研修による腰痛対策について検討し、若干の知見を得たので報告する。
    【方法】対象は居宅介護支援事業所の職員60名で、社内研修の内容は、腰背部の解剖、日常生活での注意事項及び姿勢についての講義と腰痛体操の実技指導であった。社内研修参加時と参加6ヶ月後のアンケート調査を実施した。アンケート調査は、無記名による自己記入式で行った。質問項目は、年齢、勤続年数、現在の腰痛の有無、Visual Analog Scale(以下VAS)、作業内容、社内研修参加後の変化、困っていることである。統計学的解析にはt検定及びχ検定を用い有意水準は5%とした。本研究の趣旨を対象者に説明し同意を得た上で実施した。
    【結果】初回時のアンケート回収率は81.7%であった。男性6.1%、女性89.8%、無回答4.1%。勤続年数は平均3.2年。平均年齢は33.7歳。腰痛ありは74.0%、なしは24.0%、無回答2.0%。腰痛の起こしやすい作業内容は、排泄介助36.0%、入浴介助31.0%、トランスファー介助20.0%、家事援助8.0%、その他5.0%であった。困っていることでは、同じ姿勢での業務がつらいなど作業姿勢に関すること多かった。社内研修参加6ヶ月後のアンケート回収率は63.3%であった。VAS評価による腰痛の程度は改善がみられ、t検定において有意差が認められた。体操を行っている者は29.0%、行っていない者は63.0%、無回答8.0%であった。体操を行っていない理由は、面倒だ41.0%、体操を忘れた13.0%、腰痛が治った13.0%、その他33.0%であった。社内研修後、腰痛の原因が理解できたが55.0%、腰痛を予防するために姿勢や動作を変えたが29.0%であった。痛みが改善したと答えている者は、体操を実施し、姿勢に気をつけている者が多く、χ検定において有意差が認められた。
    【考察】社内研修において、体操を実施し姿勢に気をつけている者に、腰痛の改善がみられた。腰痛解決のためには、自らが生活環境に積極的に働きかけるとともに、腰痛対策を事業所全体として継続的に取り組んでいく必要があると考える。今後は、作業環境の分析を行い、作業環境の見直しや、リフターなどの機器の導入を含めた腰痛対策を勧める必要がある。
    【まとめ】居宅介護支援事業所職員に対し、腰痛の予防・体操の指導を中心とした社内研修及びアンケート調査を実施した。社内研修において腰痛の改善がみられた。
  • ~動作レベルと移乗方法の関連性~
    久永 直喜, 小滝 治美, 鮫島 俊弘
    セッションID: 48
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/08/02
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】初富保健病院は666床15の療養型病床を持つ病院であり、入院患者の70%が理学療法を実施している。病棟での生活を含め、理学療法士(以下PT)が入院患者様の離床と関わる場面が多い。今回、病棟での離床状況を動作レベルと移乗方法との関連性において調査したので、若干の考察を加えて報告する。
    【方法】対象は2005年12月時点で理学療法を処方されている当院の入院患者464名。対象の動作レベルは、歩行可能群91名、立位可能群122名、座位可能群191名、座位不能群60名とした。これらに対して離床状況、移乗方法をそれぞれ7段階に分類し、担当PTが調査を行った。
    【結果】離床状況はA.自由に離床可能は85名19%、B.3回以上/日197名43%、C.2回/日24名5%、D.1回/日48名10%、E.1回/3日程60名13%、F.1回/1週間11名2%、G.離床不可39名8%であった。離床状況別に動作レベルおよび移乗方法みると、Aは歩行および立位可能群83名98%、移乗は自立および見守りが72名85%。Bは歩行および立位可能群111名56%、座位可能群82名42%、移乗は1人での介助167名84%。Cは座位可能群17名71%、移乗は1人での介助20名70%。Dは座位可能群が35名73%、移乗は1人での介助32名67%。Eは座位可能群41名68%、移乗は2人以上による介助34名57%。Fは座位不能群7名64%、移乗は2人以上による介助5名45%。Gは座位不能群28名72%、移乗は2人以上による介助35名90%であった。
    【考察・まとめ】調査により1日3回以上の離床の実施には、歩行および立位可能であることが大きく関与し、座位が可能になれば介助量が減り、離床頻度が増えることがわかった。また座位不能であれば介助量が増え、離床頻度が著しく減少するという現状にあった。これにより離床頻度が低い重症な患者様の離床を進めるためには、座位および立位に対して積極的にアプローチを行い、動作レベルを改善させることが重要となる。それに加え生活場面での離床レベル向上のため、PTが病棟で移乗動作を含めたアプローチを行い、病棟スタッフに動作レベルに合った効率的な移乗方法を把握してもらうことで、介助量軽減につながり離床頻度が増加すると考える。現在新入および中途入職者に対してトランスファーの講習会や、病棟単位での勉強会を行っているが、今後もさらなる連携を図り、離床頻度の向上に努めていきたい。
  • -スタッフの主観的評価における差の検討-
    薄 直宏, 安達 拓, 粟谷 みどり, 廣瀬 恵, 堀部 達也, 廣瀬 昇, 相川 智, 松尾 洋, 平野 正広
    セッションID: 49
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/08/02
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    【目的】当院リハビリテーション部では、部内で行ったアンケート調査から、現在広く行われているマンツーマン指導による学生の臨床教育実習(以下実習)が、臨床実習指導者(以下SV)に多大な負担を強いていることが明らかとなったため、平成16年から複数担当制(以下グループ制)を実習の一部に導入している。負担が大きいのは、学生の資質の違いによる指導の困難さや評価の際の精神的な負担で、これらの負担軽減と多数の視点による学生評価の標準化を目標に導入を行った。今回我々は、グループ制導入後のSVの負担感の変化と主観的な学生評価を行なった場合のスタッフ間の評価の差異を検討し、グループ制導入に対して若干の知見を得たので報告する。
    【方法】1.グループ制導入前後でのSVの主観的な負担感の変化を調べるため、導入前後でSVに対してアンケート調査を行った。2.グループ制による学生実習を終了した5名の学生について、実習終了時に複数のスタッフ(平均7名)で評価を行い、評価点の差異を検討した。評価は、当部内で作成したオリジナルの評価表を用い、評価項目として、知識面での到達3項目、技術面での到達3項目、心の到達2項目の計8項目をvisual analog scale(以下VAS)で点数化した。最終評価の各点数を用いて、スタッフ間の差、ばらつきについて比較検討した。
    【結果】1.アンケート調査からは、個人にかかる精神的な負担と役割分担による時間的な負担が軽減されたことが認められた。2.評価点については、スタッフ間で学生により差が認められ、また評価平均値はばらつきが大きかった。
    【考察】現在、学生実習においては、マンツーマンによる指導が標準的であり、SVの指導能力により実習は大きく左右される。しかし、本研究の結果から、スタッフ間で学生評価に差が認められ、SVによる評価の偏りがあることが示唆される。これは学生側の視点に立つと著しく不公平なことであり、また一方、SV側の視点で考えると、個人の責任で評価を下すことの精神的負担が大きいにもかかわらず、標準的な評価方法が確立されていないことが示唆される。今後、学生評価を標準化するためには、オリジナルの評価表の精度を高め、各養成校との密な連絡で当グループの指導内容を理解していただき、各養成校での学生評価、事前学習との擦り合わせを行うことが課題として考えられる。
  • 新井 武志, 大渕 修一, 小島 基永, 西澤 哲
    セッションID: 50
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/08/02
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    【目的】介護予防には生活習慣病の予防だけでは十分ではないと考えられている。運動器の機能を向上させることが、高齢者の生活機能低下の予防に役立つと考えられる。また、運動介入においては、評価に基づき対象の個別性に配慮した運動プログラムを実施することが効果的であると言われており、予防施策の実施にあたっては対象者の改善可能性を考慮することが必要である。しかし、虚弱高齢者においては、身体機能レベルと運動介入による改善可能性については十分な情報が提供されている状況ではない。そこで本研究は、地域在住虚弱高齢者の初期の身体機能レベルと運動介入による身体機能改善効果との関係を明らかにすることを目的とした。
    【方法】対象は平成16年度に東京都内の7つの自治体において、高齢者筋力向上トレーニングに参加した地域在住高齢者276名(平均年齢75.3±6.5歳)であった。個別評価に基づいて高負荷筋力増強トレーニングとバランストレーニング等を組み合わせた包括的な運動トレーニング(CGT)を3ヶ月間行った。運動介入の前後に最大歩行速度、Timed Up and Go、開眼・閉眼片足立ち時間、ファンクショナルリーチ、膝伸展筋力、長座位体前屈などの身体機能測定を行い、各体力要素の改善効果(変化量・変化率)と初期の身体機能レベルとの関係を検討した。対象者の身体機能測定データについては、各自治体において個人情報が特定化されない形で保管され、本研究のために2次的に使用した。
    【結果】対象者の運動介入前の平均最大歩行速度は85.8±30.6m/分と、一般的な地域在住高齢者と比べて虚弱な対象であった。しかし、参加者のトレーニング中の脱落率は8.0%と低値であった。トレーニング後、閉眼片足立ちを除き、すべての身体機能において有意な改善を認めた(p < .01)。最大歩行速度の変化量以外、身体機能の変化量・変化率は、初期の身体機能レベルと負の相関を示した( |r| = 0.20~0.59, p < .01 )。
    【考察】虚弱高齢者を対象とした運動介入の結果、身体機能レベルが低い者ほど、身体機能改善効果が高いことが示された。CGTは、従来虚弱な高齢者には不向きであると考えられてきた高負荷の筋力トレーニングを用いるプログラムであったが、脱落率も低く虚弱な高齢者にも受け入れやすいプログラムであったと考えられる。本研究の結果から、適切な対象を選択することがトレーニングの効果を高める重要な点であることが示唆され、対象をより明確にして介入を加える、いわゆるハイリスクアプローチが介護予防には効果的であると考えることができる。
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