関東甲信越ブロック理学療法士学会
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第27回関東甲信越ブロック理学療法士学会
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口述発表
生活環境支援
  • ―栃木県鹿沼市における調査―
    高橋 一将, 丸山 仁司
    セッションID: 1
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     リハビリテーション(リハ)の分野では在宅介護に関する研究は不十分とされてきた。リハの立場から在宅生活支援の計画、介入に重要と考えられる介護負担感を増減させる因子を同定することが重要である。「介護負担感に関連すると考えられる因子」と「介護負担感」の関連について調査、検討することを本研究の目的とする。
    【方法】
     栃木県鹿沼市の在宅介護者とその被介護者を対象としたアンケート調査。地域の居宅介護支援事業所を介し、対象者に質問表を配布、返信用封筒で回収する留置―郵送回収法。質問票は介護者に関する質問群、被介護者の状態に関する質問群、介護負担尺度の3部から成り、(1)介護者の因子として「性別」「年齢」「介護期間」「一日の介護時間」「自覚的健康状態」「常勤的職業の有無」「同居家族数」「介護協力者数」(2)被介護者の因子として「性別」「年齢」「続柄」「要介護度」「原疾患(複数回答可)」「利用サービス(複数回答可)」を聴取した。また、(3)介護負担感の尺度としてZarit介護負担尺度日本語版の短縮版(J-ZBI-8)を聴取した。諸因子を独立変数、J-ZBI-8のスコアを従属変数とし、因子が量的データの場合Pearsonの相関係数を、質的データの場合、相関比ηを求めた。
    【結果】
     290件の質問票の内、190件の有効回答(有効回答率65.5 %)を得た。
    分析結果として、
    (1)介護者要因では「介護時間(r = 0.330,p < 0.01)」、「健康状態(η=0.271,p < 0.01)」で有意な相関が認められた。
    (2)被介護者要因では「認知症の有無(η= 0.366,p < 0.01)」、「要介護度(η= 0.328,p < 0.01)」で有意な相関が認められた。
    (3)その他の因子との有意な相関は認められなかった。
    【考察】
    (1)「介護時間」:介護に要する時間の変化で、介護者本人の時間の不足といった精神的な負担が推測できる。
    (2)「健康状態」:介護者の健康状態により、介護に伴う手間や労働の感じ方が変化し、負担感に影響を与えた可能性が考えられる。
    (3)「認知症の有無」:認知症高齢者の介護では、介護時間が著明に長く、日常生活援助の比率が高い。特有の周辺症状のため、常時監視など、介護の手間が負担感に影響を与えたと推測される。
    (4)「要介護度」:要介護度の違いで、介護にかかる時間や労力・身体的負担が変化し、介護負担感への影響が推測される。
    【まとめ】
     今後リハの立場から、訪問リハといった在宅でのサービスに積極的に取り組む必要があると考えられる。家族介護者の負担を考慮するため、数種の因子が重要であることが示唆された。
  • ―新規車椅子開発の必要性に関する予備調査―
    唐牛 大吾, 萩原 礼紀
    セッションID: 2
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    高齢化につれ老化に伴う疾病や外傷の発生率が増加し、介護・支援が必要となる割合も増加する。そのような状況の中、平成12年より介護保険制度が導入され、様々な介護サービスが提供されるようになった。その中でも特に、要介護者の自立支援と介護者の負担軽減を目的とした「福祉用具(以下、用具)」の必要性は高く介護保険においても重要な課題とされてきた。しかし、利用者の身体状況や環境を考慮し適切に貸与されていない場合も少なくない。そのため、用具導入に理学療法士の関与の重要性が示唆されている。今回、筆者の所属地域である埼玉県北部と板橋区の一部における「用具に関するニーズ調査」を実施し、結果に考察を加え報告する。
    【対象】
    直接的に利用者に用具を選定・提供している埼玉県と板橋区の介護サービス事業所及び福祉・医療施設の職員である中間ユーザーとした。対象者数は、1施設2名ずつ76施設で計152名とした。
    【方法】
    趣旨に賛同しアンケート協力を得られた施設に対して、独自のアンケート用紙を作成・送付し回答を求めた。主な調査項目は、「用具導入の目的」・「利用者ニーズ」・「利用者の好不評」・「開発希望用具」とし選択解答形式を採った。調査期間は平成19年3月15日から平成19年4月16日の約4週間とした。所属地域間のクロス検定を行い有意差を認めなかったため、対象者全体を同一の母集団とみなし調査項目の単純集計を行った。
    【結果】
    152名中115名の回答が得られ、有効回答率76%であった。用具導入の目的で多い物は、「自立支援」72%・「介護量軽減」35%であった。ニーズが高い用具は、「ベッド」56%・「車椅子」53%・「杖」46%であった。不評だった物は、「歩行器・歩行車」19%・「補聴器」17%・「入浴補助具」9%であった。また、開発希望用具として自立支援関連での回答中、「歩行器」関連33件・「車椅子」関連24件・「衣服・靴」関連13件・「ベッド」関連11件であった。介護支援関連は「乗り移り」関連21件・「車椅子」関連15件・「ベッド」関連9件・「オムツ」関連7件であった。
    【考察】
    ベッドや移動手段となる用具のニーズは高いが、不評であった用具や開発希望用具とも重複する物も多く、今後の改善・開発が望まれていると考えられた。本邦では平成37年に、ほぼ人口2人で1人の高齢者介護が必要であると見込まれており、要介護高齢者の自立支援だけでなく、介護者の介護負担軽減にも重点が置かれると考えられる。高齢者の身体活動量と生活自立度は正の相関を示すとされており、在宅における介護負担の軽減と高齢者の活動量の維持・向上に適切な福祉用具の導入が、その一端を担っていると考えられた。 
  • ―生活機能再構築におけるPTの関わり―
    山本 裕子, 永井 志保, 藤井 優子, 小池 純子
    セッションID: 3
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】介助負担が増加した学齢児を担当した。保護者と姿勢運動の特徴を共有した上で機能面へアプローチし、移乗時の介助協力動作定着と生活に即した福祉機器の活用を図った。その結果介助負担が軽減し生活機能向上に至ったので、2年間の取り組みについて考察を交え報告する。
    【症例】養護学校4年男児、脳性麻痺による混合性四肢麻痺、股関節亜脱臼術後。言語によるコミュニケーション可能。主な移動はずり這い。長座位までの起居動作可能、椅子座位とつかまり立ちはセットすれば可能。電動車いす操作は屋外近位監視。4人家族でバリアフリーのマンションに居住。主たる介護者は母で腰痛あり。
    【初回評価】保護者のニーズは術後の股関節亜脱臼進行予防と介助負担の軽減である。移乗動作は横抱きの全介助で、生活スペースは電動ベッド上に限られている。車いす・座位保持装置も所持しているが適合が不良なため生活姿勢は定型的な姿勢運動パターン(体幹は伸展活動不十分で下肢はトータルな伸展パターン)を余儀無くされている。立位は下肢装具を使った練習時のみ実施し生活場面に生かされていない。
    【問題点】
    (1)幼児期まで入院生活が長く児の姿勢運動の特徴を保護者と共有することが不十分で、その経過から定型的な姿勢運動パターンが強化され二次障害のリスク増加
    (2)移乗動作の介助負担により生活姿勢の限局
    (3)福祉機器は所持しているが生活に即していない
    【支援内容】
    (1)定型的な姿勢運動パターンが介助協力動作、生活姿勢、二次障害に影響していることを保護者と共有
    (2)定型的な姿勢運動パターン改善のため体幹機能へアプローチ、立ち上がり動作・移乗動作指導
    (3)生活に即した福祉機器の活用検討
    【結果と考察】体幹機能向上に伴い移乗時の立ち上がり協力動作が可能となった。それにより介助負担が軽減することを保護者が実感し、意識の変化がみられ、日常生活で定着した。更に保護者は活動目的により姿勢を設定し、家具の配置変えなど生活動線を自主的に工夫するようになった。児は自発的な移動や姿勢変換がみられるようになった。股関節亜脱臼も進行せず維持している。
    今回は二次障害予防と介助負担軽減に対しニーズが挙がったことで、再度保護者と児の特徴を共有し生活を見直すことができた。姿勢運動の特徴に対する保護者の理解と、身体機能の向上により、保護者の意識が変化した。それが児の身体機能に適した介助方法・姿勢設定を生活の中で定着することや、児の能力を生かす福祉機器を活用することにつながり、生活機能が改善するという良い循環となった。これらの良い循環は、自発性といった児の自信や快適に暮らすための保護者の工夫へも広がった。
  • 武田 正一
    セッションID: 4
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】当院では、医療保険でのリハビリ算定日数制限を背景に、慢性期在宅高齢者に向けたサービスとして、平成18年12月より通所リハビリテーション(以下通所リハ)・介護予防通所リハビリテーション(以下介護予防通所リハ)を開設した。開設後1年が過ぎ、利用者の傾向やCGT(包括的高齢者運動トレーニング)測定結果を報告したい。
    【施設の概要】総合病院内に開設。3時間以上4時間未満の短時間で健康状態確認と機能訓練を主とした内容。午前・午後の2単位、1日40名。通所リハと介護予防通所リハを含む。
    【対象と方法】平成18年12月から平成20年2月までの期間で、通所リハ・介護予防通所リハの利用者147名(男性73名・女性74名)を対象とした。また、測定結果には、CGTに準じたリハメニューに2クール6ヶ月の参加が可能だった要支援者53名(男性22名・女性31名)を対象に行った。診療録より利用者の基礎情報を調査した。CGT体力測定では以下の項目についてリハ開始時と6ヵ月後を調査した。握力・膝伸展筋力・ファンクショナルリーチ・5m通常歩行速度の4項目である。測定方法は大渕らによる方法に準じた。膝伸展筋力の測定にはハンド・ヘルド・ダイナモメータ(アニマ社製μ-tas)を使用した。
    【結果】平均年齢は男性71.9±9.9歳、女性75.8±8.4歳だった。疾患別では脳血管疾患が51%で最も多く、次いで骨関節疾患が22%、大腿骨頸部骨折が10%、その他が17%だった。介護度では支援1が29%,支援2が21%,介護1が22%,介護2が15%,介護3が9%,介護4が3%だった。147名のうち50%は要支援者だった。CGT測定結果より開始時と6ヵ月後の平均値は握力で18.7kg→20.6kg・膝伸展筋力で20.9kg→21.9kg・ファンクショナルリーチで20.8cm→22.1cm・5m通常歩行速度で6.5秒→5.6秒と全てに能力の向上を認めた。
    【考察】通所リハは6時間以上8時間未満のサービスが多く、当院における短時間で健康状態確認・機能訓練が主のサービスはまだ少ないと思われる。利用者の半数が男性であることも特徴的と考えられる。また、CGT測定結果ではどの項目においても改善が認められ、運動機能向上が可能なことが示唆された。今後さらに症例数を増やし検討していきたい。
  • ―退院直後の方と在宅生活者の比較―
    家高 伸行, 柳澤 俊史, 宇野 享子, 権上 和彦, 佐藤 晴美, 計良 智仁, 瀧上 秀威
    セッションID: 5
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】リハビリテーション(以下リハ)において「療法士と患者および家族との信頼関係がなされずに訓練効果を期待するのは困難である」という事は周知の事実であろう.とくに訪問リハは入院でのリハと比べて施行頻度が少ないため,訪問導入時のアプローチ如何が,その後の訓練効果に大きく影響すると我々は考えている.
    今回,当院での訪問リハ導入時のアプローチについて,約3年間の業務実績を元に,訪問導入時に退院直後だった方々(以下,退院群)と,すでに在宅生活をされていた方々(以下,在宅群)を実際の症例を通して比較し,若干の考察を加えて報告する.
    【訪問実績】当院では平成16年10月に訪問看護ステーションを開設し, 翌年1月から理学療法士の訪問サービスも開始した.平成17年1月から平成19年12月までの訪問総件数は2095件,延べ利用者人数74名(男28,女46),年齢は平均77.9歳(47-96)であった.
    【退院群と在宅群の比較】退院群は46名(62%) ,在宅群は28名(38%)であった.機能訓練以外に行なった指導内容別実施率では全ての項目で退院群の方が高く,過去にリハを受けた経験が有る者は退院群96%,在宅群32%であった.
    【症例1:退院群のケース】77歳,男性,C3-4頚椎損傷,不全四肢麻痺で他院に5ヶ月間入院した後,ADL全介助にて自宅退院となった.日中の介護者は妻のみで訪問リハ導入時の心理的不安感の訴えは強く,起居動作・移乗ともに妻一人では困難であった.機能訓練と平行して妻への介助法を指導し,繰り返し練習を行った.導入1年後には起き上がりが自立し,妻の介助での移乗動作および上肢支助での立位保持が1分間可能となった.
    【症例2:在宅群のケース】80歳,女性,虚血性心疾患を呈しており車椅子駆動や移乗動作に夫の介助を要していた.導入時は夫の介助負担が大きくリハによる身体機能向上へのニーズが強かった.環境整備と介助指導のみで導入初期の段階にて移乗動作時の介助量が減少した.
    【考察】実施内容において機能訓練以外の指導項目別実施率を比較すると,退院群の方が全ての項目で高率に行なわれていた.このことから退院群においては入院生活から在宅生活へのスムースな移行の援助が重要であると再確認された.また症例1のように維持期以降でも能力障害の改善がみられた事から,継続的なリハの必要性も再認識された.一方在宅群はリハの経験が少なくそのニーズは多様である.これまでの介護生活に対して本人や家族の意見を尊重しつつ,実際の訴えだけでなく隠れたニーズを見出す事が重要と考える.
  • ―教室の内容紹介と検査結果の検討―
    大江 小百合, 芹田 透, 稲田 由紀, 知念 紗嘉
    セッションID: 6
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】当院では、H18年度H市より委託され、転倒予防教室を開催した。7週間の開催であり、初回と最終評価の期間が5週間という短い期間であったが、若干の知見を得たので、報告したい。
    【教室の流れ】 7週間の転倒予防教室を当院にて、週1回2クール開催した。公募方法は、公民館や老人会などの媒体の他、チラシを作成して行った。教室開催時間は2時間とし、初回と最終回の1週間前(以下6週目)に評価を実施し、利用者にフィードバックをした。初回にオリエンテーションを実施し、研究への同意を得た。転倒予防教室は、講義と運動とレクレーションを交えて行った。講義は、転倒予防の基礎知識、骨折予防の食事指導、住環境の整備、靴の選び方などを約15分間実施した。運動は、椅子を利用し、座位やつかまり立ち位にて、ストレッチと筋力強化訓練を行った。また、立位でのエアロビクスや座位での風船バレーなどを含め、合計約90分間体を動かす時間とした。随時休憩を取り、水分摂取を促した。毎回、血圧や脈拍や体調についてもチェックを行い、家庭での自主トレーニングの指導も行った。
    【対象と方法】H18年度参加者40名中、初回と6週目に評価を実施し、研究目的に同意を得られた地域在住者35名について検討した。平均年齢72.6±5.77歳、内男性7名、女性28名であった。評価項目は、身長、体重、握力、30秒間の椅子からの立ち座り(以下立ち座り)、長座位体幹前屈(以下前屈)、開眼片足立ち(以下片足立ち)、Functional Reach Test(以下FR)、Time up & go test(以下TUG)、10m障害歩行(以下10m歩行)、Trail making test(以下TMT)を計測した。(1)初回と6週目の各評価の平均値を算出し、T検定を実施した。(2) 74歳以下と75歳以上の2群に分けて、初回と6週目の平均値を検討した。(3)6週目の各評価の相関の検討も行った。
    【結果】(1)初回と6週目の平均値を検討した所、立ち座りが14.9±3.64回から17.9±3.51回に10m歩行が9.3±1.87秒から8.4±1.77秒、TMTが135.1±36.45秒から106.5±32.68秒に改善し、有意差(p<0.001)が認められた。また、前屈が31.3±9.95cmから33.4±8.68cmに、TUGが7.2±1.27秒から7.0±1.27秒に改善し、有意差(p<0.05)が認められた。一方、握力、片足立ち、FRには有意差が認められなかった。(2)年齢別では、TUGが74歳以下のみに、前屈と片足立ちが75歳以上のみに、初回と比べ6週目で改善がみられ、有意差が認められた(P<0.05)。立ち座り、10m歩行、TMTは両者とも改善し、有意差が認められた。また、74歳以下と75歳以上で検討した所、片足立ち(P<0.01)と10m歩行(P<0.05)で、初回と6週目とも有意差が認められた。 (3)10m歩行とTUG間で0.85、TUGとFR間で-0.72と高い相関が認められた。
  • 上田 知成, 高井 かよ, 佐藤 広一郎, 関 秀和, 石橋 正規, 古山 かおり
    セッションID: 7
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】当施設にて,感染性胃腸炎の蔓延により入所棟が閉鎖となり24日間セラピストの介入が行えない期間があった.セラピストの長期間未介入による入所者の状態に変化がどのようにあったのか,閉鎖前と開放後のADLを調査し比較検討した.
    【対象と方法】平成20年1月5日から同年1月28日時点で当施設4階入所中の28名(平均年齢83.8±7.0歳),男性5名,女性23名(脳血管疾患15名,整形疾患8名,高次脳疾患2名,内科疾患3名),平均在所日数221.2±144.1日(最長522日,最短41日),介護度1=2名,2=4名,3=14名,4=4名,5=4名について,入所棟閉鎖直前と開放直後の機能的自立度評価法(以下,FIM),障害高齢者の日常生活自立度(以下,寝たきり度),認知症高齢者の日常生活自立度(以下,認知高齢者自立度)を用いて評価し,閉鎖直前と開放直後の変化をWilcoxonの順位和検定を用いて比較検討した.
    【結果】FIMの平均の変化は閉鎖前69.7,開放後68.7であり,5%水準で有意差が認められたが,1%水準では有意差は認められなかった.FIMの項目別ではベッド等への移乗項目にのみ5%水準で有意差が認められた.寝たきり度,認知高齢者自立度には有意差は認められなかった.
    【考察】当初,未介入期間が24日間もあり,ADL評価に著明な変化があると考えていた.実際にセラピストが開放後介入した際,ROM制限,筋力の低下,持久力の低下,歩行の不安定等なんらかの身体機能の低下が見られた入所者は28名中14名いた.しかし,ADL評価では低い水準での変化であった.これは,入所棟では,移動において歩行よりも安全な車椅子の利用,入浴時の更衣・清拭の介助など業務をこなすための過介護がおこなわれ,また日常生活における入所者の活動性の低さなどがADL評価に反映されにくくなっているものと考えられる.身体機能の低下があるにもかかわらず生活の中では見落とされやすく,より大幅な身体機能低下を招き,予後に影響をおよぼすことが示唆される.このように慢性期でのセラピストの介入,特に生活場面での介入の大切さを感じた.
    開放後セラピストの介入が再開されたことにより,身体機能低下が見られた14名のうち8名は約10日にてほぼ閉鎖前の状態に戻った.一方,ほとんど身体機能低下の見られない14名もいた.これらについては再調査・検討し学会で報告したい.
  • 角田 賢史, 柏木 健太郎, 渡邊 宏樹, 市川 幸恵, 林 克郎
    セッションID: 8
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】我が国は世界一の長寿国となった、その一方障害高齢者が増え訪問リハビリテーション(以下訪問リハ)の重要性が高まりつつある。しかしその効果判定の基準については未だ標準化されていない。訪問リハの目的の1つに介護者の介護負担軽減が挙げられる。介護負担の増加は患者・介護者双方に不利益を被らせる可能性があり、在宅介護の破綻を招く恐れがある。近年介護負担を客観的に評価する尺度として、Zarit介護負担尺度日本語版(以下J-ZBI)が開発され、国内で多く使用されている。本研究は、1.訪問リハの効果を見極める1つの指標としてのJ-ZBIの妥当性について検討する。2.J-ZBIの原因分析から、訪問リハの目標を明確にし、より効果的な介入に継げるための基礎情報としての有用性について検討する。今回の報告では、J-ZBIを用い介護負担に影響を与える因子について、当院の訪問リハ対象者と先行研究とで比較する。
    【方法】当院の訪問リハ利用者のうち介護者が同居しており、本研究に同意の得られた42名の利用者(79.5±9.1歳)と介護者(66.7±10.7歳)を対象とした。介護者に対する調査は質問紙による自記入式にて行い、年齢、性別、介護者と利用者の属性、介護負担、介護期間、主観的健康感、介護時間などから構成した。介護負担の評価にはJ-ZBIを用いた。またリハビリ担当者が利用者の年齢、性別、疾患名、介護度、利用している介護保険サービス、問題行動の有無などを評価した。J-ZBIの点数から介護者を4群に分類し、それぞれの項目を比較検討した。統計処理はクラスカル・ウォリス検定を用い、有意水準は5%未満とした。
    【結果】J-ZBIの総得点は31.7±17.8点、平均介護期間は5.0±5.4年であった。総得点、介護期間とも先行研究と近似した値であった。4群間の比較においていずれの項目も有意差は認められなかった。しかし、主観的健康感、介護時間、問題行動の有無は介護負担と関連する傾向を示した。
    【考察】今回の調査対象における介護負担は、先行研究同様介護者の主観的健康感、介護時間、利用者の問題行動と関連する可能性が示された。当院の訪問リハ利用者においてもJ-ZBIは介護負担を評価するバッテリーとして有用であることが示唆された。利用者だけでなく、介護者の健康状態の評価もなされるべきである。また介護時間、問題行動においては介護保険サービスの導入、福祉・住環境面からのアプローチが有効であろう。介護負担の増加からくる在宅介護の破綻を防ぐためにも介護者と患者を多面的に捉えたアプローチの検討が必要である。
骨・関節
  • ―手すりの種類による違い―
    藤田 康孝, 勝平 純司, 橋本 美芽, 藤沢 しげ子
    セッションID: 9
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    高齢者において変形性膝関節症(以下膝OA)は罹患率が高く,痛みを伴う例は非常に多い.また,膝痛と腰痛とは合併することがあり,膝OAと退行性腰椎疾患の合併例に対するX線学的調査では両者の進行に関連性があるとして,これを”Knee-Spine Syndrome”と呼んでいる.立ち上がりは腰部負担の増大が懸念される動作であり,これを軽減する方法として手すりの使用が推奨されているが,腰部負担に与える影響は不明である.そこで本研究は,立ち上がり時の手すり使用の有無・種類の違いが腰部負担に与える影響について,膝痛の有無も含めて検討することを目的とした.
      【方法】
    対象は,膝痛を有する女性膝OA患者10名(以下疼痛有群.年齢70±2.4歳,身長150.7±6.7cm,体重54.6±7.0kg)と健常女性8名(以下疼痛無群.年齢70.4±2.9歳,身長148.0±5.0cm,体重47.8±7.2kg)とした.測定には三次元動作解析装置と床反力計を使用した.測定条件は「手すりなし」「両肘掛」「疼痛側(右)縦手すり」「疼痛側(右)横手すり」「非疼痛側(左)縦手すり」「非疼痛側(左)横手すり」の6条件とし,いずれも座面高は標準的な便器の高さである410mm とした.殿部離床時の腰部モーメントを計測し,条件間の比較には二元配置分散分析を行い,その後多重比較検定(Tukey-Kramer法)を行い危険率5%未満を有意とした.
    【結果】
    疼痛有群は,どの手すりを使用した場合でも有意に腰部モーメントの減少が認められた.特に,両肘掛を使用した場合はその他の手すりの条件と比較して有意に減少が認められた.疼痛無群では両肘掛のみ有意に減少が認められた.
    【考察とまとめ】
    疼痛有群では,疼痛を回避するために手すりに頼る割合が大きくなり体幹前傾角度に減少が認められた.これにより腰部モーメントの回転中心から上半身の重心位置が近くなり,腰部モーメントのレバーアームが短くなる.このことが,腰部モーメントの減少に影響したと考えられる.また,両肘掛は両側かつ体側に近いところに位置しているため,下方に押すことで肘掛から鉛直方向への反力が生じる.その反力が重心の鉛直方向への移動を補助し,床反力鉛直成分が減少したと考えられ,腰部モーメントが大きく減少したと考えられる.今後は上肢機能や下肢関節への負担も含め検討していく必要がある.
    【謝辞】
    本研究は,平成17・18年度文部科学省研究費補助金(研究代表者 橋本美芽)及び,首都大学東京とTOTO株式会社による共同研究の一部である.
  • ―予後不良症例や予後予測困難症例を多く持つ施設での検討―
    大久保 裕史, 高橋 久美子, 玉田 良樹, 寄本 恵輔, 鈴木 南, 中村 靖子, 佐々木 裕, 高橋 憲正, 新井 元, 豊口 透, 後 ...
    セッションID: 10
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     機能的予後不良因子である高齢者や認知症,また重篤な既往症を有している場合や精神疾患や神経疾患を既往に持つ症例は大腿骨頸部骨折という単一疾患では捉えられず,より高いバリアンスとなる.重篤な既往症を有している症例や精神疾患・神経疾患の症例が多い特徴を持つ当院において,大腿骨頸部骨折における病態や治療がどのように実施されてきたかを検証し,機能予後因子を検討した.
    【対象】
     大腿骨頸部骨折症例383例及び無作為抽出した61例とした.
    【方法】
     当院での治療実態を把握するため,年度別,年代別,既往症罹患率について比較し,理学療法実施期間,理学療法終了時の歩行能力及び転機についても検討した.次いで受傷前と理学療法終了時のADLを比較,また機能的予後因子についても検討を加えた.
    【結果】
     当院では,大腿骨頸部骨折症例は近年増加傾向を示し,高齢者が多く受傷する一方で精神疾患や神経疾患を既往症に持つ症例は比較的に若年で受傷していること,また従来述べられている予後不良因子の既往症を持つ症例が多く認められた.また理学療法終了時の歩行能力は加齢に伴い低下し,転機は既往に精神疾患に持つ症例では自宅退院率が低く,理学療法終了時のADLレベルは受傷前と比較すると有意に低下した.機能的予後に関しては,受傷前ADL,歩行訓練開始日,受傷原因,観血的治療の選択,認知症や呼吸器疾患の既往の有無,術後の栄養状態や炎症症状の程度が因子となることが示唆された.
    【考察】
     当院における大腿骨頸部骨折の理学療法は,術前より開始,また術後より早期離床,早期歩行訓練を実施している.それは,従来述べられている予後不良因子を持つ症例や予後予測不能な症例の場合においても同様である.その背景には,整形外科医やコメディカルスタッフとの連携をとっていること,既往症に対しても各専門医との連携もあり,既往症が管理されている中で理学療法を実施していること,また,予後予測不良因子を持つ症例や予後予測困難な症例であっても,機能的予後を把握することは可能となり,積極的な理学療法の介入が機能的予後に寄与すると考えられたからである.さらに,我々は予後不良因子を持つ症例や予後予測不能な症例であるからこそ,積極的な理学療法の介入が必要不可欠であり,予後不良症例や予後予測困難症例であってもクリニカルパス導入が可能であることが示唆された.
  • 廣瀬 幸子, 加藤 佐季子, 千葉 哲也, 松原 正明, 石井 研史, 萩尾 慎二
    セッションID: 11
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 当院では両側同時人工股関節全置換術に対して2003年より小侵襲人工股関節全置換術(以下MINI-THA)を、2005年からは筋非切離前外側進入法(以下MIS-AL)を導入してきた。臨床においてはMIS-AL法の方がADL動作獲得や退院可能時期が早まっている印象を受ける。そこで前方進入法におけるMINI-THAとMIS-AL法の術後リハ経過を比較検討した。
    【対象と方法】 2005年4月~2006年7月までにMINI-THA(以下M群)を施行した22例、2006年9月~2007年12月までにMIS-AL(以下AL群)を施行した25例を対象とした。なお、いずれも初回両側同時THAであり術後荷重制限を設けた例は除外した。検討項目は、術前・術直後・術後1・2・3週における股関節可動域及び荷重能力、等尺性外転筋力(HOGGAN社製HEALTHINDUSTORISEINC)を測定し術後改善率(%)として検討した。ADL評価として杖開始日、両杖歩行、階段昇降、靴下、床上・正座動作の自立日及び退院可能日(両杖歩行400m、ADL項目全てが自立した日)とした。統計学的解析はMann-WhitneyのU検定を用い有意水準を5%未満とした。
    【結果】 術後股関節外転筋力、外転筋力改善率ともに術後1・2・3週でAL群において有意な改善を認めた。両杖歩行自立日はM群20日AL群14日、階段昇降自立日はそれぞれ20日、14日、床上動作自立日はそれぞれ21日、12日、正座動作自立日はそれぞれ20日、10日、靴下自立日はそれぞれ20日、7日であり、AL群で有意に短かった。また退院可能日はM群で27日、AL群で18日とやはりAL群において有意に短かった。
    【考察】 我々は片側THAおいてAL群はADL動作獲得日、退院可能日が有意に短かったと報告してきた。今回、両側同時THAにおいても各ADL動作獲得日はAL群が有意に短く、退院可能日ではM群と比べ9日と大幅に短縮していた。ADL獲得日では両杖歩行自立日が最も遅くAL群で14日であった。また術後1・2週の外転筋力改善率に有意差が認められた。M群では術中に一度中殿筋1/3を大転子より剥離し骨へ再縫着している。AL群では筋侵襲は少なく筋腱再接着を行わないのでM群に比し術後の外転筋力の改善が得られたと考えられた。また臨床場面ではAL群の方が術後の股関節周囲筋群の疼痛が減少している印象を受ける。筋腱付着部には伸張受容体が多く、M群は筋腱再接着を行うことにより大転子周囲筋群の筋張力バランスが不均衡になるが、AL群は筋張力が保たれるため疼痛も減少したのではないかと推測された。外転筋力の回復よりも疼痛の減少が影響し、AL群は両杖歩行自立日よりも早期に靴下、床上、正座動作を獲得でき、結果として退院日数の短縮に繋がったものと考えられた。
    【まとめ】 両側同時THAにおいて、AL群ではADL動作、両杖歩行の早期自立と筋力の改善が認められた。退院可能日数の短縮にはADL動作、両杖歩行が早期に自立することが重要であり、術式の違いによる筋力の改善と疼痛の影響が因子として考えられた。
  • 山田 容子, 中込 亮, 有賀 美穂, 山口 富美子, 伊東 純子, 相原 知英
    セッションID: 12
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/08/01
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    【目的】大腿骨頚部骨折患者の中で受傷前独歩であっても、退院時に独歩に至らない症例もみうけられる。先行研究において、大腿骨頚部骨折患者の歩行獲得には、認知症、年齢、受傷前歩行能力が影響すると報告されている。そこで今回、受傷前独歩であった患者の歩行獲得に影響する因子について調査し、若干の知見を得たので報告する。
    【対象】平成17年4月~平成19年9月までに当院回復期病棟を入退院した大腿骨頸部骨折患者のうち、受傷前独歩で入院時評価が可能であった患者50名とした。内訳は男性21名、女性29名、平均年齢78.9±10.5歳であった。
    【方法】入院時に定例的に行った評価をもとにデータ収集を行った。項目は、性別、年齢、骨折型、認知症の有無、疼痛の有無、合併症の有無、FIM、健側・患側下肢筋力(大腿四頭筋)、Berg Balance Scale(以下BBS)、立位保持、立ち上がり、歩行能力、受傷から当院入院までの期間の14項目とした。退院時歩行能力を独歩(以下独歩群)、補助具使用にて歩行自立(以下補助具群)、歩行困難(以下困難群)の3群に分け、各項目との相関についてSpearmanの順位相関係数の検定を行った。また、強い相関を認めた項目において、独歩群、補助具群、困難群の各群間についてMann-Whitney検定を行った。
    【結果】退院時歩行能力とBBS・FIM・健側下肢筋力については、強い相関を認めた(P<0.01)。年齢・認知症・立位保持・立ち上がりにおいては弱い相関を認めた(P<0.05)。3群間の比較において、独歩群と困難群の間には、BBS、FIM、健側下肢筋力に有意差を認めた(P<0.05)。独歩群と補助具群の間において、BBSに有意差を認めた(P<0.05)。
    【考察】今回の結果から、年齢、認知症より、入院時におけるADLの自立度、健側下肢筋力、バランスがより歩行獲得に影響している事が示唆された。
    健側下肢筋力は、体重の支持、重心移動など基本的身体活動に重要な役割を果たすと考えられる。そのため、筋力が保たれていると移乗やトイレ動作の自立度も高く、活動性が保たれることが予測され、廃用的な機能低下を抑えられると考えられる。また、BBSは、歩行が獲得されても、補助具が必要となるか否かの予測に有用であると考えられる。歩行は、連続した重心移動を必要とするため、姿勢コントロールなど、バランスを保つための動的バランス能力を含めた総合的な動作能力が求められることが影響していると考えられる。
    歩行の獲得には、総合的な身体機能の評価と活動性の維持、向上が重要であると考えられる。
  • ―後十字靭帯温存型・切離型による比較検討―
    坂下 大, 高橋 賢, 木賀 洋, 石井 義則, 野口 英雄, 武田 光宏
    セッションID: 13
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】当院では人工膝関節全置換術(TKA)後の矢状面のLaxityについて,屈曲可動域(2003日本理学療法学術大会),後十字靭帯(PCL)温存型・切離型(2005),麻酔下・覚醒時(2006)と比較し報告した.今回,矢状面のLaxityと獲得可動域の関係に着目し,PCL温存群と切離群で比較検討を行い,TKAの後療法について考察した.
    【対象】平成14年6月から平成19年1月までに,外傷歴のない変形性膝関節症により,当院にてTKAを施行した症例88例100関節(男性11関節,女性89関節,平均年齢71歳)を対象とした.PCL温存,切離は無作為に選択し,温存群(53関節,術前平均可動域:117.1°),切離群(47関節,113.0°)であった.手術は同一術者により施行され,機種はLCS Total Knee System(Depuy)を使用した.後療法は術後翌日より全荷重を許可し,可動域に対して抜糸まで自動関節運動,抜糸以降は他動関節運動も実施した.
    【方法】本研究の同意を得た後,術後(6ヶ月,12ヶ月)に,膝関節可動域測定およびKT-2000 Knee Arthrometer(MEDmetric)を用いて膝関節屈曲位(30°,75°)で,113Nの前方引き出し力および89Nの後方引き出し力を加え,膝前後方向総変移量(Total A-P displacement:TD)を3回計測後,平均値を算出し,温存群・切離群で比較検討した.(測定誤差:0.5mm以内).統計処理はウェルチのt検定,スピアマン順位相関係数検定を用いた.(有意水準5%).
    【結果】各時点の平均可動域は,術後6ヶ月(温存群:110.0°/切離群:105.9°),12ヶ月(113.3°/112.9°)と有意差を認めなかった.平均TDは,6ヶ月(30°:7.5/5.3,75°:8.2/6.7),12ヶ月(8.3/5.5,8.7/7.3)と,ともに有意差を認めた.獲得可動域とTDとの相関は,30°TDは両群とも有意な相関を認めなかったが,75°TDでは6ヶ月(r=0.41,p=0.003/ r=0.09,p=0.55),12ヶ月(r=0.49,p=0.0004/ r=0.18,p=0.22)と,温存群のみ有意な正の相関を認めた.
    【考察】両群とも術中操作にて至適バランスは得られているが,温存型・切離型コンポーネントの形状の差が本結果に反映したと推測される.切離型は回旋のみに拘束性がない形状のため,30°,75°でも形状の特性として前後方向の高拘束性を受けるが,温存型では前後方向にも拘束性がないことに,膝関節屈曲に伴いコンポーネント間の拘束性が低くなることが加わることにより,前後のLaxityの大きい方がroll backを誘導し易くなり,各コンポーネントの早期のimpingementが起こらず,大きな可動域を獲得した可能性が示唆された.温存型の後療法は,膝関節の過度のLaxityに留意は必要だが,最良の膝関節可動域を得るためは,術後早期より前後方向の適度なLaxityを獲得することが重要である.
  • 吉田 留実子, 田中 彩乃, 石阪 姿子, 山川 梨絵, 八木 麻衣子, 西山 昌秀, 立石 圭祐, 杉原 俊弘, 別府 諸兄
    セッションID: 14
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/08/01
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    【目的】人工膝関節全置換術(以下TKA)を施行された患者は、ほぼ全例が術後2~4週において膝伸展筋力の回復が不十分にも関わらず、退院可能な歩行能力を獲得している。多くの理学療法士は経験的に、膝伸展筋力以外にも歩行に関与する筋として股関節や足関節の筋力を重視し、これらの筋力強化を実施している。しかし、TKA後の股関節周囲筋筋力が歩行能力にどのように影響しているのかという報告は少ない。そこで、本研究は股関節周囲筋に着目し、TKA前と退院時での筋力の変化と、筋力とパフォーマンスとの関連を明らかにすることを目的とした。
    【方法】対象は、2006年8月から2007年8月までに当院でTKAを施行した変形性膝関節症患者18名(女性18名、平均年齢73.8±5.7歳)である。測定時期は、術前と退院時(術後平均32.7±5.5日)とした。筋力の測定にはアニマ社製等尺性筋力測定装置μTas MF-01を用い、股関節外転および伸展筋力、膝関節伸展筋力を測定した。パフォーマンス評価には10m歩行速度、Timed Up & Go Test(以下TUG)を採用した。術前から退院時まで、全例において股関節伸展および外転筋力、膝関節伸展筋力のトレーニングを継続した。荷重開始時期は術後平均14.2±4.3日であった。統計処理にはWilcoxonの符号付き順位検定とSpearmanの順位相関係数を用いた。なお、統計学的有意水準はp<0.05とした。
    【結果】術前から退院時での変化は、非術側股関節伸展筋力で有意に改善し(0.19±0.06kg/kg v.s. 0.23±0.07kg/kg ;p<0.05)、術側膝関節伸展筋力では有意に低下していた(0.25±0.75kg/kg v.s. 0.22±0.05kg/kg ;p<0.05)。また、術前から退院時でのパフォーマンスの結果に有意差は認められなかった。
    術前においては、股関節周囲筋力とパフォーマンスとの間に有意な相関は認められなかった。退院時では非術側股関節伸展筋力と10m快適歩行速度(r=0.50, p<0.05)、TUG(r=-0.47, p<0.05)との間で優位な相関が認められた。
    【考察】TKA後患者において、股関節伸展筋力は非術側で退院時に有意に改善し、また、退院時の股関節伸展筋力とパフォーマンスとの有意な相関が認められた。このことから、退院時に膝伸展筋力の回復が不十分な状況下においても、術前と同等のパフォーマンスを得られている要因として股関節周囲筋筋力の関連が示唆された。股関節周囲筋筋力やパフォーマンスの長期的な経過報告はなく、これらの長期的な経過および相互の関連についても追跡調査していくことが今後の課題である。
  • 伊藤 昭, 上井 雅史, 田中 隆晴, 平野 弘之
    セッションID: 15
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】肩関節周囲炎の治療期間に関する先行研究及び報告は多い。治療期間と運動療法の頻度及び注射療法の頻度に関する統一見解がない。今回、我々は肩関節周囲炎の治療期間と運動療法の頻度及び注射療法の関係について検討したので報告する。
    【対象】平成18年6月から平成20年1月の間に当院を受診した肩関節周囲炎患者28例34肩(右肩19肩、左肩15肩)であった。男性4例、女性24例、平均年齢64.7±9.6歳であった。リタイヤ患者及び変形性肩関節症など病変部位が明らかな患者は除外した。
    【方法】治療期間を、短期間群(1~4ヶ月間通院、n=17)及び長期間群(5ヶ月間以上通院、n=17)の2群に分けた。運動療法を週2回未満施行群(n=21)と週2回以上施行群(n=13)に分けた。注射療法をヒアルロン酸ナトリウム(以下、ヒアルロン注)の注射頻度及びステロイドの注射回数に分けた。ヒアルロン注の頻度がそれぞれ月1回(n=10),2週間に1回(n=13)及び2週間に1回以上(n=11)に分けて検討した。治療開始時と最終時の肩関節屈曲及び外転角度で治療成績を評価した。統計処理にStatcel2を用いた。各群間の比較に対応のあるt検定を用いた。治療期間と運動療法の頻度及びヒアルロン注頻度の相関関係をPearson’sの相関係数検定を用いた。有意水準を1%未満とした。
    【結果】長期間群の治療開始時と最終時の屈曲及び外転角度の間に有意差を認めた(p<0.01)。運動療法の週2回未満群と週2回以上群の治療開始時と最終時の屈曲及び外転角度の間に有意差を認めた(p<0.01)。ヒアルロン注の2週間に1度群の治療開始時と最終時の屈曲及び外転角度の間に有意差を認めた(p<0.01)。ステロイド注射回数の1回(n=12)と3回以上(n=6)の治療開始時と最終時の外転可動域の間に有意差を認めた(p<0.01)。治療期間と運動療法及びヒアルロン注との間には相関関係が認められなかった。治療期間とステロイド注射回数との間に正の相関関係が認められた(r=0.58)。
    【考察】先行研究で運動療法とヒアルロン注を併用することで関節可動域の改善と自覚・他覚所見(自発痛、夜間痛、運動時痛及び圧痛)の改善が得られるといわれている。今回の検討では、運動療法が週2回以上おこなっている症例でヒアルロン注を2週間に1度実施し、かつ通院期間中1回のステロイド注射をうけていた症例は有意に関節可動域の治療成績がよかった。治療期間が5ヶ月以上必要でだった。それぞれ治療期間、運動療法の頻度及びヒアルロン注頻度の間に相関関係が認められなかった。この理由として、肩関節の運動痛の強さがあげられる。
  • ―術後感染治療のため人工膝関節抜去した症例に対するリハビリテーションの経験―
    小平 怜, 高橋 賢, 木賀 洋, 石井 義則, 野口 英雄, 武田 光宏
    セッションID: 16
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】人工膝関節全置換術(以下TKA)術後,今回右膝化膿性関節炎を生じたため,抗生剤含有セメントスペーサー挿入術を施行し,発症前の移動やADL動作を再獲得した症例を経験した.その理学療法の経過と移動能力の改善の要因について考察したので報告する.
    【症例紹介】73歳・女性
    【経過】平成4年他院にて両側TKA,平成15年に再置換術施行.平成17年4月頃から右膝関節に炎症症状を呈し,平成19年6月に当院にて右膝化膿性関節炎と診断された(CRP値2.79mg/dl).以後毎日,関節内洗浄を実施するが消退せず7月に当院入院.右人工膝関節抜去術,抗生剤含有セメントスペーサー留置術を施行し,感染消退後に再置換術を予定していた.術前右膝関節可動域は屈曲100°伸展0°,移動は独歩で行い,電動三輪車も使用していた.医師より右外側側副靭帯軽度残存,右内側側副靭帯消失,右膝関節可動域は予後不良であることを示唆され,術後2週間まで抗生剤点滴投与(1日2回)と,理学療法は2週間シーネ固定下でtoe-touch荷重から開始となった.術後翌日より右膝関節可動域への介入はせず,腫脹軽減,残存機能維持を目的にアプローチした.固定終了後,本症例が再置換術を希望しなかったため,セメントスペーサーを留置した状態で可及的に荷重歩行を許可された.理学療法ではADL自立を目的に行い,歩行練習,可動域練習も適宜開始した.荷重の際,右膝関節の疼痛,外側thrustがみられたが,両側金属支柱付き膝装具を装着することで症状が軽減し,同時に歩行器で病棟内生活が自立した.3週目の右膝関節可動域は屈曲85°伸展-5°,MMTは股関節周囲筋4,膝関節伸展筋3となり,レントゲン上でのアライメント異常はみられなかった.CRP値も改善し(0.19 mg/dl),抗生剤経口投与となった.4週目に両松葉杖,5週目にT杖歩行となり,膝関節伸展筋4に改善した.ADL動作も円滑になり,6週目に退院となった.退院後の右膝関節可動域は屈曲105°伸展0°であり,電動三輪車での外出も可能となった.
    【考察】セメントスペーサーでは支持性や可動域において問題が残存すると考えられていたが,装具での補強,筋機能改善,早期から荷重練習が許可されたことにより,歩行練習を行うことが可能となった.この結果,関節炎発症前の活動レベルまで達することができ,本症例の満足度は高い.しかしセメントスペーサーは本来歩行に耐えうる構造ではないため,長期的に再置換術を見据え,経過を観察し理学療法を行っていくことが重要と考える.
  • 関谷 進, 高橋 賢, 木賀 洋, 石井 義則, 野口 英雄, 武田 光宏
    セッションID: 17
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】人工膝関節全置換術(以下TKA)後の大腿骨遠位端骨折を発症し,観血的整復固定術を施行した症例において,受傷機序として考えた膝関節不安定性に着目した理学療法を行い,良好な結果を得たので報告する.
    【症例紹介】82歳女性.平成9年に右TKA,11年に左TKAを施行し,術後は屋内を独歩,屋外をシルバーカー又は電動三輪車の活動レベルまで獲得されていた.平成19年6月に屋内で50cmの段を昇ろうと右足を踏み込んだ際,転倒せずに右大腿骨遠位端骨折(AO分類33-A)し,受傷後8日で人工膝インプラントを温存し,プレート固定を施行した.理学所見として右膝関節麻酔下manual maxが外反2°,内反8°と外側へ動揺性を認めた.また対側下肢の膝関節可動域110°/0°(屈曲/伸展),股関節周囲筋力MMT4,膝関節伸展筋力5,姿勢の特徴として円背を認めた.術後は3週間ギプス固定,6週でニーブレースを装着下で部分荷重を開始した.
    【経過】術後4週の時点で,内側広筋弱化,膝蓋骨可動性低下が確認され,膝関節可動域40°/-5°,股関節周囲筋力MMT2,膝関節伸展筋力2であった為,関節可動域,膝関節周囲筋力の改善に対し理学療法を実施した.まもなく,膝関節可動域65°/0°,9週で支柱付き膝装具を使用し,膝関節伸展筋力MMT3となった.この時,右立脚中期に外側thrustと右膝関節外側に疼痛が新たに出現した為,運動連鎖を考慮し股関節内旋・外転筋筋力増強を追加した.10週より全荷重を指示され,11週より歩行器歩行練習を開始した.17週で股関節周囲筋力MMT4となり,外側thrust,歩行時の荷重時痛も軽減し,歩行器歩行自立となった.21週より四点杖歩行練習を開始し,40kgまで荷重可能となるが,不安定性と荷重時痛は残存していた.荷重練習を継続し,25週で四点杖歩行自立となった.膝関節可動域は65°/0°であった.
    【考察】本症例の受傷機序について,術後10年経過し骨粗鬆症による脆弱性を生じていた事に加え,右膝関節不安定性によるコンポーネント上部での負荷を加え続けた事により疲労骨折が引き起こされたものと考える.術後経過が四点杖歩行自立となった要因は,対側下肢の残存機能が高かった事や骨癒合が良好に進む中で,右膝・股関節周囲筋力が改善された事,支柱付き膝装具で補強した事から,自立に至ったと考えた.今回の様に,骨の脆弱性に加え,TKA後に関節不安定性がある症例に対し,早期から膝・股関節周囲筋力増強,支柱付き膝装具により関節安定性の補助を行い,関節周囲の負荷を軽減する事が骨折予防になると考える.また今後,動揺性を伴うTKA後のリハビリフォローアップとしてブレース装着など骨折予防を考慮した指導の重要性が示唆された.
神経系/骨・関節
  • ―歩行能力と装具機能との関係性から―
    坂本 宗樹, 結城 俊也
    セッションID: 18
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】片麻痺患者の歩行練習において、下肢関節の支持機能(身体位置の感覚や筋張力発現)低下の程度に個人差がある事から、一様に短下肢装具対応では機能的な歩行に繋がり難い患者もいると考えていた中、重度の左片麻痺患者に対し長下肢装具使用下での立位・歩行練習の機会を得た。当症例を通して装具非使用・短下肢装具使用下では獲得する事が困難と思われる効果が見られたので以下に報告する。
    【症例紹介】79歳男性、診断名:右脳内出血(前頭葉・頭頂葉皮質下)、経過:平成17年6月18日に発症し、Z大学病院に入院。リハビリテーション(以下、リハビリ)目的にて7月20日当院回復期リハビリ病棟へ転院となる。初期評価(7月21日):覚醒良好、Br.stage上下肢・手指共にI、起居動作中等度~全介助、端座位保持困難、所謂プッシャー症候群顕在。退院日:11月29日
    【方法】11の運動課題を、森中らが推奨するCCAD joint付きプラスチック長下肢装具(以下、当該装具)を使用して9月22日より2ヶ月間実施。膝・足継ぎ手の設定は上記運動課題の遂行状況を確認し、膝伸展0°・足底屈5°とした。
    【結果】当該装具使用開始から2ヶ月間でT字杖軽~中等度介助歩行(10m歩行:113秒)からT字杖監視歩行(10m歩行:73秒)に至った。
    【考察】歩行における長下肢装具の適合性として、直接衝撃を受ける足底と床反力との関係においては、当症例の初期接地が全面同時接地であった事から足底部分の形状が足底全面を覆わずに前足部~中足部までを覆う形状とする事で相対的に少ない床反力に留まり、かつ当該装具特有のフレキシブル機能発揮下での足継手底屈5°固定による前方制限によって床面と下腿長軸の関係が垂直までの位置関係に留まった事で床反力作用点が足・膝関節共に関節付近を通り、膝関節伸展の筋張力が作用し易かった。また反張膝にならないよう足継手固定、膝伸展0°設定とした事で、より下肢伸展筋張力が発揮され易く、立脚期が安定し易くなった。そしてツイスター使用により股関節外旋を抑制する事で、過剰な関節運動の自由度を抑制し、より推進力を発揮・遊脚期での下肢軌道が安定し易かった。これに歩行周期の骨格筋作用を理解した理学療法士の介助も付加する事でより再現性の高い練習が行えたと考える。
    【まとめ】下肢装具を用いた歩行分析を通して、(1)身体機能(歩行能力)と装具機能(剛性)の関係性(適合性)は適正か、(2)床反力作用線は下肢の各関節付近を通っているか、を整理し、上記2つを解決する作業に臨む事で装具療法を洗練化し、機能的な歩行を導く事に寄与すると考える。
  • 渡邊 宏樹, 水澤 真紀, 清水 悦子, 竹内 寿治, 大江 元樹
    セッションID: 19
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     筋萎縮性側策硬化症(以下、ALS)は、全身性に筋萎縮が進行し、最終的には呼吸筋麻痺を呈して、人工呼吸管理をしなければ約3年で死に至るとされる原因不明の進行性の難病である。中でも、人工呼吸管理を希望しない、いわゆる終末期にあるALS患者にとって、安楽に着目した呼吸ケアは重要な役割を果たす。これまでの呼吸ケアの主流であった呼吸理学療法を併用した吸引カテーテルによる気管内吸引は、その侵襲的な要素が患者に苦痛を与え、十分な満足感を得られないことも少なくなかった。機械的に擬似咳嗽を作り出す排痰補助機器であるMechanical in-exsufflation(以下、MI-E)は非侵襲下でも使用でき、これまでの呼吸ケアに付加する形で用いることで、より有効で安楽な排痰が行えるとされる。我々は、一切の人工呼吸管理を希望しないALS患者の終末期呼吸ケアの一部としてMI-Eを導入することで、特に排痰に伴う苦痛が著しく減少し、在宅療養を継続できた症例を経験したので、患者本人、家族の了承の上、ここに報告する。
    【症例紹介】
     71歳、男性。2004年10月頃より起立・歩行困難を自覚。2005年8月、歩行困難の悪化、左上下肢の筋萎縮が進み、運動ニューロン病疑いにて当院神経内科紹介され、 同月ALSの診断を受け告知される。可及的身体機能維持目的で2006年10月より当院訪問リハビリ介入開始。嚥下機能の悪化に伴い2006年12月胃瘻造設。通院困難となり2007年5月より往診開始となる。
    【経過】
     2007年6月、誤嚥性肺炎で入院となる。この時点でVC1200mL、PCF60L/minであり、自己喀痰は限界と判断し、MI-Eの導入を開始した。初期から比較的良好な排痰が得られ、2週間後退院し、再度訪問リハビリに移行した。この時点ではVC600mL、PCF60L/minと著しい低換気、低咳嗽力状態にあり、その後、幾度かの喀痰困難を経験したが、患者自身の希望でMI-Eを中心とした呼吸ケアを行い事なきを得た。MI-Eを中心とした包括的な呼吸ケアは、他職種と連携して出来る限り絶え間なく提供できるよう調整した。MI-Eは気管内吸引に比べ明らかに苦痛が少なく、喀痰効果も比較的安定していた。呼吸機能の最終測定値はVC450mL、PCF60L/minであった。2007年12月、他院入院後約1ヵ月で死亡した。
    【結語】
     侵襲的な処置を拒否する終末期ALS患者の呼吸、とりわけ排痰に関連する苦痛の緩和を考える上で、これまでの呼吸ケアに付加する形でMI-Eを用いることは、患者の尊厳を尊重した中で、より有効な呼吸ケアと成り得る。また、患者、家族の終末期のQOLを向上させ、呼吸に関する不安を著しく軽減させる可能性がある。終末期ALS患者の呼吸ケアの一選択肢としてMI-Eの使用が確立される事が望まれる。
  • ―High-Frequency Chest Wall Oscillation(HFCWO)-The Vest(R)-の有効性について―
    玉田 良樹, 寄本 恵輔, 大久保 裕史, 香川 賢司, 岡田 仁, 源 真希, 西宮 仁
    セッションID: 20
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 High-Frequency Chest Wall Oscillationの機能を有するThe Vest(R)において換気量の変化を調査し,また重症肺炎改善に寄与するかを検討することにある.
    【対象】 The Vest(R)を連続使用した12例とした.全ての対象者には,研究の主旨を説明し同意を得た.
    【方法】 対象はThe Vest(R)を連続使用した12例とした.全ての対象者には,研究の主旨を説明し同意を得た.全対象に対し,The Vest(R)の非実施時と実施時の一回換気量,分時換気量,呼吸数,SPO2を測定.また安全性を検証する目的でバイタルや気道内圧についても調査し,統計学的に有意差の有無を検討した.さらに重症肺炎を呈した3症例については実施前後において血液検査及び画像にて比較した.
    【結果】 The Vest(R)を実施することにより一回換気量,分時換気量,呼吸数,SPO2は有意に増加することが示され,バイタルや気道内圧は異常値を示すことはなかった.また,重症肺炎を呈した3症例においてはThe Vest(R)を短期間連続使用することにより炎症症状は改善し,胸部CT・胸部Xpにおいても改善が認められた.
    【考察】 The Vest(R)の使用は喀痰の促通のみならず,換気量が増加し,重症肺炎の改善においては極めて有効な手段であることが示された.The Vest(R)は装着が容易であること,また安全性は高いこと,さらに呼吸理学療法機器としての利用が想定された.したがって,今後,臨床でThe Vest(R)が頻用されることにより,その有効性を確立していけるものであると考えられた.
  • 櫻井 美穂, 鎌倉 みず穂, 荒井 淳子, 黒澤 保壽
    セッションID: 21
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】Pusher現象は坐位バランス,車椅子への移乗などの基本的日常生活動作に多大な影響を及ぼす点で臨床的に有効なアプローチの検討が必要である.当施設では,Pusher現象に対し,簡易で単純な練習課題を選択し,坐位で随意的に重心を移動する練習(随意的重心移動課題),坐位で非麻痺側に置いた台に寄りかかり坐位保持をする練習,縦手すりを使用しての立ち上がり・移乗練習等,時期や重症度に合わせてアプローチを行っている.
     今回は重度のPusher現象を呈する症例に対して行っているアプローチのうち,坐位での随意的重心移動課題の有用性について報告する.
    【対象】当施設に入所し理学療法を施行したPusher現象を呈する脳血管障害患者6例(男性4例女性2例,平均年齢74.3歳)を対象とした.内訳は脳梗塞2例,脳出血4名であった.
    【方法】介入方法:プラットホームマット端坐位で行った.非麻痺側on elbowの姿勢をとり,on handとon elbowの10回反復を1セットとした反復練習を行った.
     即時効果の判定は介入前後で端坐位保持が可能かどうかを比較した.
    【結果】介入直後,静的に数十秒~数分の端座位保持が可能になった.また,本人が自覚する垂直軸について確認できる症例において,「まっすぐに感じるところはどのあたりですか,体をまっすぐに合わせてください」と確認を行い,介入前は垂直軸が正中から麻痺側へ25°傾いていたものが,介入後にはほぼ正中位になった症例がみられた.
     端座位が可能となった時期は発症から16~85病日(平均51.3病日)であった.
    【考察】Pusher現象がある症例では,非麻痺側に重心を移動できないことがバランス不良の一因とされている.随意的重心移動課題では,随意的に体重を移動することで麻痺側に傾いた姿勢を他動的に正中位に矯正したときの非麻痺側上肢の過剰な緊張を抑制でき,また,物理的に安定した姿勢をとることで,坐位保持ができると本人が確認し倒れてしまうのではないかという恐怖心を緩和でき,坐位の安定性が得られると考える.
     今回,急性期の症状が重度であっても,早期にPusher現象が軽減する例と軽減するまでに時間がかかる例がいることが確認できた.しかし即時効果は確認できたが効果の持続は見られず,長期効果については不明である.
     随意的重心移動課題は、重度のPusher現象により,坐位保持獲得が困難な症例においても,当施設のPusher現象の対策としての効果を示しADL場面での介助量軽減にも役に立っている.
  • ―歩行距離拡大の一指標となりうるか―
    大滝 雄介, 滝沢 真実, 熊谷 ゆう
    セッションID: 22
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】脳卒中片麻痺者の歩行能力に影響を及ぼす要因についての報告は多いが、歩行距離との関連性に関する研究は少ない状況である。また各要因の寄与の度合いについては明らかになっていない。そこで今回の研究は、歩行距離に寄与する要因を分析し、当院における脳卒中片麻痺者の歩行距離の拡大を図る一指標を得ることを目的とする。
    【対象】対象は、平成19年12月~平成20年1月までに当院に入院し、理学療法を施行した脳卒中片麻痺者24名で、条件は(1)初回の脳血管障害(2)装具や補助具使用の有無は規定せず自力(Functional Independence Measureにて5点以上)で歩行が可能(3)重症な合併症を有しない(4)個人情報保護と研究の目的を説明し、同意が得られた症例とした。性別は男性14名、女性10名、平均年齢67.5±12.3歳であった。歩行形態は前型19名、揃え型5名であった。下肢Brunnstrom Recovery Stage(以下BRS)は、3:2名、4:4名、5:8名、6:10名であった。
    【方法】調査項目は、6分間歩行試験(6-Minute Walking Distance、以下6MD)、性別、年齢、発症からの期間、BRS、歩行形態、非麻痺側膝伸展筋力(以下筋力)、Functional Reach(以下FR)、肺機能検査、ダブルプロダクト値、Borgスケールとした。筋力はアニマ社製マイクロFETを使用した。スパイロメトリーはミナト医科学社製オートスパイロAS-300を使用した。6MDはSolwayらにより提唱されている方法に準じて行った。ダブルプロダクト値、Borgスケールは6MD施行前後に測定した。統計処理は、6MDに対する各調査項目の相関係数(Pearson)を検定し、有意な相関を示したものを独立変数、6MDを従属変数とし、重回帰分析にて検定した。有意水準はいずれも5%未満とした。
    【結果】発症からの期間(r=0.55,p<0.05)、BRS(r=0.64,P<0.05)、FR(r=0.54,p<0.05)、歩行形態(r=0.70,p<0.05)、Inspiratory Reserve Volume(以下IRV)(r=0.58,p<0.05)、Acceleration Time Index(r=-0.45,p<0.05)にて有意な相関を認めた。重回帰分析ではBRS、歩行形態、IRVが最終的に選択された。
    【考察】本研究により、脳卒中片麻痺者における歩行距離に影響を及ぼす要因において、脳血管障害、動的バランス能力、呼吸機能の要因が高いことが示唆された。このことから、治療場面において歩行距離の拡大を図るには、運動麻痺の改善と並行して、立位バランスの改善を継続的に図り、歩行形態を能力の変化に応じて検討する必要があると考えられる。また呼吸機能の要因に関しては6MDに影響があることは示唆されたが、より多角的な評価の検討が必要であると考えられる。
  • 佐久間 孝志, 平尾 利行, 妹尾 賢和, 岡田 亨, 白土 英明, 老沼 和弘, 阿戸 章吾
    セッションID: 23
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】 股関節の安定化機構として、解剖学的・力学的知見から、股関節深層筋は力学的支持という役割だけでなく、関節運動の誘導を担っている可能性があることが推測される。その中で股関節深層筋のトレーニングはいくつか紹介されているが、いずれも実際に股関節深層筋の収縮を検証している報告は少ない。そこで今回は股関節深層筋である小殿筋に着目し、小殿筋が収縮しやすい股関節肢位および負荷量について検討した。
    【対象】 対象は本研究に同意を得た股関節に既往のない健常男性10名とした。 平均年齢25.3歳、平均体重63.8kg、BMI21.8であった。
    【方法】 被検者に側臥位をとらせ、膝関節伸展位、股関節内外転・内外旋中間位にて、屈曲30度、0度、伸展10度の3肢位にて等尺性股関節外転運動を行った。それぞれにおいて低負荷運動と高負荷運動を行わせ、各肢位での小殿筋の収縮を測定した。測定には超音波画像診断装置 GE横河メディカルシステム LOGIQ BOOK を用い、MRI画像より大転子と腸骨稜を結んだ線上の近位1/3、および上前腸骨棘と後上腸骨棘を結んだ前方1/3を小殿筋の測定箇所として固定した。また検者は同一としプローブを固定する者1名、抵抗を加える者1名として測定を行った。 得られた画像から安静時と収縮時における小殿筋の厚みを計測し、収縮時の厚みを安静時の厚みで除すことで収縮率を算出した。統計処理はTukeyの多重比較および対応のあるT検定を用い、有意水準5%未満とした。
    【結果】 低負荷運動時においては伸展10度での収縮率が屈曲30度、屈曲0度のときよりも有意に高値を示した。高負荷運動時では、股関節屈曲角度の違いによる収縮率の変化はみられなかった。各股関節屈曲角度における低負荷運動と高負荷運動時における収縮率を比較すると、伸展10度のときのみ低負荷運動で有意に高値を示した。
    【考察】 今回の結果から、股関節伸展位および低負荷運動にて有意に高い収縮率を認めた。これは小殿筋の走行から股関節伸展位では股関節軸より後方に位置するため、股関節屈曲位よりも股関節伸展位で外転筋として作用しやすくなり高い収縮率を認めたものと考える。また、股関節深層筋には遅筋線維の割合が高いことが報告されていることから、低負荷運動の方が有意に高い収縮率を認めたものと考える。今後、さらに本研究を踏まえ股関節深層筋トレーニングの有効性を検討していきたい。
  • ―MRI画像による健常者との比較―
    金子 幸輔, 関口 貴博, 岡田 亨, 白土 英明, 小森 雄樹, 斉藤 忍
    セッションID: 24
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    体操競技は特性上,上肢への荷重動作が繰り返される.選手の手関節傷害はgymnastics wristと称される程多い傷害である.しかし競技特性を踏まえた手関節背屈時における機能的に検討した報告はない.そこで今回我々は健常者と手関節に痛みを訴える体操競技選手における手根骨の可動性の違いをMRIを用いて検討した.
    【対象】
    対象は手関節疾患の既往のない健常男子20名20手関節,練習可能で手関節背側中央・橈側部に痛みを訴える体操競技選手男子20例40手関節,年齢は16歳~32歳であった.
    【方法】
    MRI撮影は,手関節背屈0°~90°までを30°間隔で角度設定が可能な自家製固定装置を用いて手関節矢状断を撮像した.手根骨間角度の計測方法は撮影したMRI画像において橈骨,月状骨,有頭骨,第3中手骨がすべて描出され,各スライスの橈骨関節面の形状が一致している画像より月状骨の面積が最大のスライスを有効画像として選択した.各背屈角度の橈骨月状骨角,月状有頭骨角,有頭第3中手骨角を画像解析ソフト(NEC社製,Media Navigator Version3)を用いて0.1°単位で計測し,各背屈角度による手根骨間の総変化角度の差を検討した.統計学的解析にはステューデントのT検定を用いた.
    【結果】
    結果は0°~30°の背屈初期は橈骨手根関節と手根中央関節の可動性に差は認められなかった.30°~60°の背屈中期は手根中央関節に差は認められなかった.橈骨手根関節は健常者平均11.5°に対し,体操競技選手において平均6.5°との可動性低下が認められた.60°以降の背屈後期では健常者平均10.5°と比較して体操競技選手の橈骨手根関節は平均6.5°と明らかに可動性低下が認められた.手根中央関節は健常者平均11.1°に対し体操競技選手平均14.0°と可動性増大が生じていた.
    【結語】
    手関節に痛みを訴える体操競技選手と健常者との手関節背屈動作における手根骨の可動性の違いは,背屈後期において健常者は月状骨の可動性が大きく橈骨手根関節が優位に動くのに対し,体操競技選手は月状骨の可動性が小さく手根中央関節が優位に動いていることが示唆された. 今後は月状骨の可動性に影響を与える因子に関する研究,および体操競技選手に対する手関節の検討を深めていきたい.
  • 町 雅史, 萩原 礼紀, 唐牛 大吾
    セッションID: 25
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】超高齢社会となった本邦は、変形性膝関節症(以下膝OA)の患者も増加する傾向にあり、その治療法の一つとして人工膝関節全置換術(以下TKA)が選択され件数が増加している。当院整形外科のTKAの手術件数は3000関節を超えているが、90歳以上の手術患者は比較的稀である。本症例は心疾患や腎不全を合併した超高齢であったが、両側同時人工膝単顆置換術(以下Bil UKA)を施行し、その後順調に経過し22病日で自宅退院となった一症例を経験したので、ここに報告する。
    【症例紹介】症例:93歳女性、身長143cm、体重41kg、BMI 20 診断名:両側膝OA 主訴:両側の膝関節痛、歩行困難、ADL動作困難 既往歴:白内障、慢性腎不全(Stage2)、大動脈弁狭窄症(中等症) 現病歴:昭和63年頃より特に誘引なく両側膝痛が出現、近医にて保存的加療。平成19年9月14日の入院時に、術前検査にて大動脈弁狭窄、慢性腎不全を認め手術延期となり一時退院した。同年11月14日に再入院し、同月21日にBil UKAを施行した。 手術情報:セメントUKA、使用機種はOxford Phase3(BIOMET社製)、アプローチ方法は皮切5cmの内側最小侵襲(以下内側MIS)、手術時間は2時間45分、出血量は術中20cc、術後100ccであった。
    【理学療法評価(術前/退院時)】ROM‐t:膝関節屈曲右130°/130°左130°/120°、伸展右-10°/0°、左-15°/-5° MMT:膝関節屈曲右4/4左4/4、伸展右3/3左3/3 疼痛:両側内側裂隙の動作時痛両側ともNRS5/0、創部痛NRS右10/1左10/1 10m歩行テスト:平均時間13.8秒/13.6秒、歩数21歩/22歩 ADL(BIにて):90点/100点 OA grade:右4左4 FTA:右188°/175°、左188°/175° JOA:右65/85点、左65/85点
    【経過及び治療プログラム】術前にオリエンテーション、初期評価、動作指導を行った。3病日より車椅子乗車、関節可動域訓練を行い、5病日より訓練室にて関節可動域訓練、筋力増強訓練、平行棒内立位・歩行練習を開始した。6病日にサークル歩行を開始し、9病日にT字杖歩行を開始した。10病日より階段昇降を開始した。19病日にノロウィルス疑いのため一時中止、その後床上動作・ADL指導を経て、22病日に自宅退院となった。治療法は当科TKA術後プロトコルを用いた。40分2単位を20回実施した。
    【考察】本症例は93歳という超高齢において、他のTKA患者と遜色無く22病日という期間で後療法を順調に進めることが出来た。それは当科プロトコルに基づき後療法を進め、患者自身にもセルフケアの励行を徹底し疼痛コントロールを良好に出来た事が成因であると推察された。本症例の治療経験から、厳重なリスク管理の下に適切な運動負荷をかけ、他職種との連絡を密にし、術後早期に疼痛自制内で可及的に歩行訓練を行い、活動量を維持向上させることが重要であると考察された。今後も更なる症例集積と検討が必要であると思われる。
内部障害/教育管理
  • 樋山 志保, 目崎 保
    セッションID: 26
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】リハビリテーション業務において,経験年数と事故発生率の関連性,事故の発生しやすい時間帯があるのではないかと考えた.今後のリスク管理として注意点や指導の指標とするため調査を行った.今回,当院リハビリテーション科の事故報告書から,経験年数毎の発生率,発生時間,原因について若干の知見が得られたので報告する.
    【方法】対象は2004年1月から2007年12月までの4年間に提出された当院リハビリテーション科の事故報告書57件.方法は,事故報告書に記載されている経験年数,発生時間,事故の種類・場面,原因を調査した.なお,原因は当事者の主観で既定の項目から選択した(複数回答).
    【結果】経験年数毎にスタッフ1人当たりの事故件数をみると1年目が0.9件,2年目が2.0件,3年目が1.7件,4年目が0.9件,5年目が0.6件,6年目が0.9件,7年目が0.6件であった.事故の発生率が最も高い経験年数は2年目で,次いで3年目が高かった.発生時間は,11時から12時が16件(28%),15時から16時が13件(23%),9時から10時,14時から15時がそれぞれ11件(19%)であった.事故の種類は,転倒が36件(63%),創傷が16件(28%),チューブ類が4件(7%),器具破損が1件(2%)であった.事故場面は,歩行が22件(38%),移乗が16件(28%),座位訓練が9件(16%),移動・移送が4件(7%),臥床が3件(5%),階段昇降,待機,排泄がそれぞれ1件(2%)であった.原因は,観察不足が28件,確認不足,判断力不足がそれぞれ22件,技術不足,説明不足がそれぞれ8件であった(複数回答).
    【考察】経験年数では1年目より,2・3年目に事故が発生しやすい傾向を示した.3年目以降は徐々に事故の件数が減少していた.このことから,1年目は業務に慣れず常に緊張感がある時期で事故の件数が少なかったと考える.しかし,2・3年目は業務に慣れた時期で,気の緩みが生じ事故件数が多かったと考える.発生時間については11時台と15時台が最も多く,昼に近い時間帯,夕方になりかけの時間帯がスタッフの注意力低下に結びついているものと考える.事故の種類は転倒や創傷が多く,事故場面では歩行時,移乗が多いことから,歩行時の転倒や移乗時の創傷などを臨床場面において特に注意していく必要がある.原因では,患者に対する技術的な働きかけよりも,観察,確認,判断などの患者への注意が事故に影響すると考える.
  • 杉田 ひとみ
    セッションID: 27
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】近年、養成施設が急増した結果、学生の多様化が問題視されている。そのような状況下で臨書実習指導者(以下SV)は若年齢化している。若年齢化したSVも実習生同様に成長過程にあるため主観的な問題把握をする可能性がある。今回、東大式エゴグラム(以下TEG)を用い実習生と現職PTを比較・検討したので報告する。
    【対象と方法】対象は、平成19年4月から12月に当院へ評価実習および臨床実習来た実習生10名と当院勤務の現職PT(1年未満7名、1年7名、2年7名、3年以上9名)である。方法はTEGを実施した。現職PTには平成20年1月に実施した。実施したTEGの各項目CP(批判的な親の自我)NP(養育的な親の自我)A(大人の自我)FC(自由な子供の自我)AC(順応した子供の自我)の得点を算出し実習生と現職PTを項目毎にt検定(有意水準5%未満)を行い検討した。
    【結果】学生に行ったTEGではNP・ACが高くAが低い結果を示した。現職PTではCP・Aが高くNPが低い結果となった。Aに関しては、学生と1年未満(P<0.05)・1年(P<0.05)・2年(P<0.05)・3年以上(P<0.05)の各現職PTに有意差が認められた。NPに関しては、学生と3年以上の現職PTに有意差があった。
    【考察】学生の結果がNP・ACが高い結果を示したのは「誰かのために援助する奉仕したい。」という医療職には欠かせない気質であるという結果となった。またAが低い結果から計画性がなく、現実に即した行動ができない、合理的に物事を考えられないという気質が伺える。それに比べ現職PTでは学生と比較するとAがどの年次も有意差をもって高くなる。学生と現職PT1年未満でもAでの有意差は認められることから卒後教育による統合的思考が可能になってきたためと考える。現職PTの年次毎にも比較したが有意差は認められなかったものの年次が高くなるほどAが高くなっており仕事能率も向上してくると考えられる。実習期間のみで社会性を備えることは困難に等しく、今後は各病院・施設で卒後教育をより充実することでPTの質の向上が望ましいのではないかともうかがえる結果となった。
  • ―経験4年目対象OSCE―
    宮本 明輝美, 馬場 杏子, 山倉 敏之, 村山 朱里, 井上 喜美子, 山口 晋己, 斉藤 秀之, 小関 迪
    セッションID: 28
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】筑波記念病院(以下,当院)では,卒後教育の充実を図るため,入職後2ヶ月間の初期研修終了後,中期研修と称して6ヶ月もしくは3ヶ月で診療チーム(急性期:整形・中枢・内科・外科,回復期,療養,外来,介護老人保健施設)をローテートするジョブローテーション方式を採用している.今回,ジョブローテション修了を迎えた臨床経験4年目を対象に,急性期から維持期の症例を対象課題としたAdvance OSCE(OSCE:Objective Structured Clinical Examination)を実施し,臨床能力の確認を行った.
    【対象】当院臨床経験3年6ヶ月の理学療法士(以下,PT),作業療法士,言語聴覚士19名中PT13名(男性:7名,女性:6名)とした.
    【方法】2007年11月の1日間にOSCE課題5題を実施した.課題は(1)急性期脳卒中疾患(2)急性期内部疾患(3)回復期脳血管疾患(4)維持期神経難病(5)筆記試験とし,当日まで対象者には開示しなかった.OSCEの評価は,院内職員による評価者と標準患者に加え,外部評価者による評価も実施した.(1)から(4)までの課題設定時間は,情報収集5分,実技(評価・治療)17分,口頭試問5分,フィードバック5分とした.(5)の筆記試験は,医療制度,院内組織,リスク管理等に関する内容とし,記述時間15分,フィードバック15分とした.統計学的検討には,OSCE課題評価素点数を100点満点換算した点数を採用し,Mann-WhitneyのU検定,Spearmanの順位相関を用いて2群間を比較した.
    【結果】各課題別得点は,院内評価者,外部評価者の順で(1)64.8±8.9点,59.4±12.1点(2)58.5±11.5点,55.8±13.6点(3)57.8±13.0点,46.0±13.8点(4)62.8±10.6点,63.0±11.5点となり,(1)から(4)の課題すべてにおいて外部評価者の方が院内評価者に比べ低評価である傾向を示した.全ての診療チームのジョブローテーションを終了した9名と未修了である4名のOSCE4課題の合計平均得点は,修了者68.0±6.5点,未修了者58.5±4.3点であり,修了者の方が有意に高評価であった(p<0.05).また,OSCE4課題の合計点と筆記試験得点の間には中等度の有意な正の相関を認めた(r=0.6,p<0.05).
    【考察】卒後数年間に急性期から維持期の診療を経験することが,外部評価者の批判にも耐えうる臨床技能向上に有益であること,臨床技能の高い方が医療制度や組織に対する関心が高いことが示唆された.
  • 高橋 豊, 河本 真美子, 小笠原 明, 阿部 恭久
    セッションID: 29
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    栄養評価で血液生化学の代表的指標である血清アルブミン濃度(ALB)と6分間歩行距離に正の相関があることを第26回関東甲信越ブロック理学療法士(PT)学会にて報告した。今回は,ALBと栄養評価で身体機能・構造の代表的指標である握力・体重の関係について着目し評価した。握力や体重は測定が簡便で,経時的に変動を評価するには優れている。しかし,握力は測定数値の妥当性が被検者の意思に偏るため測定値にばらつきが出やすく,また,体重は栄養状態が改善すると腹水や浮腫減少により,かえって体重減少するなど単独で栄養状態を評価するのに懸念もある。
    【方法】
    2005年5月~2006年5月に当院外科入院しPTが栄養サポートチーム(NST)の一員として関わった患者112例(男性70例,女性42例,年齢74.3±10.6,握力・体重測定できない患者は除く)を対象とした。NST活動で栄養管理・評価を行っている項目の中からALBと握力および体重の変数を抽出し多変量解析を行った。統計分析として,これらの変数の相関性を単回帰分析で行い,ALBと年齢を加えた各変数の関係を重回帰分析で行った。
    【結果】
    単回帰分析による各変数の相関性では,1)ALBと握力は正の相関(男P<0.01,女P<0.05),2)ALBと体重は無相関(男女)。重回帰分析では,3)ALBと(年齢,握力)は1)より高い相関が認められた(男女P<0.01)。
    【考察】
    ALBは生物的半減期が3週間と長く,体内に最も豊富に存在するタンパク質である。つまり,ALBはそれだけタンパク代謝動態およびエネルギー代謝動態に与える影響が大きく,骨格筋の機能的数値に鋭敏に反映したと考える。よって握力は栄養指標として単独でも有用と考える。一方,体重は食欲,摂食機能障害,嚥下障害,胸・腹水,浮腫,排尿・排便障害など複数要因で変動し,また,栄養状態が改善してALBが高くなると胸・腹水,浮腫改善により,かえって体重減少する対象も少なくなかったのでALBと体重は無相関になったと考える。しかし,体重は栄養状態やALBと関係して推移することは疑いのないところである。つまり,体重は栄養的指標として単独で評価するのではなく,理想体重値,他の検査値,理学的所見などと組合せて総合的に判断することの必要性を今回の調査でも示唆したと考える。
  • ―既往症に糖尿病を持つ症例について―
    寄本 恵輔, 玉田 良樹, 大久保 裕史, 石森 俊介, 香川 賢司, 岡田 仁, 三島 修一
    セッションID: 30
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     脳血管障害を発症した際の治療は脳血管障害後遺症に終始するのではなく,脳血管障害における危険因子に対しても積極的に介入していくことが再発予防において重要となる.しかし,そのような視点で急性期より理学療法が介入することは少なく,また,脳血管障害における危険因子が脳血管障害発症後の機能・能力的予後に影響を与えていたかについては知られていない.本研究の目的は,急性期脳血管障害における理学療法を脳血管障害危険因子の視点で検証すること,また,既往症に糖尿病を持つ症例を通し,理学療法の介入やその有用性ついて検討することにある.
    【対象と方法】
     当院に入院し理学療法を実施した脳血管障害患者302例.
     方法は,脳血管障害危険因子の併発率を算出し,また能力・機能予後を明らかにするためBarthel Index,Motor Age Testの推移,在院日数について統計学的解析を試みた.また,既往症として糖尿病を有する症例の入院時におけるBMI,三大合併症の併発率,血液検査,三大治療の実施率を調査し,経時的な血液検査の推移と再発率について検討した.
    【結果】
     結果,脳血管障害の既往症併発率は,高血圧57%,糖尿病 21.1%,高脂血症15.2%,心疾患:20.5%,脳血管障害再発:26.2%であった.糖尿病の有無で退院時の能力・機能予後は変わらず,在院日数においても有意な差は認めなかった.また,当院では肥満が多く,三大合併症は,網膜症,腎症,神経障害の順に多く認めた.入院時血液検査では,HbA1c,血糖値は高く,高脂血症は約30%に認めた.三大治療は,食事療法83%,薬物療法81%,運動療法82%に実施され,血液検査よりHbA1cは発症後1カ月,1年後に有意に改善,退院後のCVD再発率は9.3%であった.
    【考察】
     急性期脳血管障害患者における理学療法は発症早期から脳血管障害危険因子を把握し,再発予防を目的とした理学療法を効果的に実施していくことが長期予後をより良くする因子になるものと考えられた.
  • 松本 卓也, 木村 雅彦, 鹿島 雄志, 工藤 大志, 新海 直美, 斎藤 祐美子, 斎藤 和夫, 佐々木 正博, 堀田 一樹, 松永 篤彦 ...
    セッションID: 31
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】呼吸機能障害患者において、運動時の呼吸困難感と下肢筋力の低下は日常生活活動(ADL)能力低下の大きな要因である。特に高齢の慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者では感染などの併発を契機とした入退院を繰り返すことも多く、ADL能力の低下を容易に生じ、かつ再獲得に難渋することが多い。今回我々は、肺炎で入退院を繰り返し、退院後50日経過しても呼吸困難感と下肢疲労により連続歩行が困難であった高齢COPD患者に対して、自転車エルゴメータを用いたインターバルトレーニングを実施した。その結果、短期間で症状の軽減が得られ、連続歩行が獲得できた症例を経験したので報告する。
    【症例】80歳、男性。身長158 cm、体重43 kg、body mass index 17.2 kg/m2。原疾患:COPD、GOLD分類:stage 2(努力性肺活量(FVC):3.1 L、%FVC:98.7%、1秒量(FEV1.0):1.62 L、%FEV1.0:71.8%、1秒率(FEV1.0/FVC):52.3%)。合併症:高血圧症、閉塞性動脈硬化症。喫煙歴:20本/日×50年。
    【経過】COPDに対する外来治療を続けていたが、肺炎を併発し入退院を繰り返していた。今回は約1か月の入院加療を要し退院したのち、炎症所見と症状が改善した退院48日後から、外来での呼吸リハビリテーションを開始した。膝伸展筋力は左右平均体重比20%程度であり、運動誘発性の低酸素血症は生じなかったが、著明な呼吸困難感(自覚的運動強度(RPE) 15)と下肢疲労(RPE 15)により連続歩行時間は2分間(40m)であった。そこで、自転車エルゴメータを用いて相対的な高強度の運動期と低強度の回復期を1サイクルとして実施するインターバルトレーニングを導入した。運動期はRPE 13の強度で25W(60回転/分)20秒とし、回復期は10W未満(30回転/分)40秒とした。運動療法介入2回目(退院62日後)には呼吸困難感と下肢疲労が軽減(RPE 13~11)し、持続運動が4分間可能、介入4回目(退院76日後)には持続運動が10分間、連続歩行時間も15分間まで可能となり自宅での生活範囲が拡大した。
    【考察】一般的に、呼吸困難感や下肢疲労の軽減に対する運動療法の効果には、骨格筋筋力の改善が大きく寄与する。本症例では、筋肥大が生じるとされる期間よりも短期間で持続運動時間が延長し連続歩行能力が改善したことから、相対的に高強度で速い運動を取り入れたことによる筋線維参加動員能の改善が示唆された。経過に伴うdeconditioningの影響が大きく、呼吸困難感の自覚が強い高齢COPD患者に対しては、相対的に高強度で行うインターバルトレーニングが効果的であると思われた。
  • 大澤 かおる, 関根 利江, 金子 操
    セッションID: 32
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】造血幹細胞移植の患者様は発症後より日常生活・社会生活を営みながらも徐々に体力・筋力が低下しており、さらに移植により副作用・特別な環境により著しく活動が制限され廃用症候群を生じる。当院では造血幹細胞移植患者に対し、移植前より理学療法士が介入するシステムとなっている。その理学療法士介入による効果を筋力と活動性(ADL)の視点で今回検討した。
    【当院の理学療法士の関り方】(1)移植前:初回にマニュアルに従い、理学療法の必要性・今後の方向性について説明。移植前体力測定実施。(2)移植後1週間目・3週間目:生活指導事項の確認。可能な体調であれば運動・体力維持の運動指導。(3)移植後4週間目:体力測定実施。ここで終了となる者が非常多い。(4)その後は状況にあわせてfollow up していく。
    【対象】平成18年3月から12月までリハビリの依頼があった、造血幹細胞移植患者男女計17名(男性9名・女性8名)平均年齢39.2才。
    【方法】握力・周径・MMT・歩行状況の変化を検討した。測定は移植前、移植後1ヶ月 後と測定しその変化をみた。移植前後の評価項目は複数あるが今回は下記3点について検討した。(1)握力:左右2回測定し左右それぞれ良い値を出しさらに左右を平均して移植後1ヶ月後と比較した。(2)筋力:MMT:膝関節伸展筋群を評価した。(3)周径:大腿周径(膝蓋骨直上15cm)・下腿最大周径測定し左右を平均して移植後1ヶ月後と比較した。(4)活動性はBarthel indexにて確認した。
    【結果】(1)握力は移植前28.7kg→移植約1ヶ月後26.4 kgと-2.3 kgの減少であった。(2)膝関節伸展筋群の筋力はMMTでは5から4に低下した者は3名のみであった。その他は変化がなかった。(3)周径は大腿周径移植前45.1 cm→移植後1ヶ月後43.7 cmと-1.4 cmの減少であった。下腿周径移植前34.2cm→移植約1ヶ月後33.0cmと-1.2cmの減少であった。(4)活動性は移植前・移植1ヶ月後共にBarthel indexにて17名全員が100点であった。握力・周径はt検定では全て有意差はなかった。また体格はBMIにて移植前22.0移植後21.2であった。
    【考察】里宇らは握力・筋力は有意な筋力低下を認めている。今回の握力・膝伸展力・周径に関しては移植前後で有意差は無く、ADLもBarthel indexでは維持されている。通常であれば今回のように週に1回程度の介入では筋力・体力は維持されずらく、今回の維時された理由としては、定期的な理学療法士の関わりが、対象者の理学療法の必要性を再認識し、生活指導・運動の確認の機会となったことが考えられる。
  • 石橋 修, 井上 克也, 高安 美幸, 坂本 愛, 井上 純恵, 高橋 真由美, 神尾 政彦
    セッションID: 33
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】今回,不安定狭心症にて入院中に心筋梗塞を発症し,約4週間の理学療法介入を行い,ADL向上・自宅退院となった症例を経験したのでここに今後の課題も含め報告する.
    【症例】88歳,女性,BMI24.8. 既往歴および合併症:高血圧症,高脂血症,心筋梗塞,慢性気管支炎
    【経過】平成9年6月胸痛を自覚し救急受診,急性心筋梗塞と診断されるも緊急時不穏強く保存療法にて自宅退院.
    平成15年1月より再度胸痛出現.同年5月にCAG施行し,同6月にPCI施行。その後経過良好,時々軽労作にて胸苦しさの訴えあるも左大腿骨頚部骨折,右変形性膝関節症のため運動負荷試験およびCAGは施行せず自宅退院となる.
    平成20年1月散歩中の呼吸困難感及び心窩部痛出現し,近医受診.精査目的にて当院紹介され,入院時ECGにて不安定狭心症と診断され入院,保存療法となる.入院中第9病日に呼吸困難感の増悪およびSpO2低下認め,ECG上II,III,aVFにST上昇を認め,急性下壁梗塞発症.呼吸状態悪化し人工呼吸器管理となるも第15病日に抜管,第17病日より理学療法開始となる.ベッド上での座位及び運動療法より開始し,第28病日より監視下病棟内歩行,第38病日に病棟内自由歩行許可.第49病日に自宅退院となった.
    【考察】不安定狭心症より心筋梗塞を発症した症例を経験した.本症例は過去に狭心症の既往および治療歴があり,数度の胸痛発作により心筋梗塞を繰り返し,薬物療法およびPCIにより治療されるもリハビリテーションは実施されていなかった.
    今回,入院中早期よりベッドサイドにて医師,病棟看護師とともに運動療法開始.病態の説明と併せ,運動負荷量をコントロールし,徐々にADL活動範囲の拡大を図った.初期には,退院や歩行自立に対する要求が強かったが,次第に自覚症状と運動負荷について理解でき,リスクを確認しながら徐々に運動負荷量を増加,ADLの拡大を行うことができた.
    また現在も重度の残存狭窄を有し,心イベント再発予防のため運動負荷量及び自覚症状の推移については留意が必要であり,退院に向け病態と運動負荷との関係に加え,ADL動作指導及び日常生活における注意点についての指導に重点を置き,医師,看護師とともに実施した.結果,入院中より自身の身体状況に合わせて活動を行うことができ,自宅退院となったと考えられる.
    本症例のように,独居でありリスクの高い症例の場合,退院後の日常生活での疾病管理が特に重要であると考えられ,基本となる治療プログラムに加え,より個別化された生活指導が重要であると考える.
理学療法基礎/神経系
  • 望月 成士, 渡邉 浩文, 赤澤 美奈
    セッションID: 34
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    理学療法を行う上で、閉鎖性運動連鎖(以下CKC)を用いてのエクササイズ(以下ex)を行う事が多い。効果としては、筋力増強、筋出力の制御、バランス等の身体機能向上が期待できる。今回、CKC-ex前後にActive Balancerを用いて、視覚的・数値的にデータを集計し、比較・検討を行ったのでここに報告する。
    【対象者】
    対象者を以下のように分類した。a群は当院通院中の外来患者でFree gait可能、Basal Index100点の8名(平均年齢45歳、男性2名女性6名)、疾患内訳は変形性膝関節症4、前十字靭帯損傷保存2、アキレス腱損傷1、膝蓋骨骨折1であり、b群は健常者9名(平均年齢23歳、男性4名・女性5名)であった。
    【方法】
    対象者に、自重のみでハーフスクワットを10回、左右ラウンジを各10回のCKC-exを実施し、以下の計測を前後に行った。(1)スタティック計測は、開眼にて左右片脚立位を15秒間保持、(2)アクティブ計測では、踵接地、膝関節伸展位を条件に前後左右8方向への最大ウエイトシフトを実施した。分析には、データを10項目に分け、対応のあるt‐検定を用い危険率5%とした。
    【結果】
    今回、有意差がみられたのは、10項目中1項目のみ、外来患者スタティック片脚立位左側重心平均X軸であった。その他の計測では有意性がみられなかった。しかし、スタティックな課題においてはa・b群毎に反応している傾向がみられ、アクティブな課題ではa・b群共に過半数が計測時間の短縮がみられた。
    【考察】
    今回、有意差見られたのは、外来患者スタティック片脚立位左側重心平均X軸のみであったが、理由としてはex前の特徴は外側優位に重心があり、CKC-exを行うことにより、良的なアライメントで荷重をかけることが可能になり、主動作筋・拮抗筋による協調性と運動連鎖が改善、大腿内側筋群の遠心性収縮の向上が得られ、内側部に重心がシフトされたことが考えられる。
    しかし、他の計測で傾向はみられたものの、有意差が認められなかった理由としては、測定条件は一定条件だが、個人データのばらつき、1回のみの計測実施だったことや、個々に応じた運動回数・運動負荷が未設定だったこと、計測条件の難易度、疲労の問題等が考えられる。今後、さらに対象、運動負荷、測定回数、環境条件等を考慮し、CKC-exの有用性を追求したいと考える。
  • 杉田 有希, 塚本 泰章, 岡野 智, 関口 賢人, 大森 あゆみ, 安藤 正志
    セッションID: 35
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】関節可動域制限は臨床上最も多く経験する機能障害であり、介護療養型医療施設である当院では、他病院・他施設より転院された時点にて、すでに可動域制限を有する症例が多数みられる。臨床場面で股関節伸展制限を有する場合、膝関節伸展制限も伴うことが多い。また、股関節内旋制限があると膝関節伸展制限を伴う症例が多くみられる。このように股関節の可動域制限の発現様式と膝関節可動域制限の発現様式には一定の組み合わせが存在すると考えられる。しかし、股関節および膝関節の発現様式の関係についての疫学的調査はあまり見受けられない。そこで、股関節および膝関節可動域制限の関係を明らかにする目的で、当院の長期療養患者の股関節、膝関節の可動域制限を調査した。
    【対象と方法】対象は当院で過去1年間に理学療法を受けた入院患者63名、平均年齢は78±11歳であった。主疾患名は中枢疾患39名、整形疾患21名、内科系疾患17名であり複数の疾患を重複して有する症例が20名、発症からの期間は平均8年1ヶ月であった。
    理学療法介入前に測定された左右股、膝関節の関節可動域を理学療法診療録より調査し、制限の強い側を代表値とした。なお可動域測定は当院の理学療法士が日本リハビリテーション医学会評価基準委員会により、提唱された「関節可動域表示ならびに測定法」を基準に行った。統計処理はピアソンの相関分析および一次回帰分析を使用した。これらの数値を本研究に使用することに対し、本人もしくは家族に同意を得た。
    【結果】股関節伸展と膝関節伸展制限の可動域の比較では有意な強い相関(r=0.86)があった。股関節屈曲と膝屈曲制限(r=0.50)、股関節外転と膝伸展制限(r=0.48)に有意な相関がみられた。股関節外旋と膝屈曲制限(r=0.32)に有意な相関がみられた。他の制限方向の組み合わせでは有意な相関はみられなかった。
    【考察】股関節伸展と膝関節伸展制限、また股関節屈曲と膝関節屈曲制限に有意な相関があった。これはポジショニングの肢位や長時間の安楽肢位により発生した股関節の可動域制限が膝関節の制限を助長していると考えられる。臨床場面で股関節内旋可動域制限があると膝伸展制限を伴う症例が多くみられるが、本研究では股関節内旋と膝関節伸展制限の相関はみられなかった。これは定時間毎に行われる徹底されたポジショニング等により股関節外旋位への予防がなされていたことが原因と考えられる。
    本研究の結果、股関節伸展制限があると膝関節伸展制限も発現しやすいことが、また股関節屈曲制限があると膝関節屈曲制限も発現しやすいことが明らかとなった。
  • ―ダイナミック・タッチの精度に着目して―
    川口 隼, 徳田 良英
    セッションID: 36
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】ものや道具を介在した所作は、単に上肢機能のみならず、姿勢の安定保持が重要な役割を果たし、身体全体が協調して動くように作用する。一般に姿勢は支持基底面が広いほど安定し、重力をはじめ周辺の環境から絶えず情報を得てアップデートしながら保持していると考えられている。本研究は、ものを介在しての環境からの情報探索(以下、ダイナミック・タッチ)の精度が支持基底面の差異に影響されるか否かを明らかにすることを目的とする。
    【方法】健常者によるモデル実験を行った。被験者は、健常な大学生男女、計32名(男性20名、女性12名、平均21.9±0.7歳)とした。実験方法は、まず被験者に10 cmの長さを視覚的に確認させた。次に上肢のダイナミック・タッチの精度に着目するため、アイマスクを装着し視覚情報を除去した状態にした。本研究で行ったダイナミック・タッチの課題は、利き手で筒状のものを介して箱を10 cm押す試行を考案して行った。箱は接触抵抗を得られるように3 kgの重錘を入れ、箱が直線的に移動し蛇行しないように箱をレール上に置いた。測定条件は、1)両側殿部・足底を支持基底面とした座位(支持基底面が広い状況)、2)利き手側の片側殿部・足底を支持基底面とした座位(支持基底面が狭い状況)とした。試行Aは、支持基底面が広い条件1)を行い、次いで再び同じ設定の条件1)の順で行うものとした。試行Bは、まず支持基底面が広い条件1)を行い、次いで支持基底面が狭い条件2)の順で行うものとした。試行A、試行Bそれぞれで移動距離(cm)の差を実測し、試行A、試行Bの両者を比較した。統計学的解析は、試行A、試行Bそれぞれの差の平均値を算出しデータの正規性を確認の上、StudentのT検定で有意水準5%とした。統計解析はSPSS for Windowsを用いた。
    【結果】移動距離の差の平均値は、支持基底面が広い状況を連続した試行Aでは1.23±0.96 cm、支持基底面が広い状況に次いで狭い状況にした試行Bでは2.06±1.48 cmであり、試行Aに比べ試行Bの移動距離の差は有意に大きかった(p<.05)。また、試行Aよりも試行Bの方が移動距離の差が大きかった被験者の割合は、全体の66%(32名中21名)であった。
    【考察】本研究では、健常な若年者モデルにおいて支持基底面の減少が上肢のダイナミック・タッチの精度が低下することを認めた。このことから支持基底面の減少が上肢探索機能を低下することが示唆された。今後、臨床応用として例えば支持基底面の減少が起こりうる片麻痺者にも検討していきたい。
  • ―三次元位置計測装置による客観的評価の試み―
    太田 加寿子, 大須 理英子, 藤原 俊之, 長田 麻衣子, 松浦 大輔, 伊藤 真梨, 村岡 慶裕, 里宇 明元
    セッションID: 37
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】従来、回復が困難とされてきた慢性期脳卒中片麻痺患者の上肢機能に対するアプローチとしてconstraint-induced movement therapy(CIMT)、治療的電気刺激などが報告されている。藤原らは、随意運動介助型刺激装置Integrated Volitional Electrical Stimulator(IVES)と手関節固定装具を日中8時間着用し、日常生活における麻痺側上肢の使用を促すHybrid Assistive Neuromuscular Dynamic Stimulation(HANDS)療法を開発し、その臨床的効果を報告してきた。本研究の目的は、HANDS療法の効果を客観的に評価するための手段のひとつとして、三次元位置計測装置を用いた解析が有用かどうかを予備的に検討することにある。
    【方法と対象】対象はHANDS療法を行った慢性期片麻痺患者2名で、1名は脳梗塞発症後60カ月が経過した52歳男性で、感覚障害が無い左片麻痺例である。Stroke Impairment Assessment Set(SIAS)のknee-mouthは3、finger-functionは1cであった。他の1名は脳梗塞発症後5か月が経過した48歳男性で、感覚障害のある左片麻痺例である。SIASのknee-mouthは3、finger-functionは1aであった。対象者には研究内容を説明した上で同意を得た。HANDS療法の前後において、麻痺側上肢の回内外動作時の第2指と第5指のPIP関節の動きを三次元位置計測装置(NDI社, OPTOTRAK )により200Hzサンプリングで対象者の前額面から記録した。回内外動作は麻痺側手指を屈曲させ、患者にとって快適な速度にて30秒間繰り返し行った。
    【結果】両名ともHANDS療法後に上肢機能が改善し、それぞれ、SIASのknee-mouth 、finger-functionスコアが3→3、1c→2、3→3、1a→1cに変化した。両名とも、HANDS療法後に第5指PIP関節を中心とした第2指PIP関節の回転角度の振幅が増加しており、回内外可動域の拡大が示された。
    【考察】OPTOTRAKによる評価は、HANDS療法による慢性期片麻痺患者の上肢機能の改善を客観的に評価するうえで有用な可能性が示唆された。今後、症例数を増やすとともに、回内外以外の動作についても検討を加える予定である。
  • 大槻 香織
    セッションID: 38
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】日々の臨床場面において、体幹機能の低下により座位保持や機能的な運動が困難となった脳血管障害患者を多く目にする。動作の安定化には腹横筋・横隔膜・多裂筋をはじめとした深部脊柱起立筋群・骨盤底筋群からなるインナーユニットを活性化させ、腹腔内圧(以下腹圧)を上昇させることで脊柱を支える機能が必要となる。
    脳血管疾患は深部筋(インナーマッスル)の筋出力が低下しているケースが多く、効果的に腹腔内圧を上昇させる事ができず、動作時の体幹の安定を保つことが困難であることが予想される。しかし、腹圧に関しては針筋電図や腹腔内圧計を使用した研究が主であり、臨床的に腹圧を評価し、治療効果を検討する文献は少ない。
    そこで今回は腹圧変化を臨床的に評価する方法を検討することを目的とした。
    【方法】検者は24.7±3.30歳の健常成人10例(男性6例・女性4例)とした。始めに片脚立位時間・ファンクショナルリーチ(以下FR)を測定する。その後、強制呼息にて臍部を中心として軟性コルセット(以下コルセット)を着用し、同項目を再度測定した。その際、圧迫圧を統一させるようコルセット内に血圧計のカフを入れ10mmHg上昇するまで腹部を圧迫した。片脚立位は60秒を最高値とし、FRはDuncanの測定法に準じてコルセット着用前後とも3回測定しその平均値を記録として算出した。
    【結果】10例中、全例がコルセット着用前後とも片脚立位保持が60秒間可能であった。FRは6例が上昇(上昇平均値 1.84cm)、4例が下降(下降平均値 1.94cm)した。女性は4例全員が上昇(変化の平均2.20cm)し、男性の変化の平均値は-0.95cmであった。
    【考察】FRは股関節屈曲・足関節背屈に対する脊柱と股関節の伸展・足関節底屈モーメントを要する動的バランス指標である。今回コルセットによる腹圧の上昇によって脊椎の伸展モーメントを上昇させることは可能であったと思われる。しかし、同時にコルセットは腰椎の制動作用があるためリーチ動作時の脊柱可動性を抑制した可能性がある。
    今回の実験により脊椎の制動を抑制し、腹圧を上昇させる因子として軟性コルセットが適切なのか、腹圧評価の指標として静的及び動的バランスが適切であるのかを再度検討する。
    また若干ではあるが、FRの検査結果に性差が確認される。症例数を増やし、信頼性を高めた上で更なる考察を深める必要があると考える。
  • 井出 友洋, 中村 崇
    セッションID: 39
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】平成17年よりM町保健センターから小学生のバランスと柔軟性の実態、および予防活動についての依頼が有り、同町2小学校5年生への足底圧測定と柔軟性バランス検査の実施と、当法人理学療法士(以下PT)中村 崇の講演により、予防活動として3年間行い考察を加えて報告する。
    【方法】対象は平成17年から19年の2小学校5年生で足底圧測定と柔軟性の検査両方が行えた者、M町南小学校244名、男子124名、女子120名、平均年齢10.5歳、M町来た小学校132名、男子61名、女子71名、平均年齢10.6歳とした。
    方法は足底圧測定をペル38・TWIN99(Medicapteurs社製)での静止立位足底圧を測定し分類は1.踵荷重2.前足部荷重3.外側荷重4.踵荷重と前足部荷重増加5.踵荷重と前足部加重減少の5段階に分類、柔軟性とバランスは、a体前屈(FFD)bトーマステストc開眼片足立ちdエリーテスト
    eしゃがみこみの可否とし、cは30秒以下低下群(以下-)、abdeはできなければ低下群(-)とした。
     講演については柔軟性を中心に行い、柔軟性低下による障害や怪我の説明、体操の指導を行い、足底圧については各人に体操用紙を配布して指導、また学校の校長や保健の先生との話から学校側の取り組み方などの相談も受けた。
    【結果】M町南小学校は平成17年足底圧3.34%4.27%5.33%、平成18年3.48%4.42%、平成19年3.45%4.25%5.29%、柔軟性バランス低下群は平成17年a24%b54%、平成18年a18%b64%、平成19年a16%b60%。
     M町北小学校は平成17年足底圧3.31%4.38%5.19%、平成18年3.36%4.54%、平成19年3.67%4.28%、柔軟性バランス低下群は平成17年a19%b50%、平成18年a15%b45%、平成19年a51%b65%であった。
    【考察】M町南小学校においては、足底圧は3.4.5.が約30%から次第に3.が50%となり、柔軟性もa約20%b50%と下肢前後面の筋短縮が有ったが、aは年々減少した。M町北小学校も同様の経過で、足底圧に関しては3.67%と大半を占め、柔軟性は南小学校と同様であった。このことから特にbの低下群の増加があり、腸腰筋の短縮による姿勢からの影響により足底圧変化があったと考えられるが、各学年ごとの成長やその他の因子もあり断定できないが今後もこのような事業から子供たちの予防活動に携えるよう保健センター等行政と協力していきたい。
  • ―臨床的有用性についての第一報―
    伊藤 健志, 麻生 義行, 池上 直宏, 高野 直子, 市川 静香, 瀧 直也
    セッションID: 40
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】バランス能力は高齢者の日常生活活動における重要な評価項目のひとつである。臨床場面においてバランス能力の評価は、検査時間が短く省スペースで実施でき、かつ信頼性が高いことが求められる。そこで本研究では比較的新しいバランス能力の評価法であるFour Square Step Test(以下FSST)に着目した。FSSTの特長は多方向への重心移動を行うことで、日常生活に必要なバランス能力を評価できることにある。この評価法における検者内信頼性と妥当性についてはすでに報告されている。しかし、検者間の信頼性についてはまだ報告されていない。そこで今回我々はFSSTの検者間信頼性を求め、さらにその臨床的有用性に関して考察した。
    【対象】本研究の目的に対して同意を得られた当院の患者で、自立歩行が可能な骨関節疾患患者18名(男性4名 女性14名)とした。平均年齢は74.9±6.1歳であった。
    【方法】FSSTの測定方法は、Diteらが示した方法を参照した。直径2cm長さ90cmの塩ビ管4本で十字に分割した4区画を前後左右にまたぎながら移動し、往復する速度を測定した。このテストを2日間実施、検者は当院の理学療法士2名とした。合わせて動的バランス能力のテストとしてTime Up And Go Test(以下TUG)をPodsiadloらの方法をもとに実施し、さらに半田の方法に準じて10m歩行速度を測定した。統計学的解析には級内相関係数(以下 ICC)を用い、検者間信頼性を求めた。FSSTとTUG、10m歩行速度との相関についてはpearson係数を用いて解析し、有意水準は1%とした。
    【結果と考察】検者間の信頼性については測定結果からICC(2,k)を求めた結果、r=0.87~0.90と高い値を示した。このことからFSSTはその測定値が検者に左右されないテストであることが示唆された。次に他のバランステストとの相関については、FSSTとTUGの間にはr=0.823で、p<0.01の有意な相関関係が認められた。これによりFSSTのバランステストとしての妥当性が示唆された。しかしFSSTと10m歩行速度の間にはr=0.345で有意な相関関係が認められなかった。これに関してはFSSTが10m歩行速度よりも遂行課題が多いという条件から、バランス能力以外の要素が含まれているために生じた結果ではないかと推察された。今後も検討を継続していくことで、FSSTの臨床的有用性についてさらなる追究をしていきたい。
  • 浜辺 政晴, 渡辺 博史, 飯田 晋, 古賀 良生, 縄田 厚, 助川 智之
    セッションID: 41
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】脳卒中片麻痺患者の歩行で治療あるいは補助手段として多くの装具が使用されている。今回、軟性装具アルケア社製foot up brace(以下FUB)の効果について痙縮の客観的指標を用い検討したので報告する。
    【対象】本研究に同意を得た当院の入院・外来片麻痺患者10名(男性5名、女性5名、平均年齢67.9±7.1歳)を対象とした。原因疾患は脳梗塞6名、脳出血3名、脳膿瘍1名、下肢Brunnstrom stageは3が2名、4が2名、5が6名であった。
    【方法】全対象者に対し痙縮評価と歩行評価を行った。痙縮評価はModified Ashworth Scale(以下MAS)を用い足関節底屈筋群を対象とした。測定肢位は辻らの方法に準じ、膝30°屈曲位とし、すべての測定は同一の検者が行っ た。歩行評価は10m歩行のビデオ撮影による解析を、解析ソフトDIPP-Motion(ディテクト社製)を使用して行った。歩行速度、歩行率を測定し、また接床・立脚中期・離床・遊脚中期の4つの局面での膝、足関節角度を検討した。そして、歩行速度、歩行率、各解析角度について裸足時とFUB装着時の比較をした。統計処理はWilcoxonの符号付順位和検定を行い有意水準は5%とした。
    【結果】MASの結果、0:3名、1:3名、1+:4名、2以上:0名であった。歩行評価の結果で、歩行速度は裸足時よりもFUB装着時の方が有意に速かった(p<0.05)。歩行率でも裸足時よりもFUB装着時の方が有意に大きかった(p<0.01)。特にMAS1・1+であった者の変化量が大きい傾向であった。また、性差は認めなかった。歩行解析の結果では足先離床の局面の足関節の角度のみ差を認め、FUB装着時の方が有意な減少を示した(p<0.05)。
    【考察】我々は先行研究でFUBの効果について痙縮の強くない患者に適応としている。今回、その適応を痙縮評価の一つであるMASを用いて検討した結果、同様の効果を得た。FUBの有用性をMASを用い客観的に評価することができた。FUBの効果は性差を認めなかったことから個別因子による影響は少ないものと思われた。歩行解析の結果からFUB装着により立脚後期での足関節背屈の温存がなされていることで、遊脚期へ移行しやすくなっているものと考えられた。今後、このFUBの効果の長期的検討や、MASで2以上に分布する痙縮の強い対象者についても効果があるのか検証する必要がある。
  • 佐々木 英輔
    セッションID: 42
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】体重免荷トレッドミル歩行練習(以下BWSTT)は脊髄損傷患者や脳血管疾患患者等において有効性が報告されている.今回頭部外傷により長期臥床を強いられた患者に対して体重免荷式歩行訓練装置(製品名:らっくん,製造元:株式会社ペアサポート)を使用した.本症例においてトレッドミルは使用していないが,BWSTTに類似する効果があると思われた.以下に報告する.
    【症例】35歳,男性.平成19年5月23日交通事故により頭部外傷受傷.7月10日(受傷後48病日),リハビリテーション目的にて当院へ転院.当院転院時,意識障害が重度で,ADLはFIMで18点で全介助の状態であった.8月後半より徐々に意識障害が改善し始め,体動も増えてきた.しかし約3ヶ月の間ほぼ寝たきりの状態であったため,四肢体幹の筋力低下が著しい状態であった.
    【治療経過】7月下旬からリフトを使用しコンフォート型の車椅子への移乗を開始.9月下旬から普通型車椅子への移乗を開始.このころより上肢での活動が出現してきた(食事動作等).理学療法としてはティルトテーブルを使った起立練習や起居動作練習等を行なっていた.下肢の活動も徐々に向上し,車椅子を両下肢で駆動する等が可能となった.しかし四肢の筋力低下に加え体幹の筋力低下も著しかったため重力に抗した動作が困難であり,起居動作は介助を要し,端座位も見守りが必要な状態であった.10月の時点で介助での立位が何とか可能となったものの体幹を過伸展させ,依然として体幹の筋活動が乏しい状態であった.一般的に頭部外傷では運動障害が軽度であることが多いとされている.本症例においても四肢の随意性が良好であったため,廃用性筋萎縮が動作を阻害している主体であると考え,長期的には歩行の獲得も可能と思われた.そこで11月9日より体重免荷式歩行訓練装置を使用した歩行練習を開始した.はじめは免荷量を30kg(体重60kg)に設定し徐々に免荷量を減らし,歩行距離を伸ばしていった.1月21日の時点で免荷量0kgで100mほど連続で歩行可能となり体重免荷式歩行訓練装置の使用を終了とした.2月17日の時点で前輪付の歩行器を使用し病棟での歩行を行なっている.短距離であれば支持物を使わない歩行も可能である.ADLはFIMで82点となっており,高次脳機能障害が残存しているので認知項目の点数は低めだが運動項目の点数には大幅な向上が見られた.
    【考察】本症例において体重免荷式歩行訓練装置の使用前後で,歩行能力,ADLに改善がみられた.今回の結果より体幹機能が著名に低下している患者に対して体重免荷式歩行訓練装置を使用することは歩行能力の向上に有効であるという可能性があることが示唆された.
骨・関節
  • 都築 孝夫, 板垣 豪, 笹崎 愛, 片山 智尋, 工藤 海査生, 岩城 歩美, 田村 剛, 堤 真一, 加家壁 正和, 前島 絢, 赤坂 ...
    セッションID: 43
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】頸椎症状患者は外来整形外科理学療法の治療対象として一般的である。今回、PT 開始時、頸部の構築学的要因、軟部組織、神経ダイナミックに対して理学療法を実施したものの十分な効果はみられなかった症例を担当した。胸椎および姿勢に対するアプローチにより症状が改善された。治療経過および知見について若干の考察を含めて紹介する。
    【症例紹介】診断名:C5/6 ヘルニア・胸郭出口症候群(斜角筋症候群)疑い 年齢:55 歳  性別:男性X-P :軽度頸椎症変化MRI :C5/6 軽度ヘルニア 主訴:左手の痺れ
    【初回理学療法内容】頚椎へのアプローチ、胸郭前方へのアプローチ、神経系モビライゼーションを行ったが効果的ではなかった。そこで、胸郭後方と姿勢に対するアプローチ を展開することを考え、胸郭後方へのアプローチ、姿勢筋再教育、姿勢指導を行ったところ、姿勢の改善により症状が改善した。
    【理学療法経過】 全4回にて理学療法は終了
    1回目は評価及び試みの治療
    2回目は治療後の様子の聴取
    3回目は姿勢保持筋の確認と姿勢指導
    4回目は今後の注意点を説明
    【まとめ】画像所見や、頚椎由来の症状があったため、頚椎および神経組織を含めた周辺組織に対するアプローチを検討した。症状の改善が見られなかったため、症状の影響を及ぼす領域を拡大して、胸郭後方や姿勢筋、姿勢再教育の観点でアプローチすることにより有効な効果が得られた。
  • 宮本 梓, 大高 洋平, 田村 貴行
    セッションID: 44
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    zero-position(以下ZP)に関する研究は、1950年にSAHAが提唱し以降多くの報告がされてきた。しかし、SAHAの提唱するzero-position肢位にて必ずしも上腕骨長軸と肩甲棘長軸が一致しない例を臨床で経験する。その中には重りを持つことで上腕骨長軸と肩甲棘長軸が一致し、はじめてZPが形成される例もいる。そこで本研究の目的は、この現象の検証を行うことである。
    【対象と方法】
    肩関節に愁訴のない健常成人17名17肩(男性10名・女性7名、平均年齢27.2±4.1歳)を対象とした。また全例に不安定性の有無を確認するためsulcus test(以下ST)とload and shift test(以下LST)を実施した。方法は医師・放射線技師の立会いのもと、負荷なしと負荷あり(2kg)にてレントゲン撮影を行い、同肢位の筋活動も測定した。レントゲン撮影はzero-position撮影にて行い、上腕骨長軸と肩甲棘長軸のなす角を計測した。筋活動は筋電図(Noraxon社製Myosystem1200)を用いて測定し、筋電波形は全波整流化した後、積分筋電図(IEMG)に換算した。さらに、徒手筋力測定に準じた最大等尺性収縮時のIEMGで除して%MVCを算出した。導出筋は前鋸筋、僧帽筋、三角筋、棘下筋とした。
    【結果】
    レントゲン所見において、175°以上をZPと定義し分類を行った。その結果、A群:負荷なしではZPではないが負荷ありではZPとなる、B群:負荷ありなしともにZPではない、C群:負荷ありなしともにZPである、の3群に分類可能であった。各群における角度変化はA群で164.0°/176.9°(負荷なし/負荷あり)、B群は163.0°/164.0°、C群は176.0°/177.0°であった。不安定性の評価においては、A群では4名全例でST、LSTとも陰性、B群では6名中2名でLST陽性、C群では4名中3名でST陽性、全例でLST陽性であった。筋電図は各群に有意差は認められなかった。
    【考察】
    不安定性の認められないA群で、負荷時のみにZPを形成し負荷のない状態ではZPを形成していなかった。このことは、負荷のない状態では機能的な安定肢位にしなくても、すでにある程度の安定性が図られたためと考えられる。逆に不安定性の認められるC群では、負荷なしの状態においても既にZPを形成していた。これは、不安定性により機能的安定性を増す機構が負荷のない状況から作用している結果と考えられた。今後は、症候性の肩関節不安定性を有する患者での検討を行い、臨床的意義について検討する必要がある。
  • ―手術療法と保存療法の臨床経過―
    仲島 佑紀, 菅谷 啓之
    セッションID: 45
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】肩関節拘縮は原因が明確でない特発性、いわゆる五十肩と、明らかな外傷後に続発する外傷性や糖尿病に合併する糖尿病性がある。特発性では保存療法が選択されることが多いが、外傷性・糖尿病性は難治性のものが多く手術を要する場合も少なくない。しかし、特発性肩関節拘縮の中でも難治症例において手術療法が選択されることがあり、最近では関節鏡視下で低侵襲下に関節包全周切離が行われるようになった。
    今回、難治性の両側特発性肩関節拘縮に対し、左肩に手術療法、右肩に保存療法を施行し、長期経過を追うことが可能であった症例について報告する。
    【目的】本症例を通し、特発性肩関節拘縮の治療選択について考察を行う。
    【症例・現病歴】61歳女性(初診時56歳)、主婦、Hopeはジムでの運動再開であった。2003年1月、左頚部・左肩に夜間痛・可動域制限が生じた。3月に来院し、左特発性肩関節拘縮の診断で理学療法開始となったが症状改善に乏しく、6月に関節鏡視下関節包全周切離術を施行した。術翌日より理学療法を開始した。
    一方、同年8月より徐々に右肩に夜間痛・可動域制限が生じ、12月に右特発性肩関節拘縮に対し理学療法開始となった。
    【経過】日常生活動作が自覚的に改善したのは、左肩は術後6ヶ月(挙上165度・下垂位外旋60度)、右肩は理学療法開始後10ヶ月(挙上150度・下垂位外旋15度)であった。挙上における最終可動域獲得時期は、左肩は術後9ヶ月(170度)、右肩は理学療法開始後21ヶ月(165度)であった。
    また下垂位外旋における最終可動域獲得時期は、左肩は術後15ヶ月(70度)、右肩は理学療法開始後33ヶ月(60度)であった。なお、左肩術後30ヶ月(右肩理学療法開始後24ヶ月)でジムでの運動完全復帰となった。
    【考察】本症例における手術療法・保存療法の治療経過を比較すると、手術療法では日常生活動作・可動域の早期獲得が可能であった。一方、保存療法では治療期間が長期化するものの最終的には手術療法同様のレベル獲得が可能であった。よって、本報告は今後の難治性特発性肩関節拘縮における患者個々のニーズに応じた治療方針を選択するための一助になるものと考えられる。
  • 村上 愛, 国分 貴徳
    セッションID: 46
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】今回,肩関節周囲炎の診断で,上肢挙上動作困難という臨床上頻回に遭遇しうる症状を呈した症例の治療を経験した.症例の病態を把握する上で,評価を通して頸部における絞扼性神経障害の関与を疑い,その点を考慮した上で理学療法を施行したところ,良好な結果と若干の知見が得られたので報告する.
    【症例紹介】症例は63歳の男性である.受診1週間前より頸部痛を生じていたが消失し,その後左上肢挙上動作が困難となった.平成19年12月18日に当院受診し,左肩関節周囲炎と診断され同日より理学療法開始となった.主訴は左上肢の挙上動作困難で,初診時より疼痛の訴えは見られなかった.尚,今回の報告にあたり書面にて説明の上,同意を得た.
    【理学療法評価】初診時,肩関節屈曲は自動運動で約30度,動作時体幹の右側屈・左回旋の代償が出現していた・安静時・動作時とも疼痛の訴えはなく,他動運動では全可動域屈曲可能,結帯動作も制限なく行えていた.頸部は右回旋時に左側に伸張感,伸展約20度で左側僧帽筋に疼痛が出現した.整形外科的テストは, drop arm sign陽性,Tinel徴候陰性で,Impingement signはNeerの手技で陰性であった.当初の臨床所見から腱板損傷が疑われたが,後日撮影したMRI画像所見では特に問題を認めなかった.
    【治療方針・治療】本症例は誘引なく上肢の挙上動作に制限をきたしており,またその経過と臨床所見から,頸部の絞扼性神経障害による左肩甲帯周囲筋群の機能不全を主たる問題点と考え理学療法を実施した.具体的には神経絞扼の原因となっている頸部筋のrelaxationを図るため,抗重力位における体幹・頸部alignmentの改善を図り,その上で肩甲上腕リズムの再建を目指した.
    【結果】週1~2回の頻度で,2ヵ月間で10回の治療を実施した.結果,肩関節屈曲角度は約160度まで改善し,頸部の運動時痛も消失したが,頸部右回旋時の違和感は残存した.
    【考察】誘引なく上肢挙上動作困難をきたした症例に対し,絞扼性神経障害に着目し治療を実施した.肩甲帯周囲から上肢帯の筋群を支配する神経は,頸膨大から出る第5~8頸神経および第1胸神経に由来し,複雑な分岐と合流を繰り返して腕神経叢を形成している.腕神経叢は,斜角筋隙,肋鎖間隙および小胸筋間隙という狭窄部位を通過するため神経絞扼が生じやすい.本症例においては,初診時の上肢挙上動作時に三角筋・棘上筋ともに収縮が不十分であったことから,第5・6頸神経由来の腋窩神経,肩甲上神経の絞扼を考え治療を施行し良好な結果が得られた.肩関節周囲炎という診断名は,一種の症候群の総称であり,その病態は症例により多岐にわたる.その病態を把握する上で,本症例の治療を通して得られた知見は,その一助となりうる可能性が示唆された.
  • ―感染コントロールに難渋した症例―
    藤沼 佳奈, 高橋 賢, 木賀 洋, 石井 義則, 野口 英雄, 武田 光宏
    セッションID: 47
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】変形性膝関節症では,高い除痛効果が期待できる人工膝関節全置換術(以下TKA)を施行する患者は多いが,約1%の割合で術後感染症を合併するとされている.当院では,平成10年2月~平成18年10月までに施行したTKA220例中1例(0.5%)に術後感染症を認めた.今回,右TKA術後難治性感染症によりコンポーネント抜去に至り,荷重関節としての膝関節が機能しない状態が長期化した症例に対し,疼痛や炎症を管理しながらのリハビリに難渋したが,膝関節硬性装具の導入や精神的ケアも含め,医師・看護師・理学療法士が連携して関わった結果,術前程度の日常生活動作が可能となった症例を経験したのでここに報告する.
    【症例紹介】82歳,女性,元保健師 既往歴:子宮癌・大腸癌・左変形性膝関節症・腰椎圧迫骨折・右脛骨骨折
    【経過】平成15年頃両膝痛出現し,平成18年1月当院受診.術前検査において貧血高度・便潜血を認め,他院にて精密検査の結果大腸癌と診断され,同年3月大腸癌の手術施行.同年10月に当院入院.術前,右膝関節可動域は屈曲/伸展100°/-20°であり,移動はピックアップ歩行(以下歩行器)又は車椅子にて自立.同月右TKAを施行し,翌日より全荷重,立位練習を開始する.1週間後,歩行器で約30m歩行可能となるが,翌日疼痛増悪・出血が認められ,血液検査の結果CRP高値となりリハビリ一時中止となる.その後,患部外運動のみ許可され,残存機能維持目標にリハビリ再開する.その間,2度関節内洗浄するが感染症状治まらず,抗生剤含有セメントスペーサー留置を施行し立位可能となる.しかし,疼痛および感染コントロール出来ず,平成19年3月中旬に人工関節抜去術施行となる.その後,化学療法が効を奏し,右下肢へのリハビリが再開された.下肢筋力・耐久性は向上し,膝関節硬性装具により側方動揺を抑える事で疼痛も軽減した.入院中の外泊時に術前程度の日常生活動作が可能となり,屋内歩行が自立したため同年9月上旬自宅退院となった.
    【考察】本症例は術後感染症への治療に難渋し,炎症症状の管理の中でのリハビリという状態が長期化した.荷重や運動量に制限が続き,歩行への不安が増していったが,他患者や看護師との会話や屋外への散歩等で気分転換を図り落ち着きを取り戻した.また本人・家族が医療従事者であり,治療方針について十分な理解を得た上で様々な治療を行う事が可能となった.本症例を経験して,本人・家族への説明や受け入れが治療に大きな影響を与え,医師・看護師と連携をとり治療方針を決定し,チームでの関わりの重要性を改めて実感することができた.
  • 新谷 益巳, 宇良田 大悟, 岩崎 翼, 田村 貴行, 大高 洋平, 古島 弘三, 辻野 昭人, 伊藤 恵康
    セッションID: 48
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】肘関節内側側副靭帯(以下、肘関節MCL)再建術後リハビリテーションでは、時期に応じた適切なトレーニングが重要である。また、長期の投球制限による精神的ストレスも考慮しなければならない。当院では医師による管理の下、外来での運動療法、定期メディカルチェック、再発予防を含めた投球動作指導を実施している。しかし、肘MCL再建術後の理学療法アプローチ、術後の復帰状況の報告は少ない。そこで、当院における術後リハビリテーションの紹介と野球復帰について以下に報告する。
    【対象】2006年5月~2007年5月まで合併疾患のない肘関節MCL再建術を行った141例中、術後リハビリテーションと投球指導を含め8ヶ月以上を経過し、追跡調査可能であった54名を対象とした。年齢は平均18.9±4.3歳。
    【方法】術前と術後8ヶ月の患側肘関節可動域の測定および術後の野球復帰状況を電話にて聞き取り調査を行った。聞き取り調査時期は、平均経過期間81週±27週であった。1)野球復帰状況2)全力投球の可不可3)術後プログラムに対する満足度について問診した。
    【術後プログラム内容】伊藤らによる肘関節MCL再建術後プログラムを用いて、術後から8ヶ月リハビリテーションを行っている。実施する上で再建靭帯に余計なストレスを加えないことが重要となる。肩関節外旋訓練は靭帯の強度の回復に合わせて実施している。術後4週:ギプス除去後、肘・手関節自動運動とウォーキング指導。6週:手・肘関節の筋力強化。8週:肩甲帯筋力強化を含めた全身コンディショニング訓練。10週:肩腱板筋強化。12週:真下投げおよびシャドウピッチング。4ヶ月:ネットスロー開始。4台のビデオカメラを用い動画にて投球動作を撮影し投球指導を行う。その後、5ヶ月:キャッチボール開始。8ヶ月:全力投球を許可している。
    【結果】肘関節可動域は、術前屈曲/伸展137.6±5.1°/4.4±10.7°。術後屈曲/伸展135.8±7.7°/1.5±11°であった。問診結果では、1)全例で野球に復帰していた。2)44名が全力投球(調査時期85±26週)開始しており、10名がまだ全力投球(調査時期61±24週)開始していなかった。3) 術後プログラムに対する満足度は、満足43名、普通10名、やや不満は1名、不満は0名であった。
    【まとめ】術後の野球復帰状況においては、肘関節可動域で術前に近い状態に回復し、活動状況に差はあるものの全例で野球復帰可能であった。全力投球開始していない選手は、術後経過期間が短いため今後の追跡調査が必要である。術後長期の投球制限が必要とされるがプログラムに対する満足度は概ね良好であり、プログラムに沿ったリハビリテーションが精神的ストレス軽減にも役立つものと考える。
  • 星 朋郎, 武石 浩之, 土方 浩美
    セッションID: 49
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    当院では、臼蓋形成不全に起因する変形性股関節症に対し寛骨臼回転骨切り術(Rotational Acetabular Osteotomy:以下RAO)を実施している。今回、当院におけるRAO術前、術後のクリニカル・パスを紹介し、術前と術後の筋力の変化とクリニカル・パスのバリアンスについて報告する。
    【対象】
    調査対象は、当院において2005年9月から2008年2月の期間にRAOを施行した女性63例63股である。病期は前股関節症25例25股、初期35例35股、進行前期3例3股であった。平均年齢は33.9±8.9歳であった。術前の日本整形外科学会股関節機能判定基準の平均は76.7±16点であった。
    【クリニカル・パス】
    術前の介入:身体機能評価・筋力トレーニング指導・術後に想定される日常生活活動(以下ADL)指導を実施。筋力の評価は、ハンドヘルドダイナモメータ(ANIMA社製μTas‐1)を使用し、約5秒間の最大努力による等尺性収縮を2回行わせ、最大値を体重で除した値を筋力値としている。測定する運動は股関節屈曲・伸展・外転・内転、膝関節伸展である。この筋力評価は術後8週目にも実施する。また、入院前の身体活動量の評価には、国際標準化身体活動質問表を使用している。
    術後の介入:手術の翌日より疼痛を含めた全身状態の評価に加え、非術側下肢の等張性筋力訓練、術側の等尺性筋力訓練を開始。
    術後4日目:車椅子乗車。病棟トイレにて移乗・下衣の扱いについての指導。
    術後5日目:訓練室にて筋力訓練を開始(非術側は重垂・セラバンドを使用、術側は状態に応じて自動運動・自動介助運動)。関節可動域(以下ROM)訓練は、疼痛が出現しない範囲内において自動運動でのみ行い、他動による積極的なROM訓練は行わない。
    術後6週目:体重の1/3荷重にて歩行訓練を開始。
    術後7週目:体重の2/3荷重にて歩行訓練を開始。
    術後8週目:全荷重にて歩行訓練開始。退院に向け、退院後の生活状況や身体機能に応じたADL訓練及びホーム・エクササイズを指導。
    退院時の歩行は、原則として両松葉杖にて退院となる。片松葉杖・T字杖などへの歩行様式の変更は、股関節外来での評価に基づき適宜進められる。
    【術後筋力の変化とバリアンス】
    術前との筋力の比較では、股関節屈曲で平均57.9%、伸展で平均90.0%、外転で平均60.8%、内転で平均65.1% 膝関節伸展で平均72.2%であった。
    入院期間中における筋力は術前の値まで回復しないものの、クリニカル・パス通り退院しており、術後合併症や疼痛増強、ADLに支障をきたす筋力や歩行耐久性の低下といった負のバリアンスによる入院期間延長例はなかった。
  • 小林 朋美, 川島 敏生, 栗山 節郎, 大見 頼一, 前田 慎太郎, 宮本 謙司, 尹  成祚, 長妻 香織, 浅野 晴子, 中澤 加代子 ...
    セッションID: 50
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/08/01
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    【目的】
     近年、膝前十字靱帯(以下ACL)損傷予防への関心が高まっている。特に非接触型ACL損傷はスポーツ動作時に頻発しており、経験的には着地動作やストップ動作などに膝外反位となり受傷することが多いようである。
     本研究では、スポーツ動作中の動的アライメントを評価することを目的に、片脚着地動作と片脚スクワット動作において膝外反角を比較し、片脚スクワットの評価から着地動作のアライメントを推察することが可能であるか否かを検討したので報告する。
    【対象と方法】
     健常な高校女子バスケットボール部員19名を対象に、計測課題は30cm台からの片脚着地と平地での片脚スクワットとした。計測脚は全て右脚で行い、それぞれ2回ずつ計測した。動作の計測は3次元動作解析装置を使用した。マーカーは対象者の両上前腸骨棘、右大腿骨大転子、右膝蓋骨中心、右足関節内外果中心に取り付け、得られた座標をもとに前額面上における膝外反角度を算出し、それぞれ2回の試技の平均値をとった。
     片脚着地動作と片脚スクワット動作の関連性は、得られた膝外反角度についてピアソンの相関係数(有意水準5%)を用いて比較検討を行った。また、各動作1回目と2回目の試行間で級内相関係数を用い、各試行の再現性について検討した。
    【結果】
     片脚着地動作と片脚スクワット動作の間で、両者の膝外反角に有意な相関が認められた(r=0.51 、p<0.05)。また、各2回の試行間での再現性を示す級内相関係数は、片脚着地動作と片脚スクワットでそれぞれ、0.797, 0.935であり、いずれも高値を示した。
    【考察】
     今回の結果から片脚スクワットで膝外反角が大きい場合、着地動作においても同様のアライメントを呈することが示唆された。
    ACL損傷と下肢アライメントとの関連については確証の持てるevidenceは発見されていないのが現状であるが、経験的には膝外反位となり受傷する症例を多いようである。ACL損傷予防の観点からも下肢の動的アライメントの評価は重要であり、それは競技特性を考慮したより実際のスポーツ動作に近い評価が必要である。臨床においてスポーツ動作の評価を行うのは難しいが、今回の結果から片脚スクワットの評価から着地動作でのアライメントを推察できることがわかった。各動作に再現性が認められることからも、妥当な評価方法であると考えられる。
     またACL再建術後の理学療法においても、片脚スクワットであれば術後早期から実施可能であり、この評価を用いて不良アライメントを呈する場合には、それを矯正するアプローチを早期から実施できると考える。
     以上より不良アライメントの有無を評価する際、その方法の一つとして片脚スクワット動作は、着地動作の動的アライメントを推察するのに有用だと考えられる。
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