関東甲信越ブロック理学療法士学会
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第29回関東甲信越ブロック理学療法士学会
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口述発表6(教育・管理系)
  • 飯塚 陽, 高尾 敏文, 田中 直樹, 宮本 明輝美, 秋山 大, 金森 毅繁, 柳 久子, 奥野 純子, 小関 迪
    セッションID: 51
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】<BR> 医療法人筑波記念会(以下、当法人)リハビリテーション部では、卒後研修制度として、入職後からおよそ5年間をかけて半年毎に病院の急性期(脳神経外科、整形外科、内科、外科)、回復期、維持期療養棟と老人保健施設、訪問リハビリ等を計画的にローテートするシステムをとっている。今回概ねローテートが修了する臨床経験5年目のリハ専門職(PT、OT、ST)12名に対して、総括的評価を目的にOSCE(客観的臨床能力試験)を実施した。OSCEは臨床能力を測定する評価法として有効であるものの、実施には評価者のマンパワーが多く必要、時間を要する、実施場所が必要等の負担が多く、簡易的に行う試験としては課題が多い。そこで今回、臨床経験6年目以上のリハ専門職に標準模擬患者を依頼し、従来の模擬患者用評価に加えて評価者用の評価も実施してもらい、標準患者と評価者の兼務の可能性について検討した。今回の受験者対象は、PT7名(男性4名、女性3名)とした。<BR> 【方法】<BR> OSCEは(1)急性期脳卒中疾患(2)急性期内部疾患(3)回復期脳血管疾患(4)維持期神経難病(5)リハ総合実施計画書の説明の5つのステーションからなり、同日に医療制度、リスク管理、院内組織などに関する内容の筆記試験も実施した。評価はステーション毎に院内と外部からなる評価者2名と標準模擬患者1名の計3名で行った。<BR> 【結果】<BR> 各ステーション別の得点は、院内評価者、外部評価者、標準模擬患者の順で(1)69.4±10.3、76.0±14.9、72.2±14.6(2)50.3±9.5、44.7±14.7、53.5±11.4(3)65.3±13.0、77.6±8.5、55.8±17.1(4)68.4±12.3、73.6±11.2、72.5±7.7(5)67.1±17.7、67.1±19.6、71.7±12.3であり、(1)ステーションの院内評価者と標準模擬患者の相関以外はいずれも有意な正の相関を認めた。(r=0.75、p<0.05)<BR> 【考察】<BR> 一定以上の臨床経験のあるリハ専門職であれば、標準模擬患者を演じながら評価者としての視点で評価をすることが可能であると考えられた。標準模擬患者が並行して評価者としての評価が行えることで、OSCE実施時の負担要因であったマンパワーの問題が、少しでも軽減される可能性が示唆された。
  • 発表形式を導入した試みについて
    西潟 央, 村永 信吾
    セッションID: 52
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】臨床実習カリキュラムには見学(早期体験)実習、評価実習、総合臨床実習の3つがあり、見学実習は主に1・2年生時に行っている。その内容は医療施設の説明を聴くなどインプット中心の学習であり、当施設においても見学と講義形式のプログラムを行ってきた。2009年度は3校の見学実習を受け入れ、事前学習内容を提示した上で実習成果としてグループ発表と質疑応答を行った。つまり見学実習で学んだ事を表出し、質疑の中でその内容をフィードバック(アウトプット)することを試みた。これらの実習プログラムを終了後にアンケートを実施したのでこれを報告する。 【方法】4年制大学1年生5名、4年制大学2年生12名、4年制専門学校1年生24名の理学療法学を専攻する学生にアンケートを行った。病期ごとの疾患の特徴と理学療法士の役割を調べておくことを事前学習とし、実際の見学で見て、聞いて、感じたことをまとめて発表する課題を提示した。アンケートは、5段階の順序尺度スケール(事前学習の必要性、事前学習と見学実習での差、発表会の出来具合、発表形式の必要性など)と実習全体の感想で構成した。 【結果】 事前学習内容の提示については実習生全員が必要と回答し、約70%が当施設のウェブサイトを参考にしていた。事前学習内容と実際の見学での違いや差については約90%が違いや差を感じた。発表の出来具合については26.3%が十分な発表でないと回答し、その理由として「発表時間内に要領よく説明できなかった」とする感想が多くみられた。見学実習において今回のような発表形式は必要かという問いに対しては、97.4%が必要と回答し、その理由に今後の実習場面や将来の学会などに活かせることを挙げていた。 【考察】 見学実習は早期の臨床経験であり、授業内容と臨床場面での差を感じる機会である。感じた差や内容を表出し必要に応じてフィードバックすることで学習内容の定着を確認でき、またこれから迎える臨床実習に向けての学習課題や意欲に結びつくことが期待できると考え今回の学習形態を試みた。事前学習の提示は、実習の全体像を捉える点や新しい知識習得という点で必要であることがアンケートから覗うことができた。実習で学んだことをまとめて発表する点については、資料を作りやまとめる過程が大変であったとする回答が多く、発表の出来具合についてはバラツキが一番多い項目となった。しかし質疑応答をすることで「自分の考えを整理できた」とするコメントが出ていたことから、我々が期待する学習成果を感じ取ることができた。今後も学校側と協働し、発表形式などアウトプット型学習の継続とその効果を検証していきたいと考える。
  • 2期生と3期生の比較
    加藤 研太郎
    セッションID: 53
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】  2001年に世界保健機構において国際生活機能分類(以下、ICF)が提唱された。本校では講義や臨床実習にて、ICF概念を用いた概念地図法(以下、チャート)を用いて学内教育に取り組んでいる。チャートは全体像の把握には適したツールであるが、生活障害の階層性や、活動制限と心身機能構造障害との因果関係の表現には不向きである。学生は問題点抽出からプラン立案までの統合解釈の整合性がなくなりやすい。今回新たな方法として、問題解決モデル(以下、モデル)を用いて統合解釈の整合性を調べたのでここに報告する。 【問題解決モデル】   問題解決を模式化すると、問題が未解決な初期状態と問題が解決された目標状態があり、問題解決を阻害している原因と解決策の4つの要素に分けることができる。これを理学療法プロセスに置き換えて、目標状態はゴール、原因は問題点、解決策はプランとした。これを問題解決の最小単位とし、生活障害の全体像を捉えるためにICFの参加制限・活動制限・機能障害・原因疾患の順に連鎖させて模式化する。 【方法】  対象は本校理学療法学科2期生(38名)と3期生(41名)とし、口頭にて研究目的を説明し、同意を得た。両学生ともに脳梗塞回復期と脳出血に糖尿病を合併した同一2ケースのレジメを作成した。2期生はチャートにて3期生はモデルにて統合解釈を行った。統合解釈は問題点抽出からプラン立案までの整合性を、同一採点官と採点用紙を用い50点満点のリッカート尺度にて指数化した。得られた値はSPSS(Ver.16)を用いて2標本t検定にて統計処理し、モデルの有用性を検討した。 【結果】  結果として、2ケースとも2期生に比べて3期生の統合解釈の得点が有意に高かった。(p<0.005) 【考察】  今回の結果の理由として以下のことが考えられる。チャートは各要因の関係性が表現しにくく、文章にて関係性を補足しなければならず、文章表現が苦手な学生は相手に思考過程が伝わりにくい。また、階層的な表現ではないため、自分の思考を整理することが難しいと考える。一方、モデルは参加制限から開始し、その原因を活動制限・機能障害へと順に進めることで流れが整理しやすい。また、活動制限と機能障害との関係性や生活障害の階層性が視覚的にも捉えやすく、整理しやすいためと考える。そのため、参加制限に至るまでの原因の関係性やそれぞれに対応するプランが明確になり、適切な統合解釈を行えたことが示唆される。しかし、モデルを用いても適切な統合解釈ができない学生もいたので、さらなる表現方法の改良が必要である。 【まとめ】  モデルは、臨床実習において学生が自分の思考過程の表現や整理をする際に有効なツールとなりえることが示唆される。
  • 蒋 讚奎, 吉田 哲也, 高田 祐, 古海 真希, 関口 春美
    セッションID: 54
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】  今回、4年次の総合臨床実習終了後の成績報告書のコメントをもとに、その結果から次年度に向けての課題の改善に取り組み、学生にとってより充実した総合臨床実習につなげることを目的とした。学生の総合臨床実習における現状を調査し、いくつかの知見を得たので報告する。 【方法】  4年次の総合臨床実習の成績報告書(コメント)の内容を分析した。対象は、理学・作業療法学科の学生、延べ147名だった。総合臨床実習終了後、指導者からの成績報告書をもとに、コメント欄に記載されている内容を良い点、課題点、問題点の三つに分類した。分析は、成績報告書の項目に沿って六つの領域(実習態度・意欲・適正、患者評価、治療の立案及び実施、再評価、記録・報告、基礎知識)で実施した。 【結果】  総件数は、PTS・OTS 合わせて1,053件であった。学習態度・意欲・適正に関しては、良い点48.0%、課題点21.3%、問題点30.7%であった。患者評価に関しては、良い点28.9%、課題点21.6%、問題点49.5%であった。基礎知識に関しては、良い点28.8%、課題点41.8%、問題点29.4%であった。 【考察】  今回の結果から良い点においては、学習態度・意欲・適正の項目がもっと多い割合を示した。これは、本校で以前から行っている「オアシス運動」が成果を上げているのではないかと考えられる。課題点においては、基礎知識の項目がもっと多い割合を示した。これは、ICFによるより実践的な患者評価の授業が行われてないことが原因ではないかと考えられる。問題点においては、患者評価の項目がもっとも多い割合を示した。これは、心身機能面にとらわれ過ぎた結果と、本校ではOSCEなど行っているものの、さらに具体的な症例を挙げての総合的な評価練習の不十分が原因ではないかと考えられる。 【まとめ】  今回の分析を通して、総合臨床実習における患者評価に対するより具体的な取り組みと実践的な評価の体験が必要であることが分かった。
口述発表7(理学療法基礎系)
  • ランドマークを用いて
    長田 一真, 石垣 直輝, 三上 紘史, 草木 雄二, 弥永 真史, 今泉 光
    セッションID: 55
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    近年、高周波プローブの飛躍的進歩により整形外科領域において超音波画像診断装置が活用されるようになっている。それに伴い脊椎安定化に関与する体幹深層筋である腹横筋について超音波画像診断装置を用いた研究は多く散見される。しかし、従来の研究では、筋骨格系を観察する際に必要となる画像上でのランドマークを設定した研究は少ない。今回、画像上にランドマークを設定し腹横筋厚測定の信頼性を検討した。
    【方法】
    健常成人16名[男性:16名、平均年齢:28.5±4.7歳、平均身長:172.1±3.97 cm、平均体重:62.8±3.7kg]、両側腹横筋32部位を対象とした。 研究は、当院倫理委員会の承認と被験者には研究の主旨と方法に関して説明を行ったあと承諾を得て実施した。
    腹横筋厚の計測は超音波診断装置(HITACHI社製)リニア型プローブを使用し、その操作及び計測は、機器の使用に熟練した同一の放射線技師が実施した。腸骨稜最頂部を画像上にランドマークとして描出した。測定肢位は、背臥位とした。両側腸骨稜最頂部を各々3回測定した。測定間に5分の休憩をいれた。
    抽出筋厚は、画像上のランドマークより15.0mm臍側の筋厚とし、安静時背臥位の静止画像から計測した。 記録した超音波静止画像上の腹横筋厚は、筋膜の境界線を基準に0.1mm単位で測定した。
    級内相関係数(ICC)を算出し、検者内信頼性を検討した。 また、Spearman-Brownの公式を利用して高い信頼性が保証できる測定回数を検討した。
    【結果】
    16名計32部位の腹横筋厚測定値の検者内信頼性は、ICC:0.831であり、強い相関が示された。目標とする係数値を0.99としてSpearman-Brownの公式による計算で、測定回数は2回となった。
    【考察】
    従来の先行研究では、超音波画像上でのランドマークがなく、体表に定めた測定部位での計測が多く散見される。今回の研究では、画像上にランドマークを設定したことで、描出画像の判断がつかない、信頼性にかける等の不都合を解決できると思われる。
    また、機器の操作に熟練した一人の検者が2回の測定を行えば、腹横筋厚の信頼性の高い値が得られると示唆された。
    今回の腹横筋厚測定方法は、今後の客観的な腹横筋機能評価の一助として活用できると示唆される。
    【まとめ】
    超音波画像診断装置による腹横筋厚の測定を画像上にランドマークを設定し、その信頼性について検討した。今回の測定は、2回の測定を行えば信頼性の高い方法となりえる。
  • 田中 優路, 加藤木 丈英, 白井 智裕, 園田 優, 齋藤 義雄, 小谷 俊明
    セッションID: 56
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     腱板機能低下症例や肩甲胸郭機能低下症例等の理学療法
    では腱板機能訓練と肩甲胸郭機能訓練を目的としたCuff-Y
    exerciseが推奨されている。しかしながら、動画において
    可視的な関節や筋肉の動きを確認している報告は非常に少
    ない。本研究の目的は、負荷量の異なるCuff-Y exercise
    において三角筋の断面積の変化をCine-MRIで測定し、最適
    な訓練時の負荷量を検討することである。
    【方法】
     対象は、健常者13名13肩(男性7名:女性6名,年齢28±4.66
    歳、全例右肩)とした。無負荷Free(以下F群)と2種類の負荷
     (Thera-Band社製TUBING Yellow(張力:0.55kg、Green(張力
    :2.73kg)を使用し(以下Y群、G群)それぞれ3群で肩関節外旋
    自動運動を行わせた。その運動中に大結節下縁をとおる横断
    面をスライス面に設定しCine-MRIを撮像した。運動中の肩関
    節外旋の補助動筋である三角筋後部繊維の断面積の変化を観
    察し、開始前と終了時の三角筋全体の断面積を測定した。
    【結果】
     断面積:全13名において、三角筋の断面積の差はF群と比較
    してY群とG群では有意に大きかった。(p<0.05)
     男女差:男性7名:女性6名において、男性と比較して女性
    の方が有意に断面積の差が大きかった。(p<0.05)
    【考察】
     負荷のない外旋運動では、開始前と最大外旋時の断面積の
    差が少なく、これは棘下筋と小円筋が選択的に働き、補助動
    筋である三角筋後部繊維の関与が、少ないことを示唆してい
    る。負荷が増加するにつれて断面積の差が大きく、三角筋後
    部繊維の収縮が強くなっている可能性が考えられた。負荷を
    上昇させると、Outer Muscleの収縮を促進し、筋バランスが
    不安定となる。また女性の方が男性より断面積の差が大きく
    訓練の効果がより低いと考えられた。研究前は、三角筋後部
    繊維は、負荷量の上昇に伴って筋腹が膨隆し断面積が増加す
    ると考えていた。しかし実際は、三角筋後部繊維が平坦化す
    るように、収縮し断面積が減少したことがCine-MRIを用いて
    動画で観察できた。その理由として臥位にて肩関節の外旋運
    動を行ったことから、肩甲骨が固定され、肩甲骨の内転が起
    らず、広背筋によって三角筋後部繊維が引っ張られるように
    平坦化したと推測した。Cuff-Y exerciseの外旋運動では、負
    荷なく外旋運動を行うことで、外旋の補助筋である、三角筋
    後部繊維の関与が少なく棘下筋・小円筋中心の訓練が可能で
    あることが、動画から確認された。運動を視覚的、定量的に
    評価することができるCine-MRIは有用であった。
    【結語】
     運動を視覚的、定量的に評価できるCine-MRIは有用であった。
  • 村田 紘志, 関口 学, 亀井 実, 富澤 紀信, 浅川 康吉
    セッションID: 57
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     今回、超音波診断装置による腹横筋筋厚測定について測定-再測定における差を明らかにするとともに、筋厚や対象者の体格がその差と関連するか否かを検討した。

    【方法】
     対象は女性11人(年齢85.2±6.3歳、身長146.2±7.2cm、体重46.3±10.3kg、BMI21.5±3.5)とした。皆極度な円背がなく、30分程度の背臥位保持が安楽に可能であった。測定機器には超音波診断装置(GE横河メディカルシステム社製 LOGIQ Book X-P)を用いた。検者は実験前に十分な練習を行った理学療法士1名とした。測定姿勢は背臥位、測定部位は対象者の右腹横筋とした。計測は先行研究を参考に、前腋窩線上にて、肋骨下縁と腸骨稜の中央部から2.5_cm_内下方の位置で、安静呼気終末にあわせて測定した。筋厚は腹筋層筋膜が明瞭で平行線となるまで押した際の画像から測定した。測定は一回目の測定を行った後に、一度プローブを離し、あらためて測定姿勢を整え直してから二度目の測定を行う方法で二回連続して測定した。一回目と二回目の筋厚の差(二回目の値-一回目の値)を誤差量として算出し、誤差量と筋厚および年齢、身長、体重、BMIとの関係をspearmanの相関計数を用いて検討し、有意水準は5%未満とした。
     なお、本研究の実施に際しては対象者全員に対して口頭にて研究内容を説明し同意を得た。また、研究は臨床研究ガイドラインを遵守して実施した。

    【結果】
     一回目の測定は最小値0.8mmから最大値2.7mmで平均1.8mm±0.6mmであった。二回目の測定は最小値0.8mmから最大値2.6mmで平均1.7mm±0.6mmであった。一回目と二回目との測定の誤差は-0.3mmから+0.1mmに分布した。この誤差量と筋厚および年齢、身長、体重、BMIとの間に有意な相関は認めなかった。

    【考察】
     高齢女性の腹横筋厚は最小値0.8mmから最大値2.7mmとおよそ3.4倍の差があり、腹横筋厚は個人差が大きいと思われた。測定に際しては-0.3mmから+0.1mm の誤差が生じる可能性が示されたが、この誤差量は測定された筋厚や患者の年齢や体格とは関係がないことが示唆された。

    【まとめ】
     高齢女性の腹横筋厚は個人差が大きい。その測定では-0.3mmから+0.1mmの誤差が生じるが、誤差量は筋厚や患者の年齢、体格とは無関係と考えられる。
  • 関口 学, 村田 紘志, 亀井 実, 富澤 紀信, 浅川 康吉
    セッションID: 58
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     超音波画像による大腿四頭筋筋厚の測定・再測定における誤差量と、日内変動の有無を検討することを目的とした。

    【方法】
     当院入院女性患者10名(84.6±6.3歳)を対象とした。診断名は大腿骨頚部骨折3名、脊椎圧迫骨折5名、上腕骨頚部骨折2名であった。測定肢は、大腿骨頚部骨折患者・既往に下肢の運動器疾患がある患者は健側、既往に下肢の疾患が無い患者は筋力が高い方とした。
     超音波診断装置(GE横河メディカルシステム社製LOGIQ Book XP)を使用し、測定前に十分な練習をした理学療法士1名が測定した。先行研究に基づき、肢位は椅座位で股関節・膝関節90°屈曲位、部位は大腿骨長の50%(大転子と大腿骨外側上顆の中点)で外側広筋上とした。
     測定は午前と午後の二度行い、いずれの場合も一回目の測定後、探触子を離し、改めて肢位を整えた後に二回目の測定を行う手順で二回連続して実施し、連続した二回の差を誤差量とした。また、午前二回の平均値と午後二回の平均値を算出し、午前と午後の平均値の差を日内変化量とした。
     なお、対象者全員に対し研究内容を口頭で説明し同意を得た。研究は臨床研究ガイドラインを遵守して実施した。

    【結果】
     対象者10名の外側広筋筋厚の平均値±標準偏差は、午前では一回目1.00±0.41cm、二回目1.00±0.41cmと差はなく、誤差量は-0.05~+0.07cmであった。午後では一回目0.93±0.33cm、二回目0.93±0.34cmであり、誤差量は-0.03~+0.05cmであった。
     中間広筋筋厚の平均値±標準偏差は、午前では一回目1.13±0.54cm、二回目1.12±0.52cmであり、誤差量は-0.08~+0.03cmであった。午後では一回目1.16±0.58cm、二回目1.16±0.57cmであり、誤差量は-0.05~+0.06cmであった。
     日内変化量は、外側広筋筋厚で-0.54~0.30cm、中間広筋筋厚で-0.15~0.24cmであった。

    【考察・まとめ】
     外側広筋筋厚では-0.05~+0.07cm、中間広筋筋厚では-0.08~+0.06cmの誤差が生じることが明らかになった。両筋について形態学的変化とみなすにはこの範囲を上回る変化量が必要と思われる。
     両筋ともに誤差量を上回る日内変化量が生じていた。これは、両筋の筋厚には日内変動がある可能性を示唆している。
  • 萩谷 英俊, 岩本 浩二, 冨田 和秀, 滝沢 恵美, 佐野 歩, 水上 昌文, 門間 正彦, 大賀 優, 居村 茂幸
    セッションID: 59
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】肩関節疾患における肩関節周囲筋の萎縮や腫張に対する理学療法評価は、従前より視診や触診を用いて左右差を比較し指標にする事が多く、そもそも筋の厚さに左右差がないという前提のもと行われている。加えて、筋厚は肢位で異なることも予想される。我々は肩周囲筋の中でも計測指標の設定が容易で、筋腹が皮直下にて計測できる棘下筋を対象とし、健常人の肩関節内旋・中間・外旋位の各測定肢位における棘下筋厚につき超音波診断装置(超音波検査)を用いて計測を試みたので以下に報告する。尚、研究に先立ち、対象者全員に、事前に研究の趣旨を十分に説明し、書面にて同意を得た後に実施した。
    【方法】対象は肩関節に疾患のない成人男性12名(右利き11名、左利き1名)で左右計24肩とした。対象年齢は 26.8±3.7歳、身長 171.6±3.8cm、体重67.5±8.7kgであった。計測には本多電子社製CONVEX SCANER HS-1500を用いた。7.5MHzのリニアプローブ使用し、全て計測は同一の検査者が実施した。 棘下筋厚の計測部位は、皮下に棘下筋のみを計測できる部位として肩甲棘内側1/4で30 mm尾側の筋腹にマーキングを行い観察した。計測肢位は椅子坐位で前方にテーブルを置き、体幹軸は床と垂直、上腕は体側に付けて床と垂直、肘関節90度屈曲位、前腕回内外中間位とした。その肢位から上腕が体側からずれないように、第三者が対象者の肘関節を固定し、肩関節内外旋中間位及び、自動運動で最大肩関節内外旋位を保持させた計3肢位で各々左右計測をおこなった。計測は各肢位にて3回実施し,その平均値を採用した。統計処理は、SPSS16.0を用い、有意水準は5%未満とした。
    【結果】12名の棘下筋厚測定値(内旋位・中間位・外旋位)の平均値は、内旋位において(利き手/非利き手)8.6±1.6 mm/7.2±1.6 mmであった。中間位においては9.3±1.3/8.5±2.3 mmであった。外旋位において18.3±2.2 mm/16.8±2.7 mmであった。各肢位での利き手、非利き手における有意差は内旋位、中間位においては認めず、外旋位においては認められた(P<0.05)。
    【考察】利き手と非利き手で肩関節内旋・中間位において有意差は認められず、外旋位において有意差が認められた。このことから、肩関節外旋位では健常人に本来左右差がある事が示唆され、臨床場面において筋の萎縮・腫張等を左右差から判断する際には適さない肢位であると考えられた。左右差が生じた理由として、利き手と非利き手の筋収縮力の違いが考えられた。筋の収縮が関わっていることは、筋が収縮していない肩関節内旋・中間においては筋厚に差がなかった事からも考え得る。以上、左右差の筋厚評価では、関節肢位を考慮することが望ましいと考えられた。
    【まとめ】棘下筋厚は、肢位によって棘下筋厚に違いが生じる事が分かった。詳細な筋厚評価には、関節肢位を考慮する必要がある。
  • 佐野 歩, 岩本 浩二, 冨田 和秀, 萩谷 英俊, 水上 昌文, 滝澤 恵美, 門間 正彦, 大賀 優, 居村 茂幸
    セッションID: 60
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 近年、肩関節や側腹部診断に超音波診断装置を用いた研究が多数行われるようになってきたが、測定結果の信頼性について懐疑的な意見も見られる。超音波診断装置を用いた測定について、信頼性の検討は不十分であり確立されているとは言いがたい。そこで本研究では、筋腹が皮下にて計測できる棘下筋を対象に、超音波診断装置を用いて筋圧測定の信頼性の検証を目的に研究を実施した。
    【方法】 計測は本多電子社製CONVEX SCANNER HS-1500を用いた。プローブは周波数7.5MHzのリニアプローブを使用し、全て同一の検査者が実施した。被験者は肩関節に痛みを有しない健常成人男性12名、左右24肩とした。尚、研究に先立ちすべての被験者に対しヘルシンキ条約に基づき書面にて研究内容を説明し同意を得て行った。被験者の平均年齢は26.8±3.7歳、平均身長は171.7±3.9cm、平均体重は67.5±3.7kg、平均BMIは22.9±2.9であった。計測部位は、棘下筋のみを計測できる部位として、皮下で直接計測可能な肩甲棘内側1/4、30mm尾側の筋腹を採用した。計測肢位は椅子坐位で、体幹部は床に対し垂直となる中間位、上腕は体側につけ上腕長軸は床面と垂直に下垂し、肘関節90度屈曲位、肩関節内旋外旋中間位ならびに前腕回内回外中間位とする肢位で、前腕部の高さを調整したテーブルに乗せ、筋収縮が入らずに安楽に設置できるように配慮した坐位姿勢を基本測定姿勢とした。測定は肩関節中間位、肩関節最大外旋位、肩関節最大内旋位の3肢位である。肩甲骨へのプローブの接触角度は肩甲骨の傾斜角に垂直とし、傾斜角度を左右ともに測定した。肩関節自動運動での内旋・外旋以外の代償運動が行われないように、第三者による肘関節部の固定を得て実施した。再現性の確認のために測定は3日間実施し、毎回測定時間を同一時間帯に合わせて棘下筋厚を測定した。左右3肢位で得られたデータは、各肢位にて3回ずつ測定した際の計測値に対し、級内相関係数(ICC:Intraclass correlation coefficient)(1,3)を用いて検者内の信頼性について検討した。統計解析には計算ソフトとしてSPSS(Ver15.0J)を用い、有意水準は5%とした。
    【結果】 各測定肢位におけるICCは、右中間位0.781右内旋位0.831右外旋位0.971左中間位0.910左内旋位0.855左外旋位0.978となり、それぞれ高い信頼性を示した。
    【考察】 今回の測定方法により、棘下筋厚の測定値において高い信頼性が示された。測定肢位や検査方法に条件設定を細かく行ったことにより、再現性を高めることができた。今回、高い信頼性が示された理由として、棘下筋はランドマークが設定し易く皮下より棘下筋のみの計測が可能なため、機器測定条件の設定が簡便であることがあげられる。
    【まとめ】 超音波装置による棘下筋厚の測定は、今回の測定方法により信頼性の高い方法となりうる。
口述発表8(神経系)
  • 退院先と在院日数、基本動作能力による検討
    高野 敬士, 國澤 洋介, 武井 圭一, 松本 孝彦, 高山 祐子, 國澤 佳恵, 高倉 保幸, 山本 満
    セッションID: 61
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】我々は、被殻に限局した脳出血例(脳卒中外科学会CT分類の被殻出血1型:1型例)の基本動作能力について検討を重ね、理学療法(PT)のプロトコールを導入した。その結果として、発症後3週時点の基本動作能力はプロトコール導入前に比べて改善していることを報告した。本研究では、プロトコール導入前後の退院先・在院日数・転帰時の基本動作能力を比較し、プロトコール導入の効果を明らかにすることを目的とした。 【方法】対象は、当科でPTを実施した1型例の患者で、プロトコール導入前の34例(従来群)および導入後の14例(プロトコール群)とした。対象患者の平均年齢は、従来群が56±14歳、プロトコール群が62±10歳、血腫の平均長径(範囲)は従来群が34(18-59)mm、プロトコール群が32(14-41)mm、PT開始時の下肢ブルンストロームステージの中央値(範囲)は従来群が6(1-麻痺なし)、プロトコール群が6(2-6)であった。導入したプロトコールでは、PT開始時に立位保持が可能な場合は歩行練習へ移行すること、歩行自立度が見守り以上となった段階で階段昇降と床からの立ち上がり練習を追加することを設定した。プロトコール導入による効果については、従来群とプロトコール群それぞれの退院先(自宅退院もしくは転院)、在院日数、転帰時の基本動作能力(機能的動作尺度:Functional Movement Scale:FMS)を調査し、χ2検定・Mann-Whitneyの検定を用いて比較した(p<0.05)。 【結果】退院先は従来群で自宅退院が19例、転院が15例、プロトコール群で自宅退院が11例、転院が3例であり、自宅退院の占める割合が従来群56%に比べプロトコール群79%で高値を示した。退院先が自宅退院であった患者の在院日数の中央値(25%値-75%値)は、従来群が25(22-28)日、プロトコール群が13(8-29)日であり、プロトコール群で日数の短縮を認めた。同様に自宅退院患者のFMSの中央値(25%値-75%値)は、従来群・プロトコール群共に44(42-44)点であった。なお、全ての項目で2群間に有意差を認めなかった。 【考察】今回の結果から、プロトコールを導入し、練習内容の一部を統一して実施したことが、自宅退院に向けた基本動作能力の早期獲得に影響した可能性が示唆された。また、プロトコールは評価指標や進めるべきプログラムの方向性を設定することが可能であるため、導入の効果としては、各セラピストの知識や技術などいわゆる経験の差から生じるプログラムの遅れを少なくできた可能性が考えられた。今回の検討では統計学的有意差を認めなかったが、今後は1型例の症例を集積するとともに、自宅退院を念頭に置いたプログラムを検討していく必要があると考えられた。
  • 脳梗塞(右前頭葉外側・右高位頭頂葉外側)・不全麻痺患者のUSN改善を目的としたVision Trainingの試み
    長澤 良介
    セッションID: 62
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 今回、脳梗塞発症後、不全麻痺を呈し、左半側空間無視(以下USN)を疑われた症例を経験した。治療アプローチとしてVision Training(以下VT)を試行。VTを主とする理学療法(以下PT)により当院眼科受診、退院に至った経過を、考察を加えて報告する。 【方法】 60代前半の右前頭葉外側・右高位頭頂葉外側の脳梗塞を呈した女性に対して、VTボードとブロックストリングという器具を用いて治療を行った。 【結果】 線分二等分線 紙面上部:4cm⇒2.5cm 紙面下部:2cm⇒7.5cm 10m歩行 11秒0(20歩):109歩/分⇒10秒1/(19歩):112歩/分  【考察】 本症例は、H21.9.29に脳梗塞発症、当院にH21.11.25に転院、H21.12.24までPTを継続した患者様である。線分二等分検査を試行、1cm以上の右への偏位があり、USNを疑った。VTで両眼が見えることを確認、当院眼科を受診して頂いた。Drは、遠視(白内障)、視力は、右目0.3左目0.3と診断された。
     USNに対しては、体幹のアプローチが有効とされている。しかし、本症例は体幹の支持性、正中性ともにほぼ獲得されていたため、本症例では、VTで視覚の情報処理機能に対してアプローチを行った。空間の無視に対しての知覚段階へのアプローチである。
     VT継続により、ボードでは、右から左の視野へ注意力の向上がみられた。ブロックストリングでも、近くのビーズに焦点があてられるようになった。これは、周辺視⇔中心視の切り替えが行えるようになったためと考える。もう1つの改善点は、歩行スピードである。10m歩行は11秒から10秒1に、ケイデンスが109歩/分から112歩/分に変化した。定量的に結果を出せたのは、USNの検査と歩行スピードに関してのみである。
     無視は、半側だけではなく、下方無視も加わることが多いと報告されている。本症例も3本縦に等間隔で並んだ20cmの横線の二等分という形で検査を行ったが、紙面上部の線は、偏位が減少、VTによる治療効果も向上した。しかし、紙面下部の横線は、偏位が増加。これは、VTによる上方への注意力向上によるものと考えている。 【まとめ】  今回は症例の報告とともに、VTの紹介を行った。今後は、実施内容を統計処理し、科学的根拠に基づいたトレーニングとしてVTを位置づけられるよう研鑚していきたい。
  • 渡辺 学, 桒原 慶太, 目黒 智康, 関根 典子(OT), 江田 真子(ST), 大澤 成之(MD), 鷺内 隆雄(MD)
    セッションID: 63
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】  高次脳機能障害に対する有効な治療介入はいまだ確立されていないものが多い。さらに理学療法では治療対象として捉えられていないことも多い。今回、遂行型半側空間無視を呈した一例において理学療法の介入方法と効果を検討した。なお本報告については本人に説明と同意を得ている 【症例】  60代女性、右手利き。左上下肢の動作拙劣、計算障害を主訴として受診。MRIにて右前頭前野皮質下に腫瘍性病変及び周囲に広汎な浮腫を認め入院。開頭腫瘍摘出術を行い術中迅速診断にて神経膠芽腫と判断された。術後の神経学的所見は意識清明。左上下肢に脱力。BRS上肢_V_下肢_V_。神経心理学的所見は、MMSE;27/30。RCPM;22/36。BIT通常;127/146。TMT;A389秒、B不可。Digit Span;順唱6桁、逆唱2桁。FAB;7/12。RBMT;SP16/18,SS7/9。加減算は2桁と1桁まで、乗除算は九九の範囲内。運動機能は、左上肢は水平位まで挙上。安静時姿勢は右方視が多かった。歩行は左下肢の引きずりと右方指向傾向で左身体をぶつけることがあった。ADLでは左上肢の参加が寡少であった。これらは口頭指示があれば容易に修正できた。また課題呈示において説明の途中で勝手に始めてしまうことがしばしばみられた。治療は他に作業療法と、術後2週より放射線療法が行われた。 【方法】  行動観察と検査プロフィールから遂行型左半側空間無視の合併と判断したが、他に概念の転換とワーキングメモリの障害を認めることから、前頭前野背外側面の機能障害に基づく無視症状と考えた。理学療法は損傷部位の機能活性を目的に、身体運動セット変換法と二重課題を行った。身体運動セット変換法では、対座したセラピストが両上肢の構えを変化させるのを逐次模倣してもらった。二重課題では、左上下肢活性を含めるため両手でキャッチボールをしながら歩行してもらった。1回15分を一般的運動療法に付加して行い、これを週5回、4週間行った。 【結果】  歩行は左下肢の引きずりが減り屋外自立となった。右方視姿勢は改善。左手の使用によりADLは自立しさらに調理も可能になった。計算障害は変化がみられなかった。 【考察】  無視症状の改善には腫瘍摘出と放射線療法による病巣縮小と、脳機能の自然回復による部分が大きいと思われる。しかし計算障害との成績解離を考えれば、付加介入が遂行型半側空間無視に特異的に影響したと捉えられる。 【まとめ】 認知課題だけでなく運動を介することが脳機能の回復と学習をもたらすと考えれば、高次脳機能障害に対する理学療法アプローチが有効であると再考したい。
  • 長谷川 絵里, 迫 力太郎, 小笹 佳史, 大野 範夫
    セッションID: 64
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    皮質下出血は概して機能予後は良好であり、運動麻痺も軽度と言われている。失行は運動麻痺や失調、感覚障害、不随意運動、知能障害、意識障害などがなく、行うべき行為を理解できているにもかかわらず、要求された行為が正しく行えない状態である。今回、左頭頂葉領域の皮質下出血により右片麻痺に加え両側の失行を呈した2症例を経験し、運動麻痺は入院時同等であったが異なるADLの結果を得たのでここに報告する。
    【症例】
    症例1は69歳、男性、右利き。意識障害と右片麻痺を発症し他院にて左頭頂葉領域の皮質下出血と診断された。同日開頭血腫除去術を施行され、発症約2週後に当院転院となった。GCSE4V5M6であるが清明度に欠け、Brunnstrom stage(以下BRS)上肢2手指3下肢2、右感覚中等度鈍麻、高次脳機能障害は失行、右半側身体認知低下、注意障害、失算、失書があった。FIM運動項目23点、認知項目31点、合計54点であった。
    症例2は81歳、女性、右利き。右下肢脱力感にて発症し5日後に他院にて左皮質下出血と診断された。保存的加療後、発症約7週後に当院転院となった。GCSE4V4M4であり清明度に欠け、BRS上肢3手指2下肢3、右感覚重度鈍麻、高次脳機能障害は失行、注意障害、遂行機能障害、保続、強制把握があった。FIM運動項目17点、認知項目23点、合計40点であった。
    【経過】
    症例1は運動機能が週単位で回復し、発症約3カ月半後に自宅退院した。自宅内生活自立、交通機関の利用も監視にて可能となった。意識の清明度は上がり、BRS上肢5手指5下肢6、感覚軽度鈍麻、高次脳機能障害は残存しているが各症状は全体的に改善されたが左手の失行は変化しなかった。FIM運動項目83点、認知項目33点、合計116点となった。
    症例2は介助量の軽減は図れたが、ADLはあまり変化せず発症約6カ月後に自宅退院した。ADL動作は介助を要するレベルであった。意識は変化なく、BRS上肢3手指3下肢4、右感覚は変化なく、高次脳機能障害は失行、注意障害、遂行機能障害が残存し、保続が軽減、強制把握が消失した。FIM運動項目23点、認知項目23点、合計46点となった。
    【考察】
    症例1は失行が残存したが運動麻痺は回復し、ADL動作では失行による大きな影響は残存しなかった。早い運動機能の回復に伴い理学療法の展開も早く行うことがADL向上において重要であった。
    一方、症例2では左手の失行が強く保続や強制把握も呈し、随意的な手の運動は拒否傾向であった。そのため動作への参加量を増大させ介助量軽減を目的に理学療法を進めていった。自宅退院に向けて看護師や家族への介助方法の指導を中心とした理学療法への切り替えが重要であった。
  • 室井 大佑, 多和田 正宏, 杉浦 涼子
    セッションID: 65
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】脳卒中片麻痺患者において運動イメージを利用した治療が用いられているが、イメージ能力を評価した上で対象者の決定や治療効果の予測をしている研究は少ない。数名の患者に運動イメージを利用したMental Practice(以下MP)を実施し、一人称運動イメージ能力の高い症例にて下肢荷重量に変化がみられた。イメージ能力の異なる2症例でのMPの治療反応にて若干の知見を得たので報告する。
    【方法】対象は当院に入院し、高次脳機能障害、感覚障害を有しない初発脳梗塞右麻痺患者2例。両者ともに本研究の主旨を説明し同意を得た。症例Aの病巣は被殻、橋、下肢Brunnstrom stage4、発症後176日経過。運動イメージ能力評価である統御可能性テスト(以下CMI)は再生法、再認法ともに正解、Vividness of Movement Imagery Questionnaire (以下VMIQ)一人称運動イメージ37点、三人称運動イメージ47点。症例Bの病巣は内包後脚、下肢Brunnstrom stage5、発症後91日経過。CMI再認法正解、再生法不正解、VMIQ一人称57点、三人称50点。MPの介入方法は正常歩行の右立脚初期から中期にかけてのビデオを3回見せ、その後閉眼にて立脚中期での姿勢、足圧や筋収縮感について問いかけ、言語化してもらうことを3回繰り返した。安静立位(平行肢位)または麻痺側前のステップ肢位から口頭にて麻痺側下肢への荷重を促し、介入前後の荷重量をFスキャン(ニッタ社製)にて測定。1週後も同様の介入と測定を行った。
    【結果】症例AはMP後、ステップ肢位での変化は見られなかったが、平行肢位において麻痺側荷重量増加がみられ、1週後にも同様の傾向を認めた。症例Bは荷重量の即時的な変化はみられなかった。
    【考察】一般的に脳卒中患者は三人称より一人称運動イメージ能力の方が有意に低下しているといわれているが、一人称運動イメージ能力の方が高かった症例AはMPにて良好な反応がみられた。一方、症例BではCMIの一人称運動イメージ能力を反映する再生法が不正解で、VMIQでも同様に一人称イメージが低いことから即時的な変化が得られなかったと考えられた。症例Bは介入途中で混乱もみられ、より容易で単純な言語教示が必要であると思われた。
    【まとめ】今回イメージ能力の違う2症例においてMPの効果について検討した。一人称運動イメージ能力がMP後の即時的な効果に影響していると考えられ、臨床的にMPを行う前にはあらかじめ運動イメージ能力を評価し、患者に合わせた介入方法や期間を検討する必要がある。
  • 上野 信吾, 大村 優慈
    セッションID: 66
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】中大脳動脈領域の脳梗塞患者(大脳基底核、前頭葉、頭頂葉、後頭葉、側頭葉、島のいずれも損傷されている)におけるpushingの発生に関係している因子を調べる<BR> 【方法】電子カルテより、当院に入院した中大脳動脈領域の脳梗塞患者15名を入院時の年齢、発症からの日数、脳の損傷側、性別、上下肢のブルンストロームステージ、非麻痺側握力、感覚障害(表在、深部)、高次脳機能障害の有無(半側空間失認、失語、失行)、意識レベル(JCS)、手術内容(内減圧、外減圧)、t-PA治療の有無を後方視的に調査した。pushingがあった9名をP群、pushingが無かった6名をNP群とし、これらの変数をP群とNP群の間で比較した。統計処理には対応の無いt-検定とMann-WhitneyのU検定、カイニ乗検定を用い、有意水準5%で検定した<BR> 【結果】年齢はP群76±9、NP群54±12とP群で高かった。性別はP群で女性7名、男性2名、NP群では女性1名、男性5名とP群に多い傾向があった。半側空間失認はP群で9名全てに、NP群で6名中2名とP群に多い傾向があった。意識レベルはP群で1桁2名、1~2桁5名、2桁2名、NP群で1桁3名、清明3名とP群で低かった。感覚障害、損傷側、非麻痺側握力、失語、失行、発症からの日数、手術の有無、t-PA実施の有無は2群間に有意差はなかった。<BR> 【考察】先行研究では責任病巣について報告されているが、今回病巣を絞った症例で統計を行った結果、15名中6名がpushingを発症しなかった。その為、病巣以外にpushingの発生因子が関係していると考え、年齢、半側空間失認、意識障害が関係している可能性が示唆された。年齢はP群で高く、認知面や身体機能面など様々な影響が考えられた。性別ではP群に女性が多かったが、女性の年齢が高かったため、性別差では年齢が影響したと考える。半側空間失認ではP群に多かったが、体軸のずれによる正中位の認識不足や非対称性緊張性頚反射が非麻痺側上下肢の過剰な突っ張りに関係している可能性があると考えた。意識レベルでは、P群が低かったが、指示理解や表出が困難であったり、自発性の低下など立ち直り反応の低下により正中位を保つことができないことがpushigと関係しているのではないかと考えた<BR> 【まとめ】中大脳動脈領域の脳梗塞におけるpushingの発生因子として年齢、半側空間失認、意識障害が関係していることが示唆された。半側空間失認と意識レベルの改善に向けたアプローチがpushingの改善につながる可能性がある。今後は、半側空間失認や意識レベルの改善に向けたアプローチの検討やアプローチ前後のpushingの変化について検討する。
口述発表9(理学療法基礎系)
  • 工藤 賢治, 山本 澄子
    セッションID: 67
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】頻繁に動作分析の対象動作となる座位における側方重心移動動作について、1)静止座位時の重心の偏りと、2)動作開始時の床反力変化、3)動作中の体幹の動きを計測しそれぞれの関係を検証することで、観察される動きの特徴に力学的意味を付加し、治療に根拠を持たせるための動作分析の展開につなげることを目的とした。
    【方法】対象者は健常成人11名、課題動作は座位における側方移動とした。計測には三次元動作解析器VICON MXと床反力計を使用し、前額面における1)2)3)を算出した。分析にあたり、1)は重心偏倚側と非偏倚側で表し、2)は動作開始時の移動反対側殿部と足部の鉛直方向床反力の差を指標とし、値が大きいものを殿部型、小さいものを足部型の動作開始戦略(以下、それぞれ殿部型戦略、足部型戦略)とした。3)は胸郭変位量、胸郭及び骨盤の傾斜角度を指標とした。1)-2)の関係を対応のないt検定、2)-3)の関係をピアソンの積率相関係数を用いて検証した。
    【結果】1)-2)の関係は、重心偏倚側へは足部型、非偏倚側へは殿部型戦略をとる傾向がみられた(p<0.01)。2)-3)の関係は、殿部型戦略では動作前半において胸郭の変位量及び傾斜角度が、足部型戦略では動作後半において胸郭変位量が大きくなる傾向がみられた(p<0.01)。
    【考察】重心非偏倚側への動作では偏倚側への動作に比べ、床反力作用点から支持基底面の移動側端までの距離が大きいため、動作開始時に大きな床反力が必要になり、矢状面において足部より荷重量の大きい殿部の床反力を大きく利用すると考えられる。動作開始時にうける床反力は、体幹を移動側へ回転させるように作用すると考えられ、床反力変化の大きい殿部型戦略では、動作開始に続く動作前半の胸郭の変位量と傾斜角度が大きくなると思われる。一方、動作前半における胸郭の動きが小さい足部型戦略では、動作後半に入る時期の体幹アライメントの崩れが小さいため、動作後半を通して体幹ローカル筋が作用しやすく、胸郭傾斜をともなわないで変位量だけが大きくなる並進運動が起こると思われる。
    【まとめ】座位における側方重心移動動作開始の制御について力学的に検証した。座位時の重心偏倚により動作開始の戦略が変化し、その結果として胸郭の動きに違いが観察されることが示唆された。動作開始の制御を力学的に捉えることは、観察される動作の原因や意味を理解するためには不可欠であり、動作分析を治療につなげるための一助になると考える。
  • メディカルチェックの実施と今後の予防的介入に向けて
    山本 尚史, 中村 学, 中崎 秀徳, 吉田 昂広, 杉ノ原 春花, 美崎 定也, 加藤 敦夫
    セッションID: 68
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】  当法人は2008年より高校アメリカンフットボール(アメフト)部のメディカルサポートを行っている。高校のアメフト選手は技術、知識、身体機能の未熟さから傷害発生の危険性は高い。今回、高校アメフト選手の身体特性と傷害発生との関連を明らかにすることを目的に、メディカルチェックとアンケートを実施した。 【方法】  2009年度秋季公式戦前のA高校2・3年生アメフト部員(平均年齢±標準偏差:16.9±0.7歳、身長172.3±6.3cm、体重78.7±16.2kg)40名を対象に調査した。事前に顧問・監督・選手に本調査の趣旨を十分に説明し同意を得た。メディカルチェックは柔軟性「指床間距離(FFD)、踵殿間距離(HBD)、下肢伸展挙上(SLR)、股関節内旋(HIP IR)、全身関節弛緩性(GJL)」、瞬発力「プロアジリティテスト(PAT)、立ち幅跳び(SBJ)」を実施した。SLRとHIP IRは4段階で簡易的に測定した。アンケートは受傷部位(上肢、下肢、頸部・体幹)について自己記入させた。統計解析は柔軟性と瞬発力の計7項目を変数としてクラスター分析を行い、3群(A群、B群、C群)に分類した後、3群間において7項目で一元配置分散分析またはKruskal-Wallis検定(有意水準5%未満)を行った。さらに3群間の身体部位別受傷人数をまとめた。 【結果】  分類された3群はA群11名、B群10名、C群18名となった。FFDはB群が有意に長く、HBDはC群が有意に長かった。SLRはB群がA群およびC群と比較して有意に大きく、HIP IRはC群がA群およびB群と比較して有意に小さかった。GJLは各群間に有意差を認めた。PATはB群がC群より有意に速く、SBJはC群が有意に短かった。身体部位別の受傷者数は上肢:A群5名、B群4名、C群6名、下肢:A群6名、B群3名、C群6名、頸部・体幹:A群1名、B群2名、C群5名であった。 【考察】  FFD、SLRが乏しく瞬発力が良好な群(A群)、柔軟性、瞬発力ともに良好な群(B群)、柔軟性、瞬発力ともに乏しい群(C群)に分類された。A群はハムストリングス、背筋群の柔軟性の乏しさが傷害発生と関連していると考えられる。C群では頸部・体幹の傷害発生が多く、柔軟性と瞬発力との関連が強いことが予想される。B群では他群と比較し傷害発生は少ないが、コリジョンスポーツの特性を軽視できない結果となった。しかしA群、C群のような特徴的な身体特性が傷害発生と関連することが明らかとなり、今後の理学療法介入の手がかりになると考えられる。 【まとめ】  身体特性をグループ化して理学療法介入を効率よく行うことは傷害予防に繋がると考える。今回の調査の限界は短期間であること、対象者数が少ないことが挙げられ、今後も引き続き調査が必要である。
  • 朝倉 智之, 臼田 滋, 白倉 賢二
    セッションID: 69
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】椅子座位姿勢からの歩行開始であるRise-to-Walk task(RTW)は,日常生活において頻繁に行われる.健常成人のRTWでは,立ち上がりから歩行への移行は流動的に行われ,Malouinらはこの能力をfluidity,戦略をfluid strategyと呼んでいる.これまでのfluidityについての報告は健常成人と脳卒中片麻痺患者に限られている.そこで本研究では整形外科疾患患者として,人工股関節全置換術(THA)施行患者を対象とし,RTWを評価した.戦略は多様な環境における経験や,運動学習によって変化すること考えられる.戦略の経時的な変化を他の機能の変化と併せて評価し,fluidityとの関連について検討した.【方法】研究実施にあたり群馬大学大学院医学系研究科臨床研究倫理審査委員会による承認を得た.また患者への説明を書面にて行ない同意を得た.THA患者2名を対象とした.課題動作RTWはMalouinらの方法に従った.但し,立ち上がり時の上肢の使用を許可した.測定は3次元動作解析装置,床力計,ビデオカメラを用いた.分析項目はMalouinらの開発したFluidity Index(FI:身体重心の前方への運動量の変化率.高値程,高い流動性を示す),Fluidity Scale(FS:体幹の伸展運動とtoe offの時間的前後関係に注目した尺度.流動性が認められない0点から高い流動性を示す3点に分布し,視覚的に評価する)とした.また,その他の一般的な臨床評価指標として,疼痛の程度(VAS),関節可動域(ROM),筋力,最大歩行速度,Timed Up and Go test(TUG),を測定した.以上について,手術後見守りにて約20mの歩行が可能となった時点を第1回目の測定とし,第2回目の測定を1週間後に行なった.対象者の理学療法ではfluidityに関する特別な介入は行わなかった.【結果】対象者2名について,ケースごとに結果をまとめた.ケース1は第1回目の測定から第2回目の測定で,FIは7.2%から34.1%へ,FSは1点から2点へと,fluidityの改善が認められた.術側股関節の屈曲ROMについては変化がなかった.最大歩行速度は54.6m/minから66.6m/minへ,TUGについては17.1secから10.2secとなっていた.ケース2ではFIは22.3%から44.4%へ,FSは2点から3点へとfluidityの改善が認められた.疼痛は軽減,ROM,筋力,最大歩行速度はほとんど変化が認められなかった.TUGは18.7secから12.7secへと改善が認められた.【考察】患者2名のRTWでは,fluidityの低下が確認できた.経時的な変化からは,fluidityの改善が明らかとなったが,機能障害をみたとき,ROMには変化が認められないことなどから,RTWにおけるfluidityは単純に機能障害だけに依存するのではないことが示唆された.外部環境への働きかけとそのフィードバックから形成される予測的制御が関与していると考えられる.fluidityは動作戦略の視点からの評価であるが,定量的な評価が可能である.その妥当性や臨床的な意義については今後の検討が必要である.
  • -体重移動下肢(患側・健側)と荷重量(体重の1/3・2/3)からの検討-
    渡邉 観世子, 黒澤 和生, 谷 浩明, 廣瀬 真人, 樋口 貴広, 今中 國泰
    セッションID: 70
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
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    【目的】  体重移動課題は左右の非対称姿勢を呈する疾患の理学療法として頻繁に用いられている。非対称姿勢は身体動揺を増加させ歩行の自立を妨げる要因となるため、臨床場面では様々な工夫を用いて指導しているが、実際には患者は障害側に充分な体重移動をすることは困難である。そこで本研究では下肢の整形外科的な疾患患者における体重移動の特性を把握するために、体重移動をする側の下肢(患側・健側)とその下肢にかかる荷重量(体重の1/3・2/3)の2要因から体重移動の正確性について検討した。本研究は倫理委員会からの承認を受けている(承認番号09-149)。 【方法】  対象は下肢の整形外科的な疾患に対する術後の患者7名で(男性1名、女性6名、平均年齢±SDは63.1±16.4歳)、患側での全荷重が許可されていた。すべての対象者に研究の目的を説明し、同意を得た。体重移動課題は平行棒内で片脚立位(もしくは最大限に一側に体重移動した立位)をとらせ、合図とともに免荷下肢へ体重の1/3もしくは2/3を移動し、その状態を3秒間保持させた。この課題に対して体重移動下肢(患側・健側)と荷重量(体重の1/3・2/3)を独立変数とし、4条件の体重移動課題を各10試行実施した。正確性の指標としてRMSE(課題試行中の目標値からの平均的な誤差)とCE(目標値に対して多いか少ないかを示した誤差)を体重で除した値(それぞれRMSE/w、CE/w)を従属変数とし、反復測定2元配置分散分析により検定した。  【結果】  RMSE/wでは体重移動下肢と荷重量の交互作用が認められ(F1,12 = 4.86, p = 0.047)、下位検定により荷重量1/3において健側への体重移動の誤差が有意に大きかった。荷重量2/3においては患側への体重移動の誤差が大きい傾向にあった(p > 0.05)ため、健側1/3・患側2/3の荷重配分とその逆の健側2/3・患側1・3の荷重配分のRMSE/wを比較したところ、前者が有意に大きい値を示した(p = 0.048)。CE/wでは荷重量要因に有意な主効果が認められた(F1,12 = 5.70, p = 0.034)。 【考察】  体重移動課題おいて健側1/3・患側2/3の荷重配分では、その逆の荷重配分よりも正確性が有意に低くなることが明らかとなった。この結果は患側・健側のいずれの片脚立位からの体重移動でも、その方向や変化する荷重量に関わらず認められた。また、患側・健側ともに目標荷重量が1/3の場合には荷重量が超過し、2/3の場合には荷重量が不足するという特性が明らかになった。 【まとめ】  整形外科疾患患者では、患側に多くの荷重量がかかる場合に荷重量調節が困難になることが分かった。
  • 比嘉 清香, 片山 修, 中川 結美, 椿 淳裕
    セッションID: 71
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
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    【目的】マウスガード(mouthguard;MG)は,直接的あるいは間接的外力,特に衝撃力を可及的に吸収,緩衝することが主な機能であり,顎口腔領域の外傷予防や脳震盪の防止策として重要視されている.近年では,MGと身体運動能力の関係が注目されており,水泳やバスケットボール競技において,パフォーマンスを評価した報告があるが,不明な点も多い.MG装着がパフォーマンスに与える影響の検討を目的とし,MG装着,非装着でのジャンプ動作を床反力からの指標に着目して検証した. 【方法】運動習慣のある健常成人8名(男性4名,女性4名,平均年齢21.9±1.0歳)を対象とした.課題動作は直立姿勢から両脚での最大垂直ジャンプ,MG装着期間は1週間とし,装着の前後で,速度最高値,床反力最高値,仕事率最高値,跳躍高最高値を床反力計(Leonardo REP Mechanography,NOVOTEC Medical社)を用いて測定した.装着開始時に対する1週間後の割合を,対応のあるt検定を用いて検定した.またMG装着前後の装着感をVisual Analog Scaleにて評価し,マン・ホイットニ検定によって比較した.統計学的有意水準は5%とした.なおMGは,歯科医師によるカスタムメイドとした. 【結果】すべての計測項目でMG装着が有意に高値であり,速度最高値(MG装着106.4±7.5%,非装着93.1±9.9%,p<0.05),床反力最高値(MG装着111.5±10.5%,非装着98.3±5.4%,p<0.05),仕事率最高値(MG装着107.6±5.2%,非装着100.0±2.3%,p<0.01),跳躍高最高値(MG装着110.9±5.1%,非装着101.8±7.2%,p<0.05)であった.またMG装着感は有意に改善していた(p<0.01). 【考察】過去の報告によると,MG装着による咬合や体軸の安定性の改善が,等速性筋力増加に関与していると述べている.本研究の計測項目からも,ジャンプ動作に必要な踏み込み時の筋力発揮が増加し,パフォーマンス向上に繋がったと考えられた.また MG装着を継続することにより不快な装着感は減少したことから,スポーツパフォーマンスへ負の影響は与えないことが示唆された.以上よりMG装着が外傷予防作用だけではなく,パフォーマンス向上の一助となると考える.今後は,被験者間のMG装着時間の統一化,MG装着前の咬合状態,運動時の噛締めの個人差や習慣等などを考慮し,MG装着効果について再度検証を行っていきたい.
  • 小宮山 隼也, 杉本 諭, 大隈 統, 小林 正宏, 小島 慎一郎, 佐久間 博子, 町田 明子, 梶村 佳代, 木橋 明奈, 西蔵 ツワン ...
    セッションID: 72
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
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    【目的】
    従来より転倒の予測指標として,Timed Up & Go test(TUG),Berg Balance Scale(BBS)等のバランス能力や下肢筋力が用いられている.村永らは2ステップテストを開発し,人間ドック受診者や外来通院患者の転倒リスクと相関が高いことを報告した.今回我々は要支援者に対し2ステップテストを施行し,TUG,BBS,下肢筋力および転倒との関連を検討した.
    【方法】
    当院の通所リハビリテーションを利用している要支援の17名を対象とした.内訳は男性6名,女性11名,平均年齢75.4±12.4歳であった.このうち単独で交通機関を利用可能な者は4例で、大半は自宅周辺の散歩程度の歩行レベルであった.2ステップテストは村永らの方法に従い,最大2歩幅長を身長で除した値(2ステップ値)を求めた.膝伸展筋力の測定にはアニマ社製徒手筋力計μTasF-1を用い,端坐位にて膝屈曲90°での等尺性筋力を測定し,左右膝伸展筋力の体重比の平均を算出した.解析は2ステップ値,TUG,BBS得点,膝伸展筋力,過去半年間の転倒の有無についてSpearmanの順位相関係数による相関分析を行った.なお被験者には本研究の主旨を書面にて説明し,同意を得て実施した.
    【結果】
    転倒の有無について,転倒ありは7例,無しが10例であった.各測定項目の平均は2ステップ値が0.89±0.24,TUGが12.11±5.36秒,BBSが49.35±9.22点,膝伸展力が0.36±0.14 kgf/kgであった.相関分析の結果,2ステップ値はTUGとの間に負の相関を認めた(ρ=-0.653,p<0.05)が,他の項目との間には有意な相関を認めなかった.転倒の有無とTUG(ρ=0.506,p<0.01)およびBBS(ρ=0.578,p<0.01)との間には正の相関を認めた.
    【考察】
    BBSは静的および動的な姿勢制御を要求する課題であり,TUGはBBSに比べて重心移動や支持基底面の変化が更に大きな課題である.2ステップテストは日常生活では使用することのない最大歩幅長を2歩要求する課題であり,TUGよりも更に不安定性の強い課題であると推測される.すなわち今回の対象者には,BBSでは概ね良好であったが,それより難易度の高いTUGでは遂行能力が不十分な者を含んでいたため,TUGのみが2ステップ値と相関がみられたと考えられた.したがってバランス能力の評価には対象の歩行自立度や活動量をふまえ,評価指標を検討する必要があると考えられた.
    【まとめ】
    要支援者を対象に2ステップ値と下肢筋力,BBS,TUGについて相関分析を行った.2ステップ値との関連ではTUGのみ有意な相関を認めた.
口述発表10(骨・関節系)
  • 足立 陽子, 長 正則, 田中 聡(MD), 三箇島 吉統(MD)
    セッションID: 73
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    Pilon骨折は、軟部組織や足関節可動域に問題が多い骨折として知られ最も重度なRuediの分類タイプIII(脛骨遠位の圧迫と粉砕骨折を伴う)では、足関節拘縮を来たす等治療成績が不良という報告が多い。今回、本骨折の術後理学療法を行い比較的良好な可動域を得たので報告する。
    【症例紹介】
    54歳、男性、職業:足場設営。コンテナ(3m)から落下し受傷、当院受診。左Pilon骨折(Ruediの分類タイプIII)・踵骨骨折と診断され、観血的整復固定術及び腸骨骨移植を施行。踵骨骨折、内果骨折部は保存的に加療。術後24日目、退院。術後108日目、全荷重開始。術後138日目、仕事復帰。尚、本症例には症例報告させていただく主旨を説明し同意を得た。
    【理学療法経過】
    理学療法は、術後1日目より左下肢免荷両松葉杖歩行訓練、筋力強化訓練、RICEを開始。術後7日目よりリンパドレナージ、動的関節制動訓練を開始。術後30日目、足関節可動域訓練、過流浴療法を開始。
    【初期評価:術後30日】
    足関節可動域は、患側背屈-5°/底屈30°、健側背屈10°/底屈50°。疼痛は、距腿関節前面及びアキレス腱部の伸張痛。Burwellの判定基準はX線学的評価基準:良、客観的基準:不可、主観的基準:不可。
    【最終評価:術後318日】
    足関節可動域は、患側背屈10° /底屈45°、健側背屈10°/底屈50°。疼痛は、起床時の歩き始めと階段降時のアキレス腱部痛。Burwellの判定基準はX線学的評価基準:良、客観的基準:良、主観的基準:良。
    【考察】
    Pilon骨折は、脛骨遠位部の栄養血管が中枢側よりに入っている為、血行不全になりやすく周辺軟部組織の浮腫による足関節拘縮を来たしやすい。本骨折の治療原則は、手術による解剖学的整復・強固な内固定・早期関節運動・長期免荷であり、本症例においても同様に治療した。
    本症例は関節内粉砕骨折の整復に時間がかかり内果部骨折は保存療法となり、術後30日間足関節固定対応を要した。軟部組織変性による拘縮を予防する為、拘縮促進因子である浮腫・疼痛・栄養障害の早急な改善が必要と考え、固定期間中からリンパドレナージ・筋力強化訓練・RICE・動的関節制動訓練を実施した。
    可動域訓練開始時より、水治温熱療法後のストレッチと運動学に基づく他動的可動域訓練を実施した。また、ホームエクササイズとしてストレッチ及び可動域訓練を指導した。
    以上の様に疾患の特徴と術後の病期に応じたアプローチを選択し実施する事で、軟部組織の変性による弾性低下・骨格筋の短縮・疼痛を改善させ比較的良好な可動域改善につながったと考えられた。
  • 梨本 茉莉花, 桑原 隆文, 小海 努, 風間 裕孝
    セッションID: 74
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】  足根骨癒合症の保存療法では運動の制限、消炎鎮痛剤の使用と共に足底挿板が主流となっており、理学療法(以下:PT)についての報告は渉猟し得た限りでは見当たらない。今回、踵骨・舟状骨癒合症の保存療法を経験した為、経過及びPTについて報告する。 【症例紹介】  10歳、男児である。平成21年7月20日野球の試合中に右足関節を捻り受傷する(詳細不明)。疼痛の改善がみられない為、9月2日に近医を受診し、PTを施行も症状の改善がみられず、9月28日に当院を受診する。10月15日にCTにて踵骨・舟状骨癒合症と診断され、10月21日にPT開始となる。 【初期評価】  歩行時に癒合部周辺に疼痛がみられ、荷重は1/2程度であった。癒合部に強い圧痛を認め、同部位に外がえし及び内がえし強制にてそれぞれ歩行時痛の再現が可能であった。静止立位では後足部回内位を呈し、足底接地から立脚中期にかけて後足部回内の増大がみられた。前脛骨筋・長母趾伸筋・長趾伸筋・腓骨筋群にtightnessを認め、ROMは足関節底屈45°、足部内反20°にて疼痛により制限を認めた。また、Lisfranc関節のROM制限を認めた。 【PT経過】  PT初日にてmuscle tightnessに対しrelaxation-stretch施行後に内側縦アーチの保持を目的としたテーピングを貼付する事で著明に歩行時痛が軽減し独歩可能となった。その後、距踵関節・Lisfranc関節のROM ex.、足部内在筋の強化を加え、開始3週にてROMの改善と共に後足部回内接地が軽減し、テーピングなしでも歩行時痛が消失した。4週にてランニングが可能となり、8週にてスポーツ復帰となった。 【考察】  本症例は、捻挫による癒合部及び両骨内の機械的微細損傷による疼痛により荷重困難であった為、距腿関節・距踵関節・Lisfranc関節のROM制限を呈していた。これらにより、後足部回内位が助長され、踵接地から立脚中期では癒合部に過度な圧縮力が生じると考えた。また、踵離地から足趾離地にかけては過度な剪断力が生じ、これらの度重なる機械的ストレスが歩行時痛を長期化させた要因と考えた。PTでは、上記で述べた癒合部への機械的ストレスの軽減を目的に、後足部回内位接地の是正と共に距腿関節・距踵関節・Lisfranc関節の可動域改善を図った。その際、踵骨・舟状骨を一つの骨と捉え癒合部の修復を阻害しないよう考慮した。結果、早期より疼痛の軽減を図る事ができた。本症例より足根骨癒合症に対し、癒合部の修復を阻害する因子に対し早期よりPTを展開する事が重要と考えた。
  • ―当院併設の老人保健施設での亜急性期からの運動療法の経験―
    海老 拓也, 松下 浩, 平塚 智紗子, 内村 信一郎, 藤本 幹雄(MD)
    セッションID: 75
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】今回老人保健施設へ亜急性期的に入所後の介入により、著明な左膝可動域の改善が得られた症例を、経験したので報告する。
    【症例紹介】82歳、女性、独居。70歳両側変形性膝関節症。平成21年10月救急外来で化膿性関節炎と診断、10月30日入院11月6日洗浄とデブリードマン施行11月13日理学療法開始痛みと炎症により荷重困難。11月24日CRP値1.5_mg_/dl、12月7日に入所12月11日個別リハビリの理学療法開始。
    【初期評価】左膝熱感・腫脹・運動荷重時痛。ROM屈曲110°伸展-80°MMT膝(右/左)(3+/2)左大腿部筋萎縮。立ち上がり立位移乗動作監視。車椅子移動監視、歩行は平行棒内軽介助、ADLはFIM84点(更衣・排泄要介助)、触診は膝後面に硬さ。左膝蓋骨滑動性は左右僅かで上下方向殆ど困難。HDS―Rは24点。BMIは18.8。
    【理学療法経過】個別リハ週3~4回20~30分実施。初期は感染徴候や痛み(VAS:8/10)と恐怖感認め、左膝ROM訓練は他動から過負荷に注意し、熱感や痛みなど反応や運動方向を確認し自動介助運動に移行。開始2週目痛みと腫脹が徐々に軽減、膝伸展方向へ静的ストレッチを30秒間3~5回実施。筋力強化は自動介助から徒手抵抗運動へ移行。3週目ROM屈曲120°伸展-45°徒手抵抗運動は負荷の増大と拡大可動域での強化に重点。4週目四点歩行器歩行を両側膝軟性装具で開始。8週目25m歩行可能、膝伸展Lag15°程。
    【最終評価】3月1日(11週目)左膝熱感僅か・腫脹なし・運動荷重時痛(VAS;2~3/10)ROM屈曲120°伸展-30°MMT膝(右/左)(4+/3+)伸展Lag10°左大腿部筋萎縮。立ち上がり立位移乗動作自立。車椅子移動自立、歩行は四点歩行器歩行を両側膝軟性装具下(VAS:2~3/10)50m監視、ADLはFIM106点(更衣・排泄自立)、触診は膝後面硬さの軽減。左膝蓋骨滑動性は殆ど改善なし。
    【考察】本症例を亜急性期と捉え、炎症反応や増悪に注意し、病相に応じた運動療法を施行。伸展制限要因は、疼痛で筋スパズムによる膝屈曲筋群の短縮と不動化や膝蓋骨滑動性低下が考えられた。可動域や筋力が改善し疼痛も軽減したことで、立位バランスや歩行能力が向上し、更衣やトイレ動作の自立に繋がったと考える。今後は在宅を見据え装具作成、歩行能力向上を目指したい。老人保健施設では維持的で、著明な可動域の改善は得られないと考えられがちであるが、本症例のように積極的な訓練により、高い訓練効果もあるので、安易に維持的なレベルの対応に留めるべきではないと考えられた。
  • 運動連鎖に着目した治療で結果が出せなかった一例
    竹内 薫, 永井 聡, 橋本 貴之, 岩橋 洋子, 石羽 圭, 広瀬 勲(MD)
    セッションID: 76
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】内側型変形性膝関節症患者は、内側コンパートメントのメカニカルストレスによって痛みを呈し、前額面のマルアライメントに対して理学療法を施すことがある。しかし、本症例は前述の理学療法を行うも結果が出せなった。今回この原因を再考し、矢状面での姿勢制御に着目した理学療法を展開、T字杖歩行から仕事中の痛み改善に至った症例について報告する。
    【症例】症例は本報告の主旨を説明し、同意が得られた症例である。 60歳代男性。診断名は右変形性膝関節症。仕事はとび職。病期はKallgren-Lawrence分類でgrade_III_。主訴は歩行時痛。既往歴は幼少期に右脛骨骨折。平成19年頃より痛み出現し、T字杖歩行となる。症状増悪時には、薬物療法と関節内注射を施行した。
    【評価】痛みは右膝内側裂隙部、歩行右立脚期で出現。VASは7.0。右FTA190°。ROM-Tは右膝屈曲120°/伸展-15°。Q-angleは左<右。右脛骨は外旋位で外側凸の弯曲を呈し、果部捻転角は右25°、左20°。立位姿勢は胸椎後弯、骨盤後傾・骨盤前方移動、股関節外旋・伸展、膝関節軽度屈曲・内反。上半身重心は下肢重心と比べ後方。身体重心は支持基底面内の後方にある。歩行は、右立脚期に右膝外側スラストあり。下肢・体幹筋力は歩行等に対応出来うる能力あり。
    【経過1】病態は圧縮による内側裂隙部の痛み。その原因は右脛骨形態異常もあるが、立位姿勢での骨盤後傾による膝内反が原因していると考察し骨盤後傾位修正を図ったが、1ヶ月施すも痛みの改善に至らなかった。
    【再考】筋力や可動域などの機能はあるにも関わらず、なぜ立位矢状面上の姿勢が後方重心になっているか再評価。支持基底面を前足部のみに制限し、立位保持を評価。結果、保持出来ずに後方に倒れた。このことから前方への重心移動が苦手なため後方重心にし、安定を確保している戦略をとっていると考えた。しかしその戦略により前額面のマルアライメントが生じ、痛みが出現していると考えた。
    【経過2】矢状面での重心後方化修正のため、段差を利用し重心コントロールを促した。治療直後、立位姿勢に変化が認められた為、継続して治療を展開。1ヶ月後痛み軽減。2ヶ月後VAS4.0。杖も外れる。3ヶ月後仕事中の痛み軽減。5ヶ月後VAS0.7。治療前立位姿勢でも後方重心は改善した。
    【おわりに】近年、痛みの原因を運動連鎖から探る重要性が提唱されてきている。今回の症例を通じ、姿勢制御の戦略により運動連鎖に乱れが生じていることを再考できた。今後は、姿勢制御と運動連鎖の関連性も加味した理学療法を展開していきたい。
  • 風間 裕孝, 小海 努, 桑原 隆文, 梨本 茉莉花
    セッションID: 77
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
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    【はじめに】踵骨骨端症は10歳前後の男児に多く、骨端部は力学的に脆弱であり、繰り返す応力によって骨化障害をきたすものである。今回、長期に渡る両踵部痛に下肢の慢性コンパートメント様症状を合併した症例の理学療法(以下PT)を経験したので報告する。 【症例紹介】少年野球をしている10歳台の男児である。2~3年前より誘因なく両踵部痛が出現し、3ヵ月前より両下腿後面、大腿前面部痛が出現する。他院への通院歴はなく、当院を受診し、両踵骨骨端症、両下肢筋痛の診断でPT処方される。 【画像所見】両踵骨後方の骨端核に硬化像を認めた。 【初診時理学所見】両踵部痛は走行時(スパイクシューズ使用時のみ)及び運動後に出現し、圧痛は両踵骨結節部、叩打痛は右踵骨に認め、踵歩行で両踵部痛が出現した。また両下腿・大腿部痛は立位時及び運動後に出現し、大腿前面部は夜間痛も訴えていた。圧痛及び筋硬結は両側下腿三頭筋・大腿四頭筋に認め、伸張時痛及び収縮時痛は主に両側ヒラメ筋・大腿直筋に認めた。ROMは足関節背屈20°にて両下腿後面部痛を認め、Ely test、Ober testは両側陽性であった。立位はやや前方重心の姿勢を呈し、歩容は踵接地時に踵骨後方への荷重が不十分であった。 【PT・経過】スポーツ活動は制限なしで実施した。下肢筋痛に対し主に大腿直筋、ヒラメ筋のmuscle relaxation及びstretchingを実施し、筋の伸張性改善とともに疼痛の軽減が得られた。また踵部痛に対しテーピングにて踵骨結節部の免荷を図ることで疼痛の軽減が得られたため、加療3回目に両側のスパイクシューズに踵骨結節部の免荷を目的とした足底挿板(heel cup)を処方した。4回目に両下腿部痛、左大腿部痛が消失、6回目に右大腿部痛、左踵部痛が消失、8回目に右踵部痛の消失が得られた。9回目(11週後)、疼痛の再発はなく終了となった。 【考察】踵骨骨端症は疼痛を主症状とし、自然治癒する予後良好な疾患であるが、経過は長期に渡ることが多い。本症例は長期に渡る踵部痛のため、無意識下に疼痛を逃避することで、下腿後面筋が過剰収縮し、その姿勢保持に伴い大腿前面筋の過剰収縮が生じ、その状態が持続したことで、大腿、下腿の慢性コンパートメント様症状に伴う下肢筋痛が出現したものと考えた。従って、下肢の筋内圧を軽減する目的でmuscle relaxation及びstretchingを実施し、下肢筋の伸張性改善を図った。また、足底挿板により踵骨結節部への荷重ストレスが免荷されたことで、踵骨での荷重が可能となり、下肢筋の過剰収縮は抑制され、下肢筋痛及び踵部痛が消失したと考えた。
  • 三枝 洋喜, 小野 達也, 相原 正博, 西崎 香苗, 廣瀬 昇, 久津間 智允, 池上 仁志
    セッションID: 78
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
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    【目的】THA術後患者において中殿筋筋力低下が生じている症例は多い.中殿筋の訓練方法は多々あり,その効果について様々な報告がなされているが,本邦 ではOpen Kinetic Chain Exercise(以下OKC訓練)とClosed Kinetic Chain Exercise(以下CKC訓練)の訓練後の筋活動について比較した研究はない.そこで,本研究ではTHA術後患者に対する上記訓練後の最大筋力値や筋 活動,歩行時筋活動を検討し,両訓練の適応について検討したので報告する. 【方法】片側変形性股関節症の中からTHA施行後1ヶ月以上経過し,術側中殿筋MMT3以上,患側片脚立位可能である症例5名(男性3例女性2例,平均年 齢66±13歳)を対象とした.測定は,各訓練前後で,術側股関節0°外転時の最大等尺性収縮の筋力値と筋活動を測定した.最大筋力値の測定には徒手筋力 計(アニマ社製μTas F-1)を用いた.筋活動は表面筋電計(Noraxon社製Tele Myo 2400)を用いて記録した.なお,導出筋は中殿筋・大腿筋膜張筋・内転筋とした.中殿筋の筋力増強訓練方法はOKC訓練・CKC訓練同程度の負荷になる とされる市橋らの方法に準じた.表面筋電図で得られた結果から平均積分値を算出し,最大等尺性運動時・歩行時の筋活動量を訓練前後で比較した.なお,歩行 筋電図の解析には患側立脚期10 周期分を使用した.統計解析はWilcoxon 順位和検定を行った.なお,本研究は貢川整形外科病院倫理委員会の承認と対象者の同意により実施した. 【結果】OKC訓練・CKC訓練共に,訓練前後で有意差を認めた項目はなかったが,股関節外転筋力値をトルク体重比0.8Nm/kg以上の症例群(2例) と0.8Nm/kg未満の症例群(3例)の歩行時筋活動を比較すると,股関節外転筋力値0.8Nm/kg以上の症例群では,CKC訓練後は105.6%・ OKC訓練後では91.6%であった.股関節外転筋力値0.8Nm/kg以下の症例群では,CKC訓練後は87.5% ・OKC訓練後では106.1% であった. 【考察】坂本はトレンデレンブルグ徴候が陰性になるための股関節外転筋力値をトルク体重比0.8Nm/kgとしている.0.8Nm/kg未満群ではOKC 訓練後で筋活動は増加する傾向にあり,0.8 Nm/kg以上群ではCKC訓練後に筋活動が増加する傾向がみられた.この結果から,OKC訓練とCKC訓練の適応には筋力値が影響することが示唆され た.すなわち,筋力値を考慮した筋力増強訓練方法の選択及び負荷量の検討が効果的な筋力増強訓練に繋がるのではないかと考えられた.
口述発表11(内部障害系)
  • 宮村 章子, 一場 友美, 解良 武士
    セッションID: 79
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     浅くて速い異常な呼吸パターンを呈している患者に対して、意識的な呼吸数の調整を行うと呼吸困難感が軽減することが多い。これは肺胞換気量が増大し酸素化が改善するからである。呼吸困難感の感知には化学受容器のほか、呼吸運動出力が大きく関係するため、呼吸数調整による呼吸困難感の軽減メカニズムに呼吸運動出力も関わっているのではないかと考えられる。本研究は、呼吸数調整による効果について呼吸運動出力の指標である気道閉塞圧(P0.1)を用いて検討することを目的とする。
    【方法】
     健常成人10名(20.8±0.4才)を本研究の対象者とした。対象者には研究の趣旨を説明し書面にて同意を得た。P0.1の測定には気道閉塞装置を用いた。口腔内圧は差圧トランスデューサーを、換気量の測定には呼気ガス分析器を用い、それぞれの信号はADコンバーター(ADInstruments)を介しPCに記録し、一回換気量、肺胞換気量を算出した。対象者を背臥位におき、電子式メトロノームにより呼吸数を10回/分、15回/分、20回/分に調整した上で4分間呼吸を行わせた。呼吸数の調整はランダムとした。測定開始後2分後から4分後まで至適の間隔で計5回、P0.1を測定し、その絶対値の平均値を算出した。統計処理は反復測定による一元配置分散分析を、その後の検定として多重比較検定を行い、有意水準はP<0.05とした。
    【結果】
     呼吸数の増加に伴い一回換気量は1.1±0.54、0.78±0.41、0.57±0.22Lと有意に減少した(F=17.37, P=0.001)。一方、分時換気量、肺胞換気量は変化しなかったが、PETCO2は有意に減少した(F=7.44, P<0.05)。一方、P0.1値は一回換気量が減少したにもかかわらず呼吸数の増加とともに上昇し、分時換気量に対するP0.1(V(dot)E/ P0.1)も悪化した(それぞれF=6.12, P<0.05、F=8.075, P<0.014)。
    【考察】
     同じ換気需要であっても呼吸数を増加させるとP0.1が増加した今回の結果は、同じ換気量であれば肺胸郭系の弾性抵抗よりも気道系の粘性抵抗の増加に対して呼吸筋が動員されやすいことを示していると考えられる。逆にいえば、呼吸リハビリテーションにおける呼吸数調整によるアプローチは、呼吸運動出力の観点からも呼吸困難感への効果があるのではないかと考えられた。
    【まとめ】
     深くゆっくりとした呼吸パターンの指導は呼吸運動出力を抑制する。この結果は呼吸パターン調整による呼吸困難感の減少に関係があると考えられた。
  • 当院の現状とPCFの経時的変化について
    玉田 良樹, 大久保 裕史, 石坂 智子, 遠藤 靖子, 寄本 恵輔, 飯塚 一郎
    セッションID: 80
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 本研究の目的は,当院における外科周術期リハの現状とPCFの経時的変化を調査するとともに,理学療法士の役割について明らかにすることである.
    【対象と方法】 対象は2008年4月から2009年3月までに術前より理学療法の依頼のあった58例.
      年齢,疾患,合併症,肺機能評価,入院時ADL(mRS),肺合併症の割合,離床日数,喫煙歴についてカルテより後方視的に調査した.また, 咳嗽能力の経時的変化を調査するため,手術を施行された46症例に対し,術前,術後1日目,3日目,7日目,リハ最終日にPCFを計測し,統計学的有意差の有無について検討した.PCFの測定は米国レスピロ社製Asthma checkを使用し,測定肢位は端坐位,2回測定し最大値をPCFの値とした.さらに,開腹手術を施行された38症例を上腹部11症例・下腹部27症例に分け,統計学的有意差の有無について検討を加えた.全ての症例に対し,研究の主旨を説明し同意を得た.
    【結果】 当院の特徴として,患者は高齢であり,胃癌と大腸癌患者が82%を占め,内科的疾患,呼吸器疾患を合併している症例が60%を超えていた.また,患者の90%はADLが自立しているものの,術前より換気障害を起こしている症例が23%,喫煙歴60%と術後に呼吸機能を悪化させる危険因子を持つ患者が多く存在していた.術後歩行開始日が平均1.9日と早期より実施されており,術後肺合併症例は3%であった.PCFの経時的変化は,術前に比べ,術後1日,術後3日,術後7日では有意に低下したが(p<0.0001),術後1日からリハ最終日まで有意に回復傾向を示し(p<0.0001),術前とリハ最終日では有意差を認めなかった.上腹部におけるPCF値の変化は,術前からリハ最終日まで有意な増減はみられなかったものの,術後1日で低下し,その後回復していく傾向を示した.下腹部においては,術前に比べ術後1日で有意にPCF値は減少したが(p<0.0001),術後1日と術後3日では有意差はみられなかったものの,術後3日,術後7日,リハ最終日間ではそれぞれ有意差を認め(p<0.0001),回復する傾向をみせた.
    【考察】 外科周術期における理学療法士の役割は,術後に肺合併症を起す可能性が高い患者を術前より察知し,術後早期に離床していくことにある.また,そのことを実践していくためには理学療法士が積極的に主治医・看護師・コメディカルと連携を深め,率先してチーム医療を構築していくことが術後の肺合併症の発生を予防するものと考えられた.
  • ~Dynamic MRIを用いて~
    田上 未来, 居村 茂幸, 冨田 和秀, 門間 正彦, 大瀬 寛高, 間瀬 教史
    セッションID: 81
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】  我々は、dMRIを用いて、呼吸介助中の肺の動きを撮像し、今まで推測でしかなかった、呼吸介助が介助を加えた局所肺の換気に与える影響について研究を行っている。今回は、dMRIから算出した肺断面積と肺気量位の変化から、呼吸介助が局所肺の換気に与える影響について、知り得た結果を報告する。 【方法】  対象は、研究の趣旨に同意の得られた心肺機能障害のない健常な男女4名(男性3名、女性1名、年齢21.8±1.3歳)あった。測定は、背臥位で安静呼吸時、右側肺に対する呼吸介助時の肺の動きをdMRIで撮像しながら、肺気量位を呼気ガス分析器で測定した。撮像部位は、気管分岐部の前額断と鎖骨中央部の左右矢状断の3方向とし、各施行間に十分な休息を入れ測定した。呼吸介助は、同一の理学療法士が、右側肺に安静呼気位を超えて胸郭の動きが自然にとまる所まで実施した。解析は、1回換気量の大きい3呼吸を選択し、終末吸気・呼気位の肺断面積を画像解析ソフトで求め、肺気量位は、最大吸気位を100%として正規化した。また終末吸気位肺断面積から終末呼気位肺断面積を引いた値をIn-Ex面積差とした。尚、本研究は、茨城県立医療大学倫理委員会で承認されている。 【結果】  呼吸介助により全ての撮像条件で、終末呼気位肺断面積および終末呼気肺気量位は、安静呼吸時に比し顕著に減少した。また、終末呼気位肺断面積は、非介助側に比し介助側により顕著な減少を認めた。1回換気量に相当するIn-Ex面積差は、安静呼吸時に比し、呼吸介助時に全ての撮像条件で増大を認め、特に介助側肺のIn-Ex面積差が、非介助側肺に比し顕著に増大した。 【考察】  呼吸介助が、機能的残気量を減少し、1回換気量を増大させることはよく知られているが、実際に介助を加えた部位の局所肺の換気が改善したかは不明である。今回の研究では、呼吸介助時では、終末呼気肺気量位が安静呼吸時に比し、呼吸介助時に減少するとともに、非介助側に比べ介助側肺の終末呼気位肺断面積の減少とIn-Ex面積差の増大が、より顕著にみられた。このことは、呼吸介助が、介助を加えた局所肺を呼気時に収縮させたことが、終末呼気肺気量位を減少させ、非介助側の肺に比べ介助側の肺でより大きな換気変化が生じることを示しており、介助側肺の局所肺の換気を改善することを示唆する。 【まとめ】  呼吸介助が、介助を加えた局所肺の換気を改善することが示された。また、dMRIを用いた解析が、呼吸介助手技の有用性を示す新しい評価法となりうる可能性が示された。
  • 横山 美佐子, 小池 朋孝, 濱崎 伸明, 上田 康久
    セッションID: 82
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 呼吸理学療法(RPT)を行う際,フィジカルアセスメントが重要であると言われているが,RPTに必要な情報を得るために何を意識して評価したら良いのかを明確にしたものはない.  今回,北里大学病院小児呼吸チームで取り組んでいる病態原因の評価方法を紹介し,その評価に即してRPTを施行した新型インフルエンザ(A/H1N1)感染男児の1症例を報告する. 【評価方法の紹介】 呼吸(換気)を規定する要素は,「気道」,「肺容量」,「ポンプ機能」の3要素で成り立っている.正常とは,(1)気道が確保され,(2)吸気で肺容量を確保でき,(3)呼出に必要なポンプ機能が備わり“有効な咳嗽”が可能な状態である.小児呼吸障害に対するRPTを行う際には,“この3要素のどこに病態が起因するのか”と“肺のどの部分に病変が存在するのか”を,視診,触診,聴診,打診等のフィジカルアセスメントと胸部レントゲン写真,CT画像,生化学分析結果,血液ガスデータ,肺機能検査,から総合的にチームで評価する.この時,小児呼吸器の解剖・生理学的特徴も考慮し,さらに急性期では,気管支攣縮の有無や全身状態を評価し,RPTの介入が安全に行えるか否かを評価している. 【症例】 症例は,新型インフルエンザ(A/H1N1)感染の9歳男児. 朝から38度の発熱を認め近医でインフルエンザA型と診断されリレンザを処方された.夜間は咳嗽が持続し睡眠障害を認めた.発症2日目の7時に胸痛を訴え,9時に呼吸苦と陥没呼吸を主訴に近医受診し,肺炎と縦隔気腫の診断で10時に某総合病院に入院した.その後,低酸素血症が進行し12時に当院へ転院となった. 入院時所見では聴診上,呼吸音は左で減弱し,右に呼気性喘鳴を認めた.胸部レントゲン画像所見(胸部XP)では,左上葉の無気肺を認め,動脈血ガス分析ではFiO21.0PaO286.0Torr,PaC0232.0Torrであった.入院時より理学療法士・医師・看護師で構成された小児呼吸チームによる評価・呼吸療法を行った.無気肺と縦隔気腫を認めたことからPlastic bronchitisを疑い,痰の粘性低下を目的に13時より低体温マットと解熱剤による体温管理,輸液負荷と吸入療法および加湿を行った.左上葉の肺容量低下に対しては,換気量増加を目標に前方へ45°傾けた右側臥位の体位で深呼吸および吸気介助を行った.発熱・疲労によるポンプ機能低下に対しては,咳介助および鼻をかませることにより呼気流速を高めた.夜間も右側臥位を中心に体位ドレナージを継続した.入院翌日8時に数珠状の粘液栓が喀出され,胸部XPにて左上葉の無気肺の改善を認めた.P/F380まで上昇したが,その後も肺容量とポンプ機能に着目し,呼吸理学療法は継続した.座位での呼吸練習を中心に施行し,肺機能に問題なく入院14日後に退院した. 【まとめ】 呼吸を規定する3要素を意識した評価は,呼吸理学療法の介入目的を明確化でき効果的と思われる.  
  • 稲垣 武, 古川 誠一郎, 山中 義祟, 浅野 由美, 村田 淳, 鍋谷 圭宏
    セッションID: 83
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】 胸腹部外科の術後肺合併症の予防に周術期呼吸理学療法は有用と考えられ、当院においても、症例数は年々増加している。一方で、手術全症例へ理学療法が介入することは現実的に困難である。そのため術後肺合併症のリスクが高い患者を選択できるスクリーニングの方法の確立が望まれる。以前当院で、既存の報告から測定が簡便な項目を選択し作成したリスクチャートの有用性について検討し、有用と考えられる結果が得られた。また、測定項目に術前血清アルブミン値を追加すると更に鋭敏になる可能性が示唆された。そこで今回、術前血清アルブミン値を追加してリスクチャートを作成しなおし、その有用性について検討した。 【対象と方法】 対象は、2008年11月から2009年7月に当院食道・胃腸外科に入院し、術前から理学療法の介入をした予定手術患者29例(食道9例、上腹部17例、下腹部3例)。方法は、以前当院で作成したリスクチャート(年齢、活動性、呼吸機能、手術部位、喫煙歴、呼吸器疾患の既往の6項目を1~3点に配点し、その合計をリスクスコアとした)に基づくリスクスコアと、術前血清アルブミン値を追加したリスクスコアについて、それぞれ術後在院日数、術後肺合併症の有無との関連性の高さを、spearmanの相関係数を用いて検討した。また、術前血清アルブミン値のスコアが1点の群(≧4.0g/dl)と2点の群(<4.0g/dl)の間における、術後在院日数、術後肺合併症の有無の差を、mann-whitneyのU検定を用いて検討した。 【結果】 リスクスコアと術後在院日数との間に正の相関関係(R値:0.548070)、術前血清アルブミン値を追加したリスクスコアと術後在院日数の間にも正の相関関係(R値:0.591658)を認め、相関係数は術前血清アルブミン値を追加したリスクスコアの方が高かった。また、術前血清アルブミン値のスコアが1点の群に比較して、2点の群の方が有意に術後在院日数が長かった。術後肺合併症は3例であった。 【考察】 当院で以前作成したリスクチャートの項目に、術前血清アルブミン値を追加することで、リスクチャートはさらに鋭敏になったと考えられる。術後肺合併症については、症例数の不足から合併症発生人数も少なく、関係性について考察するには不十分と考える。リハ非実施群も含め、更に症例数を増やして検討していく必要があると思われる。
  • 中川 結美, 比嘉 清香, 椿 淳裕
    セッションID: 84
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
    会議録・要旨集 フリー
    深呼吸における上肢の運動方法の違いが呼吸反応に及ぼす影響 中川 結美1)・比嘉 清香2)・椿 淳裕3) 1)新潟県厚生農業協同組合連合会上越総合病院 リハビリテーション科 2)医療法人崇徳会長岡西病院 リハビリテーション科 3)新潟医療福祉大学 理学療法学科 【目的】 深呼吸は準備体操等で用いられ,上肢挙上を伴う方法や肩関節軽度屈曲に水平外転の動きを伴う方法がある.しかし肩関節屈曲,水平外転を伴う深呼吸について、呼吸反応の点から調べた報告は少ない.そこで,本研究の目的として上肢挙上を伴う深呼吸(以下FLEX),肩軽度屈曲に水平外転を伴う深呼吸(以下ABD),比較対象として上肢運動を伴わない深呼吸(以下NORM)がそれぞれ呼吸反応に及ぼす影響について調べ,深呼吸の有用性について検討した. 【方法】 対象は呼吸器疾患,循環器疾患,上肢体幹に整形外科疾患の既往がなく,喫煙歴のない健常成人女性10名とし,酸素摂取量(V(dot)O2),二酸化炭素排出量(V(dot)CO2),分時換気量(V(dot)E),一回換気量(TV)の換気指標を求めた.安静呼吸は両上肢を下垂したままでの通常呼吸とした.深呼吸は,上肢運動を伴わず下垂したまま行うNORM,吸気時に両上肢を挙上,呼気時に下垂するFLEX,吸気時に両上肢外転,呼気時に内転を行うABDの3条件で実施した.測定は全て椅子座位,深呼吸様式はランダムに選択し,安静呼吸,深呼吸,安静呼吸の順で各々の呼吸を3分間実施した.それぞれの測定間には,各指標が安静時値を示すまでの十分な時間をおいた.統計処理は,各項目の平均値を用い,3条件間での比較を行繰り返しのない二元配置分析を行い,各条件に有意差が認められた場合Tukey‐Kramer法を実施した.なお,有意水準は5%とした. 【結果】 V(dot)EはNORM181.8±63.5ml/kg/分,FLEX266.2±69.4ml/kg/分,ABD254.6±84.0ml/kg/分であり,FLEX,ABDはNORMに比べ有意に高い値を示した(p<0.01)が,FLEXとABD間には有意差は認められなかった.TVはNORM22.0±9.0ml/kg,FLEX27.0±5.8ml/kg,ABD26.1±7.4ml/kgであり,FLEX,ABDはNORMに比べ高値を示したが,FLEX,ABD間では有意差は認められなかった.V(dot)O2はNORM3.7±0.6ml/kg/分,FLEX5.3±0.6ml/kg/分,ABD4.5±0.2ml/kg/分であり,FLEX,ABDはNORMに,またFLEXはABDに比べ有意に高い値を示した(p<0.01).V(dot)CO2は条件間で有意差は認められなかった. 【考察】 換気量増大を目的とする場合,FLEXだけでなくABDも有用であると考える. COPDで患者は,上肢の挙上が息切れを引き起こすため, FLEXよりもABDの方が安全に行える深呼吸方法であることが推察された.しかし,本研究では健常者を対象としたため,今後は,呼吸・循環器疾患患者を対象とし再度検証していく必要がある.
口述発表12(生活環境支援系)
  • 佐藤 智子, 土田 栄子
    セッションID: 85
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】  在宅でのリハ症例、特に高齢者において様々な疼痛を訴える症例は多々みられるが、2004年の国民生活基礎調査においても、腰痛・手足の関節痛は有訴率において最も高く、在宅での日常生活動作(以下ADL)を妨げる大きな問題として存在している。そこで本研究では、当施設での訪問リハ利用者において、疼痛が実際にどのような影響を与え、また問題となっているかを調査検討したので報告する。
    【方法】 (1)対象は当施設において訪問リハを実施している39例(男性12例、女性14例、平均年齢74±9.5歳)。この39例にADLと疼痛に関連する独自に作成したアンケートを実施した。アンケート回収率は83%(26/29例)。(2)アンケートを回収できた26例のうち、実際にADL上疼痛を訴えていた群(17例)のうち、疼痛によりADL上支障あると回答した群9例(A群、平均71歳、男性4名、女性5名)と疼痛はあるがADL上支障はないと回答した群8例(B群、平均76歳、男性4名、女性4名)とし、両群間の年齢、介護度、疼痛の程度(VAS)、FIM等を比較検討した。
    【結果】 アンケートを回収できた26例のうち、ADL上疼痛の訴えがある者は17例と利用者全体の65.4%を占めていた。疼痛の部位は腰背部が最も多く(9例)、既往で腰椎圧迫骨折や脊柱管狭窄症などの脊柱の整形外科的問題を抱える者が多かった。疼痛によりADLが阻害されやすい項目として、起居動作、歩行などがあげられた。A群とB群で介護度・VAS・FIM等各項目を比較検討したところ、労作時VASはA群4.0、B群0.72とA群の方が疼痛の訴えが強い傾向がみられたが、FIM及び介護度等についても両群間で統計学的な有意差はみられなかった。
    【考察】 本研究で有訴率は65.4%、ADLへの支障を訴える者も全体の35%を占めた。この結果は先行文献とほぼ同じ結果だったが、A、B群で比較検討した結果では、有意差は認められなかった。この結果について、先行文献と比べ対象者が少なかったことやFIM平均は107.2と高い値を示し、ADLが比較的保たれている群であったため、ADLが低い群に比べ、疼痛があってもADLへの影響が少なかったのではないかと考えた。今後は対象件数を増やすとともに、より多角的な要因を検討していきたいと思う。
  • 意識レベルの推移とご家族との関わり
    杉水流 健, 石橋 修
    セッションID: 86
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】今回,くも膜下出血により遷延性意識障害を呈した症例を担当する機会を得た.3ヶ月の理学療法介入で,意識レベルに大きな変化は得られなかったが,症例と家族の関係性に変化がみられたので以下に報告する. 【症例】60歳代,女性.キーパーソン:夫,家族の面会頻度:ほぼ毎日,平均5時間 【経過】平成21年4月自宅にて意識障害出現,近医にてくも膜下出血と診断される.7月当院入院,筆者は9月より担当となる.初期評価:東北療護センター遷延性意識障害度スコア表(以下広南スコア)67点(最重症例),Modified Ashworth Scale(以下MAS)0.介入当初は可動域訓練,感覚刺激入力,車椅子乗車実施.また症例の身体状況を報告,ストレッチも指導.家族の希望は「見舞いに来た人が誰だか分かるようになって欲しい」.2~4週では家族より「ぱっと目を覚ましてくれないかな」,「前の病院では意識が戻る可能性はほとんどないと言われたけど,何だか変わるような気がする」,「仕事している時は迷惑ばかりかけて,その恩返しが出来ない」などの話あり.4週まで家族の症例に対する想いが強く,症例からの情報を受け取ることが困難であったため,関係性は家族から症例に対する一方向であった.5週家族より「今日はお風呂に入れた.良かった」との話あり.6週広南スコア65点,MAS1.7週「関節が固くなってきた」と家族より話があった.この頃,家族より症例に対し日々の変化に気付き始める.家族が症例の変化を受け取り始め,関係性は徐々に双方向となる.9週より起立台開始.家族より「関節が固くならないようにリハビリをやって欲しい」との発言.10週MAS2,広南スコア65点.家族より「表情が少し変わってきた」「ストレッチすると体が柔らかくなる」との話あり.10週以降はより変化に気付くようになり,関係性はさらに双方向へ変化した. 【考察】今回,症例と家族の関係が双方向へと徐々に変化がみられ,症例の変化を家族が感じることが可能になってきた.そのため,家族の寂しさや無力感が解放されてきたと考える.これは,今回10週間の理学療法介入で適宜家族へ症例の身体状況の報告,役割分担を行うことにより,症例と家族の間の橋渡しの様な存在となり、図らずもその関係性に変化を与えることが出来たと考える.症例の変化を家族が感じることで,家族の心理的負担の軽減,身体状況に対する理解に繋がり,このような症例と家族の関係性の変化が今後,症例と生活していく中で家族への喜びとなり得ると考える. 意識障害に対し,身体機能の改善や意識レベルの改善だけでなく,症例と家族の関係性にも着目し,理学療法介入することで症例と家族のQOL向上に繋がると考える.
  • 宮井 庸介, 高尾 敏文, 田中 直樹, 金森 毅繁, 小関 迪
    セッションID: 87
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】  今回,回復期リハヒ゛リテーション病棟において,経済的問題から退院調整に難渋することが予想される症例を担当した.医療ソーシャルワーカー(以下MSW),ケアマネーシ゛ャーをはじめ他職種との連携を図り,自宅退院に導くことができたので報告する. 【症例紹介】 50歳代後半,男性,診断名:頸椎椎間板ヘルニア(C5/6),既往歴:糖尿病,右大腿骨頚部骨折.経過:入院2週目に頸椎椎弓拡大形成術施行.術後7週目に回復期リハヒ゛リ病棟転棟(以後筆者が担当),転棟10週後に自宅退院.職業:無職,家族構成:妻(外国人)と二人暮らしで,妻の面会頻度は月に1回程度.経済状況:妻は自宅(兼店舗)にて居酒屋を経営し,日中は他の仕事に従事.入院費未納,介護保険料滞納.自宅環境:借家で居住空間は2階のみ. 【理学療法評価】 筋力(MMT):両側C5~T1領域4・両側L1領域以下1~2,感覚:両側L4領域以下に痺れ,基本動作・移乗動作:重度介助,ADL:食事以外重度介助 【問題点】 _丸1_身体面:歩行獲得困難,ADL要介護_丸2_経済面:施設への転所が困難,介護保険サーヒ゛スの利用に調整が必要_丸3_環境面:介護力不足,借家のため改修や居室の変更困難 【問題点に対する対応】 _丸1_身体面:起居動作修正自立・移乗動作軽介助レヘ゛ル獲得を目標に理学療法実施_丸2_経済面:MSWの介入により介護保険サーヒ゛ス導入の手続き援助_丸3_環境面:家屋環境調査,担当者会議の実施,妻に対して介護指導実施,福祉用具の導入 【結果】 _丸1_転帰先:自宅_丸2_身体能力:起居動作修正自立・移乗動作軽介助レヘ゛ル獲得_丸3_介護保険:特定疾患(脊柱管狭窄症)による要介護3認定_丸4_退院時導入サーヒ゛ス:近医による往診,訪問看護,訪問リハヒ゛リ,訪問入浴,福祉用具購入及びレンタル 【考察】 まずはMSWにより経済的な側面の問題を解決していくことで,妻の面会頻度が向上していった.仕事の多忙さだけではなく経済的問題や今後の見通しが立てられない不安感が徐々に解消されたためと考えられる.結果,妻の介護意欲の向上にもつながり,介護保険申請の手続きが円滑に進捗し,在宅生活復帰に導くことができたと考える.経済的問題を抱える患者の退院に向けた取り組みは,早期よりMSWとの連携を図り,役割を分担して取り組むことが重要であることを認識した.
  • 紺野 あすか, 柳澤 俊史, 中沢 和徳
    セッションID: 88
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     高齢者に多い大腿骨近位部骨折患者はADLの低下等で退院後介護が必要になる方も少なくない。しかし、介護者によって自宅退院の条件はかわりうる。
     今回は、自宅退院した大腿骨近位部骨折患者が介護者によって特徴があるかを検討し、今後の早期自宅退院につなげていくことを目的とした。
    【対象】
     平成20年10月1日から平成21年12月31日の間に、大腿骨近位部骨折で自宅から当院に入院し理学療法実施後自宅に退院した32名のうち、主介護者が配偶者か子供世代である29名。男性4名、女性25名、平均年齢82.5歳。内側骨折が15名、転子部骨折が14名。治療方針は観血的治療が27名、保存的治療が2名。
    【方法】
     上記29名を主介護者が配偶者である12名(配偶者群)と子供世代である17名(子世代群)にわけ、受傷前・退院時のADL状況(Barthel Index(以下BI)とN式老年者用日常生活動作能力尺度(以下N式ADL))、改訂長谷川式簡易知能評価スケール(以下HDS-R)を調べ比較した。検定にはメディアン検定を使用した。
    【結果】
     配偶者群のほうが子世代群に比べて年齢が若く、退院時ADLが高くなった。認知症もない傾向にあった。
    【考察】
     配偶者群と子世代群を比べた結果、主介護者が配偶者の場合介護をあまり必要としていなかった。配偶者が主介護者になる場合、老老介護となることが多く、介護負担が多いと自宅には帰れない現状があると思われる。
     また、配偶者群と子世代群では、受傷前のADL状況には大きな差はないが、退院時のADLは子世代群が優位に低下している。この中で排泄動作に注目すると、配偶者群ではN式ADL・BIともに維持されていたのに対して、子世代群では低下がみられた。これらから老老介護においては排泄の介助の有無が重要であることが示唆された。
     これらのことから、大腿骨近位部骨折患者の自宅退院において、介護者の有無だけではなく介護者のニーズを早めに推測・確認することが重要と思われる。また、早期から排泄動作の獲得を図り病棟スタッフとも連携をとっていくことが重要だと考える。
    【まとめ】
    1.自宅退院した大腿骨近位部骨折患者の介護者による特徴を検討した
    2.主介護者が配偶者の場合には年齢が若く退院時ADLが高くなった
    3.自宅退院のためには介護者のニーズの確認が重要
    4.病棟スタッフと連携をとり排泄動作の獲得を図っていく必要がある
  • 仲井 龍平
    セッションID: 89
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】脳卒中罹患後,障害者は身体,環境,社会的などの障壁に直面する.その中で「以前のように○○が出来たら」と機能回復を望むことも多い.しかし,ある程度の分離運動が可能でも動作時に伸張反射や異常筋緊張が出現し行動が阻害される場面を経験する.近年の神経生理学・脳神経科学の知見から脊髄のシナプス前抑制により反射を抑制することが明らかになってきた.そこで今回発症6年を経過した左片麻痺患者に対し,訪問リハビリテーションにてシナプス前抑制を用いた介入によりQOL向上を図ることが出来た経験を報告する.
    【対象】H16年右視床出血60代女性.H17年から訪問リハ開始(主訴)手が震える(HOPE)編み物がしたい(Br-s)左上肢_IV_手指_IV_下肢_IV_(感覚障害)左上肢軽度鈍麻(ADL)FIM120点:左上肢運動時にクローヌス・共同運動出現.
    【方法】非麻痺側右上肢の運動軌跡を閉眼で記憶させ運動主体感を体性感覚を用いて構成.その後麻痺側左上肢の運動前に右上肢の運動軌跡を想起しながら左上肢の運動を実施.これらの課題を自宅での自主訓練として実施.
    【結果】左上肢の運動に先行し右上肢の運動軌跡を想起することで手指の伸張反射は軽減.左上肢の筋緊張が亢進し3分しか継続できなかったかぎ針編みが10分以上継続可能となる.「前は編み物をしても手が言うことを聞いてくれず嫌ですぐやめたが,今は自分の手という感じが増え編み物が続けられる」と笑顔で答えている.
    【考察】関らはシナプス前抑制は先行した上位中枢の活動が必要としている.つまりシナプス前抑制を発現させ伸長反射・異常筋緊張を抑制するには運動発揮に先行した適切な麻痺側上肢の運動予測が必要と考えた.しかし介入前の症例は麻痺側上肢の運動発揮の際に「手を動かす」という漠然とした理解しか得られず,運動軌跡変化による上肢の関節位置関係の正確な把握が困難で「動かすほど緊張する」という内観であった.つまり麻痺側左上肢の潜在的な位置関係理解(身体図式)およびそれらを基準として顕在化された位置関係理解(身体イメージ)が適切に再構成されていないと考えられた.そこで非麻痺側上肢の運動発揮を用いた運動予測モデルを一度企図させ,麻痺側上肢を制御する際の内部モデルとして用いながら麻痺側上肢の運動発揮を行った.その結果,適切な運動予測を参照することでシナプス前抑制を働かせることが可能となり麻痺側手指の伸張反射軽減に繋がりQOLの向上が図れたと考える.
    【まとめ】破綻したメカニズムに対しそれを補う明確な学習モデルを提示していくことで維持期の訪問リハでも行為の向上は図れると考える.
  • 疲労時FMSの活用の可能性
    小松 悠揮, 小林 美奈子, 酒井 伸子
    セッションID: 90
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 人工透析(以下HD)患者の在宅復帰に際し家屋改修を行った症例に対し追跡調査を行ったところ現在、改修箇所をほとんど使用できていない1症例があった。その原因を考察し報告する。 【方法】 在宅復帰に際し家屋改修を行った1症例に対し口頭で説明し同意を得て退院から1年7ヶ月後に患者、家族、担当ケアマネージャーに、現在の改修箇所の使用状況、身体ADL能力について聴取した。〈BR〉 〈症例紹介〉〈BR〉 症例はHD歴5年の腎不全患者。78歳男性。元々脳梗塞左片麻痺の既往あり。ラクナ梗塞にて入院。介入の機会を得た。〈BR〉 入院前ADL:屋内伝い歩き、屋外T字杖軽介助で20m歩行可能。入浴は自宅とデイケアを併用。HD週3回〈BR〉 介護保険:要介護2。〈BR〉 家族背景:妻と2人暮らし。〈BR〉 家屋環境:平屋で段差は玄関に上り框20cm、玄関前に10~20cmが5段。廊下、浴室、トイレに手すりあり。居室からトイレまで10m。〈BR〉 退院前訪問時身体所見:麻痺極軽度、感覚・認知機能低下無し。Functional Movement Scale(以下FMS);13点 疲労時FMS;6点 疲労時減点項目は立ち上がり、立位保持、移乗動作、歩行。歩行器で15m歩行可だが疲労が強い。段差昇降不可。車いす自走可。 【結果】 改修箇所:1.本人の居室からスロープで出入りすることを提案。〈BR〉 2.トイレ内を間仕切りの壁を取り払い広くした。移動は車いす、移乗は手すり使用を提案。〈BR〉 3.浴槽に可動式手すりを取り付けることを提案。〈BR〉 現在の身体機能:麻痺、感覚、認知機能著変なし。FMS;5点 疲労時FMS;5点 要介護5。退院後転倒1回。〈BR〉 現在の利用状況:1.スロープを玄関に設置。段差はデイサービススタッフが介助。〈BR〉 2.トイレは使用可能だが、車いす駆動介助、移乗全介助。〈BR〉 3.自宅での入浴は中止。デイサービスで週3回。 【考察】 本症例は入院中、普段と疲労時とでFMSの点に大きな差がみられていた。現在のFMSは入院中の疲労時の点数とほぼ同様であることから疲労時の能力に合わせた改修を行っていたら現在まで使用出来ていたかもしれない。普段の能力と疲労時とで能力に大きな差がある患者において、疲労時の能力を正確に把握することで長期間利用可能な提案を行える可能性がある。〈BR〉 入院中の疲労時のFMSと現在のFMSとがほぼ同じ点数であることは、ADL介助量に変動のあるHD患者にとって、疲労時のFMSが中長期的な身体ADL能力を予測しうる可能性を示唆している。疲労時のFMSの点数を考慮し改修案を提案すれば長期利用可能な提案が可能かもしれない。しかし本研究の対象が1症例のみであることをふまえ、介入時期、対象等さらなる調査が必要であると考える。 【まとめ】 FMSの疲労時の点数を家屋改修時に考慮することで長期利用出来る提案を行える可能性を示唆した。
口述発表13(教育・管理系)
  • 寝たきり・座りきりでなくても褥瘡はできる
    橘 香織, 水上 昌文
    セッションID: 91
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】褥瘡は,寝たきりあるいは座りきりの高齢者に多い問題として認知されているが,車椅子バスケットボール選手にも褥瘡を生じる人が多いことはあまり知られていない。褥瘡は,競技生活からの離脱を余儀なくされるだけで無く,日常生活にも影響を及ぼす重大な問題である。本研究では、車椅子バスケットボール競技選手を対象として褥瘡の発生状況について実態を明らかにし,今後の褥瘡予防対策に役立てるための知見を得ることを目的とした。 【方法】  499名の選手に対して郵送法による無記名式アンケート調査を施行した。質問項目は、回答者の属性に関する項目(性別・年代・車椅子バスケットボール経験年数・クラス・練習頻度)と褥瘡に関する項目(褥瘡経験の有無、発生部位、発生時期、持続期間,再発の有無)に関するもの計10項目であった。発生部位については複数回答可とした。 【結果】  499名中264名(52.9%)から有効回答が得られた。「褥瘡経験あり」と答えた者は101名(38.3%)で、約4割の選手がなんらかの褥瘡を発生した経験を有していた。調査時点から過去1年間に褥瘡を発生していた人数を元に計算した期間有病率は7.95%で,平成18年に日本褥瘡学会が行った実態調査で示された在宅療養者の褥瘡有病率(8.32%)に匹敵する高率であった。発生件数はのべ163件で、部位別に見ると坐骨が最多(66件:32.6%)で、ついで仙骨(64件:39.3%)、足部(16件:9.8%)、腰部(9件:4.3%)の順であった。約半数のケースで同一部位の再発を認めており(163件中74件:45.4%),約6割が競技開始後5年未満で発生していた。選手の機能的重症度を表すクラス別にみると,より障害の重度なクラス1・クラス2の選手に褥瘡の経験が有意に多く認めた(カイ2乗値38.688,有意確率p<0.001)。また,褥瘡が生じた際に車椅子バスケットボールの練習を休むかどうか尋ねたところ,回答者の約7割が練習を休まずに続けると回答していた。  【考察】 今回の調査で、車椅子バスケットボール競技に参加している高いレベルの動作能力や活動性を有する者でも褥瘡を発生する人が多いことが明らかとなった。発生部位は座面や背もたれと接する坐骨や仙骨に集中していた。また,機能的重症度の重い選手,競技開始から間もない時期の選手に褥瘡が生じるリスクが高いことが示唆された。しかし,褥瘡を有しながらも練習を続ける例が多く,褥瘡に対する危険意識が低いことも明らかとなった。こうした実態をふまえ,褥瘡の予防対策およびその管理についての周知を図ることが急務であると考えられた。
  • 鈴木 恒, 小田 桂吾, 佐藤 誠一郎, 照沼 祐治, 平野 篤
    セッションID: 92
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】  我々は2008年6月より高校サッカー部のメディカルサポートを行う機会を得た.そこで年間を通しての傷害発生状況を調査すると共に,理学療法士として病院業務と並行しながら活動することの問題点を明確にするため,活動内容を報告する. 【年間活動内容】  昨年度のチーム構成は部員62名(1年20名・2年19名・3年23名),スタッフ4名(監督1名,コーチ2名,トレーナー1名).年間スケジュールは公式大会・県リーグ戦を含め6大会,それ以外の週末にはほぼ毎週試合が組まれている.オフは年末年始・御盆でそれぞれ4日,試合翌日は自主トレーニング,学校のテスト期間中は朝練習のみとなっている.  現在,週2回前後トレーナーとして携わっている.活動内容は,練習時は競技復帰に向けたアスレッティックリハビリテーション(以下,アスリハ),試合前のテーピング,試合中・後のケア及びスタッフへの傷害発生状況の報告を行っている.また新入生のメディカルチェック,セルフケア指導,夏休み前には全部員に対し栄養指導を行った. 【傷害発生状況】  昨年度,傷害発生は総計72件であり,そのうち外傷は50件(69.4%),障害は22件(30.6%)であった.部位別としては足部19件(26.4%),大腿15件(20.8%),膝関節14件(19.4%),上肢11件(15.3%),下腿8件(11.1%),体幹4件(5.6%),顔面1件(1.4%)であった.特に捻挫が14件(19.4%)と最も多かった.手術例は膝前十字靱帯再建術・Jones骨折の2件であった. 【考察】  傷害発生状況は他の先行報告同様,下肢の傷害が半数以上を占めており,サッカーの特徴といえる.高校生の年代では,Jリーグの傷害報告と比べ肉離れなどの筋損傷の発生が比較的少なく,骨端線損傷や疲労性骨障害が多いとされている.当チームにおいても全体の3割程度がシンスプリントや膝関節周囲などの過用性障害であった.その発生要因として練習に持久系疾走メニューが多いことが考えられ今後,障害発生予防のため,下肢の柔軟性等、コンディションに注意することが発生予防に繫がると考えられた. 現在,スポーツ現場で活動する多くの理学療法士は病院や教育機関に籍を置きながらチームに関わっている者がほとんどであり関われる回数は限られ,チーム内のすべての選手のコンディショニングを細かに把握することは難しい.そこで我々は県内の理学療法士の有志を募って茨城県アスリハ研究会を設立し,医療機関とスポーツ現場との連携を密にし,選手自身がセルフコンディショニングするための教育に加え,指導者向けのスポーツ傷害・コンディショニングの講習等を行うことで我々の活動の認知を得,トレーナー介入後の傷害発生数を継続的に調査し,発生数の減少を提示できれば多くの高校部活動にトレーナーの必要性を得ることができるのではないかと考える.
  • 梅香 匠, 相澤 充, 成田 哲也
    セッションID: 93
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     女子バスケットボール選手は前十字靭帯(以下ACL)の損傷が多いとされている。現在、ACL予防プログラムが推奨されているが、ACL予防プログラムの時間を練習時間とは別に時間を取って行っているところが多い。今回、バスケットボール女子日本リーグ機構(以下WJBL)が行っているACL予防プログラムを基に普段のウォーミングアップメニューに同プログラムを取り入れ、行えるようにしたので報告する。
     また、このウォーミングアップを行うことで身体能力がどのように変化するかも検討した。
    【方法】
     WJBLが行っているACL予防プログラムを基にウォーミングアップメニューを作成した。
    項目は、筋力、ジャンプ、バランス、スキルの4項目である。この中で筋力、ジャンプ、スキルはウォーミングアップメニューに取り入れ行えるプログラムとした。バランスメニューのみ静的で行うため、ストレッチ後に行うこととした。
    【対象】
     高校女子バスケットボール選手11名(16歳7名、17歳4名)
    【結果】
     身体能力については本プログラム開始前後で、両脚3段飛びで平均4.14mから平均5.26mまで増加。片脚3段飛びで3.8mから4.6mまで増加した。また、片脚スクワットの数値では平均4.0回から5.5回まで増加したため身体能力の向上も計れるといえる。
    【考察】
     今回、WJBLが行っているACL予防プログラムを基にプログラムを作成した。従来のものはプログラムの時間を別に取り行っているのに対し、我々はウォーミングアップメニューに取り入れ行うことにより、週2回しか行えていなかったプログラムを週7回行えるようにした。
     未だ短期間ながら、このACL予防プログラムを行ってからACL損傷者を出していない。ACL予防プログラムを行う前では1年間に3名の損傷者がいたことを考えると、今回のACL予防プログラムは効果があると考えられる。浦辺らの文献によると1000時間あたりのプレイ時間(player time)で受傷発症率は0.16~0.21であると言われている。ACL予防プログラム以前の受傷を考えると0.13であったが、今回のプログラムを行ってから受傷者がいないことを考えると有効性があると考える。本プログラムを行ってから1000時間に満たないため比較はできないため、今後1000時間当たりの受傷発症率を検出することが必要である。
     また、コート上をランニングしながら行うことで脚を止めることなくウォーミングアップを行うことにより、効率的に身体の活動レベルを向上させることができる。そのため選手の満足度も非常に高かった。
  • 久保 雅昭, 武田 直人, 渡邊 裕之, 深谷 茂
    セッションID: 94
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 平成20年度関東中学校サッカー大会では開催地の理学療法士(以下 PT)と実行委員会との協力により大会を通じてメディカルサポート(以下 MS)が行われた。平成21年8月8日~10日の3日間で、第40回関東中学校サッカー大会が神奈川県横浜市内8競技場で開催され、我々がMSを行う機会を得た。今回、前回大会PTとの情報共有をもとに、より充実したサポートを目標に事前講習会やサポートマニュアルを作成し、検討したので報告する。 【方法】 関東大会に出場した男性選手288名(平均年齢14.35±0.65)を対象に神奈川県理学療法士会(以下 県士会)に所属するPT23名(男性21名、女性2名)でMSを行った。神奈川県サッカー協会医事委員と受傷時の対応マニュアル、障害報告書を作成した。前回大会のMS担当者と連携し、事前準備として、サポート頻度の多いテーピング講習会をPT対象に行い、大会実行委員会と救急要請対応や審判団とプレー中止の連携について協議、確認した。今回のサポートはチームから要請があった場合に対応することを原則とした。救護所もしくはピッチサイドにPT3名配置した。サポートは試合前のテーピング、水分補給のインフォメーション、試合中の救護活動、アフターケアを行った。MS終了後に障害報告書をもとに翌日申し送りを含めた検討会を行った。個人情報の使用方法については、サポート時に口頭にて説明し、同意を得た。 【結果】 大会期間中の全対応件数は25件であり、障害部位の比率は、足関節約52.0%、大腿部約32.0%、胸部約8.0%、手関節約4.0%であった。対応時期は、試合前16件、試合中3件、試合後6件であった。対応内容は、テーピング16件、アイシング7件、三角筋固定1件、相談/評価が2件であった。サポート利用者は公立校で2大会連続出場したチームや前日サポートした選手が多かった。 【考察】 受傷部位の比率としては足関節・大腿部を合わせると約84%と下肢の障害が多く発生しており、サッカー選手の障害に対する過去の報告よりも下肢に集中する結果となった。対応としてはテーピングが約4分の3を占めたこと、2大会連続出場チームや前日利用者とリピーターが多かったことから、前回大会から情報共有およびMS終了後検討会が円滑に行えたことの成果だと考えられる。関東大会は関東各地で運営されるため、今回のようなPT間での連携が大会サポートに重要であると考えられる。
  • 小林 幸一郎, 加納 朱加, 庄子 理絵, 金 承革, 野瀬 朋洋, 小尾 伸二
    セッションID: 95
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 今回、山梨県理学療法士会スポーツ理学療法部が関わったチームが第88回全国高校サッカー選手権大会で全国優勝を果たした。そこで、現場での対応と問題点など大会中の活動内容を報告する。なお、本演題発表についてはチームスタッフ・選手等関係者に同意を得た。 【方法】 今回の依頼は全国大会中のメディカルサポートであり、期間は12/17から1/9までの27日間であった。期間中、当部から6名を選出。1日2人体制で交代しながら帯同した。大会前は選手寮で不調部位のチェック。大会中は毎朝のストレッチや宿舎での不調部位への対応。試合前はテーピング等の前処置。試合中はベンチに入り急性外傷の対応。試合後は外傷や障害部位の処置とクールダウン、および翌日の調整練習。その他スタッフとのミーティングなど、朝6時から夜11時頃まで多岐にわたる活動を行った。準備品はテープ類や包帯類,物療機器,シーネ,アイシング用品等であった。 【結果】 大会前からの障害部位は足部、足関節周囲,膝関節、鼠径部等であり大会中の悪化はなかった。大会中の外傷は腓骨骨折,足関節捻挫,股関節捻挫、鼻出血等があり、RICE処置や止血処置,テーピング等で対処。また、身体の硬さや筋疲労の訴えが多く、徒手療法,物理療法,運動療法などを行い,可動域拡大,疼痛軽減,筋緊張軽減等がみられ、スタッフ・選手からは,我々のケアで良いパフォーマンスが維持できたと評価された。 【考察】 本高校サッカー部は全国大会初出場の伝統の浅いチームであり、定まった医療機関および大会に帯同するスタッフが確保されず、急遽当士会に依頼があった。士会組織で活動するメリットとしては人員確保が容易な点であり、今回も決勝までの長期間に人員を確保し十分なケアを提供できた。しかし、理学療法士が普段行わない試合後のクールダウンや翌日の調整練習などフィジカル・コンディショニングの知識が不十分であったとの反省も出ている。 近年,強豪校にはメディカル、フィジカル各専門トレーナーが配置されていることが多い。しかし、それら恵まれたチームは数少なく、多くは一人のトレーナーに様々な面を要求される。従って、我々理学療法士はメディカルの専門職であることを明確にしたうえで、フィジカルなトレーニングについても知識を得る必要があると思われた。 【まとめ】 今回、山梨県理学療法士会スポーツ理学療法部は全国高校サッカー選手権大会優勝校に帯同し、長期間に亘り十分なメディカルサポートを提供できた。しかし、スポーツ現場ではフィジカル・コンディショニングも要求されることがあるためトレーニングの知識も習得する必要がある。
  • 鈴木 綾, 真木 伸一, 若林 敏行
    セッションID: 96
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 近年、いくつかの都道府県において少年野球に対する検診が行われ、骨端線閉鎖前の成長期野球肩・肘障害を早期に発見できるとの報告が散見される。今回少年野球の現場でメディカルチェック(以下Mc)を行い、障害予防につながる知見を得たので報告する。 【方法】 地元シニアリーグ36名の中学1・2年生に事前アンケート調査(以下Qs)と現場でのMcを行った。Qsは、野球経験年数、練習頻度、ポジション、疼痛既往の有無を回答してもらった。Mcでは、関節弛緩性、圧痛部位、運動時痛の有無、関節可動域、肩関節周囲筋力、下肢柔軟性、整形外科的テストによる所見をチェックした。Mcの結果をA:肘関節外側部に圧痛があるB:肘関節に可動域制限があるC:肘関節屈曲・伸展動作で疼痛が出現するD:肘関節内側上顆に圧痛のある4群に分類した。上記該当者の中で、Aの症状がある、もしくはA・B・C・Dいずれかの症状が重複して存在する場合を「医療機関を受診すべき」、B・C・Dのみ存在するときは「医療機関受診を勧める」対象者としてチームにフィードバックを行った。 【結果】 Qsの結果、肩・肘に疼痛既往のあった選手は27名(75%)、うち15名(56%)は中学入学前に痛めており、12名(44%)が中学入学後に痛めている。現在も投球時に疼痛を感じている選手は7名(19%)であった。Mcでは、肩・肘に運動時痛を認める選手が10名(27%)存在した。<BR>  Mcの結果、ABCDの該当はA:3名(8%)、B:4名(11%)、C:4名(11%)、D:5名(14%)であった。「医療機関を受診すべき」基準に該当した選手は5名(14%)、「医療機関受診を勧める」基準に該当した選手は9名(25%)であったが、今回新たに医療機関を受診したのは1名のみであった。 【考察】 今回、QsとMcを行った結果から、疼痛既往が高い割合で発生していること、ジュニア期に既に半数以上の選手が肩や肘を痛めていることが分かった。Qsで現在痛みがあると答えた選手は7名だったのに対し、Mcでは疼痛の判明した選手が10名存在したことは、潜在的に症状がある選手が存在することを示唆している。<BR>  全体で14名の選手に受診を勧めたが、実際に医療機関を受診した選手が1名のみであった要因として、_丸1_疼痛はあるが、投球時にあまり困らない_丸2_大会が間近であり現状休みたくない_丸3_Mcの現場で強く受診を勧められたわけではないといった理由が考えられた。医療機関を受診していない12名は、今後注意深く経過を観察していく必要がある。医療機関を受診した1名は、離断性骨軟骨炎と診断された。今回の検診でこのような選手を発見できたことから、少年野球におけるMcの有用性が再見識され、今後更に対象を増やし取り組むべきと思われる。
口述発表14(理学療法基礎系)
  • 大山 隆人, 杉浦 史郎, 豊岡 毅, 小原 弘行, 志賀 哲夫, 大山 和美, 西川 悟
    セッションID: 97
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    柔軟性向上や、障害を予防することを目的に、様々な準備体操が行われている。しかし、どの体操がより効率良く、柔軟性に変化を及ぼすのかは知られていない。そこで今回、柔軟性に影響があると考えられているいくつかの体操を行い、柔軟性の変化を検証した。
    【方法】
    対象は、健常成人12名(男性8名、女性4名)、平均27.1(±3.32SD)歳である。
    体操内容は、左右ハムストリングスに対し、1)Static stretch:持続的なストレッチ、2)Ballistic stretch:1秒間のストレッチと2秒間の安静、3)相反抑制:1秒間の大腿四頭筋収縮と2秒間の安静、4)同筋短縮性収縮:3秒間のハムストリングスの収縮と3秒間の安静、以上4つの体操をおこなった。なお、アプローチの時間は各肢30秒とし、各体操間は1日以上あけた。
    評価は、体操前・直後・30分後に、柔軟性の評価にSLR・長座体前屈を行い、全身の筋緊張や関節運動の評価にfadirf・fabere・Horizontal Flexion Test(以下HFT)・Combined Abduction Test(以下CAT)を行った。
    統計処理には、Fisher’s PLSD法・Sheffe法を用い、各体操の直後・30分後の変化について検定した。統計学的解析は、P<0.05を有意とした。
    【結果】
    Static stretch群は、体操直後のfadirf(P=0.003)・HFT(P=0.004)において有意と判定されたが、長座体前屈・SLRでは有意差は見られなかった。Ballistic stretch群では、体操直後の長座体前屈(P=0.01)・右SLR(P=0.03)・左SLR(P=0.03)で有意と判定された。相反抑制群では、体操直後の長座体前屈(P=0.02)・右SLR(P=0.03)、30分後の長座体前屈(P=0.04)で有意と判定された。同筋短縮性収縮群では各評価において有意差はみられなかった。
    【考察】
    柔軟性の即時的効果はBallistic stretch・相反抑制で得られ、30分後の持続的効果は相反抑制の体操で得られた。よって、柔軟性の持続には、ハムストリングスの筋実質へのアプローチよりも、大腿四頭筋からの脊髄を介した神経的抑制のアプローチを行った方が、効果的であることが示唆された。
    また、全身の筋緊張や関節運動に対する即時的効果は、fadirfやHFTで有意と判定されたことから、Static stretchが効果的であることが示唆された。
    柔軟体操を行なう時は、全身の筋緊張や関節運動を改善するとストレッチゾーンが拡大し、安全性が高いとされている。その為、始めにStatic stretchを行い、その後に相反抑制の体操を行うことは、より安全な準備体操となると考えられる。
    【まとめ】
    柔軟性の即時的効果はBallistic stretch・相反抑制で得られ、持続的効果は相反抑制の体操で得られた。また、全身の筋緊張や関節運動に対する即時的効果は、Static stretchが効果的であることが示唆された。よって、各体操において、効果は多様であり、目的に応じて、体操の選択を行うことが重要であると考えられた。
  • ランドマークの違いによる周径差
    半間 直道, 金子 恵
    セッションID: 98
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    大腿周径を測定する際,膝関節最大伸展位にて測定が行われているが,基準である膝蓋骨には膝関節の運動に伴い可動性がある.そのため左右で最大伸展角度が異なる場合では周径部位にも左右差が生じる可能性がある.今回,健常者の膝関節に対してランドマークを膝蓋骨と非可動性部位として大腿骨外側上顆を設定し,それぞれ屈曲角度を変化させた時の周径値を比較し検討したので報告する.
    【方法】
    対象は本研究の趣旨を説明し承諾を得た膝関節に既往のない20~30代の女性40名(平均25.8±2.6歳).方法は背臥位にて右膝関節0°,60°,90°屈曲位に設定,他動的に保持し各肢位にて膝蓋骨と大腿骨外側上顆上縁5cmより,それぞれ大腿周径を測定した.大腿骨外側上顆は非可動性で触診が容易なためランドマークとした.統計学的処理は繰り返しのない二次元分散分析・多重比較検定を用いて,有意水準は5%未満とした.
    【結果】
    膝蓋骨上縁5cmでの周径値は,0°で39.1±2.8cm,60°で37.8±2.8cm,90°で37.9±2.9cmであった.0-60°,0-90°間に有意な差が認められたが(P<0.01),60-90°間では有意な差は認められなかった.また,大腿骨外側上顆上縁5cmでの周径値は,0°で38.9±2.9cm,60°で38.8±2.8cm,90°で39.0±2.9cmと各角度間で有意な差は認められなかった.
    【考察】
    近藤らによると正常膝関節屈曲60°から120°への深屈曲位において膝蓋大腿関節の可動性が有意に上昇するとの報告がある.結果において,屈曲角度を変化させた時の大腿骨外側上顆の周径値に差が認められなかったこと,また膝蓋骨の値に差が認められたことから膝蓋骨の可動性により周径部位が変化し,それに伴い大腿周径値にも差が認められることが分かった.そのため,左右最大伸展角度が異なる場合では,左右同一角度での測定もしくは非可動性である部位をランドマークとした方が妥当ではないかと考えた.
    【まとめ】
    膝蓋骨と大腿骨外側上顆の2つのランドマークを設定し,屈曲角度を変化させた時の大腿周径値を比較した.可動性のある膝蓋骨では周径値に差が認められ,非可動性である大腿骨外側上顆では差が認められなかった.左右最大伸展角度が異なる場合では,同一角度での測定もしくは非可動性部位を基準とした方が妥当性・正確性があると考えた.
  • ~未固定遺体を用いた大内転筋の機能の再検討~
    滝澤 恵美, 内山 英一, 片寄 正樹, 泉水 朝貴, 鈴木 大輔, 藤宮 峯子
    セッションID: 99
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
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    【目的】股関節内転筋群としてグルーピングされている長内転筋や大内転筋は作用が筋名に付与されている。しかし、人が股関節の内転運動を行うことは稀であり、この作用以外の理解が荷重股関節では重要と考える。そこで本研究は、内転筋群の中でも特に大内転筋に注目し、股関節に対するモーメントアーム(以下、MA)を調べ、「矢状面(屈曲・伸展)」「水平面(内旋・外旋)」の作用を検討することを目的とした。 【方法】87歳女性の未固定遺体を第4腰椎の高さから脛骨近位端で切断し用いた。関節包と大内転筋以外は切離した。大内転筋は、貫通動脈と骨の付着部を目安に上部、中部、下部の3つに肉眼的に分類した。上前腸骨棘と恥骨結合部が床と垂直になるように骨盤の矢状面傾斜角度を決定し、骨盤をjigに固定した。大腿骨の自重による自然下垂位(垂線に対し約10°屈曲位)をゼロポジションとし、左側の大腿骨を屈曲・伸展方向に験者がゆっくり動かした。この際、骨上の任意点の座標は3D磁気式デジタイザー(Polhemus社製、FASTRACK)を用いて追従した。サンプリング座標の値を用いて関節角度、大腿骨骨頭中心、MAを算出した。大腿骨骨頭は球体として扱い、骨頭表面上3点の座標と日本人女性の平均骨頭半径(r=2.16cm)を使用し、非線形最小二乗法で推定した。MAは、推定骨頭中心座標と大内転筋の各部分の起始部と付着部を結んだ作用線との垂直距離を求めた。なお、本研究は札幌医科大学の倫理委員会で承認され、生前の本人と遺族に対しては身体の一部を解離して研究に用いることが説明され同意が得られている。 【結果】大内転筋の上部、中部、下部ともに股関節屈曲範囲では、伸展MAと外旋MAを有していた。矢状面のMAは、ゼロポジションにおいても伸展MAを有していた。なお、水平面のMAはゼロポジション付近を転換点とし伸展範囲では内旋MAとなった。 【考察】筋は「収縮」しかできず関節への作用は、関節中心に対する筋の位置によって決まる。すでに大内転筋の下部(坐骨結節~内側上顆)については「伸展作用」が示されている。今回の結果より、上部・中部についても下部と同様に伸展に作用するMAを含有する可能性が推察された。水平面上の回旋作用においては、股関節ゼロポジション付近を変換点に作用方向を変える特徴を持ち、内旋・外旋双方に作用を持つ可能性があった。大内転筋は、恥骨部~坐骨部に起始を持ち関節中心を前後に広く被う構造的特徴があり、多様な作用を含む筋であると予想される。今回は1股関節のデータによる結果であり今後も検討作業を行う予定である。
  • 住民啓発活動を通した理学療法研究の試み
    菊池 徹
    セッションID: 100
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/12
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    【はじめに】当院では地域における医療及び文化活動の一環として毎年病院祭を開催し、第63回を迎えた。今回当科では、住民への啓発活動を目的に手運動による認知症予防への取り組みを行った。その中で参加者へ握力測定、簡易上肢機能検査(以下STEF)測定を実施し、手掌刺激後における運動機能等への影響を調査した。手掌刺激と握力の結果に若干の知見を得たのでここに報告する。
    【対象・方法】対象者は病院祭で当科を訪れた健常者415名(男性140名、女性275名)、年齢4~90歳(平均年齢45.3±21.2歳)で、本研究の趣旨を説明し同意を得た。方法は対象者に予め握力測定、STEF(小球、ピン)の計測を行った後、対象者の両側手掌へ刺激を加え、再び握力測定、STEFを実施した(刺激群とする)。また研究を行うにあたり対照群(握力37名、平均年齢28.1±7.8歳 STEF126名、平均年齢47.5±20.6歳)を用い、2回測定間の変化を比較し、本結果への効果の参考とした。その際、STEFの実施にあたっては課題が健常者には容易なため非利き手での計測を、握力は利き手での測定とした。握力は検査側上肢を体側に下垂した直立位の姿勢とし、STEF測定方法は小球6球を遠位枠内から近位枠内へ、ピン6本を近位枠内から遠位枠内への移動時間を測定した。手掌刺激部位は手掌支持の際に接触する母指球・小指球と接触機会の少ない手掌中央を2分する母指球内側縁・小指球外側縁の2方向を中枢部から末梢部に向け各5回ずつ、打腱器の柄先端を使用して行った。なお検定には対応のあるサンプルのt検定を用いた。また個人情報は、研究対象者が特定できない様に十分配慮し、研究以外の目的に使用しないこととした。
    【結果】握力では対照群で差がないのに対し、刺激群では刺激前30.9±11.3kgから刺激後32.4±11.1kgへ増加が認められた(p<0.05)。またピンを用いたSTEFでは刺激群で刺激前14.2±6.5秒、刺激後が12.6±4.9秒へ、対照群では刺激前が14.1±7.5秒、非刺激後は13.1±6.9秒へと短縮し、両群で有意差を認め、群間の差は認められなかった。また小球を用いたSTEFでも群間の差は認められなかった。
    【考察】感覚野・運動野の機能連関の研究において、Teraoらは、皮膚空気刺激による運動誘発電位の促通効果やその神経経路を報告している。握力において刺激前後で有意な増加が認められた要因として、皮膚刺激による感覚情報が皮質間投射線維を介して一次感覚野から一次運動野に至り、運動野の興奮性を高めたと考えられる。STEFにおいてピン・小球ともに刺激前後で差を認めなかった要因は、課題難易度が健常者には容易であり、施行時の誤差が少なく誤差調整が生じ難かったため皮膚刺激による介入効果は得られなかったと考える。多くの検討事項を要するが、今回の結果から手掌刺激による筋出力の増加が認められ、今後治療の導入としての応用の可能性が示唆された。
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