関東甲信越ブロック理学療法士学会
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第30回関東甲信越ブロック理学療法士学会
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口述発表
口述発表1 「神経1」
  • 歩行機能への影響について
    吉田 豊, 原島 宏明, 角田 亘, 安保 雅博
    セッションID: O1-1-001
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/03
    会議録・要旨集 フリー
    【背景】
     当院では、2010年6月から東京慈恵会医科大学(以下慈恵医大)リハビリテーション(以下リハ)医学講座の協力下、低頻度の経頭蓋磁気刺激(以下TMS)と集中的リハの併用療法を治療的に適用している。特筆すべき点として、当院では、慈恵医大リハ科による従来の報告と異なり、上肢麻痺に対する作業療法のみならず歩行障害に対する理学療法も並行して提供している。本検討では、低頻度TMSを含めたこの治療的介入が、歩行機能に与える影響を明らかにすることを試みた。
    【対象と方法】
     対象は、慈恵医大リハ科外来を受診し、TMS治療の適応基準を満たす脳卒中後片麻痺患者28人(平均年齢63.3±9.4歳)。全例が2010年6月18日から2011年2月4日までの期間にTMS治療目的で入院された。リハ科医師による刺激部位・強度の決定・確認が行われ、20分間の低頻度TMS・60分間の個別リハ・60分間の自主トレーニングの3つのセクションを毎日2回、2週間連日で施行。個別リハは、約20~50%の時間を理学療法、特に歩行訓練にあてた。入退院時評価は、上田式片麻痺機能テスト(下肢)、10m歩行時間・歩数、Time up and go Test(以下TUG)、Functional Balance scale(以下FBS)、Dynamic gait index(以下DGI)を用いた。
    【説明と同意】
     TMS治療の提供は、慈恵医大および当院倫理委員会によって臨床研究として承認されており、患者からは同意書によって同意を確認している。
    【結果】
     我々が考案したTMSを含めた介入により、TUGおよびDGIにおいて有意な改善が確認された(TUG:入院時-15.5±8.9、退院時-14.7±8.5、p<0.05。DGI:入院時-17.2±5.6、退院時-18.2±5.1、p<0.05)。その他の評価項目では、有意な変化はみられなかった。なお、いずれの症例においても治療に伴う有害事象は発生しなかった。
    【考察】
     今回の結果は、健側大脳運動野手指領域への低頻度TMS適用が、歩行訓練を併用することで歩行機能にも有益な効果を発揮することを示唆している。DGI、TUGにて有意差が認められたことより、総合的な歩行機能とバランス機能の向上があったものと考えられる。また、歩行機能の改善に加えて歩容の改善も今回の結果に影響を与えていると推測される。
  • 久保田 雅史, 高橋 明美, 田中 健, 福島 唯, 押木 利英子
    セッションID: O1-1-002
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/03
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    【目的】
    Contraversive Pushing(以下Pushing)は、入院期間は長期に渡るが最終的な自立度に差はない(Pedersen; 1996)という報告がされている。しかし、歩行自立度に関する報告は少ない。本研究の目的はPushingが退院時の歩行自立度に影響するかを検討することとした。

    【方法】
    対象は当院に2010年1月から9月に入院した430名の脳卒中患者から、死亡、早期退院、療養病棟転棟例を除き、さらに回復期病棟に転棟した131名から、両側片麻痺、下肢の運動麻痺なしを除いた108名である。Pushingの判定は「Scale for Contraversive Pushing」にて>0とし、Pushingの有無により2群に分けた。Pushingあり(P群)は14名、平均年齢70歳、男性9名(脳梗塞6名、脳出血8名、右片麻痺7名)とPushingなし(NP群)は94名、平均年齢73歳、男性48名(脳梗塞63名、脳出血25名、SAH6名、右片麻痺54名)であった。評価項目は入院期間、下肢運動麻痺、感覚障害、Barthel index(以下BI)、歩行レベルの5項目とした。評価は初回評価と退院評価を実施した。統計学的検討はMann-Whitney’s U test、χ2検定を用い、有意水準は5%未満とした。なお、本研究は当院倫理委員会にて承認されている。

    【結果】
    1.入院期間はP群(平均134日)、NP群(95日)でP群はNP群よりも有意に長かった。2.下肢運動麻痺は初回・退院評価ともにP群はNP群よりも有意に重度であった。3.表在感覚障害はP群(初回100%→最終100%)、NP群(64%→52%)、深部感覚障害はP群(100%→100%)、NP群(55%→46%)でP群はNP群よりも感覚障害を有する割合が有意に高かった。 4.BIはP群(初回平均9点→最終平均73点)、NP群(22点→73点)で2群間の差は認めなかった。5.退院時の歩行自立度はP群(自立43%)、NP群(自立55%)で2群間の差は認めなかった。

      【考察】
    今回の結果からPushingは退院時の歩行自立度には影響しないことが示唆された。しかし、Pushingは入院期間を長期化させることが明らかであった。身体機能の重症度に加え、Pushingが強く出現している時期は非麻痺側上下肢が抵抗に作用し、身体保持や歩行の為に機能的に活動できない。そのため、基本動作、歩行練習に介助を多く要し、症状が軽減・消失するまでの期間は歩行・ADLの向上に繋がりにくく入院期間が長期化に至ったと考えられた。本研究では最終的な歩行自立度には差は認めなかったが、自立歩行の獲得までに長期を要したことから、Pushingの有無は歩行獲得までの期間に大きな影響を与えていることが考えられる。現代の医療では入院期間の短縮が求められ、適切な予後予測がリハビリテーション計画に重要視される中、Pushingの出現が身体能力の回復を予測する因子として有効であることが示唆された。また入院期間を短縮させるためにはPushingをできるだけ早く消失させるアプローチの必要性が明確になった。
  • 身体機能および高次脳機能に着目して
    志村 圭太, 濱中 康治, 中島 啓介, 長崎 稔, 上内 哲男, 室生 祥
    セッションID: O1-1-003
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/03
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    【目的】
    これまで脳卒中患者の歩行自立に関わる因子が報告されてきたが,その多くが歩行自立度をセラピストの主観で判断しており基準が曖昧である.また,高次脳機能の影響を加味せずに身体機能に着目したものが多い.当院では病棟生活に即した7項目から構成される独自の歩行自立判定テストを用いている.そこで今回は,自立歩行獲得者と監視が必要な者の差を身体機能および高次脳機能の両面から検討した.
    【方法】
    対象は2009年10月から2010年8月までに当院回復期リハ病棟に入院した脳卒中患者のうち,入院時に歩行が自立しておらず退院時に監視または自立レベルだった30例.平均年齢は66.0±17.2歳,性別は男性17例,女性13例,診断名は脳梗塞14例,脳出血14例,くも膜下出血2例,損傷側は右半球17例,左半球12例,両側1例であった.このうち入院中に病棟内歩行が自立した者を自立群(n=20),監視が必要な者を監視群(n=10)に分類した.監視歩行を獲得し歩行自立判定テストを実施した時点で,身体機能評価として下肢BRS,TUG,麻痺側・非麻痺側片脚立位時間,Functional Balance Scale(以下FBS)を測定し,高次脳機能としてMMSE得点,半側空間無視(以下USN)および注意障害の有無を評価した.データ分析はこれらの評価項目に加えて年齢,性別,診断名,損傷側を2群間で比較し,統計学的有意水準は危険率5%未満とした.なお対象者には本研究の主旨を十分に説明し同意を得た.また,匿名性の保持と個人情報流出防止に留意した.
    【結果】
    年齢(監視群78.6±12.9,自立群59.7±15.7歳)が自立群で有意に若かったが,性別,診断名,損傷側は差がなかった.身体機能面では,TUG(監視群62.9秒,自立群30.1秒),非麻痺側片脚立位時間(監視群0.85,自立群5.9秒) ,FBS総得点(監視群32.0,自立群43.5点),FBS下位項目の移乗動作,閉眼立位,閉脚立位,上肢前方到達,靴を拾う,左右の振り向き,回転動作で自立群が有意に優れていた.高次脳機能ではMMSE得点が自立群で有意に高く,監視群で注意障害,USNが有意に多かった.
    【考察】
    身体機能面で有意差が認められた項目のほとんどが立位バランスを規定するものであり,その能力が高い者は麻痺の重症度に関わらず歩行能力が高いと考えられた.特に非麻痺側片脚立位時間が自立群で優れていたことから,非麻痺側機能も重要であると考えられる.一方監視群では高次脳機能障害をもつ例が有意に多かった.ADL場面では周辺環境への注意が必要であり,これに関わる認知機能や注意機能の低下が歩行自立を阻害した可能性がある.
    【まとめ】
    脳卒中患者では運動麻痺の程度よりも立位バランスや非麻痺側機能が高いことに加え,認知機能,注意障害,USNが歩行自立度に影響していることが示された.
  • 回復期リハビリテーション病棟でのアプローチを通して
    白川 心一朗
    セッションID: O1-1-004
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/03
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    【はじめに】
    重症ギラン・バレー症候群(以下GBS)は機能予後不良とされており、Weinerの報告によると人工換気が3~8週間必要となった例は、1~2年後装具なしの歩行は困難か車椅子レベルに留まる場合が多いと報告される。今回、GBSにて初発初期に人工換気を8週間行ったが、10ヶ月の間の治療でフリーハンド歩行獲得し自宅復帰した1例の臨床経験を報告する。
    【症例紹介】
    2009年9月25日より下痢あり。10月1日舌・右手の痺れ出現。10月4日前院入院直後より筋力低下、歩行障害、構音・嚥下障害が急速に進行。臨床経過、髄液検査、筋電図より軸索型GBSと診断され、血漿交換、ステロイドパルス療法、免疫グロブリン療法(IVig)施行。11月25日当院入院。意識はJCS:IIでせん妄を認め、四肢に随意性はほとんどなく、MMTは上肢0~2、下肢0~2。深部腱反射は消失。BBS:4点。起居不可、端座位見守り、移乗2人重介助。BI:0、FIM:22(14:8)点。Huges’scale5で人工換気を要した。
    【経過】
    入院1ヶ月は全身管理下で呼吸理学療法とROM-ex施行。2ヶ月で座位練習を開始。耐久性の向上に伴い離床時間の増加を図り起立・歩行練習へ移行。3ヶ月でせん妄が改善し座位保持が40分、起立が軽介助となった。4ヶ月で寝返り自立。歩行軽介助。車椅子自走にて病棟移動を実施した。この時期まではベッドサイドやトイレ内でのコール操作の設定を身体能力に合わせ変更し活動的な病棟生活を送れるよう工夫した。5ヶ月でオルトップ着用し歩行見守り。トイレ移動や食事移動を車椅子から歩行ベースに変更。6ヶ月で屋外歩行が軽介助。食事やトイレ等のADL場面でも上肢参加を促し出来る限り自身で行えるように関わった。7ヶ月で屋内歩行自立。8ヶ月でMMTは上肢3~4、下肢3~5。BBS51点。屋外2km歩行可能。手摺りにて階段自立。BI:95点、FIM108(73:35)点。Huges’scale1(軽度の症状、手作業可能)となり自宅復帰した。
    【考察】
    耐久性に配慮しつつ出来る限りの積極的な筋力増強を行うと共に、耐久性・移乗・移動能力の向上に伴い速やかに自主トレや病棟生活に反映させた。患者が病態・予後を理解し屋内歩行・排泄自立にて自宅復帰するという目標をチームで共有した事が患者の意欲を高めた。ベッドサイドやトイレ内でのコール操作の設定を身体能力に合わせ変更し活動的な病棟生活を送れるよう工夫した。重症軸索型GBSは機能予後不良といわれているが長期的チームアプローチで機能回復が可能であった。
  • 渡部 幸司
    セッションID: O1-1-005
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/03
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    【目的】
    今回、前・中大脳動脈境界領域の脳梗塞を発症した症例を担当した。本症例の発症時、失立失歩様の症状、すなわち臥位・座位で四肢の運動は可能で、起き上がりも可能であるが、立ち上がろうとした途端に全身屈筋の筋緊張が強まり、介助でも立位が困難であった。この失立失歩は19世紀からさまざまな原因で報告されているが、リハビリテーションに関する報告は少ない。この症例を報告し、失立失歩の治療方法・原因を検討することを目的とする。なお、この報告に関して、本症例にヘルシンキ宣言に基づいて説明し了承を得ている。
    【症例紹介】
    80代男性。認知症の症状が平成19年から出現。病前から尿・便失禁があったが、自分でできることも多く、歩行は屋内伝い歩き自立。病前のBarthel Index(以下BI)は55点。平成22年11月に右上下肢の麻痺が出現し、脳梗塞の診断で当院入院となった。
    【初期評価(第4~8病日)】
    BIは10点座位で食事を自己摂取できたが、それ以外はほとんど全介助。右上下肢・体幹にはわずかなweaknessがあった。臥位・座位での分離運動はほとんど問題なし。起き上がり自立。座位保持は安定。長谷川式簡易知能評価スケール(以下HDS-R)は8点。立方体などの模写は困難。自己身体模写では、両手部・両足部・体幹のイメージが特に悪かった。
    【治療内容】
    病前との大きな違いは、外界と自己身体との認知が困難であると考えた。両足部は支持面からの情報を認知するのが困難と仮説をたて、ブリッジングや立位でのバランス練習を行った。手は外界の物に対して強制把握でしか反応できなくなっていることに対し、意識的な制御が有効と仮説をたて、本人が一番練習に積極的となったボール投げを行った。理学療法は週に5~6日、毎回40分行った。また、作業療法も同じ頻度で行った。
    【最終評価(第60~64病日)】
    BIが50点となり、尿意・便意を自ら訴えるようになり、看護師の手引き介助で歩行ができるようになった。HDS-Rは4点。10m歩行は監視で18’71秒。外泊を試し、家族より病前とほとんど変わらないということで、第87病日に自宅退院した。
    【考察】
    失立失歩の原因はヒステリーや神経衰弱、前頭葉・小脳病変などさまざまな報告がされている。本症例は、外界と自己身体の認知に焦点を当てて治療した結果、改善がみられた。このことから、失立失歩の原因のひとつに、外界と自己身体の認知の障害があることが示唆された。
  • 寺山 圭一郎, 小川 明宏, 秋葉 崇
    セッションID: O1-1-006
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/03
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    パーキンソン病の歩行障害のうち、すくみ足の改善に対しての報告を目にすることはあるが、小刻み歩行の改善に対しての報告は少ない。パーキンソン病での歩行は健常人の歩行と比較して、左右への重心移動が少なく、この結果、振り出しが困難となっている。今回、小刻み歩行を改善するために、重心の左右移動を大きくすることを目的として横歩きによるアプローチを行った。
    【対象】
    当院神経内科に検査目的で入院もしくは外来通院中のパーキンソン病患者6例。男性3例、女性3例。平均年齢75±8.9歳。Yahr分類はIIが3例、IIIが3例で、歩行は自立しているものの、小刻み歩行が認められる症例。なお、全例に対して、本研究の趣旨を説明し本人に同意を得た。
    【方法】
    特に指示はせず、5mの快適歩行を2回実施。この時間と歩数を計測。同時にビデオで撮影。その後、平行棒内で3往復の横歩きを実施。この際、(1)真横になるべく大きく足を出すように。(2)下を向かず、前を向いてなるべく遠くを見るように。とだけ口頭にて指示をした。横歩き後、再度、5mの快適歩行を実施。この時の時間と歩数を計測し、ビデオで撮影。撮影したビデオから動作解析ソフトPV Studio 2Dを用いて、5mの中央付近の任意の一歩の歩幅とその身長比を計測。それぞれを横歩き前後で比較。対応のあるt検定にて統計処理を行った。
    【結果】
    横歩き後、歩行時間は平均8.59±3.10秒から7.20±2.37秒、歩数は平均15.3±4.55歩から13.0±3.85秒に減少、歩幅は平均0.31±0.09mから0.37±0.10mと増大が認められた。また、歩幅/身長も平均0.20±0.05から0.23±0.06と、全てにおいて横歩き後で有意に改善していた(p<0.05)。
    【考察】
    パーキンソン病患者の歩行は、脊柱起立筋において持続性の高い筋活動が認められ、体幹が棒状となっているために、重心の左右移動が小さくなっている。さらに、重心の後方への偏移が特徴的で、前傾姿勢により重心を随意的に前方に移動させ、歩行における下肢のステップを維持するための代償として小刻み歩行が認められる。また、前傾姿勢により骨盤回旋が少ないことも歩幅が短くなる要因として挙げられる。横歩き動作では、下肢を横に大きく出すために、体幹の伸展、側屈を伴った一側下肢への十分な体重移動が必要となり、結果として重心の左右移動が大きくなったと考えられる。また、体幹を伸展位に保つことで、体幹の可動性が向上し、回旋要素が出現したことで歩幅が大きくなったと考えられる。
口述発表2 「神経2」
  • -体幹機能重症度別の検討-
    藤野 雄次, 網本 和, 小泉 裕一, 深田 和浩, 佐藤 大, 門叶 由美, 高石 真二郎, 播本 真美子, 前島 伸一郎
    セッションID: O1-2-007
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/03
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    近年,片麻痺患者の座位バランスは,前額面上と比して矢状面上での姿勢保持能力が日常生活動作能力(以下,ADL)と関連することが明らかになっている.しかし,片麻痺患者における座位の側方偏倚についての運動学的分析は少なく,体幹機能の重症度別での検討はなされていない.本研究の目的は,脳梗塞発症初期における座位最大側方偏倚能力を運動学的に分析し,体幹機能重症度による違いを明らかにすることである.

    【方法】
    対象は急性期脳梗塞患者15例(平均年齢:64.5±10.1歳,性別:男性13例・女性2例,麻痺側:右9例・左6例,測定病日12.3±5.7日,下肢Br-stage:II 2例・III 6例・IV 4例・V 3例)とした.本研究は当院倫理審査委員会の承認を得て実施し,対象者には事前に本研究の内容を書面にて説明し同意を得た.取り込み基準は足底非接地での端座位保持が可能かつ課題の理解が可能な例とし,基準を満たした時点で測定した.課題は,足底非接地・上肢支持なしで座位をとり,体幹を左右へ最大偏倚させた偏倚課題とした.運動学的分析として,反射マーカーを対象者の後頭結節,第7頚椎,第4腰椎,両側の肩峰・上後腸骨棘に貼付して各課題の姿勢をビデオカメラで記録し,動作解析ソフト(DKH Frame-DIAS IV)を用いて分析した.角度の定義は,非麻痺側への傾きをプラス,麻痺側への傾きをマイナスとし,頭部・身体・上部体幹・下部体幹の前額面上での傾きを算出した.体幹機能の評価には,Stroke Impairment Assessment Set(SIAS)体幹項目を用い,中央値を基準に体幹機能の良好群(n=6)と不良群(n=9)に分類し,偏移課題における各部の角度を対応のないt-検定を用いて比較した.統計処理にはSPSS16.0Jを使用し,有意水準は5%未満とした.

    【結果】
    非麻痺側偏倚時の頭部・身体・上部体幹・下部体幹の傾きは,良好群が33.9±12.4°・23.2±7.2°・24.2±11.1°・14.0±9.8°,不良群は15.8±9.9°・16.4±4.8°・27.3±5.9°・9.9±6.6°であり,頭部と身体の傾きでは,良好群が有意に大きかった(p<0.05).麻痺側偏倚時の頭部・身体・上部体幹・下部体幹の傾きは,良好群と不良群に有意差は認めなかった.

    【考察】
    体幹機能重症度別の最大側方偏倚では,非麻痺側方向移動時の頭部・身体定位能力に相違があることが明らかとなった.このことは,端座位での側方移動を制動する移動側と反対側,すなわち麻痺側体幹筋の機能を反映するものと考えられた.
  • 國枝 洋太, 今井 智也, 三木 啓嗣, 足立 智英, 高木 誠
    セッションID: O1-2-008
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/03
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    急性期脳梗塞患者の姿勢変化は,脳内の血行動態に影響を及ぼすとされており,特に主幹動脈狭窄を有するアテローム血栓性梗塞患者の離床は慎重に実施される傾向がある.そこでアテローム血栓性梗塞患者の早期離床を安全に行うために,本研究ではMRAでの頭蓋内血管狭窄所見の程度に着目して離床時の血圧変化や神経症候増悪の有無について検討した.
    【方法】
    2009年3月から2011年2月に急性発症し発症後3日以内に当院に入院したアテローム血栓性梗塞患者73名のうち,ベッドアップコースを使用して離床を図った53名を対象とした.入院中に実施されたMRAにおいて脳卒中専門医により頭蓋内血管狭窄率(椎骨動脈,脳底動脈,上小脳動脈,内頸動脈,前・中・後大脳動脈)を判定し,閉塞または狭窄率75%以上の高度狭窄を有する高度狭窄群25名と,狭窄を認めないか狭窄率75%未満の軽度狭窄群28名の2群に割り付けた.また後方視的に入院中の頸動脈エコー検査における内頸動脈狭窄率を抽出し,狭窄率が75%以上の患者の割合を算出した.2群において年齢,入院時NIHSS,発症から離床(端座位)までの日数,初期評価時および退院時Barthel Index(以下BI),在院日数,自宅復帰率,離床時(安静臥位,端座位直後,端座位5分後)の血圧変化,離床訓練時における神経症候増悪の有無を検討した.分析はJMPを使用し,一元配置分散分析,χ2検定を有意水準5%未満で行った.この研究はヘルシンキ宣言に沿って行い,得られたデータは匿名化し個人情報が特定できないよう配慮した.
    【結果】
    頸動脈エコーで75%以上の有意狭窄を有する患者の割合は,高度狭窄群22.7%と軽度狭窄群3.8%で有意差を認めた.2群間で年齢,発症から離床までの日数,初期評価時および退院時BI,在院日数に有意差を認めなかった.入院時NIHSSは高度狭窄群10.5±12.8点が軽度狭窄群3.1±3.9点より有意に高値を示し,自宅復帰率は高度狭窄群52.0%が軽度狭窄群82.1%より有意に低値を示した.各群内での離床時の血圧変化について,軽度狭窄群の安静臥位と比較して端座位直後の拡張期血圧で有意な低下を認めた以外は有意差を認めなかった.離床時における神経症候増悪例は2群ともに1例も認めなかった.
    【考察】
    一般的に主幹動脈狭窄を認める患者の離床は慎重に行う傾向があるが,MRAや頸動脈エコーに高度狭窄を認めたり重症度の高い患者でも,血圧変化や神経症候の増悪を認めずに早期離床が可能であることが示唆された.今後は検討症例数を増やしたり客観的血管評価による狭窄率分類での検討が必要である.
    【まとめ】
    当院での急性期アテローム血栓性梗塞患者の早期離床は,MRAにて高度狭窄を有しており重症度の高い場合でも比較的安全に行えている.
  • 渡辺 学, 網本 和, 米澤 隆介, 海老澤 玲, 大沢 涼子, 藤澤 智香子, 関根 典子
    セッションID: O1-2-009
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/03
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    近年ミラーニューロンの発見により動作の模倣が、麻痺肢を動かせない片麻痺患者の運動学習に応用されている。しかし半側空間無視(USN)を有している場合、無視空間に提示された手がかり動作を正しく認識できていない可能性がある。今回我々は点の動きの集合がヒトの動作として感じられるBiological motion(BM)をUSN例が認識できるか調査した。
    【対象】
    左USN4例(男性3例女性1例、全例右手利き)を対象とした。症例A:73歳、右頭頂葉皮質下出血。経過期間48日。運動麻痺、感覚障害とも中等度。MMSE19点。BIT通常22点。症例B:72歳。右側頭葉、下頭頂小葉、被殻、島に及ぶ広範な梗塞。経過期間51日。運動麻痺、感覚障害とも重度。MMSE27点。BIT通常123点。症例C:67歳。脳室穿破を伴う右視床出血。経過期間45日。運動麻痺軽度、感覚障害重度。MMSE22点。BIT通常108点。症例D:70歳、右前頭葉脳腫瘍術後。経過期間31日。運動麻痺中等度、感覚障害軽度。MMSE15点。BIT通常73点。構成障害は全例で重度であった。対象者にはヘルシンキ宣言に基づき実験内容を説明の上、同意を得た。
    【方法】
    BMは実際の人物の関節に設置した点光源をビデオカメラで撮影し、パソコン画面上の黒色背景上に提示した。歩行、段差昇降、膝屈伸運動、ジャンプ、体幹回旋運動、上肢運動の6動作とした。対象者には「どのように見えますか」と尋ね、応答を記録した。
    【結果】
    症例AとBは全ての動作で正解できた。一方症例CとDは3つの動作で正解できなかった。正解できなかった画像は膝屈伸運動、体幹回旋運動、上肢運動であった。
    【考察】
    今回の症例では提示した画像を全く理解できなかったものはいなかった。さらにUSNが重度の症例(A)や、BM知覚の関連部位といわれる上側頭回の損傷例(B)では全ての画像を認識できた。このことからUSN例でもBMをヒトの動きに変換して解釈できる機能は保たれていることがわかった。またUSNにより点の集合全体の動きでなく一部の動きしか認識できないとしても全体像をイメージできるが、症例によりイメージが困難な場合があった。ただしUSNの重症度との関連性は低いようであった。別の面では、一部の視覚認識のみで全体像を心的に当てはめてしまうことが性急に行われている可能性が考えられた。
    【まとめ】
    手がかりとして提示した動作が単純なものや左右対称的であると、注意深く観察せずに行動してしまうかもしれず、非無視側を観察しただけではわかりにくい動作を提示する必要があることが示唆される。
  • 北郷 仁彦, 戸坂 友也, 村山 尊司
    セッションID: O1-2-010
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/03
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    今回、左視床出血で反対側の右上下肢に小脳性の運動失調を呈した症例を経験したのでその症候を分析し報告する。
    【症例】
    70代、男性、右利き。診断名:左視床出血。現病歴:仕事中に右片麻痺出現にて救急搬送。保存的加療を行い麻痺は徐々に改善。発症から1カ月後、当センター転院。なお本症例には発表について文書にて説明し同意を得た。
    【結果】
    <発症2ヵ月後>画像所見:左視床外側部および左放線冠に低吸収域。神経学的所見:意識清明。コミュニケーションは日常会話レベル可能。錐体路徴候;深部腱反射は右上下肢亢進。運動麻痺はBr-stage右上下肢V。体性感覚は表在覚、深部覚とも左右差なし。協調性検査は右上肢は鼻指鼻試験、Arm stopping testで陽性、リーチ動作全般に企図振戦が見られた。右下肢は足趾手指試験、踵膝試験で陽性。体幹はRomberg sign陰性で、動作時の動揺も認められなかった。神経心理学的所見: MMSE 16/30点。病識あり。動作所見:移乗動作では右上肢で支持物を把握するときに振戦が見られた。食事場面ではスプーンが口唇に近づくにつれ振戦が大きくなり食物のこぼれが見られた。歩行は右下肢の振り出し時に運動失調が認められT字杖軽介助レベルであった。
      【考察】
    視床損傷による運動失調は視床外側部に位置する後外側腹側核(以下VPL)や外側腹側核(以下VL)に起因すると言われている。VPL損傷では感覚性の運動失調、VL損傷では小脳性の運動失調を呈する。視床損傷による小脳性の運動失調は視床性運動失調と言われ、さらに運動失調と同側に運動麻痺を伴うとAtaxic hemiparesis(以下AH)とされる。しかしVPLとVLは隣接するため視床損傷で小脳性の運動失調のみ出現することは極めて少ない。  本症例は左視床出血を発症し右上下肢に企図振戦などの運動失調が見られたが、感覚障害を伴わなかった。このことからVL損傷に起因する視床性運動失調と推察された。また右上下肢に運動麻痺も見られることからAHであると推察された。本症例はVL損傷により小脳性の運動失調が生じるという諸家の報告を裏付ける結果となった。また退院時の屋内移動手段は下肢の運動失調により杖歩行が自立に至らず、歩行器歩行であった。
    【まとめ】
     運動麻痺と同側肢に運動失調を呈すると運動麻痺に重複され運動失調が見逃されやすい。運動麻痺と運動失調の重複は予後に影響する可能性がある。画像所見や臨床症状から運動失調の存在を見逃さないことが重要で今後症例を積み重ね予後予測や治療方法について検討していく必要がある。
  • -Gait Solution Designを使用した装具療法から-
    小山内 良太, 大塚 功, 原 寛美, 安井 匡
    セッションID: O1-2-011
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/03
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    脳卒中治療ガイドライン2009では、急性期リハビリテーションにおいて、装具を用いた早期歩行練習が推奨されている。またPerryは正常歩行において、立脚期に足関節ロッカー機能が作用していることを提唱している。これまで脳卒中片麻痺患者に対する理学療法(以下PT)では、足関節底屈制限装具が多く用いられてきた。正常歩行に近い歩容の獲得には、足関節ロッカー機能の再学習が不可欠であり、そのためには足関節の底屈、背屈運動が可能な装具が有用ではないかと考えられる。今回、急性期脳幹部BADの患者に対して、杖なし2動作歩行の獲得を目標に油圧緩衝器底屈制動長下肢装具(以下KAFO)とGait Solution Design (以下GSD)を用いた歩行練習を行ったので、考察を加えて報告する。
    【症例】
    77歳男性、発症前modified Rankin Scaleは 0。平成22年11月、脳幹部BADを発症。入院当日よりPTを開始。上田式12段階片麻痺機能テスト(以下12Grade)は左上肢6手指5下肢5であった。2病日目より離床、起立練習を開始。3病日目よりKAFOを用いた歩行練習を開始した。
    【説明と同意】
    本症例には症例報告をさせていただく主旨を説明し同意を得た。
    【評価方法及び使用機器】
    歩行能力の指標として10m歩行速度を測定した。歩容の分析にはGait Judge(安井ら、2009)を用いて、歩行時足関節底屈トルクを測定し、荷重応答期及び立脚終期における底屈モーメントを評価した。
    【PTプログラム及び経過】
    起立-着座練習、装具を用いた歩行練習を中心に1日6単位実施した。 9病日目に装具をKAFOからGSDへ変更して歩行練習を実施した。11病日目、左下肢12Gradeは8に改善し、4点杖とGSD使用で見守りでの歩行が可能となった。10m歩行は39.8秒。Gait Judgeでは荷重応答期底屈トルク平均2.2Nm、立脚終期底屈トルク0Nmであった。上記PTプログラムに加え、股関節伸展筋、足関節底屈筋の筋力強化練習を追加した。22病日目、左下肢12Gradeは10に改善し、T字杖とGSD使用で2動作自立歩行を獲得した。10m歩行は9.0秒。Gait Judgeでは荷重応答期底屈トルク平均4.0Nm、立脚終期底屈トルク平均3.4Nmとなった。
    【考察】
    Gait Judgeを用いて足関節底屈トルクを測定することにより、歩容の評価を行い、その結果に応じたPTプログラムを設定することが可能であった。GSDは底屈制動及び背屈フリーの機能を有し、これを用いた装具療法により、ロッカー機能の再学習と、2動作歩行パターンによる独歩が獲得されたものと考えられた。Gait Judgeによる歩容評価とGSDによる装具療法は2動作歩行の獲得に有効ではないかと考えられた。
  • 桐山 剛, 川上 司, 高橋 修, 並木 亮, 田中 友美, 長谷川 和彦
    セッションID: O1-2-012
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/03
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     文献によると、Duchenne型筋ジストロフィー(duchenne muscular dystrophy:以下DMD)は、乳児期には発達の遅れがなく、歩行開始が1歳6ヵ月を過ぎるもの、3~5歳で歩行時のつまずきや不安定歩行が出現し、発達の遅れに気がつく事が多い様である。今回、当院に外来通院をしているDMD児の理学療法を行っている中で、乳児期から粗大運動発達に遅れがある事や、機能低下の時期などに若干の知見が得られたので報告する。
    【対象および方法】
     DMD男児15例、年齢3歳5ヵ月~14歳1ヵ月(平均9歳3ヵ月±3.3)。通常の理学療法評価に加え、出生時から乳幼児期、学童期の様子を質問紙にて両親から聴取した。また、粗大運動発達の比較対象として正常発達した20例(男児14例、女児6例)の子どもの様子を後方視的に聴取し、統計処理にて比較・検討を行った。いずれも、調査の趣旨を説明し、同意をいただいた上で質問紙を実施した。
    【結果】
     DMD群と正常発達群を比較した結果、粗大運動の発達において、頚定と寝返りの時期において有意差は見られなかった。座位獲得8.5ヵ月±2.4、起き上がり9.3ヵ月±1.9、ハイハイ10.6ヵ月±2.5、立ち上がり15.6ヵ月±8.2、独歩18.4ヵ月±5.8については、いずれも獲得時期の遅れに有意差(p<0.01)が見られた。知的情緒面においては、初語(24.3ヵ月±16.1)の遅れに有意差(p<0.05)が見られた。DMD群15例中、合併症としてPDDが2例、MRが2例見られた。粗大運動機能の低下がみられる時期は、登攀性起立3.8歳±2.3、不安定歩行6.6歳±2.9、椅子からの起立困難9.3歳±1.3、独歩困難10歳±2.1である事がわかった。両親が身体の異変や病気に気付く時期は2.2歳±1.5であり、リハビリテーションの開始時期は4.6歳±2.2である事がわかった。
    【考察】
     先行研究において、乳児期には発達の遅れに気付かれにくいとされていたが、座位獲得以降に明らかな発達の遅れが出現してくる事がわかった。粗大運動の発達では、独歩獲得18.4ヵ月±5.8に対して、6.6歳±2.9で歩行が不安定になってしまう事から、4~6歳頃に獲得している運動機能が発達のピークである事が示唆される。また、椅子からの起立が困難になると、ほぼ1年以内に独歩困難となり、抗重力環境での下肢活動の機会が減少し、その後のdisused atrophyが懸念される。両親が、身体の異変や病気に気付く時期2.2歳±1.5に対し、リハビリテーション開始時期4.6歳±2.2であり、約2年のtime lagが生じている事から、乳幼児検診等で発達スクリーニングを行い、早期に医療連携をとり、専門的医療とリハビリテーションの介入が乳児期から行える事が望ましいと考える。
    【おわりに】
     今後は、今回得られた結果をもとに、各発達段階に適したリハビリテーションをシステマティックに行えるようなチャートを検討して行きたいと考えている。
口述発表3 「生活環境支援1」
  • キャスパーアプローチの紹介
    松田 雄介
    セッションID: O1-3-013
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/03
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    体幹の側弯が著明で、車いす座位姿勢の崩れが問題となっている患者に、キャスパーアプローチの概念にもとづいて、座位保持装置付き車いすを再考した。食事場面での座位姿勢の安定化ならびに、頭部、頸部、体幹および骨盤の位置関係に変化が見られたので報告する。

    【方法】
    現在使用している従来型の車いすと、キャスパーアプローチの概念にもとづいた座位保持装置付き車いすで座位姿勢を観察した。左右両側の肩峰の高さ及び頭部、頸部の傾きに着目して姿勢評価とした。また、座位姿勢の変化を比較するために、左右の肩峰から同側の上前腸骨棘までの距離を計測した。食事場面において自力摂取にかかる時間、介助と自力摂取の時間の割合について比較した。

    【結果】
    キャスパーアプローチの概念にもとづいた座位保持装置付き車いすでの座位姿勢において、左右両側の肩峰の高さが揃い、頭部、頸部が前額面上において正中位に保持された。また左右の肩峰から同側の上前腸骨棘までの距離にも変化が見られた。食事場面において、自力摂取の時間が延長し、介助と自力摂取の時間の割合も変化した。

    【考察】
    キャスパーアプローチの概念にもとづいた座位保持装置付き車いすでの座位姿勢の提供により、骨盤から脊柱、頸部、頭部にわたる重力方向に対する軸が構築され、座位の安定性が改善し、頸部、頭部および上肢の随意性や活動性に変化が見られたと考えた。その結果、食事場面において自力摂取の時間が延長したことが伺えた。

    【結論】
    キャスパーアプローチの概念にもとづいた座位保持装置付き車いすでの座位姿勢により、座位の安定性が向上した。それにより、食事場面において介助量軽減が図られた。

    【まとめ】
    体幹の変形が著明な患者の座位姿勢を検討する上で、キャスパーアプローチの概念は、従来の「いい姿勢」の考え方にも疑問を投げかけている。骨盤、体幹、頸部、頭部の骨の位置関係による重力方向に対する軸の構築が、座位姿勢の安定性につながり、また、姿勢保持のための筋緊張亢進の抑制にも寄与することが伺えた。安定した、安楽な座位姿勢の提供は、24時間姿勢管理を必要とする重症心身障害者にとって重要な意味を持つと考える。
  • 猪爪 陽子, 金澤 信幸, 玉虫 俊哉, 徳間 由美, 岸本 和幸, 佐合 悦子, 高津 由子, 武藤 敏男
    セッションID: O1-3-014
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/03
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    神経難病は進行性であり,身体運動機能の低下に加え様々な症状を呈し,本人はもとより介護に当たる家族をも苦しめる。当院でも老々介護・一人介護が多く,介護疲れを感じるケースもある。リハビリテーションでは,神経難病の患者様(以下,患者)が少しでも身体運動機能・精神機能を維持・向上させ,自分らしく楽しく暮らせるよう援助していくことが目標となるが,同時に患者を支える介護者・家族の支援(以下,介護者支援)も重要と考える。そこで,介護者支援の取り組みを開始したので報告する。
    【方法】
    介護者支援で必要な事として1.勉強会 2.介護者ネットワーク作りを考えた。勉強会では1)病気に対する正しい知識を得る2)介護力を高める技術や知識を得る3)患者に対する理解を深める,をテーマとし平成21年度に3回実施した。介護者ネットワーク作りでは1)介護者同士のつながりをつくる2)情報交換を通じて新しい力を生み出す3)介護者自身の心の整理を促すことを目標とし,グループワークを中心に22年度に5回開催した。対象者は,神経難病デイケアに通院されている患者家族を中心に声をかけ,医師,看護士,医療ソーシャルワーカー,理学療法士,言語聴覚士,作業療法士で対応した。スタッフ側では事前の学習会や事後ミーティングを行い,参加者には毎回アンケートをお願いし意向調査した。
    【結果】
    勉強会では,延べ参加人数105名(内介護者57名),アンケートから「大変参考になった」「少しの工夫で楽に介護できることがわかりました」等の意見をいただいた。介護者ネットワーク作りでは,延べ参加人数81名(内介護者58名),アンケートから「皆さんの悩みは殆ど自分と同じでほっとした」「接し方を変えてみようかなと思った」等の感想が得られた。また,長期介護を続けられている方の意見に感心し,妻,夫,嫁等立場の違う人の話に共感を示す場面も見られた。介護者とスタッフとの会話が増え,介護者同士で話をしているのを多く見かけるようになった。次年度への要望として「自分自身のためにぜひ開催してほしい」という意見を多くいただいた。
    【考察】
    神経難病患者や家族を取り巻く環境は多様で一様に支援を考えることはできないが,ポイントとして1)誰に何を相談できるのかがわかる事2)自分ひとりではないと思える事3)介護者が自分自身を見つめ直す時間ができる事が重要であると考える。今回の取組みで我々は介護者の思いを知ることができ,コミュニケーションを取りやすくなった。介護者は介護に対する認識が深まり,前向きに取り組もうとされていると考えられる。介護状況は変化するので,勉強会・グループワーク等の支援を継続していく必要があると考える。
  • 長谷川 和彦, 太田 勝巳, 宮沢 真実, 高橋 卓, 小潟 国雄
    セッションID: O1-3-015
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/03
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     今回、障害受容に至っていない高位頸椎不全損傷(C3-4)四肢麻痺患者で起立性低血圧を合併していた症例に対し、電動車椅子導入の過程で難渋した一例を報告する。
    【症例】
     71歳男性。2009年3月1日、停止中のトラックの荷台から転落し受傷、他院に入院。2010年5月24日に当院転院となる。American Spinal Injury Association (以下:ASIA)Impairment Scale:C、運動機能スコア:14/100点、知覚機能スコア:触覚26/112点、痛覚:19/100点。四肢は連合反応による筋収縮がみられ、単関節運動は不可。僧帽筋による肩甲帯の運動と僅かに左母指尺側内転可能。ADLは全介助レベル。人工呼吸器管理は必要ない。The Schedule for the Evaluation of Individual Quality of Life(以下:SEIQoL) index40.3/100。Need:上肢で電動車椅子操作を行いたい。
    【経過】
     症例は安静臥位時の血圧に日内変動があり、一日の尿量は4500mlを越え、軽度の脱水状態が続いていた。介助端座位で5分以内に収縮期血圧50mmHg、拡張期血圧30mmHg以上低下し、起立性低血圧がみられたため、入院時より坐位耐久力向上を目標に機能訓練を開始。受傷後1年3ヶ月が経過していたが、障害受容に至っていなかったため、車椅子選択では上肢による電動車椅子操作の希望が強かった。顎コントロール型電動車椅子を勧めるも、受け入れは拒否的。Needの実現に向け各種コントローラを体験してもらい、上肢操作で簡易1入力式コントローラの操作が可能となった。その後、顎コントロール型電動車椅子を体験してもらった。良好な操作性が得られた顎コントロール型電動車椅子の導入を決定。2010年8月17日より機能訓練と並行し電動車椅子操作訓練を開始。2011年2月15日顎コントロール型電動車椅子納品。
    【結果】
     電動車椅子導入により、リハビリへの積極性が高まった。症例のNeedを大切に上肢での操作を体験する事で導入がスムーズに行えた。又、顎コントロール型電動車椅子は、より良好な操作性を得ることが出来たため、院内走行自立となり、行動範囲は拡大した。「外に出て散歩したい」、「博物館に行ってみたい」など更なる目標も生まれた。SEIQoL indexは40.3/100から64.6/100となりQOLは向上した。電動車椅子訓練中は血圧の変動も少なく、息苦しさやめまいの訴えは少なくなり一時間以上の車椅子乗車が可能となった。尿量は2700mlと減少し、起立性低血圧は改善傾向となる。
    【考察】
     各種コントローラを経験することで、現状を把握出来、当初のNeedとは違う顎コントロール型電動車椅子もスムーズに導入出来た。電動車椅子操作という動作目的を持てた事はQOL向上と起立性低血圧改善の要因の一つになったと考える。
  • 深川 祥平, 阿波根 朝光
    セッションID: O1-3-016
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/03
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】  CI療法とはSteven Wolfeらにより考案された麻痺肢の集中的使用訓練を用いて大脳皮質機能の再構成を図る介入方法である.しかし,CI療法には適応基準があり脳卒中患者の25%程度と言われている.今回,訪問リハビリテーション(以下:訪問リハ) にて適応外の利用者にCI療法を取り入れた介入を行い,麻痺上肢の運動発揮向上を認めたため若干の考察を加えて報告する.
    【対象および方法】 《症例》70歳代女性,診断名:外傷性脳出血(H21.11)開頭血腫除去・シャント形成術施行.H22.3自宅退院.その後週1回の訪問リハ開始. なお,本研究を行うにあたり家族へ十分な説明を行い,同意を得た.
    《介入課題》左上肢をバスタオルで拘束し右手のみで食事動作.拘束時間:25分(訪問リハ時のみ),介入期間:24週.
    【介入前評価】
    《コミュニケーション》理解:指示理解力低下.認知機能低下.《運動機能》四肢麻痺,BRS右上肢IV-手指IV-下肢V,左上肢V-手指V-下肢V.右側運動発揮減弱.《高次脳機能》失行,動作性の保続.《FIM》46点《食事動作》左手でスプーン使用.右手動作:スプーンの把持動作・操作拙劣,持続性乏しく完食できず.
    【介入後評価】
    《コミュニケーション》著変なし《運動機能》右BRS手指Vへ向上.《FIM》55点《食事動作》右手の使用頻度,持続性向上.口頭指示のみで完食可能.
    【考察】
     脳損傷による麻痺肢の使用は労力を要求され,結果正の強化の不足による不使用,また行為の企図が達成されない場合は負の強化がなされる.どちらも麻痺肢不使用を招き,「学習性不使用」が生じる.Pascual-Leoneらは非損傷半球側の興奮性を低下させることで損傷半球側への抑制入力を減少させ,麻痺肢の運動機能が有意に向上する事を確認している.道免はCI療法では非麻痺肢への抑制により非損傷半球への入力が減少し,損傷半球側の可塑性が促進されると示唆している.CI療法の適応外であった本症例はコミュニケーション・高次脳機能障害を有しており制御し易い左上肢優位の動作となった可能性があった.しかし左上肢を拘束したことで非損傷半球の興奮性低下,損傷半球側への抑制入力が減少し右上肢の運動発揮が増加したと考える.その為右上肢の運動発揮が容易となり,さらに在宅といったより生活に密着した場面での課題設定により適応外の症例でも,行為の達成から生じる正の強化が生じ易くなったことでADL場面でも右上肢の参加を促せたと考える.
    【まとめ】
     在宅生活場面でのCI療法は成功報酬を得られやすく,訪問リハでも有効な介入方法の一つであることが示唆される.
  • ‐心不全増悪のリスク管理を行い,再入院を予防した症例‐
    安藤 誠, 齋藤 崇志, 平野 康之, 大森 祐三子, 大森 豊
    セッションID: O1-3-017
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/03
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    心不全の増悪により入退院を繰り返していた在宅慢性心不全患者に対し,心不全の増悪の予防を目的とした訪問リハビリテーション(訪問リハ)を行い,再入院を防止できた症例について報告する.
    【方法】
    症例は慢性心不全を呈する76歳の女性(身長149cm,体重64kg,要介護1)で,2008年3月に急性心筋梗塞を発症し入院加療を行った.自宅退院後の同年4月から2009年8月の間に,心不全の増悪により8度の入退院を繰り返していた.2009年9月,心不全の増悪の予防を目的とした訪問リハと訪問看護が開始された.訪問リハ開始時の心不全状況はNYHAの分類classII,脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)132.7pg/ml,心胸郭比59%であり,下腿浮腫と労作時呼吸困難(DOE)を認めた.安静時のバイタルサインは,血圧120~140/60~70mmHg,脈拍52~60bpm,酸素飽和度(SpO2)92~96%であった.身体機能は等尺性膝伸展筋力体重比の左右平均値が0.36kgf/kg,Modified Functional Reachが25cmであり,Barthel Indexは100点であった.日常生活状況は,家事全般をこなし,Needsは最寄りのスーパー(自宅から200m)までの買い物であった.
    訪問リハでは通常の運動療法に加え,心不全の増悪のリスク管理として(1)日常生活活動における心血管反応のモニタリングと適正な身体活動量の評価,(2)浮腫や体重,DOEなど心不全徴候の早期発見,(3)主治医と訪問看護師と連携し全身状態や服薬についての情報共有を行った.
    【結果】
    Needsであるスーパーへの買い物における心血管反応の評価を行った.歩行距離を段階的に延長し,最終的に200m歩行時点でSpO2は88~90%まで低下したが心血管反応に異常はなかった.また,歩行距離延長期間に心不全徴候はなかった.以上の事から,スーパーまでの歩行は日常生活活動として許可できるレベルと判断した.その後も同レベルの身体活動量を維持していたが, 2010年1月にBNP330pg/dl,体重68kgまで増加したため,医療機関の受診を促した.その結果,利尿剤が追加処方され心不全徴候は改善し,再入院には至らなかった.その後も身体活動量の維持と全身管理を継続し,2011年1月まで再入院することなく在宅生活を継続できた.
    【考察】
    在宅慢性心不全症例への訪問リハの役割として,身体機能への介入のみならず,適正な身体活動量の評価や心不全徴候の早期発見などのリスク管理により,心不全の増悪の重症化および再入院を予防できる可能性が示唆された.
  • 解良 武士, 渡部 由紀, 猪股 高志
    セッションID: O1-3-018
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/03
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     本研究では今後のメディカルフィットネス分野の発展に有用なデータを作るために、さらに軽度の障害を有する対象者や有病者の運動指導・管理を実践する理学療法士や健康運動指導士などの活用についての基礎資料を作るために全国規模で調査を行った。
    【方法】
     医療法第42条や諸研究を参考に、メディカルフィットネスを「医療機関に併設または隣接し、医療機関が運営や対象者の管理に関係している運動施設のこと」と定義した。全国の電話帳、インターネットなどから「メディカルフィットネス」、「疾病予防運動施設」、「健康増進施設」をキーワードに検索し、この定義に合致する206カ所の施設の施設長・責任者を調査対象として選定した。設問内容の概要は、施設概要、利用者、運動指導、健康増進制度、専門職の必要度,今後についての項目とした。
    【結果】
     回答状況(回収率)は206施設中、返信が59施設となり、回収率は29.3 %であった。回答者の70%は健康運動指導士で、理学療法士はわずか3%であった。施設規模は会員数が100-300名の小~中規模施設が47%と半数を占め、一般スポーツクラブでみられる大規模施設は少なかった。利用者が有する疾病で頻度が高いと答えた疾病名は、高脂血症(90%)、高血圧(86%)、肥満(85%)、糖尿病(76%)の生活習慣病が最も多く、変形性関節症(61%)と腰痛症(58%)の整形疾患が続いた。また心疾患は少なく(24~20%)、呼吸器疾患はごく僅かであった(0~8%)。メディカルチェックの実施率は問診、身体計測、血圧測定はほぼ100%で、運動負荷試験も49%の施設で実施されているものの、多くは健康運動指導士によって実施されていた。併設医院で生活習慣病指導管理料を算定している施設が51%に上る一方、収益性が高くないと答えた施設が過半数に上った。特定検診は73%の施設が併設医療機関で実施しているにもかかわらず、特定保健指導を実施している施設は49%に留まった。理学療法士の必要性について強く思う、やや思うと回答した施設が75%で、理学療法士のメディカルフィットネス部門への参画に関して否定的な意見はそれほど多くなかった。一方、理学療法士に求める能力としては「軽い疾病あるいは障害を有している対象者への運動指導能力」と答えた施設が74%ともっとも多かった。今後の展開としては、現状維持が最も多く55%に上り、少し拡大する・拡大すると回答した施設の41%を上回った。
    【考察】
     メディカルフィットネスでは健康運動指導士が管理者として雇用されている場合が多いと考えられ、同じ医療機関で理学療法士が雇用されていても業務に関わる施設はまれである。一方、利用者の多くは内部障害や整形外科的な問題を有している場合が少なくなく、医学的知識を有する理学療法士の必要性と現場からのニーズは決して低くないと考えられる。
口述発表4 「運動器1」
  • -負荷量の検討-
    丸山 潤, 渡邉 博史, 江玉 陸明, 古賀 良生, 佐藤 卓, 縄田 厚
    セッションID: O1-4-019
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/03
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    我々は第29回本学会で人工膝関節全置換術(以下TKA)後患者を対象に、任意に負荷設定した大腿四頭筋セッティング(以下セッティング)の訓練効果について検討し、個別に運動強度を設定することが炎症のある術後早期での安全性に有効と報告した。今回はセッティングの負荷量の違いによる訓練効果を検証した。

    【対象・方法】
    平成20年4月から23年2月までに当院でTKAを施行した38名47膝(73.4±5.8歳)を対象とした。アルケア社製簡易下肢筋力測定・訓練器(以下、器械)での測定の結果を基に対象を任意に、セッティングの負荷量を最大押しつけ力の40%とした40%群(73.4±5.3歳、20名25膝)と、60%とした60%群(73.3±6.5歳、18名22膝)に群分けした。器械は任意の負荷設定(量、収縮時間、回数)が可能で、目標の負荷量に達すると音楽が流れる。負荷量は1週より各週の測定値を基に変更した。収縮時間と回数は10秒間、20回、2セットとし、2群とも統一した。検討項目は年齢、体重、等尺性膝伸展最大筋力(以下伸展筋力)、CRPとし、群間で比較した。さらに群間比較における炎症の影響を検討するため、1週のCRPの平均値を基準に高値と低値に分け、各々での伸展筋力を比較した。伸展筋力は術前から4週まで週1回測定し、2回の測定の最大値を用いた。統計学的検討は対応のないt検定を用い、有意水準は5%未満とした。本研究は対象者に研究の趣旨を説明し、同意を得て行った。

    【結果】
    2群間で年齢、体重、術前筋力、術後CRPには有意差を認めなかった。訓練中全対象において訓練に伴う有害事象の発生はなかった。40%群及び60%群における術後伸展筋力は各々に1週:12.1±3.53、13.8±5.28、2週:17.8±5.29、22.2±7.98、3週:20.3±6.16、24.0±6.52、4週;23.2±6.52、26.3±8.66で、すべての週で60%群が高値で2週では統計学的にも有意であった。CRP高値の40%群と60%群の比較では1週:12.2±3.96、15.7±5.76、2週:18.8±6.37、22.3±11.17、3週:21.0±7.23、24.0±7.57、4週:24.2±7.21、27.1±12.0で60%群が高値であるが有意な差を認めなかった。CRP低値の40%群と60%群の比較では1週:11.9±3.07、13.3±5.16、2週:16.1±2.48、22.5±6.96、3週:18.9±4.20、24.1±6.71、4週:21.5±5.52、25.7±7.92となり、60%群が高値で2週においては有意差を認めた。

    【考察・まとめ】
    筋力増強訓練の負荷強度は一般的に60%以上が必要と言われている.最大押し付け力の60%のセッティングは40%に比べ、術後2週の伸展筋力の改善に有効であった。統計学的にも有意であった術後早期の訓練効果は炎症が少ない例においての著明な差による可能性が高いと思われた。これらから術後早期は炎症に注目しCRPが高値の場合には、より炎症に配慮した理学療法を行うことが重要と考えられた。
  • 四宮 美穂, 櫻井 愛子, 野中 綾乃, 原藤 健吾, 尾崎 正大, 福井 康之, 大谷 俊郎
    セッションID: O1-4-020
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/03
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    人工膝関節全置換術(以下,TKA) 術後患者では,術後の炎症による疼痛を荷重位において回避するため,非術側へ荷重量を偏位させ荷重量のコントロールを行う傾向が臨床上観察される.この疼痛を回避する為の姿勢戦略は,膝関節のみだけでなく骨盤・体幹位置が関与していると考えられる.そこで本研究は,TKA術後患者の立位姿勢を経時的に計測し,立位姿勢における骨盤・体幹位置の前額面上での変化と体幹・骨盤位置と荷重量の関係について検討することを目的とした.
    【方法】
    対象は,本研究の主旨を理解し同意が得られたTKA患者4例(平均年齢73.3±5.5歳,男性1名,女性3名)とした.三次元動作解析システムVICON MX(VICON社製)と床反力計(AMTI社製)を用いて,術前・術後より退院日まで連日(平均日数26.8±1.3),静止立位の計測を行なった.静止立位の計測では,左右肩関節・上前腸骨棘(以下,ASIS),外果に赤外線マーカーを貼付し,得られた位置データから各中点を求め,足関節中点に対するASIS中点の左右方向距離を骨盤偏位量,ASIS中点に対する肩関節中点の左右方向距離を体幹偏位量として算出し,静止立位3秒間における平均値を代表値とした.術後日数と骨盤・体幹偏位量との関係,荷重割合と偏位量との関係はPeasonの相関係数を用いて統計学的検討を行なった.
    【結果】
    4例中2例のTKA患者は,術後経過とともに骨盤偏位量が小さくなり(r>0.8),骨盤位置が非術側から術側へ移動する傾向が認められた. また荷重割合と骨盤・体幹の側方偏位量との関係では,4例中2例において荷重割合と骨盤の側方偏位量との間に強い相関(r>0.7)が認められ,体幹の側方偏位量との間には相関が認められなかった.他の2例では,骨盤と体幹の側方偏位量の両方に中等度の相関(r>0.5)を認めた.
    【考察】
     本研究では,TKA術後経過において体幹よりも骨盤を偏位させることで荷重量の調節を行なう群と骨盤と体幹両方を偏移させ,荷重量の調節を行なう群が認められ,疼痛回避パターンが一律でないことが示唆された.このことにより,TKA術後に荷重練習を行なう際は,姿勢のパターンを評価し,骨盤・体幹のアライメントを整えた上で行うことが,荷重量の向上に繋がると考えられる.また術後の経時的な骨盤の偏位については,術側疼痛だけでなく,非術側の変形の程度や疼痛の有無も影響を及ぼしている可能性がある. 今後は,対象者を術前の姿勢や骨盤・体幹の矢状面・水平面上の偏位も含め検討していく必要があると考える.
  • ~膝痛の関連因子について~
    渡邉 博史, 古賀 良生
    セッションID: O1-4-021
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/03
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    変形性膝関節症(以下膝OA)において、臨床的に疼痛等の症状とX線上の所見が一致しないことは数多く見られ、疼痛のみを訴える患者が多い。今回、その臨床的症状の膝痛とX線学的所見との関係を検討したので報告する。
    【対象】
    新潟県十日町市松代地区で、2007年住民膝検診に参加した1484名を対象とした。
    【方法】
    検診内容は問診(水腫の既往、膝痛の有無など)と視触診(円背、下肢アライメント、lateral thrust(以下thrust)などの歩容、膝・股関節可動域、膝関節の動揺性など)で、また体組成及び筋力測定(身長、体重、体脂肪率、握力、膝伸展筋力)と立位膝関節前後X線撮影(以下X線)を実施した。X線画像から膝外側角(以下FTA)をデジタイズして求め、膝OA病期はK-L分類で、整形外科医1名が評価した。左側を検討対象とし、膝OA病期でgradeが0、1の873名を膝痛あり群75名(女48名:61.7±11.3歳、男27名:67.8±9.7歳)、膝痛なし群798名(女398名:58.4±13.6歳、男400名:63.3±13.8歳)に分け、膝痛に関連する疫学因子を男女別に検討した。統計処理は、χ2検定及びMann-WhitneyのU検定を用い、5%を有意水準とした。本研究は対象者に説明し同意を得て行った。
    【結果】
    gradeが0、1で膝痛ありの割合は、女性10.8%、男性6.3%で、女性が有意に高かった。膝痛の関連因子で女性では膝伸展筋力と体脂肪率で有意差を認め、膝伸展筋力は膝痛あり群27.0±8.5kg、膝痛なし群33.5±11.0kg、体脂肪率は膝痛あり群32.3±8.6%、膝痛なし群30.3±7.0%で、膝痛あり群は筋力が低く体脂肪率が高かった。男性では膝伸展筋力とthrustの有所見率で有意差を認め、膝伸展筋力は膝痛あり群33.9±13.0kg、膝痛なし群40.0±14.5kg、thrustの有所見率は膝痛あり群33.3%、膝痛なし群17.3%で、膝痛あり群は筋力が低くthrustの有所見率が高かった。
    【考察】
    X線学的膝OAと症候性膝OAの差が特に初期において顕著であることは指摘され、我々もこの検討で疼痛に伴う炎症などが関与することを報告したが、その詳細な要因に対する検討は少ない。臨床的にX線学的所見より膝痛が先行することが考えられ、今回認められた膝痛の関連因子は、X線学的進行の要因である可能性がある。そして男女とも膝伸展筋力は要因であった。これに男性で側方動揺の関与も示されたことから、筋力に伴う動的な要因の関連も性別に検討する必要があると考えられた。
  • ~AKA-博田法を用いて~
    藤井 一弥, 舟久保 一也, 白須 彩花, 荒川 あかね, 相原 知英, 若松 真弥, 大西 健太, 大西 正紀
    セッションID: O1-4-022
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/03
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     関節運動学的アプローチ(以下AKA-博田法)における副運動技術について、博田は関節包内運動異常の改善と関節包・靭帯の伸張を目的としており、痛みの治療と関節拘縮の治療が可能であると述べている。副運動技術により関節包内運動を他動的に起こすことで、筋力が発揮しやすくなるのではないかと考えた。しかし、副運動技術が筋力に与える影響を示している報告は少ない。そこで今回、膝関節にAKA-博田法における副運動技術を施行し膝伸展筋力への影響を検証した。
    【方法】
     対象は、本研究に同意が得られ膝関節に整形外科疾患の既往がない健常成人36名(平均年齢25.8±3.7歳)とした。  方法は、無作為に測定下肢と12名ずつの3群に分け、群は副運動技術を施行する群(以下True群)、背臥位で膝関節屈曲・伸展の自動運動を5回実施する群(以下Sham群)、Control群とした。副運動技術の強さは、AKA-博田法で示している関節包・靭帯を伸張する強さで実施した。始めに膝伸展筋力を測定し、その後副運動・自動運動を実施する時間を含め10分間の休息をとり、再び筋力を測定した。膝伸展筋力の測定肢位は、端座位で股関節・膝関節屈曲90度・足関節背屈位、両上肢は体幹前方で組んだ状態とした。測定はハンドヘルドダイナモメーター(アニマ社製μTas F-1)を使用し、下腿後方の支柱と下腿遠位部をベルトで固定した。膝伸展筋力の収縮様式は等尺性とし、3秒間最大努力で膝伸展運動を行った。対象者は日を変え3回測定を実施した。統計処理は、各群前後の比較はt検定、群間の比較は運動前の膝伸展筋力を100%とし運動後の変化率を算出しKruskal-Wallis検定を行った。有意水準は5%未満とした。
    【結果】
     各群前後の膝伸展筋力の比較は、有意差を認めなかった。また各群間の変化率は、True群104.1±11.4%、Sham群104.4±11.2%、Control群103.9±19.9%であり、有意差を認めなかった。
    【考察】
     研究仮説は、関節包内運動を他動的に起こすことで関節面の動きが改善され、筋力が発揮しやすくなるのではないかと考えた。しかし、結果は筋力に有意差を認めなかった。最大筋力は、α運動神経の活動による運動単位の影響を受け、筋・腱・関節・皮膚などの体性感覚情報を伝える神経回路網により調節されている。副運動技術により、関節包・靭帯の伸張を加え膝関節の関節包内運動を他動的に起こしても、体性感覚情報を伝える神経回路網に影響を与えなかったと考えるため、筋力は変化しなかったと考えられる。今後は、構成運動やANTなど他の技術と併用し、筋力への影響を検証していきたい。
  • 藤原 慎也, 倉田 勉, 小口 敦, 鈴木 徹, 松本 徹, 矢内 宏二
    セッションID: O1-4-023
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/03
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    一般的に整形外科疾患における高気圧酸素療法は骨折、靭帯損傷などの外傷における治癒促進や炎症軽減などを期待して用いられる。ただし機器が高価であるため、多くの医療施設で使用されることは困難で、それに比べて弱高気圧酸素療法(以下mHBO)は汎用性が高い。しかしmHBOの科学的根拠は高気圧酸素療法に比べて乏しく、効果を明らかにすることは重要である。そこで我々は術後早期の炎症所見を経時的にみることで、mHBOの効果について検討を行ってきた。今回、mHBOの効果について新たな知見を得たので報告する。
    【方法】
    対象は2010年以前に当院で膝前十字靭帯再建術を施行した患者116名である。膝前十字靭帯再建術後、全ての患者に対しmHBOの実施を勧めるが、禁忌事項に当てはまる場合は除外している。術後プロトコルは、術後1週間ギプス固定後、硬性装具を装着し可及的に全荷重を許可している。対象分類は116名中、mHBO施行群(以下H群)、mHBO非施行群(以下N群)各58名とした。平均年齢はH群27.07歳、N群27.45歳、性別は両群とも男女比29:29であった。mHBOはAPTEC社製「酸素シャワーカプセル(AOC-720)」を用い、施行時間は30分間とし、H群の平均施行回数5.1回/7日であった。検討項目は、血液・生化学検査からCRPとWBC、加えて手術時間、受傷から手術までの待機期間とした。CRP、WBCはともに平均術後1日、7日目の計2回の検査結果を参照した。統計学的検討にはH群とN群の比較、各群術後1日と7日目の比較に差の検定を用いた。なお、血液・生化学検査は、術後通常診療で実施している結果を参照し、対象者の同意を得て使用している。またmHBO施行はすべて無償で行っている。
    【結果】
    CRPは術後1日目H群1.84mg/dl、N群2.04mg/dl、術後7日目H群0.72mg/dl、N群1.10mg/dlであった。WBCは術後1日目H群9271/μl、N群9210/μl、術後7日目H群6297/μl、N群6547/μlであった。両群ともCRP、WBCいずれも術後1日目から7日目にかけて有意に減少し、術後7日目のCRPはH群がN群に対して有意に低値を示した。手術時間はH群67.2分、N群70.0分、手術待機期間はH群350.6日、N群210.7日で両群間に有意差はなかった。
    【考察】
    高気圧酸素療法により足部体積の減少や自覚的評価の改善、また骨折、靭帯損傷の治癒促進の可能性を説いた報告は現在も続けられている。しかしmHBOは一般的な高気圧酸素療法とは医療機器として一線を画すため、その治療的根拠は不十分であるのが現状である。本研究では術後炎症時期におけるCRPに着目することで、mHBOの炎症軽減の可能性を認めたが、今後は術後成績や後療法に及ぼす影響を追加検討していく必要があると考えられた。
  • 走行距離増加に伴う疼痛に対するアプローチの一考察
    源 裕介, 長谷川 彰子, 綿貫 翔太
    セッションID: O1-4-024
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/03
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    今回、走行中のlateral thrustにより膝関節外側部痛を呈した症例を経験した。本症例は走行距離増加に伴い疼痛も増加傾向にあった。これらの症状に対し、筋のtightness除去に加えインソールとテーピングを実施したところ、フルマラソンが参加可能となるまで疼痛に改善が見られた。その病態と治療経過について、考察を加え以下に報告する。
    【症例紹介】
    40歳代の女性である。診断名は右変形性膝関節症で、主訴はランニング中の右膝関節の外側部痛である。疼痛は歩行時、階段昇降、走行時で出現していた。また、3ヶ月後のフルマラソン参加が目標であった。
    【理学所見】
    主な圧痛所見は、腸径靭帯、外側側副靭帯、外側膝蓋支帯、外側膝蓋大腿靭帯、外側膝蓋脛骨靭帯に確認され、grasping test陽性であった。ROMは屈曲140°、伸展-15°で、短縮テストはoverテスト、エリーテストで陽性であった。画像所見では若干ではあるが内側にOA changeと腓骨頭に骨棘、膝蓋骨外側偏倚が確認された。動作は歩行、走行、ステップ動作で右下肢のみlateral thrustが確認された。
    【治療及び経過】
    初期はtightnessに対するストレッチングを中心に実施し、開始より1ヶ月でROMが伸展0°、屈曲155°、短縮テストがすべて陰性と改善が見られた。これにより歩行、階段等での疼痛は消失し、走行中の疼痛も軽減した。しかし走行距離増加に伴い、走行時の疼痛が増加傾向にあった。そこでテーピングにて脛骨内旋制動を行ったところ、距離増加に伴う疼痛も改善が見られた為、テーピングの効果に準じてインソールを作成。その後、テーピングを併用しながら走行距離を徐々に増加し、開始より3ヶ月後のフルマラソンに完走。完走後の疼痛も同部位の疼痛は確認されなかった。
    【考察】
    本症例は評価より変形性膝関節症に腸脛靭帯炎を合併した症例と考えられた。そのため治療も腸脛靭帯炎に対するアプローチを中心に実施した。腸脛靭帯炎は一般的に膝関節外側のtightnessが主原因であるとされているが、本症例についてはtightness除去のみでは、走行距離増加に伴う疼痛が改善に至らなかった。この原因として、長距離走行での疲労に伴い膝関節外側支持機能が低下したと考えられ、これにより徐々にlateral thrustが大きくなり疼痛が増加したと考えられた。そのため本症例のようにフルマラソンを目指す場合、インソールとテーピングによるdynamic alignmentの補正が必要であったと考えられた。
口述発表5 「運動器2」
  • 下田 栄次, 小倉 理枝, 伊藤 彰, 安部 総一郎(MD)
    セッションID: O1-5-025
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/03
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    急速な高齢化により、転倒のリスクが高い高齢者は、潜在的に多く存在する.また、疾患や加齢による身体機能の低下を伴い、日常生活に制限を抱えている.運動器不安定症の定義は、「高齢化によりバランス能力および移動歩行能力の低下が生じ、ひきこもり、転倒リスクが高まった状態」とされているが、外来整形外科を受診する高齢者においてもその多くが、広義の運動器不安定症患者と捉えられるのではないかと考えられる.そこで、本研究の目的は、当院に外来通院している運動器疾患患者を対象に運動器不安定症患者の診断基準の一つである開眼片脚起立時間とTimed Up and Go Test(以下TUG)を指標としたバランス能力と足機能、転倒歴との関連性について検討することである.
    【対象】
    対象は当院に通院している65歳以上の運動器疾患患者で、本研究の目的及び方法を説明し、十分な同意と協力が得られた計45名(男性16名、女性29名、年齢77.3歳±6.88歳)である.主疾患名は変形性関節症31名、腰部脊柱管狭窄症14名、うち骨粗鬆症は12名である.脳血管障害の既往を有する者は除外した.
    【方法】
    調査・測定項目は年齢、性別、BMI、Foot Posture Index(以下FPI)、足趾把持筋力体重比(竹井機器工業社製)、開眼片脚起立時間、TUG、過去1年間の転倒歴とした.統計処理にはSpearmanの相関検定により、転倒歴と各項目との相関を求めた.また転倒歴により転倒群と非転倒群の2群に分類し、相関をみとめた項目をMann-Whitney検定を用いて単変量解析を行った.尚、事前に開眼片脚起立時間、TUGと転倒歴との傾向を調査した.有意水準はいずれも5%未満とした.
    【結果】
    運動器不安定症のcut off値となる「開眼片脚起立時間15秒未満またはTUG11秒以上」に29名が該当し、その中で過去1年間に19名が転倒しており、転倒発生率は65.5%であった.一方、運動器不安定症の診断基準に該当しない16名では転倒歴のある者はいなかった.転倒歴との相関では年齢、FPI、足趾把持筋力体重比、開眼片脚起立時間、TUGにおいて有意な相関を認めた.相関を認めた項目における群間比較では、すべての項目において有意差を認めた.
    【考察】
    本研究にて対象とした外来運動器疾患患者は、それぞれ疾患による特異性を有しているが、バランス能力および足機能と転倒歴との関連性が認められた.また、足部のマルアライメントや足趾把持筋力低下が立位における姿勢制御に影響し、転倒のリスクが高まっている可能性が示唆された.
  • 関節可動域・筋力を対象として
    松村 将司, 竹井 仁, 市川 和奈, 小川 大輔, 宇佐 英幸, 畠 昌史
    セッションID: O1-5-026
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/03
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    下肢の関節痛は、各関節由来のアライメントの変化によってもたらされることが多い。そこで今回、立位における骨盤・下肢のアライメントと関節可動域(ROM)・筋力との関連について運動連鎖を考慮しながら分析したので報告する。
    【方法】
    被験者は健常成人34名(男性15名、女性19名、平均21.9歳)とした。立位アライメントの測定は、一眼レフカメラ(Canon EOS Kiss X4)で撮影した画像から、矢状面の骨盤前傾角度・膝伸展角度、前額面の骨盤側方傾斜・大腿脛骨角度・大腿四頭筋角度に対してシルエット計測(Medic Engineering社)を用いて解析した。その他に、navicular drop test・大腿骨前捻角・立位での踵骨角度の測定、股・膝・足関節のROM測定およびハンドヘルドダイナモメーター(ANIMA社製μTasMT-1)を用いて筋力測定を実施した。統計解析はクラスタ分析、一元配置分散分析、多重比較法(Tukey HSD法)を実施した。有意水準は5%とした。なお、本研究は本学研究安全倫理委員会の承認を得た上で実施した。
    【結果】
    クラスタ分析の結果3群に分類された(以下、A・B・C群)。以下、両側で有意差を認めた項目を示す。アライメントの測定項目では、前捻角(両:C>A・B) 、大腿四頭筋角度(両:C>A)、膝伸展角度(両:B>A、右:B>C)であった。ROMの測定項目では、股関節伸展(右:B>A、左:C>A)、股関節内旋(両:C>A)、股関節内転(両:C>A、右:B>A)、膝関節伸展・足関節底屈(いずれも両:B>A)、腹臥位での股関節内旋(両:C>A、右:C>B)であった。筋力の測定項目では、股関節外転 (両:A>B・C)であった。
    【考察】
    立位アライメント・ROM測定の結果より、A群は股関節外転・外旋による内反膝、B群は膝過伸展、C群は股関節内転・内旋による外反膝といった3群に分類されることが示唆された。筋力測定の結果より、A群のようなアライメントでは股関節外転筋力が大きくなることが認められた。運動連鎖は、股関節の外転・外旋方向、内転・内旋方向以外には認められなかった。この原因は、健常成人を対象としたため、過度な骨盤の前後傾が認められなかったためと考える。
    【まとめ】
    股関節内転・内旋ROMがアライメントと関連し、筋力では股関節外転筋力がA群で高値を示した。これより、内反膝の進行予防には股関節内転・内旋ROMの拡大、外反膝の進行予防には股関節外転筋力の増強によって股関節内転・内旋方向への偏位を抑制していくことが必要であると考える。
  • 鈴木 善雄
    セッションID: O1-5-027
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/03
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     ロコモティブシンドローム(以下ロコモ)は近年,潜在的該当者を含めたその増加により,予防的側面を重視した健診事業が注目されている.当院では2010年9月からロコモ健診を実施しており,健診には理学療法士も加わり専門的立場から受診者の機能評価・生活動作指導などを行っている.今回,ロコモの指標の一つであるロコモーションチェック(以下ロコチェック)と健診の結果から受診者の傾向を把握し,より適切な理学療法士の健診への介入方法について探ってみた.
    【対象・方法】
     2009年10月から2011年2月までの期間,当院ロコモ健診を受診し,日本整形外科学会ロコモパンフレットにあるロコチェック((1)片脚で靴下が履けない(2)階段を上るのに手すりが必要である(3)横断歩道を渡りきれない(4)15分くらい続けて歩けない(5)家の中でつまずいたり滑ったりする(6)家のやや重い仕事が困難である(7)2kg程度の買い物をして持ち帰るのが困難である)を事前に実施した48名(平均年齢72.1±6.4歳,男性3名,女性45名)について,ロコチェックの該当項目数が0個の群と,1~2個の群,3個以上の群に分類(それぞれ非ロコモ群・ロコモA群・ロコモB群とした)し,各群間において健診内容である基礎体力測定(片脚立位時間・長座体前屈距離・握力・上体起こし回数・30秒間椅子から立ち上がり回数)と重心動揺検査(総軌跡長・外周面積)との結果を比較・検証した.なお検定にはKruskal -Wallis検定を使用し,多重比較はScheffe法を用いた(有意水準5%).
    【結果】
     ロコチェックの陽性率は,階段を上るのに手すりが必要(43%)で最も高く,次いで片脚立ちで靴下が履けない(39%)であった.各群と健診内容との比較では,片脚立位時間(非ロコモ群/ロコモB群 p <0.05),30秒間立ち上がり回数(非ロコモ群/ロコモB群 p<0.01,ロコモA群/ロコモB群p<0.01),外周面積(非ロコモ群/ロコモB群 p<0.05)において有意差を認め,それぞれロコチェックの該当数が少ない群ほど良好な結果を示した.
    【考察】
     今回,ロコチェックは基礎体力・重心動揺の結果において一部その予見性が確認でき,片脚立位時間・椅子からの立ち上がり回数・外周面積など,下肢筋力やバランス機能に関わる項目で有意な関係を示した.今後,ロコモ健診に携わる理学療法士はロコチェックを重視し,その予見性も考慮した上での評価・指導を行う必要性が示唆された.
  • 佐々木 紗映, 山中 裕司, 長尾 巴也, 岩井 一正, 林 光俊, 仙波 浩幸, 平川 淳一
    セッションID: O1-5-028
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/03
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    当院は身体障害を合併した症例を対象としたリハビリテーション科を併設した精神科病院で,身体・精神両専門スタッフがチームとして患者の治療にあたっている.その中で股関節疾患の術後リハビリテーションの成果について,一定の知見を得る事が出来たので,ここに報告する.

    【方法】
    2007年1月~2011年11月までに当院へ入院し,身体的リハビリテーションを行った股関節疾患術後患者45例(男性13例,女性32例,平均年齢70.7歳)を対象として,受傷部位,術式,精神疾患名,受傷前の歩行能力,当院入院までの経緯,転帰,歩行達成率,リハビリ実施期間を調査した.

    【結果】
    精神疾患は統合失調症が最も多く,受傷前は39例が歩行可能であった.受傷部位は大腿骨頸部骨折31例と最も多い.術式は人工骨頭置換術,γ-nailなど骨接合術の順に多かった.当院入院までの経緯としては,直接入院したのは32例で,精神科病院を経由し入院したのは13例であった.転帰は,店員が29例と最も多く,次いで自宅退院が11例であった.歩行達成率は56.4%であった.リハビリ実施期間は平均141.2日であった.

    【考察】
    身体領域の治療成績を検討する場合,多くの研究で精神疾患があるとデータから除外されることが多く,精神疾患患者への理学療法の必要性や意義,効果を指し示すデータは蓄積されていない.今回,精神疾患患者のデータ蓄積をしている中で,股関節疾患の術後患者に対象を絞って調査をし,術前に歩行が可能だった39例のうち22例が歩行再獲得をしており,歩行達成率は56.4%と比較的高い値であり,リハビリ実施期間も算定期限内に収めて行うことができていることがわかった.従って,環境設定などいくつかの要素を整えることができれば,精神疾患患者に対してもリハビリテーションの成果を出すことは可能であると考えられ,この分野への理学療法の更なる介入は患者のADLを向上させることができると考えている.

    【まとめ】
    今までデータから除外されていた精神疾患を持つ患者への理学療法への効果と必要性について一定の知見を得ることができた.今後もデータ蓄積を継続し,検討していきたい.
  • 長澤 良介
    セッションID: O1-5-029
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/03
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    今回、脱水・イレウス後廃用症候群と診断され、理学療法(以下PT)、Vision Training(以下VT)により右眼の視力低下を疑った症例を経験した。VT実施後、眼科受診。右眼の視力低下が認められ、VT継続し、歩行が改善、退院に至った経過を、考察を加えて報告する。

    【方法】
    脱水・イレウス後廃用症候群の診断をうけた70代前半の男性に対し、VTボードとブロックストリングという器具を用いて、歩行の改善を目的に治療を行った。

    【結果】
    線分二等分検査 紙面上部:左0.3cm⇒左0.4cm 紙面中部:右0.2cm⇒左0.3cm 紙面下部:右0.7cm⇒右0.6cm 10m歩行 16秒1(27歩)⇒14.8秒(25歩):ストライド長74cm⇒80cm:ケイデンス100.6歩/分⇒101.4歩/分  片脚立位 右:6秒 左:5秒⇒右:8秒 左:6秒

    【考察】
    本症例は、脱水・イレウス後廃用症候群と診断され、H22.7.18当院入院、H22.8.13 PT開始、H22.8.16回復期リハビリ病棟へ転棟、H22.11.2までPTを継続した患者様である。 入院当初より、VTを初期評価で実施。認知項目がMMSE21点と比較的高値なため、治療対象を歩行の改善とし、VTとPTを約2ヶ月間実施。眼科受診の結果、視力は裸眼で右0.3左0.5であった。 本症例は、VTでの正中理解の際、左眼で視るために、頸部を常に右回旋させていた。筋緊張は、背臥位で、頸部は右、上半身は左、下半身は右側が亢進。立位姿勢を足底、体幹、頸部などから整える様々な方法が考えられるが、本症例は、正中で物体を捉えるために頸部を右回旋させる必要があり、これが立位姿勢での筋緊張に影響を及ぼしたと考えた。
    VTにより、線分二等分検査で紙面中部にて、右0.2cmが左0.3cmと左側に視線が向けられるように、正中で物体を捉える際に頸部が右回旋しなくなったことが、立位姿勢保持の筋緊張に影響を及ぼし、10m歩行、片脚立位の保持時間向上に繋がったのだと考える。
    本症例の歩行の改善要因は、眼の使い方の改善、右から左へ視線を向けられるようになり、頸部が右回旋しなくなったためであると考えている。

    【まとめ】
    今回は症例報告、VT紹介を行った。前本学会でもVT紹介をさせて頂いたが、評価項目を増やし、症例に施行した。患者様の眼が視えていると定量的に判断できる評価法が確立されれば、セラピストにとって患者様と向き合う際の一助となるのではと考え、今回も発表に至った。今後は、前回も課題とした、実施内容を統計処理し、科学的根拠に基づいた評価法としてVTを位置づけられるよう研鑚していきたい。
  • 浅利 和人
    セッションID: O1-5-030
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/03
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     小型犬に好発する膝蓋骨脱臼や前十字靭帯損傷などの膝関節疾患は、強い疼痛と荷重回避姿勢の影響で、術後においても患側股関節の伸展制限が残存することが多い。本研究では、膝関節疾患術後に患側股関節の伸展制限が残存した小型犬を対象として二足歩行練習を実施し、その介入効果を検証したので報告する。

    【方法】
     対象は膝関節疾患に対して観血的治療を施行した小型犬26例とした。このうち前肢を介助して2足立位をとり、そのままの姿勢で前方歩行練習を行なった犬を実験群(n=14)、トレッドミル上で通常の歩行練習を行った犬を対象群(n=12)とした。2足歩行では1回を連続20mとし、1日4回5日間実施した。トレッドミル歩行は1回を5分間とし、1日4回5日間実施した。各群において、介入前後における患側股関節の伸展可動域変化を比較した。本研究は、獣医師および担当理学療法士が、飼い主に対して本研究の趣旨および方法、研究経過および結果の公表、理学療法介入による症状悪化のリスク等に関して説明し、同意を得た上で実施した。

    【結果】
     対象は平均年齢4.3±1.07歳、平均体重4.0±0.96kgであった。犬種はトイプードル8頭、ミニチュアダックスフンド4頭、ポメラニアンおよびチワワ3頭、その他8頭であった。実験群における介入前の股関節伸展角度は25.37±5.59°、介入後は34.41±6.85°であり有意に改善を認めた(p <0.05)。また対照群における介入前の股関節伸展角度は27.91±5.61°、介入後は26.54±6.05°であり有意差は認めなかった。

    【考察】
     関節疾患のある犬は疼痛のため対照肢を挙上し、免荷状態で生活していることが多いことから、拘縮の責任病巣は筋や関節構成体の廃用を中心としたものと考えられる。実験群および対照群とも股関節伸展運動を伴う介入であるが、歩行のみの対照群ではほとんど改善が見られなかった。この理由として、拘縮のある犬の歩行は、自動運動の可動範囲内で運動を行っていることが考えられた。一方実験群では、2足立位姿勢を誘導することにより股関節のストレッチング効果が得られ、またその姿勢のまま歩行することで他動的ROM練習と同じ効果があったと考えた。運動器疾患による関節拘縮改善への介入は、散歩などの歩行のみの運動では十分ではなく、積極的な動作誘導による他動運動の誘発が効果的であることが示唆された。今後、リハビリへの協力が得られにくいなどの特有な条件下で、効果のある方法を考案しそれを検証していくことが望まれる。
口述発表6 「運動器3」
  • 松島 愛, 玉木 宏史, 高橋 真, 江連 智史, 石垣 直輝, 岡田 亨
    セッションID: O1-6-031
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/03
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    腰椎分離症は、成長期のスポーツ選手に好発する障害であり、運動療法は主な治療法の一つに挙げられる。しかし、腰椎分離症の発生に関与する身体特性についての報告は少なく、リハビリテーションにおける最適なアプローチ方法は確立されていない。本研究の目的は、より有効なリハビリテーションプログラムの立案のため、中高生腰椎分離症患者の身体特性を明らかにすることである。

    【方法】
    対象は、本研究に同意を得た中高生スポーツ選手57名(男性37名、女性20名、平均年齢14.9±1.5歳、平均身長164.6±8.8cm、平均体重54.6±9.3kg)とした。その内、医師によりMRI・CT・X線画像のいずれかにおいて腰椎分離症と診断された35名を分離症群、腰部に既往のない22名を対照群と分類した。全対象者に対し、踵殿部間距離(以下HBD)、トーマステスト、Oberテスト、股関節内旋可動域、股関節外旋可動域、下肢伸展挙上角度、船橋整形外科式体幹機能テストの7項目の測定を行い、得られた結果を分離症群と対照群で比較した。統計学的処理にはSPSS Ver.12を使用し、Mann-Whitney U検定、χ2検定を用い、有意水準5%として検定を行った。尚、本研究は当院倫理委員会の承認を得て行った。

    【結果】
    HBDは、分離症群では右側5.5±5.5cm、左側5.5±4.5cm、対象群では右側2.2±2.3cm、左側2.5±2.9cmであり、両側ともに分離症群で有意に高値を示した。Oberテスト陽性率は、分離症群で右側74.3%、左側77.1%、対象群で右側13.6%、左側22.7%であり、両側ともに分離症群で有意に高かった。トーマステスト陽性率では、分離症群で左右ともに77.1%、対象群で右側54.5%、左側50.0%であり、左側でのみ分離症群で対象群よりも有意に高かった。その他の項目においては、両群間での有意差を認めなかった。

    【考察】
    腰椎の伸展や回旋動作の反復は、腰椎突起間部への圧を増大させることから、腰椎分離症の発生に関与すると考えられている。本研究の結果、分離症群において股関節前面筋群の有意な柔軟性低下を認めた。Keimらは、腸腰筋、大腿直筋、大腿筋膜張筋といった股関節前面筋群の短縮が骨盤前傾位を引き起こすと述べている。骨盤前傾位では腰椎は前彎姿勢となり、体幹伸展および回旋運動時の腰椎突起間部へのストレスを増大させる一因となると考えられる。従って、腰椎分離症患者に対しては、これらのストレスを軽減させるため股関節前面筋群のストレッチ介入が重要であることが示唆された。
  • 野嶋 素子, 中山 裕子, 袴田 暢, 細野 敦子, 山崎 昭義, 渡辺 慶
    セッションID: O1-6-032
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/03
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    われわれはこれまで腰椎疾患症例の股関節外転筋力および足関節背屈筋力と歩行能力との関連について検討し,股関節外転筋力が歩行能力に強く関与していることを報告してきた.本研究の目的は,腰椎疾患症例の除圧術前後の股関節外転筋力,足関節背屈筋力,歩行能力の変化について検討することである.
    【対象と方法】
    対象は,平成22年9月から12月に当院で腰椎除圧術を施行した8例(男性7名,女性1名)で,平均年齢は59.1±3.9才であった.疾患名は,腰部脊柱管狭窄症4名,腰椎椎間板ヘルニア2名,腰椎変性側彎症1名,腰椎変性すべり症1名であった.測定項目は,股関節外転筋力,足関節背屈筋力,10m最大歩行速度(m/s),Timed Up and Go Test(以下TUG)とし,術前および術後2週間で測定した.股関節外転筋力および足関節背屈筋力はHand Held Dynamometer(アニマ社製,μTas F-1)を用い,仰臥位にて,股関節外転筋力は股関節外転0°屈曲0°内外旋中間位で,足関節背屈は膝関節伸展0°足関節底屈10°で実施した.測定は5秒間の最大等尺性収縮を2回実施,ピークトルク体重比(Nm/kg)を算出した.10m最大歩行速度およびTUGはそれぞれ2回測定し,最速値を採用した.統計学的検討は,術前・後の比較について対応のあるt検定を用いて行い,有意水準は5%とした.
    【説明と同意】
    対象者には研究内容と方法について口頭および書面にて十分に説明を行い,書面にて同意を得た.
    【結果】
    股関節外転筋力は術前0.62±0.30Nm/kg,術後0.88±0.20Nm/kgで改善が認められた(p<0.05).足関節背屈筋力は0.16±0.09Nm/kg,0.24±0.10Nm/kgであり,10m最大歩行速度は術前1.28±0.54 m/s,術後1.28±0.26 m/sであり,ともに術前後で差がなかった.TUGは14.63±7.74秒,9.08±1.25秒で改善が認められた(p<0.05).
    【考察】
    これまでわれわれは股関節外転筋力とTUGは相関が高いことを示し,TUGに含まれる方向転換動作に股関節外転筋力の作用が関与する可能性を示唆してきた.本研究では,術後において股関節外転筋力およびTUGが有意に改善しており,このことは股関節外転筋力とTUGの関連を裏づけるものであると考えられる.また足関節背屈筋力には変化が認められなかったものの,股関節外転筋力は術後2週に改善が認められた.これは,筋力の回復過程が馬尾神経ないし神経根の損傷部位からの距離に関係がある可能性が考えられ,今後長期的に測定を実施し検討を行なう必要があると考える.
  • 樋口 大輔, 原田 亮, 新谷 和文
    セッションID: O1-6-033
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/03
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    腰部脊柱管狭窄症(LSS)に対する手術成績を判定する帰結指標として従来の機能障害の指標だけでなく、健康関連quality of life(QOL)に関する指標が用いられることが多くなってきている。しかし、LSS患者の健康関連QOLと関連する因子を明らかにし、その関係を検討した報告は少ない。そこで、本研究は周術期のLSS患者に対する理学療法を効果的に実践するための資料を得ることを目的に、術前LSS患者の健康関連QOLに影響を及ぼす因子を探索した。
    【方法】
    本研究は当院倫理委員会の承認を経て実施された。術前のLSS患者62人(男性33人、女性29人;63.3±12.1歳)を対象として、運動麻痺(筆者らで定義した4段階の順序尺度)、腰痛ならびに下肢痛(NRS)、日常生活活動(ADL)上の制限(RMDQ)、不安ならびに抑うつ(HADS)、健康関連QOL(SF-8のPCSとMCS)を調査した。LSS以外の神経疾患あるいは有痛性の整形外科疾患を併存している人、正確な調査が困難であると判断された人については除外した。なお、すべての研究参加者に対して研究に関する説明を行い、記名による同意を得た。各調査項目および年齢間のSpearmanの順位相関係数を算出するとともに、調査項目および年齢を男女間で比較した。さらに、PCSとMCSを従属変数、その他の調査項目および年齢、性別を独立変数としたステップワイズ重回帰分析を行った。
    【結果および考察】
    PCSと有意な相関がみられた項目は、腰痛ならびに下肢痛のNRSとRMDQであり、係数はそれぞれ-0.34(p<0.01)、-0.28(p<0.05)、-0.54(p<0.01)であった。PCSを従属変数とした重回帰分析にて採択された変数はRMDQと性別であり、腰痛ならびに下肢痛のNRSは除外された(調整済みR2=0.36、F=18.07、p<0.01)。これらの結果は、疼痛強度そのものよりも、その疼痛によって引き起こされるADLの困難度に基づいて身体的健康感が決定されることを示していたと考えられた。また、男女間でPCSに有意な差はなかったものの(中央値:男性36.3点、女性38.3点)、性別はPCSの予測精度を高める因子であることが明らかとなった。次に、MCSと有意な相関がみられた項目は不安と抑うつであり、係数はそれぞれ-0.61、-0.52(いずれもp<0.01)であった。いずれもMCSを従属変数とした重回帰分析にて採択された(調整済みR2=0.42、F=22.86、p<0.01)。不安や抑うつを併存しているLSS患者に対して理学療法を提供する際には、それらのマネジメントを含めた介入が有効である可能性があった。
    【まとめ】
    術前LSS患者の健康関連QOLにはADL制限のほかに抑うつや不安といった心理学的要因が悪影響を及ぼしていることが明らかとなった。
  • 袴田 暢, 中山 裕子, 細野 敦子, 山崎 昭義, 渡辺 慶
    セッションID: O1-6-034
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/03
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    前脛骨筋と中殿筋の神経支配は重複するとされるが,中殿筋の筋力低下に関する報告は前脛骨筋に比べ少ない.本研究の目的は,腰椎変性疾患症例を対象に股関節外転筋および足関節背屈筋と歩行能力との関係について検討し,その臨床像を明らかにすることである.
    【方法】
    対象は平成22年6月から平成23年3月に入院し,術前理学療法評価を施行した下肢感覚障害を有する腰椎変性疾患症例55例とした(年齢67.5±10.7歳.男性33例,女性22例).測定項目は股関節外転筋力,足関節背屈筋力,Timed up and go test(以下,TUG),10m最大歩行速度(以下,歩行速度;m/s)とした.筋力測定はHand Held Dynamometer(アニマ社製μTas F-1)を用いた.測定は5秒間の最大等尺性収縮を2回施行,その最大値でピークトルク体重比(Nm/kg)を算出.また,下肢感覚障害の強い側を障害優位側とし,対側を障害劣位側とした.統計学的検討は,ピークトルク体重比の比較を,対応のあるt検定で,股関節外転筋と足関節背屈筋およびTUG,歩行速度との相関はpearsonの相関係数を用い,有意水準は5%未満とした.本研究は主旨を文書にて説明し署名にて同意を得た.
    【結果】
    感覚障害に関して両側例が37例,片側例18例であった.股関節外転筋力は障害優位側0.74±0.42Nm/kg,障害劣位側0.87±0.45Nm/kgで有意差を認めた(p<0.05).足関節背屈筋力は障害優位側0.15±0.10Nm/kg,障害劣位側0.19±0.09Nm/kgで有意差を認めた(p<0.05).障害優位側での股関節外転筋力と足関節背屈筋力との相関は0.37,障害劣位側での股関節外転筋力と足関節背屈筋力との相関は0.62であった.また,TUGと股関節外転筋力との相関は障害優位側で-0.43,劣位側で-0.42,足関節背屈筋力との相関は障害優位側で-0.40,劣位側で-0.39であった. 歩行速度と股関節外転筋力との相関は障害優位側で0.52,劣位側で0.59,足関節背屈筋力との相関は優位側で0.45,劣位側で0.53であった.
    【考察】
    障害優位側での股関節外転筋と足関節背屈筋筋力値の相関は低く,筋力低下のパターンには,ばらつきが大きいことが示唆された.また,立ち上がり・方向転換を伴うTUGでは足関節背屈筋との相関は低い傾向で,足関節背屈筋の筋力低下は代償され,股関節外転筋がより重要である可能性があるものの,他の因子を含めて更なる検討も必要と考えられた.
  • 高橋 真, 浦上 剛, 田村 淳, 黒川 純, 鈴木 智, 高村 隆
    セッションID: O1-6-035
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/03
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    肩関節挙上に伴う肩甲骨上方回旋では僧帽筋各線維の協調した収縮が重要であり、Kapandjiは特に挙上域で僧帽筋下部線維の活動が必要と述べている。また、臨床においては胸椎可動性の拡大に伴い僧帽筋下部線維の収縮を目的とした腹臥位肩関節挙上動作が遂行しやすくなることを経験する。 そこで、本研究の目的は筋電図を用いて腹臥位肩関節挙上位における僧帽筋中部線維(MT)と僧帽筋下部線維(LT)の筋活動の比率と胸椎可動性の関連を検討することとした。
    【対象と方法】
    対象は本研究に同意を得た一般健常男性14名の利き側14肩である(平均年齢24.9±2.1歳)。胸椎可動性の評価として第7頚椎から第12胸椎の棘突起間の距離をメジャーにて測定する棘突起間距離を用いた。評価項目は、(1)胸椎屈曲距離(体幹最大屈曲位-体幹中間位)、(2)胸椎伸展距離(体幹中間位-体幹最大伸展位)、(3)胸椎総可動距離(体幹最大屈曲位-体幹最大伸展位)を求めた。
    筋活動の測定にはNORAXON社製myosystem1400を使用し、抽出筋はMTとLTとした。運動課題はLTのMMTに準じた腹臥位挙上を用いた。代償動作を考慮し両側同時挙上とし、最大挙上位で5秒間保持を3回実施した。解析区間は2から4秒間の筋活動を算出し、3回の平均値を個人データとした。MMTを用いてMT、LTのMVCを1として腹臥位挙上における測定値を正規化し、%MVCとして表した。筋活動はMTをLTで除した値(MT・LT比)とした。MT・LT比と胸椎可動性をpearsonの相関係数を用いて検討し、有意水準は5%とした。  尚、当研究は船橋整形外科病院倫理委員会審査により承認された。
    【結果】
    各平均値は、MT・LT比は1.5±0.8、胸椎総可動距離は11.7±2.8cm、胸椎伸展距離は3.8±2.0cm、胸椎屈曲距離は7.8±2.0cmであった。 MT・LT比は胸椎伸展距離(r=-0.55)と胸椎総可動距離(r=-0.55)に有意な負の相関を認めた。MT・LT比と胸椎屈曲距離については相関が認められなかった。
    【結語】
    腹臥位肩関節挙上位において、胸椎可動性及び胸椎伸展が良好な症例ほど僧帽筋筋活動の割合がMTと比較してLTが高値を示した。本研究の結果から僧帽筋下部線維の筋力測定やエクササイズを行う際は胸椎可動性を考慮する必要があると考える。
  • 体幹機能から考える
    山田 裕司
    セッションID: O1-6-036
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/03
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    顎関節症患者は多く経験する症例ではないものの、年間で数例は経験する。文献等では、治療に頚部筋緊張のリラクセーションを用いるという記述があるが、促通という概念はあまり見られない。今回、開口障害を呈した症例らに対し、体幹機能に着目して促通という概念を用いてアプローチした結果症状の改善が得られた。
    【症例紹介と理学療法経過】
    本研究の主旨に同意を得た2症例を対象とした。
    症例紹介1:30代男性。H21年2月に当院受診し右顎関節症と診断され理学療法開始となる。 受傷機転はあくびをした時に疼痛が起き、以来食事の時など開口時に疼痛が起きるとのことである。
    症例紹介2:30代男性。以前より開口時に違和感があり疼痛へと変化し来院。右顎関節症と診断され理学療法開始となる。開口時の痛みは肩甲帯の位置で痛みが変化する。罹患側肩甲帯挙上位では疼痛が低下するも、下制時では疼痛が強くなる傾向がある。
    【治療内容と結果】
    症例1に対しては、PNFの上部体幹パターンLiftingを数回施行した。その後開口障害が改善し疼痛の低下及び消失が認められた。症例2に対しては端座位にて右方向に重心移動を行わせ、その肢位でRhythmic Stabilazationを数回施行した。症例1,2ともその後開口障害が改善し疼痛の低下及び消失が認められた。
    【考察】
    症例1、2とも共通点として患側である右側の肩甲帯が後方下制位にあり胸椎の後彎が増強し下顎が前方に突出している点であった。顎関節と肩甲帯の関係の一例として、右の肩甲帯が後方下制であると、鎖骨が下制位となる。鎖骨が下制位となると胸鎖乳突筋の鎖骨部に伸張性のtentionが加わる。側頭骨・乳様突起に起始を持つ、胸鎖乳突筋が側頭骨を後方に引くことで、相対的に下顎骨が前方偏位となることが予想される。また、側頭骨が下制することでの下顎骨との位置関係に問題が生じると考える。矢状面上の特徴では頚椎の伸展位と胸椎の後彎姿勢の増大が見られた。これらの肢位では体幹が抗重力的に機能的に作用しているとは考にくい。よって体幹筋を促通する必要があると考えた。
    促通の方向性として罹患側の肩甲帯が下制・後退また胸椎の後彎という特徴を改善することを目的とした。したがって、上部体幹を罹患側から非罹患側の回旋を行うこと選択し、症例1対してはLiftingを行い、また症例2に対しては端座位での重心移動を行った直後に症状の改善が見られた。よってこの2例からであるが、顎関節症のメカニカルストレスの起因に罹患側の体幹の抗重力機能に問題があると考え、そこに着手するアプローチも理学療法の一手段であると考える。
口述発表7 「生活環境支援2」
  • -対側に大腿義足を有する症例-
    白井 智裕, 齋藤 義雄, 田中 優路, 布施 憲子, 古志 貴和
    セッションID: O1-7-037
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/03
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     足関節の外傷後変形は、その程度により装具療法や観血的治療が選択される。今回重度の内反尖足変形に対し、御本人の希望により保存的治療となった症例を経験した。歩行困難と思われた重度変形に対し装具療法を施行し、歩行能力の改善を認めたのでここに報告する。なお、本人には説明と同意を得ている。
    【症例紹介】
     24歳男性。バイク事故により右下腿開放骨折、右腓骨神経麻痺、左下腿開放骨折で前院入院。両側とも軟部組織の損傷が強く、左側は左大腿切断・断端形成術施行。右側の下肢は温存できたが後に脛骨に骨髄炎を発症、受傷から約2カ月後、イリザノフ式創外固定術施行した。その後左大腿義足(練習用仮義足)作製、立位練習開始した。
     右下腿は骨髄炎と骨癒合の経過観察に1年間行うものとし、自宅退院。その後当院外来で理学療法開始となった。
    【理学療法初期評価】
     当初右下肢荷重は20kgまで許可。右膝屈曲90°伸展-20°右足背屈-40°外転-5°外がえし-10°足趾伸展制限がみられた。筋力(MMT)は右足背屈0足趾伸展0底屈2足趾屈曲2、右股・膝周囲は4レベルであった。右足背の感覚鈍麻がみられた。
    【経過・装具療法アプローチ】
     骨髄炎治癒と骨癒合を確認し、受傷から1年後に創外固定抜去術施行。3カ月経過後、右下肢部分荷重開始。その後全荷重まで進むが、重度な内反尖足変形の為十分な荷重が困難。そこで変形に合わせたプラスチック製短下肢装具(以下PAFO)処方。装具は右足背屈制限に対して装具の踵部を補高、また荷重時の足底外側接地に対し補高部分に外反角度をつけ修正を加えた。同時にベルクロテープの位置を修正し足関節の固定を図った。
    【結果】
     足関節の矯正・固定により右下肢への荷重量増加がみられ、3カ月後、片松葉杖歩行が可能となった。しかし外果下方の疼痛は残存し、更に補高が極度に高い事による不安定感の為実用歩行には至らなかった。
    【考察】
     PAFOは、関節固定による下肢支持性向上を主目的とした。結果、足関節の固定と装具修正により歩行時の足底外側接地が改善、荷重量向上し、その後の運動療法にて片松葉杖歩行まで獲得した。賀好らは、装具療法の効果を運動療法にて活動量増加に還元する事が重要と述べており、本症例も歩行への波及作用がみられた。しかし最終的に全荷重には至らず実用歩行の獲得はできなかった。これは内反位での荷重による疼痛の出現、足部の不安定感、また対側の大腿義足も断端痛の出現や膝継手が固定式である点などが影響したと考えられた。重度内反尖足変形に対しては装具療法が有効的治療ではあったが、保存治療だけでは難渋することが示唆された。
  • 田中 惣治, 吉葉 崇, 松岡 慎吾, 宮城 新吾, 木内 典裕, 寺村 誠治
    セッションID: O1-7-038
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/03
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    ロボットスーツHAL福祉用(以下,HAL)は下肢に障害を持つ方や脚力が弱くなった方の下肢動作や歩行をサポートする装着型の自立支援ロボットである。HALをリハビリテーションに応用した報告は少なく,その効果判定は10m歩行スピードや動画撮影などで行われているものが多く,HAL 装着による効果は未だ不明な点が多い。 当院では平成22年5月よりHALを導入し,適応や使用方法など理学療法にどのように応用すべきか検討中である。今回,膝伸展不全(Extension Lag:以下,Lag)を呈する患者に対し,HALを歩行以外の用途で使用し効果が得られた。表面筋電図や筋力測定による効果判定も併せて報告する。
    【症例】
    50歳男性。平成22年10月31日スポーツ自転車走行中に転倒受傷し救急搬送。右大腿骨転子部骨折と診断され11月5日右大腿骨ORIF γ-nail施行。12月11日リハビリ目的で当院に転院した。転院時の右膝関節可動域は0-70°, Lagは40°であった。週6回1時間の頻度で四頭筋筋力強化練習など理学療法を実施した。10日経過後,Lagに著名な変化が認められなかったことから,Lag改善目的で12月22日よりHAL装着下で膝伸展運動を実施した。
    【方法】
    HAL装着の効果を検証するため,HAL装着下の練習実施前後で表面筋電図(日本光電社製)と等尺性筋力計μ-tas(アニマ社製)を用いて右膝伸展筋の筋活動と筋力を計測した。測定日はHAL使用8回目の1月22日,筋電図の被験筋は大腿直筋,内側広筋,外側広筋とし,端坐位での膝自動伸展運動で測定した。筋力測定は端坐位膝関節90°屈曲位での等尺性収縮した際の膝伸展筋力をHALの使用前後で測定した。なお,筋電図測定時のHALの電極添付位置は内側広筋とした。HALの使用と研究の協力に関して,口頭・文書にて十分説明し同意を得られてから実施した。
    【結果】
    HAL装着しての練習は1回20分,週2回程度,計10回実施した。結果,Lagは初回で5°程度改善し, 1月30日にLagは消失,2月5日の退院時の膝可動域は0-130°となった。 筋活動に関して,HAL装着下での練習前後で右膝伸展運動時の筋活動は大腿直筋、外側広筋に大きな変化は認められなかったが,電極を貼付した内側広筋は練習後に筋電図波形の振幅が増大した。筋力に関しては,HAL使用前が24.9kgf,使用後が24.5kgfであり,練習前後で大きな差を認めなかった。
    【考察】
    端坐位での膝伸展運動において,HAL装着下での練習後に電極を貼付した内側広筋のみの筋活動が増大したことから,HALは筋活動を増大させる効果があることが考えられる。しかし,練習前後で筋力に差がみられなかったことから,筋力増強効果は得られにくいことが推測できる。
    【まとめ】
    本症例からHALは歩行以外の用途にも応用可能であると示唆され,目的とした筋の再教育を効率的に行う一助となると考えられる。
  • 北村 美咲, 瀧口 江理, 小野 美奈, 渡邉 浩文
    セッションID: O1-7-039
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/03
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    当院は150床の急性期を中心とした病院であり、整形外科患者には歩行獲得のため、受傷後直ちに松葉杖歩行の指導を行う場合が多い。先行研究より、松葉杖歩行の不安定性は60歳代から急激に上昇し、荷重量に関係なく不安定性が出現する傾向があることが言われている。今回、簡便で全身筋力の指標となるとされている握力と松葉杖歩行の安定性の関係について検討したのでここに報告する。
    【対象】
    平成22年4月より平成23年3月にかけて当院リハビリテーション科にて松葉杖歩行の指導を行った患者62症例(平均年齢40.0±22.3歳、男性41名、女性21名)とした。
    【方法】
    実施の流れとしては、まずセラピストが松葉杖歩行指導問診票に記入し、握力を左右各2回ずつ測定、最後に松葉杖歩行指導を行った。握力の各年齢における平均値と安定性のデータを使用し、安定性の違いの有無をX〈SUP〉2〈/SUP〉検定を用いて検討した。不安定と判断した基準として、見守りまたは介助が必要な症例とした。松葉杖歩行指導時の肘関節の角度は、軽度屈曲位または伸展位で行うこととした。
    また、ここで使用される情報についてはヘルシンキ宣言に基づいて行った。
    【結果】
    握力と安定性の関係においては有意差が認められなかった(p<0.05)。また、男女別や年代別の安定性においても有意差は認められなかった(p<0.05)。松葉杖歩行時の肘関節の角度に関しては、軽度屈曲位で指導した際に不安定とされた症例に対して肘伸展位で指導した場合、安定性が向上する傾向がみられた。
    【考察】
    全身筋力の指標となるとされている握力が年齢平均以上であれば松葉杖歩行の安定性が増すとの仮説を立てていた。しかし、今回の調査では握力に関係なく不安定性が出現していた。このことから、握力があっても松葉杖歩行が安定するとは限らないといえる。これは、松葉杖歩行の安定性を増すためには筋力以外の要素も関与しており、これらの要素も視野に入れる必要があるのではないかと考える。また、松葉杖歩行時に肘関節軽度屈曲位で不安定な症例が肘伸展位で安定する傾向がみられた点は、肘伸展位にすることで骨性の支持が得られたことが要因ではないかと考える。
    【まとめ】
    今回は初回松葉杖歩行指導における握力と安定性の調査を行った。今後、不安定性が出ている原因について、バランス能力に関与している筋力以外の要素についても調査し、更に研究していく事を今後の課題としたい。
  • ~事前調査・追跡調査での効果測定を通して~
    渡辺 政基
    セッションID: O1-7-040
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/03
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     回復期リハビリテーション病棟(以下、リハ病棟)におけるアンケート調査に関する過去の報告は少なくない。これらは通じて、アンケート調査がリハ病棟の問題点の抽出やその対応策をとる上で有用とされている。しかし、その取り組み後の効果測定までを行った報告は見当たらない。今回我々は、当院リハ病棟を見直すため、アンケート調査を施行し問題点の抽出とその対応策をとり、更に追跡調査を施行し取り組みの効果を調査した。以上から、リハ病棟のスタッフ満足度の改善を図ったので報告する。
    【方法】
    対象者は、リハ病棟に携わるスタッフの39名である。対象にアンケートを(1)~(3)の順に施行した。(1)では日頃感じている問題点を、5項目について自由記載で問うた。(2)では、(1)から抽出された問題点に対し、1(とても満足)~6(とても不満)のいずれかにチェックする10項目の質問紙作成し、意識調査を施行した(事前調査)。更に、(1)(2)を踏まえた後述の取り組みを行ない、(3)ではこれらの取り組みの一か月後、(2)と同様の調査を施行した(追跡調査)。(2)(3)の結果の差、即ち取り組みの効果をT検定を用いて算出し、差のみられた項目について分析した。
    【結果】
     (1)から共通の問題点として、♯1病棟リハ ♯2病棟レク ♯3情報共有が抽出された。♯1~3について、病棟スタッフ、リハスタッフ、ソーシャルワーカーの合同で勉強会を開催した。業務改善として、病棟リハ・病棟レクの充実を図った。(2)(事前調査)では、全体の平均が3.54、(3)(追跡調査)では3.18であり、アンケート(3)で有意なスタッフ満足度の改善を得られた。また項目別にみると、病棟リハ・病棟レクに関する4項目で改善したのに対し、情報共有に関する4項目は不変であった。
    【考察】
    (3)(追跡調査)での有意な改善を認め、(1)から抽出された問題点に対し、勉強会や、病棟リハ、病棟レクの実施などの業務改善を図ったことが良好な結果に結びついたと考えられた。リハ病棟においてスタッフの意識の改善を図る際、アンケート調査が有用であることが確認された。また、具体的な業務として取り入れた病棟リハ・病棟レクで改善したのに対して、勉強会開催のみであった情報共有で改善がみられなかったことから、勉強開催による単なる意識付けよりも、業務改善に対する具体的なツールとしてシステムを構築することが有用であると考えられた。
    【まとめ】
     アンケートを利用したリハ病棟の取り組みに関する他報は散見されるが、実際に解決策に結びつけ、更にその取り組みの効果測定を行うことが重要である。
  • 健常者での測定
    杉山 真理, 武川 真弓, 廣島 拓也, 清宮 清美, 鈴木 康子, 河合 俊宏
    セッションID: O1-7-041
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/03
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     近年、障害者において、合併症の予防やリハビリテーションの介入等により、余命が長くなったとされている。加齢に伴う生活習慣病の増加が報告されており、障害者においても体重・体脂肪率の測定、運動や食事の指導が必要である。
     しかし、体脂肪率を測定する場合、家庭用機器では裸足で立位をとる必要があり、下肢装具を使用している者や下肢の変形等により足底接地が困難である者、すなわち立位困難者は測定することができない。車いす使用者や上肢にも障害のある重度障害者に至っては、使用できる機器が存在しない。  本研究では、在宅における立位困難者の体組成測定を念頭に置き、車いすおよび装具の使用による影響を考察する。
    【方法】
     対象は健常男性15名。年齢は33.9±9.30才。 測定姿勢が立位であるTANITA社製体脂肪計(HBF-303)を用いて体脂肪率を測定した。裸足立位での測定をA1、前足部と踵部が覆われていないP-AFOを装着した状態での測定をA2とした。それぞれ連続3回測定し、平均値を算出し比較した。
     さらに上肢で把持して測定するOMRON社製体脂肪率計(BC-522)を用いて体脂肪率を測定した。立位・肩関節90度屈曲位での測定をB1、背臥位・肩関節90度屈曲位での測定をB2、車いす座位・肩関節90度屈曲位での測定をB3とした。それぞれ、連続3回測定し、平均値を算出し比較した。
    【説明と同意】
     対象者へ本研究の目的と方法を説明し、文書にて同意を得た。また、倫理委員会の承認を得た(承認番号H22-2)。
    【結果】
     A1とA2の差は最大で0.3%であった。被験者15名中12名においてA2が高値を示したが、その差は0.1~0.3%であった。また、B1とB2の差は最大で0.8%であり、B1とB3の差は最大で1.0%であった。被験者15名中8名においてB3が高値を示したが、その差は0.2%~1.0%であった。Aにおける測定範囲は0.0%~0.6%であり、Bにおける測定範囲は0.0%~1.0%であった。
    【考察】
     今回の測定ではP-AFOおよび車いすは体脂肪率測定に明らかな影響をもたらさなかった。前足部と踵部が覆われていない装具で立位可能な者は、装具装着下で体脂肪率を測定することが可能であった。また、立位が困難である車いす使用者の場合、車いす上で肩関節を90度屈曲することができる者は車いす上で測定し、座位バランス不良で肩屈曲が困難な者は背臥位で計測することが可能であり、特定の装具や車いすの影響が少ないことは示唆された。今後は二重エネルギーX線吸収法(DEXA)による結果と比較し、装具や車いすが与える影響を検討してゆきたい。
     また、裸足では立位が困難である片麻痺者や脊柱などに内固定をしている者、切断者の測定は依然として困難であり、家庭用機器を用いた工夫、機器開発の検討が必要である。
  • 車いすアセスメントシートの作成・試行
    廣島 拓也, 杉山 真理, 川口 桂蔵, 武川 真弓
    セッションID: O1-7-042
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/03
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     当センターでは車いすを使用する症例に対してシーティング評価を行っているが、セラピストのシーティング技術にはばらつきがあるため、検討会を頻繁に実施し意見交換を行っている。しかし、経過や評価者の思考過程を簡易にセラピスト間で共有・検索できる手段はなかった。そこで、シーティング技術の向上を目的に、アプローチの具体的な内容をデータベース化した車いすアセスメントシートを作成した。
    【アセスメントシート概要】
     アセスメントシートはデータベース作成ソフトFilemaker Pro7を使用した。内容は車いす使用時に必要となる情報や乗車姿勢に絞り、基本情報・身体機能・身体計測・マット評価・シーティングアプローチ・処方案とした。身体機能の項目は移乗動作・ADL動作の方法と自立度、Hoffer座位能力分類、筋緊張、褥瘡の有無と骨突出や栄養状態などのリスクアセスメント、除圧動作方法などを記載するものとした。身体計測とマット評価の項目では、従重力位である臥位姿勢と抗重力位である座位姿勢での身体寸法と脊柱及び骨盤帯などのアライメント・可動性の有無の評価を記載するものとした。また、視覚的にもわかりやすくするため写真を挿入できるようにした。シーティングアプローチの項目では、評価者の思考過程を記録するため、評価に基づいて行った車いすの設定・クッション・座位保持装置に対するアプローチ内容と車いす座位の写真・接触圧、再評価の結果を時系列に繰り返し入力できるようにした。なお、個人情報保護のため外部からの接続がないよう配慮にした。
    【考察】
    アセスメントシートを使用することで必要な検査を行うことができ、また、他のセラピストと自身のシーティングアプローチの過程を比較・参考にすることが可能となる。そのため、シーティング評価・アプローチの新たな視点に気づく機会を得られ、症例に対して最適なシーティングアプローチを提供することができる。さらに、アプローチ期間の短縮や新人教育に活用できる。入力項目が多く、写真の挿入など作業が煩雑となるが、シーティングの思考過程を共有する上では必要な情報であると考える。
    【まとめ】
     今回、シーティングアプローチの経過や思考過程をデータベースとして蓄積し、セラピスト間で共有できることを特徴としたアセスメントシートの作成を行った。今後試行し、有効性や問題点を検証する。さらに、改良を加えセラピストのシーティング技術向上の一助としたい。
口述発表8 「生活環境支援3」
  • 通所系サービスへの移行を理由に終了した利用者に注目して
    齋藤 崇志, 大森 祐三子, 大森 豊
    セッションID: O1-8-043
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/03
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     理学療法士(PT)による訪問リハビリテーション(訪問リハ)の継続については一定期間で終了することが推奨されることが多い。終了する理由は医学的な目的や目標を達成し、双方が円満に契約関係を解除することが望ましいが、時として円満ではなく終了することも少なくない。より良いサービスを提供するという観点に立った場合、このような利用者のニーズと訪問リハのミスマッチによる円満ではない訪問終了は避けたいものである。  そのような原因を分析するため、今回、当訪問看護ステーション(訪看ST)で訪問リハを終了した利用者の終了理由とその人数を調査した。その中から通所系サービス(DS)への移行を理由に終了した利用者(DS移行利用者)に注目し、利用者の背景と終了との関連を考察した。
    【方法】
     平成22年9月から平成23年2月の間に当訪看STからの訪問リハを終了した28名(男性10名、女性18名、平均年齢80.9歳)を対象とした。カルテ記録と担当PTからの聴取をもとに訪問リハ終了理由を後方視的に調査し、5種類(1,DSへの移行2,目標達成による終了3,死亡・入院・入所4,利用限度額の制限5,その他)に分類した。DS移行利用者の背景は、障害老人の日常生活自立度(寝たきり度)を用いて調査した。
    【結果】
     終了理由ごとの人数(%)は、1が8名(28.6%)、2が2名(7.1%)、3が13名(46.4%)、4が1名(3.6%)、5が4名(14.2%)であった。DS移行利用者8名の寝たきり度ランクは、Jが3名、Aが1名、Bが4名であった。Jの利用者は社会的交流の頻度を増やすこと、Bの利用者は日中の活動性を向上させることを目的にDSが開始されることが多かった。
    【考察・まとめ】
     DS移行利用者の多くは、自宅内での生活は自立し社会的交流の頻度を増やすこと、寝たきりに近い状況で日中の活動性を高めることのいずれかがニーズであった利用者と考えられた。PTによる訪問リハは、利用者の生活の場で身体機能や生活機能への介入が可能であることが長所である反面、単独スタッフが短時間行うサービスであり、社会的交流や活動性の向上には寄与しにくい。そのため、利用者のニーズとミスマッチが生じ、訪問リハ終了となったと考えられた。
     しかし、ランクJやBの利用者の中にも、訪問リハの継続的な利用を希望する者もいる。これは、訪問リハが提供するサービスに何らかの「商品」としての価値を認め、利用者のニーズとマッチする結果であろう。寝たきり度がランクJまたはBにある利用者への訪問リハは、利用者のニーズの把握に特に留意する必要があると考えられた。
  • 加藤 拓, 三村 健, 清水 美穂, 高野 友美, 荻荘 則幸
    セッションID: O1-8-044
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/03
    会議録・要旨集 フリー
    <症例紹介>
    男子、11歳。平成19年、9歳で左股関節ペルテス病を発症した。その後、股関節外転装具装着によりペルテス病は治癒したが、左下肢へ荷重することの精神的不安のために、歩行動作において左足部は踵接地が出来ずに常に底屈位をとっていた。その結果、左足関節が関節拘縮を起こし左足部尖足位での歩容となり、屋外での長距離歩行が困難となる。自宅内での移動は自立歩行であったが小学校への通学は車での送迎、学校内の移動は車椅子を使用した。体育授業は見学であった。平成21年4月、左足関節を捻挫し当院を外来受診する。院長の診断により左足関節の関節拘縮改善、歩容改善し徒歩での通学を目的に訪問リハ開始となる。

    <経過>
    訪問当初は自宅内にて歩容改善を目的に左足関節の背屈可動域の拡大、左下肢へ荷重を促すプログラムを行い、その後屋外歩行へと移り、徒歩での通学練習を行った。また、訪問時、小学校校庭にて体育授業参加を目的に走る練習なども実施する。徒歩での通学、体育授業の参加が可能となり、また学校生活において車椅子から脱却することが出来た。現在、訪問リハは終了し中学校に進学して野球部で活躍している。

    <まとめ>
    実際に通学の練習を行うなど訪問リハの特性をいかした関わりができた。また両親とすぐに話しが出来る環境にあることで生活動作の注意点、自主トレーニングの提案、学校生活に対する両親の悩みに対して助言することで担当療法士と意思疎通が良好であった。また体育授業に関しては学校へ直接訪問し担任に対して同級生と同じ運動が出来ることを伝え授業の参加を勧めた。小学生という成長過程の男子に対して訪問リハという関わりを通して、車椅子からの脱却という大きな進歩を成し遂げることが出来た症例であった。
  • 野崎  惇貴, 鈴木 修, 金丸 大地, 古田島 崇, 新井  幸起
    セッションID: O1-8-045
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/03
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     訪問リハビリテーション(以下、訪問リハ)における転帰および終了基準についての報告は極めて少なく、担当セラピストの独自の判断や本人・家族の希望等で決定されることが多い。
     そこで、訪問リハの転帰に影響を及ぼす要因について調査し、考察を踏まえ報告する。
    【対象と方法】
      2009年4月から12月に、当センターで初回訪問を行い下記調査項目が可能であった235名(平均年齢77.5±11.5歳、男84名、女151名)を対象に、訪問リハ介入1年後の時点で訪問リハを継続していた、継続群79名(72.9±14.1歳)と1年未満に終了し転帰が軽快終了、通所系への移行を軽快群127名(79.7±9.1歳)、転帰が入院、施設入所、死亡、訪問看護への移行を状態悪化群29名(80.2±8.58歳)の3群に分け、1)年齢、2)性別、3)疾患(脳血管障害、大腿骨頸部骨折、大腿骨頸部骨折以外の骨・関節疾患、神経・筋疾患、内部疾患、廃用症候群、その他)、4)介入時状況(退院直後、在宅療養)、5)介入目的(機能改善、機能維持、環境整備)、6)介入時のFIM運動項目(以下m-FIM)、7)終了時又は一年後m-FIM、についてカルテを後方視的に調査した。
     統計処理は、多重比較法(Steel-Dwass法)、χ2 乗検定を使用し、有意水準を5%未満とした。
    【結果】
     年齢は継続群が有意に低く、介入時m-FIM、終了時又は一年後m-FIMで軽快群が有意に高かった。
     また、継続群は介入時状況が在宅療養で、機能維持目的に介入した脳血管障害や神経・筋疾患で男性に多く、軽快群は退院直後から機能改善を目的に介入した大腿骨頚部骨折で女性が多かった。
     一方、状態悪化群は男女差がなく、内部疾患や廃用症候群で在宅療養から機能維持目的という要因が多くみられた。また、継続群や状態悪化群では維持期の対象者が多く、軽快群では回復期の対象者が多かった。
    【考察】
    軽快終了となる対象は、年齢が低く発症後の期間が短い傾向があると報告がある。しかし、本調査では高齢でも介入時m-FIMが高値であれば軽快終了し、年齢が低くても介入時m-FIMが低値であれば長期化していた。これは軽快終了には年齢よりも介入時m-FIMの影響が強く、身体機能が高いと目標設定が明確にでき終了に繋がったと考えた。
     また、介入が継続する要因として、維持期は回復の進行が緩徐であり疾患の特性上麻痺の改善や進行性疾患の維持には時間を要するためと推察した。  よって、介入時の状況、m-FIM、疾患特性等からも転帰予測が可能であり、目標設定を決める一因になると考えた。
  • -6か月間の推移調査-
    渡邊 勧
    セッションID: O1-8-046
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/03
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    介護保険サービスにおける通所リハビリテーションは、コミュニティの場としての集団性を活用した参加、活動の向上や、リハ専門職が個別に介入し、ADL維持・向上を目指す場として知られているが、リハ専門職が通所リハビリテーションに従事する通所リハ利用者と実施していない通所介護サービスの利用者とADL推移を比較することで、リハ専門職が従事する意義を検討することとした。
    【方法】
    調査は通所リハ3施設、通所介護3施設の協力のもと半年間(2010年4月および10月)で行われ、利用者には担当ケアマネージャーを通して研究の趣旨を説明し、同意を得た後、2回の調査を実施した。対象は、調査期間中、健康状態の悪化等により、大幅なADLの低下や入院時の医療リハを受けていない要介護1~5の通所リハ利用者52名(男性23名、女性29名、平均年齢82.6±8.3歳、平均介護度2.3±0.9)及び通所介護利用者30名(男性8名 女性22名 平均年齢88.2±6.1歳、平均介護度2.6±1.1)の計82例を対象とし、2群間におけるFIM得点の推移比較を行った。統計処理は、統計処理ソフトIBM SPSS Statisticsを用い、群間及び6ヶ月後のADL推移をベースライン時と比較した。なお、危険率は5%未満とした。
    【結果】
    群間おける比較では、年齢(p=0.002)、FIM総合点は通所リハ群97.8±20.5、通所介護群82.4±24.1(p<0.05)、FIMの各項目においては、すべての項目で群間の差が認められた。半年間の変化量については、移乗項目が通所リハ群-0.1±0.9、通所介護群-1.5±2.5(p<0.05)であり、その他の項目には有意差が認められなかった。
    【考察】
    群間の差は、対象者のニーズからのサービスの振り分けによる差も考えられ、より若く、ADLの高い対象者がリハビリテーションを希望することが一つの要因と推測される。 ADLの低下は両群に認められ、より通所リハ群が少ないことから、専門職としての介入効果は関係していると考えられるが、移乗項目以外の項目には有意差が認められなかった。これはセルフケアをはじめとする項目は介護士による介入が多く、実際に在宅のADL向上に結びついていないことで生活の延長である通所介護と差異がなく、リハの特性が生かせていないのではないかと推測する。
    【まとめ】
    施設リハにおいては、個別リハを対象とした関わりを持てる範囲も限られることから、今後より長期的な調査を実施しながら、ADL全般を他職種と連携したリハビリテーションにつなげる介入の検討に繋げていくリハ専門職の意義が問われると考える。
  • 柳沢 槙一, 星 朋朗, 渡邊 宏樹, 林 克郎
    セッションID: O1-8-047
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/03
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    当院の介護予防通所リハビリテーション請求事業所(以下,通所リハ)は、急性期総合病院に併設されており,神経難病や比較的リスクの高い利用者も受け入れていることが特徴である.今回,通所リハ利用者の介護予防効果について検討したので報告する.
    【目的】
    通所リハ利用者の介護度の変化を調査し,その結果から通所リハの介護予防効果を考察する.
    【対象】
    2010年1月から同12月の期間在籍していた利用者110名(男性50名,女性60名) 平均年齢75.6歳(54歳~91歳)である.利用者の主病名は中枢疾患58名,整形外科疾患36名,内科疾患6名,神経難病疾患10名である.2010年1月の介護度別内訳は要支援1:42名,要支援2:27名,要介護度1:16名,要介護度2:19名,要介護度3:4名,要介護度4:2名である.なお,利用者には書面にて発表の同意を得た.
    【方法】
    利用者の2010年1月の介護度を基準とし,2010年12月の介護度の変化を比較した.
    【結果】
    利用者を維持改善されたグループと悪化したグループの2群で比較すると,介護度が維持または改善した割合は全体の86.4%であった.疾患別の悪化した人数は中枢疾患5名,整形疾患2名,内部疾患1名,進行疾患7名であった.
    【考察】
    利用者のうち維持改善された割合は,唐沢らが報告している81.5%,前屋ら82.5%と比較して高い数値である.通所リハでは利用者個々のプログラム立案から実施までをセラピストが行っている為、利用者の身体機能の変化に素早く対応し,指導しながらプログラムを実施することで身体機能改善・活動量の増加といった効果が得られたと考えられる.介護度が改善されていた利用者の平均年齢は73.6歳と全体の平均より若年である他,家庭での役割を有する,または外出の機会を設け,活動量が保たれているなどの傾向が見られた.悪化した利用者平均年齢は78.2歳と全体の平均年齢より高齢であった.またこのグループの4割を占めていたのが神経難病の利用者であった.神経難病の利用者は年齢・発病年齢・発症からの期間などに決まった傾向はみられていない為,どの時期における利用者にも介護度が悪化するリスクがあることを理解し,担当者会議などで情報を共有し,安全な日常生活を送れるよう住宅環境やサービス内容などの助言を行うことが必要である事が分かった.また,悪化した利用者の多くは転倒により日常生活動作能力が低下した者が多いことが分かった.転倒の恐怖心による転倒後症候群となり介護度が悪化したことが考えられる.転倒後症候群による悪循環を断ち切り、利用者の活動量向上を図れるよう,ご家族と協力し,家庭での役割や外出の機会を設ける必要があり,それらの動作に必要な能力を獲得するため個々にプログラムを立案し実施していくことで,介護度の悪化を防ぎ,生活の質の向上に繋げていくことができると考える.
  • 丸山 陽介, 武田 聖子, 渡部 愛, 中野 めぐみ
    セッションID: O1-8-048
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/03
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    平成21年介護保険改定により1時間以上2時間未満の短時間通所リハビリテーション費が新設され、医療機関等はみなし指定事業所として通所リハビリが実施可能となった。しかし、制度の違いや採算性、運営方法等の問題により実施医療機関は少ない。当院では1年前より1時間以上2時間未満の短時間通所リハビリのみを運営している。今回、開始から半年間までの利用状況を調査し医療機関が実施する際の留意点について検討した。

    【方法】
    説明し同意を得た40名の利用者を対象に、1.性別、2.年齢、3.契約月、4.医療保険によるリハビリからの移行者、5.事前見学の有無、6.紹介元の居宅介護支援事業所、7.送迎の有無、8.送迎の片道所要時間、9.疾患名、10.介護度、11.短期集中リハビリテーション加算対象者、12.利用回数、13.他に使用している介護保険サービスの13項目を調査した。当院は特別区に位置し同法人に通所介護施設、居宅介護支援事業所等を有している。通所リハビリは医療保険のリハビリ室と共用に午前10名、午後10名の定員で運営しており、利用者は専任医師が必要と判断した希望者と契約し、送迎は希望者に対し実施している。

    【結果】
    1.性別:男性18名、女性22名、2.平均年齢:78.7±8.1歳、3.月別契約者数:開始月7名、2ヶ月目10名、3ヶ月目6名、4ヶ月目3名、5ヶ月目4名、6ヶ月目10名、4.医療保険のリハビリからの移行者:6名、5.事前見学:有り21名、無19名、6.紹介元:同法人内23名、他事業所17名、7.送迎の有無:送迎40名(車39名、徒歩1名)、8.送迎の平均片道所要時間:9.1±4.8分、9.疾患名:運動器疾患28名、脳血管疾患11名、その他1名、10.介護度:要支援…3名、要介護1…10名、要介護2…12名、要介護3…5名、要介護4…7名、要介護5…3名、11.短期集中リハビリテーション加算対象者10名、12.利用回数(週):1回11名、2回28名、3回1名、13.他に使用している介護保険サービス:訪問介護23名、通所介護21名、福祉用具貸与21名、訪問看護8名、その他5名であった。

    【考察】
    結果は、先行調査とほぼ同様であったが男性の割合が多い結果であった。男性はレクリエーションや食事等へのニーズは少なく、短時間サービスで個別リハビリのみのサービスを好む傾向があると考えられる。月別契約者数に関して、広報活動として他介護保険関連施設へ案内状を開始月と5ヶ月目に送付した直後に契約者数は増加した。医療機関では経験する機会が少ない広報活動が通所リハビリ運営では重要であることが示唆される。また、送迎は全員が希望し利用していた。当初、同法人通所介護事業所の送迎を利用し運営を開始したが、一般的に送迎システムを持たない医療機関にとってはハード面、ソフト面で問題となる。今後、更に医療機関が運営する短時間通所リハビリの担う役割を明確にしていく必要がある。
口述発表9 「内部障害1」
  • 伴 佳生, 佐野 裕子, 板垣 美智子, 嶋村 卓也, 鈴木 元太, 真栄城 健, 阪口 真之, 中谷 理恵, 結城 秀樹, 中村 守男
    セッションID: O1-9-049
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/03
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     間質性肺炎,特に特発性肺線維症(以下IPF)は,進行性・難治性で予後不良の疾患である.従来,間質性肺炎に対する呼吸リハビリテーション(以下PR)の効果は明らかでないとされていた.しかし近年,間質性肺炎に対するPRは,呼吸困難感,運動耐容能,QOLなどの改善に有効との報告がなされている.今回,IPFの複数症例に対し,PRを実施する経験を得たので,報告する.
    【対象】
     IPFと診断され,平成22年10月1日~平成23年3月31日の間に当院呼吸器内科より呼吸リハビリテーションが処方された4症例(男性3名,女性1名)を対象とした.平均年齢72.7±4.1歳であった.いずれも入院前の日常生活は自立していた.%VCは61.6±15.8%であり,間質性肺炎の重症度は全て3レベル,MRC息切れスケールはグレード2が1名,3が1名,4が2名であった.
    【呼吸リハビリテーションのプログラム内容】
     呼吸リハビリテーションマニュアルによれば,高強度負荷運動は同一運動刺激に対して運動能力の改善効果,生理学的効果が高いとされる.一方でリスクが高まるなどデメリットもあり,適応の判断が重要である.今回の4症例は高強度負荷運動の適応と考えられたため,可能な限り高強度負荷での筋力,持久力トレーニングを実施した.
     筋力トレーニングは,ダンベル,重錘を用いて2~5kgの重量で15回×3セットの四肢レジスタンストレーニングを週2回の頻度で実施した.持久力トレーニングは自転車エルゴメータを実施した.駆動中,推定した最大心拍数の60~80%の心拍数となるように負荷量を調整し,25~30分間の駆動を毎セッション実施した.低酸素血症により運動中のSpO2が低下し目標心拍数への到達が困難な場合は,酸素療法を併用し,通常の労作時流量に加え最大3L/分まで増量し,SpO2を90%以上に維持しながら運動を実施した.その他,必要に応じ呼吸法指導,コンディショニング,患者教育,ADL指導などを実施した.上記のプログラムを17±1.4セッション実施し,開始時及び終了時に運動耐容能評価として6分間歩行テスト,ADL評価として長崎大学ADL評価表(以下NRADL),QOL評価としてCATを測定し指標とした.
    【結果】
     6分間歩行テストの歩行距離は294.1±90.1mから356.7±59.2m,CATスコアは14.7±4.5から11.5±0.9へ,NRADLスコアは53.2±6.1から64.5±1.1へといずれも改善した.また,全ての症例が外出可能レベルの生活へ復帰した.
    【まとめ】
     今回,IPF症例に対し,高強度負荷での筋力・持久力トレーニングを中心としたPRを実施した.今回の4症例においては運動耐容能,ADL,QOLに改善が得られた.今後,さらに症例数を重ね,重症度の異なる患者へのPRの具体的内容,運動負荷量などを検討していきたい.
  • 橋本 健太郎, 田中 勇, 岩瀬 充
    セッションID: O1-9-050
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/03
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     CKDは、蛋白尿増悪や腎機能低下の懸念から運動が制限される場合がある。今回、ARDS発症後、ネフローゼ症候群を罹患し、廃用をきたした症例に対し、運動負荷量に注意して訓練を実施した。結果として歩行獲得に至った経験をしたため、以下に報告する。
    【症例紹介】
     39歳男性、2010年3月25日ARDSを発症し、人工呼吸器管理、鎮静が開始となる。また、入院時に未治療のDMが見つかり、併せて治療が開始された。4月9日より理学療法を開始。初期評価時のBP150/90mmHg、HR90拍/分、RR24回/分、BS330mg/dl、TP4.4g/dl、Alb2.1g/dl、Cr1.56mg/dl、尿蛋白8737mg/dayであった。呼吸状態は、10Lの酸素が投与され、両側後肺底区の捻髪音、胸郭運動の低下、頻呼吸を呈した。また、両下肢を中心とした全身性の浮腫、ROM制限、筋力低下(MMT上肢1、下肢1、体幹1)が見られた。
    【経過】
     入院から退院までを経過1~3の3つの時期に分類した。経過1「全身状態が不安定な時期」では、リスク管理と廃用の予防を目標に実施した。訓練は低血糖を考慮して、食事1時間後に設定し、段階的に離床を進めた。離床時、起立性低血圧(20~30mmHgの下降)やHR110拍/分・RR30回/分の上昇、Borg scale13と訓練初期の離床に対する運動負荷設定に難渋したが、継続的に実施することで車イス乗車時間が拡大し、耐久性改善につながった。経過2「低栄養が持続する中での、運動負荷量に注意して起居動作獲得を図った時期」では、THR125~135拍/分、Borg scale12~13を目安に実施した。負荷量の拡大に伴い、栄養状態や腎機能が維持されていることを血液生化学検査にて確認した。1回の訓練時間は、血糖の低下が得られやすい30分を目安に、休息を挟みながら実施した。運動強度は疲労度を常に観察し、軽度~中等度の負荷量となるよう意識した。結果、低栄養、蛋白尿陽性は持続する中、起居動作が自立した。経過3「蛋白制限が解除され、ADL自立・自宅退院に向けて積極的に訓練を施行した時期」では、運動負荷量に注意し、積極的に実施した。経過2同様のTHR、Borg scaleを目安に負荷量を設定し、運動項目、抵抗量、セット数を疲労度に合わせて拡大した。1回の訓練時間は、1時間に拡大し、午前・午後の1日2回実施した。結果、腎機能・栄養状態(TP4.5g/dl、Alb2.4g/dl、Cr0.80mg/dl、尿蛋白3255mg/day)を維持し、目標である歩行自立を獲得した。
    【考察】
     CKDの運動療法は、全身状態、自覚的運動強度を確認することが重要である。適切な運動負荷量は、病態の進行を予防し、運動耐容能を改善することが出来ると考えられる。
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