【目的】
これまで脳卒中患者の歩行自立に関わる因子が報告されてきたが,その多くが歩行自立度をセラピストの主観で判断しており基準が曖昧である.また,高次脳機能の影響を加味せずに身体機能に着目したものが多い.当院では病棟生活に即した7項目から構成される独自の歩行自立判定テストを用いている.そこで今回は,自立歩行獲得者と監視が必要な者の差を身体機能および高次脳機能の両面から検討した.
【方法】
対象は2009年10月から2010年8月までに当院回復期リハ病棟に入院した脳卒中患者のうち,入院時に歩行が自立しておらず退院時に監視または自立レベルだった30例.平均年齢は66.0±17.2歳,性別は男性17例,女性13例,診断名は脳梗塞14例,脳出血14例,くも膜下出血2例,損傷側は右半球17例,左半球12例,両側1例であった.このうち入院中に病棟内歩行が自立した者を自立群(n=20),監視が必要な者を監視群(n=10)に分類した.監視歩行を獲得し歩行自立判定テストを実施した時点で,身体機能評価として下肢BRS,TUG,麻痺側・非麻痺側片脚立位時間,Functional Balance Scale(以下FBS)を測定し,高次脳機能としてMMSE得点,半側空間無視(以下USN)および注意障害の有無を評価した.データ分析はこれらの評価項目に加えて年齢,性別,診断名,損傷側を2群間で比較し,統計学的有意水準は危険率5%未満とした.なお対象者には本研究の主旨を十分に説明し同意を得た.また,匿名性の保持と個人情報流出防止に留意した.
【結果】
年齢(監視群78.6±12.9,自立群59.7±15.7歳)が自立群で有意に若かったが,性別,診断名,損傷側は差がなかった.身体機能面では,TUG(監視群62.9秒,自立群30.1秒),非麻痺側片脚立位時間(監視群0.85,自立群5.9秒) ,FBS総得点(監視群32.0,自立群43.5点),FBS下位項目の移乗動作,閉眼立位,閉脚立位,上肢前方到達,靴を拾う,左右の振り向き,回転動作で自立群が有意に優れていた.高次脳機能ではMMSE得点が自立群で有意に高く,監視群で注意障害,USNが有意に多かった.
【考察】
身体機能面で有意差が認められた項目のほとんどが立位バランスを規定するものであり,その能力が高い者は麻痺の重症度に関わらず歩行能力が高いと考えられた.特に非麻痺側片脚立位時間が自立群で優れていたことから,非麻痺側機能も重要であると考えられる.一方監視群では高次脳機能障害をもつ例が有意に多かった.ADL場面では周辺環境への注意が必要であり,これに関わる認知機能や注意機能の低下が歩行自立を阻害した可能性がある.
【まとめ】
脳卒中患者では運動麻痺の程度よりも立位バランスや非麻痺側機能が高いことに加え,認知機能,注意障害,USNが歩行自立度に影響していることが示された.
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