本稿の目的は,日本の年金改革を事例に用い,政権構造と政策帰結との関係を政党の戦略に着目して分析することにある。政権構造としては,単独政権か連立政権か,そして連立政権のなかでもどのような政党の組合せによる連立か,という点に注目する。
日本では1990年代以降,2つの年金改革が成立した。1つは自民党単独政権下で二度導入が試みられたものの,強い反対により見送られた支給開始年齢の引上げであり,もう1つは保険料負担に上限を設定したうえで将来にわたる負担増と給付減である。2つの年金縮減はいずれも左派政党,中道左派政党を含む連立政権で成立した。本来,左脈政党は福祉重視を標榜し,給付の拡大を主張する立場にある。そうした政策志向をもつ左派政党が,なぜ年金縮減に対して強力な抵抗者とならず,単独政権下でさえ逹成できなかった負担増の政策課題を成立させることができたのであろうか。
本稿の主張は次のとおりである。福祉拡充を志向する2つの左派政党は,いずれも保守政党と連立を組んでおり,年金縮減を主導するのは保守政党であるとみなされた。左派政党はむしろ与党として主体的に関与することで,縮減の規模をできるだけ穏やかなものとする役割を果たすことができた。政権政党に責任が集中する単独政権と異なり,連立政権においては政権を構成する政党の政策位置によって異なる力学が働くのではないかという問題意識に基づき,政策過程を分析する。
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