公共政策研究
Online ISSN : 2434-5180
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6 巻
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巻頭言
特集 政策の総合調整
  • 大石 眞
    2006 年6 巻 p. 7-16
    発行日: 2006/12/10
    公開日: 2019/03/18
    ジャーナル フリー

    内閣の補助機関である内閣法制局は,「国制知」の有力な担い手であり,明治憲法時代から第2次世界大戦後の憲法・憲法附属法などの制定過程を経て今日にいたるまで,人事を含むさまざまな形で国政秩序の形成,運用に寄与する機能を果たしている。法制局の所掌事務は,主として法令案の審査を行う審査事務と法律問題に関する意見事務とに分かれるが,法律問題に関する国会答弁・政府統一見解の作成も,その重要な職務の1つに数えられる。

    法制局の審査事務は,内閣提出法案・政令案を合せると,年間平均して650件に及んでいるが,とくに各省庁が立案する内閣提出法案については,国民の権利義務との関係を含む憲法適合性や法体系全体との整合性などの観点から厳しい審査が行われる。憲法訴訟において法律が違憲とされる事例が少ないのは,その当然の結果である。

    他方,かつて意見事務の主要な部分を占めていたのは,法令の解釈問題に関する各省庁からの照会に対して文書で回答する法制意見であり,政府・行政部内では最高裁判所の判例に準ずる機能をもち,その意味で国政秩序の形成・運用に大きな貢献をしてきた。しかし,戦後法制の定着・国会審議の活性化・憲法裁判例の増加といった状況を背景として,法制意見は減少し,代わって口頭意見回答が増加している。

    法制局が所掌事務を行うに当たって,学界等の権威者から助言と協力を受けるため,1960年以来,参与会の制度が設けられているが,その実質的影響力などは未だよくわからない。

  • 牧原 出
    2006 年6 巻 p. 17-31
    発行日: 2006/12/10
    公開日: 2019/03/18
    ジャーナル フリー

    本稿は,戦後日本の最高裁判所の制度的定着過程を分析するため,田中耕太郎長官時代の政治裁判と司法行政の動向を検討する。とくに昭和32年に生じた3つの事件,すなわち裁判所法改正の国会審議,戦後初の裁判官再任と全国大の人事異動,最高裁判所10周年記念式典を取り上げることで,岸信介内閣の下で司法権の独立を守るため,最高裁判所がとった政策を戦後史の中に位置づけた。戦後の日本国憲法によって,司法省から裁判のみならず司法行政面での独立を遂げた最高裁判所は,発足当初,国会・内閣と比べて制度的に脆弱であった。しかし,田中耕太郎長官と彼を支える事務総局の戦略によって,国会での裁判所法改正案の議員立法を斥け,再任の際に全国の裁判官を異動させる人事システムを構築し,10周年記念式典に昭和天皇を迎えて法曹三者の結集を図ることで,国会・政党・社会勢力から裁判所機構の独立を守ろうとした。確かにそれは,一見岸信介内閣の保守的な政治姿勢に最高裁判所が迎合したかのように見える。確かに,田中耕太郎長官のメディアでの発言と彼の少数意見が表面上政府見解と軌を一にしている面はあるとしても,事務総局の構築しつつある司法行政はこれとは距離をおいており,また判決における多数意見はむしろ田中の読み方を遮断する方向で変化していく。最高裁判所は,長官の言説を通じて政権と接近しつつも,裁判と司法行政面での独立を保つことで,その基礎を構築したのである。

  • 飯尾 潤
    2006 年6 巻 p. 32-42
    発行日: 2006/12/10
    公開日: 2019/03/18
    ジャーナル フリー

    小選挙区制の定着による首相権限の実質化や,橋本行革をはじめとする行政改革を背景として,小泉内閣において内閣制は大きな変容を遂げた。この小泉内閣における変容にもっとも大きな意味を持ったのが,経済財政諮間会議の活用である。民間議員ペーパーをもとに各省庁積上げ式以外の方払で内閣レベルのアジェンダを設定し,また閣僚間の実質的な討論を受け,首相自らが裁断を下す場面を増やして閣議を実質的に活性化したのである。さらに内閣の動向に対応し,自民党内でも骨太方針に対応した議論を行う慣例ができるなど,政府—与党関係も変化した。その結果として日本の内閣制は,議院内閣制の特徴である一元性の回復により,首相を中心とする権力核の形成が促進され,総合性を発揮しやすい方向への変化しつつある。

  • 伊藤 正次
    2006 年6 巻 p. 43-55
    発行日: 2006/12/10
    公開日: 2019/03/18
    ジャーナル フリー

    本稿は,総合科学技術会議の運用状況を分析することを通じて,橋本行革を検証するための視座を拡大することを目的とする。橋本行革によって内閣府重要政策会議として創設された総合科学技術会議は,科学技術政策という特定分野に関し,予算・計画・評価といった手段を用いながら「総合調整」機能を発揮することが期待されている。このような「特定総合調整機構」とも呼ぶべき総合科学技術会議の運用状況について,本稿では,科学技術予算の優先順位付けを通じた「予算による調整」,第3期科学技術基本計画策定を通じた「計画による調整」という2つの側面から分析を試みた。その結果,総合科学技術会議は,行政資源の「選択と集中」の実効性という面で,調整機能に各種の限界を抱えているものの,「特定総合調整機構」としての制度化が進んでいること,しかし他方で,予算編成・計画策定と評価活動との連結という点では課題も残されていることが確認された。

  • 藤井 直樹
    2006 年6 巻 p. 56-63
    発行日: 2006/12/10
    公開日: 2019/03/18
    ジャーナル フリー

    橋本内閣における最重要課題のひとつであった中央省庁等改革は,基本的な政策の企画・立案や重要政策についての総合調整力の向上を目指し,ます官邸・内閣機能の強化を中心的な課題に据えた。そして,縦割りの硬直性と省庁をまたがる政策課題への対応力の欠如を是正し,大括り再編により巨大化した各省間で相互の政策連携の困難度が増すことを防止するために,内閣官房及び内閣府(担当大臣)による総合調整に加え,新たな省庁間調整システムの創設を提言した。

    これを踏まえて,再編後の各省には,他の行政機関に対し必要な資料の提出・説明を求め,その政策に関し意見を述べることができる権限が与えられるとともに,内閣官房は,必要に応じ,調整の中核となる府省を指定して政策調整を行わせること等により,総合調整を行うこととされた.この新たな省庁間調整システムは,調整機能に係る内閣の負担をなるべく軽減し,真に必要な調整に専念させようという考え方に基づいている。

    新たな調整システムを踏まえた各省庁の動きは次第に活発になっている。「観光立国」をテーマに国士交通省が行った政策調整の例をみると,同省は観光立国担当としてビザ発給といった自らの所掌外の事項についても積極的に政府部内の調整を行っている。その一方で複数の政策目的の優先度についての最終的な調整は,やはり内閣の場に持ち込まれている。

    今後各省庁による政府部内の調整の実効性をあげるためには,①内閣総理大臣から各省大臣への特命事項の指示の徹底,②特命を受けた省庁の調整力を高めるための内閣の支援の充実,③調整に係る透明性の向上が必要となると考えられる。

  • 金井 利之
    2006 年6 巻 p. 64-80
    発行日: 2006/12/10
    公開日: 2019/03/18
    ジャーナル フリー

    戦後日木の公務員制度は,職階制の導人を「官職の基準」として位置づけ,国家公務員法・職階法などを制定しながら,しかし,職階制は実施されないまま,今日にまで至っているとされている。現実には,職階制の未実施に代わるものとして,給与法が制定され,それに基づいて,職務分類がなされている。さらに,職階制は未実施とはいいながら,実は潜在的機能が存在する。そして,公務員制度は職階制の潜在的機能を前提に組み立てられているため,公務員制度の「抜本的改革」のためには,職階制をどのように処理するのかが問われざるをえない。

    戦後日本の職階制には,少なくとも,①制度構築の「基準」機能,②人事権の配分機能,③課題設定・自己反省機能,の3つの機能が観察できる。「抜本的改革」における職階制の廃止は,これらの機能の喪失を意味する。職階制を廃止する場合には,あるいは,職階制を能力等級制に置換する場合には,職階制とともに喪失される機能が,どのように処理されるかが重要な論点である。そして,2001年以降に試みられた公務員制度の「抜本的改革」の運動が「挫折」した内在的要因は,この職階制の機能の処理に関する調整がつかなかったことにある。そのため,論理的に説得力のある新制度を構築することができなかったからである。

  • 大橋 洋一
    2006 年6 巻 p. 81-89
    発行日: 2006/12/10
    公開日: 2019/03/18
    ジャーナル フリー

    本稿は,コンパクトシティー構想を素材に,こうした政策課題を実現するために必要な法的手法を探求するものである。考察にあたっては,地方公共団体の実験的施策も視野に入れながら,近年のまちづくり3法改正間題を対象に,政策課題の発見,従来の取組みの分析,法律学の観点からする制度改善提案を休系的に把握することとしたい。具休的課題をテーマとするが,基本的な趣旨は,こうした検討を通じて,政策と法との関係,政策形成に有用な法律学のあり方,とりわけ行政法学の発展可能性を考え,政策法学の課題と展望を目指すことにある。

  • 打越 綾子
    2006 年6 巻 p. 90-101
    発行日: 2006/12/10
    公開日: 2019/03/18
    ジャーナル フリー

    本稿は,地方分権時代の自治体における政策調整に関して,その構造的な課題を分析しようとするものである。

    地方分権改革により,中央省庁の通逹や補助金による縦割りの縛りが弱まるとされ,自治体内で自律的な政策調整がなされることへの期待が高まっている。しかし,制度的な仕切りが長く続いてきた結果,「この問題は,あの分野の課題,だから,あの部局の担当」という思考回路は,自治体職員の中で内在化しているのてはないだろうか。

    そこで,行政活動を構成する要素を整理し,新たな課題に積極的に対応するための条件や,逆に活動の重複や空隙が生じて調賂が座礁に乗り上げる原因を検討することとしたい。まず,行政活動について,組織・人事・政策の観点から分析枠組を提示する.次に,分析枠組に照らして,政策調整の基盤が賂わない事例として自治体における動物愛護管理行政を選び,組織の分断性,人事の不適合性,政策の流動件を確認し,政策調整に向けた構造的な課題を検討する。最後に,こうした構造的な課題を克服するための契機として,「政策分野別基本計画」の策定の意義を確認したい。

  • 手塚 洋輔
    2006 年6 巻 p. 102-112
    発行日: 2006/12/10
    公開日: 2019/03/18
    ジャーナル フリー

    本稿は,BSE問題にかかる事前対応,とりわけ「重大な失政」と指弾された肉骨粉規制を素材として,行政機関におけるリスク認識と行政対応のメカニズムを析出し,政策調整が作動しなかった要因について考察したものである。準備作業としてまず,制度組織型リスクおよびリスクの社会的増輻/減衰という視座を導入し,リスクの増輻が惹起されす行政対応が不十分にとどまる場合と,制度組織型リスクが増輻することによって対応が非難回避に集中する場合という2つの問題がありうること指摘した。その上で,BSE問題における農水省と厚生省の事前対応について分析を行ったところ,農水省では国際貿易交渉というリスクと関連づけられたため,法的禁止ではなく行政指導の継続という措置が選択され,厚生省では訴訟可能性というリスクが重視されたため医学的リスクの増大を考慮せず予防的な規制強化がなされたことがわかった。また,これらの分析から,両省間での政策調整が不十分であったのも,このような制度組織型リスクの増幅経路の違いによるところが大きいことが示唆された。

論文
  • 福井 秀樹
    2006 年6 巻 p. 113-124
    発行日: 2006/12/10
    公開日: 2019/03/18
    ジャーナル フリー

    本稿は,競争人札における事業者の戦略的行動の経済的効果を定量的に分析する。

    談合などがなく正常に入札が行われた場合でも,その背後で事業者が採る戦略的行動により競争入札の有効性が損なわれうることは,つとに指摘されてきた。だが,その経済的効果については経験的分析が十分に積み重ねられていない.そのため,競争入札における事業者の戦略的行動により経済的損失がもたらされているのか否かについては,不明な部分が多い。

    そこで本稿は,政府の情報システム調逹入札を素材として,競争入札における事業者の戦略的行動の経済的効果を定量的に分析した。その結果,事業者の戦略的行動が少なからぬ経済的損失をもたらしていること,そして,競争入札の有効性を高めるには,単に入札過程での競争圧力を増大させる工夫だけでなく,事業者の戦略的行動を抑制する制度的工夫も必要であることが明らかとなった。

研究ノート
  • 高橋 克紀
    2006 年6 巻 p. 125-135
    発行日: 2006/12/10
    公開日: 2019/03/18
    ジャーナル フリー

    プロダクト・デザイナーがどのようにコンセプ卜を策定し,造形を実現していくのかはほとんど知られていない。政策学には,政府の政策過程を理解するための知識や理論が欠かせないものの,これらでは創造性を育みそうにはなく,プロダクト・デザインヘの注目が,問題解決学への導入として役立つのではなかろうか。

    アイディアやスケッチのような創造的側面を重視した政策デザイン論は,すでに足立幸男が提示している。しかし,その主題は政策形成のための倫理的なガイドラインであり,創造性はあまり論じられていない。本稿は,プロダクト・デザイナーの著作(逸身健二郎,原研哉,深澤直人による)と対比させて,導入教育的な政策デザインを考えてみたい。

    プロダクト・デザインと公共政策がどう関係するのかは疑わしいかもしれないが,本稿は次の3点から,プロダクト・デザインが政策学への基礎能力を育むのに役立つと考える。

    第1に,政策デザイン論ではデザインの定義が包括的に過ぎ,組織的分業を考慮できていない。そのため,政策デザイナーの実像を想像しがたい。第2に,プロダクト・デザイナーは状況要因を特定して問題の必然的な輪郭を見出しており,このことは,複数の選択肢を決定権者に提示するという政策学の主要な前提に疑問を投げかける。第3に,シンプルで機能的な美をめさすモダン・デザインは,理性や科学への過剰な信仰とも,むき出しの私益追求の肯定とも異なる。公共的な要請と私的な生活場面の意味とを媒介し,社会規範の基礎に影響を与えうる。

  • 二宮 祐
    2006 年6 巻 p. 136-146
    発行日: 2006/12/10
    公開日: 2019/03/18
    ジャーナル フリー

    従来の教育政策研究の多くは,保守陣営と革新陣営との対立や教育分野の陣営と教育分野外の陣営との対立によって政策過程を把握してきた。しかし,産学連携に関連する政策はこのような対立枠組みでは把握されず,政策過程研究は不十分である。そこで,1970年代の国立の技術科学大学2校の設立を事例として検討する。分析枠組みとして,サバティア(Paul A. Sabatier)による唱道連携フレームを用いる。このフレームは,「政策サブシステム」内部における「政策志向学習」か,長期間にわたる政策変化に影響を及ぼすことに着目するものである。

    技術科学大学設立の「政染サブシステム」には,文部省や自由民主党のみならず,国立高等専門学校協会や日本経営者団体連盟が参人していた。そして,「政策サブシステム」内部において,各アクターは信念システムを変化させることによって政策形成を導いた。この政策は,複線型の学制を意図していた高等専門学校を再び単線型の進学コースに取り込む点で重要てあった。従来の政策形成が文部省の一貫した方針の下にあるという理解は,1970年代の少なくとも事例の1つにおいては,修正の必要が存在する。

  • 平原 隆史
    2006 年6 巻 p. 147-156
    発行日: 2006/12/10
    公開日: 2019/03/18
    ジャーナル フリー

    環境や福祉といった領域は,取り組むべき政策課題が複雑な利害関係を持っている。これら領域では,少数政治主体による政策の立案や執行が難しく,多種多様な政治主体が政策過程に参加する多元主義的な政策過程となった。またこれら政策内容が複雑な領域ては,問題の現状を正確に把握するため,政策として情報を用いた手法や住民参加の手法が使われるようになった。しかし,情報的手法や参加的手法の評価について,多くの既存の評価手法が少数主体の政策参加をモデルとしているため,十分な分析ができない。そこで政治学で定性的記述を行う政策ネットワーク論と,数理社会学で定量分析を行う社会ネットワーク分析を統合した政策ネットワーク分析を基に,多種多様な主体が参加する情報を用いた政策の評価法を考案した。この政策ネットワーク分析は,ネットワーク構造とその中の主体の役割の双方を定量的に評価することがでぎる。本論文では環境政策の中でも情報的手法を用いた環境ラベルを例にとり,政策ネットワーク分析を行った。環境ラベルの基準形成過程を分析した結果,基準形成過程の諸要因が政策主体の情報流通に果たす役割や,情報流通のネットワークの構造に与える影響が明らかになった。また,政策ネットワーク分析の応用の一例として,事前の政策シミュレーションを示し,事前評価や政策提言への拡張の方向件も示した。

  • 山田 千絵
    2006 年6 巻 p. 157-169
    発行日: 2006/12/10
    公開日: 2019/03/18
    ジャーナル フリー

    地下鉄8号線(池袋一成増間)の建設は,通称36(さぶろく)道路(池袋一環七間)の事業中断の影響で困難な事業運営を強いられた。本稿はこの建設をめぐり1975年から地下鉄開通後の86年頃まで,事業者(営団)と地域住民の草の根運動体が繰り広げた交渉=事業の実施を分析する。

    事業開始に先駆け,地域の利害関係者は団体交渉を目的に運動体を結成(1975年)した。そして事業者に直接働きかけて交渉窓口(協議の場)を獲得した。これによって,運動体は「工事地域で生活する住民から見て事業の何が問題なのか」を“公の場所で”明らかにしていった。

    本稿ではこの事例分析を通じて「動員モデル」の拡張を試みた。拡張に使われた仮説は「交渉の結果に影響を及ぼすものは,組織の強さを示す動員される人・モノ・資金等の資源だけではない.むしろ資源の使い方=戦略性が重要である。さらに,政治主体の問題提起の公共性の高さも交渉資源となりうる」である。

    検討した結果,本事例では交渉の局面に応じて政治主体の戦略性と問題提起の公共性が交渉結果に影響を与えたと判断できる。資源動員論ては交渉の説明変数として「資源動員の量=組織の強さ」を示す効率性が重視されている。しかし,資源の動員方法における戦略性も交渉に与える影響が大ぎく,さらに政治主体としての運動体の問題提起の公共性によって補足が必要である。

紹介と解説
  • 瀬藤 聡彦
    2006 年6 巻 p. 170-180
    発行日: 2006/12/10
    公開日: 2019/03/18
    ジャーナル フリー

    本稿は,2000年10月に最終報告書を出し解散した世界ダム委員会と世界銀行のダム政策の関連性を述べたものである。世界ダム委員会は,年々激しくなる世界銀行のダム政策への批判に対処するために設けられた組織てあり,ダム推進派と反対派の両者が参加し3年弱にわたって調査研究活動を行った。委員会は,ダムのもたらしてきた利益を認めつつも,環境やコストといった問題が軽視されてきた事実を取り上げ,批判的とも解釈できる結論を出した。また,これまで以上の利害関係者の同意など,政策面で新しい対応を求めた。

    本稿は,世界銀行のダム政策には,それまでの手続きや手法を維持しようとする慣性が存存している,という仮説に依拠している。世界ダム委員会は,世界銀行がその政策過程において自ら主体的に立ち上げた組織であった。したがって,その慣性が存在しているのであれば,それまでの政策を追認するような評価を下すことが容易に想像される。しかし,委員会の評価は,世界銀行のダム政策の慣性に沿っていない,いわは世界銀行が意図していないような結論となった。本稿では,なぜそのような結論が導き出されたのかという点に着目し,世界ダム委員会の組織としての特徴,およびそのプロセス,すなわち委員会委員の選定過程や資金調達,あるいは調査研究手法等にその原因を求め,これらを分析,評価している。また,慣性が存在するという仮説を立てているのであるから,それがどのようなところに見られるのか,という点を明らかにした。

    なお,本稿はあくまで組織としての世界ダム委員会とそれをめぐる世界銀行のダム政策の関連性について述べたものであり,委員会の最終報告書やそれを受けた諸アクターの反応等について詳しい分析を行うものではないことを付記しておきたい。

書評
学会展望
2006年度学会賞の報告
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