公共政策研究
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7 巻
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巻頭言
会長基調講演
特集 越境するガバナンスと公共政策
  • 風間 規男
    2008 年 7 巻 p. 16-26
    発行日: 2008/01/25
    公開日: 2019/06/08
    ジャーナル フリー

    国民国家が出現して以来,政府は,公共政策の形成・実施において圧倒的なプレゼンスを示してきた。「市場の失敗」に対応するための政策手法の中心が「規制」であり,規制には「強制カ」が必要とされることから,その能力を独占する政府のみが公共政策の正統な担い手として想定されたからてある。その結果,政策の影響範囲も原則として国境の中にとどまるものと考えられた。

    しかし,政府の規制では対処しきれない問題群が発生し,「政府の失敗」を引き起こしている。1990年代以降,EUとその加盟国は,規制手法に内在する課題を克服し,錯綜した政策過程に対応するため,環境政策分野において,環境税,エコラベル,環境監査,自主協定なとの「新しい政策手法」を開発してきた。また,雇用政策分野においては「開放型調整手法」が導入され,強制に頼らない新しい発想に基づく政策手法として適用範囲を広げつつある。これらのプロセスにおいて,政府,欧州委員会,専門家集団,NGO,多国籍企業など,官民のアクターの間で,国境を越えた「政策移転」が起こっている。

    本稿では,政策ネットワーク論の枠組みに基づいて,「ガバナンス」が言われる状況においては,政府が「対象集団に働きかけて行動を変更させる」という二者間での一方向的な関係を前提とした政策手法には限界があり,アクター間の関係性に及ぼすィンパクトを考えた政策手法の開発・選択が求められることを指摘する。そのうえで,政策手法がそれぞれの社会のガバナンスに有効な形で導入され,政策価値が学習を通じて共有されていくためには,政府がネットワーク戦略を意識的に展開して必要があると結論づける。

  • 猪口 孝, 三上 了
    2008 年 7 巻 p. 27-41
    発行日: 2008/01/25
    公開日: 2019/06/08
    ジャーナル フリー

    国連が新たに打ち出した「ワン・ユーエヌ」という援助行政の素化・効率化計画に鑑み,本稿は,トップ・ダウンだけではなく,ボトム・アップの視点も含んた双方向的なガバナンスの新たな指標を提案する。具体的には,民主主義,開発,グローバル経済化,国際社会との結合,法の文配,社会関係資本の6つの次元がこの指標には含まれる。「ワン・ユーエヌ」の実験に協力を開始したアルバニア,カーポ・ベルデ,モザンビーク,パキスタン,ルワンダ,タンザニア,ウルグアイ,ベトナムにおけるガバナンスの現状をこの6つの次元から比較すると,まず,援助政策において考慮されるべき,途上国における多様性が詳らかにされる。さらに,民主主義は開発とは正の相関関係にあるが,国際社会との結合や経済のグローバル化とは無関係で,経済のグローバル化はむしろ低開発と連動していること,そして法の支配は開発も民主主義も促進しているが,社会関係資本は,少なくとも途上国においては,民主主義と負の相関にあること,などの可能性が示唆される。

  • 加藤 朗
    2008 年 7 巻 p. 42-58
    発行日: 2008/01/25
    公開日: 2019/06/08
    ジャーナル フリー

    「新しい戦争」であるテロには3つの越境性がある。第1は航空機の発達,国境管理,国境線の変化に伴う越境性。第2はメディアの発達やインターネット革命による物理的空間と心理的空間の境界を越える越境性。第3はグローバル権力圏とグローバル親密圏双方の圏域を越え,両者を架橋するグローバル公共圏へ越境する越境性。

    こうした越境するテロに対応するために,越境するガバナンスに基づく安全保障が必要不可欠である。それには2つある。1つは国家安全保障として,国家中心の多国間協調ガバナンスに基づくテロ対策。具体的にはテロの3つの越境性に即して国境管理の強化,メディアの管理そして国際法および国内法の法整備を多国間か協力して実施する。今1つは人間の安全保障として,国家のみならす非国家体も含めた類的存在としての人間中心の多主体間協調ガバナンスに基づくテロ対策。国家や地域を超えてグローバル社会に拡大するグローバル公共圏の非市民的公共圏のサバルタンと市民的公共圏の市民との間の人間の発展格差の解消をめざす。具体的には国家に代わる主権主体が国家間の古典的国際法に代わるコスモポリタン法を制定して国家の軍隊や警察に代わる武装民間組織が法を執行する。このテロ対策が実現するにはなお年月を要するが,現実にはその萌芽は国連の権威化,国際刑事裁判所の設置,民間軍事会社の出現等に垣間見ることができる。

  • 城山 英明
    2008 年 7 巻 p. 59-72
    発行日: 2008/01/25
    公開日: 2019/06/08
    ジャーナル フリー

    経済のグローバル化,ハイテク先端技術開発の加速化等に伴い,軍民両用技術の貿易管理は,重要になりつつある。本論文では,まず,日本の安全保障貿易管理の制度と運用について概観する。その際,現実の技術の担い手か企業等の民間主体であるため,企業の自主管理等を活用した政府と民間主体の連携の確保が重要である点に着目する。その上で,アジアヘの国際展開や多様な技術移転形態への対応・国境措置を超えた対応といった課題に関して概観する。最後に,安全保障貿易管理の対象が拡散する中で,制度設計とその連用に際しては,様々な公共政策目的間のトレードオフを正面から扱わなくてはならないようになりつつあると論じる。

  • 坪内 淳
    2008 年 7 巻 p. 73-82
    発行日: 2008/01/25
    公開日: 2019/06/08
    ジャーナル フリー

    冷戦後の日本の外交安全保障政策は,「当事者意識に欠け,適切な問題認識・整理の枠組みを持たず,時間感覚の抜け落ちた」背景によって,そのアジェンダ・セッティングに重大な誤謬を犯している。それは,越境問題や非伝統的安全保障への取組みによって,冷戦後の新しい国際環境に対応しているかのような錯覚のもと,自らの置かれた地政学的困難さの認識と,日米関係の再構築という本質的問題を見失っていることである。国際関係における越境間題の正確な理解に加え,日米同盟の不変性への過剰な期待から脱し,正当な危機感を持った政策形成のためには,外交安全保障政策に関わる政策コミュニティの活性化こそが鍵であろう。

  • 宮脇 昇
    2008 年 7 巻 p. 83-94
    発行日: 2008/01/25
    公開日: 2019/06/08
    ジャーナル フリー

    特定の課題の推進のためにNGOや国際機関や国家の連携により形成されるトランスナショナル唱導ネットワーク(TAN)は,ブーメラン効果を発揮して,対象国に圧力をかけることに成功することがある。しかし対象国が,あたかも規範を内面化しているふりをしながら実際には規範の合意を否定する行動(as if的行動)をとる場合,ブーメラン効果をもたらすのは難しい。本稿ではOSCE(欧州安全保障協力機構)における人権NGOの役割と活動を事例に,冷戦後の現在,OSCEで人権NGOの機能が変化しTANの活動の制限が検討されている状況を明らかにする。その説明として,as if的行動がブーメラン効果の発揮よりも,時間にともなう効果逓減が少ないという発展的な説明を試みる。

  • 縣 公一郎
    2008 年 7 巻 p. 95-103
    発行日: 2008/01/25
    公開日: 2019/06/08
    ジャーナル フリー

    テレコムサービス自由化を日独で比較すると,事業者規制と料金規制,そして相互接続ルールとユニヴァーサルサービス確保体制の点で,両国間には自由化の収斂か認められる。この収斂との関連においては,GATSの諸規定,とりわけ第四議定書基準文書及び特定の約束が,両国におけるテレコム規制緩和の規準となっていた,と指摘し得る。

  • 人見 泰生
    2008 年 7 巻 p. 104-116
    発行日: 2008/01/25
    公開日: 2019/06/08
    ジャーナル フリー

    地域社会の持続可能性が,国と地方をめぐる財政にとっての深刻な課題となっている。

    第二次世界大戦後のわが国は,「国土の均衡ある発展」を国家目標に据え,全国総合開発計画や地力交付税制度を効果的に運用することによって,高度経済成長の果実を全国に隈なく配分し,ナショナル・ミニマムの実現を成し遂げてきた。しかし,1990年代以降,従来の拡大成長型パラダイムの下での「国土の均衡ある発展」が不可能になり,分権型社会の構築が新たな目標となりながらも,国と地方をめぐる税財政構造は,依然として旧来型のナショナル・ガヴァナンス・システムから脱却できていない。

    分権型社会とは,ローカル・ガヴァナンスによって地域社会が経営される社会であり,そうした社会を実現するためには,ガヴァナンスの基盤としての税財政構造改革が求められる。この間,分権改革の一環として地方交付税に関する多様な改革論が提起されてきたが,未だ国と地方の間で明確な合意は形成できていない。

    今日,求められている税財政構造改革は,自治体の自立性を高め,地域社会の持続可能性に貢献するものであると同時に,地球市民的な公共政策目標と共鳴するものでなければならない。こうした観点から,持続可能性を重視した自治体間の水平的財政調整システム構築に向けて,環境負荷係数を財源調整の基準に据えた地方交付税制度の改革を提言する。

論文
  • 木寺 元
    2008 年 7 巻 p. 117-131
    発行日: 2008/01/25
    公開日: 2019/06/08
    ジャーナル フリー

    2000年4月,地方分権一括法が施行され,機関委任事務制度は廃止された。機関委任事務制度については,多くの地方実研究者や自治体関係者が日本における中央地方関係の集権制の象徴であると指摘してきた。本稿では,その機関委任事務制度が,「整理・合理化」でもなく,「廃止」されたという事実に特に着目し,その過程を分析したものである。

    分析において鍵となるアクターは,地方自治体の首長・地方議会議長の連合組織である,地方六団体である。機関委任事務制度の廃止を実現した1990年代の第一次地方分権改革には,さまざまなアクターが関わっていた。それは,与野党の国会議員,官僚,そして行政学者や行政法学者を中心とする研究者たちである。しかし,地方自治体もまた,この政治過程に大きく関与していた。

    地方治体の影響カは,「アイディアの回路」と「政治の回路」の2つの回路から見ることが出来る。地方自治体は,現場の専門家として,地方分権推進委員会に参加した研究者たちが持ち合わせていない現場からの知識や情報を提供し,機関委仼事務制度廃止のアイディアを強固なものにすることが出来た。また,地方自治体は,地元選出の国会議員等を動員し,自らの利益を実現できるだけの影響力を持っていた。機関委任事務制度廃止の過程においては,地方自治体は,こうした「アイディアの回路」・「政治の回路」を駆使し,機関委任事務制度の廃止の実現に大きく貢献したのである。

  • 砂原 庸介
    2008 年 7 巻 p. 132-144
    発行日: 2008/01/25
    公開日: 2019/06/08
    ジャーナル フリー

    本稿では,失敗に終わったと評価される地方分権改革推進会議の議論を参照しなから,三位一体改革を包含する地方財政制度改革の特徴を関係するアクターの「利益」の観点から明らかにする。小泉政権において行われた地方財政制度改革は,経済財政諮問会議においてマクロでの地方財政のスリム化を行う一方で,関係省庁の合意を元に地方税・交付税・補助金の三位一体の改革を行うことで,国・地方を通じた緊縮財政の実現を目指すものであった。しかし,地方財政制度改革が持つ「中央政府の財政再建」「地力分権改革」という側面を強調することは,関係者の合意に亀裂をもたらす可能性を秘めていた。

    交付税を縮減しつつ地方への一方的な負担転嫁を避けた改革の方策として,地方分権改革推進会議は補助事業の改革を含めた包括的な改革をふ志向したものの,関係するアクターの信認を獲得することがてぎず,同会議は改革への説得的な提案を行うことができなかった。その結果,2005年に一応の決着を見た三位一体改革は,補助事業の改革を伴わず,中央と地方の税財源の配分を変更する漸進的な改革であったと結論することができる。地方財政制度改革が漸進的なものに終わった原因は,分権会議が関係するアクターの信認を獲得できなかったことに加えて,改革に関係するアクターの信認を可能にする装置であるはずの経済財政諮問会議が一貫した意思決定を行うことができなかったことに起因すると考えられる。

研究ノート
  • 堀 真奈美
    2008 年 7 巻 p. 145-155
    発行日: 2008/01/25
    公開日: 2019/06/08
    ジャーナル フリー

    近年,我が国における急速な高齢化の進展及び疾病構造の変化を鑑み,単に平均寿命を伸張させることから,「健康寿命」を延ばすことの重要性が社会的にも認められるようになっている。

    そうした中,全国各地において自治体主催の健康・運動教室や国保ヘルスアッププランの実施など健康事業の推進がはかられているが,現実には,それほど多くの国民が健康を意識した生活をしているとは言えない状況がある。

    無論,健康増進活動は,強制されるものではなく,個々人の意思にゆだねられるものであると考えるが,参加者層が一定範囲にしか広がらない場合,その波及効果も限定的となるし,コストパフォーマンスから行政が関与しないほうがよいという結論になることもありえる。ゆえに,自治体が健康事業の推進を行う際には,これまで健康増進活動を実施してこなかったより多くの未実施層を取りこむ工夫が必要であると考える。しかし,現実にどのような人々が健康事業に参加しているのか詳細な実態は必ずしも把握されていない。

    そこで,本研究では,自治体住民への意識調査のデータ分析を通じて,参加意思を表明している住民と非参加を表明している住民の特徴を抽出し,自治体主催の他康事業への参加の意思決定に関連する要因を明らかにした。この結果をもとに,今後の自治体の健康政策の在り方について若干の考察を加えた。

  • 松田 憲忠
    2008 年 7 巻 p. 156-168
    発行日: 2008/01/25
    公開日: 2019/06/08
    ジャーナル フリー

    本稿は,「税制の政治」――政治における税制間題の扱われ方――に関する政治学の諸研究を踏まえて,小泉政権下における「税制の政治」を分析し,今後の日本における税制改革の可能性を探る。小泉政権下では増税を前面に出した税制改正が行われてきた点から,小泉政権の「税制の政治」は従来のそれとは異なる特徴を特っていたと言えよう。その背景には経済財政諮問会議の活性化や選拳制度改革の影響による小泉首相のリーダーシップの強化,小泉首相のシンボリックなパフォーマンス,小泉政権を取り巻く政治的・経済的コンテクストの変化等が挙げられる。小泉政権期においてこうした「税制の政治」の変化が見出される一方で,小泉政権が実施した税制改正には,既得権益への配慮や一般納税者の税負担の強化が見られ,従来の「税制の政治」が小泉政権下でも存在していたことが指摘される。

    様々な社会変化のなかで必要とされる増税の実施は,税制をめぐるゲームを想定すると,如何なる政権・政党制の下でも極めて難しい。税制改革の可能性に関して,小泉政権の分析から,第1に税制の決定過程の集権化の有効性が引出される。しかし,集権化を目指す制度改革は税制改革と同様に議員からの抵抗に直面するであろう。第2に国民による「税制の政治」のモニターの重要性が挙げられるが,国民の社会心理的傾向を踏まえると,モニターは十分な機能を果たさないかもしれない。必要な税制改革が実施される「税制の政治」を生み出すためには,アクターの利得構造や心理的傾向の解明や,アクターの行動を変容させ得る教育やインセンティブ設計等の研究が重要であることが示唆される。

書評
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2007年度学会賞の報告
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