病院が安全な医療を提供する上で,医療事故の防止は重要である.病院は事故報告書を収集しているが,確認の徹底や注意喚起にとどまる場合があり,事故が再発する場合が多い.与薬業務は,決まったプロセスに従って行われる.したがって,与薬事故を防ぐには,仕事のやり方に着目してプロセスを改善することが効果的である.この考え方を,本報ではプロセス指向と呼ぶ.本報では,医療従事者がプロセス指向を実践するための事故分析手法としてPOAM(Process Oriented Analysis for Medical Incidents)を提案する.POAMは,与薬業務モデルと観点リストを活用する.与薬業務モデルは,与薬業務を「情報を受け取り,モノを取り,作業を行う」と記述したもので,事故状況の把握に用いる.観点リストは,エラーを分析する観点を整理したもので,事故を誘発した要因の抽出に用いる.与薬業務モデルと観点リストを活用した一連の事故分析手順を示し,事故報告書のフォーマットや分析用のシートを提案する.実際に,提案したPOAMを事故に適用したところ,医療従事者はプロセス指向を実践でき,与薬事故を低減できた.
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