他の作物よりもダイズ子実中の放射性Cs濃度は高いがその理由は明らかにされていない。本論文では子実内のCs分布に着目し,133Csを用いたX線蛍光顕微鏡と,137Csを用いたオートラジオグラフィで観察するとともに,成熟期のダイズ体内のCs分布も検討した。CsはKと同様に均一に分布し,吸収したCsの約4割が子実に蓄積した。ダイズ子実は他の作物よりCsを蓄積する割合が大きく,吸収したCsを子実に多く蓄えることが,放射性Cs濃度が高くなる要因の一つと考えられた。
放射線乳化グラフト重合法を用いて,ポリエチレン繊維を基材とした抗体高速精製のためのアニオン交換吸着材(アニオン交換繊維)を作製した。グリシジルメタクリレート(GMA)をTween 20によって乳化させ,乳化グラフト重合を行った。続いて,グラフト鎖中のエポキシ基にジエチルアミンを付加した。ジエチルアミノ型アニオン交換繊維を高さ2.0 cmでカラムへ充填し,ウシ血清アルブミン(BSA)溶液を空間速度60 h−1で流通したところ,動的吸着容量は76 mg-BSA/mL-columnであった。同様にBSA溶液を空間速度1200 h−1で流通したときのBSAの動的吸着容量は,33 mg-BSA/mL-columnであり,市販のアニオン交換粒子(DEAE Sepharose Fast Flow)を同じ高さで充填したカラムのそれよりも35倍高かった。これは,アニオン交換繊維ではアニオン交換基が繊維表面近傍に存在するのに対して,アニオン交換粒子ではアニオン交換基が粒子内部に存在するためである。
ガフクロミックフィルム(Gafchromic® film, Ashland製)は,主に医療分野でX線・γ線の線量分布測定に使用され,イオンビームの強度分布測定にも応用されている。高線量用モデルHD-V2は,感受層が薄く,表面保護層がないため,飛程が短いイオンビームの測定にも適用可能である。しかし,その線量応答は非線形であり,イオン種やエネルギーによる特性の違いが不明であることから,ビーム強度分布測定に利用するためにはその都度,吸光度のフルエンス応答曲線を取得する必要があった。そこで,各種イオンビームの応答曲線が60Co γ線の線量応答曲線に類似していることに着目し,ビーム強度分布の簡便な測定を可能とすることを目的として,γ線の線量応答曲線から直接イオンビームの相対強度分布を求める方法を考案し,実証実験を行った。60Co γ線といくつかのイオンビーム(線エネルギー付与:5.5 keV/µm~11 MeV/µm)において,フラットベッドスキャナES-10000Gを用いた測定の結果,イオン照射応答はγ線照射応答曲線の形状に一致し,フィッティングの良い吸光度範囲の上限はR色成分で0.7,G色成分で0.5程度であることを明らかにした。これにより,イオン種やエネルギーごとのフルエンス応答曲線を取得することが不要となり,各種イオンビームの簡便な相対強度分布測定が可能となった。
現在の食品中の放射性物質に関する基準値は,134Cs, 137Cs, 90Sr, 106Ru, Pu, を規制対象とし,放射性セシウムに代表させ設定されている。土壌中の放射性核種の濃度比等を基に導出されているが,海産物については,セシウムとそれ以外からの線量が等量になると仮定している。今回,モニタリングデータを基に線量への寄与の検証を試みたところ,セシウム以外からの寄与は基準値策定時の仮定よりも小さかった。
223Ra は癌治療に用いられる放射性薬剤であるが,海外の機関による標準の振れに依存しない,信頼できる国家標準を開発することは重要である。そこで,産総研は日本アイソトープ協会の協力を得て,液体シンチレーション測定装置を用いて223Ra放射能の国家標準を開発した。CIEMAT/NIST法により,223Ra及び子孫核種の検出効率を評価し,計数率とこの検出効率により放射能が得られるようになった。