変異体や品種間差の解析での利用を見据え,植物の根における各イオン流量(net flux,influx,efflux)の定量的測定法の確立を目指した。得られたflux値の整合性をMg2+とNa+について検討したところ,イネの根ではトレーサー吸収時間20秒でinflux値が,15分以上でnet flux値が得られることがわかった。さらに,efflux値の測定ではトレーサー標識時間を最大限長くすることの重要性が示唆された。
福島県浪江町では東京電力福島第一原子力発電所事故後に除染が行われ,2017年3月31日から居住制限区域及び避難指示解除準備区域が解除された東部で,住民の帰還が始まった。2019年と2020年に除染された圃場とその周辺から,自家栽培作物及び自生植物の様々な自家消費作物を採取した。穀類,いも類,豆類,野菜類及び果実類の181試料の放射性Cs濃度を求め,作物摂取による内部被ばく線量を算出した。自家栽培作物中137Cs濃度は0.18–46 Bq kg−1新鮮重量と,すべて基準値の100 Bq kg−1を下回ったが,圃場周辺の畦や森林から採取した自生植物は栽培作物より高い3.2–175 Bq kg−1新鮮重量であり,一部試料で基準値を超えた。2020年に自家消費作物を摂取した成人男性の放射性Csによる追加となる内部被ばく線量は0.032 mSvであり,事故により追加となる内部及び外部被ばく線量0.64 mSvの約5%を占めた。自生植物を含めず自家栽培作物のみを摂取した場合の内部被ばく線量は0.012 mSvとなり,自生植物も含む自家消費作物を摂取した場合の約1/3であり,1 mSvを十分に下回った。
放射線照射食品健全性についての考え方と欧米やわが国の長年に渡る健全性評価の先行研究について解説した。特に放射線照射により食品中の脂質から特異的に生成する2-アルキルシクロブタノン類(2-alkylcyclobutanones; 2-ACBs)の毒性試験に関して,最近のわが国で実施された研究成果を欧米の先行研究と対比して解説した。わが国の研究では,欧米の先行研究の試験条件を参考にし,より厳しい投与条件を用いて試験を行った。国際的なガイドラインに従って実施した遺伝毒性のバッテリー試験の結果はすべて陰性であった。一方で発がんプロモーション活性については,培養細胞を用いたスクリーニング試験において,2-ドデシルシクロブタノン(2-dodecylcyclobutanone; 2-dDCB)及び2-テトラデシルシクロブタノン(2-tetradecylcyclobutanone; 2-tDCB)はともに陽性を示したが,実験動物を用いたさらに高度な試験においてはすべて陰性であった。以上のことから,2-ACBsの毒性学的懸念は否定され,これまで国際機関が示してきた照射食品の安全性に関する見解を覆すような新たな知見は得られなかったと結論できる。
300 keV以下の低エネルギー電子線で食品への表面殺菌方法を検討した。殻つき生卵の卵殻殺菌を例に,モンテカルロシミュレーションで卵殻に浸透する電子ビーム深度分布を作成し,可食部に照射される制動X線の線量が,0.10 Gy以下となる照射条件を明らかにした。電子ビームの照射加速電圧は80–200 keVが深度分布として最適であり,可食部線量を考慮すると80–150 keVが最適な照射条件であった。
食品の安全性,健全性確保のために殺滅菌は不可欠な操作であるが,加工食品の製造においては近年,味・香りなど天然に近い品質重視,さらに栄養的な健康増進を求めるのがトレンドである。そのため,死滅に至らない「損傷菌(芽胞)」が発生しやすい状況であり,対策が求められている。このような社会的ニーズに応えるため,食品照射の基礎研究として,損傷菌(芽胞)の特性と,その対策のための放射線殺菌技術の有用性について紹介する。
本邦の高線量率密封小線源治療は施設当たりの症例数が少ないため,診療用放射線照射装置使用室(RALS室)に専用のCT装置(RALS室CT)の導入が困難なことが,IGBT普及の足枷となっている。しかしながら,RALS室に設置した放射線機器の使用は,医療法で許認可された治療目的である,高線量率密封小線源治療に必要な画像取得の用途に限定されている。そこで,RALS室CTの有効活用を目的に,アンケート調査を行った。RALS室CTは使用時間や日数が少ないため,外部照射の治療計画に用いるCT撮影などへの活用の要望が多かった。IGBTのいっそうの普及には,RALS室CTを許認可された治療目的以外に単独使用できることが一助となる。
GM管サーベイメータの高電圧電源をコロナ放電実験に利用するために,まず印加電圧と放電電流の関係を,先端の曲率の異なる放電電極に対して実験的及び理論的に検討した。結果として,箔検電器と摩擦静電気を補助的に利用した新しい現象“誘起コロナ放電”を見出した。放射線実験に続いてコロナ放電実験のような理科実験を行えば機器の有効利用になるとともに,電離は放射線,放電,摩擦などによって起きることが理解でき,物理現象に対する多面的な観点を提供することができる。
エピガロカテキンガレート(EGCG)及びエピカテキン(EC)は、天然の放射線防護剤の一種と考えられている。ガンマ線及びヘリウム粒子線を照射した場合の、EGCG及びEC添加による放射線防護効果について、プラスミドDNA(pUC118)及び出芽酵母の野生株を用いてDNA鎖切断及び生存率への効果を評価した。結果から、EGCG及びECを添加した場合、未損傷のプラスミドDNAの割合が上昇すること、及び生存率が上昇することが明らかになった。
筆者は新規シンチレータ材料の探索として,大きい有効原子番号,発光量の向上など狙って進めてきた。その結果,有効原子番号が58程度のCs2HfI6は約64,000光子/MeVと高い発光量を持った。また同番号が56のCe3+添加(Gd, La)2Si2O7はバンドギャップが高いにもかかわらず高い輸送効率をもち,高い発光量(50,000–60,000光子/MeV)を示すことがわかった。