核医学診断・治療技術は悪性腫瘍の早期発見や治療において医学的に重要な役割を果たしている。Positron emission tomography(PET)やsingle photon emission computed tomography(SPECT)の技術は解像度の改善が急速に進んだ一方,発明以来,撮像法の原理は大きく変わっていない。本稿では新たな核医学診断技術を目指した多分子撮像用コンプトンPET, 分子間相互作用撮像用double photon emission coincidence imaging(DPECI)について紹介しその可能性について議論する。またこれらの撮像技術を支える放射線計測技術開発についても簡単に紹介する。
ラドンの吸入で疾病の症状軽減を図るラドン療法の主な適応症は疼痛関連疾患である。ラドン療法の機構解明と新規適応症の探索のため,小動物用ラドン吸入装置を開発した。各種実験の結果,ラドン吸入はマウス諸臓器中の抗酸化機能を亢進することで各種酸化ストレス関連疾患を抑制したことから,疼痛関連疾患に限らず,酸化ストレスにより誘導される疾患に有効であることが示唆できた。また,これらの現象は,低線量X線照射でも確認できた。
核検知や核セキュリティ事案の現場において,迅速かつ正確な放射性物質の判定は,検知警報や事案への迅速な対応を行うための重要な技術的課題の一つである。本稿では,携帯型ガンマ線検出器に適用可能な深層ニューラルネットワークモデルを用いた放射性核種の判定アルゴリズムを提案する。本アルゴリズムでは,シミュレーションで作成した模擬ガンマ線スペクトルで学習した深層ニューラルネットワークモデルにより,各放射性核種に起因する計数寄与率(CCR)を推定し,放射性核種を自動で判定する。この自動核種判定アルゴリズムにより,放射線測定の経験や知識が十分でない核検知や核セキュリティ事象の初動対応者を支援することが可能となる。2種類の異なる深層ニューラルネットワークモデルを用いたアルゴリズムを高エネルギー分解能及び低エネルギー分解能の携帯型ガンマ線検出器に適用し,提案アルゴリズムの性能を評価した。提案したアルゴリズムは,実際の測定ガンマ線スペクトルにおける人工放射性核種の判定で高い性能を示した。また,深層ニューラルネットワークモデルによるCCR推定値を解析することで,235Uの検知やウランの自動分類にも適用できることを確認した。さらに筆者らは,提案したアルゴリズムの性能を従来の核種判定手法と比較し,深層ニューラルネットワークモデルベースの核種判定アルゴリズムの性能を向上させる具体的な方策についても議論した。
放射線防護の体系は過去半世紀に亘り発展されてきたが,まだ科学的および測定学的不合理性がある。この体系が抱えている問題点のうち,放射線防護の体系を,非常に低い線量にまで適用することと,本質的にあいまいな性質を持つ実効線量で,数値的に厳密な運用も必要になる線量制限の値を定めることについて議論し,放射線防護体系の合理性を回復させるための方策を提案する。
我々は,腫瘍集積性新規ナノキャリアである両親媒性ポリデプシペプチドミセル「ラクトソーム」の癌イメージングプローブ適用を目指している。本研究では、単一光子放射型コンピュータ断層撮影法(SPECT)を用いたin vivo画像診断用放射性トレーサー開発を目的に、放射性ヨウ素標識ラクトソームの合成とその評価を行った。125I標識ラクトソームは生体内分布実験に十分利用できる良好な収率で得られた。125I標識ラクトソームの放射能は、マウス投与後2–48時間の間、血液中で高いレベルを維持した。大腿部に移植したColon-26腫瘍への放射能の取り込みは徐々に増加した。皮下腫瘍/筋肉の放射能取り込み比は、注射後48時間で16.7まで増加した。さらに、123I標識ラクトソームを用いたマウス腫瘍SPECTイメージングが可能であった。一方、テレピン油誘発性炎症組織の放射能取り込みは24時間で最大となり、その後48時間では減少した。結論として、放射性ヨウ素標識ラクトソームは腫瘍や炎症を対象とした核医学イメージングプローブとして開発できるナノキャリアの可能性がある。
160 kVのX線照射装置を用いて、低エネルギーX線によるタマネギとジャガイモの発芽防止に最適な照射条件を検討した。小タマネギは根元側から3.2 mmの深さで20 Gy、大タマネギは8.0 mmの深さで20 Gy照射することにより、効果的に発芽を抑制することができた。ジャガイモでは芽が全体に分布しているため、両面照射が必要であった。深さ8.0 mmで50 Gy(5.4 mmで60 Gy)両面照射することにより、発芽を防止することができた。線源から350 mmの距離での処理能力は、大タマネギで80.9 kg/h、小タマネギで34.1 kg/h、ジャガイモで9.9 kg/hと求められた。両面照射の場合のジャガイモの線量均一度3.6(表面でのDmax/深さ8.0 mmでのDmin 50 Gy)は、低エネルギーX線をカットするアルミニウム1.0 mmフィルター(F1)を用いることにより、3.6から1.2へと著しく向上したが、処理能力は9.9 kg/hから7.4 kg/hへと減少した。
交換性カリウム濃度がイネの放射性セシウム吸収に影響を与えない程度に高い条件では、玄米の放射性セシウム濃度は,土壌中の溶存態放射性セシウム量から精度よく予測できる。しかし,溶存態放射性セシウム量の実測には,大量の土壌溶液採取やろ過・濃縮等の多大な労力が必要である。そこで,亜鉛置換型プルシアンブルーを担持した吸着シートで土壌中の溶存態放射性セシウムを吸着し,シートに吸着した溶存態放射性セシウム量から玄米放射性セシウム濃度を簡易に予測することが可能か否かを検討した。表面をメンブランフィルターで被覆することにより土壌粒子の付着を防ぐ加工をしたセシウム吸着ディスクを現地水田の作土に2週間埋設し,溶存態放射性セシウムを回収した。吸着シートに回収された放射性セシウム量は,玄米放射性セシウム濃度と高い正の相関があった。分げつ期に吸着シートを埋設し,回収された放射性セシウム濃度を分析することで,大量の土壌溶液の採取や土壌理化学性の分析を必要とせず,玄米中放射性セシウム濃度を予測出来る可能性が示された。
一般相対性理論と量子論は現代物理学の柱です。異なる理論を矛盾なくまとめて表すことで発展してきた理論物理学において,次なる大きな課題は一般相対性理論と量子論をまとめること,つまり重力の量子論の構築です。超弦理論はこの重力の量子論の候補であると同時に,重力,電磁気力,弱い力,強い力の4つの力をまとめる理論の候補でもあります。超弦理論がいかにして生まれ,どのような描像をもたらすのか,「まとめて表す」ことを切り口として解説します。
レーザー共鳴励起を利用した同位体レベルでの核種検出・同位体比測定手法の開発状況について,その原理から応用について紹介する。共鳴イオン化質量分析法(Resonance Ionization Mass Spectrometry: RIMS),キャビティリングダウン分光法(Cavity Ring-Down Spectroscopy: CRDS)や特に近年,希ガスの年代測定において利用が進んでいる原子トラップ微量分析法(Atom Trap Trace Analysis: ATTA)について応用例を取り上げる。また筆者が取り組んでいるイオントラップを利用した単一同位体イオン検出手法について紹介する。