保育学研究
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57 巻, 2 号
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<巻頭言>
第1部 自由論文
原著<論文>
  • ― 1980 年以降の都道府県別時系列集計データによる実証分析―
    小林 佳美
    2019 年 57 巻 2 号 p. 6-17
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/06/05
    ジャーナル フリー
    本稿では,私立保育所の保育士賃金が1990 年代後半以降の保育制度改革を機に,一般的に低いと認識される状況に陥った背景と,その要因を,1980 ~ 2015 年の都道府県別時系列集計データを活用して分析した。分析対象期間の保育士賃金の動向は,2000 年すぎから低下し,2005 年にはいずれの人口規模においても女性労働者の平均を下まわるレベルとなったことが確認された。この低下の要因を検討するため,保育制度改革期を機に減少した公立/私立割合,及び女性の就労環境の変化に着目してプールド重回帰分析を行った。集計データによる分析は留保を要する結果ではあるものの,2000年以降,平均勤続年数の増加にともなう賃金上昇が抑制されたこと,主に人口密度の低い地方部で公立割合の減少と共に賃金水準が低下したことが確認され,専門職としての経験を積み上げられる賃金体系を,ナショナルミニマムとして回復することの必要性が示唆された。
  • 勝野 愛子
    2019 年 57 巻 2 号 p. 18-29
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/06/05
    ジャーナル フリー
    本研究では,筆者が,1 年を通じた観察において年長児に関わりながら,5 歳児の友達関係(二者のあいだ)においてどのように幼児が情動を調整しているのかを“接面”に基づき,検討することを目的とした。その結果,「自分の情動調整」を試みている中で,「相手の情動」を見て(気づき)自分だけでなく「相手の情動」も同時に調整しようとする「同調的情動調整」と,一年を通じて互いの関係を続け,一緒に遊んだり,ぶつかり合ったり,意気投合したりする中で,“接面”が生じ,相手の情動を調整したり,相手のために情動を調整しようとする「関係歴史的情動調整」をしていることを明らかにした。
  • ―隣接ペアに着目して―
    堀田 由加里
    2019 年 57 巻 2 号 p. 30-42
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/06/05
    ジャーナル フリー
    本研究は,5 歳児の描画活動において,どのような微視的な相互行為によっていかに描画表現が展開するのかを明らかにすることを目的とした。5 歳児クラス計4 クラスの自由遊び場面を1年間参与観察し,幼児同士の応答行為を隣接ペアに基づき分析を行った。分析の結果,描画活動における幼児の相互行為の中には,①取り込む対象や方法に差異があることが示され,形や色などのアイデアは直接的に描画に取り込む一方で,想像や情動を伴うテーマやモチーフは,自分なりの工夫を加え取り込むこと,②描画の確認・要請・関心を疑問として明示的に相手に伝えることが,幼児同士の相互理解を促すこと,③身体的同調を伴う応答連鎖が,ある種の感情表現として描画の生成へ繫がることが明らかになった。
  • ―園児の描画及びインタビューと保育者のインタビューから―
    淀川 裕美
    2019 年 57 巻 2 号 p. 43-54
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/06/05
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,園での食事に課題をもつと保育者が認識した5 歳児について,実際に園児自身が園での食事をどのように認識しているかを検討することである。都内私立保育所2 園の5 歳児クラス園児計24 名を対象に,給食場面の描画とインタビューを行い,担任保育士へのインタビューを行った。保育士の語りから,食事の課題として①友達関係,②食事への集中,③マナーの習得,④苦手なものを時間をかけずに食べることが挙げられた。①はランチルームの園で,④は保育室で食べる園でのみ語られた。園児の描画と語りから,課題として語られた内容は園児の描写がないもしくは少なく,園児自身が十分に認識していないことが示唆された。一方,保育者と園児の認識のずれが描画から見出された事例もあった。
  • ―保育文化のエスノメソドロジー―
    池田 竜介
    2019 年 57 巻 2 号 p. 55-65
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/06/05
    ジャーナル フリー
    本稿の目的は,日常的であるがゆえに無自覚的に行われている保育者の子ども理解がどのように行われているかを,エスノメソドロジーの手法を用いて明らかにすることである。エスノメソドロジーが目指すのは,ある共同体の成員がその共同体において当たり前に用いている方法論的知識を記述することであり,そのためにその共同体の成員が日常的な活動をどのように組織するのかに着目する。それを保育者と子どもとの相互行為の分析に適用した結果,例えば子どもを「待つ」ことができたか否かが自らの子ども理解の適切性を判断する際の重要な判断材料となるように,保育者は保育文化の規則との関係性の中で子どもを理解していることが明らかとなった。
  • 中田 範子
    2019 年 57 巻 2 号 p. 66-75
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/06/05
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,保育現場における子どもにとっての閉所の機能を考察することである。対象は,保育所の1 歳児から5歳児クラスに在籍の子どもである。園庭内にある3 カ所の閉所に出たり入ったりする場面である843 分の観察データをグラウンデッド・セオリー・アプローチ用いて分析した。その結果,26 の概念,10 のサブカテゴリーが生成され,4 のカテゴリーに集約された。また,10 のストーリーラインが見いだされた。子どもにとっての閉所の機能は,偶然性を孕む共有と転換を繰り返し,閉所内外のつながりを交えながら創出されていることが示唆された。
  • ―発達障害児への異別処遇の過程―
    垂見 直樹
    2019 年 57 巻 2 号 p. 76-86
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/06/05
    ジャーナル フリー
    インクルーシブ保育の実現にはどのような保育者の態度が望ましいだろうか。保育現場におけるインクルージョンは,同一の空間において,多様なニーズをもつ子どもたちへの異別処遇が課題となるが,そこで生じる保育者による経験の過程の分析が求められる。
    本稿は民族誌的な調査に基づき,保育者による発達障害児のインクルージョンの経験と,その保育士への影響を分析した。その結果,子どもに対する認識の変化が生じ,同時に行為指示方略を含めた保育実践の見直しが生じていた。そしてそれらの変化は,課題と責任の組織化,暗黙の規範からの解放,子どもや保護者からの肯定的なフィードバックに支えられながら進行した。こうして,保育者に肯定的な影響がもたらされたと考えられる。
  • ―縦断的研究の分析を通して―
    平澤 順子
    2019 年 57 巻 2 号 p. 87-99
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/06/05
    ジャーナル フリー
    本研究では,保育所1歳児の絵本場面における保育者の援助について明らかにすることを目的とした。約1年間保育所での自由遊び時間における自然発生的な場面を観察した。結果は次の通りである。
    ①1歳児の絵本場面における意図伝達のための身振りの特徴は,機能別に「説明」が最多で,形態的には「手や足の使用」「焦点化した指差し」など8種類の身振りが見られた。②子ども―保育者間と子ども同士の意図伝達の際の身振りの違いは,前者の方が身振りの種類・頻度共に約倍以上見られた。③ ①対する保育者の援助では,子どもの反応から自分の答えの誤りに気づくと,子どもの声の変化など詳細な手掛かりを基に修正して応答していることが示唆された。
  • ―「正統的周辺参加」論によるアプローチ―
    加藤 直子, 請川 滋大
    2019 年 57 巻 2 号 p. 100-110
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/06/05
    ジャーナル フリー
    母親の役割は子どもが生まれると同時にスタートするが,母親になるためのカリキュラムや学校は存在しない。そんな中,「地域子育て支援」施設は,母親たちのリフレッシュの場として重視されている。そこで,母親が子育て支援施設で交流する中で,「状況的学習」をしながら育児力を高めていることについて分析することが必要と考えた。本研究では,母親たちの語りをM-GTA で分析し,「正統的周辺参加」の理論を用いて考察した。結果,母親たちは子育て支援施設の中で,様々な人と交流しながら,育児を「状況的学習」し,育児の力や自己効力感を高めていることが分かった。
  • 田中 文昭
    2019 年 57 巻 2 号 p. 111-122
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/06/05
    ジャーナル フリー
    本研究は保育参加に継続して参加した経験のある保護者4 名を対象にインタビュー調査を行い,保護者が保育参加に継続して参加する意思決定プロセスを明らかにすることを目的とした。インタビューで収集したデータを,TEM を用いて分析した。その結果,保育参加への初めての参加決定から継続参加の意思を決定するまでのプロセスが明らかになった。
    保護者は保育参加を経験し,わが子の園での状態を確認することで視野の広がりをみせ,その後,さまざまな気付きや理解を得ていた。さまざまな気付きや理解を獲得しても保育参加を自分自身のリセットと捉え,子どもとの関わりにおけるバランスを維持する役割と解釈することで保育参加への継続を促す働きとなっていた。
  • 門田 理世, 諫山 裕美子, 中ノ子 寿子
    2019 年 57 巻 2 号 p. 123-136
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/06/05
    ジャーナル フリー
    本研究は,保育者・小学校教諭の統一要録活用の実態を検証し,今後の要録活用の展望を見出すことを目的として,独自の統一要録を導入した佐世保市内の全乳幼児教育施設・小学校への質問紙調査を実施し,分析した。その結果,保育者と小学校教諭の要録活用の認識に齟齬があることや,活用の捉え方の違いが明らかとなった一方で,今後の活用展望として,子どもの実態把握や指導の参考のためだけでなく,子どもの育ちを長期的にみる記録として,要録の新たな役割が見出された。また,保育者は保幼小連携における活用のためだけではなく,保育者自身の保育を見直し,保育にいかす記録として要録を捉えていることが確認された。
  • 門田 慧
    2019 年 57 巻 2 号 p. 137-147
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/06/05
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,母親の母性信仰度に関する質問紙調査によって母親の母性を信じる母性観が夫婦での役割分担への満足度に与える影響について検討することであった。長崎と高知で調査を行い,調査対象者424 名うち279 名から協力を得た。
    母性信仰度3群における夫婦間役割分担満足度を比較する分散分析の結果,差は認められなかった。一方で,信仰度群別で夫の家事・育児参加を比較する分散分析の結果,母性信仰度と夫の家事への参加には関連があることが示された。
    さらに,母性信仰度3群において役割分担満足度への夫のサポートの効果を検討する重回帰分析の結果,女性の母性信仰度によって効果的な夫のサポートに違いがあることが明らかとなった。
第2部 国際的研究動向
  • 劉 郷英
    2019 年 57 巻 2 号 p. 150-166
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/06/05
    ジャーナル フリー
    本稿では,筆者による近年の研究と調査を踏まえて,乳幼児教育・保育システム(システムの変化,幼児園の教育・保育活動),保育者養成改革(養成システム,養成課程開発),教育・保育の質向上の取り組み(教育・保育研究活動による質向上の歩み,新しい教育実践の創出)に焦点を当てて,1978 年~ 2018年までの40 年間の改革の歩みを振り返り,中国における乳幼児教育・保育改革の全体像を明らかにした。その上に,今後の課題としては,3 歳以上の幼児の就学前教育の普及,保育者養成の質と量の保障,3 歳未満児の保育・教育システム作りと3 歳未満児担任保育者の養成が指摘された。
英文目次
編集後記
奥付
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