保育学研究
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59 巻, 1 号
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<巻頭言>
第1部 自由論文
原著<論文>
  • ―単元「幼稚園の新しいおうち」の計画作成に至るまでを中心に―
    小尾 麻希子
    2021 年 59 巻 1 号 p. 7-20
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/25
    ジャーナル フリー
    本研究は,1954年の徳島大学学芸学部附属幼稚園において作成された単元「幼稚園の新しいおうち」の計画が,どのような研究活動上に創出された計画であったのかを,その当時の実践的資料に基づいて明らかにすることを目的とした。研究の結果,明らかとなったのは次の3点である。第1に,幼児の生活経験に着眼した発達調査の実施,第2に,調査結果に基づいて,5歳児にとっての「のぞましい能力」を選定し,保育内容の精選化を図った,第3に,「のぞましい能力」を生活経験の範囲と発達の順序に沿って組織した「5才児の能力表」を作成し,系統的・組織的な保育内容の構築を実現したことである。この単元の計画には,新園舎の建築という幼児を取り巻く生活環境とそこでの幼児の生活に立脚して構想された遊びの中に,「のぞましい能力」を組織的・系統的に位置づけていこうとする意図があったのである。
  • ―「教育」から「学習」への転換をめぐる議論との関係に着目して―
    藤谷 未央
    2021 年 59 巻 1 号 p. 21-32
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/25
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,臨時教育審議会で生じた「教育」から「学習」への政策転換をめぐる議論に焦点を当て,その中で幼児教育がいかに位置づけられ,いかに方向づけられたのかを明らかにすることである。関係資料の分析の結果,臨時教育審議会では学習者である国民の自発性を育成することが重視され,幼児期から学習意欲や自己教育力を培う必要性が議論されていた。そして,幼稚園教育の内容も,その方針に沿う形で見直されていた。すなわち,幼児教育は臨時教育審議会の議論によって「生涯学習体系」の一部を担うものとされ,学習社会を生きていくために必要な自発性を培っていくことが求められていた。
  • ―保育者からのルール違反の禁止に対する幼児の反応の分析―
    深津 さよこ, 岩立 京子
    2021 年 59 巻 1 号 p. 33-44
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/25
    ジャーナル フリー
    本研究では,幼児期初期の罪悪感の芽生えを「後ろめたさ」と名付け,苦痛,緊張,視線回避等の指標から捉えていく。保育所の担任保育者と生後9から18か月児との相互作用によって現れた「後ろめたさ」と,「保育者を確認する姿」(深津・岩立,2019)との関連を検討した。その結果,後ろめたさの表出が見られ,この時期の子どもの経験や行動レパートリーの不足から違反への謝罪や修復行動には至らないと解釈された。また,「保育者を確認する姿」は,「後ろめたさ」の表出であり,保育者の情動や意図を確認する役割があると考察した。さらに,保育者との信頼関係を基に「後ろめたさ」の感情を経験し,他者からの自己への評価に気付き始めると考えられる。
  • ―保育者と幼児の性別の組み合わせが幼児の身体活動に与える効果の検証―
    山中 拓真, 本多 舞
    2021 年 59 巻 1 号 p. 45-56
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/25
    ジャーナル フリー
    男性保育者のダイナミックな遊びへの期待は,保育関係者が彼らを肯定的に評価する伝統的な理由の1つであるものの,保育者の性別によって幼児の身体活動量が変化するかは,十分に検証されていない。そこで本稿は,保育者と幼児の性別の組み合わせによる幼児の身体活動への影響を検証した。幼児と彼らを受け持つ保育者の性別を組み合わせた鬼ごっこを実施し,万歩計を用いて幼児の歩数を測定した。結果,遊び相手が男性保育者であるときよりも女性保育者であるとき,男児の歩数は低下した。これは,男性保育者と日常的に交流する機会がない場合,男児の身体活動が日々抑制される可能性を示唆している。男児の身体活動を促進して身体的健康を増進する観点から,男性保育者増加政策は支持できる。
  • 上村 晶
    2021 年 59 巻 1 号 p. 57-68
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/25
    ジャーナル フリー
    本研究は,初任保育者の子ども理解のゆきづまりの構造を解明するため,初任保育者3名へ半構造化インタビューを行い,テーマ分析と発生の三層モデルを踏まえた複線径路・等至性モデルでゆきづまり場面を分析した。その結果,①表面的理解・判断,②本児理解の未的確さ,③個と集団のバランスに基づくゆきづまりが見出された。また,本児のポジティブな見とりでもゆきづまりが生じやすいこと,二者関係内要因,初任期特有要因,他児・集団要因,個人内要因など多様な要因が影響を及ぼすことが明らかになった。これらのゆきづまりは,単に子ども理解を停滞させるものでなく,“わかり合おうとする志向性”が潜在するからこそ生じた事象であることが示唆された。
  • ―保育者と幼児の関わり合いに着目して―
    勝野 愛子
    2021 年 59 巻 1 号 p. 69-80
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/25
    ジャーナル フリー
    本研究は,保育者は年長児の情動調整をどのように捉え,関わっているのか,また,その保育者の関わりを通して年長児の情動調整はどう育っていったのかを明らかにする。そのために,インタビューを通しての「語り合い」法というアプローチによって,年長児担任のキクノ先生から得られた語りを分析した。その結果,キクノ先生が年長児の情動調整を,「心根を変える」ことだと捉えており,それは,単に,問題解決のために情動を調整するのではなく,問題に対して向かっていこうとする力と,そこで生じる情動を調整しようとする力を培って欲しい,延いては年長児は,その力を発揮できると捉えていることがわかった。
  • ―アフォーダンスの視点からの検討―
    渡邉 真帆
    2021 年 59 巻 1 号 p. 81-92
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/25
    ジャーナル フリー
    本研究は,幼稚園3歳児クラスにおける登園後の身支度場面において,保育室の物的環境が子どもに促した行為をアフォーダンスの視点から明らかにした。データ収集は,4月~7月の間,3園を対象にビデオカメラを用いて行った。分析は,1)子どもの身支度開始から終了までの時間を計測し,2)その間の行為を文字化したエピソードを検討した。結果は,まず,身支度に関する物的環境が,子どもに身支度の効率化を促すと明らかになった。一方で,身支度場面において保育室内に同時に構成される遊びのための物的環境などが子どもに身支度以外の行為を促すこと,持参物が身支度以外の行為を促すことも明らかになった。また,身支度にかける時間が4月から7月の間で必ずしも短縮しなかったことからも,保育室の物的環境が子どもの身支度の行為を促すのみではないことも明らかになった。
  • ポーター 倫子, 田邊 圭子
    2021 年 59 巻 1 号 p. 93-104
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/25
    ジャーナル フリー
    本研究では,現在の育児雑誌に紹介されている専門家の助言の内容分析を行い,食事や授乳に関する助言について明らかにすることを目的とした。分析には,2015-2019に出版された2種類の育児雑誌の中から,0-2歳児の親を対象に書かれた食事や授乳に関する43記事を使用した。その結果,全体の9割の記事に,食に対する子どもの個性や主体性を尊重し,育成するため助言【子ども中心】が出現した。また子どもの食事や授乳に関する悩みや不安を緩和するための【母親への配慮】が7割の記事に出現し,さらに半数以上の記事に子どもの思いや行動への【応答性】や【統制】を重視する助言がみられた。全体を通し,性善説的な子ども観や母子の緊密な関係性の重視等,日本的な育児の特徴が反映されていることが認められた。
  • ―制度ロジック概念を手がかりとして―
    石井 美和
    2021 年 59 巻 1 号 p. 105-116
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/25
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,保育者が子育て支援という新しい実践を形成するプロセスを通じて,どのように保育者アイデンティティを再構築するのかを明らかにすることである。その際,新制度派組織論における制度ロジック概念を参照することにより,保育者が用いる論理に着目する。本研究では,子育て支援に早くから取り組んできた幼稚園教諭1名へのインタビューデータを分析した。その結果,市場ロジックと共同体ロジックの矛盾が子育て支援実践の形成の契機となっていることが明らかになった。また,保育者は自律性を拡大する形でアイデンティティを再構築していることが明らかになった。
  • ―園長を対象とした質問紙調査から―
    加藤 由美, 安藤 美華代
    2021 年 59 巻 1 号 p. 117-130
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/25
    ジャーナル フリー
    若手保育者の離職防止の手がかりを得るため,2018年に私立幼稚園,認定こども園,法人立保育園の園長等を対象に自記式調査を実施し,179名の回答を分析した。若手保育者の早期離職を防ぐ取り組みとして「職員同士の関係作り」「職場環境の整備」「職務内容」に関する記述が見られ,離職者が無い園では有る園よりも「職員同士の関係作り」が多くなされている事が示唆された。若手保育者の早期離職に関する園長の気付きとして「若手保育者の印象」「若手保育者への支援」「養成校への要望」「悩み・難しさ」「若手保育者への要望」に関する記述が見られた。以上より,学生の保育者としての心構えやコミュニケーション力の育成に着目した保育者養成教育の必要性が示唆された。
応募要項
第2部 保育の歩み(その1)
英文目次
編集後記
奥付
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