北欧諸国(デンマーク,フィンランド,アイスランド,ノルウェー,スウェーデン)は,包括的な福祉国家体制と革新的な政策を基盤として,生活の質や子どもの教育成果において常に高い評価を得ている。総人口2,800万人を超えるこれらの民主主義国家は,遊びと全人的成長の調和を通してサステナブルな未来の価値を重視し,幼児教育と保育(ECEC)および家族政策において包括的なアプローチを展開している。また,親の共同責任の理念や,すべての子どもに開かれた包摂的な場としてのECEC組織の役割も,その根幹を成している。本論は,歴史的および国際的要因を踏まえつつ,北欧型ECECモデルが独自の枠組みとして成立するかどうかを検証する。北欧諸国には共通する特徴が見られる一方で,各国固有の違いも存在することから,単一のECECモデルという概念を批判的に検証する必要がある。このような分析は,これらの制度を形成するうえでの独自性と国際的観点の重要性を明らかにするものである。さらに本論では,国際教育や哲学的対話の知見を踏まえつつ,北欧のECECモデルが広範な文化的・環境的影響を受けながら発展してきた過程を明らかする。加えて,北欧の幼児教育が子どもの発達を学問的な側面にとどまらず,情緒的・社会的側面を含めた「全体」として支援することを重視している点を指摘する。とりわけ,芸術的表現や屋外での身体活動が中心的な役割を果たしていることを強調する。本稿は,北欧の福祉国家政策,文化的価値観,そして子ども観が交差することで,包摂性,子どもの権利と遊びの尊重,そして学びと発達への全体的アプローチを特徴とする独自のECECシステムがいかに形成されてきたかを明らかにし,既存研究の空白を補う。最後に,ECEC分野における知の創出を支える研究基盤の近年の発展にも焦点を当て,これまで十分に論じられてこなかった側面を掘り下げる。
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