運動疫学研究
Online ISSN : 2434-2017
Print ISSN : 1347-5827
17 巻, 2 号
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巻頭言
総説
  • Adrian Bauman, 鎌田 真光
    2015 年 17 巻 2 号 p. 75-80
    発行日: 2015/09/30
    公開日: 2020/04/10
    ジャーナル フリー

    2020年に東京でオリンピック・パラリンピック(以下,五輪)が開催されることは,そのレガシー(長期にわたる,特にポジティブな影響)として,健康・身体活動レガシーを創出する機会となる。本稿では,まず先行研究をもとに,過去の五輪が開催国の身体活動およびスポーツの実施率向上につながったかを検証する。2000年夏季シドニー大会および2010年冬季バンクーバー大会に関する研究と,2012年夏季ロンドン大会に関する予備的検証では,国民代表サンプルの成人もしくは子どもを対象として,大会開催前後の複数回にわたる連続的な調査をもとに評価されたが,いずれも身体活動またはスポーツ実施率の増加は認められなかった。2020年東京大会の開催は,健康分野,スポーツ分野,オリンピック・ムーブメント,そして運動疫学の専門家が一体となって,身体活動・スポーツの促進に向けてマス・メディア・キャンペーンや地域社会全体を巻き込んだ複合的な介入を計画・実施・評価する機会となり得る。こうした取り組みは五輪開催の数年前から開始する必要があり,大会開催の契機を十分に生かさなければならない。レガシー実現の達成度について,その潜在的な効果を評価するには,日本国民の代表サンプルを対象とする標準化された評価方法に基づくモニタリング・システムが必要である。

  • 松尾 知明
    2015 年 17 巻 2 号 p. 81-89
    発行日: 2015/09/30
    公開日: 2020/04/10
    ジャーナル フリー

    本邦の体力科学研究は労働衛生との繋がりの中で発展してきた一面があるが,最近は“労働者の体力”を主要テーマに掲げる研究は少ない。しかし,現在の我が国が抱える重要課題の1つ“少子高齢化・人口減少”の問題を考えるにあたり,労働衛生と体力科学の繋がりを再認識することは重要である。習慣的な運動実践が身体に好影響を及ぼすことを分かっていても,現代に生きる忙しい労働者にとって,その実践は難しい。その一方で,職務時間の大部分を座位で過ごすような働き方をする人は増えている。どのようなアプローチが可能だろうか。労働衛生としては特殊な例であるが,宇宙飛行士の健康リスク軽減策は,生活習慣病対策を考えるうえで参考になる。多忙な宇宙飛行士が他の時間を削ってまで運動時間を確保するのはなぜか。体力低下が彼らの生命を脅かすためである。体力低下が健康や生命を脅かすリスクとなるのは,宇宙飛行士に限った話ではない。宇宙飛行士に職務として認められている“職場での運動”を,我が国の企業などに拡げることはできないだろうか。多くの労働者が長い時間を過ごす職場を“健康増進の拠点”にできれば,各企業だけでなく,国力の観点からも,意義ある取り組みとなる可能性がある。「長く,元気に働くこと」 を目指す社会に,体力科学が果たすべき役割は大きい。

  • 熊谷 秋三, 田中 茂穂, 岸本 裕歩, 内藤 義彦
    2015 年 17 巻 2 号 p. 90-103
    発行日: 2015/09/30
    公開日: 2020/04/10
    ジャーナル フリー

    自由生活下における単位時間の身体活動の強度を最も正確に推定できる方法は,加速度センサーを用いた活動量計である。加速度センサーを内蔵する活動量計は,加速度と身体活動強度との間に相関がみられることを利用して,活動強度を推定する。従来は,上下方向だけ(一軸)の加速度センサーであったが,最近は二~三軸の加速度センサーが主流である。歩行を含む日常生活でみられる活動の多くは,±2G(重力加速度;1 G=9.8 m/s2)以内であるが,歩行以外の日常生活の場合は,多くが数十mG かそれ以下,座位行動の場合は20 mG 程度以下であることから,座位行動を含む低強度の活動強度を評価するにあたっては,低強度での分解能が要求される。歩・走行とそれ以外の活動では,加速度と活動強度との関係式が異なるが,それらを判別するために,加速度の大きさを反映するカウントの変動係数,垂直と水平成分の比率,および重力加速度から姿勢の変化をとらえる方法などが提案されている。特に強度が弱い活動において,三軸加速度センサー内蔵活動量計(Active style Pro)の推定誤差が小さい。なお,自転車漕ぎ,坂道の昇り降り,重い物を持っての自立姿勢などにおいては,加速度の大きさは,必ずしもエネルギー消費量と対応しないため,機種やアルゴリズムを確認したうえで使用する必要がある。我々は,Active style Proを用いて久山町住民を対象に身体活動を調査した。活動強度3メッツ以上の活動量は男女ともに加齢に伴い有意に減少し,その身体活動パターンには性差が存在することを明らかになった。すなわち,男性では歩・走行活動が多い一方で座位時間も長く,女性では歩・走行以外の活動によって活動量を維持する傾向にあることが観察された。更に,三軸加速度センサー内蔵活動量計を用いた疫学研究の意義および可能性について要約した。最後に,現在継続中もしくは実施予定の三軸加速度センサー内蔵活動量計を用いた縦断研究(前向きコホート研究含む)を紹介した。これらの継続中の疫学研究は,三軸加速度センサー内蔵活動量計による客観的調査に基づいた軽強度,中高強度の身体活動および座位行動に関連したガイドライン開発に必要である有効な情報をもたらすであろう。

  • 笹井 浩行, 中田 由夫
    2015 年 17 巻 2 号 p. 104-112
    発行日: 2015/09/30
    公開日: 2020/04/10
    ジャーナル フリー

    人が1日に使える時間は有限であり,その内訳である各行動は相互依存的に配分される。最近,この相互依存性を考慮した解析手法「isotemporal substitution(IS)モデル」を用いた運動疫学論文が増え,その有益性が示されている。しかし,我が国でISモデルを適用した論文や解説は皆無である。本総説では,ISモデルについて解説し,文献レビューに基づき今後の研究課題を提案することを目的とした。ISモデルは,「ある行動を等量の別の行動に置き換えたときの目的変数への影響を推定する手法」と定義できる。データセットは,全体の総和を表す変数とその内訳となる説明変数で構成され,解析では,内訳を構成する1つの変数を除く,すべての変数を回帰モデルに投入する。総和を表す変数が回帰モデルに投入されていることから,総和が統計学上固定されることとなり,ある変数を他の変数に置き換えたときの目的変数に対する「置き換え」効果の推定を可能とする。ISモデルの最大の利点は解釈が容易で,公衆衛生勧奨や健康運動指導との親和性が高いことである。2015年7月29日現在で,ISモデルを用いた運動疫学研究が12編報告されている。文献レビューにより,活動様式や姿勢を曝露変数とした研究や,有疾患者を対象とした研究,コホート研究が少ないことが明らかとなった。これらは今後の重要な研究課題となる。本総説を契機に,我が国でISモデルが積極的に活用されることを期待したい。

資料
  • 中田 由夫, 笹井 浩行, 北畠 義典, 種田 行男
    2015 年 17 巻 2 号 p. 113-117
    発行日: 2015/09/30
    公開日: 2020/04/10
    ジャーナル フリー

    現在,身体活動が健康増進や疾病予防に有用であることのエビデンスは数多くある。しかしながら,多くのエビデンスは観察研究によるものであり,特に我が国における介入研究によるエビデンスの蓄積は十分ではない。そこで,著者らは日本運動疫学会プロジェクト研究として,「介入研究によるエビデンスの『つくる・伝える・使う』の促進に向けた基盤整備」を立ち上げた。本プロジェクト研究の目的は,我が国における介入研究によるエビデンスを整理し,健康支援現場で実践するための,より具体的な情報を提供することによって,運動疫学分野におけるエビデンスの「つくる・伝える・使う」を促進することである。本稿では,本プロジェクト研究の遂行に向けて,情報提供を呼びかけることを目的とする。本プロジェクト研究の対象は,我が国における身体活動・運動(栄養を含む)を用いた研究とする。アウトカムとしては,生活習慣病(肥満,高血圧,脂質異常,糖尿病),関節疾患(腰痛・膝痛),認知症,要介護,睡眠(不眠,睡眠時無呼吸症候群),メンタルヘルス,体力,身体活動量などが挙げられる。エビデンスが発表されていなければ,エビデンスづくりに取り組んでいただきたい(つくる)。エビデンスとして発表されている介入方法については,その詳細を資料論文として投稿していただきたい(伝える)。一連の情報を日本運動疫学会のウェブサイトに掲載することで,健康支援現場でのエビデンス利用(使う)が促進されることを期待している。

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