運動疫学研究
Online ISSN : 2434-2017
Print ISSN : 1347-5827
18 巻, 2 号
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巻頭言
原著
  • 江尻 愛美, 柴田 愛, 石井 香織, 仲 貴子, 岡 浩一朗
    2016 年 18 巻 2 号 p. 67-75
    発行日: 2016/09/30
    公開日: 2019/12/21
    ジャーナル フリー

    目的:地域在住高齢者における腰痛の強度別の有訴率,腰痛の強度と抑うつ症状の関連,運動習慣が腰痛と抑うつ症状の関連に与える影響を横断的に明らかにすること。

    方法:千葉県松戸市の住民基本台帳より無作為抽出した65歳から84歳の高齢者3,000名に対して郵送法による質問紙調査を実施し,1,051名より有効回答を得た。調査内容は,腰痛の強度,抑うつ症状,運動習慣,人口学的・社会経済的属性,生活習慣,現病歴だった。腰痛の強度と抑うつ症状の関連および腰痛と運動習慣の抑うつ症状への複合的な関連を検討するため,多重ロジスティック回帰分析を行った。

    結果:腰痛の有訴率は47.7%(軽度:35.2%,中程度:10.0%,強度:2.5%)だった。腰痛がない者を参照群とすると,軽度の腰痛を有する者(オッズ比(OR)=1.8595%信頼区間(95CI): 1.23-2.79),中程度以上の腰痛を有する者(OR=2.0395CI: 1.15-3.58)は,抑うつ症状の増加と有意に関連していた。腰痛の強度と運動習慣の複合的な関連を検討した結果,腰痛なし・運動習慣あり群を参照群とすると,軽度の腰痛あり・運動習慣なし群(OR=2.8595CI: 1.63-4.98),中程度以上の腰痛あり・運動習慣なし群(OR=2.9295CI: 1.42-6.00)は,抑うつ症状を有することと有意に関連していた。

    結論:地域在住高齢者の約半数は腰痛を抱えており,その4分の1は中程度以上の腰痛を有していた。また,腰痛の強度と抑うつ症状に有意な正の関連が認められた。更に,運動習慣がない群は,ある群よりも,腰痛の強度と抑うつ症状との関連が強くなる傾向があった。

  • ―改変型RE-AIMモデル:PAIREM―
    重松 良祐, 鎌田 真光, 岡田 真平, 佐藤 文音, 大藏 倫博, 中垣内 真樹, 北湯口 純, 鈴木 玲子
    2016 年 18 巻 2 号 p. 76-87
    発行日: 2016/09/30
    公開日: 2019/12/21
    ジャーナル フリー

    目的:身体活動促進のポピュレーションアプローチによる事業展開には,広報や住民認知度の向上,効果の検証,継続といった複数の局面が存在する。しかし,これら複数の局面を体系的に評価し,各局面の評価指標まで具体的に示した枠組みは見当たらない。そこで本研究では身体活動促進事業を評価する方法を作成することとした。

    方法:自治体の事業(ポピュレーションアプローチ)に精通している研究者ら17名が先行研究を踏まえて評価モデルを採択し,モデルに沿って局面を測定する項目を設定した。その後,これらの項目に6市町の既存データを適用した。

    結果RE-AIMという5局面モデルが事業の多面性を反映していることから,このモデルを採択した。ただし,開始前の計画局面を付加し6局面とした。各局面の主な項目は以下のとおりである。[計画局面]健康目標やターゲット集団を定める。[採用局面]実施した行政区等の割合を算出する。[実施局面]ターゲット集団に向けた情報提供や教育機会,サポート環境の状況を記録する。[到達局面]情報や教育が提供されたターゲット集団の割合を測る。[効果局面]身体活動実施率の変化といった健康目標の達成状況を示す。[継続局面]長期経過後の採用と効果を表す。モデルを6市町のデータに適用したところ,すべての局面を評価することができた。

    結論:身体活動促進のポピュレーションアプローチを俯瞰的に評価する改変型RE-AIMモデル:PAIREM(ペアレム)と測定項目を作成できた。この評価方法を活用することでポピュレーションアプローチのプロセスを随時確認・改善でき,かつ健康目標の達成具合を客観的に評価できるようになる。

    Editor's pick

    2019年度日本運動疫学会優秀論文賞 受賞論文
    自治体等における身体活動促進のためのポピュレーションアプローチの事業展開に際して、複数段階からなるプロセスを体系的に評価する手法を提案した研究である。目標達成状況や進捗状況の可視化などを通じて問題点が鮮明になり、事業のブラッシュアップに繋がることが予想され、ひいては集団レベルでの身体活動促進に資する研究といえる。その評価方法を確立した本論文の価値は非常に高い。非定型的な疫学研究だが、公衆衛生活動・実践的な疫学研究に役立つ研究であり、成果物であるPAIREMモデルは今後の活用が期待できる。実際、他雑誌での引用も確認されており、論文そのものの波及効果が期待できる。本論文が土台となり、編集委員会の特集企画のテーマとして「地域での身体活動・運動の普及」が採用され、論文を広く募集している。

資料
  • 齋藤 義信, 小熊 祐子, 田中 あゆみ, 鎌田 真光, 井上 茂, 稲次 潤子, 小堀 悦孝
    2016 年 18 巻 2 号 p. 88-98
    発行日: 2016/09/30
    公開日: 2019/12/21
    ジャーナル フリー

    背景:身体活動が健康増進に有益なことは明らかになっているが,非活動的な者は多い。そのため地域(ポピュレーション)レベルの身体活動促進に関する知見の蓄積は重要である。近年,コミュニティ・ワイド・キャンペーン(Community-Wide Campaign; CWC)のような複合的なポピュレーション介入が推奨されているが,エビデンスは十分でない。厚生労働省では,健康づくりのための身体活動指針(アクティブガイド)を発表し,身体活動促進の普及啓発を行っている。今後,地域でどのようにアクティブガイドを活用できるかを検討し,知見を蓄積していくことが重要である。

    目的:本研究はアクティブガイドを活用したCWCが,ポピュレーションレベルで住民の身体活動量増加につながるかを明らかにすることを目的とした。

    方法:研究デザインは神奈川県藤沢市の全13地区を非ランダムに介入4地区,対照9地区に割り付けるクラスター・非ランダム化試験である。介入期間は2年間(20137月~20156月)とし,対照地区は従来の保健施策を行った。介入は60歳以上の高齢者を主ターゲットとし,①情報提供,②教育機会,③住民間のサポート・コミュニティ形成促進,の要素から構成した。主要評価項目は質問紙で求めた身体活動時間であり,介入前後に藤沢市が20歳以上の住民を無作為抽出して行う質問紙調査の結果を用いて比較する。副次評価項目はアクティブガイドの認知・知識のある者の割合の変化,身体活動の意図がある者の割合の変化等である。介入全体の評価は,RE-AIMモデルを適用する。

  • 西口 周, 山田 実
    2016 年 18 巻 2 号 p. 99-104
    発行日: 2016/09/30
    公開日: 2019/12/21
    ジャーナル フリー

    我々は,地域在住高齢者を対象に認知機能,脳活動効率改善を目的とした複合型運動プログラムを開発し,その有効性をランダム化比較試験によって明らかにした。本資料論文では,日本運動疫学会プロジェクト研究「介入研究によるエビデンスの『つくる・伝える・使う』の促進に向けた基盤整備」の呼びかけに対し,認知機能,脳活動効率改善を目的とした複合型運動プログラムのエビデンスを提供し,介入プログラムの一般化可能性を評価する枠組みであるRE-AIMの観点から検討した。本プログラムに参加した高齢者は母集団のごく一部であり,到達度は低い。しかし,対象者の運動・認知機能レベルは一般化が可能なレベルである(reach)。有効性(effectiveness)に関しては,記憶機能,遂行機能の改善を認めており,その背景として脳活動効率の増加, 身体活動量の増加について有効性が認められている。採用度(adoption)に関しては,実施環境・設備等は比較的一般化可能である規模であるが,科学的な枠組みでの評価が必要である。本プログラムの実施精度(implementation)や維持度(maintenance)については今後の検証が必要である。以上のように,課題は残されているが,比較的簡易に実施可能で短期間で認知機能改善をもたらす介入手法として,介護予防現場での積極的な活用が期待される。

  • 重松 良祐
    2016 年 18 巻 2 号 p. 105-112
    発行日: 2016/09/30
    公開日: 2019/12/21
    ジャーナル フリー

    筆者は共同研究者とともにスクエアステップ(SSE)という運動プログラムを開発し,ランダム化比較試験を含む複数の検討を通じて,転倒や認知機能に一定の効果があることを確認してきた。ある自治体の協力を得てこのプログラムを5年間普及したところ,ターゲットにした高齢者の11.3%に届けることができた。参加した高齢者はSSEの課題を達成することに関する満足感や脳の活性化といった効果を得ていた。長期にわたって継続できることも確認しており,4年経過時でもベースライン時の63%の高齢者が継続していた。彼らの転倒リスク要因はベースライン時と同程度か,それよりも有意に改善していた。高齢者だけでなく子どもでの効果や音楽を使った効果を検証する研究者も現れている。現在はSSEを普及する指導者の養成システムを構築し,国内の介護予防に繋げている。2015年末までに4,490人の指導員やリーダーを養成したこともあり,SSEは多くの自治体で介護予防事業に取り入れられている。また,国外にも広がっており,これまでに7つの国・地域で研究されたり,高齢者への運動プログラムとして導入されたりしている。このうち4つの国・地域で協会支部を立ち上げており,介護予防事業にSSEを導入している。残りの3つの国ではSSEの効果が検証されている。以上のことから,SSEは高齢者の転倒予防や認知機能向上という効果をもたらすだけでなく,継続しやく,また国内外で普及できるといえる。

二次出版
  • Journal of Epidemiologyに掲載された英語論文の日本語による二次出版
    石井 香織, 柴田 愛, 岡 浩一朗
    2016 年 18 巻 2 号 p. 113-121
    発行日: 2016/09/30
    公開日: 2019/12/21
    ジャーナル フリー

    目的:健康リスクに影響を与えるスクリーンタイム(テレビ視聴やコンピューターの使用)の座位行動に関連する要因の検討が求められている。そこで本研究では,日本人成人におけるスクリーンタイムの座位行動と体重・体格および社会人口統計学的要因との関連を検討した。

    方法:日本の2つの地域に居住する4069歳の地域住民1,034名に対し横断調査を実施した。自己記入式質問紙にて社会人口統計学的要因,身長,体重およびスクリーンタイムの座位行動時間を調査した。BMIおよび20歳時からの体重増加によるスクリーンタイムの違いをMann-WhitneyU検定にて検討した。また,ロジスティック回帰分析により,スクリーンタイムに関連する社会人口統計学的要因を検討した。

    結果:平均年齢(標準偏差)は男性で55.6(8.4)歳,女性で55.3(8.4)歳,週あたりのスクリーンタイムの中央値(25パーセントタイル-75パーセントタイル)は男性で832.0(368.8-1263.1)分,女性で 852.6(426.0- 1307.5)分であった。20歳からの体重増加が10 kg以上の者は,10 kg未満の者よりスクリーンタイムが長かった(P = 0.08)。独身者,仕事に就いていない者は,よりスクリーンタイムが長かった。また,4049歳の者はそれ以上の者よりもスクリーンタイムが短かった。

    結論:本研究の結果は,特に高齢者,独身者,仕事に就いていない者に対するスクリーンタイムの座位行動を減少させるための対策の必要性を示している。

  • PLoS Oneに掲載された英語論文の二次出版
    山北 満哉, 金森 悟, 近藤 尚己, 近藤 克則
    2016 年 18 巻 2 号 p. 122-136
    発行日: 2016/09/30
    公開日: 2019/12/21
    ジャーナル フリー

    背景:スポーツグループに参加することは機能障害の発生を予防するために鍵となる重要な因子である。高齢者におけるスポーツグループの参加に関連する要因を明らかにすることは,効果的な健康政策を開発する一助となる可能性が考えられるが,その関連要因は明らかになっていない。そこで本研究は,日本人高齢者におけるスポーツグループへの参加に関連する人口統計学的・生物学的要因,心理社会的要因,行動要因,社会文化的要因,および環境要因を明らかにすることを目的とした。

    方法:日本全国31市町村の要介護認定を受けていない65歳以上の地域住民を対象としたコホート研究である日本老年学的評価研究からデータを得た(対象者数78,002名)。ポアソン回帰分析を用いて,スポーツグループへの参加に関連する要因を検討した。

    結果:人口統計学的・生物学的要因では,低学歴者,就業者,農林漁業職者において,心理社会的要因では,主観的健康感の低い人や抑うつの人においてスポーツグループの参加率が低かった。行動要因に関しては,喫煙者でスポーツグループの参加率が低く,飲酒習慣のある人では多かった。社会文化的要因については,情緒的なサポートがあることや趣味の会,老人会,ボランティアの会へ参加していることがスポーツグループへの高い参加率と関連していた。環境要因の中では,公園や歩道がある,店舗へのアクセスが良い,気軽に立ち寄れる施設へのアクセスが良いと認識している人でスポーツグループへの参加が多かった。

    結論:本研究は,高齢者のスポーツグループへの参加を促進するためには,人口統計学的・生物学的要因,心理社会的要因,行動要因,社会文化的要因,環境要因など広範囲にわたる要因を考慮する必要があることを示唆した。今後,因果関係を明らかにするための縦断的な検討が必要であるが,スポーツグループへの参加を促進するためには,社会的なネットワークを通して地域の活動への参加を促すことが効果的かもしれない。

その他
日本運動疫学会声明
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