目的:両親の収入や職業,学歴といった社会経済状況が子どもの運動時間に影響を及ぼすことが多数報告されているが,我が国の子どもを対象とした報告はほとんどみあたらない。本研究は,家庭の社会経済状況の指標として用いられている両親の学歴と子どもの運動時間との関連を検討することを目的とした。
方法:2011年7月に山梨県甲州市で実施した児童生徒の心の健康と生活習慣に関する調査に参加した小学4年生から中学3年生(9~15歳)とその両親を対象とした。両親の学歴は妊娠届出時に作成された母子管理カードより収集し,子どもの運動時間は質問紙により本人から回答を得た。児童生徒の月齢とBMIを調整したポアソン回帰分析を用いて,両親の学歴と子どもの運動時間の関連について検討を行った。
結果:658人(男子360人,女子298人)より追跡データが得られた(追跡率87.5%)。小学生の女子において,両親の学歴がともに13年以上の児童は,両親の学歴がともに12年以下の児童と比較して,1週間の総運動時間が7時間未満である割合が有意に多かった(Prevalence ratio: 1.30, 95%信頼区間: 1.00‐1.69, p = 0.0498)。男子,および中学生の女子では有意な関連は示されなかった。
結論:両親の学歴は小学生女子の運動時間と負の関連を示す可能性が示された。我が国においても子どもの運動時間に両親の社会経済状況が影響する可能性が示唆されたが,他の地域での更なる検証が必要である。
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Editor's pick
2020年度日本運動疫学会優秀論文賞 受賞論文
子どもの運動と両親の学歴という重要かつ興味深いテーマを扱った論文である。横断研究であるものの、その短所の影響を受けにくい両親の学歴を曝露要因として用いている点も研究の質を高めることに貢献している。疫学の作法に則って、丁寧に記述されている点も評価に値する。両親の学歴は容易には修正できない要因であることから、直接的な介入には困難が伴うが、健康行動(特に運動)の格差縮小のための集団レベルでの対策に資する成果となると期待される。