目的:本研究の目的は,地域在住高齢者を対象に1回目の緊急事態宣言前後における身体活動量の変化を客観的に明らかにすること,そして身体機能レベルによる変化の違いを明らかにすることである。
方法:本研究は縦断研究であり,神戸市在住の65歳以上の高齢者78名を対象とした。ベースライン調査は2019年9月上旬~10月上旬に,フォローアップ調査は2020年8月下旬~9月上旬に実施した。身体活動量は1軸加速度計を用いて,歩数(歩/日)と軽強度の活動(light-intensity physical activity; LPA)(分/日),中等度強度以上の活動(moderate/vigorous-intensity physical activity; MVPA)(分/日)を算出した。身体機能はShort Physical Performance Battery で評価し,8点以上を身体機能が高い群とした。統計解析では緊急事態宣言前後の身体活動量の変化を検討するためにウィルコクソンの符号順位検定を実施した。その後,目的変数を身体活動量の変化量,説明変数を身体機能,交絡因子を強制投入した線形回帰分析を実施した。
結果:平均年齢は76.4歳,女性は55名,身体機能が高い群は41名であった。歩数,LPA,MVPAは,緊急事態宣言前に比べて緊急事態宣言解除後3か月時点でも有意に減少していた(歩数の変化量:-1096歩/日[第1四分位数,第3四分位数:-1966, -55],LPAの変化量:-6分/日[-19, 1],MVPAの変化量:-5分/日[-11, 0])。更に,身体機能が高い群は低い群に比べて,歩数,MVPAの減少量が有意に大きかった(歩数:Β=-1276.6 [95%信頼区間=-2533.5 to-18.7],MVPA:Β=-11.5 [-20.7 to-2.2])。しかし,ベースラインの各身体活動量を調整因子として加えると,それらの関連は消失した。
結論:本研究は,歩数,LPA,MVPAが緊急事態宣言前に比べて解除後3か月時点でも有意に減少しており,歩数とMVPAの減少量は身体機能が高い人において大きかった。これらの知見は,コロナ禍における高齢者の活動量維持のための介入指針の一助になると考えられる。
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