リハビリテイション心理学研究
Online ISSN : 2436-6234
Print ISSN : 0389-5599
最新号
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原著
  • 脇浜 幸則, 田中 真理
    原稿種別: 原著
    2023 年 49 巻 1 号 p. 1-13
    発行日: 2023/12/20
    公開日: 2024/02/16
    ジャーナル フリー

    自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder, 以下ASD)者はユーモア理解やユーモア体験の難しさから他者とのユーモア共有が難しいことが指摘されている。この背景の認知的特性として,中枢性統合の弱さが考えられたため,どこがおもしろいかを明示する役割のある「ツッコミ」がASD者のユーモア促進に有用であると考えられた。そこで,本研究は「ツッコミ」という補足的言語情報がASD者のユーモア理解とユーモア体験に与える影響について,16〜37歳のASD者13名と16〜30歳の典型発達(Typically Development, 以下TD)者26名を対象に検討した。その結果,ASD者においては「ツッコミ」がユーモアにおける「オチの理解」を促進するものの,ユーモア体験は促進されないことが示唆された。このことから,TD者は「ツッコミ」が示したおもしろさと同じユーモア体験をしている一方で,ASD者はおもしろさを感じやすいものがTD者と異なることや,独自のユーモア理解からユーモア体験が生じている可能性が示唆された。

  • 山﨑 真義
    原稿種別: 原著
    2023 年 49 巻 1 号 p. 15-29
    発行日: 2023/12/20
    公開日: 2024/02/16
    ジャーナル フリー

    本研究では,カナー型自閉スペクトラム症児・者2名に対して3日間9セッションという短期間の動作法を適用することにより,どのような問題行動に効果を及ぼす可能性があるかを検証した。問題行動の改善を見る指標としてABC-J(異常行動チェックリスト日本語版)を使用した。また,問題行動が改善する要因の1つの可能性として対人関係発達に着目した。評価する指標としてアイコンタクトの数と持続時間の計測を行った。また,動作法実践場面のトレーナーとのやりとりの質の変化も評価した。結果として,2名ともアイコンタクトの数と持続時間の割合が増加し,やりとりの質も向上した。また,「興奮性」「多動」「無気力」の3つの項目でABC-Jのスコアが大きく減少し,短期間の動作法適用であっても,これらの問題行動が改善される可能性が示唆された。さらにこれらの問題行動が改善する要因として対人関係発達の促進が関係している可能性について考察した。

  • ――複線径路・等至性モデルを用いて――
    藤田 由起, 遠矢 浩一
    原稿種別: 原著
    2023 年 49 巻 1 号 p. 31-42
    発行日: 2023/12/20
    公開日: 2024/02/16
    ジャーナル フリー

    本研究では,ヤングケアラーの健康的で前向きな生き方に必要な要素についての検討を目的とし,母親のケア経験がある大学生への半構造化面接を実施した。その結果,ケアのある生活の中で,肯定的・否定的両方の感情を体験してきたことが語られた。一方で,対象者の語りから,ケア役割を担いながらも子どもが健康的かつ前向きに生きていくために必要な要素として,①ケアの受け手やもう片方の親との親子としての関わりが継続的にあること,②他の家族と協力しながらケアを担える環境であること,③家族外に家族の状況を話せる存在がいること,④ケアの受け手自身が社会参加できる場や,受け手自身の心理的支えになる存在が家族外にいること,⑤自身のやりたいことに集中できる環境が確保されていることの5点が考えられた。これらから,子どもがケアを担うことを悪だと捉えるのではなく,個々の家族でのより良いバランスや家族の在り方の模索が大切と考えられた。

事例研究
  • 古賀 精治, 菊池 まこと, 古長 治基
    原稿種別: 事例研究
    2023 年 49 巻 1 号 p. 43-52
    発行日: 2023/12/20
    公開日: 2024/02/16
    ジャーナル フリー

    肢体不自由者にとって大学等への進学は進路選択における有力な選択肢であるが,大学等ではタイピングスキルの習得に起因する困難が想定される。本研究では,アテトーゼ型の脳性まひを有する特別支援学校(肢体不自由)高等部3年生の男子生徒に対して,タイピングスキルの向上を目指した動作法による指導を継続的に行った。指導の結果,片手打ち条件においてはタイピングスキルに変化はみられなかったものの,上体を傾けることなくタイピングすることができるようになった。両手打ち条件においては,タイピングスキルの向上がみられたほか,指導後は肘を降ろして両手の指をキーボードに乗せたままタイピングすることができるようになった。以上の結果より,過度な緊張を緩め,姿勢保持の力を高めつつ上肢の操作性を向上させることは,パソコン操作における脳性まひ者の自由度を高め,キーボード操作の困難性を軽減するために有効であることが示唆された。

  • 本吉 大介
    原稿種別: 事例研究
    2023 年 49 巻 1 号 p. 53-65
    発行日: 2023/12/20
    公開日: 2024/02/16
    ジャーナル フリー

    特別支援教育の自立活動において,臨床動作法の理論や技法の応用は選択肢のひとつである。臨床動作法は身体運動の改善だけではなく,心理的側面を視野に入れた指導も可能なアプローチであり,本研究はその一端を示すことを目的とした。本研究では,知的障害がない肢体不自由児1名(小学校5年生,特別支援学級在籍以下,A児)に対して自立活動の視点から指導計画を作成し,動作による学習指導・支援を行った。A児は動作課題を通して身体の特徴や動作の困難,痛みなどに向き合う経験が初めてであり,回避や困惑などがあった。そこで,言語コミュニケーションを充実させ,課題に向かう心構えにアプローチした。また,立位姿勢や歩行の中で,援助を受けながら姿勢保持や歩行を体験することで意欲を高めるようにリードした。その結果,家庭で自主的に歩行練習に取り組むなど主体的な取り組みを促すことにつながった。最後に,自立活動の視点を取り入れた臨床動作法の展開の意義について考察した。

展望
  • ――方法論上の位置づけと共有された意図性の発達からの考察――
    干川 隆
    原稿種別: 展望
    2023 年 49 巻 1 号 p. 67-79
    発行日: 2023/12/20
    公開日: 2024/02/16
    ジャーナル フリー

    自閉症スペクトラム障害(ASD)の子どもの共同注意の発達を促す方法として,動作法指導パッケージ(DHIP)がある。本研究は,DHIPの1)方法論上の位置づけと2)共有された意図性の発達(Tomasello, 2005)から考察を行うことを目的とした。1)として,最近のASDの子どもの介入方法としての応用行動分析(ABA)と発達心理学の融合による自然な発達的行動介入(NDBI)とDHIPとの比較を行った。その結果,類似点はABAの技法を用いて共同注意得点などのASDの中核症状を変化の指標にしていた点であった。相違点はNDBIが共同注意行動を身体的なガイドで形成していたのに対して,DHIPが身体を通じたやりとりの結果として共同注意行動が形成された点であった。2)として,動作法での身体を通じたやりとりの段階は,二者間の関与,三者間の関与,協力的関与の共有された意図性の発達段階により考察された。

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