不景気が社会に全体的に影響を与えているということは周知の事実である。2009年7月から有効求人倍率が3ヶ月連続、史上最低の0.42になり、30歳以下のニートが64万人に増えたり、今年の自殺者数が22,362人にすでに達したりする実例を見ると日本にもグローバル的な危機が到着したということが分かる。その中で、最近研究者の間で興味を持たれているサービス業界の一部分、スピリチュアル・ビジネスという現象にも不景気の影響が表れている。「スピリチュアル・ブームは終わった」と発言するセラピストがいる一方で、「不況でお客さんが殺到した」と言い出すヒーラーの方が多いようである。しかし、日本の社会経済的状況が今さらスピリチュアル・ビジネスの行方とかかわるわけではない。ここで紹介する65人のスピリチュアル・セラピストのケースを分析しながら、著者はスピリチュアル・サービスという業界の発展が1980年以降の日本の経済と密接な関係を持っていると論じる。スピリチュアル・セラピストの生まれた年、セラピストになろうと考え始めた年とサロンを開いた年をグラフに表してみるとセラピストが三世代に分類されること、セラピストへの道を歩み始めたのが90年代後半であること、サロンの半分以上が2005年以降に開店されたことが分かる。その結果をセラピストの話に照らし合わせた結果、著者は次の結論に到達した。ジョルジュ・バタイユの「普遍経済学」という理論を用いるなら、日本の1980年代の裕福な社会の剰余生産のおかげで、スピリチュアル・セラピストの初代になる人々が存在の意味を探るにあたり、西洋で人気だったニューエイジ概念と道具を追うことができ、使用し始めたということがいえる。その道具を日本に輸入した初代のセラピストがスピリチュアルの「場」(「場」はメアリー・C・ブリントンの概念である)の基礎を築いたともいえる。バブル崩壊の影響で「場」をなくし、そして二代目セラピストになる複数の日本人がそのスピリチュアル・「場」で社会化できたうえ、仕事を見つけることができたと著者は論じる。最後に三代目のセラピストは、そのスピリチュアル・「場」の存在を前提として前世代より速く、スピリチュアル・ビジネスをキャリアとして選び始めている世代なのである。
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