本稿では、パラトグラフィーおよびリンゴグラフィーという静的な生理音声学的方法を用いて、日本語のラ行子音を観察した。この方法は、塗布剤がついた口蓋あるいは舌で調音位置を判断するものであるが、/da/と/ra/の違いについては、接触面積の差によって破裂音かはじき音かという調音様式を判断できると想定した。結果として、両者の区別は接触面積が相対的に小さい方がはじき音であることが確認できた。他に/ra/が側面音になる者、/da/の調音の際に舌背全体が口蓋に接触する者がいることも確認できた。
子音文字の視覚情報処理に関する基礎実験として、4 名のヘブライ語母語話者に表2 の視覚刺激を呈示し、それらを黙読する指示を与えて事象関連電位を測定した。N170 に着目した予備実験(池田ほか2014)の結果は部分的にしか再現しなかったが、N170 とP250 の電位差に着目したところ、母音記号を付した刺激の方が付さないものよりも一貫して電位差が大きく、1 ユニットからなる刺激の方が2 ユニットのものより一貫して電位差が大きいという興味深い特徴が確認された。今回の実験結果から、ヘブライ文字の場合、N170 とP250 の電位差が母音記号の有無という物理量、およびユニット数という認知量を反映している可能性が示唆される。
本研究では、「いかだ:烏賊だ/筏」や「こうし:子牛/格子」のように、同じかな文字表記であっても形態素分析によって意味するところが変わる同字異義の語彙に対して、事象関連電位が関与するか否かを検証した。視覚刺激として格処理に関わらないという条件で形態素数が異なる組み合わせの語彙を被験者に提示し、文字知覚から前語彙的処理を行なっていると仮定されているN170 成分およびP250 成分を含んだ電位量の比較から、形態素処理が負荷となって事象関連電位に反映するかを試みた。結果として、N170 およびP250 成分については、O1、O2、T5、T6 において増大した。しかし、部位間および形態素の数の違いに関して電位量については有意差が得られなかった。この点から、形態素処理に関しては特段の負荷がかかっていないため、事象関連電位に反映しなかったと考察した。
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