脳卒中片麻痺患者に対する理学療法のあり方について, 多くの理学療法士がアピール, あるいは実践報告している。それらの中には豊富な臨床経験と注意深い観察に基づいて発想され, 我々に共感を与えてくれるものも少なくはない。神経生理学的アプローチや神経発達学的アプローチもその中のひとつである。それらが, 日本における中枢神経障害に対するアプローチをこの20年余りリードしてきたのは事実であり, その功績を否定するものではない。しかし, その多くは学問的に普遍化されておらず, 各方面からその効果については否定的な報告がなされている。特に, Bobathのいう神経発達学的アプローチに対する厳しい批判は記憶に新しいが, 違った見方をすると, それだけ多くの人が興味を持っているということでもある。目の前で今まで見たこともない変化を見せ付けられる。そこには, "事実" が存在している。即ち, 科学の原点であり, 素晴らしいことである。しかし, それは個々の症例であって, 集合的なデータとして数値で示されるものではない。患者も刻々と変化しながら我々の前に存在するために, そのことを数値として客観的に表わすことが困難である。技術的にも, そのような状態で行うアプローチであるが故に, 次にまた全く同じようにしようと思っても難しいし, ましてや他人が再現性をもってそのことを実施することは困難を極め, 普遍的であることが難しいということになる。個々の症例に言えたことが全体に共通して言えることも大切であり, そういうことが我々の過去の知識の基礎となっている以上, 個々の事象, 事実を説明していても, あたかも全体のものであるかのような錯覚に陥ってしまう。
抄録全体を表示