【目的】機械的刺激に対する細胞応答の研究報告は少なく,今のところ細胞レベルでの機械刺激受容機構の解明までには至っていない。本研究では,培養筋菌芽細胞内に磁性体を直接導入し,磁場により細胞を伸展する実験デザインを開発し,細胞にmechanical stretchを発生させ,細胞化学的変化を観察した。
【方法】筋芽細胞L6の細胞内にDNA導入装置を使って磁性体(magnetic microparticle : 直径0.05μm)を導入した。磁場の発生装置を試作してCO
2インキュベーターに入れ,培養皿中の細胞に磁束密度0.01,0.03,0.05Tの磁場をかけ,mechanical stretchと磁場が細胞形態,細胞骨格,細胞増殖及び分化に及ぼす影響を経時的に観察した。
【結果と考察】1)磁性体を導入し磁場をかけて細胞を伸展した群では,細胞が長軸方向に伸びてstress fiber(細胞に加わった張力に反応して形成され,張力がなくなると消失するactionからなる線維)を形成する等の形態的変化を示した。細胞伸展刺激下では,細胞が伸展されることにより細胞間マトリックスの形成が促進して,接触点(細胞が細胞外基質と接触する部位)からの張力を支える細胞骨格の構造を強化するためにstress fiberが発現するのかも知れない。2)また,同群では培養開始2日後から細胞のコロニーが出現し,10日後に筋芽細胞から分化した最初の筋管細胞が出現した。対照群(磁性体・磁場とも無し,磁性体のみ,磁場のみ)では,3日後から細胞のコロニーが出現し,15日後に筋管細胞が出現した。このことからmechanical stretchにより筋細胞の分化誘導が早まる可能性が考えられた。
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